挿話 夜のお茶会 ~憂鬱の姫君達~
フレイヤがエーギル基地を破壊し、ニーナ達が阪神でアンチウラン理論の完成に向けて動き出した頃、超合集国連合とEUは共同でその時間を稼ぐべく、会議を行っていた。
シュナイゼルからのアクションがまだなく、降伏を呼び掛けられたらどう対応すべきか、どのような要求が予想されるかなど、皆戦々恐々としている。
「ブリタニアも混乱しているのか、未だに声明が発表されていない。
だがそれも時間の問題、今無条件降伏を迫られればどうすれば・・・」
「協議すると返すしかないが、それもせいぜい一週間ほどしか保つまい。
科学に関して素人の私でも、それではとうてい時間が足りぬことくらいは解る。
科学者の研究が成るまで、どのようにして交渉を長引かせるかがカギだろう」
「向こうが長引かせるのは得策ではないと、時間を与えてくれると思えませんが」
詰まるところ、どのようにして交渉を長引かせるかに論点が置かれた会議はなかなか進まず、無駄に一日が終了した。
予想に反してすぐにブリタニア側からのリアクションがなかったので、皆は首を傾げた。
「何故ブリタニアは何も言ってこないのでしょう?どういうことか解りますか、ゼロ?」
主なメンバーが集まった黒の騎士団本部の会議室で、天子が不思議そうにゼロに尋ねると、ルルーシュは答えた。
「考えられるのはいくつかあります。まずはエーギル基地を吹き飛ばしたことによる、ブリタニア内部での反発による混乱。
我々が入手した情報によれば、あれば帝国宰相シュナイゼルが造った兵器とのことで、シュナイゼルの独断による行為だと思われます。
味方ごと敵を撃つのは確かに不意を突くには効果的ですが、それでもブリタニア側が被る被害を考えれば、味方内から反発が起こっても無理からぬこと」
「じゃが、あれほどの兵器を擁しておるシュナイゼルに、逆らえる者がいると思えぬが」
「桐原公のおっしゃるとおり、最終的にはシュナイゼルに処断されるか、脅迫されるかして彼の行為を黙認するしかなくなることでしょう。
この沈黙の最大理由は、ブリタニアがあくまでも平和を望んでいるという建前を、世界に発信するための策の一つなのですよ」
マオがブリタニアとの捕虜交換の時、シュナイゼルの心を読んで知ったダモクレス計画。
それは戦争を起こそうとする国に大量破壊兵器を落とすことで、沈黙の平和を生み出すと言う歪んだものだった。
初期にその混乱を鎮めるための策として、平和路線を推し進めている象徴たるエトランジュ、天子、ユーフェミアを抑えるつもりだと、捕まったアルフォンスが報告してくれた。
それらを踏まえて考えると、まずシュナイゼルはブリタニア国内にいる過激な国是主義者を一掃する。
彼らはシュナイゼルの兵器を持ち出し、それを持ってEUや黒の騎士団を殲滅すべきだと嬉々として言い出している頃だろう。
これまで追い詰められていたという焦りから、強力な武器を見て安堵し安易な手段に飛びつく連中には、それがシュナイゼルからの死刑宣告になるとは想像すらしていまい。
「そしてその彼らをシュナイゼルが処断し、これまでのブリタニアとは違うとアピールします。
そうすればあの兵器に脅えきっている超合集国連合やEUの者達からは、今平和路線で事を進めようとしているシュナイゼルらとは争わないほうがいいと言い出す者も現れる。
何しろまた戦争を始めてあれを使われたら、という意識が働きますからなおさらです。
そこへさらにシュナイゼルは言うでしょうね。この絆を確かなものとするために、天子様やエトランジュ様、神楽耶様との政略結婚を、と・・・」
「・・・・!!」
その言葉を聞いて天子や神楽耶の顔から血の気が引いた。
シュナイゼルの策が、超合集国連合とEUを抑えるためのものだと気付いたからである。
「シ、星刻―・・・私、私・・・!」
「天子様、お気を確かに!」
あの悪夢が再び来るのかと天子が目に涙をたたえ、星刻は怒りのあまり握りしめた拳から血が流れ出す。
「冗談ではない、あのような兵器を生み出した者達に、天子様をお渡し出来るものか!!」
「その通りだ。だが超合集国連合、EUの者達を平和のためと甘言で惑わすことは眼に見えている。彼らにとっては安い代償だろうからな」
人気こそ高いが政治能力の薄い若い女王と少女天皇、少女皇帝を差し出すことで時間が稼げるのならと、三人をシュナイゼルに花嫁と称した生贄に向かわせることに同意する者は多いだろう。
そしていざ兵器を無効化するシステムが出来た暁には、見捨てて世界平和に殉じた聖女として祭り上げるのだ。
「天子様に関しては、以前のロリコン皇子呼ばわりされた件もあるから、成人してからにしませんかとでも言えばいいだろう。
