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No.18683の一覧
[0] コードギアス 反逆のルルーシュ~架橋のエトランジュ~[歌姫](2010/05/15 08:35)
[1] プロローグ&第一話  黒へと繋がる青い橋[歌姫](2010/07/24 08:56)
[2] 第二話  ファーストコンタクト[歌姫](2010/05/15 08:34)
[3] 第三話  ギアス国家[歌姫](2012/08/04 10:24)
[4] 挿話 エトランジュのギアス[歌姫](2010/05/23 13:41)
[5] 第四話 キョウト会談[歌姫](2010/08/07 11:59)
[6] 第五話  シャーリーと恋心の行方[歌姫](2010/06/05 16:48)
[7] 挿話  父親と娘と恋心[歌姫](2010/06/11 21:19)
[8] 第六話  同情のマオ[歌姫](2010/06/19 11:50)
[9] 第七話  魔女狩り[歌姫](2010/06/26 11:21)
[10] 第八話  それぞれのジレンマ[歌姫](2010/07/03 22:23)
[11] 第九話  上に立つ者の覚悟[歌姫](2010/07/10 11:33)
[12] 第十話  鳥籠姫からの電話[歌姫](2010/07/24 08:57)
[13] 第十一話  鏡の中のユフィ[歌姫](2010/07/24 10:10)
[15] 第十二話  海を漂う井戸[歌姫](2010/07/31 12:01)
[16] 第十三話  絡まり合うルール[歌姫](2010/08/07 11:53)
[17] 第十四話  枢木 スザクに願う[歌姫](2010/08/21 11:24)
[18] 第十五話  別れの陽が昇る時[歌姫](2010/08/21 12:57)
[19] 第十六話  アッシュフォードの少女達[歌姫](2011/02/12 10:47)
[20] 第十七話  交錯する思惑[歌姫](2010/09/11 12:52)
[21] 第十八話  盲目の愛情[歌姫](2010/09/11 12:09)
[22] 第十九話  皇子と皇女の計画[歌姫](2010/09/25 13:41)
[23] 第二十話  合縁奇縁の特区、生々流転の旅立ち[歌姫](2010/09/30 07:39)
[24] 挿話  親の心、子知らず ~反抗のカレン~[歌姫](2010/09/30 07:32)
[25] 挿話  鏡の中の幻影 ~両性のアルカディア~[歌姫](2010/10/09 10:35)
[26] 挿話  カルチャーショックプリンセス ~交流のユフィ~[歌姫](2010/10/09 11:36)
[27] 挿話  それぞれの特区[歌姫](2010/10/16 12:06)
[28] 挿話  ティアラの気持ち  ~自立のナナリー~[歌姫](2010/10/23 10:49)
[29] コードギアス R2 第一話  朱禁城の再会[歌姫](2010/10/30 15:44)
[30] 第二話  青の女王と白の皇子[歌姫](2010/11/13 11:51)
[31] 第三話  闇夜の密談[歌姫](2010/11/13 11:35)
[32] 第四話  花嫁救出劇[歌姫](2012/12/02 21:08)
[33] 第五話  外に望む世界[歌姫](2010/11/27 10:55)
[34] 第六話  束ねられた想いの力[歌姫](2010/12/11 11:48)
[35] 挿話  戦場の子供達 [歌姫](2010/12/11 11:42)
[36] 第七話  プレバレーション オブ パーティー[歌姫](2010/12/18 11:41)
[37] 第八話  束の間の邂逅[歌姫](2010/12/25 10:20)
[38] 第九話  呉越同舟狂想曲[歌姫](2011/01/08 12:02)
[39] 第十話  苦悩のコーネリア[歌姫](2011/01/08 12:00)
[40] 第十一話  零れ落ちる秘密[歌姫](2011/01/22 10:58)
[41] 第十二話  迷い子達に差し伸べられた手[歌姫](2011/01/23 14:21)
[42] 第十三話  ゼロ・レスキュー[歌姫](2011/02/05 11:54)
[43] 第十四話  届いた言の葉[歌姫](2011/02/12 10:52)
[44] 第十五話  閉じられたリンク[歌姫](2011/02/12 10:37)
[45] 第十六話  連鎖する絆[歌姫](2011/02/26 11:10)
[46] 挿話  叱責のルルーシュ[歌姫](2011/03/05 13:08)
[47] 第十七話  ブリタニアの姉妹[歌姫](2011/03/13 19:30)
[48] 挿話  伝わる想い、伝わらなかった想い[歌姫](2011/03/19 11:12)
[49] 挿話  ガールズ ラバー[歌姫](2011/03/19 11:09)
[50] 第十八話  闇の裏に灯る光[歌姫](2011/04/02 10:43)
[51] 第十九話  支配の終わりの始まり[歌姫](2011/04/02 10:35)
[52] 第二十話  事実と真実の境界にて[歌姫](2011/04/09 09:56)
[53] 第二十一話  決断のユフィ[歌姫](2011/04/16 11:36)
[54] 第二十二話  騎士の意地[歌姫](2011/04/23 11:38)
[55] 第二十三話  廻ってきた順番[歌姫](2011/04/23 11:34)
[56] 第二十四話  悲しみを超えて[歌姫](2011/05/07 09:50)
[57] 挿話  優しい世界を踏みしめ  ~開眼のナナリー~[歌姫](2011/05/07 09:52)
[58] 挿話  弟妹喧嘩のススメ  ~嫉妬のロロ~[歌姫](2011/05/14 09:34)
[59] 第二十五話  動き出した世界[歌姫](2011/05/28 09:18)
[60] 第二十六話  海上の交差点[歌姫](2011/06/04 11:05)
[61] 第二十七話  嵐への備え[歌姫](2011/06/11 10:32)
[62] 第二十八話  策謀の先回り[歌姫](2011/06/11 10:22)
[63] 第二十九話  ゼロ包囲網[歌姫](2011/06/25 11:50)
[64] 第三十話  第二次日本攻防戦[歌姫](2011/07/16 08:24)
[65] 第三十一話  閃光のマリアンヌ[歌姫](2011/07/09 09:30)
[66] 第三十二話  ロード・オブ・オレンジ[歌姫](2011/07/16 08:31)
[67] 第三十三話  無自覚な裏切り[歌姫](2011/07/23 09:01)
[68] 第三十四話  コード狩り[歌姫](2011/07/30 10:22)
[69] 第三十五話  悪意の事実と真実[歌姫](2011/08/06 13:51)
[70] 挿話  極秘査問会 ~糾弾の扇~[歌姫](2011/08/13 11:24)
[71] 第三十六話  父の帰還[歌姫](2011/08/20 10:20)
[72] 第三十七話  降ろされた重荷[歌姫](2011/09/03 11:28)
[73] 第三十八話  逆境のブリタニア[歌姫](2011/09/03 11:24)
[74] 挿話  私は貴方の物語 ~幸福のエトランジュ~[歌姫](2011/09/03 11:55)
[75] 第三十九話  変わりゆくもの[歌姫](2011/09/17 22:43)
[76] 第四十話  決意とともに行く戦場[歌姫](2012/01/07 09:24)
[77] 第四十一話  エーギル海域戦[歌姫](2013/01/20 14:53)
[78] 第四十二話  フレイヤの息吹[歌姫](2013/01/20 14:56)
[79] 第四十三話  アルフォンスの仮面[歌姫](2013/01/20 15:01)
[80] 第四十四話  光差す未来への道[歌姫](2013/01/20 15:09)
[81] 第四十五話  灰色の求婚[歌姫](2013/01/20 15:12)
[82] 第四十六話  先行く者[歌姫](2013/01/20 15:15)
[83] 第四十七話  合わせ鏡の成れの果て[歌姫](2013/01/20 14:59)
[84] 第四十八話  王の歴史[歌姫](2013/01/20 14:58)
[85] 挿話   交わる絆   ~交流のアッシュフォード~[歌姫](2012/12/30 18:51)
[86] 挿話  夜のお茶会 ~憂鬱の姫君達~[歌姫](2012/12/30 14:03)
[87] 第四十九話  その手の中の希望[歌姫](2013/02/23 12:35)
[88] 第五十話  アイギスの盾[歌姫](2013/03/22 22:11)
[89] 第五十一話  皇帝 シャルル[歌姫](2013/04/20 12:39)
[90] 第五十二話  すべてに正義を[歌姫](2013/04/20 11:22)
[91] 最終話  帰る場所&エピローグ[歌姫](2013/05/04 11:58)
[92] コードギアス 反逆のルルーシュ ~架橋のエトランジュ~ オリキャラ紹介[歌姫](2011/04/06 10:27)
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[18683] 挿話  戦場の子供達 
Name: 歌姫◆59f621b7 ID:e85ac49a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/11 11:42
 挿話  戦場の子供達  



