第四十一話 エーギル海域戦
ブリタニア大陸進軍開始からひと月後、ブリタニアが戦力を本国に結集させたため、ブリタニア本国に向かう途中にあった各エリアはほぼ無血で四ヵ国が解放に成功した。
EU地域にあるエリアも同様で、EUもブリタニア軍が引き揚げたために二ヵ国が解放に成功したので、EUもようやく聞けた明るいニュースに沸き返っていた。
だが物資を奪われた上に主な施設が破壊されていたため、基地として使うことは難しい状況だった。
明らかに補給を現地で行わせない一種の焦土作戦だったがそれはこちらも予測済みだったので、事前に準備をしていたとおりある程度の復興支援を手配した。
超合集国連合が出来る限りストックした食料を提供したり世界各地から食料援助を求め、仮設住宅などの手配を行ったのである。
ルルーシュはブリタニア進攻の折にはこの焦土作戦を確実にやると予測しており、被害を補てんするために特区や物資製造の基地を造っていたことが、幸いした。
進軍に同行したエトランジュは、黒の騎士団および超合集国連合と解放された植民地の国民との間に立ち、アドリスの助言に従って裏で仲介役を務めた。
彼女は過去にあちこちのブリタニア植民地を回っていたのでその国の住民やレジスタンスとの知り合いが多く話が通りやすかったため、スムーズに進んだ。
さらにこのことが世界各国に報道されると、日本はもちろん世界各地から支援物資が集まり、ボランティアを行うべく解放された植民地へ向かいたいと申し出る者も現れた。
お陰で国民達には元通りの生活とまではいかなくともある程度の処置を行い、後は住民達に任せて進軍を続けることが出来た。
さんざん物資を奪った挙句施設を破壊した憎きブリタニアを倒すためならと、解放された植民地の者達も騎士団の駐留に使ってほしいと土地を提供するなど、出来るだけの支援を行ってくれた。
エトランジュはその支援の指揮を執ることになったので進軍から離れることになり、斑鳩から降りて解放された植民地に残留した。
アルフォンスとクライスはイリスアゲートの操縦のために従軍し、ジークフリードとエトランジュの護衛隊が彼女の警護にあたっている。
だがその後からはブリタニア大陸周辺のエリアはもちろん、ブリタニアの領土まで奪われる訳にはいかぬとばかりにブリタニア大陸に近づくにつれて戦闘は激しさを増していった。
さらに三ヶ月後にブリタニア国境地までにある植民地を次々に解放し、とうとうブリタニア大陸との国境線が目前となると士気が上がると同時に、緊張が両軍の間に走った。
ブリタニア大陸西のエーギル海域近くには、ブリタニアの大規模な海上基地がある。
そこを奪取すればブリタニア大陸への大きな足掛かりとなり、ブリタニアが他国へ進攻するのを防ぐことが可能となる。
ゆえに基地を攻略すべく黒の騎士団は解放に成功したエリアから一路エーギル基地に向けて進軍した。
一方、その動きを察知したブリタニア軍は、とうとう国境まで迫って来た黒の騎士団を迎撃すべく準備に余念がない。
エーギル基地を担当しているベイ中将は緊張した面持ちで軍に檄を飛ばした。
「我が勇敢なるブリタニアの騎士達よ、とうとう国境まで国賊・黒の騎士団が迫って来た!
黒の騎士団により奪われた植民地エリアの者どもは皇帝陛下の御恩を忘れて奴らに加担した愚行を、いずれ後悔することになるだろう。
恐れることはない、我らは皇帝陛下のもとで常に競い合い己を高め世界を指導する能力を持った選ばれた人種なのだ!!
本国からも増援の部隊が、さらにラウンズの方が援護に来て下さったのだ。勝利は我らにあり!!
