第三十話 第二次日本攻防戦
黒の騎士団本部では、主なメンバーが緊張した面持ちで各ナイトメアに搭乗準備をしながら、通信機で会議を開いていた。
これからギアス嚮団を殲滅させようとしていた矢先の攻撃にエトランジュも驚き、司令室にいた。
モニターの中にはブリタニア自治区からVTOLで移動中のユーフェミアが青ざめた顔で、ただ黙って会議を聞いている。
一番大きなモニターでは超合集国議会の議長であり、合衆国日本代表である桐原がゼロことルルーシュに命じた。
「黒の騎士団CEOゼロ、速やかにブリタニア軍を撃退し、日本を守ることを要請する。
作戦運用は黒の騎士団に一任する」
「黒の騎士団はその命令に従い、可及的速やかに作戦準備に入る」
形式的なやり取りをさっさと済ませた後、ルルーシュは蜃気楼の発進準備をしながら、軍議を開始した。
「現在太平洋上の防衛ラインで仙波と朝比奈が食い止めているが、第一防衛ラインが突破されて二次防衛ラインにまで後退した。
茨城基地から援護の部隊が入っているが、ナイトオブラウンズの機体が三体、確認されている」
藤堂の報告にとうとうブリタニアもなりふり構っていられなくなったか、とルルーシュは内心で舌打ちした。
「そうか、ブリタニアも本気だな。ではすぐに第三次防衛ラインへと向かう。
ナイトオブラウンズは誰が来ている?」
「ナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグ、ナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイム、ナイトオブテンのルキアーノ・ブラッドリーよ。
特にあの殺人狂のナイトオブテンとナイトオブシックスが先陣を切って、破竹の勢いで二次防衛ラインまできたわ。
今は仙波中尉がと朝比奈少尉が何とかそこで止めてる」
アルカディアがそう言いながらモルドレッドとパーシヴァルの画像を映し出すと、ルルーシュは眉をひそめた。
「ナイトオブシックスはまだ十四歳と聞いているが、さすがにその若さでナイトオブラウンズになるだけはあるな。
後方指揮は星刻に一任してあるから藤堂、お前は千葉と卜部とともに向かってくれ。お前達はナイトオブテン、ルキアーノを頼む」
「承知した」
「カレン、父君には申し訳ない。だがさすがにナイトオブラウンズが相手では、エースクラスは全員来て貰わねばならない」
ルルーシュの言葉に当然とばかり、カレンは頷いた。
「当たり前です、日本を守るためなんですから私も出ます!!
お父さんがたくさん資金を寄付してくれたおかげで強化された紅蓮可翔式があれば、ナイトオブラウンズなんてすぐに追い払ってみせます!」
「頼もしいな。君にはナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグを頼む。
ここで奴らを倒せば、連中の戦力は大きく奪える。悲願であるブリタニアに進攻するために大きなアドバンテージを得ることが出来るのだ、全力で奴らを倒す!
だが相手が相手だ、油断だけはするな!今までの戦いで我々の力は大きく上がっている。
数多くの人間達の力を束ねることで生まれ変わった黒の騎士団の力をブリタニアに見せつけて、二度と日本の地を犯すことが不可能であることを思い知らせてやれ!」
「応!!!」
騎士団幹部が戦意を高揚させて次々にナイトメアを各基地から発進させていると、モニターでユーフェミアがゆっくりと口を開いた。
「皆さんにお願いがあります。どうか我が騎士枢木 スザクも、同行させて頂けませんでしょうか?」
ユーフェミアはさすがに姉に匹敵、もしくはそれ以上の戦闘能力を持つナイトオブラウンズが三人と聞いて平静ではいられなくなった。
だからナイトオブラウンズクラスでなければ動かせないランスロットのパイロットであるスザクを差し向けようと考え、そう申し出てきたのである。
「ユーフェミア皇帝、それは・・・」
ルルーシュは一瞬断るべきかと考えたが、確かにランスロットの強さは身をもって知っている。
ランスロットの機体性能は確かに四聖剣の暁 直参仕様、藤堂の斬月をも上回っており、同じナイトオブラウンズのモニカを倒したという実績もある。
「・・・いいだろう、お前も来て貰おう枢木。
護衛を借り受けることになるので、ユーフェミア皇帝にはエトランジュ様とともにいて頂きましょう」
ルルーシュの言葉に藤堂も頷いて賛成したため、スザクの参戦が決定した。
「ありがとうございます。ではスザク、何としてでも己の所業を省みることをせずに侵略行為を続けるブリタニア帝国軍を、日本の地より追い返すのです。
これまで我が合衆国ブリタニアが受けてきた恩義を返すためにも、失敗は許されません」
「イエス、ユア マジェスティ」
スザクがユーフェミアに拝礼して命令を受諾すると、さっそくロイドに連絡して彼を小躍りさせていた。
「では急げ!仙波と朝比奈だけではもたない。
戦闘地域に到着次第、ラウンズと交戦に入れ!」
「了解!」
「すみませんパイロットの方!そういうことですので大急ぎで黒の騎士団本部に向かって下さい!!」
ユーフェミアがVTOLのパイロットにそう指示を飛ばすと彼はもともと全速力ですとは言えず、はいと答えてスピードを無理やり上げ、黒の騎士団本部へと向かうのだった。
茨城基地では、とうとう間近に迫ったブリタニア軍に緊張していた。
日本が解放されてから孤児や騎士団の子供達などはすでに東京府に移動しているため、今ここにいるのは皆黒の騎士団員や技師などである。
ブリタニア軍にやられた騎士団員達が次々に運び込まれてくるので、今やここは野戦病院と化していた。
「くそっ、このままでは!」
「いや、ついさっき紅蓮と藤堂中佐の斬月、四聖剣の暁直参仕様が到着した。
ゼロの蜃気楼も来たんだ、必ず勝てる!!」
その報告に一同は安堵し、技師達がゼロの指示に従って行動を始めた。
そして太平洋上では、大急ぎで駆け付けたカレンが紅蓮可翔式のエナジーフィラーを交換し、万全の態勢を整えてからナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグに相対する。
「懲りもせず日本を侵略しにきたブリタニアの犬が!!
