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No.18506の一覧
[0] 風車通信 ~忍術学園編~[緋色](2010/05/11 01:52)
[1] 忍術学園入学 の 段[緋色](2010/05/14 01:55)
[2] いつも真面目にやってます の 段[緋色](2010/05/20 01:45)
[3] 学園長の思いつき の 段[緋色](2010/06/15 00:53)
[4] くの一教室は恐ろしい の 段[緋色](2010/06/15 01:17)
[5] 番外編 くの一教室へようこそ の 段 + α[緋色](2010/06/30 02:06)
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[18506] いつも真面目にやってます の 段
Name: 緋色◆5f676539 ID:64f78d5b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/20 01:45
いつも真面目にやってます
の段




食堂で、学園一強いといわれるおばちゃんの朝ご飯を食べて教室にやって来た三人組――乱太郎、きり丸、しんべヱは、扉をあけてすぐに先人に気がついた。
どんぐり眼に意志の強そうな眉毛の男の子と穏やかな風貌の男の子、そして独特に跳ねた黒髪を後ろで束ねた見知らぬ子供。
向こうも扉を開ける音で気がついたのか、窓際の席に固まっていた三人が戸口を見やる。
視線があった子供達はすぐに笑顔になった。

「おはよー」
「おはよう」

さわやかな朝に相応しい挨拶が交わされ、最初に教室内に足を踏み入れた乱太郎が三人に近づく。
その中で見覚えのある二人に顔を向けた。

「二人はたしか・・・庄左ヱ門しょうざえもん伊助いすけ・・・だよね?」
「うん、そうだよ」
「そっちは乱太郎、と・・・きり丸、しんべヱだったよね?」
「そうだよ」
「ああ」
「うんっ」

まずどんぐり眼の子供――庄左ヱ門が頷き、穏やかな風貌の子――伊助が返した問いに乱太郎と、その背後に追いついたきり丸、しんべヱが頷く。
昨日の今日でいまいち曖昧だった名前を確認しあい、ほっ、と笑った全員の視線がその会話を黙って見守っていた最後の一人に向いた。

「ええっと・・・きみは?」
「ぼく達もさっき出会ったんだよ。同じは組の子なんだって」

困惑したように眉を寄せた乱太郎に庄左ヱ門がその子供の手の平で指し示しながら言う。ええ?、と目を丸くしたしんべヱの隣できり丸も顔をしかめた。

「昨日はいなかったよな?」
「・・・・・・そうだね・・まあ色々と」

どこか疲れたように呟いた後、一度ため息を吐いてから子供は顔を上げた。授業で使う教科書を入れた紫色の風呂敷を片手に持ったまま、いまだ突っ立っている三人に笑顔を見せる。

「俺は風車。同じは組の生徒になったから、よろしく」
「そうなんだ。
 わたし、乱太郎」
「オレ、きり丸」
「ぼくしんべヱ」
「で、庄左ヱ門と伊助、だよな?」
「「うん」」

その場で名乗るだけの簡易の自己紹介が終わった後、風車は完全に三人の方へ体を向け、床を手の平で軽く叩いた。

「とりあえずまず座ったら?」
「あ。あ、うん」

「窓、あけてもいいよね?」
「うん、おねがい」

促され、三人は顔を見合わせた後その場に腰を下ろす。
庄左ヱ門の方を向いて一応確認した伊助が座った三人と入れ替わるように立ち上がり、校庭側の窓を開けた。障子越しとは違う明るい日差しと風が入ってくる。
春らしい、気持ちのいい朝だ。
次々と障子を開けていく伊助の立てる音を聞きながら乱太郎は今日はじめてみる仲間、風車を見た。