オールハイルブリタニア!!」
「オールハイルブリタニア!!国賊黒の騎士団を倒せ!!」
ベイが傍らに控えたナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグを兵士達に見せながら叫ぶと、兵士達はラウンズがいるならば勝てると士気を高めていく。
ジノが新たに造り直されたナイトメア、トリスタン・ディバイダーに乗り込んで軍を率いて海上へと向かうと、向かって来たのは八枚羽を輝かせて先陣を切る紅蓮聖天八極式だった。
「外観が変わっているけどあの赤いナイトメア・・・カレン・シュタットフェルトか。久しぶりだ」
「その声・・・性懲りもなく日本を襲って来たラウンズの男!」
自分の前に立ちはだかったのが日本防衛戦の戦闘中にナンパまがいのことをして来たラウンズのジノだと知って、カレンは露骨に嫌な顔をした。
「ジノ・ヴァインベルグだよカレン。ラウンズとして国境を突破させるわけにはいかない。
私の新しいナイトメア、トリスタン・ディバイダーで君を倒す」
「はっ、私の紅蓮聖天八極式に挑もうなんて、千年早いのよブリタニア皇帝の走狗が!!」
ゼロの指示が飛ぶより早く、カレンはトリスタンに向かって紅蓮の右腕を突き上げ、戦闘に入った。
「すぐに熱くなるのはカレンの悪い癖だな。まあいい、ラウンズはカレンに任せる!
藤堂は防衛部隊をなぎ払いつつ、基地への道を開いてくれ。予定のポイントに斑鳩が到達次第、私は枢木とジェレミアとともに出撃して基地を制圧する!」
「解った、任せろ。朝比奈、千葉は俺に続け!仙波と卜部は左翼から基地に向かえ!」
「「「「承知!!!!」」」」
斑鳩にいて指揮を執っているルルーシュの指示に藤堂と四聖剣がそれぞれふた手に分かれると、黒の騎士団とブリタニア軍との間で激戦が始まった。
第二次日本防衛戦以来大ダメージを被ったブリタニア軍は、黒の騎士団と同様に軍備の強化に余念がなかった。
艦艇数がブリタニアの方が上だったので、海上戦はブリタニアの方が有利だった。
そのため海上で黒の騎士団を迎え撃ったブリタニア軍は、艦艇の大砲で黒の騎士団のナイトメアを打ち払っていく。
だが黒の騎士団も数こそ劣れど母艦の斑鳩をはじめとする最新鋭の旗艦が揃っており、飛行ナイトメア部隊が上空から攻撃を与え、的確にブリタニア海軍艦艇を沈めていた。
海上で、上空で互いに引かぬ激戦が行われている中、現在注目を集めているのは黒の騎士団エースであるカレンと、ナイトオブスリーのジノとの戦いだった。
紅蓮聖天八極式はスピードもさることながらパワーも黒の騎士団最大級を誇り、そこらのナイトメアなら一瞬で破壊する。
トリスタン・ディバイダーも以前のトリスタンよりもはるかに強化され、かのナイトオブワンのナイトメア、ギャラハッドのエクスカリバーを模して造られた剣を構え、紅蓮に斬りかかっていく。
「この剣は日本防衛戦での失態を犯した私に雪辱の機会とともに皇帝陛下から下賜されたキャリバーンだ!
かつて陛下御自らお名付けになられたエクスカリバーをモデルに造られた剣の名にかけて、ここから先は通さない」
「ふん、たかが剣一本でどうするっていうの?
この紅蓮の輻射波動ですぐに溶かしてあげるわ!」
カレンが右腕でキャリバーンを防ぐと、途端にキャリバーンに高圧エネルギーが流され紅蓮に衝撃が走った。
だがカレンの紅蓮に搭載されていた防御システムが働き、機体に防御電磁波が流れてそれを軽減したので多少態勢が崩れたもののすぐに持ち直し、カレンはスラッシュハーケンをトリスタンに撃ち放つ。
「モルドレッドの盾に使われていたシステムか!」
「この紅蓮はラクシャータさんやロイド博士が設計したナイトメアだ!お父さんが私を心配して、頑丈に作ってくれるように依頼してくれた!
