第四十八話 王の歴史
コードとギアスの歴史は、誰もが知る歴史書に記される年代の、さらに以前にまで遡る。
コードとギアスを生み出した者達が遺した闇の歴史書は、こう語る。
ずっと何千年もの昔、この地球には高度に栄えた文明社会を築き上げた人間達がいた。
それをアドリス達は便宜上、“旧き文明”と名付けた。
旧き文明の人間達は現代と同様に数多くの国家に分かれ、争いと融和を繰り返し、高度な機械文明を築き上げてきた。
だがそれは、その文明を築き上げた人間達の手で、愚かにも全てが灰燼に帰した。
はるか月にまで到達するほどの文明社会を築き上げた彼らは、互いに競い合い技術を磨き上げたがそれを戦争兵器にまで生かし、人類を死滅させるほどの兵器を造ったのである。
最初に当時の大国が生み出したそれはほどなく数多くの国が持つに至り、それを互いに向け合うことで歪んだ平和が保たれた。
しかしその緊張状態は崩れ去り、その兵器を使用した戦争が世界各地で勃発。
止めようとした者達もいたが、長い緊張が生み出した溜まりに溜まった負のエネルギーが暴発し、抑え切れる事が出来なかったのだ。
しかし、それでも生き残った者達がいた。
何十億の人間が死に絶えた中でも、生き残った人間達・・・それがコードとギアスを生み出した者達である。
このまま戦争が続けば人類がすべて死に絶える事を恐れた彼らは、出来るだけの人間を生かすべく手を講じた。
全ての人間達を救えはしないことは解っていたが、それでも全滅を避けるべく、彼らは努力したのだ。
彼らは研究に研究を重ねた末、ある特殊なシェルターを造ることに成功した。
現在黄昏の間と呼ばれているシェルターに子供、特に少女を中心とした者達を入れ、長き眠りにつかせたのである。
少女が中心だった理由は、激減した人口を戻すために子供を産むことが出来る女性を数多く残す必要があったからだ。
彼らの額には、黄昏の間に入っている間だけその肉体の時間を止める鍵を宿させてあった。
それは黄昏の間のエネルギーを直接体内に注ぎ込む装置だった。
黄昏の間と身体を繋ぐ効力を持つそれはコードと呼ばれ、それにより彼女達は黄昏の間にいる間だけ、その身体の時間を止める事が出来た。
さらに万が一にも野心を持つ者や兵士などが入ってこれぬよう、そのコードがなければ黄昏の間に入れないようにした。
そして彼らを守り導くためにこの計画を立てた者達のうち、さらに選ばれた者数名が同じくコードを宿して眠りについた。
この黄昏の間に入るための扉は、戦争の余波から守るために当時誰も住んでいなかった西の果ての島、後のマグヌスファミリアと、ユーラシア大陸の砂漠地帯の二つだった。
そのため、彼らは無事に旧き文明の終末から生き残ることが出来た。
この計画を建てた者達を、計画者と呼ぶ。
計画者の中には滅びを止めるべく世界に戻った者もいたが、結局はわずかな痕跡を残して、その文明社会は終焉を迎えた。
全てがなくなった世界に残された者達だが、長い時間を経て目覚めた彼らは立ち上がった。
『同じ過ちを犯さぬよう、自分達で理想の国を造ろう』
その誓いを力に変えた彼らは、わずかに残った技術力を使い、再び国を作りだした。
その時のコードは、あくまでも黄昏の間の中にいる間だけ自らの時間を止める代物だった。
力の源は黄昏の間であり、コードはその名の通りあくまでもそれを繋ぐ導線にすぎないのである。
だから女達だけ黄昏の間に残し、一部の計画者と男だけが外に出て食料を作り、家を建てて働いた。
女達には気の毒だが、人口が安定するまで黄昏の間に残らせた。
やがて彼らも成長し、それなりの生活が営めるようになると、計画者達は話し合いを始めた。
『文明社会を人間が築くのは止められない。だがそれは間違えば、また同じ結果を生み出す道に至るだろう』
『まだあの子供達は何も知らない。我々が見守っていかねばならない』
世代を経るにつれて事実は歪められ、あるいは忘れ去られていくものだ。
特にまだ人口も極端に少ない以上、まだまだコードとそれを宿した女は必要だろう。
勝手な理由で遺跡に閉じ込められ、子供を産むことを義務付けられた女性達を守るためにも、まだ生きなくてはならない。
そのため、計画者達は黄昏の間に閉じこもり、そこから生き残った者達を指揮した。
彼らは確かに、国を治めるに足る能力を持っていた。
生き残った人間達を指揮し、ゼロからゆるやかに再び文明を作り上げたのである。
人口が増えるにつれて国も増え、黄昏の間を繋ぐ扉も新たに作られ、それは綺麗に小さな神殿のような様式に整えられた。
そしてコードを与えられた少女達も同様に大事に扱われ、長く子供を産む聖母として崇められることになる。
こうして滅びから始まった歪な文明が生まれた。
順調に人口が増え、安定した生活が営まれるようになって、さらに数百年が経過した。
さすがにもうそろそろ自分達がいなくなっても大丈夫だろう、と判断した計画者達は、コードを消すための装置を作動させようとした。
