第三十二話 ロード・オブ・オレンジ
第二次日本防衛戦は、日本の勝利に終わった。
だがその被害は大きく、予定していたブリタニア大陸進攻は難しいと言わざるを得ず、後日行われた会議で満場一致で延期が決定した。
「ナイトオブラウンズ機体のトリスタンは破壊したとはいえ、当のナイトオブスリーは生還した。
しかも無傷のナイトオブフォー、さらにはあのナイトオブラウンズの長であるワンのビスマルクは健在だ。よってナイトメアの強化は必須と考える」
黒の騎士団本部の大会議室でルルーシュがそう提案すると、もっともだと皆頷いた。
「では技術部のラクシャータに一任する。
なお、なるべく早く軍の再建を急ぎたいのでランスロットの強化も認める。あれは今回伊予に墜落したとはいえ、機体の半分以上は無事だからな。
ナイトオブラウンズ機を圧倒出来るスペックになるなら、必要なだけ予算を出そう」
「いいんですかぁゼロ!もちろんやりますやります!
前から考えていた構想がありまして~、でもそれ経費がかかっちゃうんで断念してたところなんです」
やっとチャンス到来、すぐに計画書と見積もりを出しますとロイドは浮かれている。
今回の被害を考えるともはや過去の白兜のトラウマがどうこうと言っている場合ではないため、玉城でさえ複雑な顔こそしたが反対はしなかった。
浮かれるライバルを横目に、ラクシャータが確認した。
「紅蓮の強化ももちろんするんだろ、ゼロ?」
「当たり前だ、エースクラスのナイトメアは全て強化対象だ」
あのナイトオブシックスの強さを目の当たりにした黒の騎士団幹部達は、残るラウンズ達が彼女以上だったらという恐怖に駆られ、予算の増額はあっさり通った。
「斑鳩の完成は予定通りのようだし、伊予の代わりは問題ないだろう。
よって被害が大きいナイトメアを中心に再編を推し進める」
進攻の時期はその再編の進み具合を見てということが決まると、次は捕らえたナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイムに議題が移った。
通常ならば軍事裁判にかけた上で死刑、というのがナイトオブラウンズのようなブリタニアの高級軍人に対する措置なのだが、彼女はまだ十四歳の少女である。
日本ではその年齢に対して死刑は認められておらず更生施設へ送るという法律があったため、どうすべきかと意見が分かれているのである。
超合集国連合幹部もモニターで参加しており、彼らの間でも同じように議論が交わされていた。
被害が被害なので合衆国ブリタニア代表であるユーフェミアはうかつなことは言えず、せめて助命を願うくらいしか出来そうにない。
「やはりここは戦争が終わるまで収容所に移すのが妥当では?
その後は彼女の状態を見て判断、というのが無難かと・・・さすがに上の命令に従っただけの少女を処刑するのは、他国からの非難が免れない」
京都六家の当主にして日本内閣の外務大臣である宗像が、そう懸念した。
もちろん問題の先送りと解ってはいたが、様々な状況を鑑みると一番安心出来る手段であるのも確かだった。
だがアーニャ(正確にはマリアンヌだが)の恐ろしさを痛感していた黒の騎士団員は死刑は不適当であるのは認めるが、施設内に限定しているとはいえ自由に出歩かせることに難色を示していた。
「性能のいいナイトメアを動かすには、本人の身体能力が見合っている必要があります。
もし彼女が脱走を試みて暴れたりすれば、取り押さえられる者がいるかどうか・・・」
杉山が怯えたように意見を述べると、処刑はしないことで意見はまとまったがどの程度の拘禁で済ませるかというのが問題になった。
現在、あの驚異的な強さを目の当たりにしたせいか牢に入れたアーニャに誰も近づきたがらず、仕方なく二人の団員にギアスをかけて見張りと食事の世話などをさせている。
そしてその当のアーニャはというと、気がついたら厳重に手錠をかけられて黒の騎士団の牢に閉じ込められている自分の状況に唖然となった。
どうして自分はこんな所にいるのかとベッドの上に座って考え込んだが全く思い出せず、いつも持ち歩いていた携帯も取り上げられて一人牢の中で泣いていた。
「・・・見張りからの報告によると、現在彼女は酷く情緒不安定な状況のようだ。
よって収容所の一室に軟禁、見張りつきで散歩等を許可する形にしようと思う」
年齢を考慮して通信教材による勉強や彼女が望む本などの差し入れという少し条件の厳しい軟禁というルルーシュの案に、宗像は賛成した。
「それがいいでしょう。期限はブリタニアとの戦争が終結して落ち着いてから、その後は段階を経て保証人をつけて釈放という形にするのが理想と考える」
まったくもって気の毒だが、こうしてアーニャはブリタニア捕虜収容所の一角に軟禁されることが決定した。
会議が終了するとカレンを従えたルルーシュは、ユーフェミアとスザク、ダールトンを伴って別室に入ると、アーニャについて話した。
押収したアーニャの携帯にルルーシュの写真まで持っているにも関わらずアリエス宮にいたことを忘れているアーニャを見て、ブリタニアに記憶操作の技術があったことを思い出したユーフェミアがルルーシュに相談して来たからだ。
「・・・君には言うまいと思っていたんだが、アリエスの悲劇の真実を伝えようと思う。
余りにバカバカしいことだったから、言いたくなかったんだが」
ユーフェミアも多忙な中余計な心労を負わせたくなかったが、妙な形できっかけを得てしまった以上やむを得ないと、ルルーシュはコーネリアと同じ説明を彼女に伝えた。
ブリタニア皇帝である父・シャルルの計画と、それに母マリアンヌが賛成していたこと。
その計画を遂行するためにしていた実験と、生きていたあの男の双子の兄の嫉妬と暴走による悲劇だったと言うルルーシュに、一同は言葉を失った。
道理でルルーシュが誘拐された時見た子供に既視感があったわけだと納得したユーフェミアは、ダールトンに確認する。
「・・・本当に人体実験なんて恐ろしいことをしていたのですか、ダールトン」
「はい、実験の適合体として、例のオレンジことジェレミア・ゴッドバルドをシュナイゼル殿下の研究機関に送ったこともあります」
ブリタニア皇族が斜め上の思考をすることはよく知っていたが、さすがにその発想はないだろうと呆れていたカレンは、ふと気付いた。
「えっと、話を聞いてるとあのラウンズのアーニャはアリエス宮にいたはずなのに、それをあんた達は憶えてないってことよね?