だから、簡単に壊れたりしない!!」
カレンはそう叫ぶとキャリバーンを破壊すべく、トリスタンに向かって動き出す。
キャリバーンはエクスカリバーと同様、高出力のエネルギーを刀身に通すことで多大な攻撃力を生み出し敵の斬撃をも防げる武器だが、紅蓮の輻射波動の方が上回っているので一度でも掴まれれば破壊される可能性は高かった。
キャリバーンを構え直したジノは、隙を突いて全エネルギーを込めた一撃を紅蓮に与えて仕留めるか、もしくは動きを止めて捕獲するかと考えを巡らせた。
だが紅蓮のスピードは高速機動を誇るトリスタンと同じほどあるにも関わらず防御力もすさまじく、一度防がれてしまえばカウンターで輻射波動をまともに食らってしまうことだろう。
(こんな化け物じみたナイトメアを造った技術者はもちろん、自在に操縦する彼女もそれに劣らず大したものだ。
あのちょろちょろ邪魔しに来る青い虫が出てくる前にカタをつけないと、確実に負けるね)
アルカディアが操縦するイリスアゲート・ソローは、相手の攻撃を妨害し自軍の攻撃をフォローすることに特化した機体で、戦闘向きではないので倒すのは簡単ではあるのだがカレンと同時に相手をすることは難しい。
ほんの少しでも他に注意を向けようものなら、カレンが容赦なく沈めにかかってくることが目に見えているからだ。
アルカディアは劣勢になるナイトメアがいればそちらをフォローする手はずになっているので、今現在黒の騎士団は順調に攻勢に出ておりその必要がないせいで、イリスアゲート・ソローに搭乗したまま斑鳩で待機していた。
「カレンさんの援護に出たほうがいいかな?ラウンズをさっさと仕留めれば相手の士気はガタ落ちだろうし・・・ゼロ、どう思う?」
「そうだな、この海域を早々に抑えることは今後の有利に繋がる。出撃をお願いする」
「了解、イリスアゲート・ソロー、出撃!」
アルカディアが操縦桿を握って斑鳩から飛び出ると、同じくクライスが搭乗するイリスアゲート・フィーリウスが彼女を護衛すべくそれに並ぶ。
「来たぞ、青い虫だ!
ヴァインベルグ卿の邪魔をさせるな、撃て!!」
しっかりマークされていたらしいイリスアゲート・ソローの姿を確認するや、海上のブリタニア艦はいっせいに照準を合わせ、砲撃をしてきた。
「お前、恨まれてんなあ・・・ま、あんだけ悪辣なことしてりゃあ無理ねえけど」
「あんな遠くから撃ったって無効化するのはたやすいけど・・・カレンさんを助けに行けないじゃないの」
アルカディアは溜息をつきながら防御壁を発動し、イリスアゲート・フィーリウスはむろん、周囲にいた黒の騎士団のナイトメア数十体を囲んでブリタニアの砲撃を無効にする。
だがブリタニア側は何としてもジノの邪魔をさせまいと、弾幕を張ってアルカディアがトリスタン・ディバイダーに向かうのを阻止しにかかる。
攻撃を邪魔しに行くのを邪魔されるという何とも皮肉な状況に、アルカディアは自嘲するような笑みを浮かべた。
「このまま無理やりカレンさんの所に行くしかないわね。
クライス、有線電撃アームが届く距離まで来たら、当てることなんて考えなくていいからトリスタン目がけて撃ってくれない?
ほんのちょっとでもあいつの目をカレンさんから逸らせたら、それでカタがつくと思うから」
カレンとジノとの戦いは先に隙を見つけた者の勝ちなのだから、とっととこちらで隙を作ってやろうと言うアルカディアに、やっぱお前悪辣だわとクライスが了承した。
そして防御壁を張り巡らしたまま、ゆっくりとカレン達の元へと進んでいく。
一方、案の定嫌なタイミングで現れた青い虫ことイリスアゲート・ソローに、ジノは舌打ちした。
幸いブリタニア艦艇やナイトメアが妨害に回ってくれたが、到着が遅くなっただけで長引けば必ずここにやってくるだろう。
何しろ高性能な高エネルギーによる防御壁の頑丈さは蜃気楼に次ぐ威力を持っており、防御に専念しているイリスアゲート・ソローに守られているナイトメアは攻撃に回って次々にブリタニアの艦艇を沈め、ナイトメアを撃ち落としていく。
「ブリタニアの地は私が守る!!黒の騎士団を一歩も通すわけにはいかない!」
「はっ、他国は平気で侵略していたくせに、自分達がその立場になるのは嫌なんだ?