だがここで、計画者にとって最大のイレギュラーが発生する。
計画者達を王と崇め、何をするにも完璧な指示を与えられて動いていたことに慣れていた新たな人間達は、それを拒否したのだ。
これまで自らを守り導いてくれた計画者の言うことを聞くように、と代々言われ続けた彼らはそれを失うことを恐れ、遺跡の少女達を説得してコードを利用して装置を動かし、コードをより強力なものにしてしまったのである。
結果、遺跡の少女達のコードは計画者達に分散して強化されてしまい、彼らは遺跡から出ても不老不死の身となってしまう。
そのことに、計画者達以外の人間はみな喜んだ。
黄昏の間から出て来れないなんて、計画者が気の毒だった、これで遺跡に閉じ込められずに、計画者が自分達を導いて下さる、と。
このことに唖然となった彼らだが、自分達を見捨てるつもりですかと泣いて訴える者達を見捨てる事が出来ず、彼らは仕方なくその生を続けることにした。
遺跡から発するエネルギーをコードをを通じてその身に受け、不老不死となった十二人の計画者達。
彼らは人間達が愚かな旧き文明と同じ轍を踏まぬよう導いていこうと話し合い、コード所持者を中心とした国々が創られ、彼らは自然に王と呼ばれるようになった。
裏でいつかコードを抹消しようと、遺跡の装置を作り変える研究を進めた。
その過程で、遺跡には人の“願い”を具現化する能力があることが判明した。
遺跡の装置の偶発的な作用か、旧き文明の戦火に飲まれて先に逝った計画者の意図的なものなのか、それは解らない。
あるいは、訳の解らぬままに起こった戦争で死に絶えた旧き文明の人々の生きたいという願い、生き残った人々に生きてほしいと言う願いが生み出したものなのかもしれない。
コードはそれを通じて、他者に与える事が出来た。
使いようによっては危ない代物だったから、使用しても問題がない者にだけ使用を認め、彼らはその力を使って王に仕えた。
王を守る誓いとして、それはギアスと名付けられ、それを与えられた者は騎士と呼ばれた
つまり、王の力とは当初はコードを意味しており、ギアスは王を守る力だったのだ。
だがさらに年月を経ると、今度は豊かに生活することに慣れた国民達は、次第に勝手な行動を取るようになった。
計画者達は以前の轍を踏むまいと急激に文明を進める事を禁止しており、それに不満を抱く者、王に任せれば大丈夫と思考能力をなくした者などが、増え始めたのである。
名君が名君であり続ける事ほど困難なことはないと、よく言われる。
それはある種類の人間にとっては善政でも、別種類の人間にとってはそうではない、ということが多々ある。
どれほど善政を行おうとも、どこかで不満を抱く者が必ずいるからだ。
また名君として依存されすべてを委ねられると言うのも、当人にとっては負担になるものである。
コーネリアの庇護のもとで自分がどんな失敗をしようと、姉がどうにかしてくれるとの無意識の甘えで勝手な行動を取っていた、かつてのユーフェミアのような人間もいた。
王にすべての苦労を押しつけていることすら、国民達は気付かなかったのである。
疲れ果てた計画者達を見かねた騎士達が、もういいではありませんかと申し出た言葉に、彼らは初めは自分は生きなくてはならないと拒否した。
そこでコードを渡すことではなく、王の地位を渡すことで王の重圧から解放するという案が出され、計画達はそれに同意するに至る。
そして最初の王達は騎士に王位を渡し、裏から国を守り始めるようになった。
新たな王達にギアスを与え、その力を持って国を治めると言う形態に変化したのである。
ここでコードとギアスの逆転が起こり、ギアスが王の力と言われるようになった。
計画者は自らの後継者を育て、ただ子孫達が同じ轍を踏まぬように見守り続けた。
だがそれも、あまり長くはもたなかった。
与えられたギアスや政策を己のものと勘違いした王が現れ、ギアスを成長させればコードを奪えることを知った者が計画者を排除しようとコードを奪い、そしてコード所持者を殺すという事件が起きた。
他の計画者に出てこられては困ると考えたその王は各国に戦争を仕掛けはじめ、世界は再び混乱に陥った。
何とかそれを鎮圧したが、計画者達は同じ事の繰り返しに疲れ、自らの生を終わらせたいと望む者が出た。
否定することが出来なかった彼らは、コードを壊す装置、すなわちアカーシャの剣を完成させることに成功した。それが神根島の遺跡である。
だが全員がコードを破壊することに同意はせず、残った計画者四人がコードを所持したままだった。
彼らはそれぞれ、ユーラシア大陸を治めた皇帝、西の果てのマグヌスファミリアの国王、その遠き隣国であるイギリスの女王、東の果ての日本の女王の傍にいた。
コードを破壊し、ただの人間に戻った計画者らはギアスを与えた者と共に遺跡の番人として過ごす者や、王の補佐をする者などそれぞれに、生きることを決めた。