神楽耶様は微妙なところですが、どこかの国が皇族を自分以外みんな殺してしまったので、最後の一人が嫁に行くわけにはいかないからそちらが来てくださいとでも言って、時間を稼ぎましょう。
問題は・・・・」
既に成人しており、譲位制度があるマグヌスファミリアの女王であるエトランジュに一斉に視線が集まった。
「・・・エディは、どうやって断るの?」
「まさか、エトランジュ様だけが犠牲になるなんてことはありませんわよね?」
天子と神楽耶の不安げな声に、ルルーシュが頷いた。
「まさか、そんなつもりはありません。もちろん、策は考えました。
そのために、神楽耶様と天子様のご協力をお願いしたいのですが」
「さすがはゼロ様!わたくし達が助力を惜しまぬことなど、どうしてありましょうか。
何でもおっしゃって下さいな」
「神楽耶の言う通りだわ。何をすればいいの?」
親友を地獄の婚姻から助ける策があると聞いて、表情が明るくなった二人に対し、ルルーシュは言った。
「エトランジュ様は、既に極秘で結婚していたことにします。お二方には、その証言をお願いしたい」
「え・・・エディが?誰と結婚したことにするの?」
エトランジュはもう伴侶を得たと言うことにすれば、確かにこの上ない断り文句にはなる。
だから虚偽の証言をすることぐらいは神楽耶も天子も特にどうとも思わなかったが、世界に向けて言う以上、その証言は事実にしなければならないのだ。
「ゼロ様と、ですか?それはこういう事情ならば、やむを得ないのかもしれませんが」
自分が結婚出来ないのは悲しいが、エトランジュのためなら喜んで、と神楽耶が言うと、アドリスが否定する。
「ご安心を、神楽耶様。相手はゼロではありません。我が甥であるアルフォンスです」
「アルフォンス様、ですか?なるほど」
アルフォンスとエトランジュならお似合いだし、とても仲がいいのだから心から祝福できると、神楽耶はほっとした。
天子も同様だったのは、この二人が従兄妹同士の結婚は元来はマグヌスファミリアでは禁止されていると言うことを、知らなかったからである。
「よかったですわ、見も知らぬ殿方と結婚、ということにならなくて。
もちろん、喜んで協力いたします。いつ頃に結婚したと言うことにするのですか?」
「エーギル戦前、です。公表をしなかったのは、戦争中であることを考慮して、ということにする予定です。
マグヌスファミリアには既に説明を行い、国民にだけは公表したという手筈は整えました」
マグヌスファミリア全員が、口裏わせは住んでいると言う説明に、さすが互いを家族と呼ぶ国民なだけはあると皆感心した。
「証言だけではなく、念のため身内でパーティーを行い、記念写真を撮ったということで物的証拠を残したいのですが、よろしいですか?」
「アルフォンス様がいらっしゃらないのに、どうやって?」
「あの子の双子の姉、エドワーディンがいます。彼女がアルに変装します」
アドリスが無表情で座るエドワーディンを指すと、なるほどと納得すると同時に、こんな形で式を出すはめになったエトランジュに同情の視線が集まった。
だが、確かに必要なことかもしれないと、一同は了承した。
「皆様、ありがとうございます」
ずっと黙っていたエトランジュが小さな声で礼を言うと、このくらいはどうということはありません、と神楽耶が慰めた。
一時間後、それなりに着飾って再び集合したメンバーは、戦時中等ことで過度なお披露目は避けたと言う名目のもと、どこか寒々しく飾られた会議室に重々しい気分に溜息をついた。
エドワーディンが肩パットをつけ、シークレットブーツを履いてアルフォンスの服装をして現れると、見た目だけなら見事に似ている彼女に、目を見張る。
「今回はご協力に、感謝します」
「いえ、気にしないで。エディのためですもの」
天子も祝いの席だからと、普段よりアクセサリーを付けて着飾っている。
これが本当にアルフォンスとエトランジュの結婚のお披露目だったら、と浮かない表情をしていた。
ユーフェミアも控えめながらも着飾り、頭痛を薬で抑えて参加した。
まるで通夜のような空気の会議室を見て、これでは写真を撮ってもまずい結果に終わるのでは、と皆思った。
だが口には出せず、ますます空気が悪くなるのを見たルルーシュは、一同に向かって言った。
「事情が事情ですから、無理もありませんね。
ですが、“本当の結婚式と思ってエトランジュ様を心からお祝いして頂きたい”」
仮面の左目がスライドして、赤く羽ばたく羽根が一同の目を貫いた。
「・・・そうですわね!さあエトランジュ様にアルフォンス様、どうぞこちらへ!」
「星刻、お祝い用のお酒をあけて、みんなに配りましょう。エディはお酒飲めるんだものね」