「どうして風車は昨日いなかったの?」
「・・・ええっと・・・」
「あ、わかった。道に迷ってたんだろ」

子供らしくストレートに聞いてきた乱太郎に風車は躊躇したように口籠り、その様子にぽん、とひとつ手を打ったきり丸が横合いから口を出す。
どこを見ようか迷うように視線を彷徨わせた後、風車は視線を誰も居ない黒板側に流しながら諦めたように頷いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、いいたい事をぜんぶ端折れば、そうなる」
「迷子だったのぉ?」
「学園までの道、けっこうわかりづらかったもんね」

自分が迷子になったかのように心配そうに顔をゆがませたしんべヱの後に続けるように、校庭側の窓を全部開け終えた伊助が庄左ヱ門の横に座りながら苦笑する。
それに返すように風車も苦笑を浮かべた時、開きっぱなしだった教室の入り口から二人の子供が姿を現した。
すぐに室内に居るクラスメイトに気付き片方が笑うと、その相方になにやら話しかけていたもう一人も笑顔を浮かべたまま教室内に視線を向けた。

「「おはよう」」
「「「「「「おはよう」」」」」」

そのまま室内に入ってきた二人は、全員が固まっている校庭側にある机の後ろに設置しているもうひとつの机に手に持っていた風呂敷を置いた。
その場に座りながら前髪をそろえた茶髪の子供が風車に視線を移す。

「だれ?」
「今日からは組の一人になる風車だよ」
「きのうは迷子だったんだって」
「え? 迷子?」
「うん、迷子」

庄左ヱ門の説明の後にしんべヱがのほほんと付け加えた。その子供の隣に座ったもう一人の子供に見つめられて大きく頷く。

「・・・・・・・・・しんべヱ、あんまりそこを強調しないで・・」

無邪気な声に追い討ちをかけられたかのように力なく呟いた風車に、風呂敷の結び目を解いていた子供が笑みをかみ殺したかのような顔を見せた。
風車に見られて自分でも悪いと思ったのかひとつ咳払いをして真顔になり、向き直る。

「ぼくは兵太夫へいだゆう。よろしく」
「ぼくはその同室の三治郎さんじろうだよ。よろしくね」
「二人とも、よろしく」

兵太夫と、その隣でにこやか笑顔で話しかけてきた三治郎に気を取り直し、風車も軽く笑みを浮かべた。
ほのぼのとした空気の中、ふと思い立ったように手を打って庄左ヱ門が動いた。自分の風呂敷から取り出した本を片手にその場の全員を見回す。

「みんな、きのう先生がいってた事、した?」

「きのう?」
「なんかあったっけか?」
「さあ?」

「ああ、あれ」
「一応は・・・」

首を傾げた乱太郎、きり丸、しんべヱと違い、兵太夫と三治郎はすぐにおなじ本を取り出した。
黒い紐でかがり閉じされた本の白い表紙には〔忍たまの友〕という文字。
それはその場の全員が持っているモノ。昨日全員に配られた、いわゆる教科書というものだ。

「『かき』について予習しておくように、だったよね?」
「そう」
「ああ~~~! あった、確かにっ」
「やっべ、すっかり忘れてたわ」
「どうしよう~」

同じく〔忍たまの友〕を取り出した伊助もそれを胸に抱え込むようにして庄左ヱ門を見た。
そうだよ、と頷く庄左ヱ門の声を掻き消すように、そこで初めて昨日のやり取りを思い出した三人組が悲鳴のような声を上げる。

「土井先生がいってた~」
「オレたち、なんにもしてねぇぜ?」
「怒られるのかなぁ・・・」

頭を抱えた乱太郎、きり丸に、すでに泣きそうなしんべヱ。そんな三人に苦笑しながら庄左ヱ門はなだめるような調子でポンポン、と〔忍たまの友〕の表紙を叩いた。

「授業がはじまる前にもう一度みんなで予習しとこうかと思ってね。いっしょにやらない?」
「「「やるっ!」」」

喜色満面に手を上げた三人に続いて他の子供達も頷く。一人話題に置いていかれていた風車も会話の内容から大体の所を察して黙って同じものを取り出した。
全員が教科書を手に取ったのを見て庄左ヱ門も他の皆と同じく〔忍たまの友〕に目を落とす。

