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No.18506の一覧
[0] 風車通信 ~忍術学園編~[緋色](2010/05/11 01:52)
[1] 忍術学園入学 の 段[緋色](2010/05/14 01:55)
[2] いつも真面目にやってます の 段[緋色](2010/05/20 01:45)
[3] 学園長の思いつき の 段[緋色](2010/06/15 00:53)
[4] くの一教室は恐ろしい の 段[緋色](2010/06/15 01:17)
[5] 番外編 くの一教室へようこそ の 段 + α[緋色](2010/06/30 02:06)
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[18506] 学園長の思いつき の 段
Name: 緋色◆5f676539 ID:64f78d5b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/15 00:53
学園長の思いつき
の段




「乱太郎。起きろ、朝だぞ」

べしべしと頭を叩かれ、乱太郎は薄っすらと目を開いた。今自分を起こしたのが顔を覗き込んでいる同室のきり丸だと気付いてへにゃりと笑う。

「おはよう、きり丸」
「ああ、おはようさん」

挨拶を返しながら布団の片付けに入ったきり丸を寝ぼけ眼で追いかける。起き上がったはいいもののまだ眠そうに欠伸を繰り返した。

「きり丸は寝起きがいいねー」
「そりゃいろいろ働いてるからな。早起きは三文の得、ってね。乱太郎だって朝の仕事とかあっただろ?」
「そりゃそうだけど、家じゃないからなんか気が緩んじゃって・・・」

乾布摩擦をし始めたきり丸からばつが悪そうに視線を逸らせて反対側に敷かれた布団のふくらみに気付く。枕元から取った眼鏡をかけながら近づいて、そのふくらみを小さく揺する。

「しんべヱ起きろ朝だよ。しんべヱ」

乱太郎が少し乱暴に揺すっても布団を被った子供はピクリとも動かない。乱太郎の方も段々と揺する度合いが強くなり、終いにはぺしぺしと叩き始めた。

「しんべヱったらっ 起きろよ、遅刻するぞっ!」
「くすぐっちゃえよ」

絶妙なタイミングで飛んできたきり丸の言葉にすぐさま実行に移す。

「うりゃうりゃこちょこちょこちょこちょっ」
「ふんじゃえよ」
「おきろったらっ」

グッ、と足に力を込めて布団ごと踏みつけた乱太郎の後ろで加勢するかのようにきり丸の声が続く。

「けってやれ」
「しんべヱったらっ」
「つねってやれ。はったおしてやれ」
「しん・・・・」
「水かけてやれ」
「・・・・・・きり丸、むちゃくちゃ言うなよ」

声に乗せられるようにしていた乱太郎もさすがに色々無視できなくなって振り返ると、乾布摩擦を終えたきり丸が制服である空色の忍び装束片手に二人の方を向いた。浮かべていた愛想笑いが次の瞬間ギョッとしたように変化して、しんべヱの方を指差す。

「え、なに? ―――うわッ!?

つられてしんべヱの方を向いた乱太郎も悲鳴を上げて仰け反った。
それに気付かず、もぞり、と動いて布団から顔を出したしんべヱは寝ぼけたまま二人を確認して舌足らずな声を出す。

「・・・おはよう、ふたりともぉ」
「お、おは・・・じゃないっ しんべヱどうしたんだその頭っ!」
「へ? 頭?」

乱太郎に促されて頭に手をやったしんべヱは固い手触りにああっ、と大きく声を上げた。髪の毛がひとつ残らず重力に逆らって天辺に向かって伸びている。思いっきり触っても一本たりとも落ちてくる気配がない。

「夕べリンスするの忘れてたっ」
「リンス?」
「それ、寝ぐせかぁ?」

しょんぼりと俯いたしんべヱに合わせてカッチカチに固まっていた天を指す髪の束も動く。
その不思議な光景に顔を見合わせていた乱太郎ときり丸も障子の外から聞こえた鳥の鳴き声にすぐに我に返った。乱太郎が昨晩枕元に置いた櫛を手に取る。

「そのままじゃ授業に出れないよ。とりあえず結いなおさなきゃ」
「だな」

しんべヱの隣にひざまずきしんべヱの頭の攻略にかかったのを乱太郎を見ながら、きり丸はとりあえず手に持っていた袴を床に置いた。先に着替えておこうと着物を持って背を向ける。

ベキッ

「えっ?」
「どうした? 乱太郎」

背後から聞こえてきた音に振り返ると呆然とした乱太郎が歯のない櫛を片手にきり丸を見上げた。その膝の上には櫛の歯だったものがぱらぱらと落ちている。

「・・・クシがとおらない・・・」
「は?」
「ほんとだって! すっごく硬いんだからっ」

立ち上がって膝の上の櫛の歯を叩き落す乱太郎と入れ替わるようにきり丸も櫛を片手に近寄った。半信半疑にしんべヱの髪に当てて動かすとまったく同じ音がしてきり丸の櫛からも歯がなくなる。