それとアリエス宮の悲劇と関係してるってことは、あの子が犯人・・・いやそれはないわね、手引きしたとかそんな感じかしら?」
「ああ、ブリタニアに記憶操作の技術があるというのは知っているな。
だから当時のアーニャを知る者すべてにそれを行ったんだろうが、一度会っただけのダールトンまでは手が回らなかったようだ」
ルルーシュが誘拐された時に記憶を操作してアッシュフォード学園に戻し、C.Cを捕獲する作戦を立てていたことを知っていた一同は、その恐ろしさに背筋を凍らせた。
記憶と言うのは自分のこれまでの積み重ねなのだから、それを無理やり変えられるというのは自分を歪められたも同然だ。
特に自分の記憶が操作されているのだと知らされたユーフェミアの顔は、見ていて気の毒なほど青ざめている。
「手引きと言うのは年齢的にも難しいだろうから、現場を見た目撃者だったというのが一番可能性が高いだろう。
その後記憶を消してラウンズとして手元に置いて監視した・・・と考えるのが妥当だな。
おそらくだがその後遺症だろうな、自分が何をしたか憶えていないと言うのは・・・現にたびたび記憶が途切れることがあると言っていたし、頻繁に携帯で自分の行動を記録していた理由も納得がいく」
実際はマリアンヌのギアスにより身体を乗っ取られたせいなのだが、前情報を得ていたこともあって辻褄の合った話に皆納得した。
「どこまでも勝手なことを!!アールストレイム卿も気の毒だわ。
私も他に何を忘れさせられているかと思うと・・・!」
どこまで外道なのかと己の実父を憎悪するユーフェミアは、アーニャも被害者だと自分が引き取ることにした。
「彼女が釈放される時には、私が保証人を引き受けましょう。
記憶が戻る手段が見つかればいいのだけれど・・・」
「解った、俺も根回しをしておこう。
それとそれに関連する話なんだが、ロロがいた秘密組織があるのは知っているな?
例の実験を行っているのもそこなんだが、近日中にその組織を壊滅させる手筈になっている。
もしかしたら、記憶を元に戻す手段が見つかるかもしれない」
「その組織のことは聞いていたけれど、なるほど解ったわ。その組織はどこにあるの?」
「合衆国中華だ。太師様にもその旨を前々から伝えて、やっと捜査の許可が下りたからな。
証拠隠滅を行われてはたまったものではないから、この件は誰にも言うなよ」
一同が了承すると、ルルーシュはカレンに言った。
「まだゴタゴタしているがそれにカタをつけ次第、中華へと向かう。
だが君を連れて行くと目立つから、今回は日本にいてくれ」
カレン=ゼロ親衛隊長というのはすでに周知の事実なので、彼女が中華に来ると当然ゼロもその場にいることになり、ブリタニアに悟られる恐れがあるという説明に、カレンは渋々納得した。
「解ったわ、紅蓮の強化に私の身体データを取る必要があるし、お父さんにまた心配かけちゃうしね。
それにしても、ブリタニア皇族の考えることってほんと訳解んない」
他人をなんだと思っているのか理解に苦しむと言うカレンに、さすがにダールトンも皇帝に対しておぞましさを抱いていた。
何しろ主君だったコーネリアにさえ記憶操作をしていたのはほぼ間違いないのだから、それも合わせて忌々しさを感じている。
ユーフェミアも己の記憶が弄られているという事実に気持ち悪くなり、同時にあの魔窟と判明したブリタニア宮殿から出た己の判断は正解だったと改めて実感した。
日本を解放した日、ルルーシュから事実を聞いたというコーネリアが自害したのも無理はない。
世界各地で侵略し多大な怨恨と憎悪を買っていた姉はあそこでしか生きていけないというのに、その宮殿が全ての不幸を生み出していると知らされたのだから。
「・・・あんな馬鹿げた計画のために、お姉様は」
「ユフィ・・・」
「本当にナナリーの言った通りね。確かに駄目親父だわあの人は」
ユーフェミアは疲れた声でそう呟くと、ダールトンに命じた。
「ダールトン、私の方にもその資料を持ってきなさい。よろしいですね」
「・・・イエス、ユア マジェスティ」
否を許さぬ声音で命じたユーフェミアに、ダールトンは深々と頭を下げて了承する。
初めて皇帝のみに使う言葉を使ったダールトンに、ルルーシュは驚いた。
だが大きく成長を遂げた彼女ならあの最低な父親の愚行を正し、新たなブリタニアを創ることが出来るだろう。
そう確信したルルーシュはそのためにもギアス嚮団を潰し、さらにあの父親の計画の要となっているコードを早急に奪わねばと誓いを新たにする。
まだコードを奪える達成人になっている者はいないが、自分を含めて暴走している者はいるのだから、それも時間の問題だろう。
まずはV.Vを確保してC.Cがされていたようにカプセルに閉じ込めるなり、アーニャ以上に厳重に監禁するなりしておこう。
ついでにシャルルも処分できれば上々だ。
ルルーシュはそう考えを巡らせながら、ルルーシュがいない間自分達がすべきことについて協議しているユーフェミアとスザクとカレンを見つめていた。
その頃、横浜港に一隻の船が中華から入港した。
届けられた物資を船員達が積み込んでいく隙を狙って、一人の男が港から人目を避けるようにして出て行った。
「久しぶりだな、エリア11は・・・」
自分が辺境伯としてこの地の統治に尽力していた時からまだ一年も経っていないというのに、日本人が大手を振って歩きブリタニア人の姿が珍しいものとなっていた。
この状況にジェレミアは事前に聞いてはいたものの、驚きながら街を歩いて行く。
(ヨコハマからトウキョウ租界まではモノレールだな。
まだブリタニア通貨が使えると聞いていたから切符を買わねばならんのだが・・・)
V.Vがまとまった資金を渡してくれたし、船員が東京までの行き方を教えてくれてはいたものの、貴族育ちの彼はこれまで自動販売機で切符を買ったことなど一度もない。
というより公共機関を利用することさえ初めての経験である。
(何故こんなにボタンがあるのだ?グリーン席とはなんだ、自由席とはどう違うんだ? さっぱり解らん)
自動発券機の前でジェレミアは考え込んだが、プライドにかけて他人に尋ねることは出来ずにひたすら唸り続けた。
そして五分後に不審に思った駅員に声をかけられ、ようやく窮地を脱することに成功して無事モノレールへと乗車する。
(トウキョウへ到着したら、アッシュフォードに向かおう。
あそこは今ユーフェミア皇女殿下について元通り学園を運営しているとのことだし、ルルーシュ様は無理でもナナリー様がいらっしゃるかもしれない。
お二人に会って何としても事実を確かめねば・・・!)