 洛陽へと戻った天子が見たものは、やせ細った身体にいかにも貧しげにぼろぼろの衣服をまとった民衆達が自分の帰還を喜び万歳を叫ぶ姿だった。

 それを見た天子は嬉しくて、そして苦しみを抱えて暮らしていた民衆を思って悲しんで泣いた。

 「ごめんなさい・・・こんなことになってるなんて知らなくて、ごめんなさい」

 「泣かないで下さい天子様!これからの中華をよくして下さると約束して下さったのですから!!」

 「そうです天子様!我々をブリタニアと大宦官の陰謀から救って下さってありがとうございます!!天子様万歳!!」

 星刻のナイトメアの上からありがとう、私頑張りますと告げた天子に、ひときわ大きな歓声が上がる。

 朱禁城に戻った天子は、さっそく太師に言った。

 「みんなあんなに瘠せてて可哀想・・・何とかならないかしら?」

 「はい、それにつきましては大宦官どもの屋敷から横領された大量の米や食料を発見しました。
 速やかにそれを中華全土に分配したいと思いまする」

 「ありがとう、なるべく早く配ってあげて?」

 「御意にございます!天子様の勅命である!!
 速やかに中華に食糧分配を行え!!」

 官吏達が頷き合うといったん朱禁城に運び込まれた食料を分配すべく、会議室へと走って行く。

 「地方の省を治めていた者達の半数が逮捕されておりますゆえ、そちらの代わりとなる者も配備しなくてはなりませぬ。
 暫定的に御吏を派遣して食糧の配給を任せなくては」

 怒涛の忙しさの中にも笑顔のある官吏達は、てきぱきと太師の指示を受けて動いている。
 天子は何を言っているのかすら解らず途方に暮れたが、それでもこれから中華に食料が配られてとりあえずお腹が空かなくなるのだということは理解出来た。

 「しかし今ある食料を配るだけでは限界が来る。次の農作物についても考えなくては・・・」

 「国有地を人に任せて農地として開拓し、そのための人を雇うというのはどうだろうか。
 他にもEUは戦争中なので食料の買い取りは難しいが、中東やオーストラリアからなら買い取れるかもしれない。
 中華の貨幣は値下がりしているが、大宦官どもが横領していた金などでなら・・・」

 「すぐにオーストラリアの駐在大使に連絡を・・って、そいつは大宦官だったな。すぐに召還して他の者を派遣し、可能かどうか聞いてみよう」

 そんな日々が一週間ほど経ったある日、玉座で会議を聞いていた天子にお疲れでしょうと女官達が休むように言ってきた。
 折りを見ては質問し、また拙いながらも意見を言う天子に官吏達は今はともかく将来はきっと素晴らしい名君になると安堵する。

 ある程度の草案がまとまると天子が再びテレビの前に立ち、食糧配給が決定したことと大宦官が治めていた地域に代わりの官吏を派遣することを知らせると中華に再び歓声が溢れ返り、天子はテレビの前でだけでなく洛陽の外で直接民に話すなど今日は忙しかったのだ。

 「もうそろそろお休み下され、天子様。休むのもお仕事にございまするぞ」

 「太師様のおっしゃるとおりです。さあ、エトランジュ様と夕餉をお取りになって下さい」
 
 星刻がエトランジュがまた食事を作ってくれたようなので無駄にしてはいけないと言うと、天子はまだ会議をしている官吏に後はよろしくお願いしますと頼んで女官と共に食堂へと向かった。
 そこにはエトランジュがほかほかと湯気の立ち上る鍋をテーブルに置いて待っていた。

 「お仕事お疲れ様でした、天子様。今日は梅干し入りの雑炊にしてみました」

 「これ、私も食べたことあるわ。風邪を引いた時に作って貰ったの」

 天子がテーブルについて食事を始めると、エトランジュが言った。
 
 「少しのお米と野菜でかなりの量が作れますからね。日本でも現在よく作られているんですよ」

 「ブリタニアに占領されてから、あんまりご飯食べられてなかったから?」

 「そうです。栄養を取ってかつたくさん食べられるようにしないといけませんからね。
 でもいつも同じ物ではよくないですから、たくさん分量が作れるレシピをいくつか官吏の方に送らせて頂きました。
 あと、中華は広くてそれぞれ気候が違うのであんまり役に立たないかもしれませんが、我がマグヌスファミリアで行っている農耕作業法なども参考になれば幸いです」

 中華にも古来からある農耕作業のやり方があるので本当に参考にしかならないのだが、天子は顔を輝かせた。

 「ありがとう、エディ!本当にいろいろ助けてくれて、私とても嬉しいわ」

 「困った時は助け合うのがマグヌスファミリアの国是ですから、お気になさらず。
 それに、これ以上長く留まっていると痛くもない腹を探られるかもしれないからいったんEUに戻らなくてはいけないようなので、このくらいはさせて欲しくて」

 困ったように溜息を吐くエトランジュに、天子は首を傾げた。

 「エディがここにいて中華を助けてはいけないの?」

 「EUが私達を通じて中華にあれこれ干渉してしようとする動きがあるそうなんです。
 援助する代わりにいろいろ要求されてしまうと、せっかくうまく行きかけたこの改革の動きが悪くなるかもしれないので、私達はいったん帰りますね」

 エトランジュはEU側の人間だが、だからと言ってまとまっているものを壊すかもしれない行為に手を貸す気はない。
 さらに御吏達の家宅捜索の結果、大宦官と贈収賄をしていたEU関連の企業と官僚がいることが明らかになり、その件も含めてどうするかと問題になっているのだそうだ。

 「そう・・・寂しくなるわね」

 「ああ、でも大丈夫ですよ天子様。こっそりと天子様にお手紙を送らせて頂きますから。
 ルチア先生もしばらくここに残って下さるそうですし」

 「あ、確か星刻の婚約者の人・・・」

 何故か顔を俯かせた天子に、エトランジュは首を傾げた。

 「私、会ったことないんだけど・・・星刻の好きな人なら、きっといい人なんでしょうね。エディの先生でもあるんだし・・・」

 「ええ、ルチア先生はいい人ですよ。母亡き後は私に礼儀作法なんかも教えて下さった方ですもの。
 元はブリタニア貴族の方ですが、とても頼りがいがありますので何でもお聞きに・・・」
 