ギアス嚮団もその一つで、後にコードを宿した者を守ることを教義とし、やがてやって来たコード所持者を嚮主として崇めるようになる。
しかしそれもいずれはコードを奪われたり、あるいは自ら譲るなどしてその生を終えるようになり、やがてコードは歴史の裏の、さらに闇へと消えて世界をさまようようになる。
マグヌスファミリアのコードはアドリス達がよく知っている通り、やがて国王一族が代々交代で宿すようになり、現代に続いている。
イギリスのコードはブリタニアの最初の皇帝となるエリザベス三世と共にブリタニア大陸へと渡り、紆余曲折を経てV.Vに宿された。
ユーラシア大陸のコードは大陸中を彷徨い、やがてC.Cの養い親であるシスターに宿され、そしてC.Cへと押し付けられた。
日本のコードは何と枢木家が管理していたようで、かなり昔に同時の当主が消滅させた方がいいという判断で消していた。
枢というのは “とぼそ”と読み、開き戸を開閉するために扉の回転軸の上下に設けた心棒の突起を指す。
また、戸締まりのために戸の桟から敷居に差し込む止め木、という意味合いを持ち、それが彼らの役目を雄弁に物語っていた。
アカーシャの剣を起動するための遺跡を管理する役目を持っていたせいか、かなりの頻度でコードやギアス関係者と接触した記録が残っている。
優れた人間に、永遠に国を治めていてほしいと望んだ結果が生んだ悲劇の歴史。
玉座を王を縛りつけるための椅子として用意し、そして身勝手な理由でその椅子を壊した。
王という名の人柱のもとで、歪んだ繁栄を望んだ過去の人間達。
アドリスが“人間の発想というものは、今も昔も大して変わらない”と評した歴史は、愚かというべきか、思い当たる節があると頷くべきか。
「・・・永遠なんてどこにもない。常にいい状況など続くはずはない。
それを学ばなかった人間が生み出した忌むべき産物、それがコードです。
そう思いませんか?シャルル・ジ・ブリタニア」
冷ややかな声音で黄昏の間に入室したアドリス・エドガー・ポンティキュラスの声に、シャルルは扉の方へと振り向いた。
「・・・理想は実現すべきものだ。そのために努力を重ねた者達を非難する権利を、誰が持てよう」
「努力を重ねたのだから、迷惑をかけられた私達にすら非難する権利はない、とそういうことですか。
そのような考えを持っていたら、貴方がこれまでしてきたことも同じなのだと思っているのでしょうね」
アドリスはそう吐き捨てると、シャルルとその傍らに立つビスマルクに入室してきた一同が一斉に銃を向けた。
「・・・ルルーシュ様、今一度シャルル陛下とお話しして頂くことは出来ませんか?」
ビスマルクがアドリスの横に立つルルーシュに向けて言うと、ルルーシュは冷ややかに拒否した。
「俺が言いたいことは、コードを奪った時にアドリス様が既におっしゃって下さった。
それでもお前達は自分が正しいと思っているのだろう?それなら言うべきことは何もない」
「しかし、陛下のお気持ちを・・・」
「俺が考えなければならないことはな、この戦争を早く終わらせて、その後始末をすることだ。
今貴様の主君やシュナイゼルのしでかしたことが原因で、どれだけユフィが苦労をしているか想像出来るか?出来ないだろう。
お前達は理解をしてほしいと望んでいるんじゃない、“理解すべきだ”と俺達に命令しているに過ぎない。
だから俺達は、その命令を全力で拒否する」
貴様の主君、との単語に、シャルルを父親だと認めたくないと、ありありと現れていた。
「ビスマルク卿、ルルーシュ様のおっしゃるとおりだ。
我ら貴族は、皇族方のなさることが正しいと盲目的に信じ込み、それ以外が間違っていると断じて招いたのがこの事態なのだ。
いや、全てがそうだったわけではない、侵略を始めた時も、諌めた貴族は少なからずいたはず」
「・・・確かに、いた。だが、遺跡が必要だった故、中枢から離れて貰ったが」
「で、それから間もなくして起こったのが血の紋章事件ですね。
シャルル帝の地位を狙うのが目的の方もいたそうですが、侵略や差別国是に反対して反乱に参加した人も多かった、というのも知っていますよ」
あの時亡命してきた者が、後にルチアを通じてマグヌスファミリアのレジスタンス組織に組み入れられたので、事の経緯はアドリスも知っている。
「侵略をやめるべきだ、このままではブリタニアは世界からはじかれると諫言した当時のラウンズを、貴方は処刑した。
貴方は心底彼にすまないと思い、同時にこうも思ったでしょうね、『お前が正しいのは解っているが、計画のためだ。
だから必ず計画を遂行して、死者とも解りあえる世界を創ってみせる』、と」
アドリスの言に間違いがなかったシャルルは、何故解ったのかと内心で驚いたが顔には出さない。
ビスマルクも事件が終わった後、そう呟いていた主君を見ているので、眉をひそめた。
「解っているなら・・・」
「理由が理解されたら自分の行為も認められると?