ジェレミアが決意を改めて固めながら窓の外を見つめていると、工事をしている日本人の姿が見えた。
自分達が治めていた時は怯え、動作も緩慢だった彼らの顔には笑顔が浮かび、楽しそうに作業に従事していた。
たまにブリタニア人も作業に加わっていたがかつて自分達がしていたように、日本人が辛い仕事を押し付けている様子はない。
ジェレミアは目を閉じると、機械が埋め込まれている自分の左目を押さえた。
かつて自分が日本人に押し付けていた運命が来たと否が応にも解る、機械の感触。
自嘲の笑みを浮かべたジェレミアは、ただ窓の外を見つめていた。
東京駅に着いたジェレミアは、多少迷いながらもアッシュフォード学園へと到着した。
途中図書館に寄ってインターネットで情報を集めたところ、アッシュフォード学園は日本人を受け入れる準備を推し進めており、日本人教師を募集しているようだった。
(だがブリタニア人の生徒は半数が本国に戻ったとある。
ルルーシュ様とナナリー様の安否は解らなかったから、直接向かうしか)
しかしさすがに出入りが厳重である。校門には警備員がおり、力ずくで入ればたちまち調査どころではなくなるだろう。
と、そこへ驚いたような女性の声が響き渡った。
「・・・ジェレミア卿!?」
久々の懐かしい呼ばれ方にジェレミアが振り向くと、そこにいたのは髪を長く流してすっきりしたワンピースを着ていたかつての部下のヴィレッタだった。
ずいぶん印象が違っている部下の姿と、まさかまだ日本にいたとは思わなかったジェレミアは驚いた。
「ヴィレッタか。久しいな」
「ええ、私もまさかここでジェレミア卿にお会い出来るとは思いませんでした。
あの、差し支えなければ教えて頂きたいのですが、何故ここへ?」
もっともな質問を投げかけられたジェレミアはまさか正直に答えるわけにはいかず、ただこれだけを答えた。
「アッシュフォードに確認したいことがあってな。
だが私はすでに公式には死んだとされている身だから、どうすべきか悩んでいるところだ」
「確認すべきこと・・・・まさか、ゼロの正体についてでしょうか?」
ヴィレッタが恐る恐る確認すると、ジェレミアは眉を動かした。
やはり、とヴィレッタが確信すると、かつての上司に彼女は現状を訴えた。
「実は私、ナイトオブラウンズのジノ・ヴァインベルグ卿と連絡を取ることに成功いたしまして、ゼロの正体を伝えたのです。
シュナイゼル殿下にお伝えすると仰って頂けたはいいものの、その後連絡が取ることが出来ず、最近になってやっと指示が来たのです。しかも光栄なことに、皇帝陛下からのご命令だったのです」
そう言ってヴィレッタがコピーしたルルーシュの写真をジェレミアに見せると、彼は目を見開いた。
「・・・間違いなく、この少年がゼロなんだな?!」
「はい、正体を突き止めたところに妨害が入って撃たれたためにコーネリア殿下に報告することも出来ず・・・ふがいない限りです」
何も知らないヴィレッタが頭を下げるが、ジェレミアはそれどころではなかった。
(おお、マリアンヌ様によく似た面差し、間違いなくルルーシュ殿下だ!マリアンヌ様の御子息が生きて・・・!
私はご生存に気づかず、何ということを!!)
アッシュフォードは生存を信じてルルーシュとナナリーを探して保護し、彼らを守るための箱庭としてこの学園を造ったのだろう。
それに比べ死んだという報をあっさり信じて諦めた自分は、何という不忠者であったことか。
「・・・それで、今ここにこの少年はいるのか?」
「いえ、私が調べた限りでは彼は生徒会の副会長をしていたようですが、今はおりません」
「そうか・・・そうであろうな」
あからさまにがっかりしたジェレミアに、ヴィレッタは慌てて言った。
「ご安心ください、今私がスパイとして入り込んでいるのは黒の騎士団の幹部ですから、情報も手に入りやすく・・・運良くその男はこの学園の理事長の娘と知り合いになれたらしいので」
どうやらヴィレッタは、ゼロの正体であるこの少年の素性までは知らないらしい。
それ故ジェレミアはルルーシュに対して害意を抱いているヴィレッタを引き離そうと、探りを入れた。
「皇帝陛下からのご命令とはなんだ?」
「はい、ゼロと繋がりがある生徒会のメンバーを捕えてゼロを誘き寄せる作戦です。
ゼロの正体を知った私を撃ったのも、この生徒会に所属する娘でしたから」
じきに潜入に成功した皇帝の機関の者が学園から出てくるはずだと言うヴィレッタに、ジェレミアはアッシュフォード学園を見て尋ねた。
「しかし、どうやって生徒会の者達を誘き出すのだ?」
「近々行われる弁論大会の打ち合わせに、彼らが参加するという情報を得ました。
今迎えの車を装った者達が、学園に入ったところですので」
「・・・そうか」
そこまで聞けば充分、とジェレミアは速やかにこのことをアッシュフォード学園の生徒会の者達に告げ、彼らを守ることにした。
そうすることが自らが忠義を捧げるべきルルーシュを守ることになるのだから、たとえ皇帝の策であろうとも覆すことに迷いがなかった。
「ジェレミア卿、これはチャンスです。国賊ゼロを捕らえることが叶えば我々は再び純血派を立ち上げ、元通りの地位・・・いやそれ以上の爵位を賜ることは間違いありません。
シュナイゼル殿下はもちろん、皇帝陛下もこの功を高く評価して下さっているとのことです。現にこの作戦に皇帝陛下直属の機関の者がいらしているのです。
再び我々がかつてのブリタニアをこのエリア11に取り戻し、君臨するのです!!」
扇への未練を振り切りたいヴィレッタは自身に言い聞かせるように興奮した口調で語るが、ジェレミアはそれを冷めた心で聞いていた。
かつての自分ならばそのとおりだと同調したであろうが、祖国に見捨てられ改造されるという、落ちるところまで落ちた弱者となって初めて彼らの心情を知り得たジェレミアには響かなかったのだ。
(あの方も祖国に見捨てられた。だからこそゼロとなりブリタニアの崩壊を目指したのだろう。
今の私には貴方様のお気持ちがよく解ります、ルルーシュ様)
このままではルルーシュはヴィレッタによって軍人達に、ひいてはシャルル皇帝に引き渡されることになるだろう。
そうなればブリタニアの皇子がゼロであったことを隠したい皇族の手により、ルルーシュは今度こそ殺されてしまうかもしれない。
(それだけは何としても阻止しなくては!!
このジェレミア・ゴッドバルド、一命に代えても今度こそ全力でお守り申し上げます!!)
もはや一刻の猶予もないと判断したジェレミアは、さりげなくヴィレッタとの間に間合いを取った。
「ヴィレッタ、貴公に話したことがあったな、私が果たせなかった忠義を」
「ええ、初任務でマリアンヌ様をお守り出来なかったことを今も悔やんでいると・・・」
それがどうしたのかとヴィレッタが首を傾げた瞬間、彼女の首筋に手刀が叩きこまれた。
「私はその忠義を、今度こそ果たさねばならん。
ましてやブリタニアではなく自身の栄達のために動くような者に、ルルーシュ様を渡すわけにはいかぬ・・・許せ」
国是からすればヴィレッタは立派なブリタニア軍人だと言えなくもないが、今のジェレミアにとっては忠義を誓うべき相手に危害を加えようと企んでいる者でしかない。
気絶させたヴィレッタを抱え込んだジェレミアは、ためらいなくアッシュフォード学園の校門に足を踏み入れた。
「入門希望者ですか?ご用件とお名前をお聞かせ下さい・・・と、そちらの方は病人ですか?でしたらすぐに救急車をお呼びしますが」
「私はジェレミア・ゴッドバルドと申す者だ。至急生徒会の方々にお会いしたい。
お会い出来なくともいい、ここから出ないようにお伝えしてくれ!急げ!!」
突然の要求に門衛は驚いたが、はいそうですかと実行に移すわけにはいかず、かといって追い返していいのかと判断がつきかねている。
だが一応生徒会室に話を通そうと門衛が内線で連絡を入れると、出たのはまさに迎えの車の元へ行こうとしていたミレイだった。
「はーい、こちらアッシュフォード生徒会室です」
「あ、ミレイお嬢様。今見知らぬ男が現われて、ここから出るな、今迎えに入ったのは誘拐犯だとかなんとか言っているんですが・・・」
通報した方がいいですかね、と困惑している門衛の報告に、ミレイは眉をひそめた。
「誰かしら、その人・・・映像を回してくれる?」
「はい」
眉をひそめたミレイがパソコンで監視カメラの映像を繋げると、そこにいたのはテレビで見たことのある男と彼に抱きかかえられた見知らぬ女であった。
「あれ、ちょっと顔が変わってるけど確かオレンジ事件のジェレミアって軍人に似てませんかあの人・・・。
あの事件以来どっか左遷されたとか報道されたきりだけど、まだ日本にいたんですかね?」
リヴァルが画面を覗き込んで首を傾げると、シャーリーもそれに続いて顔を青ざめさせた。
「あ・・・あ・・・あの人・・・・!!」
「どうしたの、シャーリー。あの人知ってるの?」
「あの男性が抱いてる人、ルルがゼロだってことを突き止めた軍人です!!