このカレン・紅月・シュタットフェルトが相手だ!!」
「へえ、君があのシュタットフェルト辺境伯の・・・手配書で顔だけは見たけど、思っていたより勇ましいね」
ああいう行動力のある女性は、自分の好みのタイプだ。
しかもナイトメアの技量も卓越しており、反ブリタニアの行動さえ取っていなければラウンズに勧誘したのにと本気で考えたほどである。
「残念だなあ、好みのタイプなのに」
「あの大バカ皇帝の走狗が、気持ち悪いことを言うな!!
私はブリタニア帝国を壊して、差別国是のないブリタニアと平和になった日本でお父さんとお母さんと、三人で幸せに暮らすんだ!!弾けろ、ブリタニア!!」
よりによって皇帝のラウンズから好みのタイプと言われて悪寒が走ったカレンは、紅蓮可翔式の輻射波動砲弾をトリスタンに向けて放った。
それをギリギリでよけたジノだが、その隙を狙ってカレンが呂号乙型特斬刀で斬りかかり、メギドハーケンで相殺を試みるも腕の部分に直撃した。
「やるなあ、惜しい腕だよ。
けれど私達ナイトオブラウンズが三名も来たからには、もうエリア11の奪還は決まったも同然だ」
自信たっぷりに言い切るジノに、カレンはこれだからブリタニアは、と舌打ちした。
「あんたにこそ言ってやるわよ、皇帝の犬!
この戦いはゼロが指揮を執っているの、負けるはずがないわ!あんた達を倒して、ブリタニアへの進攻の前夜祭にしてやるんだから!!」
いつまでも己の優位を信じて、ブリタニア以外を見下すのが既に刷り込まれているブリタニア貴族と語らっても話にならないとよく解っているカレンは、それ以上のジノの言葉を無視して猛攻を続けた。
その横では、既に第三次防衛ラインにまで来ていたナイトオブテン・ルキアーノが仙波と朝比奈と戦っていた。
仙波の暁直参仕様はすでに右腕を破壊されていたが、それでも陸に近くなる第三次防衛ラインをまたがせまいと、ルキアーノの機体であるパーシヴァルと相対している。
「朝比奈、わしはせめて奴のフロートシステムだけでも破壊する。
そうすればお主一人でも上からバズーカを発射して倒せるはずじゃ」
「仙波中尉、それじゃ貴方が・・・!」
「ここを突破される訳にはいかん!再び日本を奴らに蹂躙させたいわけではあるまい?!
わしらは軍人じゃ、私情は捨てい!!」
「・・・承知!」
仙波の鋭い叱責に朝比奈は頷くと、仙波は猛然とパーシヴァルに突進し、フロートシステムめがけてありったけのエナジーを込めたスラッシュハーケンを撃ち込んだ。
「お前の大事なものはなんだ?・・・そう、命だ!」
ルキアーノは難なくよけると、仙波めがけて四連クローを打ち込もうとした刹那、その横から斬月のスラッシュハーケンに気づいてよろめき、狙っていたコクピット部分を外して左腕にめり込ませた。
だが仙波の暁直参仕様のエナジーフィラーを破壊して戦闘能力を奪うことに成功し、まるでゴミでも払うかのように暁直参仕様を海へと放り投げた。
「ほう、貴様は確か奇跡の藤堂とやらだな」
「貴様らに二度と日本の土は踏ません!!」
藤堂はパーシヴァルの前にナイトメア戦闘用日本刀を構えて立ちふさがると、仙波からの通信にほっと安堵する。
「面目次第もありません藤堂中佐・・・後はよろしくお願いする」
海に投げ出された味方のナイトメアを、井上率いる後援部隊が救助している。
仙波も彼女に助けられて、伊予に向かって運ばれていく。
「卜部、千葉。お前達はグラウサム・ヴァルキリエ隊を押さえろ。
ただの一人も、日本へ入れるな!!