これだからブリタニアは!!」
この状況は自業自得の産物だとまだ解らないのかとカレンは怒り、キャリバーンを破壊しようと紅蓮の腕を振り上げる。
だがジノはそれをキャリバーンで受け止め、ぎりぎりと押し上げた。
「私はブリタニアの貴族だ、ブリタニア国民を守る義務がある。
そしてシャルル陛下の騎士である以上、あの方の命を全うする義務がある!」
「ふーん、義務だからやるんだ?あんたがやりたいからじゃなく。
自分で戦う理由も決められないようなやつは引っ込んでな!!」
「私はこの国を守るために騎士になった!それが私が決めた道!!
そして我がブリタニアは弱肉強食、君が強ければ君が勝ち、私が強ければ私が勝つ!
君と私とどちらが強いか、試してみようじゃないか」
互いに一歩も引かぬ押し合いはジノとカレンだけではなく、藤堂や四聖剣も同じように展開していた。
「絶対にこの海域に黒の騎士団を通すな!!奴らの母艦を撃ち沈めろ!!」
「斑鳩を予定ポイントまで誘導するんだ!ブリタニアのナイトメアなど蹴散らせ!!」
激戦が繰り広げられている様子を、ブリタニア大陸に移されたダモクレス内のモニターで見ていたシュナイゼルはいつもの優雅な笑みを浮かべて言った。
「このあたりがちょうどいいね。
カノン、手はずは整っているかい?」
「はい、シュナイゼル殿下。すべて滞りなく」
「これ以上黒の騎士団に進軍させてしまうと、後々まずいからね。
さすがはルルーシュ、予想外の短期間で国境まで軍を進めるとはね、見事だよ。
例の軍備はまだ準備不足だが、時間を稼ぐためにも仕方ない。計画を早めよう」
「現在急ピッチで予定を進めておりますが、問題はございません。では、ただちに」
淡々とそう答えた部下はこれから何をするのかと問うまでもなく理解したらしく、エーギル基地への通信回路を開いた。
基地を預かるベイ中将は突然の帝国宰相からの連絡に驚きふためきながらも、通信モニターに出た。
「戦闘中に通信を入れて申し訳ないね、ベイ中将」
「滅相もございません、シュナイゼル宰相閣下。して、御用向きはどのような?」
「実は先日そちらに送った兵器だが、それをぜひ使用して貰いたいと思ってね。
試算データの威力がケタ違いの代物だよ。うまくすれば黒の騎士団を一掃出来るはずだ」
シュナイゼルから送られた兵器のことはベイも知っていたが、勝手に使用するわけにはいかなかった。
徐々に追い詰められていたベイは切れ者と名高い帝国宰相が開発した兵器の使用許可に安堵し、嬉しそうに頷いた。
「あ、ありがとうございますシュナイゼル閣下!必ずや黒の騎士団を倒し、ご期待に添えるよう努めさせて頂きます」
「よろしく頼むよ、ベイ中将。健闘を祈る」
そう言って通信を切ったシュナイゼルは再びモニターに視線を移し、意味ありげに微笑んだ。
戦闘が始まってからどれほどが経過しただろう。
ブリタニアの戦闘艦艇は容赦なく黒の騎士団ナイトメア部隊に向かって攻撃を繰り出し、それを避けあるいは反撃しながらゆっくりとエーギル基地へと進んでいく。
一方、ジノとカレンの戦いもカレンが徐々に押して行き、エーギル基地に少しずつ近づきつつあった。
同時にイリスアゲート・ソローがトリスタン・ディバイダーに肉薄しており、いつでも援護出来るようにつき従っているイリスアゲート・フィーリウスが有線電撃アームを構えているのがジノのモニターに映った。
(もうすぐあの青いナイトメアが来る・・・!カレンだけでも確実に仕留めなくては)
ゆっくりとエーギル基地が半楕円形に包囲されつつある光景に、ジノは忌々しげに歯ぎしりした。
と、そこへエーギル基地で総指揮を執っているベイが、通信を入れてきた。
「ヴァインベルグ卿、ご健闘されているさなか申し訳ありませんが、基地へお戻り頂きたい。
これより新兵器を使い黒の騎士団を一掃せよとのシュナイゼル閣下よりご命令が下りました。そこにいれば巻き込まれる危険があります」
「シュナイゼル殿下の?・・・解った、気付かれないよう切り結んだ後、基地に撤退する」
ジノはシュナイゼルの指示なら仕方ないと、決着をつけられず残念だとこぼし、キャリバーンで防戦に回った。
カレンはそれに気づかないまま、輻射波動を食らわせようと押していく。
斑鳩で戦局を見ていたルルーシュは、予定が遅れてることに忌々しそうに舌打ちした。
「・・・思っていたより粘るな。予定ではもうこの時間に予定ポイントまで到達出来ていたはずだったんだが」
やったらやり返されるとはいえ、誰だってやり返されたくはないものだ。
黒の騎士団の“侵略”から祖国を守ろうと、彼らも必死なのである。
「ゼロ、エーギル基地よりミサイル反応を確認、斑鳩に照準を合わせている模様です!!これは・・・流体サクラダイト?!」
オペレーターの少し焦ったような報告に、ルルーシュは冷静に指示した。
「以前にやられた流体サクラダイトの爆弾か!斑鳩にSシールドを張れ!