強盗に入られてたまたま家にいた子供が殺された親が、犯人に子供が飢えているから仕方なかったと言われて、そうですか仕方ありませんねと許すと思うんですか?」
幸せに過ごしていた子供は不幸な境遇の子供のために犠牲になるべきで、永遠の幸せを享受する権利などないとでも言うのだろうか。
「これまで家族と安穏と過ごせた貴様に何が解る!
シャルル陛下は・・・家族にすら嘘をつかれて母君を奪われたのだぞ!」
「自分が不幸で他人が幸せなら、他人を不幸にしてもいい、ということですか。
ああ、それでシュナイゼルも放置していたんですね。
あのフレイヤでみんなが死に絶えれば、自動的に全員Cの世界の住人になり、確かに嘘のない世界に住むことになりますから。
皆が揃って不幸になる・・・見事なまでの平等社会だ」
「それは違う!何故貴様はそのようにしか受け取れぬのだ?
陛下がようやく突破口を見出した頃を見計らって、わざわざ来るとは!」
シャルルが悪意で自分を捉えるアドリスを静かに睨みつけると、アドリスは呆れて言った。
「・・・その突破口、出来ればシュナイゼルを始末した頃に見つけて貰いたかったんですがねえ。
今、フレイヤをどうにかするために、どれだけの人員と費用が費やされていると思います?それとも計画が成れば、フレイヤは消えるんですか?」
「・・・・」
「復興費用の予算も回されるくらいで、当然その分戦争から立ち直るのが遅くなりますね。
ブリタニアには大変お気の毒ですが、その責任を取って頂くために賠償金、さらに増えますよ。
シュナイゼル達もダモクレスの建設費用に、資産がかなり費やされていますから、こちらの損害を埋めるほどの財産はないでしょうから。
お陰でこっちに来る時間も制限されて、今夜中に決着つけなきゃならないほど、忙しいんですけど」
一般民への増税も避けられないが、出来る限り負担を減らすために皇族、貴族達の資産は搾り取らせて貰うと告げると、アドリスはとうとう声を荒げた。
「都合の悪い問いにはだんまりですか!
貴方達が自分達しか理解されるべきではないという考えなのは理解していますが、本当にいらいらしますよ!
嘘が醜い、という理論も聞きたくない。私のエディが、本当は怖くて怖くて仕方ないのに、教育に失敗した貴方の次男が通信をかけてきても自分が対応すると言った。
私がコードを外せば遠い命ではないことを知ったから」
アドリスの体は長い間植物状態だったため、既にボロボロだった。
筋肉も動かすことを怠らなかったとはいえやはりロクに動かせないし、最新の医療機械があったわけではない状況だったので、内臓器官も医者が元に戻らないかもしれないとの診断を下す有様だった。
「私を心配させまいとついた嘘を、汚いと言いますか?