朝比奈、お前は俺のサポートに入ってくれ!」
「「「承知!!」」」
卜部と千葉は藤堂が引き連れてきたナイトメア部隊とともに、グラウサム・ヴァルキリエ隊が乗るサザーランドに向かって突っ込んでいく。
「ヴァルキリエ隊、猿どもを片づけて、エリア11に向かえ!」
「「イエス、マイロード!!」」
ヴァルキリエ隊の女性兵士達は勇ましく黒の騎士団と乱戦に入ったが、黒の騎士団は現在ラクシャータとロイドの競争による開発速度の上昇により、性能がよいナイトメアが揃っている。
特にロイドがランスロットの量産機として開発し、夜光と名付けられて黒を基調にカスタマイズされたナイトメア部隊は、性能の差でもサザーランドを改良しフロートシステムをつけた程度でははるかに分が悪かった。
ブリタニアではフロートシステムが開発されると同時にそれが搭載出来る量産機型ナイトメアの開発が行われている最中で、ガウェインを開発すると同時にそれをさっさと設計していたのがロイドだった。
彼はそれを黒の騎士団への手土産にするため、当時の上司であるシュナイゼルには極秘にしていたのだ。
白兜がモデルということに抵抗があった者もいたが、もはやそんなことを言っている場合ではない上に戦闘面ではブリタニアを上回る結果を出せた以上、その声は二度と上がることはないだろう。
だが所詮は量産機である以上、圧倒的性能を誇るナイトオブラウンズの機体には到底及ばず、パーシヴァルやトリスタンには撃墜させられている。
「イレヴンの猿ども、お前らの一番大事なものはなんだぁ?そう、命だ!!」
そう叫びながら嬉々として四連クローを構えるルキアーノに、藤堂は朝比奈とともにナイトメア戦闘用日本刀で斬りかかりながら叫んだ。
「違うな、間違っているぞ!俺の一番大事なものは・・・そう、誇りだ!!」
「ゼロなしでは何も出来ない猿に、誇りなどあったのか?」
「血に飢えた獣には解るまいな、ブリタニアの吸血鬼!!」
奇跡の重みを背負ってくれた者が約束を守り、日本を解放してくれたのだ。
その日本を守ると同時に、自分は彼を守ると決めた。
ブリタニアを打倒し、世界が平和になるまで記号であり続けると決めた少年を守る・・・それが藤堂の矜持だった。
(彼が策を巡らし、血の繋がった家族と戦ってまで奪い返してくれた国を、奪われるわけにはいかん!!
俺には奇跡を起こすことは出来んが、守ることは出来る!!)
ましてや己の命と快楽しか守るもののない男に、負けてなるものか。
互いに間合いを測り、隙を狙いながら、藤堂は朝比奈とともに激しい空中戦を繰り広げた。
「現在、ナイトオブスリーと紅蓮が第二次防衛ラインと第三次防衛ラインの間で交戦中!
同時に藤堂幕僚長がナイトオブテンと第三次防衛ラインにて交戦に入りました。
そして藤堂中佐の夜光部隊がグラサム・ヴァルキュリエ隊を押し戻し、戦況は好転しつつあるようです」
オペレーターからの報告に黒の騎士団本部にいたエトランジュ、神楽耶、到着したユーフェミアの三人は、このまま勝てばいいのにとモニターを見つめていた。
スザクは本部に到着するなりランスロットに乗って猛スピードで太平洋へと向かっているが、到着するには時間がかかる。
だが戦っているのがナイトオブラウンズのうち二人だけと聞いて、エトランジュが首を傾げた。
「確か侵攻して来たのはナイトオブラウンズの三人と伺ったのですが、残りの一体は既に撃破なさったのでしょうか?」
「ナイトオブシックスのモルドレッドは、初戦で戦った後旗艦に戻った模様です。
モルドレッドの広域型のエネルギー砲の威力は凄まじく、いくつかの母艦が何度か撃たれてやられました。
ナイトメア部隊も2部隊ほど被害に遭っています」
「それだけの威力なら、エネルギーの消費が激しいでしょうね。おそらくエナジーフィラーを交換しに戻ったのでしょう。
ブリタニアの母艦からの距離を考えても、間違いないと思います」
これでも皇族のたしなみとして、またコーネリアやマリアンヌに憧れていたユーフェミアはナイトメアの関する知識は一通り持っているし、腕も実はかなりある。
その説明に納得したエトランジュは、ナイトオブラウンズ一番の新参者でありEU戦でもなかなか出て来ないためにデータがないとアルカディアが残念がっていたことを思い出し、なかなか厳しい状況になりそうだと内心で冷や汗をかく。
「確かナイトオブシックスはアーニャ・アールストレイムという十四歳の少女だと伺ったのですが」
「ええ、私はお会いしたことはないのですが、陛下・・・いえ、シャルル皇帝の強い推薦で、ナイトオブラウンズになったと聞いています」
ユーフェミアがそう答えると、ダールトンが眉をひそめた。
「お会いしたことがない?そんなはずはありませんユーフェミア陛下」
「え?」
ユーフェミアが背後で控えていたダールトンに視線を移すと、彼は不思議そうな顔で答えた。
「七年前、私はマリアンヌ様にお会いする機会を得て一度だけアリエス宮に伺ったことがあるのですが・・・・。
私は行儀見習いとしてアリエス宮に入り、ルルーシュ様やナナリー様のお世話をしていた彼女を見ましたから」
ダールトンが来たことはユーフェミアも憶えているが、ルルーシュやナナリーの世話をしていたという少女には全く心当たりがなかった。
七年前に士官学校を卒業したばかりの姉・コーネリアは、アリエス宮の警護を務めていた。
当時軍務のかたわらで士官学校で非常勤の講師をしていたダールトンは、彼女からアリエス宮に伺候するように命じられたという。