 知らない人と会うのが不安なのだと勘違いしたエトランジュの台詞に天子はますます俯いたので、エトランジュは不思議に思って現在イリスアーゲート・ソローに乗って天帝八十八陵で戦後処理をしていたアルカディアに尋ねてみた。

 《・・・という訳で、天子様の様子がちょっとよく解らないんです。何かよくないことを言ってしまったのでしょうか?》

 《うん、言っちゃったみたいね。そっちの意味じゃ、天子様の方がエディより進んでるようだし》

 《そっちの意味?》

 アルカディアが戦争に明け暮れて恋どころではない従妹を憐れみながら、アルカディアは言った。

 《いいからルチア先生が本当は黎軍門大人の婚約者じゃないって言いなさい。
 ついでにルチア先生には好きな人がいたって言えば、それで問題は解決するから》

 《は、はい、解りました》

 首を傾げながらもエトランジュはアルカディアのアドバイスどおり、天子に事実を告げた。

 「天子様、ルチア先生は本当は黎軍門大人の婚約者ではないんです。
 ただ協力者として一緒にいるための目くらましでそう取り繕っただけで・・・」

 「・・・え、そうなの?」

 はっと顔を上げた天子に、本当に解決したとエトランジュは驚いた。

 「それに、アル従兄様がおっしゃるにはルチア先生には好きな人がいたってことですし」

 「そ、そうなんだ・・・」

 ほっとしたような天子の様子に、エトランジュもルチアに想い人がいたとは知らなかったらしく誰なのでしょうと考え込む。
 同時にここに至ってようやく天子が星刻に恋をしていると気付いたようで、エトランジュが確認した。

 「もしかして、黎軍門大人のことがお好きなのですか、天子様?」

 かあと顔を真っ赤にした天子に、それならアルフォンスとの婚約はなしの方向にもっていくべきだと思った。

 「でも、星刻は大人で・・・私はただ五年前に約束をしただけで・・・」

 「朱禁城の外に、でしたね。その約束を果たして頂けて、よかったではありませんか」

 「はい、いい人なんです、星刻。私との約束は必ず守ってくれるの」

 必ず守ってくれる約束を交わしてくれる人なら、自分にもいる。
 今は傍にいてくれないけれど、自分との約束は必ず果たしてくれた。

 『いつか必ず帰って来るから、みんなで待っていて下さいね』

 二年半前に父と交わした約束が果たされるのは、いつの日か。
 天子のように何年も待った末でも、必ずいつか果たしてくれる。
 
 「だから、私も中華をよくするために頑張るって約束を守らないといけないと思うの。
 結婚も、中華のためになるものじゃないと・・・・アルフォンス様と結婚したらEUとの関係も良くなるって聞いたし、あの人もいい人だから私は・・・」

 思いつめた天子の台詞に父を思い返していたエトランジュは、慌てて顔を上げて言った。

 「結婚なんて、まだ先でよろしいのですよ天子様。
 オデュッセウスとの結婚に反対する際、未成年との婚姻など言語道断という形を取ったので当分どこからもその話は出ないと思いますから」

 十二歳の幼女に振られたと世界中で悪意ある宣伝をされたオデュッセウスの件があるため、適齢期になるまで確実に婚姻の話はないと言うエトランジュに天子は安堵の息をはく。

 「エディは?エディはもう大人なんでしょう?
 やっぱり、エディも政略結婚を・・・?」

 「たぶんそうなると思います。今のところ相手はゼロが一番可能性が高いんですけど、日本の神楽耶様も立候補なさっているので難しいですね」

 クスクスと笑うエトランジュに、どうして笑っているのかと首を傾げる。

 「神楽耶様もそうなら、エディは困るんじゃ?」

 「いえいえ、ゼロが私達の仲間でいてくれるなら別に結婚という形を取らなくてもいいんですよ。EUが今ゼロを取り込むべきか否かで意見が割れているだけで・・・。
 ただゼロが仮面をつけていて素性が不明なせいで国民達が不安になるので、言ってみれば保証書になる人物なら誰でもいいのです」

 つまりそれは日本の皇族の生き残りである神楽耶でも、EU加盟国の元首である自分でもどちらでも構わないのだという説明に、天子は納得した。

 「神楽耶様はゼロを夫にと自分からおっしゃるほどお好きのようですから、出来ればその方がいいです。
 政略でもお互いに思い合って結ばれる方が、みんな幸せになれますからね」

 どこの国でも、昔から政略結婚は当然のようにあった。
 習慣の違いなどからすれ違う場合もあったが良好に家庭を持った例も多く、結婚とは形式ではなく要は当人達の合性次第でうまくいくということだろう。

 「エディはゼロのことはどう思っているの?」

 「いい人と思っていますよ。家庭を大事にする方ですし、結婚することに不満はありません」

 それはルルーシュの方も同じのようで、正体も秘密もバレているしナナリーとも仲がいいので実は一番有利な立場にいるのがエトランジュだったりする。
 ただお互いにラブではなくライクの感情なので、『相手に好きな人がいるなら避けた方いい』という似た者同士の思考になっていた。

 「ただ、その場合私の家にお婿に来て貰うことになるので、ゼロがどう思うのか・・・私は一人娘ですからね」

 「そうか、エディにはご兄弟がいないものね。それに女王だし・・・」

 「王位は誰かに任せるという手があるからいいんですが、お父様と約束したんです。
 “お嫁に行かないでお婿さんを貰って、ずっと一緒に暮らそう”って」

 「そうなんだ・・・約束なら仕方ないわ」

 一般家庭ならよくあることかもしれないが、王族でそういうのはよくないと解ってはいた。
 けれどエトランジュには父と交わした約束を支えにここまで来たし、何よりエトランジュは祖国でずっと暮らしたいと願っているので他国に嫁に行きたくはなかったのである。

 「それに、黎軍門大人もこの件で中華でも重要な地位に就かれたお方です。
 いずれ将軍の地位を拝命なさることでしょうし、天子様がお年頃になる頃には決して不釣り合いなどと言われることはないと思いますよ」

 「え・・・それって、星刻と私が・・・その・・・・」

 ますます顔を紅潮させた天子に、エトランジュはさらに言った。

 「黎軍門大人のお身体の具合がよくなるように、実は知り合いのお医者様方に中華に来てほしいと頼んでいるところなのです」

 エトランジュ達がイギリスへ亡命した時、マグヌスファミリアのコミュティへ訪れたのが、国境を超える医師団と呼ばれる医師達だった。
 けが人こそいなかったが家族を大勢喪ったせいで精神面で傷を負った者が多く、主に精神科医などが来てカウンセリングなどを行ってくれたのである。

 その際エトランジュの主治医になってくれたのが日本の小さな村出身の精神科医で、日本語を教えてくれたのも彼だった。
 日本語をマスターした時卒業証書代わりにと、日本の秋葉原で流行ったというメイド服なるものをくれたとエトランジュは笑った。

 「その方も中華の現状をお話ししたら、ぜひ伺いたいとおっしゃって下さいました。 
 明日また奏上があると思いますが、国境を超える医師団という世界各地で医療活動を行う医師の方々に中華へ入国する許可を頂ければ・・・」