私が撃ったの、あの人なんです!!」
ジェレミアに抱えられているヴィレッタの姿を見て生きていたことに驚き床に座り込むシャーリーに、ミレイとリヴァルは顔を見合せた。
「・・・どういうこと?あの二人がグルってことかしら?」
「でもあの女の人、気絶してますよね?
シャーリーに見られたら困るのは俺でも解りますから、グルだってんなら彼女を連れて堂々と来ますか?」
「シャーリーがもう本国に戻っていたと勘違いしていたとしたら?」
可能性を考えればキリがないと二人は大きく溜息をつくと、ミレイはまず打ち合わせ会場に迎えを出したか確認することにした。
「もしもし、こちらアッシュフォード学園生徒会のミレイです。
あの、今ここにそちらの迎えと称する方々が二名来られたのですが・・・ええ、何でもまだ治安不安定なところがあるからとのことで・・・そうですか、解りました。
はい、すぐにこちらで対処いたします。ありがとうございました」
ミレイが苛立った顔で受話器を置くと、どうだったかと視線で尋ねる二人に答えた。
「迎えなんて出してないそうよ。
やっぱりあの人の言ってることが正しいと見るべきでしょうね」
実際未遂に終わったとはいえ似たような前例があったことを思い出した二人は、報告があってよかったと心底安堵した。
「・・・これはすぐにルルーシュに知らせた方がいいっすね。
あの二人はどうします?」
「わ、私がルルの極秘電話にかけます!」
我に返ったシャーリーが自分の携帯電話を取り出してルルーシュにかけると、すぐにルルーシュが出た。
「シャーリーか、どうした?何かあったのか?」
「ルル、大変なの!実はね・・・」
シャーリーが事情を説明すると、ルルーシュはどういうことだと舌打ちした。
自分がかつて屈辱の極みを与えたオレンジことジェレミアが何故かシャーリーが撃ったヴィレッタを気絶させて乗り込んできて、自分に対する餌として生徒会のメンバーを捕えにきた者達の企みを阻止しに来たと言う。
さすがのルルーシュも、いったい何が起こっているのかと判断がつきかねた。
(会長の話だと、打ち合わせの会場では迎えなど手配していないと言う。
ならばその迎えとやらは確かに怪しいな・・・)
ルルーシュはミレイに電話を変わるように言うと、電話に出た彼女に指示した。
「その迎えに来た二人を礼拝堂にでも閉じ込めてしまえ。
ミレイ、例の隠し通路は知っているな。万が一の時はそこから逃げるんだ。今カレン達を迎えにやる」
命令口調で言われるとミレイは会長と副会長ではなく、主君と臣下になってしまう。
「解りました。すぐに手配します。ですが、知らせてくれた方はどうします?」
「オレンジって、スザクをお前に渡したことで左遷された奴だよな?お前の部下だったのかやっぱ?」
リヴァルの問いになるほどと納得した面々に、ギアスを説明する訳にはいかないルルーシュはあいまいに答えた。
「・・・まあ、いろいろ事情があってな。
そのオレンジとヴィレッタも同様に礼拝堂に放り込め」
「解りました。何とかやってみます」
ミレイが了承して電話を切ると、さっそく二人に向かって言った。
「というわけで、黒の騎士団アッシュフォード支部の任務よ。
今日来た招かれざる客人を礼拝堂に閉じ込めるの。こっちに来るカレン達に引き渡すわ」
「ルルの正体を知ってる可能性が高いもんね・・・どうやって礼拝堂に案内するの?」
「大丈夫、ルルちゃんからちゃんと方法は聞いたから。あのね・・・」
ごにょごにょとミレイが二人に伝えると、二人は真剣な顔で頷いた。
アッシュフォード学園の玄関前にいた迎えの男女の二人組は、すぐに来ると言ったのになかなか来ない生徒会の者達に苛立っていた。
「遅いな、もう二十分も経ってるのに」
そうぼやいたのは、機密情報局員の男だった。
「まさか、気づかれたかな?」
「もしそうなら、力ずくになるわ。かなり厳しい状況になるから、一度引き上げた方がいいかもしれないわね」
男の懸念に、女がそう答えた。
ここは黒の騎士団のお膝元なのだ。騒ぎになれば明らかに自分達が不利である。
と、そこへ用務員をしているフェネットが、申し訳なさそうにやって来た。
「すみませんお待たせして!
実は生徒会役員の一人が床の穴に足を挟んで動けなくなったとかで、騒ぎになっているんです。
なので申し訳ありませんがもう少し待って頂けませんか?」
「え・・・」
「今から私も用具を持って助けに行くところなんですが、その前にお待たせしている皆様を応接室へ案内するようにと、生徒会長から申し付かっております」
ぜひこちらへ、と急いで応接室に案内しようとするフェネットが歩き出した刹那、彼のポケットから携帯電話が鳴り響いた。
「あ・・・ちょっと失礼」
娘からの着信音に、フェネットが無礼を承知で携帯電話に出る。
「どうしたシャーリー、ルルーシュ君の足が抜けたのか?それとも何かあったのか」
「?!」
フェネットの台詞に、二人は敏感に反応した。
(陛下がおっしゃっていたゼロの正体の少年の名前だな。まさか、ここにいるのか?)
フェネットはいきなり娘から『ルルーシュが床に空いてた穴に足を突っ込んじゃったの。何とかして抜こうとしたけど駄目だから、何か道具持って来て』と言われた時は驚いた。
だが同時に傍にいたミレイから『血も出てないし大丈夫よ。その前に今私達を迎えに来てくれる人がいるから応接室で待ってて貰って』と言われたので大したことはないと思っていたのだが、青い顔をするほど娘は心配で仕方ないらしい。
「・・・何だ、そう怒鳴るな。何、まだなのか。だから用具を早く持ってこい?解った解った。
迎えの人達を応接室に案内してからすぐに行くよ。そう怒るな、では」
何故か首をかしげつつ電話を切ったフェネットを見て、男は小さく笑みを浮かべた。
(確かヴィレッタ・ヌゥの報告だと、シャーリーと言う娘はゼロのガールフレンドだとか言っていたな。
それにはっきり聞こえたし・・・『ルルの名前は出さないで!』と)
機密情報局に所属しているだけあって男は聴覚も人よりかなり優れているし、電話相手の少女は怒鳴っていたのでとてもよく聞こえたのである。
(罠かアクシデントか・・・もし後者ならうまくやればゼロを捕らえられる!)