『最近の士官学校は何をしているのかと、マリアンヌ様は興味をお持ちのようだ。
だが大っぴらに軍人を招き入れてはまたマリアンヌ様をよく思わぬ者達があらぬことを吹聴するので、私が呼んだことにしておく』
ダールトンはそれを了承してコーネリアとともにアリエス宮に赴いたのだが、アリエス宮のあずま屋でルルーシュ、ナナリー、ユーフェミアの傍にいてお茶の世話をしていたのは、行儀見習いのアーニャ・アールストレイムだった。
「アールストレイムは由緒正しい貴族の家柄で、彼女の父親からもそのことを聞いておりましたから、間違いありません。
ユーフェミア陛下やナナリー様とも仲よく遊んでおいででしたが、憶えていらっしゃらないのですか?」
ダールトンの問いかけにユーフェミアは全く憶えていないと首を振ると、それを聞いていたエトランジュはなるべくさりげなく尋ねてみた。
「あの、その行儀見習いの少女はアリエス宮の皇子殿下や皇女殿下とも仲がよかったのですか?」
「はい、通いではなく住み込みでしたから、宮殿へお帰りの時はユーフェミア陛下が彼女が羨ましいと仰っていたのを憶えています」
そこまではっきりダールトンが記憶しているのに、渦中にあった当の本人が忘れているというのは明らかにおかしい。
まさか、と一つの考えが思い浮かんだエトランジュは、蜃気楼で戦場に向かっているルルーシュにリンクを開いた。
《ルルーシュ様、ルルーシュ様、お急ぎのところ突然申し訳ありません。
ですが、少しお知らせしたいことが》
《どうしましたか、エトランジュ様》
エトランジュが先ほどのユーフェミアとダールトンの会話を説明すると、ルルーシュも彼女が考えたことと同じことが脳裏に閃いた。
《確かに憶えているな・・・というより、思い出した》
コーネリアから逃げている途中でギアスキャンセラーを受けたあの日、七年前シャルルによってアリエス宮にいた人間についてほとんど忘れさせられていたことを同時に思い出していた。
あの時はアリエスの事件の真実を知った後だったのでさして気にならなかったが、あえて特定の人間が行儀見習いに上がっていたことをユーフェミア、そしておそらくはコーネリアにも忘れさせ、さらにはナイトオブラウンズとして傍に置いた理由にも納得がいく。
シャルルは、アーニャが行儀見習いに上がっていたことを知っていた者達に記憶操作のギアスをかけた。もともとマリアンヌの出自から来客はほぼ同じ顔ぶれだったから、それで充分と考えたのだろう。
だがたまたまコーネリアが好意で一度だけ呼んだダールトンのような者までは処置し切れなかったものと見える。
《ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムの中に母さんがいる可能性が高いな。
だが、それをどうやって確かめるか・・・》
《私が行こう、ルルーシュ。ギアスを与えた人間の近くに行けば、私にはそれが解る》
C.Cがコードを通じてそう提案すると、ルルーシュが頼むと了承したので、C.Cは暁に乗って遅れて戦場へと向かう。
《・・・私達も向かうわ。ゲフィオンディスターバーが使える方が、何かと有利だし》
アルカディアがイリスアゲート・ソローに搭乗しながら言うと、クライスとジークフリードも頷いた。
《・・・仮に母だとしても、遠慮は不要です。
何としてもナイトオブラウンズを撃破することを優先に》
《解ってるわ、それは間違えないから安心して。・・・あんたも無理しないようにね》
この予感が当たっていたとすれば、つい最近まで慕っていた母と戦わねばならないルルーシュにアルカディアは何度目か解らない同情の溜息をつき、途中合流してきたクライスとジークフリードとともに一路太平洋を目指した。
カレンと藤堂達がブリタニアの侵攻を止めに参戦してから一時間が経過したが、戦況は凄まじいとしか言えない状況にあった。
何しろ黒の騎士団はナイトメアの性能差と各国から集まった軍人達の器量のお陰でブリタニア兵を次々倒し、徐々にブリタニアの戦線を引き戻すことに成功してはいた。
だが上空で紅蓮はトリスタンと一進一退、斬月と暁直参仕様はパーシヴァルの攻撃に防戦一方になっていた。
卜部と千葉は援護に入るべきかと考えたが、藤堂が何が何でもブリタニア兵を日本に入れるなと命じた以上、戦線を離れるわけにはいかない。
「藤堂中佐・・・!」
「千葉、落ち着け!俺達の役目はブリタニアのナイトメアを一歩たりとも日本の土を踏ませないことだ。
四聖剣の名にかけて、日本の海域からブリタニア軍を追い返せ!!」
「解っている・・・だけど」
千葉はスラッシュハーケンを打ち放ってグラウサム・ヴァルキリエ隊のナイトメアを撃墜すると、その隣にいたナイトメアが猛攻撃を繰り出してきた。
「よくもマリーカを!!」
「おっと、そうはいかないな!」
卜部は千葉に攻撃して来たナイトメアにハンドガンを浴びせて動きを止めると、そのまま廻転刃刀で斬りかかり、破壊した。
「四聖剣とは虚名にあらず!」
「助かった、卜部。ありがとう」
「礼は後だ、かなり兵は減っている。このまま押して、連中の空母を破壊するぞ。
後一人、モルドレットというナイトメアに乗るナイトオブラウンズが残ってるから、それを相手にするのが俺達だ」
卜部の説明に千葉は頷き、苦戦している上官に視線を移したが彼が負けるはずがないと言い聞かせて、ブリタニアの艦を目指した。
(くっ、さすがはナイトオブラウンズ・・・!だが、俺達は負けるわけにはいかない!)