 「そんな人達がいるなんて・・・!解ったわ、みんなに聞いてみて、なるべく早く来て貰うわ!」

 星刻の身体が良くなる上に、病気で苦しむ人達も救って貰えると天子は喜ぶ。
 祖父や太師、星刻が言ったとおりだ。みんなと仲良くすれば、みんなが幸せになれる。

 超合集国が出来れば、きっともっと楽しくなるに違いない。
 そう思えば、今の多忙な日々すらも愛しく思えた。



 食事が終わった二人が食堂を出ると、太師に先導されたルチアがやって来た。

 「あ、ルチア先生」

 「突然にお邪魔して申し訳ございません天子様。お初にお目に掛りますね。
わたくしはマグヌスファミリアで教師をしております、ルチア・ステッラと申します」

 「あ、初めましてステッラ女史。蒋 麗華と申します」

 虚偽とはいえ星刻と一緒に暮らしている婚約者という女性は背の高い美女で、礼儀正しく優雅に挨拶をするルチアに天子は何だか尻込みした。

 「今回の件は大層ご心痛の限りと存じますが、ご無事で何よりでした」

 「天子様、この方のお陰でわしも命拾いをしましてのう」

 太師が大宦官によって毒殺されそうなところを、ルチアが化粧という男ではとうてい思いつかない策を持って助けてくれたと語ると天子は綺麗なだけじゃなくて頭もいい人なんだと思った。

 「中華の件は落ち着いたようですし、わたくしも折を見て引き上げようかと考えております。
 国境を超える医師団が来たら、黎軍門大人の容体も診て頂けるでしょうし」

 「いろいろと助けて頂き感謝しますぞ。本当にエトランジュ女王陛下はいろんな人脈をお持ちでいらっしゃいますなあ」

 小国の幼い女王と思いきや、地道に世界各地を回り、かつ両親の人脈基盤をしっかり受け継ぎ活動しているエトランジュに、さすが法を曲げてまで即位させただけはあると太師は感心する

 自他共に認めるあまり才能のないエトランジュだが、まさに人が人を繋いでいる。
 親や他人の力をいいように使っていると批判されることもあるだろうが、彼女なりに考えてまめに手紙や相手が喜ぶものを的確に把握して送ったりという地道な活動は、こうして実りを得た。

 「天子様も超合集国創立の際は、もっと素晴らしい人脈を作れましてよ。
 きちんと挨拶もお出来になられ、何が正しくて間違っているかもよくお解りになっていらっしゃる。
 素晴らしい皇帝陛下におなりでしょう」

 「ステッラ女史もそう思われるか。
 いやステッラ女史なら海外の作法にもお詳しいゆえ天子様にも教えて頂ければと考えておったのじゃが・・・・」

 こういう礼儀作法などに関することは、男である自分よりも同じ女性の方が何かとやりやすいのだ。
 理屈は解るが形式的にはただの教師とはいえ元ブリタニア貴族の自分がやるのはよくないと、ルチアは断った。

 「何だか外交って難しいのね。みんなで出来ることを教え合った方がいいと思うのに」

 「おっしゃる通りではあるのですけど・・・大人には何かと面倒な思惑がございまして」

 天子の子供らしい正論に、ルチアは苦笑を浮かべた。

 「ところでルチア女史は、どうして朱禁城に?」

 「ああ、黎軍門大人に薬を届けに参りましたの。
 あれほど持って行けと言ったのに天子様のことで頭がいっぱいだったらしくて、綺麗に忘れておりましたから」

 呆れたように言うルチアに、わざわざ届けに来るほどなのだから星刻とは仲がいいのかと天子が落ち込みかけた。

 「面倒なので人に届けさせようかと思ったのですが、この子がどうしてもエトランジュ様に会いたいと言うものだから・・・」

 「この子?」

 エトランジュと天子が顔を見合わせると、ルチアが背後の通路角に向かって呼びかけた。

 「イーリス、出ていらっしゃい!貴女が来たいと言ったのでしょう?」

 「イーリス?」

 ルーマニアで自分が保護した孤児の一人の名前に、エトランジュがどうして彼女がいるのかと驚いて角に向かって走り寄ると、そこには気まずそうに隠れていた銀髪の少女・・・イーリスがいた。
 天子は初めて見る自分より小さな少女を、興味深そうに見つめた。

 「エトランジュ様の身代わりのためにエヴァンセリン・・・様を中華にお呼びになったでしょう?
 その時にコミュニティから隠れて来たそうですの」

 呆れたように告げるルチアが言うには、婚儀の席でエトランジュの身代わりとして彼女の従妹であるエヴァンセリンを中華に呼んだ時、どうしてもエトランジュに会いたかったイーリスはこっそり双発の大型ヘリコプターに積まれた荷物箱に隠れて来たらしい。

 出発してしばらくした後に気付かれたが引き返す暇などなかったため、ルチアに預けて作戦決行となったのだがエトランジュに余計な心配をかけてしまうと判断したので黙っていたのである。

 「見送りの際にイーリスがいなかったけど、連れて行って貰えないことにすねていただけと考えていたらこれだったと、エヴァンセリン様も呆れておいででしたわ」

 「ご、ごめんなさいエディ様。イーリス、エディ様にずっと会ってなかったから会いたくなって・・・」

 さっきまでエトランジュに会いたいと騒いでいたのだが、会う寸前でエトランジュに叱られるでしょうけどとルチアに言われたので角に隠れていたのである。

 「だからと言って、こんな危ない真似をしていいはずがないでしょう!貴女はルーマニアであったことを忘れたのですか?!」

 初めて聞くエトランジュの怒声に天子もイーリスも驚いたが、叱られても仕方のないことだったのは解っていたのでイーリスはごめんなさいと再度謝罪する。

 「イーリス、エディ様の役に立ちたくて・・・コミュティじゃいろんなお手伝いさせてくれたけど、エディ様がいないんだもん。
 だから、イーリスが行けばいいって思って・・・」

 どうしても連れて行ってほしいと頼み込んだが八歳の子供は駄目と言われ、思いあまってオレンジが入ったコンテナに隠れたのだという。
 中華とEUの国境近くでトラックに乗り換えたのだが、その時検閲のためにエヴァンセリンがコンテナを開けるとそこにはヘリコプターが上がる時の衝撃で気絶しているイーリスがいて、当然その後みっちり叱られた。
 
 「二度としてはいけませんよ、いいですね?!」

 「はい、エディ様。ごめんなさい」

 素直に反省したイーリスにそれ以上叱責せず、エトランジュはふう、と大きく溜息を吐いてから天子に向かって言った。

 「申し訳ありません、天子様。急に怒鳴ってしまいました」

 「気にしないで、エディ。今のは仕方ないと思うから」

 「子供のすることとはいえ、危ない真似をしたのなら叱るのは大人の義務ですからのう」

 天子と太師が手を振ると、エトランジュはイーリスを紹介する。

 「ご紹介させて頂きますね。この子はイーリスと申しまして、ルーマニアで保護されてマグヌスファミリアに養女として迎え入れられた子なんです」

 マグヌスファミリアは占領時93人の国民が死亡しており、その後は多忙なことと行き先不安なせいか結婚なども行われていないので子供も数人しか生まれていないという、人口的危機に陥っていた。

 そこで何人かの孤児を引き取ろうということになり、EUも数人とはいえ引き取ってくれるならむしろ助かるということで、ルーマニアの孤児達を差し向けたのだ。
 戦争が終わって子供を育てられる余裕が出来たら、さらに養子にとろうということになっている、