神楽耶と天子が途端にうきうきした声で、楽しそうにはしゃぎだす。
ユーフェミアも晴れやかな笑顔で、お祝いにハープを弾きますと言い、ダールトンに運ばせたハープの調整を始めた。
「はい天子様。よい酒をお持ちしました。エトランジュ様にお注ぎいたしましょう」
星刻に以前にかけたギアスは、先ほどジェレミアに解除して貰ったため、星刻も穏やかに笑って入口近くでたたずむエトランジュを手招きした。
「・・・申し訳ありません」
エトランジュが申し訳なさそうに俯くと、ルルーシュが左目を露出させたまま近づいた。
「皆様は、エトランジュ様のことを本当に心配しておいでなのです。
今夜のことは、無理してはしゃいだので記憶に残らなかったのだと、皆に説明します。
・・・ですから、どうか貴女も」
「・・・はい、お願いします」
エトランジュがちらりと父を見ると、彼も辛そうに頷いた。
「さあエトランジュ様、どうかアルフォンス様と今宵の宴をお楽しみください」
「・・・そうですね、皆様が心から祝って下さるのですから。
さあアル従兄様、行きましょう!」
「そうだね、エディ。今日は歌って飲んで、楽しもう」
エドワーディンは目のふちを赤く光らせ、アルフォンスがシュナイゼルに捕まった日から浮かべる事のなかった明るい笑みを浮かべるエトランジュの手を取った。
「今日は僕とエディのために集まって下さって、ありがとうございます。
どうか皆さんで、楽しく過ごして下さい!」
アルフォンスの挨拶が終わるや、神楽耶と天子はきゃあきゃあと笑い合い、グラスを傾けて祝いの言葉を述べている。
やがてユーフェミアの弾くハープが、結婚式をモチーフにした交響曲を奏で出した。
事情を知らぬ人間が見れば、誰がどう見ても結婚を祝うささやかな宴。
だがそれは、絶対遵守の命令で行わせた、幻の楽しさだった。
それをルルーシュとアドリスは複雑な気分で見つめたが、やがて本来の目的を果たすためにカメラを手にする。
「・・・ここは俺がやりますよ、アドリス様。どうぞ、エトランジュ様の横に」
お父様、早く早くと手招きする娘を見て、アドリスは微笑んで手を振り返す。
「・・・お願いします」
アドリスがにこにこしているエトランジュの横に行くと、ゼロ様も来ればよろしいのにと神楽耶が言いながら、皆で並ぶ。
「では皆さん、どうぞこちらへ・・・撮りますよ。3、2、1・・・」
カシャリと、シャッターの音が鳴る。
偽りの楽しさだけが残った写真。
その写真が公表されたのは、シュナイゼルの使者としてカノンが訪れた時だった。
シュナイゼルの会見後、超合集国やEUの政治家達はフレイヤ絡みの件や軍備の再建などで、怒涛のスケジュールに縛られていた。
あれから半月が経過したある日の夜、エトランジュの部屋では疲労困憊状態のエトランジュ、ユーフェミア、神楽耶、天子が、力なく椅子に座っていた。
日本での仕事がやっとめどがついたので、天子は中華国民の不安を鎮めるため、合衆国中華へと戻らねばならない。
本当ならすぐに中華へ戻るべきだと思ったのだが、天子の心情を慮った太師がしばらく日本にいるように手配してくれたからだが、いつまでも甘えていられない。
明日の夜、中華へ戻る予定だ。
「あと半月です。休む間などあまりないと思いますが、こうしてお茶の時間くらいは作りたいですね」
「同感ですわエトランジュ様。議会の方々も何かあったら声をかけてほしいとおっしゃって下さっていますし。
天子様もお疲れのようなら、ご遠慮なく通信を入れて下さいませね」
エトランジュの案に神楽耶が賛成して天子を気遣うと、天子は嬉しそうに頷いた。
「休むのもお仕事だと、太師父が言ってたものね。
まさかこんなことになるなんて、思わなかったけど・・・でも、私達が動揺したらみんな困るもの。星刻が大丈夫ですって言ってくれたもの、私は星刻を信じてる」
「藤堂や星刻総司令が全く堂々と振る舞っていてくれるお陰で、黒の騎士団でも思っていたほど動揺した様子はありませんでしたわ。
わたくしもゼロ様を信じます。ええ、あの方は成すとおっしゃったことはすべて成し遂げられた方です。
そのためにも、民の不安を鎮める程度のことはしなくてはなりません」
「本当に、このたびはブリタニア皇族がとんだことを・・・もう同じ台詞ばかりで、聞き飽きたこととは解っているのですが」
肩身が狭そうなユーフェミアの声に、エトランジュが言った。
「ユーフェミア様のせいではないでしょう。あんな兵器を造った方が悪いのです。
責任は製造したシュナイゼルと、監督不行き届きのシャルルが負うべきです」
一応は肩書で他者を呼ぶエトランジュも、この二人に関してはもはや呼び捨てにするほど怒っているらしい。