「ああッ?! オレのクシがっ!」
「ほらね」

部屋の隅に置いてある道具を入れた唐櫃から探し当てたブラシを片手に乱太郎が肩をすくめる。他にも櫛や小さな熊手――棒の先に鉄の爪のついた草や穀物などをかき集めるための道具――なども持ち出して二人がかりで髪をすく作業に入ったが―――。
バキッ、ベキッ、と明らかにおかしな破壊音を立てて次々と道具が壊れ、足元に転がっていく。

「だめだ。硬くてクシがぜんぶ折れちゃう」

歯が折れた最後の櫛を手に持ったまま乱太郎が困ったように呟くと隣で見ていたきり丸は考え込むように腕を組んだ。あれだけ頑張ったのにしんべヱの髪の毛は毛一筋も乱れがなく立っている。

「どうすんだよ。これじゃ頭巾がかぶれないぜ?」
「そうだよねぇ」
「ええっ どうしようっ?!」

言われて気がついたのか、困ったようにしんべヱがおろおろと二人を見比べる。
頼るように見られてしばらく唸りながら考え込んでいた乱太郎がふいにぱっと顔を輝かせて、ポン、と手を打った。

「そうだっ!」






「おはよ、風車っ」

元気よくかけられた声に手元から顔を上げた風車は真横に立っていた団蔵に気付いてすぐに表情を緩めた。危なっかしげに食器の乗ったお盆を抱える姿に少し体をずらして席を空ける。

「おはよう団蔵。今日はけっこう早いな」
「なんだよ今日はって。家じゃけっこう早く起きてるんだぞ、これでも」
「起こしてもらって起きるようじゃダメだって」
「わかってるってばっ だからもうちゃんと起きてるよっ」

お盆を置いて腰掛けるその姿に一言注意をするとふてくされたように頬を膨らませたので風車はそのまま自分の手元に視線を戻した。炊き立てのご飯に焼き魚の切り身、ワカメと豆腐の味噌汁、梅干、大根の漬物という、朝の定番料理だ。
朝日は昇り始めたばかりだがもう上級生や先生方の食事タイムは終わっていて、けれどもまだ低学年の授業までは少し間がある中途半端な時間の所為か、食堂はあまり混んでいない。等間隔に並べられた木製の細長いテーブルには空色の井桁模様がちらほらと見える他、青色が多少うかがえる程度だ。

「虎若は?」
「まだ寝てた」
「・・・・そこは起こしてやれよ」
「だってまだ時間があるだろ? ぼくは馬を見に行ってただけなんだし」
「ほんと、馬が大好きだな」

いただきます、と手を合わせる団蔵の隣で魚をほぐしながら風車が感心すると団蔵は目をキラキラさせながら頷いた。

「当たり前だろ? ぼくん家、馬借だぞ。馬は家族だ。
 さっきずっと見てたけどここの馬っていい身体してるんだ。やっぱきたえ方も違うんだろうなぁ」
「立派な馬バカだな。俺は植物見てるほうが好きだけどな」

大根をぽりぽりと齧る風車に団蔵は吸おうとしたお味噌汁から顔を上げて眉を寄せた。学園に入ってからすぐに朝の散歩と称して学園内の植物を見てまわっている風車に不思議そうに唇を尖らす。

「ええー? 植物はなんにも答えてくれないじゃん」
「ばか言うな。植物は手をかければかけただけきちんと返してくれるぞ。今だってその植物を食ってる分際でばかにするな」
「そういうもんかねぇ」

育てた事ないからわかんねえ、と魚の攻略にかかりながら首を傾げた団蔵はふと思い出したように小さく声を上げた。なんだ、と視線を向ける風車の方は向かず、お盆に顔を向けたまま先ほどの出来事を思い出すように視線だけ巡らせた。

「なんか今日先輩にあった」
「馬小屋で?」
「そう。小屋の中のぞいてたら「馬に興味あんのか?」って、ボサボサ頭の先輩が話しかけてきた。「良かったら委員会、ウチ来いよ」って」
「委員会・・・・・・・・・・ああ、なんかそういうのがあるっていってた気がするなぁ・・・」

箸を止めて視線を上空に向けた風車に団蔵も箸を止める。視線を風車に向けると何を思い出したのか苦々しげに顔を顰めて無意味に梅干の種を突いていた。

「風車も先輩に声かけられたのか? 同じ先輩?」
「同じっていうか・・・そもそもどんな先輩か知らないし」
「紺色の制服に木っ端とかくっつけてなんか朝からすっごい汚れてた。んでなんでか手に虫取りアミもってた。ニカッ、って笑ったあと、ここらへん今危険だから近づくなよ、って」
「ふうん。紺色なら五年―――ってことはサダ兄の知り合いと同い年だな」