「すみませんなお待たせして。ではこちらに・・・」
「よろしければ私達も行きましょうか?これでも私は元軍人で衛生兵をしていましたから、お役に立てると思いますよ」
男がそう嘘をついて申し出ると、フェネットは確かに怪我の処置がまずいとあとあとよくないと思い娘に連絡しようとした刹那、ふと視線を感じた女は失敗を悟った。
「いえ、大変そうなので私達は一度戻ります。改めて連絡するということでよろしいですか?」
「え?あ、はい、そうお伝えしておきますが」
フェネットがそう応じると、せっかくのチャンスを何故、と視線で訴えてくる男に女は小さく囁いた。
「後ろを見なさい、生徒会のメンバーが見張っているわ。
気づかれたのよ、今回の作戦は失敗ね」
隠れているつもりだろうが、しょせん素人である。その道のプロである機密情報局の二人にはバレバレの監視だった。
玄関ホール近くの壁際で緊張した表情のリヴァルは気付かれていることに気づかず、二人が無事に礼拝堂まで来るかを見張っていた。
(誰か一人だけでも、ゼロの餌を確保しなくては・・・!)
皇帝から無能呼ばわりされたくない男がリヴァルに目をつけると、フェネットについて玄関から出た瞬間、運転手はリヴァルの腕を掴んで引き寄せた。
「うわっ!!」
「バレバレの見張りだな。我々と一緒に来て貰おう」
「リ、リヴァル君?!」
「は、離せ!!」
リヴァルは懸命に逃れようと暴れたが、軍籍に身を置いている者の腕力に敵うはずがない。
無理やりリヴァルを車に押し込める男の勝手な行動に女性は舌打ちしたが、もはや止めるわけにはいかない。運転席に乗り込んで、無理やり車を発進させた。
「だ、誰か門を閉めろ!!リヴァル君がさらわれた!」
フェネットの絶叫に通りすがった生徒達も突然の誘拐劇に驚き、猛スピードで走る車に悲鳴を上げる。
既に門はミレイの指示で閉じられているが、学校の外には別の車があるので門の前で車を降りて学園を出れば、乗り換えることが可能だ。
「・・・私があの車を止めよう。捕まった生徒の保護を頼む」
誘拐されたという絶叫が聞こえたジェレミアはそう門衛に頼むと、ヴィレッタを寝かせて暴走する車のボンネットに飛び乗った。
「きゃ!!」
慌てた女が急ブレーキを踏むと、ジェレミアはさっさと降りて後部座席のドアを無理やり開け、唖然としているリヴァルに向かって叫んだ。
「早く降りるのだ!この者達は私に任せよ!」
「は、はい!!」
リヴァルが慌ててつんのめるようにして後部座席から降りようとするが、男は制服の襟首を掴んで離さない。
ジェレミアは無言で男の腕に隠し持っていた剣を突き刺すと、彼は悲鳴を上げて手を引っ込めた。
「う、うぎゃあ!!貴様ああ!!」
その隙にリヴァルはやっと男から解放され、駆け寄って来た警備員達に保護された。
「まさか最後の最後で、邪魔が入るなんて」
「・・・あの方を渡すわけにはいかない」
ジェレミアは運転席から出て相対する女にそう告げると、剣を構えた。
「お前は確か、オレンジだな!!どういうつもりだ貴様!!」
ジェレミアに見覚えのあった男が、刺された腕を押さえながら怒鳴りつける。
以前なら過剰に反応したはずのジェレミアはそれを無視して、かろうじて逃げることに成功したリヴァルに向かって言った。
「貴公は速やかにあの方に連絡して、この事態をお知らせするのだ。
あの二人は皇帝直属機関の配下の者だ、うかつな人間では手に負えぬ」
「わ、解りました。すぐに伝えます」
リヴァルは騒ぎを聞きつけて来たミレイとシャーリーとともに、緊急事態用のルルーシュの携帯に電話をかけた。
数度のコールの後に電話に出たルルーシュに、慌てて事の次第を報告する。
「悪い、奴らを礼拝堂に閉じ込めるのに失敗した!今オレンジが取り押えてくれるって言ってくれたけど、それが皇帝直轄機関の連中だって・・・!」
「な、何だと?!遺跡は封鎖したが・・・ち、密入国ルートを作って入って来たな」
やられた、とルルーシュが歯噛みしたが、今はそれどころではない。
カレン達に急げと指示を出すくらいしか出来ないが、後は彼らにアッシュフォードに来た闖入者を捕まえて貰うしかなかった。
わらわらとやって来た警備員に囲まれ、男と自分ではさすがにギアス持ちといえども分が悪いと女は焦っていたが、男はジェレミアに向かって飛びかかった。
「この裏切り者が!!」
「む・・・?」
行く手を阻んだジェレミアに向かって、男が銃を構えた。
そして左目に赤く羽ばたく紋様を浮かび上がらせる。
(俺のギアスは“自分と同じ行動を取らせるギアス”だ!これで貴様の足は動けまい!)