・・・だから私は、貴方が嫌いです。
このままでは、エディが可愛そうです」
「娘がそれほど大事なら、政治に関わらせなければよかったではないか。
そうすればシュナイゼルに目を付けられることはなかった」
「・・・そうやって相手に責任転嫁をする貴方達が邪魔です害悪です死んでほしいと切に願います」
アドリスはそう吐き捨てると、右手の手のひらにコードを浮き上がらせる。
「貴方達の計画は知っていますよ、ずっと“視て”いましたからね・・・このコードで」
「何・・・?」
シャルルとビスマルクが目を見開くと、アドリスはにやりと笑った。
「コードによってギアスを分け与えると、与えた人間の動向を視ることが出来るんです。
ご存じなかったようですね」
過去にC.Cも新宿事変の後、ほどなくしてアッシュフォード学園に現れたのも、コードを通してルルーシュの状況を知ったからである。
アドリスはそれを利用し、ビスマルクを通してシャルル達の計画を知り、どこまで進めているかを常に確認していた。
「貴様、あの時私に妙な暴言を吐いたのは!」
シュナイゼルとの謁見の後、アドリスがわざわざ伝えてきた暴言の意味。
コードは一定の力を放出すると、契約者と接触するか、コードで繋がっている状態の場合、その余波が契約者に向かう。
ルルーシュもナリタでC.Cがスザクに接触して精神攻撃を行っていたところ、不用意に触れて余波を食らい、C.Cの思考が流れ込んだことがある。
どの程度まで力を出せば相手に伝わるかという確認作業中に、ビスマルクが違和感に気付きそうだったので、暴言を吐くことでごまかしたのだ。。
「そういうことです。やることが解っていたら、対策を立てるのは簡単です。
私に干渉してコードを使うおつもりのようですが、C.Cさんとエドの二人がかりで私のコードを抑えて貰えればそれですむこと」
「陛下・・・・!」
計画が進められぬと知って茫然となったビスマルクに、アドリスは呆れた。
「本当に貴方は主君のことしか考えていないのですね。
まあそのことはいいですよ、私も娘が第一です。
私は娘に『大きくなったらお父様のお嫁さんになる!』と言って貰えた、世界最高峰の勝ち組ですからね。
・・・私は娘のために、世界を平和にする」
「結局は貴様自身が、自分大事というわけか」
それで何故自分だけを責めるのかと言うシャルルに、ルルーシュは言った。
「アドリス様がしたことで、お前達以外の誰が迷惑を被ると言うんだ?」
「ルルーシュ・・・」
「貴様の自分を理解してほしいというのが問題ではなく、そのために取った手段が最悪だと何度も言った。
動機よりも行為の是非のほうを、人は気にするものなんだよ」
ブリタニア人は搾取の上で成り立つ国家が己の利になるものだから、シャルルの国是主義を否定しなかった。
だが搾取される立場の人間達は、ブリタニアに反抗した。
ユーフェミアはブリタニア人が日本人を迫害しないようにと意図で、かつてのゲットーを封鎖した。
だが結果として物資を途絶えさせ、飢える人間を生み出したことで恨まれた。
善意が悪い結果になることなど、残念だがあることだ。
それをいいことをするつもりだったのだからと、笑って済ませている余裕など今の自分達にはまったくない。
何しろ自分達は、戦争をしているのだから。
現在、過密スケジュールの間を縫って神根島に来ている一同である。
ユーフェミアやエトランジュ、神楽耶と天子も、寝る前に短いお茶会を開くことがささやかな息抜きとなっているほど、多忙を極めていた。
それはルルーシュも例外ではなく、ここ数日ナナリーやロロが待つ家に戻れず、彼らが差し入れを持って来た時に話すくらいしか団らんの機会がない。
「お前、アドリス様達が計画阻止のために動いていると解るまで、マグヌスファミリアのことなど歯牙にもかけなかっただろう?
俺達がお前に害を与えたから、お前は俺達を排除にかかった。
お前が俺達に害を与えるから、俺達はお前を排斥する・・・それだけのことだ。
起こるべくした起こった事態、おかしなことなど何もない」
「・・・どうしても、わしを拒むのか」
「先に拒んだのはお前だろう!縋った俺の手を振り払ったのは誰だ?!
誰一人知る者もいない日本に送り込んだのは誰だ?!
遺跡欲しさに戦争を始め、俺達を死んだと言い捨てて存在を消したのは誰だ?!
現実を見る事もなく、高みに立って自分“だけ”が哀れだと自己憐憫に浸って、ふざけるな!
事実は一つだけだ、お前達親は、俺とナナリーを捨てたんだよ!」
シャルルは息子の冷たい宣告に、目を見開いた。
「お前がお前のままでは、ゼロという仮面なくして組織一つまとめることが出来ぬ世界を、お前は望むのか?!
在りのままでいられる世界こそが・・・!」
「俺はお前の考えを認めない!
人はなぜ嘘をつくのか・・・それは何かと争うためだけじゃない、何かを求めるからだ。
在りのままでいい世界とは、変化がない。生きるとは言わない、思い出の世界に等しい。
完結した閉じた世界、俺は嫌だな」
「私も嫌だわ」
「俺も冗談じゃないね」
エドワーディンとクライスがルルーシュに同意すると、C.Cが言った。
「・・・私もお断りだな、シャルル。私が何故お前達の元を出たか解るか?