そこまで言ってカウンター越しに食堂のおばちゃんが睨みつけてくるのに気付いた風車は慌てて手を動かす事にした。
白い紐で頭部と背中の黒髪を束ね、白割烹着を身に着けたおばちゃんは恰幅の良さもあってすごく迫力がある。包丁片手に「お残しは許しまへんでーー!!」と叫ぶ姿は学園最強と言われても納得できるほどの怖さだ。
そして何より料理が美味い。美味いは正義だ、と風車は残り少なくなった白米をかみ締めながら満足そうに笑みを浮かべた。

「・・・兄ちゃんいんの?」

風睨み付けるおばちゃんに気付き、風車と一緒になって箸を進めていた団蔵がその目をかいくぐるようにこそこそと尋ねてきたので小さく頷く。

「いるよ。この学校の出身者。といっても途中でやめたけど」
「ええ~、いいなぁ――――ぶふっ!」

羨ましそうに唇を尖らせて箸をくわえたまま流れた団蔵の視線がふいに入り口で止まり、いきなり口の中に入れていた咀嚼途中の白米を噴き出した。間髪いれずに「こらーっ!」という怒声とともに飛んできた木製のしゃもじが見事に団蔵の頭に当たる。
被害にはあわなかっただろうが咄嗟に席を立って避けた風車も遅れて食堂内のざわめきに気付いて入り口の方へと視線を向け、団蔵と同じように顔を引きつらせた。
そこにいたのは見覚えのある三人組だった。
どよめきを受けながら食堂に入ってきた一年は組の仲良し三人組は先に食堂にいた二人に気付いてカウンターで受け取ったお盆を手にそそくさと近づいてくる。

「おはよう、二人とも」「はよっす」「おはよう」

空いていた自分達の前の席にお盆を置く三人に団蔵と風車は顔を見合わせた後、もう一度確認するように三人組の方を向いた。何度見ても変わらない。

「・・・おはよう。あの、さ――」
「しんべヱ、なんで袴かぶってんの?」

立ったまま机の上を布巾で拭きながら言葉を選ぼうと口を噤んだ風車の隣で頭にたんこぶを作ったまま口元を袖でぬぐった団蔵がずっぱりと言い切った。瞬間しんべヱの顔が歪み、同時に乱太郎を挟んで反対側に座ったきり丸は、ほらな、と唇を尖らせた。

「やっぱりお前が目立ってんじゃん。しんべヱ、お前もうちょっと向こうに座れよ」
「そんなぁ~」
「きり丸っ」

あまりにも友達甲斐のない台詞に流石に乱太郎が怒るように声を尖らせる。
その間に席についた風車は食べ終わった自分のお盆の中の物をぜんぶ重ね、食後のお茶をテーブルの端に置いてあった急須から自分の湯のみに注いでしんべヱの方を向いた。

「それで? 頭巾はどうしたんだよ」
「・・・う・・ん・・・あるけど・・・」

口の中でごにょごにょと言葉を濁したしんべヱに埒が明かないと悟った風車は乱太郎ときり丸の方を見る。きり丸は肩をすくめて手を合わせた後食事に取り掛かり、乱太郎も一緒に手を合わせながら苦笑してしんべヱの頭の上の袴に視線を向けた。

「ちょっと、寝ぐせがひどくて頭巾がかぶれないんだ」
「だからって袴かぶることないだろ。もういっそ頭さらしてくればいいのに」
「ほんと、なにごとかと思ったよ」
「だめだめ。そんな事してみろ、爆笑のうずになるぜ」

笑い混じりのきり丸の言葉に一体どんな寝ぐせなんだ、と風車はいぶかしげにしんべヱの方を向いた。隣で最後の味噌汁を飲み干した団蔵もお椀を置いてしんべヱの方を見る。
手前から二人に見られて居心地悪そうに身を縮めたしんべヱだったが、すぐに鼻をくすぐる朝食のいい匂いにそんな事も忘れ、よだれを垂らしそうになりながら手を合わせて「いっただっきまぁすっ!」と大声で叫んだ。だがすぐに味噌汁に目を向けて眉毛が垂れ下がる。

「・・・・・ワカメが入ってる・・・」

しんべヱの変化した空気に気付いたのかすぐさま後ろからおばちゃんのプレッシャーとともに「お残しは許しまへんでーーっ」という声が飛んできた。
その声で泣きそうになった瞳がますます緩む。

「・・・・ううぅ・・っ」
「・・・ほら」
「でも少しは食べないとダメだよ」

涙が浮かんできた目にしょうがないなといわんばかりにきり丸と乱太郎の器がそっと差し出された。
パァッと顔を輝かせて味噌汁からワカメだけを取り出すしんべヱに、向かいからその裏工作を見ていた風車は顔を顰める。