 「イーリスといいます、天子様」

 「きちんと挨拶が出来て、偉いですな。さすがはエトランジュ様のお国の子じゃ」

 太師に頭を撫でられて、イーリスはエトランジュにも微笑みかけられてほっと安堵する。

 「今宵は朱禁城にお泊りになって下され。女官達に客室の準備をさせましたでのう。
 天子様もどうぞお部屋にお戻りを」

 「はい、太師父。エディとイーリスもおやすみなさい」

 「おやすみなさいませ、天子様」

 「天子様、おやすみなさい」

 エトランジュとイーリスに見送られて天子が太師と立ち去ると、エトランジュが言った。

 「イーリス、ことが落ち着いたら私もEUに戻るので、一緒に帰りましょう。
 またすぐ日本に向かうことになると思いますが、このようなことは二度と許しませんからね」

 「はい、エディ様」

 日本に来る時にイーリスまで来られたら、ルーマニア人質事件の二の舞になりかねない。
 特に日本は激戦地なのだ、何が起こるか解らないのだからなおさらである。

 「さあ、今日は一緒に寝ましょうか」
 
 「本当?イーリス、エディ様のお歌が聞きたい!」

 「いいですよ。さ、お部屋に行きましょう」

 イーリスの手を繋いで歩きだしたエトランジュに、ルチアは誰に似たのかと眼鏡を上げる。

 (全く、エディは甘いんですから・・・顔は父親似ですのに、性格は本当にどっちにも似ておりませんわね)

 エトランジュの両親であるアドリスとランファーは非常に享楽的な性格で、義務を果たした後は人生を楽しむべきという考えの持ち主だった。
 二人が出会ったのも大学時にあったコンパで、レポートを見せ合ってレポートや論文などを終えたら二人してどこかに遊びに消えるなどは日常茶飯事だった。
 いかに義務にかける労力を少なくして遊ぶ時間を確保するかに血道を上げていたのである。

 ランファーの方が年上だったので先に彼女が卒業して鍼灸師の職に就くと、アドリスは肩こりや神経痛に苦しむ友人を連れて会いに行ったりしていた。
 これだと友人の悩みが解消されるしランファーの収入にもなるし自分も好きな人に会いに行けて一石三鳥だなどとほざくような男だった。
 アドリスは情で動いても理が取れる考えをする男だったから、国王になるかもしれないと聞いた時は納得したものだ。

 ところが本人は王になったら仕事が増えるから嫌だ、妻子と一緒に自国に引きこもると公言してはばからなかった。
 当時女王だった母・エマの外交官として活躍していたアドリスには期待が高かったため、民主主義による投票で彼は王になったがその時もどうにかして逃げようとあがいていたのを今でもはっきり覚えている。
 
 結局は逃げられなかったので彼は王になり、義務を果たさなければ己の首が締まると理解していたアドリスは見事に務めを果たし、こうしてブリタニアとの戦争時にも国民を脱出させて生活させるための手腕を発揮した。

 幸いこの夫婦は自分達の性格がどこかかっ飛んでいることは自覚していたので、娘の教育には結構気を使っていた。
 そのため当時のアドリス夫妻を知る者達には、己の性格矯正には失敗したが娘の教育には成功したと言われている。
 
 (猫かぶりだけは得意で、よろしかったことアドリス。
 お陰でこうして中華との繋がりも円滑に進められたし、エディにはいい方向に向きましてよ)

 ルチアはそう内心で呟くと、星刻に薬を届けるべく彼女も歩き去ったのだった。
 


 翌朝、天帝八十八陵から戻った黒の騎士団達は蓬莱島で日本に戻るための準備をしていた。
 エトランジュがイーリスを伴ってやって来ると、エトランジュがゼロと話をするために席を外した後にゴミを集めたり掃除の手伝いをしたりして働くイーリスは、一部の騎士団達から可愛がられた。

 「可愛い、エトランジュ様の国の子ですって」

 「礼儀正しくてとても頑張るいい子ね。はい、飴玉あげる」

 「ありがとうございます、おいしく頂きます」

 きゃあきゃあと女性陣が子供を可愛がる光景は微笑ましく、男性陣は遠くからそっと見守っていたのだが、イーリスが何故か貰ったお菓子を抱えて千葉に手を繋がれてとことことやって来た。

 「どうしたんだろ、こっち来るよ」

 「こっちに挨拶でもしたいってことじゃないのか?」

 朝比奈の疑問に卜部が国王に似て礼儀正しい女の子っぽいし、と言うと、藤堂がなるほどと頷く。

 「こんにちは、藤堂中佐と・・・えっと、四聖剣さん」

 「はいはい、こんにちはー。俺は朝比奈 省吾。こっちの顔長いのが卜部ね」

 「朝比奈さんと、卜部さん?」

 「そ。で、あちらにいるのが我らが奇跡の藤堂中佐!!」

 朝比奈が藤堂にだけやたら丁重な紹介をしたので、卜部が思い切り朝比奈の足を踏んだ。

 「いったいなー、何するんだよ」

 「子供になんだから、もっと解りやすい紹介の仕方をしろ」

 「卜部の言うとおりだ」

 千葉が呆れると、?マークを飛ばしているイーリスに改めて紹介した。

 「今足を踏まれたのが朝比奈、踏んだのが卜部。そしてあそこで刀を持っておられるのが藤堂中佐だ」

 「朝比奈さん、卜部さん、藤堂さん!」

 「そうだ、よく覚えたな。さっきもきちんと私達のお手伝いをして、偉いぞ。
 ゴミ捨てや掃除なんか、みんな嫌がるのにな」

 千葉が腰をかがめてイーリスに視線を合わせながら頭を撫でて褒めると、イーリスは笑顔で言った。

「エディ様が言ったもの、人の嫌がることは進んでしてあげることはいいことだって。
 人が嫌がることほど自分がするのは、とてもいいことなんでしょう?」

 「そうだな、偉いぞイーリスちゃん。さすがはエトランジュ様だ、とてもいい教育をなさっておられる」

 大好きなエトランジュが褒められたイーリスは、自分も褒められてとても嬉しくなった。

 「うん、だからねイーリス、もっと頑張ろうと思って聞きたいことがあって来たの!」

 「聞きたいこと?いいとも、何でも聞きなさい」

 子供が頑張る姿を見るのは、大人としても気持ちがいい。
 昔子供達に武術を教えていた藤堂は懐かしくなり、厳格な顔を緩ませてイーリスに言った。

 「あのね、あのね!ブリタニア人の殺し方ってどうやるの?」

 無邪気にそう尋ねてきたイーリスに、その場にいた大人達の笑顔が凍りついた。

 「・・・え?」

 今この子何て言った、と絶句する彼らに、イーリスは笑顔でもう一度繰り返した。

 「うん、ブリタニア人の殺し方教えてって言ったの」

 まるで算数でも教えてくれというように笑って尋ねるイーリスに、悪意は全く感じられない。
 
 「・・・何でそんなこと知りたいのかな?」

 凍りつかせた笑顔で朝比奈がそう尋ね返すと、イーリスはんーと、と考え込みながら答えた。

 「イーリスね、エディ様のこと大好きなの。だからエディ様の役に立ちたいの」

 「それはいいことだね。で、それとさっきのとどう結びつくのかな?」

 「昔ね、エディ様に助けられたの。ブリタニアの人にイーリス達がえっと…人質っていったかなあ、そんなのにされちゃったことがあって」

 イーリスが拙い言葉で説明したところによると、彼女が自分達を引き取りに基地に来た時、ブリタニア人が自分達を人質にして降服しろと迫ったことがあったらしい。
 その時エトランジュが反撃してそのブリタニア人を殺したことで事なきを得たという事件があったのだそうだ。