まだ十代だというのに、大人の顔をしてそう語り合う少女達に、ジークフリードは気の毒すぎて見ていられなくなった。
と、そこへドアがノックされて聞き慣れた声が響き渡った。
「失礼いたします、エトランジュ様。ナナリーです。
ミルクティーを淹れてまいりましたわ」
「ああ、どうぞお入り下さいませ」
エトランジュが入室の許可を出すと、ティーセットが置かれたカートを押しながらナナリーが咲世子と共に入って来た。
一同がエトランジュの部屋に来た時、ナナリーがお茶を淹れて参りますと申し出て、キッチンで淹れてきたのである。
「ミルクティーを淹れて参りました。気分が落ち着く作用があると、お兄様から教わりましたの。
それから、ジンジャークッキーを昨日作ったのです。焼き立てではありませんけど、お口に合えば嬉しいです」
「ありがとうございます。せっかくですから皆様、召しあがりましょう。
ナナリーさんもお席へどうぞ」
エトランジュが席をユーフェミアの隣に用意すると、ナナリーは礼を言って腰を下ろした。
甘い香りのするミルクティーに気分が少々落ち着いてきた一同は、クッキーを食べながらも気になることを話し合い始める。
「やはり、ペンドラゴンにフレイヤが向けられているのは厄介ですわね。
自国民を殺す、など普通は誰もしませんから、黒の騎士団のせいにされてしまうかもしれませんわ」
「亡命してきた方がおられますし、そもそも黒の騎士団がそれをする必要はありませんから大丈夫と思います。今のところは公表されていないようですし・・・。
しかし、いずれは宮廷の様子がおかしいことに国民達も気付くでしょう。そうなればどうなることか・・・」
神楽耶は常識論によって黒の騎士団に濡れ衣が着せられはしないかと恐れ、ユーフェミアはやはり祖国のことが気になるようだった。
クーデターによる皇位交代、それに伴っての方針転換ということで、違和感はある程度隠せているようだが、それとてもいつまで保てることか。
あの三人以外にも亡命者が中華やEUに来ており、彼らと同じことを告げた。
しかし全てが主義者ではなく、首都の国民が皆殺しになるくらいなら降伏のほうがましというだけの者や、黒の騎士団を使ってシュナイゼルを排除後、改めて覇権主義を推し進めるという考えの者もいる。
マオによって後者と判明した者については、マークしておいて不穏な動きが見つかり次第、極秘に排除することになっている。
黙って紅茶の世話をしていたナナリーが、そこへおずおずと尋ねた。
「あの、エトランジュ様、ユフィ・・・様。お伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
神楽耶は事情を知っているが、知らない天子がいるので姉様と呼ぶのを修正したナナリーに、ユーフェミアは優しく言った。
「なあに、ナナリー。何か気付いたことでもあったかしら?」
「フレイヤがペンドラゴンに向けられているのなら、国民の皆さんを避難させることは出来ないのですか?
エトランジュ様達は、ブリタニアが攻めてきた時そうなさったと聞いております」
首都全員と国民全員、規模が小さいのは前者なのだから可能では、と無邪気に問う異母妹に、ユーフェミアは首を横に振った。
「出来るものならそうしたいけれど、それが出来たのは総人口が二千人のマグヌスファミリアだからなのよ、ナナリー。
ペンドラゴンの人口は約一億、日本全国民とほぼ同じなの。それだけの人数を避難させて、衣食住を整えるなんて出来ないわ」
全国民が避難できた、と聞けば大事業に見えるが、それが二千人なら単純に村一つの住民が避難した出来事と変わらない。
ナナリーはマグヌスファミリアが出来たのだから、と単純に考えていたようだが、さすがに一億人の避難経路を確保して衣食住を与えるのは、ユーフェミアが遠く日本にいるというのを抜きにしても、不可能なのだ。
それこそシュナイゼルでも出来はすまい。
「一億人・・・日本の人口とほぼ同じ・・・!」
具体的にどれほどの規模かを知ったナナリーはその途方のなさに言葉をなくし、しゅんとなった。
「・・・浅知恵の案でしたわ、ごめんなさい」
「いいのよ、貴女なりにペンドラゴンのことを考えてくれているんですもの。
・・・シュナイゼル兄様も、ナナリーのように少しは考えて下さればよろしいのに」
何の力がなくとも何とかならないかと考えている末の妹を、次兄は全力で見習うべきだとユーフェミアは溜息をつく。
得体の知れぬ平和を目指そうとする次兄と話がしたいと思うが、あの兵器がある以上、もはやその段階はとうに越していた。
「アンチフレイヤの件ですが、シミュレーションではカレンさんと枢木卿が九割で成功させています。
ゼロに至っては、百%成功させたそうですが」