「煮た大豆はお腹の中で発酵して中毒を起こすからワカメとかいっしょに食べないとあぶないぞ。昆布ダシっぽいけどいちおう安全のために一枚でもいいから食べなよ。おばちゃんはちゃんと考えて作ってるんだからな」
「? どういうこと?」
「ワカメも食べないとお腹こわすってこと。ご飯、味噌、海藻、梅干。これかんぺきな食事の見本」

ええ~、と嫌そうに声を上げたしんべヱを放って飲み終わった湯飲みをお盆の上に置いた風車は手を合わせて今日の食事に感謝した後、さっさと席を立った。じょじょに食堂に人が増えてきている。

「じゃ、俺さきに行くから」
「あ、ぼくも行く」
「その前に虎若を起こしてあげなよ。そろそろ朝ご飯食べないと授業に間に合わないだろ」

同じくお茶を飲み終わった団蔵にそういうと風車は自分のお盆を持ち上げた。慌てたように手を合わせて「ごちそうさま!」と大声で言った団蔵も自分の食器を全部お盆に入れて持ち上げる。
カウンターで食器を返却した二人はそのまま出入り口まで歩き、入れ違いに入ってこようとした一年生が中を覗いてギョッと体を引くのを横目に見ながら通り過ぎた。

「・・・・・・・しんべヱ、目立ってたね」
「そりゃそうだろ」






「土井先生、聞きましたか?」
「なにをですか? 山田先生」

半助が今日の授業で使う資料を整理していると、部屋に戻ってきた伝蔵が障子を閉めながらため息を吐いた。円座に座ったまま不思議そうに見上げた半助に疲れたような眼差しを投げる。

「飼育小屋が三年は組の浦風うらかぜの特訓で壊され、用具委員が小屋を修理する前に中にいた生物とともに三年い組の伊賀崎いがさきのペットも少し逃げ出したとか」
「またですかぁ?! だから生徒が危険な生き物を飼う事に反対なんですよっ うちにはまだ小さな子供もいるんですから!」

朝っぱらからの嫌な報告に半助は眉をつりあげ、大きな音を立てて机に手を打ちつけて立ち上がった。片手に教材を抱えたまま立っていた山田は半助の機嫌をとりなすようにまぁまぁと空いたもう片方の手を振りながら苦笑を浮かべる。

「幸い生物委員が大半の生き物を無事捕まえたそうなんですが、亀郎一家がまだ行方不明だとかで伊賀崎が今必死になって壷を抱えてうろついてますよ」
「・・・・・・その亀郎一家ってなんですか?」
「カメムシだそうだ」

まだ微笑ましいじゃないですか、と言った伝蔵の言葉に半助は肩の力を抜いた。吊り上げた眉を元に戻し、苦笑いする。

「じゃあ今日の授業は滞りなく行われるわけですね」

まだ始まったばかりなのにすでに予定より遅れ始めている授業内容を思い返しながら視線を流した半助の視界の隅で音を立てて障子が乱暴に開かれた。ギョッと入り口を見やった二人の前で障子を開けるために広げた両手をそのままに堂々と立っていた老人が胸を張る。

「今日の授業は中止じゃっ!!」
「学園長?! なんでですかっ!?」

いきなりの登場に加え、いきなりの宣言に半助が詰め寄ると学園長はふい、と視線を外へと流し、シワだらけの指を庭へと向けた。

「生き物の生態を知っておくのも忍者には欠かせない事じゃ。一年は組は今からカメムシ捜索に加わりなさいっ」
「なんでうちなんですかっ! 他にも・・・・というより飼い主もいるんですから三年生あたりに任せればいいじゃないですかっ」
「三年は今、混乱に乗じて逃げ出したジュンコと迷子達の捜索に当たっておる」
「・・・またですか・・・」

必死の顔で詰め寄る半助にも動じずすまし顔で答えた学園長に伝蔵の肩が落ちる。驚くほどの事ではない。もはや年中行事だといってもいい。
最愛のペットの脱走に半泣きになりながら走り回る伊賀崎と毎度毎度こりもせずに方向音痴を披露しては迷子になる二人の生徒の姿が容易に目に浮ぶ。

「とにかく! これは学園長命令じゃっ!!」

意気消沈した二人の教師の前でことさら胸を張った学園長は得意そうに手に持った杖を振り回した。






「おはよ~、みんな」
「おはよ」

「おはよう、二人とも」
「おはよう」
「おはよー」
「「「おはよう」」」

食堂に入ってきた三治郎と兵太夫に三人組の向かいに座っていた庄左ヱ門と伊助が朝食から顔を上げて箸を持った手を上げた。その隣に座っていた虎若もワカメを咀嚼しながら笑いかけ、三人組も振り返って食事の手を止める。
食堂が低学年の出入りで活発になり始めている中カウンターでお盆を受け取った二人もなるべく固まるように座るために皆に近い隣の机に席を取った。
椅子に座ってすぐに兵太夫と三治郎の視線がしんべヱの頭に向く。