藤堂、朝比奈隊は右に回避、他部隊はいったん後退しろ!」
「承知!!」
しっかりと第二次日本防衛戦の時に得たデータをもとに、それ専用のシールドシステムを備えていた斑鳩は難なくそれを耐えきり、他の部隊も被害は皆無とはいかなかったが致命的なそれを免れた。
「ふん、バカの一つ覚えの爆弾か。芸のない奴らだ・・・藤堂、被害はどうだ?」
「数体のナイトメアがロスト、海上の戦闘艦が中破させられた。
だが戦闘続行に問題はない、隊列を再編して基地に向かう」
藤堂の報告に四聖剣も似たような被害だと続けると、彼らは隊列を直すよう指示を出した。
「以前のものよりはタイムラグが大幅に減っていたが、こちらもそれは予測済みだ。
データをおいそれと取らせてしまったのが大きなミスだな」
ブリタニアのナイトメアや艦艇は、あの爆弾が無効化されたことに驚いたのか、ゆっくりと後退していく。
「あのミサイルで被害を与えるつもりだったのか?
だがこれは一気に攻め込むチャンスだ、包囲網を完成させろ。
・・・ん?妙だな・・・なぜトリスタンまでが撤退する?」
突然反転して基地へと戻りだしたトリスタンを見て、ルルーシュは驚いた。
斑鳩をそのまま前進させようとしていたルルーシュだが、ジノまでもが撤退を始めたのを見て考え込む。
「あいつ・・・!逃がすもんか!」
「待てカレン、深追いするな!!
周囲と連携して基地を囲い込むことを優先しろ!」
ルルーシュはカレンにそう指示すると、カレンは悔しがったが指示に従った。
有利と見た黒の騎士団は、ゆっくりと基地を囲い込もうと動いていく。
「これ以上奴らを基地には近づけさせんぞ・・!発射準備は出来ているな?」
「しかし中将閣下、シュナイゼル殿下は黒の騎士団が基地を包囲するまで引き付けるようにとおっしゃっておいででしたが」
「これ以上奴らに包囲されては、こちらまで被害が来る可能性がある。
あちらが混乱した隙に、再度撃って出るのだ・・・撃てぇ!!」
黒の騎士団に包囲されてはかなわぬと焦ったベイは部下の諫言を無視し、シュナイゼルから預かった兵器を撃つよう号令した。
エーギル基地から赤く輝く閃光が放たれた時、まさに包囲を狭めようとしていたルルーシュ達は眼を見開いた。
「エ、エーギル基地より膨大なエネルギーを感知!!」
「流体サクラダイトじゃない!!これは・・!」
イリスアゲート・ソローのモニターに映し出されたエネルギー値に見覚えがあったアルカディアは目を見開いた。
そしてそのエネルギー値を見せてくれた少女の言葉が、走馬灯のようによぎる。
『ウランをいろいろ検証してみたのですが、水中ではその活動が鈍くなるようです』
『水をかければ暴走は止まるってこと?』
『いえ、かけるだけではたぶん無理ですね・・・エネルギー発生量に見合った大きさのプールの中に投げ込むとかしないと駄目です』
エネルギー発生装置に見合った大きさのプールを含めた施設はコストもかかるし必要とする土地もとんでもない広さとなるので、暴走防止システムには使えそうにないと、ニーナの溜息。
だからといって考えた別の暴走停止システムは複雑すぎるから、簡略化に努めているとも言っていた。成功すればそちらのほうがいいだろう、と。
「こ、こうなったらこれに賭けるしか・・・!全員今すぐ海へ入れ!!