エトランジュがそう報告すると、やっと見えた光明に一同の顔に笑みが浮かんだ。
「まあ、さすがゼロ様!シュナイゼルに情報が漏れる危険性さえなければ、ぜひに広めたい朗報ですわね」
ゼロの威光の背後に自分達が何とか抑えているが、情報が開示されないことに皆不安を抱いている。
神楽耶にとって幸運なことに、桐原や藤堂らも協力してくれているおかげで、彼女自身の負担はそれほどではなかった。
しかしEUにさえ情報を回せない状況にエトランジュはEU議会からいろいろ言われているようで、フランス大使が抑えているが、いずれある程度の対処をしなくてはならないだろう。
「そういえば、ゼロ様はどちらへ?先ほどスザクやカレンさんと別れて、どこかに行く準備をなさっていたようですが」
「ええ、ゼロでしたら神根島です。シュナイゼルが以前に実験を行っていた島ですので、何か手掛かりがあるかもしれないと。
遅くとも、夜明けには戻るとのことです」
エトランジュがティーカップを持つ手をぴくりと震わせて答えると、ユーフェミアがシュナイゼルが何やら特別な機材を持ち出して研究していた様子を思い出して言った。
「ゼロも過密スケジュールなのに、大丈夫かしら。
でも確かにあそこは妙でしたわ。突然床がエレベーターのように下りたり、妙な文様がある壁があったり・・・。
遺跡だと聞いておりましたが、どうしてあのような場所で実験など行っていたのでしょう?」
「・・・私には解りませんが、シュナイゼルのしたことだから、安全確認もついでにしておく、とおっしゃっておいででした」
「神根島は、枢木家が代々管理していた島ですの。
管理といっても遺跡を清掃したりする程度で、枢木神社のように特別な祭祀を行っていたわけではないようですが」
何しろ八年近く放置していたし、それどころではなかったせいで神楽耶もよく知らない様子だ。
「前管理者だったゲンブからスザクに引き継ぎが出来ませんでしたから、今となってはもう解りません。
しかし急に床が落ちるなど危ない個所があるのなら、封鎖もやむなしです」
これ以上神根島について深く突っ込まれたくはないエトランジュは、やや強引に話題を変えた。
「そういえば、枢木卿の名字は変わっていらっしゃいますね。あまり見ない字ですが、どのような意味があるのですか?」
「ああ、確かにこれは読みづらい漢字ですわね。
枢木の最初の文字、これは“とぼそ”と読みまして、開き戸を開閉するために扉の回転軸の上下に設けた心棒の突起を指しますの。
また、戸締まりのために戸の桟から敷居に差し込む止め木、という意味もございます」
さすがは日本の姫というべきか、神楽耶はすらすらと答えた。
それに感心しながらも、話を聞いたエトランジュは枢木の本来の意味を悟った。
(扉が開かないようにする止め木、ですか。あの方の家も、私達と同じ門番だったのですね)
マグヌスファミリアでは、コードと同時に黄昏の扉を世界と繋ぐ橋として守っていた。
だからそれを繋ぐ役として、自らを小さな橋と称した。
長い時の流れに本来の意味は忘れ去られたようだが、枢木家もポンティキュラス家も元を辿れば同族だったのだ。
「こうしてみたら、変わった名字ですわね。古き名家の名には、何かしら意味があるものですが」
「きっとその名字を考え付かれた方には、大事な意味がおありだったのでしょう。
伝統ある家を継ぐ者として、スザクもいずれは日本に落ち着いて・・・」
「あらユーフェミア様、わたくしどもにはあのような体力しか取り柄のない男は必要ありません。
どうぞブリタニアにお連れになって、ボロ雑巾のようにさんざん使い倒して下さいませ」
笑顔になりながらも少し陰りを帯びた声のユーフェミアを、神楽耶が遮った。
仮にも従兄に酷い物言いであるが、神楽耶はスザクとユーフェミアがそれなりにいい仲であることを知っており、今となってはユーフェミアに思うところのない彼女としては応援しない理由がなかった。
一応スザクは日本の皇家に連なる男であり、正式な就任はまだだが日本を代表する京都六家の枢木家の当主なのだ。
皇族の人間と結婚しても家柄的にはおかしくないし、日本とブリタニアを守る騎士としてユーフェミア女帝の伴侶と宣伝すれば、さぞ祝福されることだろう。
もっと辛辣なことを言えば政治的な権力を与えず、ひたすらユーフェミアを守る騎士としての役職を全うさせるのは、体力馬鹿の彼を効率よく使ういい手段である
「もう家柄はむろん、国籍や人種などで人と人の繋がりを拒む時代ではない、ということです。
枢木卿にはその繋がりを阻む閉じた扉の止め木を外して下さることになっても、よろしいかと」
「まあ、エトランジュ様はお上手ですこと」