 「エトランジュ様が・・・そういえば紅月が言っていたな」

 「そうなのか、千葉。あの方らしいっちゃらしいが・・・」

 千葉と卜部がエトランジュの意外な過去とそんな恐ろしい事件に巻き込まれたイーリスに同情の視線を向けると、イーリスは笑顔で続けた。

 「でもエディ様ね、その後凄い悲鳴上げて暴れちゃって・・・その時は怖かったんだけど、後になって思ったらエディ様かっこよかったんだ!」

 悪い人にたった一人で立ち向かったエトランジュがかっこよかった、と無邪気に語るイーリスに、きっと無意識に美しい記憶として改ざんされたんだろうなと誰もが悟った。
 悪い記憶をいいように修正するというのは、たまに聞く話だ。
 やや興奮気味にこうやって人形でガンガンってやってたんだ、と説明するイーリスに、想像したら普段おとなしいエトランジュがやるとむしろ恐ろしい光景でしかないと藤堂は思った。

 「そうか、エトランジュ様も君達を守ろうと必死だったんだろう。それで?」

 「うん、でも後で聞いたらエディ様、人を殺したくなんてなかったみたいだったのね。
 でもイーリス達を守るには仕方なかったんだってみんな言ってて・・・。
 あんな酷いことするブリタニア人なんか殺されて当然だって言ってたの」

 「そうだな、間違いないと俺達も思うが・・・・」

 「だから、イーリスがやってあげればエディ様が喜んでくれると思って!」

 満面の笑みを浮かべてそう告げたイーリスに、彼女の質問理由は解ったがとても同意出来ないそれに、一同は顔を見合わせる。

 「人の嫌がることをしてあげたら喜んでくれるって、エディ様が教えてくれたもの。
 だからイーリス、エディ様が嫌がってたから人の殺し方を覚えて、ブリタニアの人達を殺してあげようと思ったの」

 「・・・・」

 「ブリタニアの人達は悪いことばかりしてるんでしょう?
 エディ様のお父さんがいなくなっちゃったのもブリタニアのせいだから、ブリタニアの皇族がいなくなったらみんな元通りになるってアル様も言ってたし。
 だからイーリスもお手伝いしたくて!」

 確かに常日頃自分達が主張していることである。
 しかしだからと言って小学校も卒業していないような子供にやらせることでは断じてない。
 天子にさえこのような大人の政争に立たせたことに忸怩たるものを感じていているのだ。
 
 「マグヌスファミリアの人達は子供には教えられないって言われちゃって・・・。
 藤堂さん達はブリタニアに一番勝っている黒の騎士団の偉い人達だって聞いたから、だから教えてくれるかと思ったの!」

 「あー、うん。それで俺達に聞いて来たのか・・・」

 (でも、今更違うとは言えないしなあ・・・それに殺人でさえなかったならこの子のやろうとしていることはむしろいいことな訳で・・・)

 子供特有の短絡的な考えに、朝比奈は頭を抱えた。
 大好きな人に恩返しをしたい、嫌がることをやってあげれば喜んでくれるからその方法を聞きに来たという姿勢自体は確かにいいことなのだ。
 殺人をしたくないと思うのは人として当然のことだから、エトランジュが嫌がっているというのも本当だろう。

 「ちょっと待っててね~、相談するから」

 「うん!」

 イーリスが貰ったお菓子を大事そうに抱えて隅に会った椅子に腰かけるのを見届けると、藤堂達は円陣を組んで相談を始めた。

 「どうします、これ?俺らがごまかしたらあの子、絶対他の奴んとこ行きますよ」

 「戦闘のやり方なんか教えたら、エトランジュ様から苦情が来るし・・・ってか子供に教えられないのはマグヌスファミリアに限ったことじゃないって言えば」

 卜部の案に千葉が既にエトランジュ達が言っているはずなのに、どうしてまた自分達に聞いたのだろうと首を傾げる。

 「解らないことは聞けってしつけられてるようだからな・・・まともな教育を受けてる素直ないい子なのに、何でまた私達に・・・」

 千葉が呻くと同時に、ふと先ほどのイーリスとの会話を思い出した。

 紅蓮が来なかったみたいですけどと言う騎士団員に、カレンは他の仕事を日本でしていると告げるとカレンが学生をしていることを知っていた団員に学校ですかと尋ね返されたたのだ。
 そこへ少し考え込んだ表情のイーリスが質問した。
 
 『そのカレンって人は学校に行ってるの?』

 『もとは学生だったが、辞めて今は別の仕事をして貰ってるんだよ』

 いきなり会話に入って来たのでどうしてだろうと思ったが、理由が今解った。

 「学生=大人じゃない=子供。でも戦っているから日本ならいい・・・そう思ったんじゃ・・・・」

 短絡的にもほどがある。
 本当にどう説明すべきかと考えた結果、藤堂が覚悟を決めて言った。

 「あー、イーリス君。残念だがそれは教えられないんだ」

 「えー、どうして?!」

 頬を膨らませるイーリスに、藤堂は噛んで含めるように言い聞かせた。

 「君はまだ十五歳じゃないだろう?世界には十五歳にならないと戦争に参加してはいけないという決まりがあるんだ。君が巻き込まれた事件はあれは正当防衛なだけで、戦争じゃない。
 現にエトランジュ様も、十五歳になってから戦争に参加するようになったんじゃないのかな?」

 「あ、そういえば・・・でもカレンって人は?」

 「彼女は十七歳だ、問題はない」

 実のところ十七歳でもまだ高校生なので、戦前なら立派に罪に問われる行為だ。
 藤堂はカレンの年齢を口にしたことで、黒の騎士団エースと賞賛される彼女ですらもまだ子供と言っていい年齢であり、最前線に立って活躍しているこの時代を改めて狂っていると感じ取った。
  
 「・・・だから十五歳になったら改めて来なさい。
 それまでは君には他に学ばなくてはならないことがたくさんある、そちらを優先するべきだ」
 
 「そうそう、それに日本には決まりがあるんだ。学校を卒業しないと軍人にはなれないんだよ」

 これは本当なので朝比奈の言葉に皆うんうんと頷いた。

 「学校を卒業しないと大人じゃないっていうのは、どこの国でもそうなんだよ。
 エトランジュ様だってその方がいいとおっしゃるに決まってる。
 余計な心配をかけてしまうから、まずは勉強の方が頑張った方がいいと思うよ」

 「勝手に中華に来てしまって、心配掛けたと叱られたと聞いている。
 心配をさせてしまうのは悪いことだと、教わっただろう?」

 千葉にそう言われたイーリスは残念そうな顔をしたが納得したらしい。

 「そっか、エディ様に心配かけちゃいけないもんね。十五歳かあ・・・まだずっと先だなあ」

 「まあまあ、仕方ないよイーリスちゃん。ほら、難しいことは僕らに任せて、君は部屋に戻って勉強しないと」

 「朝比奈の言うとおりだ。勉強なら教えてあげられるから、解らない問題があったら聞きにおいで」

 「うん!ありがとうございます。じゃあイーリス、お部屋に戻るね」

 千葉に頭を撫でられたイーリスがさようならー、と頭を下げて足取り軽く立ち去るのを、一同は引き攣った笑顔で見送った。
 イーリスの姿が見えなくなると、卜部が思い出したように言った。

 「そういやあさ、サイタマの加藤が言ってたな。今の子供達はいい子が多いって」

 「いい子が多い、とはどういうことだ?」

 「俺らが子供の頃って言ったら、イタズラしたり我が儘言ったりで親を困らせたりするのが普通だったけど、そんなことする子供が少ないってことです。
 知人の五歳の男の子も変わった行為をしては親を困らせる子だったらしいんですけど、コーネリアの虐殺事件以降はぱったりと止んだとか・・・」