死にたくない奴は全力で、今すぐにだ!!
私のバリアもこれには効かない!!」
力の限り叫んだアルカディアの指示に、ルルーシュも同じく全軍に命令する。
「ゼロ、瞬間的にあれだけの数値が出せるのはっ・・・!」
「ああ、解っている!全軍退避!!
水陸両用ナイトメアはすぐに海中へ!潜水タイプの艦艇は速やかに潜水せよ!
そうではない者は、至急戦線から撤退せよ!繰り返す、全軍後退!!」
ルルーシュとアルカディアのなりふり構わぬ命令に、徐々に膨れ上がっていくただ事ではないエネルギーを知った黒の騎士団は大急ぎで指示に従い始めた。
奇襲を想定して水陸両用型のナイトメアだった千葉と仙波の暁直三仕様が自分の隊を指揮しながら海中へ飛び込み、その機能はない斬月と朝比奈、卜部の暁直三仕様も全速力で戦場を離脱する。
カレンの紅蓮聖天八極式も攻撃力と機動力のために水陸両用にはしておらず、猛スピードで斑鳩の横に並走する。
斑鳩も海中に潜れるものの、自軍のナイトメアが避難するために次々に海中に潜っていくせいで着水が難しく、猛スピードで後退を始めて赤く光る光から逃れようと皆全力を費やした。
「ふははは、見ろあの無様な撤退ぶりを!!
あれが着弾したことを確認したのち、部隊を再編成し黒の騎士団を追撃・・・!」
「ベ、ベイ中将、あれはいったい・・・?」
オペレーターがモニターを見つめながら震える声で尋ねると、高笑いをしていたベイは眼を見開いた。
撃ち放ったそれは空中で静止し、くるくると回り始めてさらにそのエネルギー量を増幅させている。
そしてそれは突然爆発し、周囲を白く赤く染め上げた。
声すら上げられぬほどの、静かな閃光。
空と海を染め上げたその光が消えた時、黒の騎士団は絶句した。
水中に潜れないナイトメアの操縦者が脱出装置を作動させ、海上にはナイトメアのコクピットが次々に浮かび上がっていた。
だがある境目からある以降の海と空には、何もなかった。
海水が凪いでいるだけで、エーギル基地を包囲しようとしていた黒の騎士団の艦艇と、基地を守ろうとしていたブリタニアの旗艦の姿もない。
つい数秒前に上空で飛び交っていたナイトメアの姿があったとは信じられないほどだった。
何より全員を茫然とさせたのは、その兵器を撃ち放ったブリタニア陣営であるエーギル基地が存在した島が、跡形もなく消えていた光景だった。
「何だ、これは・・・?!」
何とかその閃光から逃れることに成功した斑鳩のモニターでそれを見つめていたルルーシュは、唖然としながらも各部隊に命じた。
「・・・被害状況を報告しろ」
「こちら藤堂、現在生存者は半数を確認。ただ朝比奈は・・・生存信号なし。
千葉と卜部の部隊はどうだ?」」
「こちら千葉です!卜部と仙波、生存を確認。ですが、海中への避難が遅れた部隊の四分の一がやられました。
戦闘続行は・・・不可能です」
皆戦意を完全に失っているという千葉に、無理もないとその報告を聞いた者すべてが思った。
他にも杉山の戦死が伝えられ、海中に潜れなかった艦艇の三分の一が消滅したとの報告が入った。
幸い整然とした隊列を組んでいたために撤退しやすかったものの、やはり時間が足りずにあの忌まわしい光に飲み込まれた者が多かったのだ。
四聖剣の部隊が基地に肉薄していたがゆえの被害の大きさで、カレンや藤堂達が逃げられたのは一重にスピードが上がっていたナイトメアの性能のお陰だろう。
「ゼロ、イリスアゲート・ソローの反応が見つかりません!
アルカディア様に通信を入れたのですが、返事が・・・!」
オペレーターの報告に、ルルーシュは眼を見開いた。
イリスアゲートはすべて、水陸両用だ。
指示を出した後アルカディアもクライスも海中に飛び込んだはずだが、何故連絡が取れないのだろう。
「海中に避難したイリスアゲート・フィーリウスはご無事のようです。クライス大尉から今通信が入りました!