藤堂は朝比奈とともにコンビネーションでかかるも、なかなかルキアーノに決定的な一撃を与えることが出来なかった。
ルキアーノは埒があかんと舌打ちすると、味方を二体自分の周囲に呼び寄せるとにやりと笑って挑発した。
「二人がかりでなお、俺一人を倒せないのか、しょせんイレヴンの猿!!
奇跡の藤堂は、あのまぐれの戦でその運を使い果たしたようだな」
「藤堂中佐を侮辱するか!この吸血鬼が!!食らえ!」
ルキアーノの挑発に乗った朝比奈は、パーシヴァルに向けてスラッシュハーケンを撃ち放った。パーシヴァルの周囲に、轟音と共に煙が立ち込める。
(あいつの周りはブリタニア兵ばかりだ、避けきれない!)
勝利を確信した朝比奈だが、その次の瞬間に視界に迫ったものはさかさまになったナイトメアだった。
「な?!」
「朝比奈?!」
ルキアーノは味方を盾にして朝比奈の攻撃を防御すると、その盾に使ったナイトメアを朝比奈に投げつけたのだ。
「貴様、自分の味方を!!」
「フン、戦場の真実を知っているか?
日常で人を殺せば罪になるが、戦場ならば殺した数だけ英雄となる。
お前も軍人なら、それをよく解っていると思ったがなあ」
クックックと嫌な笑い声とともにそう嘲笑したルキアーノは、もろにナイトメアの体当たりを食らってフロートシステムを破壊され、落下していく朝比奈の暁直参仕様には目もくれず、斬月に狙いを定めてハドロン砲を向けた。
「脱出装置を働かせても、あれでは溺死だ。
それとも猿は泳ぎが得意だったか?」
「くっ・・・朝比奈・・・!」
部下を助けに行ける状況ではないことを知っていた藤堂は、憎しみを込めてハドロン砲を相殺しようとした刹那、海上から長いロープのようなものが飛んできた。
「新手か!虫のように次から次へと!!」
ルキアーノは舌打ちしてそれを避けると、斬月に向かってハドロン砲を撃ち放った。
「死ね、イレヴン!」
「藤堂さん!!」
そう叫びながら現れたスザクは、ランスロットをパーシヴァルの前に押し出してスラッシュハーケンで軌道をそらした。
「スザク君・・・!」
「ユーフェミア様の命で、援護に来ました!あいつは僕に任せて、藤堂さんはブリタニアの旗艦を目指して下さい!」
「いや、それは卜部と千葉に任せてある。
幸いナイトオブラウンズさえ倒せば、他の部隊はどうにかなりそうだからな」
助けに駆けつけてくれたかつての弟子の姿に一瞬だけ頬を緩ませた藤堂だが、すぐに表情を引き締めてパーシヴァルへと斬月を向き合わせようとした。
だが、ガクンと揺れて思い通りに動かない。
「・・・先ほどのハドロン砲で、フロートシステムに不備が生じたようだな」
「ならすぐに戻って下さい!必ず僕が倒しますから!」
「・・・すまない、頼んだぞ」
アルカディアからパーシヴァルは凶暴なまでに攻撃に特化した機体だとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
藤堂は弟子に戦いを任せることに情けなさを感じながら、今なら海中に落下した朝比奈を助けることが出来ると判断した。
そしてまだ斬月が動くうちにと、脱出装置を作動させて海に浮かんでいる朝比奈のコクピットを追って離脱する。
「お前は確か、ユーフェミア皇女のイレヴン上がりの騎士だな。
面白い、相手になってやろう」
もはや藤堂には目もくれずパーシヴァルが突っ込んでくるも、スピードはランスロットの方がはるかに早い。
スザクはパーシヴァルが突き出してきた四連クローをメーザーバイブレーションソードで受け止めると、そのまま力の押し合いへと突入した。
「予算がもう少しあったら、ランスロットをもっと強化して勝負はついていたのに~」
「あれだけの予算だと、エナジーフィラーの効率をよくして稼働時間を増加させるくらいが限界でしたからね・・・」
黒の騎士団本部では、送られてくる映像でロイドとセシルがランスロットの戦いの様子を見ながら溜息をついていると、ようやくC.Cが操る暁を従えた蜃気楼が到着した。
「ゼロ!!ゼロだ!!」
「待たせたな、我が黒の騎士団の勇士達よ!