男はギアス嚮団の出身者で、彼もまたギアスを持っていた。
その能力は視線を合わせている間、対象者はギアス能力者と同じ行動を鏡に映っているかのように取らせるものだ。
地に足をつけて銃を構えている自分と同じ行動を取ったところで相手は銃を持っていないのだから自分が撃たれることはないし、相手は避けることも出来ない。
そのはずだったがジェレミアはすぐにギアスキャンセラーを発動し、それを無効化してしまった。
「私にギアスは通じない。残念だったな」
「何?!」
ジェレミアは難なく銃弾をよけると人間とは思えぬスピードで走り寄り、油断していた男が手にしていた銃を剣で落として腹を思い切り蹴った。
「がはっ!!」
胃液を吐いて倒れた男を蹴り倒したジェレミアは、続けて女に向けて剣を突き付けた。
「・・・大勢だと警戒されるから、二人だけで来たのが失敗だったわね」
一応見張りとしてヴィレッタを置いていたのだが、旧知の人物は無警戒だったと見える。
それに・・・。
「貴方、V.V様がおっしゃっていたギアスキャンセラーの人ね。
どうしてそれが私達の邪魔をするのか解らないけど・・・」
どうせ聞いても答えまいと冷静に考えている女の視線の先には、ルルーシュの報告を聞いてすっ飛んできたカレン率いる数人の騎士団員がいる。
人が通れるだけ開かれた門から、銃を構えつつ続々と入って来た。
その中には扇もいて、妻がアッシュフォード学園の近くに用事があると聞いていたことを思い出し、慌てて出動したカレンから話を聞いて同行を申し出たのである。
さらにナイトメアポリスが載せられているであろうトレーラーもこちらに向かっているのだが、まだ到着していない。
ギアスキャンセラーが敵に回った以上、自分もギアスが使えない。
もはや逃走は出来ないと悟った女は観念すると、持っていた毒薬を口に含んだ。
女は物心ついた日からこの日まで、ギアス嚮団の道具として育てられた。
過去幾多の者達が使い捨てられてきたか、彼女はよく知っている。
自分自身、失敗したり捕まったりした仲間を殺したこともあった。
だから仲間の手間を省くために、自ら死を選んだのである。
突然倒れた女を見てやっと彼女が服毒したことに気づいた唖然としているカレンを見て、ジェレミアは、何をしているのかと舌打ちして叫んだ。
「何をぼうっとしている!すぐに手当てをすれば助かるかも知れん。
背後関係を洗うためにも、生かして捕らえるべきであろう!」
もっともな指示に我に返ったカレンが連れて来ていた騎士団員に二人の手当てを指示すると、彼女はリヴァル達の元に走り寄る。
「みんな大丈夫?けがはない?!」
「ああ、カレン・・・!大丈夫、リヴァルがちょっと身体を打っただけみたい」
ミレイが答えると、カレンも大きく安堵の息を吐いた。
「よかった・・・!とりあえず事情聴取とかしなきゃいけないから、騎士団本部に来てくれる?口裏合わせとかお願いしたいんだけど・・・」
「解ったわ、すぐに行く。それにしても、こんな直接的なことするなんて・・・」
ミレイがリヴァルの腕を肩に回して立ち上がらせると、カレンも手伝った。
「ブリタニア人のテロってことになると思うけど、またブリタニア人に対する偏見とか出そうでやだな」
「その心配はないぞ、カレン」
カレンがそうぼやくと、響き渡った聞き慣れた声にカレン達は驚いた。
「幸いこの現場を見ていた者達は少ないから、麻薬の常習者が起こした事件、ということで表面的に片をつける。
薬を飲んでいるところも目撃されているから、それで何とか話がつくだろう」
麻薬常習者の男女が麻薬を手に入れる資金欲しさに名門校の生徒の誘拐を企てたという形にして話をごまかすというルルーシュに、それはいいが門衛とオレンジはどうするのかとミレイが尋ねた。
「でも門衛さんはあのジェレミアって人から話を聞いちゃってるわ。どうするの?」
「俺が何とか黙って貰えるように説得しておいた。アッシュフォードの名誉と風評に関わることだからと言ったら、了承してくれたよ」
もちろん門衛にギアスをかけてのことだが、さすがルルーシュとカレン達は納得した。
「解った、何とかやってみるねルル。ところでどうやってここに来たの?」
シャーリーの問いかけに、ルルーシュはカレンとは別ルートを使い、隠し通路を通って来たと答えた。
カレンがまた騙したなと膨れたが、敵をごまかすためなら仕方ないと理解したのでそっぽを向くと、視線の先にはジェレミアに近寄る咲世子がいた。
耳にはイヤホンがつけられており、ルルーシュの指示が伝わるようになっている。
メイド服を着てはいるが臨戦態勢を整えつつ咲世子がゆっくりとジェレミアの前まで来ると、ジェレミアは持っていた剣を床に落とした。
「・・・私はどうしてもあの方にお会いして、確認したいことがあるのだ。
取り継いでは貰えないだろうか」
かつてイレヴンと侮蔑していた日本人に向かってジェレミアが頭を下げるのを見たルルーシュは、咲世子に命じた。
「・・・礼拝堂まで連れて来い。妙な真似をすればその場で捕らえるか、無理なら始末しろ」
「承知いたしました。
・・・ジェレミア・ゴッドバルド卿ですね。お許しが出ましたので、主の元へご案内いたします」
「・・・感謝する。それと、この件に加担したヴィレッタだが、そこに・・・いない?!」
ジェレミアがヴィレッタを引き渡そうと彼女を寝かせた場所に目を向けると、どさくさ紛れに逃げたのか、彼女の姿がどこにもなかった。
「気絶していたと思いこんで、拘束しなかったのがまずかったか・・・」
あの時車を止めることに集中して、彼女のことは綺麗に忘れていたのが災いした。
「申し訳ない・・・あの方にはお詫びのしようも・・・」
せっかくルルーシュに引き渡すべき人間を捕らえたと言うのにみすみす逃したミスに、ジェレミアは腹でも切りたくなった。
「・・・その件は後で伺いましょう。とにかくあの方の元へどうぞ」
「了解した」
ヴィレッタが逃げたと知ったシャーリーは、また彼女が生きて自分達を狙うのではないかと青ざめている。
門衛の詰所から監視カメラを確認すると、カレンが来るのと前後して目が覚めた彼女が慌てて門のほうへ逃げていくのが解った。
「あっちには黒の騎士団員の人達が来てるのに、何で逃げられたのかなあ?」
「うまく口先だけでごまかしたのかも・・・後で扇さん達に聞いて確かめてみるわ」
シャーリーの疑問にカレンが忌々しげに答えると、意地でも探してやると指を鳴らした。
「一人残らず今度の件に加担した連中を捕まえるから、それまで学校から出ないでね。
ルルーシュがゼロ番隊の人を数人、アッシュフォード学園につけてくれるそうだから」
ゼロ直属の信頼出来る人だから安心してと言うカレンに一同はほっとしていると、ノックの音がした。
「カレン、俺だ。ちょっと報告があるんだが」
「なーに、扇さん」
カレンが入室を促すとドアが開いて、扇がこんにちはと挨拶しながら入って来た。
「残念なことに、さっき搬送した二人が亡くなったって報告が来たよ。
連れて行ったゼロ番隊員の話だと、麻薬が原因らしいけど・・・」
どうやら誘拐犯の男の方も毒を隠し持っていたらしく、隙を見て毒を飲んでいたらしい。
既にルルーシュが隠ぺい工作をしているようだと悟ったカレンは、扇を騙すことに申し訳なさを感じていた。
だが事実を知らせると彼も巻き込まれてしまうので、騙しとおすつもりだった。
「そ、そう・・・きっと麻薬常習者がお金目当てにした犯行かも」
「それにしちゃ手が込んでる気がするけど・・・まあここは良家の子女が集まる学校だからあり得るかもな」
詳しいことは担当者に任せてそろそろ引き揚げようと言う扇に、カレンはちらっと礼拝堂の方を見て言った。
「会長達がまだちょっと不安がってるから、話をしてから帰りたいんです。駄目ですか?」
「ああ、そういうことならいいがカレンも気をつけて戻れよ。
そうそう、さっき俺達に犯人を早く手当てしろって指示した男はどこだ?」
ヴィレッタを保護することに必死だった扇は、咲世子が密に彼を礼拝堂に案内していたところは見ていなかった。
「ちょっと気になることがあるので、ゼロ番隊の人が事情聴取しています。
後で報告があると思うんですけど」
「そうか、解った。じゃあ俺は先に戻る」
うまく扇をごまかせたことに安心したカレンが手を振って送り出すと、詰所の外に出た扇は彼女と同じように安心していた。
(よかった、カレンのやつ千草がこの辺りにいたことは気付かなかったみたいだな。
千草に変な疑いをかけられたらまずいことになる)
アッシュフォード学園に飛び込んだ時扇が目にしたのは、最愛の妻だった。
門の壁に隠れて怯えている様子の妻を見た扇は、すぐに彼女をアッシュフォード学園の外に連れ出して事情を聴いた。
するとヴィレッタは、道に迷って門衛に道を尋ねていたらこの騒ぎに巻き込まれた、と嘘八百を並べ立てた。
彼女の嘘をあっさり信じた扇は、他に共犯者がいて逃げている女がいるという情報があるにも関わらず、彼女がそうだとは微塵も疑わなかった。
それどころか『捜査を混乱させてはまずいので、こんなささいなことなんて報告しない方がいいと思います』というヴィレッタの案に頷く始末である。
今回はほとんど強引にカレンに同行しただけの扇はこの件が職務ではないことをいいことに、事の次第を知らせて安心させようと近くの喫茶店で休ませていた妻の元へ足を向けるのだった。
礼拝堂内では咲世子に案内されたジェレミアが、夢にまで見たルルーシュと念願の会話を果たしていた。
咲世子は心配そうにルルーシュを見たが、命じられたとおりに外に出て誰も入れないように入口を見張る。
「ル、ルルーシュ殿下でいらっしゃいますか・・・!」
「ああ、お前達ブリタニアが使い捨てにした元皇子だ。
話はだいたいミレイから聞いたが・・・」
ギアスをかけたゼロ番隊の者数名に銃を構えさせた礼拝堂内で、ルルーシュはジェレミアを出迎えた。
武器はすべて取り上げたと咲世子が報告したので、残る殺害手段は扼殺くらいしか彼には残されていない。
(確かギアスキャンセラーなるものを埋め込まれた男だったな。
手駒になり得るか否か、確かめる必要がある)
無言で自分を見つめるルルーシュに、ジェレミアは涙を流した。
「おお・・・!!V.Vの元に送られて話を聞いて以来、どれほどお会いしたいと願ったことか!