ほほほと笑う神楽耶に、ユーフェミアは真っ赤になった。
ナナリーもユーフェミア様とスザクさんならお似合いだと受け合うので、ますます顔が紅潮する。
だがあのような形で結婚が決まってしまったエトランジュを思い浮かべると、素直に喜べないのも事実だった。
自分の家族が原因で、法律を変えたとはいえ、ほんの数週間前には禁止されていた結婚をするはめになったのだから。
幸い当の本人は、アルフォンスの同意がないことを除けば納得しているし、アルフォンスとなら大丈夫だと本当に思っているのが救いである。
その雰囲気を感じ取ったのか、少し気まずい空気が場を満たす。
何とかしようとナナリーも狼狽していると、ノックの音が響き渡った。
「歓談中に失礼しても、よろしいですか?」
「お父様!どうぞお入りになって下さいな」
父の声にほっと安堵の息をつきながらエトランジュが入室を促すと、ジークフリードがドアを開けて車椅子に乗ったアドリスがやって来た。
「アドリス様、病室からお出になっても大丈夫なのですか?」
「ご心配は無用ですよ、ユーフェミア皇帝。このとおり、気分がいいので・・・。
でも大事を取って早めに寝るつもりなのですが、その前にエディの顔が見たくなりましたのでね」
「そうですか。ではこちらへどうぞ」
円形の大きめのテーブル近くに、一同が車椅子のスペースを空ける。
「こんな時間でしかくつろげないとは・・・議会の方も、あまり頻繁に会いに来るのを避ければよろしいものを。ただでさえ、国民の慰撫で大変な時期なのですから」
アドリスがテーブルに置かれたティーセットを見て、呆れたように言った。
「しかし、仮にも上の地位にいる私どもが動かないと、国民の方々は不安に思いますわ。ごまかしにすぎなくとも、それが今必要とされているのです。
それに、皆様私どもを気遣って会いに来て下さっているのですから」
「神楽耶の言う通りです。ほんとはこんなことしている暇なんてないのに、悪い気がしているくらい」
神楽耶の言に天子が頷くと、アドリスは溜息をついた。
「何をおっしゃいます天子様。正直私としては、こっそりみんなで遊園地にでもと申し上げたいほどです。
まったくこんな若いうちから、王位になど就くものではありませんね」
ささやかなお茶会を開くくらいで文句を言う者がいたら、アドリスは全力で排除するつもり満々である。
「私達はまだ経験不足で、あんまり役に立ってないから・・・こんなことになるのなら、太師父が皇帝になってもよかったんじゃないかって、思ってます」
「天子様・・・わたくしも、ただ国民に軽挙妄動はするな、必ず打開策はあると連呼するばかりで・・・情けない限りです」
この二人は半分は自分の意志だが、もう半分は己の血と戦乱の情勢のせいでそれぞれの国で至上の地位に就いた。
ユーフェミアは自らの意志で皇帝となり、その責任の重さも十重理解していたから、泣きごとは絶対に口にしなかった。
「ははは、そんなことはありませんよ天子様、神楽耶天皇、ユーフェミア皇帝。
それにエディも、自分が役立たずなどとんでもない。貴女方は議会を正常に動かすのに、大変な貢献しているのですから」
「え、どうしてですか?お父様」
ただ会議で意見を聞き、控え目に口を出すくらいしか出来ないのに、と驚く一同に、アドリスは優しく微笑みかける。
「若いというのは政治では何かとマイナスに働きがちなのですが、今回の場合はあながちそうでもないんですよ。
貴女方がそうやって落ち着いて行動しているからこそ、他の議会の連中も冷静になっているのですからね」
「どうしてですか?アドリス様」
ユーフェミアが不思議そうに問いかけると、アドリスはいたずらっぽく笑って答えた。
「王だろうと政治家であろうと、人間は人間でしてね。人間というものは集団で生きていく生き物ですから、どうしても他者の目を気にするのです。
『あんなに若い少女達が落ち着いて行動しているのに、何故訳の解らん行動を取るんだ』と批判されるのを恐れているからですよ」
「・・・そ、そういうものですか」
身も蓋もない言い方だが、楽しそうに言うアドリスに一同の顔に笑みを浮かべた。
人間パニックになる状況になると、連鎖的に混乱する例が多い。
しかし、逆に冷静な人間が複数いると、それに追随して落ち着きを取り戻すものだ。
今回の場合、フレイヤを見て仰天し、混乱した者達が圧倒的に多数だったが、絶対的カリスマを持つゼロがいち早く策はあると希望の灯をつけた。
さらにそのために自身がすべきこと、科学者の召集や国民の不安を鎮めるなどを提示され、それに従うことで彼らは落ち着きを取り戻したのである。
「そして混乱が一時的にでも収まってしまえば、彼らはまず自分の立場を気にします。