ラウンズは我々が引き受けた!全軍、ブリタニア旗艦に向けて前進し、それを撃沈せよ!!」
「了解!!」
ゼロが現れただけで士気が上がった黒の騎士団員達が前進を始めようとしたその時、ランスロットはメーザーバイブレーションソードでパーシヴァルの四連クローを破壊した。
「き、貴様・・・!俺のパーシヴァルの四連クローが、猿ごときに・・・!」
「じゃあつまり、あんたは猿以下だってことね。
ラウンズに自虐趣味があるとは知らなかったわ」
冷徹な声が、先ほど到着した青を基調としたナイトメアから響き渡った。
「ア、アルカディアさん・・・」
「挨拶は後よ、まだこっちに来てないラウンズがいるんだから、早くあいつを海の藻屑にしてちょうだい!」
アルカディアの指示にスザクは頷くと、ヴァリスをパーシヴァルに向けた。
接近戦に長けているパーシヴァルの最大の武器が壊せたのなら勝敗はついたと判断したアルカディアは、ジークフリードとクライスを連れてカレンへの援護へと向かう。
「奪われる?私の命が?このサルが~!!」
「やったら、やり返される・・・ただ、それだけなんだ。
僕達軍人は、その中にいるんだ・・・どんな理由があろうとも、戦場に足を踏み入れたその時からその業から逃げることなんて許されないんだ!」
その台詞とともに撃ち放たれたスザクのヴァリスを食らったルキアーノのパーシヴァルが、空中で爆散する。
それを確認したスザクは、蜃気楼に向かって言った。
「・・・・次はナイトオブスリーのトリスタンだけど、僕が手伝ったらカレンが怒りそうだね。
アルカディアさん達がいるし、僕は旗艦を目指した方がいいと思うんだけど」
「ほう、少しは考えるようになったな。私もそう考えていたところだ。
カレンの援護には私が向か・・・なんだ、この熱源反応は?!」
スザクに指示を出していたルルーシュが突然ブリタニアの旗艦から発射された熱源反応に黒の騎士団はむろん、ブリタニア軍も動きを凍らせた。
「この数値は・・・流体サクラダイト?!」
ルルーシュの流体サクラダイトと言う声が聞こえた者達は、一斉にその熱源から距離を取る。
ルルーシュはカレンを助けようと、紅蓮の腰辺りにワイヤーを巻きつけてこちらに引き寄せた。
C.Cも暁をルルーシュの背後に回して、しっかり絶対守護領域内にいた。
「カレン、絶対守護領域を発動させる!蜃気楼から離れるな!」
「はい、ゼロ!!」
「ゼロ、余計なことを!!だが、そこならあのミサイルから逃れることは不可能だ!」
シュナイゼルからあの武器のことを聞いていたジノは、カレンのことは残念だがこれも皇族からの命令である以上仕方ないと、その機動力でその場から退避していく。
流体サクラダイトは単体では何ともないが、熱源を与えれば爆発する。
かつてルルーシュが片瀬を捨て駒として利用した時も、流体サクラダイトを積載していた戦艦の通り道に爆薬を仕掛けることで、あの大規模な爆発を起こしたのである。
神技のタイピング速度で絶対守護領域を発動させた瞬間、紅蓮と蜃気楼を避けた頭上でその熱の塊が爆発した。
凄まじい爆風に敵味方問わずナイトメアが吹き飛んでいるが、蜃気楼とそれに守られていた紅蓮と暁は無傷で浮かび、何とか防護壁を発動させたイリスアゲート・ソローのお陰で、周囲にいたイリスアゲート・フィーリウスとイリスアゲート・パターも無事だった。
「何だい、あれ?・・・確かにサクラダイトは爆弾には持って来いだけど、貴重なそれを消耗品にする訳にはいかないからって、実装されてないはずだよ」
黒の騎士団本部でラクシャータがロイドに向かって問いかけると、ロイドはぽりぽりと頬を掻きながら答えた。
「そういえばあの腹黒シュナイゼル殿下が、大量破壊兵器の構想を立てて科学者を集めてたねえ。
僕はナイトメア一筋だから声はかからなかったけど、知人が何人か研究してるのを聞いたから」
その報告に技術部の面々の背筋に冷たいものが走ったが、ロイドはのんきに言った。
「ま、流体サクラダイトの爆発くらいなら絶対守護領域で何とかなるみたいだし、爆発までのタイムラグが大きいからいくらでも対策立てられるよ。
データもほら、あのアルカディア王女・・・アルフォンス王子だっけ?まあいいや、とにかく彼女が取ってくれてるんだろ?」
「確かに・・・液体サクラダイトを空気中に噴出し、爆発濃度になったら熱源を与えることで爆発する仕組みのようだから、タイムラグが大きいんだろうねえ。
初めから爆発濃度を操作した状態だと砲身が持たないから、撃った後じゃないと駄目ってところかな」
そう予測した科学者コンビが再びモニターに視線を移すと煙が晴れて現れたのは、結局何の被害もなかったことから平然と立つ黒の騎士団のエース級のナイトメアと、トリスタンの姿だった。