気づいてしまったからだ・・・お前達は自分が好きなだけだと」
自己愛が悪いとは言わないが、自分だけが特別で他人がそれに従うべきだと思考に凝り固まった彼らには、もうどんな言葉も届かないと悟ってしまった。
現に実の息子の言葉にすら、何故自分が責められるのかと理解していない様を見れば、それが正しかったことが解る。
「優しい世界になる、とお前達は言ったが、私にはそうは思えない。
ルルーシュ達が創る世界のほうが、私にはいい世界に見える」
「優しい世界、か。それはきっと、自分達に優しい世界を指しているのだろう。
だが、ナナリーやユフィ、そして俺達が目指しているのは違う。
他人に優しくなれる世界こそ、俺達は望む。
だから・・・お前は消えろ!」
ルルーシュはシャルルを振り払うかのように銃を取り出すと、シャルルに向かって発砲した。
「陛下!!」
自身のギアスですぐさま弾道を読み、主君を庇って銃弾から主君を救ったビスマルクの背後で、銃口をなおも自分に向ける息子を見つめた。
愛した女との間に生まれた息子からの、徹底的な拒絶。
八年前、自分が拒絶の言葉を投げかけた息子の絶望に満ちた瞳が、脳裏によみがえる。
「ルルーシュ・・・そうか」
シャルルは一瞬だけ目を閉じるとすぐに目を開け、、コードを壊すためにアカーシャの剣を動かそうとしているC.Cやエドワーディンがコードを浮かび上がらせている様子を見た。
「愚かなる先人が生み出した忌むべき道具、コードを破壊します。
動け、アカーシャの剣!そしてその役目を果たすのです!」
上空に吊るされた巨大な剣が、ゆっくりと三人に向けて迫りだす。
ようやく過去の清算が終わる、と安堵していた一同に、狂喜に満ちた声が響き渡った。
「・・・この時を待っておった。お前達がアカーシャの剣を動かすのをな!
「何だと?」
はっとシャルルのほうを見ると、一同は驚愕した。
シャルルが無駄に厚い皇族服の胸元をはだけており、そこにあったのはあるはずのないものだが、同時に見慣れたもの・・・羽ばたく羽根の紋様、コードが赤く光っている。
「まさか、コード?!いったいなぜ?!」
エドワーディンが驚愕すると、シャルルは勝ち誇ったように言った。
「コードが生まれた経緯は、お前達も知っていよう!
これもまたゼロから生まれた道具、我らが同じことを出来ぬ道理がどこにある!!」
「・・・しまった、そういうことか!!」
ビスマルクを通じてコードを作動させる、というのはフェイクで、実際はコードを造ることが彼らの本当の目的だったのだと、ルルーシュは舌打ちした。
このことはV.Vにも秘密にしており、ゆえにマオも気付けなかったのである。
「コードでは契約者の行動は見えても、思考までは読み取れぬ。
我らが遺跡で行っていた実験を、フェイクの策のためと考えたお主らの負けよ!!」
やられた、と眼を見開く一同に、シャルルは言った。
「アカーシャの剣は、最初のコードでなければ作動させることが出来ぬよう、設定されておったようだ。ゆえにわしでは動かせぬ。
だが、作動させてしまえばわしが集合無意識、すなわち神を殺すよう、その矛先を変える程度は出来るはず!!」
シャルル大きく両手を広げ、胸元のコードを輝かせる。
「神殺し・・・それさえ成れば、思考エレベーターを持って全ての人間の意識が一つになるのだ!
アカーシャの剣よ、今こそ世界を一つに・・・」
「黙れ!!つくづくろくでもないことにしか情熱を燃やさない男だ」
シャルルの恍惚とした台詞を遮ったルルーシュは、アカーシャの剣の矛先を自らに向けようと必死でコードの力を高めている三人の前に進み出た。
「ルルーシュ様・・・陛下の邪魔はさせぬ!」
ビスマルクが剣を片手にルルーシュに襲いかかると、同じく剣を構えたジェレミアが飛び出し、その攻撃を受け止めた。
「私もルルーシュ様の邪魔はさせるわけにはいかぬ!!」
「ジェレミア・ゴッドバルド・・・!貴殿が慕っていたマリアンヌ様も、この計画にご賛同だったのだ。
それでも邪魔をすると言うのか?!」
「マリアンヌ様は今でも敬愛申し上げている。だが、その計画と、それに伴う行為には賛同いたしかねる!
間違いを間違いと主君に指摘せぬことも、臣下にあるまじき不忠義!
血の紋章事件でその身をもって諫言した当時のラウンズは、忠義を全うした!
貴公は何が間違っているかそうでないか、それを判断することすら出来ぬのか?!」
「私は神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアのナイトオブワンにして、最初の騎士!
主君の道の前に立ち、その道を切り開くことこそ我が役目にして誇り!!