「その頭、なに?」
「寝ぐせなんだけど・・・・・・やっぱり気になる?」
「そりゃね」

率直な兵太夫に乱太郎が食後のお茶を置いて苦笑しながら袴に手をかけた。二人が見つめる中逆さまに頭に嵌った袴をめくりとる。

ぶふっ

中から現れた直立不動で固まった黒髪に二人は同時に噴き出した。何も口に入れていなかったのが幸いだ。
間近で見ていた庄左ヱ門や伊助、虎若も口元を押さえて肩を震わせる。

「あははっ なんだよそれ! 寝ぐせっていうレベルじゃないだろっ」
「あははははっ」

遠慮なく笑う二人にしんべヱの顔が情けなさそうに歪んだ。前の席から何とか口の中の物を咀嚼し終えた庄左ヱ門が顔を上げる。

「なんとかならなかったのか? それ・・・」

語尾が微妙に震える声に乱太郎ときり丸は肩をすくめた。きり丸が視線だけしんべヱの髪に流し少し怒ったように口を尖らせる。

「こいつの髪すんげえ硬いんだ。クシも何もぜんめつ。―――おいしんべヱ、おまえオレのクシ弁償しろよっ」
「・・・・ぅう・・・・」
「まあまあきりちゃん」

しょんぼりと肩を落としたしんべヱと不機嫌そうなきり丸の間に座っていた乱太郎が両手を胸の位置で宥めるように動かし、二人の間に割って入った。さらにそこにしゃもじを持った食堂のおばちゃんが近づいてきて腕を組んでじろり、と一年は組の生徒を睨みつける。

「早く食べなさいっ お料理が冷めちゃうでしょっ!」
「「「「「「「「はーーーーいっ!!」」」」」」」」

迫力ある怒声に子供達は慌てて箸や湯飲みを持ち上げ、良い子の返事を返した。食堂のおばちゃんはけっして逆らってはいけない人だとここ数日でもうすでに悟っている。

「おーーい、皆・・・・・・!?」

食堂の入り口から中を覗き込んだ半助がお目当ての一年は組を見つけて言葉を詰まらせた。視線がしんべヱの頭に向いたまま固まっている。

「し・・・しんべヱ・・・お前どうしたんだ?! その髪・・っ」

笑い出しそうなのを堪えるように顔の筋肉を引きつらせながら近づいてきた半助にますます情けなさそうに眉を下げたしんべヱの代わりに乱太郎ときり丸が声を揃えて「寝ぐせでーす」と答えた。予想外の答えに半助はぶふっ、と小さく噴き出す。

「いやーー、凄いなーこれは」
「あ、先生―――」

笑いに歪んだ顔で思わずしんべヱの髪に手を伸ばした半助にきり丸が慌てたように声を上げたがそれよりも先にブスッとその指先にしんべヱの髪の毛が刺さった。

「痛――っ!!」
「・・・・・あぶないですよ、そのかみの毛すっごく硬いですから。刺さります」
「そういう事は先に言えっ!」

遅すぎる忠告に半助は左手でスパンッ、とひとつきり丸の頭を叩いた後、自分の指先に突き刺さった数本の髪の毛を抜き取る。滲んできた血を吸いながら髪の毛とは思えない凶器をマジマジと見つめた。

「これは凄いな」
「あらあらまあまあ、どうしました?」

唐突に聞こえた柔らかな声にそれまでご飯を食べながら三人組と半助のやり取りを見ていたは組の子供達がギョッとしたように半助の後ろを見る。いつの間にそこにいたのか半助の背中に隠れるように桃地にハートマークの入った忍び装束を着た小柄な老婆がにこにこと笑みを浮かべて立っていた。
特に驚いた様子もなく振り返った半助は自分の背後にいる人物を確認して笑みを浮かべる。

「山本シナ先生。おはようございます」
「はい、おはようございます土井先生。こんなところでどうしたんですか?」
「いえ、ちょっと・・・」

苦笑を浮かべて頭をかいた半助の右手にシナはすばやく視線を走らせた。目ざとくその指に血が滲んでいるのに気付くと懐から細長く切られた包帯を取り出す。

「まあまあ血が出てますよ、ほら手を」
「ああ、すみません。凶器みたいな髪の毛だったもので」

くるくると手に巻きつけられる布を見ながら半助が照れ笑いするとシナの視線がしんべヱの髪の毛に向いた。包帯を結んで手当ての礼をのべる半助に頷き返しながら興味深そうにしんべヱの頭部を見つめる。
品よく笑いながら左右から確かめるように眺めるシナにしんべヱは居心地が悪そうに身じろぎした。