 無理もない、と藤堂が嘆息した。
 子供は好き勝手に振舞うと言う大人が多いが、実際はそうでもない。
 子供は親の背中を見て育つと言うように、子供は常に親の空気を読んで動いている。
 つまり子供はこれくらいなら許して貰えると無意識に悟ってやっているのであり、ボーダーラインというものを子供なりに理解しているものだ。

 いい子が多いということは悪戯や我儘を言える雰囲気ではないことを子供が悟っているということで、今の日本の状況の酷さの一端を表しているといえよう。

 「そう考えたら、子供が親を困らせるというのはむしろ平和でいい事なのかもしれんな。まあ程度はあるだろうが・・・」

 「その親御さんも子供がいい子になったというのを喜ぶどころじゃなかったって言ってたそうです。
 子供に気を使われたくないと、普通の親なら思うでしょうね」

 「・・・子供の前では話題を選ぶよう、騎士団内で通達した方がいいかもしれんな。
 子供があんな風になるのは、見るに忍びん」

 「賛成です、中佐・・・」
 
 子供はいつでも大人の真似をしたがるものだし、また正しいと信じるものだ。
 だがいくら自分達がいしていることが正しいと思っていても、子供が見習うべき行為ではないことだと改めて気付いた。

 少し鬱になった気分を叱咤して作業を続けた後、藤堂と千葉は終了報告を兼ねた提案をすべく、ゼロの執務室へと向かうのだった。



 ゼロの執務室では、ルルーシュとアルカディアが今後について相談していた。
 ちなみにエトランジュは今天子と話しており、ここにはいない。

 「そろそろ一度、日本に戻った方がよくない?処理も一段落したことだし」

 「そうですね、一ヶ月も留守にしてしまいましたし・・・特区のほうを見て、今度はEUに向かおうかと」

 「EUはまだゼロに懐疑的だけど、レジスタンスの方ならぜひって意見が多いの。そっちにまず顔を出して貰いたいんだけど」

 「了解した。では十月辺りにでも・・・」

 ルルーシュとアルカディアが話していると、ノックの音が響いた。

 「誰だ?」

 「藤堂だ。少し話があるんだが」

 「藤堂か、入ってくれ」

 「こちらの戦後処理は終わった。後は日本に戻る準備をして、明後日には日本に向けて出発出来る」

 「そうか、私は先に別便で戻らせて貰うが、帰還の指揮はお前に任せる」

 「承知した。ところでゼロ、話があるんだが」

 藤堂が彼らしくもなく溜息をついて話した先ほどの出来事に、聞いていたアルカディアが眉根をひそめた。

 「イーリスがそんなことを?すまなかったわね藤堂中佐」

 「いや、子供らしいといえばそうだから、叱らないで差し上げてくれ。
 ただこういったことが今後もあるかもしれないから、騎士団内でも団員の子供達がいるから言動に注意するようにゼロから喚起した方がいいと思ってな」

 「・・・なるほど確かにその通りだな。日本に戻ったら、さっそく言っておこう。
 ブリタニア人というだけで嫌悪の目で見るようになったら、日本が解放されたら逆にブリタニア人を迫害する土壌になりかねないからな」

 「それもよくないが、何よりまずいのは真似をしようとする子供が出てくることだ。
 イーリスという少女のように無鉄砲な行為をする子供が出ないとも限らない」

 「もっともだ。騎士団に入りたいという子供が多いが、自分は大人だと認めて貰うためにやるかもしれん。
 重々言い聞かせて釘を刺しておくよう、孤児院の職員などに言っておくとしよう」

 ルルーシュが大きな溜息をつくと、アルカディアも同感だったらしい。
 マグヌスファミリアでも十五歳になったらその瞬間に自分達の元に来ると言い出す子供が多い。
 何しろ自分の親が自分を逃がすために死んだという子供もいるので、復讐心に燃えている者も多いせいだ。子供が染まっていくのも無理はなかった。

 (私も疫病神国家のブリタニアのせいだと叫んだしなあ・・・今思えばまずいことしたもんだわ)

 ルーマニアで起こったエトランジュ正当防衛事件の際、異常な気迫で脱走兵を殺したエトランジュに怯える子供がそれなりにいたのだ。
 そのため周囲の大人達がエトランジュは悪くない、悪いのはブリタニア人だから彼女の行為は正しいと言い聞かせたことが尾を引いたかと、アルカディアは眉間を押さえる。

 「事実を事実として言っただけなんだけど・・・」

 「だからこそ気をつけねばならないということでしょう」
 
 確かに、と一同が同意し、ルルーシュが改めて注意を呼びかけておくと話がまとまったところで、話を子供の前で絶対に出来ない戦場の話へと戻した。

 「今後のことだが、EU戦のほうもラウンズが一人戦死しナイトオブスリーとフォーが一度本国に戻ったのでしばらくはナイトオブテン一人が相手となるでしょう」

 「ブリタニアの吸血鬼だったかしら?あいつ枢木とは違った意味で単純なんだけどあんまり相手にしたくないなあ」

 オープンチャンネルで聞いた快楽殺人者の言動をするルキアーノ・ブラッドリーに、アルカディアはげんなりする。

 「ま、直接突っ込んでくるタイプみたいだから、ナイトオブトゥエルプみたいにすれば勝てる可能性は高いわね。
 ゲフィオンディスターバーも改良して、戦場でも使いやすいようにすれば・・・」

 「幸いあの場面はブリタニアに見られていない。対策はとれまい」

 「『切り札は先に見せるな。見せるならさらに奥の手を持て』って言ってた人もいたしね。
 ラクシャータさんと協力して、改良しておかないと」

 ルルーシュが仮面の下で悪どい笑みを浮かべると、アルカディアも親指を立てる。

 「そうそう、例の大宦官の本音暴露映像、EUでも流しておいたんだけど反響が凄くてね、反ブリタニアに世論が傾いてるみたいよ。
 友達に頼んであちこちばら撒いて貰った甲斐があったわ」

 大学の友人に頼んで出来るだけ多くのサイトに動画をばら撒いて貰ったというアルカディアは、実に楽しそうに言った。

 「友達も大宦官の慌てふためきぶりに爆笑しててさ、こういうことならいつでも声掛けろって言ってくれたわ。
 EUのお偉いさんは初め削除させるべきだって意見もあったけど、ここまで来たらもうどうしようもないし中華も抗議しない方向になったから、放置してるみたい」

 「ブリタニアが中華を批判している様子を合わせて暴露したのも、中華を反ブリタニアに傾かせるのに効果的でしたからね。
 さすがはアルカディア様、目の付けどころがいい」

 ルルーシュが素直に賞賛した。
 シャルルが『中華は怠け者ばかり』と言っていたと民衆にバラせば反ブリタニアになるというのは、アルカディアからの提案だった。
 案の定職がなく苦しんでいる彼らは激怒し、ブリタニアに悪感情を抱かせるには充分だったのである。

 的確にブリタニアにダメージを与えるマグヌスファミリアのやり方は、決して綺麗とは言い難い。
 モニカを討ち取った時も、複数のナイトメアや罠を使って一人を追いつめ撃破したという戦法は、傍から見たら集団で一人をなぶっているようにしか見えないだろう。
 それでも躊躇うことなく実行に移してのけたアルカディアは、究極の現実主義者だと藤堂は知っている。

 いつぞやスザクを暗殺すべきだというディートハルトの案に反対した藤堂と扇に対し、アルカディアはそれが一番だと賛成した。
 扇に対して上の地位にいること自体が既に武器を持ったことになる、それが他者の命を奪うことになり、それ故に自分が命を奪われても仕方ないと言い切った。
 他人に言うくらいなのだから、当然自分がそうなることを覚悟の上でここにいる。