ですが、脱出装置を働かせたナイトメアパイロットうち、生存反応が確認されたのは・・・その約半数です・・・」
脱出装置は周囲のエネルギー反応が一番少ない方向にコクピットが飛び出す設計になっている。
自動で働いた脱出装置はケタ違いともいえるエネルギー反応の真逆に働き、それが彼らの命を救うことになった。
だがクライスは本当に紙一重で助かっており、アルカディアとクライスがほんの少し前にいた基地近くの海上では、生存反応はゼロだった。
そう報告するオペレーターの声音がガタガタと震えており、聞いている者の背筋に悪寒が走った。
ほんの一瞬の差で生死が分かれるほどの兵器の威力を思い知ったからである。
アルカディアを探したい気持ちはあるが、今はそのような余裕などない。
海中に避難しているクライスが現在捜索に当たっているとの報告に、事態をエトランジュに知らせ、ギアスで連絡を取って居場所を聞き救助するのが一番だとルルーシュは判断した。
「・・・エトランジュ様にこのことをすぐにお知らせしろ。
だが、外部には指示があるまで国民に漏らさないように徹底することを忘れるな」
これだけの被害が出た以上いつまでも隠しきれるものではないが、世界がパニックになるのを避けるためにも慎重にならねばならない。
「全軍に告げる!追撃はおそらくないだろうが、念のため警戒にあたりながら速やかに撤退せよ!!」
「・・・承知」
力ない声でそう応じた藤堂は、四聖剣とともに撤退の指揮を始めた。
斑鳩の司令室で椅子に腰かけながら、ルルーシュはぎりぎりと唇を噛み締めた。
(やられた・・・!シュナイゼルめ、最初からこのつもりで・・・!)
まず第二次日本防衛戦で流体サクラダイトの爆弾を使い、それに目を向けさせる。
威力はそれなりに高い代物だから、当然黒の騎士団はその対策を立てる。
シュナイゼルが大量破壊兵器を造っていることをロイドが報告するだろうし、エトランジュにもダモクレス計画を話している以上、なおさらである。
だがそれは囮で、真に開発していたのが流体サクラダイトの爆弾など子供の玩具に思えるほどのこの兵器だったというわけだ。
無慈悲な豊穣の女神の名を与えられた史上最悪の大量破壊兵器、フレイヤ。
すべてを消し去る禍々しい光を脳裏に思い浮かべながら、ルルーシュは仮面の下で歯を噛み締めていた。
同時刻、神聖ブリタニア帝国首都、ペンドラゴンにある総軍務庁でも衝撃が走っていた。
「な、なんだあれは?!なぜエーギル基地のミサイルで、基地が消滅したのだ?!」
「使用法を間違えたのか?黒の騎士団に相当な被害を与えるのはいいが、我が軍の被害も同じ・・・いや、それ以上だぞ!!」
黒の騎士団はミサイルが撃たれた数秒後に蜘蛛の子を散らすように逃げ、アルカディアの一か八かの海中への避難命令が功を奏して被害は四分の一から三分の一あたりと言ったところだろう。
だがまさか自軍の兵器でやられるなど想像していなかったブリタニアの被った被害は大規模な基地がある島が丸ごと消失、駐留していた軍から何の応答もない。
その高機動力であの禍々しい閃光から逃げ延びていたのは、ジノのみである。
彼自身も何が起こったか解らない様子で総軍務庁に送る映像に、モニターを見つめていた軍人達は茫然と立ち尽くした。
「シュナイゼル殿下から送られてきた兵器が原因だ!至急皇帝陛下にお知らせしろ!!急げ!!」
「イエス、マイロード!!」
ジノの命令に総軍務庁の軍人達は慌てて宮殿へと緊急通信を入れる。
常ならば最優先で皇帝の執務室に繋がるはずだが何度やっても通じず、皆の顔に焦りが浮かぶ。
その報告を聞きながら、ジノはいったいブリタニアで何が起こっているのかと顔を青ざめさせ、一刻も早く戻らねばとトリスタン・ディバイダーを全速力でペンドラゴンに向けて飛んでいくのだった。