「げ、あいつ無事だったのかよ」
舌打ちするクライスにアルカディアが何をしたのか尋ねると、彼は思い切りスラッシュハーケンを食らわせたと答えた。
「突然だったし視界も悪かったから、外したっぽい。わりーな」
「エネルギーの無駄でしょうが!ちゃんとナイトメア反応に照準合わせなさいよ」
「だから突然だったんだって。とにかく行こうぜ!」
さっさと全員でジノを仕留め、続けて残っているモルドレッドを倒す相談をまとめると、その当のモルドレッドが凄まじいスピードで現れた。
「・・・・!来たぞ!!」
「こ、こんなに早く?!くっ、あのミサイルに気を取られてたわ!」
己のうかつさに舌打ちしたアルカディアは、予定を変更してモルドレッドを相手にすることにした。
「カレンさん、紅蓮はまだ戦えるわよね?!」
「は、はい!!続けてトリスタンと戦闘に入ります!」
蜃気楼のワイヤーを外されたカレンが、再び勇ましくジノの後を追っていくと、ルルーシュは大型のナイトメア用レイピアで卜部と千葉を薙ぎ払い難なくこの場へ現れたモルドレッドを見つめた。
「千葉さん、卜部さん!!」
カレンが何を言う間もなくやられた四聖剣の二人に驚愕の声を上げると、ルルーシュは目を見開いてC.Cに尋ねた。
「C.C、あれは母さんなのか?」
「いや、さすがに触れてみないと解らないな。
ナイトメア越しでも何とか接触すればいい」
C.Cはそう答えると、暁を蜃気楼の前へ動かした。
と、そこへアルカディアが焦った声で報告した。
「おかしいわよ、そのモルドレッド!
モルドレットは遠距離に特化したナイトメアのはずなのに、あっさり卜部少尉と千葉少尉がやられたのよ?!」
しかもあの二人が得意としていた接近戦で負けるなど改造したにしてもまずあり得ないと言うアルカディアに続いて、ロイドが通信を入れてきた。
「それ、ナイトオブシックスのナイトメアじゃありませんね~。外見はそっくりですけど、明らかに動きが違いますから~。それはもう、ケタ違いです。
っていうか、対ナイトメア戦闘用大型レイピアなんて、モルドレッドにはありませんよ」
自他共に認めるナイトメアマニアのロイドが言うなら、あれはほぼ間違いなくモルドレッドではないのだろう。
「あの対ナイトメア戦闘用大型レイピアのさばき方、マリアンヌ様に超似てますね~。
お心当たり、ありますぅ~?」
「・・・そうか、解った。報告ご苦労」
ロイドの質問を無視して通信を切ったルルーシュは、アーニャ・アールストレイムに母マリアンヌが憑依している確信を抱いた。
もしアーニャに憑依しているとすれば、もともと母は遠距離よりガニメデのようなまだ遠距離には使えないタイプのナイトメアに乗っていたラウンズだった。
とすれば当然モルドレッドより近距離に向いたナイトメアを好むはずだから、おそらく自分専用のナイトメアを造らせていたのだろう。
今回は初戦で乗っていたモルドレッドを旗艦に戻し、あのナイトメアに乗り直して出撃したのだ。
「・・・私が確認しよう、ルルーシュ。援護を頼む」
C.Cが暁でモルドレッドに襲いかかったが、モルドレッドは難なくかわして彼女の暁の右腕にレイピアを突き刺した。
《酷いわC.C、久しぶりに会ったというのに襲いかかるなんて》
《やはりお前か、マリアンヌ》
脳裏に話しかけてきたマリアンヌの声に、C.Cはルルーシュに伝えた。
「・・・マリアンヌだ、間違いない」
「そうか・・・では手加減は出来ないな」
庶民の出身でありながらもラウンズに抜擢され、シャルルからの信頼と寵愛を勝ち取って皇妃になった母は、今でも絶大な人気と支持を誇る女傑だった。
貴族からすら尊敬の念を集め、特に軍人達からは今でも慕われているほどの能力を持った彼女は、あのナイトオブワンであるビスマルク・ヴァルトシュタインをも打ち負かしたという逸話すらある。
《お前、息子と戦うつもりなのか?》
《だって、私達を理解してくれない上に計画を壊すって言われちゃったら、こうするしかないじゃないの。
私だって殺したくはないから、出来れば捕まえてV.Vの目が届かない場所で計画が成るまで待っていて貰おうと思って》
だから自分が来たのだと無邪気にそう告げる元友人に、C.Cは呆れることもせずにそのままルルーシュに伝えた。
要は息子を捕まえて監禁するという親とは思えぬ所業をしにきた母親に、ルルーシュは瞑目した。
(母さん・・・とうとう解ってはくれなかったのですね)
「・・・もういい、全力でこのモルドレッドを倒すぞ。
スザク、お前は私とともにモルドレッドを落とす!相手は強力なナイトメアフレームを使っている。油断するな!!