 (大学の友人、か・・・彼女もまだ学生だったんだな)

 二年半前に大学を休学したアルカディアは、十六歳でイタリアのそれなりに有名な大学に奨学金で入学したという、一般的には天才の部類に入る人間である。
 ただそれ以上の天才(特にゼロ)がわらわらいる黒の騎士団にいると普通の人に見えてくるのだから世の中広いと本人は語っていた。

 「私達はブリタニアを倒すためなら何でもするって決めたの。
 そのためにどうすればいいか、仲間うちでいろいろ話してるからね」

 ラウンズを倒す作戦の際、アルカディアは機体性能が勝る相手をどうするかと考えた結果、複数のナイトメアで襲いかかってゲフィオンディスターバーで動きを止めれば何とかなると考えた。

 アルカディアは基本的にどう作戦を考えるかというと、“仲間を決して死なせることなく相手だけを殺す”ことに重点を絞っている。
 自分達が弱いことを自覚しているがゆえに、考えることに容赦も血も涙もなかった。
 もともとブリタニアからされたことが軍隊を持たない国に襲われたというものだったので、なおさらである。

 「連中は強い。だったらこちらも相当のことをしなければ勝てはしない。
 実際フロートシステムを壊してデータをしっかり取って相手の行動を読んで、飛鳥に引きずりこんで動きを止めてやっと勝てたんだから。
 私はそんな連中とまともに戦う気なんてさらさらないわよ」

 仲間を無駄死にさせる気はない、させるくらいならどれほど外道な手段でも取るという彼女は、軍人気質の自分から見ると確かに恐ろしさすら感じるが、一面では正しくもあると藤堂は理解している。
 上に立つ者が部下の命を守るのは当然であり、そのために泥をかぶるのはこれまた当然のことだからだ。

 「私は家族をこれ以上喪いたくないもの、そのためならどんな手も打つわ。
 卑怯でも卑劣とでも、いくらでも好きなだけ罵ればいい。それだけで家族を守れるなら、何てことない代償よ」

 本来ならしなくてもいい覚悟だった。
 それをさせたのはブリタニアだ、と言うアルカディアに、藤堂は瞑目した。

 思えばスザクも変わった。以前はもっと個人主義だったのに、今やルールを重視する平和な世の中なら優等生として褒めてもよい性格になっていた。

 変わらないものなどないと知っていた。
 けれどこんな風に変わって欲しくなかったと思うのは、大人の身勝手な思いだろう。
 大人がこうも事態を悪化させた結果、子供達がそのツケを払っているようなものだ。

 自分達を守るためとはいえ何の覚悟もないまま人を殺したエトランジュに、汚い大人に操られ政治の道具とされてしまった天子に、日本最後の皇族としての重みを背負った神楽耶に、父と姉が仕出かした行為を平和的にどうにかしたいと立ち上がったユーフェミアもまだ大人の庇護が必要な少女達だ。

 自分達が変わっていくことを、彼女達は自覚しているのだろうか。
 長きに渡る争いに、自らが歪んでいることも解らず無邪気に殺人の方法を尋ねて微笑んだイーリスは、それを端的に象徴しているように見えてならない。

 (どんな手を使っても、早く戦争を終わらせるべきだ。
 手を汚すのは本来なら我々だけの役目のはずなのに)

 『スザク・・・僕は、ブリタニアをぶっ壊す!』

 燃えるような夕焼けの中、そんな誓いを口にした少年の姿が脳裏に蘇る。
 幼い妹を抱えて実の父親に見捨てられ、味方は親友一人という絶望の中でも、そう言って立って歩いた黒髪の少年は、今どうしているのだろうか。

 そう考えた時ゼロがあの時のブリタニアの皇子ではという考えがよぎった藤堂だが、スザクはゼロの仲間になるのを拒んだのだ。

 (・・・まさか、な。もしそうなら、あれほどルルーシュ皇子と仲が良かったスザク君が仲間になるのを拒むはずがない)

 自分の考えを軽く首を横に振って打ち払った藤堂は、七年前にあの古い土蔵で楽しそうに笑い合っていた兄妹とかつての弟子の姿を思い出した。

 ずっと長く続くと信じていた、当たり前の幸福。
 落ちた鏡のように砕け散った欠片に映った己の姿に、かつての弟子は何を思ったのだろう。

 過去を懐かしむ間もなく、彼らは今日も戦場へと向かう。

 そこにいるのは、駆け足で大人にならざるを得なかった幻のような子供達だった。



 中華連邦某所にて、金髪を足下にまで伸ばした子供が頬杖をついて座りながら何やら考え込んでいた。

 「せっかく中華をブリタニアのものに出来るはずだったのに、逆に反ブリタニアになっちゃったのは困ったなあ。
 C.Cがギアス嚮団のことをゼロにバラしちゃってたら、ここを潰そうとするだろうし・・・」

 ギアスと関係の深いマグヌスファミリアの連中と組まれたら、能力こそ弱いがあちらのほうがギアスの歴史が長いので何をしてくるか解らないというのもある。

 「暗殺しちゃおうと思ったけど、連中ギアス対策も完璧だったし」

 以前にギアス嚮団の暗殺者を差し向けたところ、かろうじて一人だけ殺せただけで他は返り討ちにされた。

 「ゼロをどうにかするしかない、かな・・・マグヌスファミリアもゼロとC.C頼りだろうし、ゼロを殺してC.Cを連れ戻して研究を進めるのがいい」

 自分達の邪魔をするルルーシュが、V.Vは気に入らなかった。自分達兄弟の仲に割って入ったあの女に似ていることが、なおさら気に食わない。
 今まで放置していたのは自分達の計画に支障がなかったからだが、本拠地としている中華がゼロ側に向いた以上呑気にしているわけにはいかない。

 「これくらい大丈夫って放っておいたら、シャルルが変わっちゃったんだ。さっさと行動しておかないと!」

 V.Vは思い立ったが吉日とばかりに椅子から降りると研究室へと向かった。
 そこにはエリア11から送られていた実験体・ジェレミア・ゴットバルトが実験装置の中で液体に包まれている。

 「ねえ、ギアスキャンセラーの適合体のことだけどどんな具合?」
 
 「V.V様・・・申し訳ございませんまだ使いものにはならなくて」

 「そっかあ・・・なるべく急いでね。完成したらゼロのギアスに対する武器になるんだから」

 「承知しました」

 研究者にそう言いつけたV.Vは、探索を担当しているギアス能力者を日本に派遣してルルーシュの居場所を探すことにした。
 以前はアッシュフォードにいたと知っているが、その後の行方はこれまで興味がなかったこともあり今まで調べていなかったのだ。

 (シャルルもあいつには興味ないみたいだし、殺しちゃってもいいよね。
 ギアス嚮団を守るためなんだし・・・C.Cだってそろそろ捕まえなきゃ)

 そう自己完結したV.Vが他のギアス能力者に命令を出そうと歩き出すと、人形のように無表情の少年とすれ違った。

 「あ、ロロ。ちょうどよかった。君にまた仕事を頼もうと思ってたから」

 「解りました。誰を殺すんですか?」

 「ゼロってやつ。居場所が解ったら、また連絡するからね」

 「はい」

 淡々と殺人の命令を了承したロロは何事もなかったかのように殺風景な自室に戻り、ベッドに横になった。

 ・・・夢は、見なかった。


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