「まー、これは剣山に使えそうな頭ねえ」

感心したように言いながらどこからか取り出した花を一輪ブスリと挿す。
あまりにも嬉しそうに笑うものだから何も言えずに固まったしんべヱの脇で乱太郎ときり丸がぷっ、と噴いた。自然すぎるほど自然におさまった花はとても似合っていた。

「ところで山本先生。何か御用だったんですか?」

手当てされた指先を触りながら不思議そうに見てきた半助にシナは、ああ、そうでした、と手を打った。小首を傾げるようにして半助の方を見上げる。

「さっき学園長先生にうかがったんですけど、カメムシの事です」
「ああ、私たち一年は組にこれから捜すようにとのお達しですよ」
「ええーーーっ!? きいてませんーっ!」
「なんですかそれぇ!」
「お駄賃でますっ!?」
「ええいうるさいっ さっき言おうとしてたんだっ! それときり丸っ これは授業の一環だ!」

二人の先生の会話を横で聞いていたは組が上げたブーイングに耳を押さえるようにして怒鳴りつけた後、半助は続きを促すようにシナの方を向いた。水を向けられ、頬に手を当てたシナはあらあらとため息を吐く。

「困ったわねぇ」
「どうしたんですか?」
「そのカメムシなんですけどね、たぶん見ましたよ」
「ドコでですかっ!?」

これで授業に戻れるかもしれない、と勢い込んで尋ねてきた半助にますます困ったように眉を寄せた。

「いえねぇ、育てていた芍薬しゃくやくの花が咲きかけていたんですけど、その中にカメムシが大量に潜り込んで重さで沈んでいたんですよ。それを見つけたうちの生徒の多由也さんが自分で作ったという殺虫剤をかけまして・・・・・・よく効きましたよ」
「殺しちゃったんですかぁ!?」
「ええまあ」

困ったでしょう?、と言うシナに半助も顔を手で覆って天井を見上げた。くの一教室に逃げ込んでいたなら探しても見つからないはずだ。ペットの死に飼い主は嘆くだろうが、仕方がない。

「・・・・・・とにかくこれでまともに授業が出来るな」

授業前にかたがついた事に安堵しつつ生徒の方を振り返る。すでに食べ終えてきちんと食器をお盆の上に重ねて待っていた子供達は自分達の方を向いた担任を一斉に見上げた。

「これから授業だ。各自自分の食べた物を片付けた後、通常通り教室に集まるように」
「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」

良い子の返事に笑みを浮かべながら半助は満足そうに頷いた。






「・・・・・・・・・・・・・・・それがなんでこんな事に・・・」
「そう嘆きなさんな、土井先生」

両手で持った出席簿に顔を突っ込むようにして落ち込む半助に隣に立っていた伝蔵が慰めるように眉尻を下げる。

「学園長の突然の思いつきは今に始まった事じゃないじゃないですか。気にしてたらきりがありませんよ」
「ですが気にしなかったらどんどん授業が遅れていくんですよっ」

ガサリッ

二人の会話を遮るように並んで立っている場所の前に生えていた草がふいに反対側から伸びてきた子供の手に掴まれ、そこから三治郎と伊助が顔を出した。頭巾をかぶったまま濡れそぼった二人はカタカタと震えながら二人を見上げる。

「せんせー、かなり寒いです」
「まだ水がつめたいんです」

必死に訴えかける二人に会話をやめて視線を移した担任達は、その背後へと注意を向けた。一面に広がった池の水面にぷくぷくと小さな泡が立ち、やがて水柱が立つ。

「――ぷはっ」

二人に続くように次々とは組の子供達が水の中から姿を現した。バシャリと水音を立てながら子供達が出てきているのは校庭の一角にある大きな池の中だ。

「ささささむさむさむ~っ」
「ぎゃーー風があたるぅ」
「水がつめたっ」
「うわっぷっ うっぷ・・・!」
「げほげはごほっ」
「わーーーっ 乱太郎、きり丸だいじょうぶぅ?! ぼくにつかまってっ」
「しんべヱあいかわらず沈まないね」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ子供達の中で身震いしながら風車は自分達の担任教師に胡乱な眼差しを向けた。

「・・・なんで午前中にこんなことがあるんですか。太陽もよくのぼってないのに」

いくら春だからといって水温まで穏やかな訳ではない。夏でさえも午前中に川で水遊びをする事はないというのに。
咎めるようなその口調に苦笑した担任教師達は視線を背後に移す。カメムシが花に潜り込んでいた、という事からふいに学園長が思いついた水練すいれん(水泳)の特別授業だといっても怒りこそすれ納得はしないだろう。視線だけで風車を促すと満足そうにその様子を見ている学園長の姿を視界に納め、理解したのかなお一層眉間にシワを寄せた。
学園長の方はと言えば、得意げに高笑いを浮かべながら杖を振り回し、隣に座り込んで一緒には組の様子を伺っていたヘムヘムの頭をバシバシとぶん殴っている。
しかもその事に気付いていないようだ。
しばらくはじっと我慢していたヘムヘムも流石に何度も叩かれるうちに牙をむき出し、ギロリと学園長を睨みすえた。