必死になって何とかしようと頑張っている少女達の横で、自分がバカな真似をすれば批判が殺到して、その地位から放り出されることは目に見えています。
だからみんな、貴女方に会いに来たがるわけですが」
冷静に行動したいので、自分を律するために神楽耶達に会いに来るのだと言うアドリスは、ある国であった『捕虜収容所の少女』の話をした。
昔ある国で戦争が起こり、敵国で捕虜になった部隊がいた。
彼らは自棄になって生活が大変荒んでいたが、隊長がある日彼らに命じた。『ここには一人の少女が居る。守ってやるべき幼い少女だ。そのつもりで過ごせ』、と。
すると彼らはその日から生活態度を整え、言葉づかいを改め、少女のために自らの食事から一食分を誂え、歌を歌った。
そのあまりな変化に敵国も本当に少女を一人かくまっていると勘違いし、捜査の手まで入ったという。
「まあ男と言うのは単純なものでしてね、自分を頼ってくれる可愛い存在には弱いと申しますか。
そういう存在がいれば、いい格好をしたいと思ってしまうのですよ。
それを利用して、もっと連中をこき使・・・もとい、議員の方を頼ってもいいのですよ。その方が、かえって議員達は落ち着けるのですから」
おまけに傍から見れば、苦労を重ねている少女達を気にかけているいい人に見えるので、一石二鳥と言うわけである。
ゆえにその方が彼らのためなのだと言うアドリスに、神楽耶達は何だか一部不穏な文意が聞こえたような気がしたが、アドリスはにこやかにごまかした。
「心理学を専攻していた私からの助言です。そんな気張る必要はありません。
ましてや政治と言うのは、精密なバランス感覚を第一に求められるものです。
経験なくしてつかめるものではないものを、今やろうとすれば難しいのは当然です」
本当なら十代から三十代にかけて学ぶべきそれを、十代のうちからやろうとするのは無謀だと、アドリスは説いた。
どこの国でも、被選挙権は社会人になってからある程度経った人間が持っているのはそのためなのだと。
それなのに彼女達は世界の荒波にもまれ、今やるべきではないことをやる羽目になっている。
おまけにカリスマの座に祭り上げられた少女達に縋って、自身の精神を保とうとしている議員らのお守りまでさせられているのだからたまったものではないだろう。
アドリスは十代のうちは王族の義務で留学こそさせられたが、それ以外ではわりと自由に過ごしており、それゆえに『今まで好き勝手させてやったんだから、次は国王を頑張れ』と言われて王位についた。
しかし彼女達は自由に過ごす期間を与えられず、享楽の時間をすら与えれず、義務だけを課されている。
本当ならそれらを経験した後に、『今まで楽しんだのだから、次は頑張れ』と言われるのが当然ではないか、とアドリスは思う。
彼女達は生真面目な性質だから、議員達に対して強く言えないのなら、こちらで牽制しておくべきだろう。
先日、エトランジュ達を称賛する議員の前で『親がだらしないから、子供がしっかりするんですよね・・・情けないことです、皆さんもそう思いませんか?』と言ってみたら、目をそらす連中のなんと多かったことか。
一度誰かに責任を負わせる楽を覚えてしまった人間は、それに縋りたがる。
何だってまだ若い彼女らが、政治と言う常に全力疾走を続けるマラソンをせねばならないというのか。
「まあ、そのあたりは経験を積んだ大人にどうか任せて下さい。貴女方はそれを見て、自分流のやり方を考えれば大丈夫です」
「はい、アドリス様」
神楽耶と天子、ユーフェミアはぱあっと表情を明るくさせた。
それを見たアドリスは、さらに彼女達に向かって言った。
「外で大っぴらに遊べないなら、ここにいるメンバーで出来るゲームなどをプレゼントしましょう。
戦争が終わってひと段落したら、どこか旅行に出かけるのもいいでしょう」
現地巡回するためとか、外交視察とか、理由はいくらでもあると笑うアドリスに、天子が言った。
「でも、そういう名目をつけて遊ぶのって、よくないことなんじゃ・・・」
適当な名目をでっち上げて放蕩の限りを尽くした大宦官の例を知っている天子に、アドリスは頷いた。
「事が過ぎれば毒ですが、この場合はむしろ薬です。
政治は結果がすべてが鉄則なのはご存じですね?」
「え、ええ。結果をうまく運ぶことが、政治ではもっとも重要視されるって、太師父もゼロも言ってました」
「その通りです。同じ十万を使って旅行するにしても、餓死者が居る状況でやれば悪ですが、平和な状況では『国王が旅行に出られるほど平和になったのだ』と国民はむしろ喜ぶんですよ。
下は上に倣うので、ならば自分も、とそれに続き、経済活性化の一因にもなりますしね」