それを否定することは許さぬ!!」
ジェレミアが相手ではギアスを使えないビスマルクだが、それでもナイトオブワンなだけあり、ジェレミアの猛攻を防いでいる。
「この男は私が引き受けます、ルルーシュ様!どうかあのアカーシャの剣をお止め下さい!」
「頼んだぞ、ジェレミア!」
アカーシャの剣の操作用に特化させて生み出したコードは、三人がかりで操作権を奪おうとしてもそれでやっと互角のようだった。
「わしは負けるわけにはいかぬ!!」
「それは私の台詞ですよ」
「絶対、負けない!私達はこのために、アドリス叔父さんを犠牲にした。
ここまで来て、諦めてたまるもんですか!!」
「私もそろそろ、時の流れに戻りたいからな」
アカーシャの剣が思考エレベーターに向かおうとするところを、ルルーシュは走り寄って近づき、そして叫んだ。
その両目に、ギアスの紋様を力強く羽ばたかせて。
「ギアスなどわしには通じぬ!他の者にしても」
ルルーシュの意図がつかめないシャルルに、ルルーシュは言った。
「いいや、もう一人いるじゃないか。お前には見えないのか?」
「?!」
「そうだ、Cの世界は人類の意思。そして人は平等ではない・・・共にお前の言葉だ。
平等ではないがゆえの俺の力を知っているな?」
「愚かなり、ルルーシュよ。王の力では神に勝てぬ」
ルルーシュが集合無意識にギアスをかけようとしていることを悟ったシャルルは笑うが、ルルーシュは同じように笑みを返した。
「どうかな?俺はゼロ、奇跡を起こす男だ!!」
ルルーシュは大きく両の手を掲げると、力の限り叫んだ。
「俺は生きようと足掻く人々を見た。幸せになるために、小さくともその運命にあらがった人々を見た」
どれほど理不尽で辛い時代であろうとも、自らに与えられた一杯の薄粥を、自分よりも小さな赤子に与えた幼女がいる。
シンジュクやサイタマで、上の命令に背いて一般人の日本人を、こっそり助けたブリタニア軍人もいた。
人は確かに争い嘘をつく。
だが同時に、誰かを守り愛することが出来るのだ。
「だから・・・神よ!集合無意識よ!時の歩みを止めないでくれ!!
これからも人々は争い、嘘をつくだろう。それでも人は、幸せを求めずにはいられないからだ!!
だからこそ俺は・・・俺達は、明日が欲しい!!」
死んでいる、と自らを生み出した親に否定されたあの日から、どこかで生まれてこなければよかったと、思い続けていた。
けれど、今自分の周りにいる人間は言ってくれたのだ。
『貴方は一人じゃない、生きていてもいいんだよ』、と。
変化なき日常ではなく、よりよき明日を目指すために、人はあがく。
何度でも何度でもあがいて、その先にある光をその手につかむために。
「明日、だと?明日・・・」
シャルルが呻くように繰り返すと、アドリスもルルーシュに同調した。
「・・・そういうことですね。私も娘が笑う明日が欲しい」
「私も、早くみんなの元でクラの子供を産んで、祝福される明日が欲しい」
「欲望に正直だな、お前達は・・・だが、それは嫌いじゃない。
私は、そうだな、ピザをたらふく食べて、それから」
過去、愛されたいと願った自分が生み出したギアスで、偽りの愛を得た。
だけど、今は。
『C.C、大好き!』
『嚮主様、C.C様!!』
『・・・必要だ。お前が』
「・・・それから、本当に愛される明日が欲しいな」
C.Cの願いの声は小さかったが、それでも一同には聞こえていた。
「し、思考エレベーターが・・・!」
「崩れていく・・・陛下・・・・!」
上空に赤くギアスの紋様が浮かび上がり、同時にゆっくりと崩壊を始めた思考エレベーターの姿を見て、シャルルとビスマルクは驚愕した。
「わしとマリアンヌの、兄さんの夢が朽ちていく・・・!」
「それは僥倖、ついでに貴方達も朽ちてくれたら最高ですね。
どうせ貴方には、過去しかないのですから」
しっかり相手の傷口に塩をすり込むのを忘れないアドリスの毒舌も、二人の耳には入っていない。
たとえアカーシャの剣が動かせても、思考エレベーターがなければ全ての人間の意識を繋げる事は出来ない。
唖然とするシャルルがコードの力を止めた途端、チャンスとばかりに三人はコードの力を最大限に高め、アカーシャの剣の矛先をまずシャルルに向けた。
「その物騒なコード、破壊させて貰いますよ」
「やめろ・・・やめてくれ・・・これがなければ・・・!」
アドリスはシャルルの哀願を無視して、アカーシャの剣でシャルルの胸元を貫いた。
シャルルの身体が赤く光ると、胸元からコードが飛び出してくるくると回り、それは剣へと吸い込まれていく。
「陛下!!」
床に崩れ落ちるシャルルに、ジェレミアと戦っていたビスマルクが慌てて主君の元へと走り寄った。
「陛下、しっかりなさって下さい、陛下!!」
「さて、今度はこちらの番だな。今度こそ、これで終わる」
C.Cは心底から安堵の声音で呟くと、アカーシャの剣にその身を任せた。
額からコードが抜けだし、その役目を終える事を望んでいたかのように、すうっとアカーシャの剣へと吸い込まれていく。
続けてエヴァンセリンが左手を差し出し、最後にアドリスが右手の甲を掲げた。
「・・・せめて、この戦争が終わるまでは生きていたいものです。
最後に娘の心からの笑顔が見ることが出来たら、いいですね。
ああ・・・終わる・・・!」
アドリスはにっこりと微笑むと、己の生を繋げているコードを躊躇いなくアカーシャの剣に突き刺した。
「まさか・・・終わるのか?