「ヘムーーーーっ!!」
「うわあヘムヘム・・・っ」

直前で気付いた学園長が咄嗟に飛びのくとその位置にヘムヘムの牙が通り過ぎた。
いきなりの大声にびくりと体を震わせた子供達が本気で走るヘムヘムとそのヘムヘムに追いかけられる学園長を見て目を丸くする。

「おい、学園長がヘムヘムに追いかけられてるぜ」
「ほんとだ。・・・・・・気の毒というかんじはしないけど」

しんべヱに掴まって事の成り行きを眺めながら乱太郎ときり丸がこっそり笑うと、その隣でちらりと事の成り行きを眺めていい気味、といわんばかりに鼻を鳴らした風車はしんべヱに視線を移してその頭髪を触った。

「いまは柔らかいんだから、このまま結っちゃえばいいんじゃない?」
「あ、ほんとだ」

隣から手を伸ばして確かめた庄左ヱ門もその意見に頷く。どれどれ、と次々に子供達が手を伸ばしてきた。

「ほんとだ」
「いける気がするな」
「うん」

寒さを誤魔化すためか、池の中でもちゃもちゃと引っ付きあう子供達を横目に見ながら火を起こす半助の隣で、天を仰ぎ見た伝蔵は大体の時間を確認し、苦笑いしながら子供達の方へ顔を戻す。

「まだヘムヘムの鐘が鳴ってないが、今日の授業はここまで!」

心優しい担任の号令に、わっと騒いで早速池から這い上がってきた子供達が一列に整列し、一斉に頭を下げる。

『ありがとうございましたっ!』

そうして一糸乱れぬ挨拶をした後、即効で半助の用意した炎の前に群がった。






「はっ はっ はっ ・・・はっ
 ひ、久しぶりに、走ったわい・・・っ」

汗だくで息を切らしたまま呟いた学園長は、時間が来た事に気付いて慌てて終業の鐘を撞きにいったヘムヘムにまったくあやつめ、と悪態をつきながら寄りかかっていた井戸の縁に座り込んだ。胸に手を置いて何とか呼吸を整えながら空を見上げる。
急激に動かした体を休めるためにしばらくそのままじっとしていたが、ふいに脳裏に閃いた考えに、ぽん、と手を打って立ち上がった。今までの疲労などどこかに吹き飛ばしたかのように輝く笑顔で握り拳を作る。

「―――そうじゃっ! 走りじゃ!! いい事を思いついたっ!」






「――と言うわけで、学園長の突然の思いつきで今からランニング50キロだ。皆、頑張れ」
『ええええぇぇぇーーーーーーっ!!!???』

火にあたって何とか体を温めていた一年は組の子供達はいきなりやってきてそう告げた半助に驚愕の声を上げた。しんべヱの髪を整えていた伊助がその手から櫛を落とす。

「冗談きついぜ」
「本気なんですか?」
「残念ながら本気だ」

けっ、といわんばかりのきり丸の隣で目を丸くした乱太郎に半助は重々しく頷いた。げっ、と嫌そうな顔をした兵太夫の隣で上着を脱いで絞っていた団蔵がその姿のまま固まっている。

「ほら、ぐずぐずしてないで早く行くぞっ」
「今から?!」
「ああ、今からだ」
「まだぬれてるのに!?」
「この陽気だ、すぐに乾くさ」

虎若と三治郎の言葉も率直につき返してその場で足踏みをする半助に、は組の良い子達の頭ががくりと垂れ下がった。疲れたような表情で一緒に足踏みを始める。

「ほら行くぞ。いっちに、いっちに、いっちに」
『・・・いっちに。・・・いっちに。・・・いっちに』

掛け声とともに校門目指して駆け始めた半助に力ない子供達の声が追従する。容赦なく吹き付ける風に身を縮こめながら一列になってその後についていった。






カァーーー
  カァーーー
    カァーーー

鴉の鳴き声が夕焼け空に木霊し、山頂にかかり始めた太陽は容赦なくその姿を隠そうと少しずつ沈んでいる。
山間の落日は結構早い。

「ほらほら、もう少しだぞー」

学園の門の前で足踏みをしながら背後を振り返った半助に、バラバラに隊列を崩しながらも何とかついてきた子供達が半助の手前で崩れるように地面に座り込んだ。お腹を抱えたり、地面に両手をついたり、それぞれ苦しそうに呼吸を繰り返す。