特にエトランジュ達ほど知名度と人気のある人間ならなおさらなので、問題はない。
同じ行為でも、状況によって生まれる結果は違うのである。
「なるほど、確かにその通りですわね。
もし戦争が終わったら、天子様はどこに行ってみたいですか?」
「私は・・・やっぱり、中華のいろんなところを見てみたいわ。
自分の国を自慢するみたいだけど、広くてまだまだ知らないところがたくさんあるもの」
神楽耶の質問に、天子がはにかみながら答えた。
「私も中華には行ってみたいと、常々思っておりますの。
そういえばランファー王妃は、中華の方でしたわね。どちらのご出身ですの?」
「ランファーは四川というところで育ったと聞いていますね。
辛い味付けで育ったらしくて、彼女が作る料理も辛みが強かったんですよ。
そのせいか、エディも結構、辛いものが好きなんです」
マグヌスファミリアは薄味が主流だったため、味覚の面で衝突した時期があったとアドリスは笑った。
「あ、それでエディ、麻婆豆腐が上手だったんだ。でもあまり辛くなかったけど」
中華事変の際、天帝八十八陵にいた時エトランジュの料理を食べていた天子に、エトランジュが苦笑する。
「さすがにお母様が好むような辛さは、私も食べられません。
マオさんもお好きですけど、洛陽に近い地域の方でしたから、本場の辛さのものを作って差し上げようとしたら、辛さ控えめでよろしく!!って必死で頼まれましたので」
大概の人間は本場のもの、と言えば喜ぶ傾向が強いが、例外はある。
ゆえにエトランジュは天子にも、自分と同じ辛さ控えめで作ったのである。
「同じ国でも味覚は違いますものね。経済特区でも、マツタケ騒動がありましたし」
ユーフェミアがあれからしばらく後、好奇心でマツタケのにおいをかいで後悔したと話すと、エトランジュも頷いた。
「EUから取り寄せる時も、正直私もちょっと苦手な匂いでした。お陰で黒の騎士団は助かったのですが」
実はあの後、当時の日本経済特区、農業特区、工業特区に作られた料亭のいくつかは、黒の騎士団の拠点になっていた。
定期的に来る視察員を追い返すため、彼らは視察員が来るたびマツタケ料理を作りまくったのだが、それの供給源になったのはエトランジュである。
「でも、マツタケって高級食材なのでしょう?そう頻繁に手に入るものなのですか?」
「北欧でよく取れはするようですね。ただ皆様召しあがらないので、輸送料金くらいで日本に送って下さいました」
エトランジュがそう答えると、天子が言った。
「他ではいらない物を、必要なところに渡したのね。太師父が言ってたわ、それが貿易の基本だって」
自国で余っているものを、他で不足している国に送るのが理想だと教わったと言う天子に、一同は頷いた。
「“人間は奪い合えば足りないが、譲り合えれば余る”とおっしゃった方もいます。
以前にミレイさんが開いたバザーのように」
「エトランジュ様、それは素晴らしいお言葉ですわ。
ぜひ新たなブリタニアの標語にしたいと思います。
・・・完璧なものなんてありません。今あるものをみんなで分け合えれば、素敵ですわね」
楽しそうに笑い合う友人達に、いよいよコードとギアスを消滅させるべく神根島に出発する家族やルルーシュ達を案じ、不安になっていたエトランジュの心が落ち着いた。
それはナナリーも同じのようで、ロロも兄についていったことから不安で一人になりたくなくて、ユーフェミアの傍にいる。
楽しげな娘の様子を見て安堵したアドリスは、そろそろ戻ると一同に告げた。
「では、私はそろそろ病室に戻ります。
そうそう、明日は休みにして貰うよう、議員達に頼んでおきましたから、今日はゆっくりおしゃべりに興じても大丈夫ですよ。
たまにはお寝坊をして、休んで下さい」
「あら、もう一時間も・・・ついお引き留めしてしまいましたわ。
もうお戻りくださいませアドリス様」
時計を見て神楽耶が慌てて帰室を促すと、ユーフェミアが車椅子を通すためにドアを開ける。
「ありがとうございます、ユーフェミア皇帝。
では、お先に失礼します。エディも、ゆっくり楽しんで下さいね」
「はい、お父様。
・・・おやすみなさいませ」
本当は父についていきたかったけれど、彼が行く先は病室ではなく神根島へと向かう潜水艦だ。
だから彼女はドアの前まで父を見送ると、最後にしっかり父の右手を握りしめた。
「おやすみなさい、エディ。では」
アドリスが退室すると、エトランジュがドアを閉じる。
そして手の中の携帯電話を握りしめた。
(成功したら、ギアスではなくこれで連絡が来ます。手早く済めばいいのですが)
大丈夫、必ず戻って来るからと約束した父の言葉を信じて、エトランジュは努めて笑顔になりながら、友人達が待つテーブルへと再び向かうのだった。