「それで課題の『かき』についてなんだけど―――」


「わーーーっ! 遅れる~~~っ!!」
団蔵だんぞうはやく!」



廊下いっぱいに響くような声とともにバタバタと足音高く二人の子供が教室に駆け込んできた。入り口付近で崩れるように畳に四肢をつけ、荒い呼吸を繰り返す。

「・・・ま、・・・間にあった・・・っ」

なんとか呼吸がおさまったのか、袖で顎を拭うようにして顔を上げた子供はそこで初めて教室内にいた全員が自分達を見ていることに気がついた。
やべ、というように引きつり笑いを浮かべ、隣で荒い呼吸を繰り返す井桁模様の頭巾を突つく。

「と、虎若とらわか・・」
「・・っ・・・なに?」

唾を飲み込むようにして息を静めたもう一人の子供も顔を上げ、見られていることに気付いて、げ、と顔を歪ませた。二人して愛想笑いを浮かべる。

「「お、おはよー」」
「「「「「「「「おはよう」」」」」」」」
「だいじょうぶ?」
「おうっ」

伊助が微苦笑しながら問いかけると、団蔵と呼ばれた子供がガキ大将のような笑顔を見せた。汗で先端が首筋に張り付いていた結った黒髪がその動作ではがれて波打つ。
虎若と呼ばれた子供も素朴な顔に浮かんだ汗を袖口で拭いながら頷いた。パタパタと体をはたきながら起き上がり、足元の風呂敷を持ち上げる。

カーン カーン カーン

一定感覚で学園内に響き渡った鐘の音。授業の始まりの合図にその場の全員が窓の外の鐘楼を見上げる動作をした。
鐘が余韻で震える。
そんな子供達に音もなく入り口に現れた若い教師は室内を見回し手に持っていた教科書を一回叩いた。

「ほらほら。授業が始まるぞ~! さっさと席に着け」
「ぅわっとっ!」

真後ろから聞こえてきたその声に飛び上がった団蔵と虎若は急いで教室の後ろへと回る。乱太郎達三人組も昨日座っていた入り口近くの机へと移動した。
後ろ手に戸を閉めて黒板の前まで進み、全員がきちんと座っているのを確認した半助は黒板の端っこに教科書を置いて風車を見た。前の席の一番端っこに座っていた風車もすぐに視線に気付いて真っ直ぐに見上げる。