こんな、こんなあっけなく・・・・!何十年もの時をかけた計画が・・・?」
呻くシャルルを無視して、一同はアカーシャの剣を見つめた。
「これで・・・」
「全てのコードが、消えた・・・!」
長年待ち望んだ瞬間が、ついに訪れた。
同時刻、神根島の遺跡にいたマオは両目が輝き、そして自分の一部がすっと抜けたような感覚を味わっていた。
周囲を見渡せばギアス嚮団員も同じのようで、何ともいえぬ感覚に戸惑っているようだ。
マオはもしかして全てうまくいったのでは、と考え、ギアスを発動させようとするが、何も起こらない。
「・・・ギアス、使えなくなってるや」
マオはほっと安堵の息を漏らすと、じきに出てくるであろうC.Cを待った。
「さて、後はシャルル帝を殺しておしまいですね。
とっとと始末しておくべきでしたよ」
アドリスはそう反省しているが、シャルルは撃たれたら死んだふりをしてアカーシャの剣を動かす隙を伺うつもりだったから、結果は同じだったりする。
「待って、叔父さん!見て、黄昏の間が!!」
皆でシャルルを包囲してとどめを刺そうとしていると、エヴァンセリンが空にひびが入っているのを見て叫んだ。
「まさか・・・」
「ちょ、おい!映画やアニメなんかによくある、“お約束”かよ?!」
クライスが頭を掻き毟るのも無理はない。
空にはまるで石を投げつけられたガラスのようにヒビがゆっくりと増えていき、複数ある柱も崩れては消えていく。
シャルルを殺すためだけに全滅するのは、どう見ても割に合わない。
事態を把握したルルーシュとアドリスが撤退命令を出そうとした瞬間、一同の身体が宙に浮いた。
「なに、これ?!」
「エド、今行く!!」
空中で平泳ぎをしながらエドワーディンのもとに来たクライスは、しっかりエドワーディンを抱きしめた。
他の一族達も互いに支え合い、離れまいとその身体を抱き合った。
ルルーシュはC.Cを抱き寄せ、彼女もルルーシュも腕をしっかりとつかんだ。
ふと見ればシャルルもビスマルクに抱えられた状態で浮いており、彼らも何が起こっているのか解らない様子だ。
そして黄昏の間はみるみるうちに崩壊を進めていき、やがて黄昏の間全体が大きく輝いた。
あまりの眩しさに一同が目を閉じると、叫び声が響き渡る。
「うわあ!!びっくりした!!」
「・・・その声、マオか?」
急に閃光を食らったので目がチカチカするが、声だけは聞こえたC.Cの確認に、マオはうん、と肯定した。
「いきなり黄昏の扉が開いたかと思ったら、いきなりC.C達が現れたからびっくりしたじゃないか!
何だか中からすんごい光がしてるし・・・サングラスしてなかったら、やばかったよ」
ふと見てみれば、同じく閃光をもろに食らったらしいギアス嚮団員達が、目を抑えてうずくまっている。
「・・・ギアス、使えなくなったよ。うまくいったんだね?」
「マオ、そうか・・・ああ、全て計画通りだ。事の顛末は時間がないことだし、帰りの潜水艦の中で話そう」
何しろもぎ取れた時間は、今夜一晩だけだ。
時計を見れば残りあと三時間を切っており、V.Vを水葬にする作業を考えれば基地に戻るのがぎりぎりな時間である。
「解ったよ、C.C。じゃあみんな、行こうか」
ギアスがなくなったことにどうにも違和感をぬぐえないギアス嚮団員達を諭しながら、一同は遺跡から歩き去っていく。
最後に出たルルーシュは一度だけ遺跡の扉を振り向くと、小さく呟いた。
「・・・バカめ」
そして再び前方に視線を戻すと、自分を呼ぶ声に返事を返し、足早に遺跡を出た。
同時刻、ブリタニアにある遺跡の扉の前では、シャルルとビスマルクが茫然と、扉を見上げていた。
ビスマルクが扉を開けようとするも、もはや左目に赤い鳥ははばたかない。
「アドリス・・・あの男・・・!」
「兄さん・・・マリアンヌ・・・」
シャルルは黄昏の扉に手を当て、小さく呻く。
沈黙を守る扉の前で、シャルルはただ兄とマリアンヌの計画について話していた日々を思い出す。
そして、最後に彼の脳裏に再生されたのは、最愛の妻との間に生まれた息子と娘の八年前の笑顔。
幸せだった頃の記憶が終わる。
そして、今。
「わしの生きる希望が・・・ラグナレクの接続が、終わった・・・・」
シャルルはそう呟くと、いつまでも黄昏の扉を見つめたまま動かなかった。