信じて頂けないのは百も承知です。ですがどうか私の想いをお聞き届け頂きたい。
その上で死を賜るならばそれも致仕方ないことですが、このジェレミアに悔いはありません」
「・・・いいだろう、ではお前が知っていることを全て話せ」
「イエス、ユア ハイネス」
その呼称に内心嫌がったルルーシュだがそれは指摘せず、跪いたジェレミアが涙を流しながらヴィレッタから聞いた計画をルルーシュに語ると、ルルーシュは眉をひそめた。
「・・・上に報告する時間はいくらでもあったはずだが、そのヴィレッタはこれまでどこで何をしていた?」
「は、黒の騎士団幹部にスパイとして入り込めたと申しておりました。
その幹部の名前は聞き逃してしまいまして・・・申し訳ありません」
「・・・いや、いい。お前の話が事実なら、厄介なことになる」
ヴィレッタがラウンズのジノと連絡を取ったと言うなら、彼がそれを報告したのはシュナイゼルだろう。その後皇帝にも報告したかもしれないが、それはいい。
シュナイゼルとシャルルが、ゼロの正体を知りながら何もしない理由は解る。
おそらくエトランジュか神楽耶と婚姻を結ばれて、戦争の正当性を強められることを恐れているのだ。
可及的速やかに自分の身柄を確保し、ゼロの正体をバラせばこの戦いはただの皇族の皇位継承の茶番だったと喧伝することが可能だから、それを狙っているのだろう。
(・・・あの男やシュナイゼルの手駒が日本に入り込んでいるというなら、全てこの機会に始末しておくべきだ。
まずはあのヴィレッタ・ヌゥが入り込んでいると言う幹部を見つけなくてはな)
「お前はギアス嚮団で改造を受けたそうだな?」
「はい・・・ギアスキャンセラーなるものを埋め込まれました。
ただのギアス能力者では貴方様のギアスにかけられれば手駒にされるので、私が刺客に選ばれたのです」
「・・・では最後の質問だ。
俺はゼロで、お前にあれほどの屈辱を与えた男だ。
それなのに何故、俺のためにその身を危険にさらせるのだ?」
ゼロを恨んでいることを知っているルルーシュの当然の問いに、ジェレミアはふっと吹っ切れたように笑った。
「私の主君はV.V.ではなくマリアンヌ様ですルルーシュ様。
そしてお恥ずかしいことながら、祖国によって見捨てられ、利用される身になって貴方様もこのような思いをしたのかと考えると、おそれながら他人ごとに思えませず・・・」
一途にブリタニアに仕えてきた自分ですら少しの疑惑でそれがもろくも崩れ去り、塵芥のように扱われ捨てられた。
己かがつて笑いながら見ていたナンバーズと同じ境遇になって、ジェレミアはナンバーズがいつまでもブリタニアに逆らい続ける理由にようやく気付いたのである。
「同じブリタニア人ですらこの有様では、ブリタニアに従っても安寧など得られるはずがありません。
私が純血派を立ち上げたのは手柄を立てて上に行き、マリアンヌ様を殺した者を探し出すためでしたが・・・」
「・・・そうか、では犯人を教えてやる。母さんを殺したのはあの男・・・皇帝の兄だ。
お前を改造した子供がいただろう?あいつだよ」
「な、何ですと?!それはまことでございますか?!」
まさか犯人を知らされるとは思ってもみなかったジェレミアが目をむくと、ルルーシュは淡々と理由を説明してやった。
「あいつは弟が母さんに取られたと思い込んで、母さんを殺したんだそうだ。
それを知ったあの男は兄の犯行を隠蔽し、俺達を兄から守るためと言う言い訳で俺とナナリーを日本に送り、ついでに開戦の口実に使ったのさ」
「な、なんと・・・あの子供が・・・おのれ・・!!」
ジェレミアは目の前に主君を殺した仇がいたというのに何もせずに出てきた己を思い返し、悔しさに歯ぎしりする。
「だから俺はブリタニアに反旗を翻した。そんな下らない理由でナナリーの足と目を奪い、俺達の未来をも奪おうとする男が治める国など壊してやる。
あの男の最終目的が何か、知っているかジェレミア?」
「・・・ラグナレクの接続・・・という言葉を聞いたことがありますが、そのことでしょうか?」
詳しいことは知らないのかとルルーシュから全ての人間の意識を一つにする計画だと聞かされたジェレミアは、それ故にルルーシュ、ナナリーが死んでも問題ないと言うシャルルの思考に、顔をこわばらせた。
「そんな、そんな恐ろしい計画を実行しようとしているのですか?!」
「そうだ」
ルルーシュがそれを知った経緯をマリアンヌに関することを除いて話すと、ギアス嚮団でも話していたV.Vの台詞を思い出したジェレミアは納得した。
「私が改造を受けたギアス嚮団なる場所をお教えいたします。
どうかマリアンヌ様の仇をお取り下さいルルーシュ様。
そしてどうか、その計画を阻止して頂きますようお願い申し上げます」
「そうか、お前もその計画に反対するか、ジェレミアよ」
ジェレミアがまともな考えを持っているようで安心したルルーシュが確認すると、ジェレミアはもちろんですと息巻いた。
「そんな、人が全て丸裸でいるような世界など・・・とても素晴らしいだものだとは思えません。
そのためにブリタニアはむろん世界すべてに不幸の種を撒くなど到底許されることでは・・・いや、知らなかったとはいえ自らの意志でその種を育てていた私が言う資格はありませんな」
「そうか・・・解った。お前を信じようジェレミア」
礼拝堂の外ではマオがギアスを発動しているが、忠義を捧げるべきルルーシュに信じて貰いたいジェレミアはギアスキャンセラーを発動しなかった。
ジェレミアの思考が忠義一辺倒であることに驚いたマオがエトランジュのギアスを通じてそれを報告すると、ルルーシュも内心で大いに驚いた。
そして最後の『それに加担していた自分が言う資格はない』という言葉。
それは自分の所業を省みていなければ出ない台詞だ。
だからこそルルーシュは、ジェレミアを信じる気になったのである。
(コーネリア姉上もそうだが、人は自分がその立場にならなくては自分のしていたことがどんなものか、理解出来ないもののようだな)
だが、それでも理解すればそれを改めようとするその姿勢は、今エカルテリアで裁判にかけられて見苦しく自分は悪くないと喚くジェラールに比べてなんと潔いことか。
今異母姉がどんな生活をしているかは知らないが、過去の己の罪を受け止めて贖罪しようとしていることを願わずにはいられない。
「あ、ありがとうございますルルーシュ様!!