「よーーーーし、今日の授業はここまで!」

疲労困憊でしおれた子供達の前に涼しい顔をしたまま突っ立っていた半助は全員居る事を確認した後、腰に手を当てるようにして子供達を見下ろした。
返事も返せない子供達にさきにお風呂に入るように、と言い置いて門を潜っていく。

「・・・・・・ら、乱太郎、なんとかしてよぉ」
「いちいち学園長の気まぐれに付き合ってたんじゃ身がもたねーぜ・・・」

こほこほと咳き込みながらしんべヱときり丸が乱太郎の方を向いた。弱弱しい左右からの訴えに数度大きく息をして呼吸を整えた乱太郎が顔を上げる。

「・・・―――よしっ 私に考えがある!」






「うう~、いい朝じゃ」

朝日に起こされ廊下に出た学園長は寝巻きのまま背を伸ばした。隣で同じく背伸びするヘムヘムを見ておお、と手を打つ。

「おお、そうじゃ、いい事を考え付いたぞ! 忍者には体の柔軟性が必要じゃっ! 今日の授業内容は柔軟体操で背骨をバキボ――――」
「「「学園長っ!!!」」」

大声とともに庭の隅の藪から駆け寄ってきた三人組に一瞬驚いた学園長もすぐに莞爾とした笑みを浮かべた。丁度良かった、と三人を手招く。

「いい所に来た。今日はの―――」
「「「お誕生日、おめでとうございますっ!!」」」
「へ?」

言葉を遮るように満面の笑みを浮かべた乱太郎、きり丸、しんべヱに思わず後ずさると、すぐにその後から追随するように残りのは組の生徒達も出てきて手に持った花束や贈り物の箱などを手前に掲げた。

「「「「「「「おめでとうございます!!!」」」」」」」
「う?ん・・・・・・あ、ああ――ありがとう、皆っ」

束の間首を傾げた後、学園長はすぐに笑みを浮かべて周りに集まった子供達を見渡した。
一瞬、にやり、と笑った後、子供達は無邪気な笑顔で学園長にプレゼントを抱え部屋の中へ戻るように促す。

「今からお祝いをしましょう?」
「ぼくたちいろいろ用意したんですよ」
「ケーキも焼きました」
「踊りの練習もしたんですから」

「ほうほう、それは楽しみじゃのう」

口々に言い募る子供達に学園長も満足そうに笑って部屋へときびすを返した。後に残されたヘムヘムが純粋な疑問から首を傾げるがすぐに学園長に呼ばれて部屋へと戻る。



「・・・・・・なんですか? あれ」

担当の子供達が朝早くからこそこそとかたまって行動しているのを見かけて思わず追いかけてきた半助はおかしな状況に目を白黒させ、隣の伝蔵を見た。
面白そうに事態を見守っていた伝蔵はその言葉に笑みを零しながら障子の閉まった学園長の部屋へと視線を移す。

「大方、学園長の気まぐれが起きないように小細工しとるんでしょう」
「小細工ですか?」
「ええ。学園長の誕生日は本当は来月ですからなぁ。こうやって楽しい気分にさせてうやむやにしてしまおうとしとるんですよ」
「はあ・・・・成る程・・・・」

納得したように頷いた半助も伝蔵と同じく学園長の庵を眺めながら呆れたようにため息を零した。

「ほんと、こういう事にだけは頭が働くんだから・・・・」






「みた?」
「みたみた」

背の高い椎の木の枝に座り込むようにしていた影が近くに居たもうひとつの影の方を向いた。一段下の枝の上に、幹に手をかけて立っていたその影はおかしそうに笑いを零す。その際に桃色のリボンで結ばれたオレンジ色の髪の毛がふわふわと揺らいだ。

「あれが一年は組よね?」
「そのはずよ」

座っていた方も白いリボンで結んだ藍色にも見える綺麗な黒髪をいじりながらクスクスと笑った少女は好奇にきらめいた瞳を学園長の部屋へと向ける。

「おシゲちゃんが気になるっていった子、どの子かわかった?」
「ぜぇんぜん。多由也ちゃんの弟っていう子もよくわからなかったわ」

肩をすくめた相方に、もう片方もため息を吐いて頬杖をついた。
しばらくつまらなそうに唇を尖らせて障子を眺めていたオレンジ髪の少女がふいにぱっと瞳を輝かせ、もう一人の少女を振り返る。何?と頬杖をといた少女に一本指を立てて見せた。

「ね、思ったんだけど、山本先生に頼んで招待してもらえばいいんじゃない? い組とろ組にはもうやったんだし!」
「そうよね! それがいいわ!」

相方が出した名案に黒髪の少女も小さく歓声を上げ、二人して庵の方へと視線を流す。唇が弧を描いていた。

「い組もろ組もあんまり面白くなかったものね」
「でもは組は面白そうだわ」
「ええ、そうね」
「そうよ」

くすくすくすくす、と可愛らしい笑声が木々の梢に紛れて散った。


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