アルカディアは紅蓮の援護に向かって頂きたい。情報処理型のナイトメアは二体も必要ありません」
「・・・解った、すぐにそちらに行く」
平静さを装ってはいたがどこか苛立ちと悲しみを含んでいた親友の声が気にかかったスザクは、すぐさま蜃気楼の前へと移動した。
アルカディアもルルーシュの指示に従って、紅蓮とトリスタンが戦っている方へと飛んでいく。
(ランスロット、蜃気楼、暁、そして戦闘補助を得意とするイリスアゲートが2体!
いくら母さんでも、このメンバーに勝てるはずがない!!)
十四歳の少女にそれだけのメンバーで圧倒して勝利したと言うのはさすがに外聞が悪いが、それを気にして勝てる相手ではない。
それにいざともなれば、それをいいように解釈して宣伝すれば済む話である。口のうまいルルーシュには造作もないことだ。
「ジークフリード将軍、クライスと協力して彼女の動きを止めて下さい!
枢木、お前はその隙を突いてモルドレッドのフロートシステムを破壊しろ!!」
「解りましたゼロ。クライス!」
「有線電撃アームだな、了解!」
ジークフリードが息子とともに有線電撃アームをモルドレッドに照準を合わせて追尾システムを操作すると同時に、スザクがメーザーバイブレーションソードでモルドレッドに斬りかかった。
「あらやるわね、さすがはナンバーズ差別の中で皇族の騎士に認められただけのことはあるわ」
マリアンヌはナンバーズを差別する国是を施行したのは計画を手っ取り早く推し進めるために必要だった方便で、彼女自身は別に差別をしたことはない。
ただ純粋にその風潮の中でも認められただけはある男だと、スザクを称賛したのである。
「でも、動きがこうも読みやすいところがまだ甘いわね。
せっかくのナイトメアの性能が良くても、動きを読まれれば終わりなのよ!」
久々に手ごたえのある相手に巡り合えたマリアンヌは、ナイトメア用大型レイピアでスザクの攻撃をかわすとレイピアでランスロットの左腕を刺した。
「は、早い・・・!」
「何をしてんだあいつ!おい、親父!」
「うむ、今のうちに!」
ランスロットに気を取られている間に、モルドレッドの右下からジークフリードとクライスが有線電撃アームでモルドレッドの腰や腕に巻きつけようと発射した刹那、モルドレッドの背中に搭載されていた機関銃が火を噴いた。
「な、あんな短時間で?!」
慌ててそれを避けようとした二人だが、その暇がなくイリスアゲート・フィーリウスとイリスアゲート・パターはあっという間に動けなくなった。
二人はすぐに脱出装置を作動させたのでどうにか無事だが、クライスが情けなさを歯噛みしながらあっさりやられた己の失態をアルカディアに報告した。
「悪い、やられた・・・なんだありゃ!フツーの人間の反応速度じゃねえぞ!!」
「解ってるわよ。井上さんに救助を頼んだから、伊予に戻って代わりの機体で出られるようなら出てちょうだい!」
そう二人に告げたアルカディアは、救出作業にいそしむ井上に二人の救助を依頼してジノとカレンの元へ到着した。
「カレンさん、聞こえる?
ちょっとあのナイトメアがやばいから、さっさとこのラウンズを倒してゼロの援護に向かうわよ!」
「アルカディア様・・・!解りました。ご協力感謝します!」
ジノはアルカディアのイリスアゲート・ソローを見て、中華でモニカを討ったナイトメアだとすぐに解った。
「トゥエルブを倒した機体か・・・!」
後でマグヌスファミリアの機体だと知ったが、何せとどめを刺すまでの過程が全く不明だったので、どんな戦い方をするのかは解らない。
せいぜいバリアを張って攻撃を無効化出来るという情報があるくらいだ。
さらにジノは、明らかに以前のモルドレッドではないナイトメアに乗って戦うアーニャの姿に違和感を持っていた。
(あんなレイピア、アーニャが使うはずはないんだが・・・いったいいつの間に装備したんだ?)
互いの思惑が入り乱れる戦場。
息子のためだと言いながら息子を追いつめるために現れた母親と、そんな母に見切りをつけた息子との戦いの幕が上がる。