このジェレミア・ゴッドバルド、全てを賭して貴方様にお仕えいたします」
感涙して額を地にこすりつけるジェレミアに、気が重たかったがルルーシュは仲間になるなら彼にどうしても言わなければならないことがあった。
黙っておくことは容易いが、彼はギアスキャンセラー持ちでありいつ知ることになるか解らない。
誤解がろくな結果を招かないことをよく知っていたからこそ、先に告げておかねばならないのだ。
「誓いはありがたいが、お前にはもう一つ辛い事実を告げなくてはならない。
このことはナナリーにすら知らせていない、母の真実だが・・・聞く勇気はあるか?」
「・・・ぜひお聞かせ下さい、ルルーシュ様」
マリアンヌの真実、と聞いてジェレミアはすぐにでも聞きたかったが、妹姫のナナリーにも言えないほどとは何かと、身体をこわばらせた。
「俺が何故母さんが殺された状況を知り得たか不思議に思ったかもしれないが、実は母さんもギアス能力者だ。
“他人の心を渡るギアス”というもので、母さんは身体こそV.Vに殺されたが心はある少女に乗り移る形で生き延びていた」
「そういえばギアスキャンセラーを初めて使った際、貴方様から命令を受けた時の他に皇帝からアリエス宮にいた少女のことを忘れるように命じられたことを思い出しました。
まさか、アーニャ・アールストレイムですか?!」
「お前も思い出していたか。ユフィが今俺達と行動を共にしていることは知っているな。
彼女もアーニャのことは憶えていないと言っていたよ。
たった一度アリエス宮に来ただけのダールトンは憶えていたがな」
「・・・お待ちをルルーシュ様。
ではシャルル皇帝はマリアンヌ様が生きていたことをご存知で、マリアンヌ様もお傍にいらしたと?」
まさかあれほど可愛がっていたルルーシュとナナリーを日本に送ることに同意したのか、と恐ろしい想像をしたジェレミアが口に出せずにいると、ルルーシュはあっさり頷いた。
「母さんもその計画の賛同者だったからな。もうあの二人には命に対する観念が、俺達とは違うものになっていたんだ。
先日アーニャがラウンズとして日本に侵攻して来たことは知っているな?
そこで母さんとも会った。計画が成ればすべて解ってくれるからうまくいくと、それしか口にしなかった」
「ルルーシュ様・・・」
「なあジェレミア、権力にしろギアスにしろ、過ぎた力は必ず人に歪みをもたらすと思わないか?
俺は母さんを見て、それを嫌と言うほど痛感したよ。
俺はブリタニアをぶっ壊す!そして世界を変えて・・・最後にギアスの歴史を終わらせる」
想像すらしていなかったアリエス宮の悲劇の真相と、その裏にあった敬愛するマリアンヌの真実に、ジェレミアは絶句した。
ルルーシュが嘘を言っているとは思わない。
彼の言っていることは辻褄が合っているし、自分を仲間にと言ったその口でこのような虚偽を告げる必要などどこにもないからだ。
「ギアスとコードさえなかったら、母さんだって普通の母親として俺達と共に過ごす毎日に満足してくれたはずだったんだ。
お前ほどの男が慕った女性だし、今なお多くの人間から敬愛を受けているほど素晴らしい人だった。
自分が否定する力を使うことが矛盾しているのは解っている。だが、それでも俺は・・・」
「もう、それ以上は何もおっしゃらないで下さいルルーシュ様。
このジェレミアに二心はありません。このジェレミア、何も惜しまず貴方様の目的を果たすための駒となりましょう。どうかご命令を、我が君」
(純血派は新宿の件もあって日本人に恨まれているが、ジェレミアだけなら何とか居場所を作ることが出来る。
藤堂達にスザクを俺に差し出したのも俺からの指示だと言えばこの実験のことも話してあるし、何とかなる)
ルルーシュはそう考えを巡らせると、ジェレミアに立ち上がるよう手で促しながら言った。
「ギアスのことは誰にも漏らすな。知っているのはナナリーと俺の弟になった元ギアス嚮団員のロロ、そしてマグヌスファミリアの王族だけだ」
「承知しました。マグヌスファミリアのことは多少聞いておりますが・・・」
「そうか。ギアスは世界に出てはならないものだ。だからこそマグヌスファミリアは長年鎖国を貫いてきた。
彼らもずっとコードとギアスを消す方法を長年探していて仮説程度ならあると言っていたから、ギアス嚮団の資料を合わせれば何とかなる可能性がある」
ギアスと言う力がありながら外に出ずマグヌスファミリアの王族達のような者が小さな国を堅実に治めており、シャルルのように理想に妥協を許さず最大を求め続ける愚者が大陸を治める皇帝とは、世の中皮肉なものである。
「純血派のリーダーと言うことで、白眼視は避けられない。その覚悟はあるか?」
「私は一度死にかけた身です。今更恐れるものなど何もありません。
そして間違った主義のもとで罪のない者達を殺したのは確かに私の罪です。
その報いを受けるのは、当然のことでありましょう」
「その覚悟と忠義、確かに受け取った。ではついて来い」
「イエス、ユア マジェスティ」
この上ない主君を得たジェレミアは自分の判断は正しかったと確信し、父親から捨てられ、母親からは見捨てられてもなお立ち上がった少年を見つめた。
マリアンヌのことは今でも敬愛しているが、それでもあの歪んだラグナレクの計画とそれに伴う子供の扱いについてはどうしても容認出来なかった。
ルルーシュの言うとおり、過ぎた力はごく当たり前の判断すら出来なくなる毒を秘めている。
権力と異能とが恐ろしい融合を遂げて、世界を巻き込み暴発しようとしているのだ。
「ルルーシュ様、マリアンヌ様はまだアーニャ・アールストレイムの中におられるのですか?
もしそうならば御許可を頂ければマリアンヌ様を私の力で・・・」
「それには及ばない。俺のギアスでアーニャから立ち去るように母に命じたからな」
心は俺が葬った、と無感動に答えた主君に、ジェレミアは何も言わなかった。
まずジェレミアについて説明しようと、ルルーシュはまず話が通りやすい藤堂に対して電話をかけた。
過ちを重ねた自分のために動いてくれている主君を、ジェレミアは何があろうとも守る決意を固めていた。