「風車、立って」
「はい」

促されて立ち上がった風車に視線が集まった。半助はその真横に立って肩に手を置くようにして生徒達を見渡す。

「同じ一年は組の生徒になる、風車だ。皆よろしくな」
「よろしくお願いします」

全員が視界に入るように体の向きを変えた風車がぺこりと頭を下げた。そのまま顔を上げて窺うように見てきた風車に、半助はもう一度皆の方を見るように促す。

「もう挨拶をしたかもしれないが、紹介する。隣から庄左ヱ門、伊助」
「はい」
「はい」

名前を呼ばれ、二人は順に手を上げて返事をした。半助の視線が次の机へと移る。

「乱太郎、しんべヱ、きり丸」
「はい」
「はぁい」
「へぇい」

乱太郎としんべヱが順番に手を挙げ、きり丸は面倒くさそうに小さく手を振った。
次は三人の後ろ。

「虎若、団蔵」
「はい!」
「はいっ」

二人は勢いよく手を上げた。初めて見る子供に興味津々の顔をしている。
それを確認した後、風車達の後ろの席へと視線が移った。

「最後に、三治郎と兵太夫」
「はい」
「はい」

二人が小さく手を挙げ、一周して戻ってくる。
手で風車に座るように指示した後、半助は黒板の前まで戻り、部屋に視線を巡らせた。

「以上、十人が一年は組の生徒だ。皆、覚えたな?」
「「「「「「「「「「はいっ」」」」」」」」」」
「よしっ では授業にうつる」

良い子のお返事に満足そうに頷いた後、半助は白墨を手に持って黒板に文字を描いた。

――火器――

黒板の中央に大きく描いた文字の横を右手中指の第一関節で叩いて注目を集める。

「えー、本日は火器についての講義をおこなう。予習してくるように、といっておいたが―――乱太郎、どうだ?」

視線を流して適当に目に付いた子供を名指しすると乱太郎はビクリ、と体を震わせた。
困ったように視線をあちこちに流し、おずおずと口を開く。

「えっと・・・やってません・・・」
「すっかり忘れてました」
「ごめんなさいぃ」
「昨日言ったばかりだろうがっ!」

乱太郎と、それを後押すように次々と口を開いたきり丸としんべヱを怒鳴りつけた半助に風車が手を上げた。
動きにつられて振り向いた半助を真っ向から見つめる。

「先生、まったくきいてません」
「あ・・・・ああ、いや、風車はいいんだ。言ってないからな。仕方ない」

笑顔でとりなしながらうんうんと頷くと、そのまま気持ちを落ち着けて視線を流して庄左ヱ門の前で止めた。きっちりと正座をした姿勢正しい子供に完全に向き直る。

「じゃあ、庄左ヱ門はどうだ?」
「はい」

指名され、その場に立った庄左ヱ門は手に持っていた紙を読み上げる。

「カキ ―――合弁花類ごうべんかるいカキノキ科の落葉高木。果実には甘ガキと渋ガキの別があり、多数の品種が・・・」
「ちがーーうっ!!」

思わずずっこけた後叫んだ半助に、いったん庄左ヱ門の言葉が止まった。首を傾げ、ぽん、と手を打つ。

「イタボガキ科に属する二枚貝。左右の殻の大きさは異なり・・・」
「違う違うちがーーーうっ!!
 どうしてそれらが出てきてコレが出てこないんだっ」


バンバン、と黒板を力いっぱい叩き、半助は地団太を踏んだ。
黒板の横に置いてあったスライド式の資料を引っ張って巻いてあった紙を広げる。中には火縄銃や火矢などの絵や文字が書いてあった。

「火器とはっ! 火薬の爆発力を利用した武器のことであるっ!! 火縄銃や火矢、百雷銃ひゃくらいづつなど、その種類は250種にも及ぶ!!!」

そこまで一気に言い切り、教室を見渡す。干し柿や生の柿をさりげなく風呂敷の中から出して机の下に隠した生徒達を見てうな垂れた。
数秒かけて気持ちを切り替え、顔を上げて絵の一部を指差す。丸い玉を紐で十字に縛ったような絵だ。

「これは宝録火矢ほうろくひやという手榴弾で・・・」

言いながら懐から絵と同じものを取り出す。手の平に治まる黒い丸い物体の一箇所から紐がはみ出していた。

「宝録という、素焼きの半円形の陶器を二つあわせて中に火薬を詰め込み、紐でずれないように固定したものだ。
 我々の使う黒色火薬こくしょくかやくは感度が低く爆発力も小さいため、投げつけただけでは――」

ブンッ

いきなり何の予告もなく手の中で弄んでいたソレをふいに教室の中央部に思いっきり投げつけた。

『ぅわあっ!!』

蜘蛛の子を散らすように子供達が四方へと逃げる。
そんな子供達を涼しい顔で見ながら半助は言葉を続けた。

「―――爆発しない」

「よしてよ、先生~~」
「まったく心臓にわるいぜ・・・」

隅に逃げたままその場にへたり込んで文句を言う生徒達に笑顔を見せる。

「ハハ、悪い悪い。これは導火線に点火しないと爆発しないん――」
「しんべヱっ!」

半助の声を遮るように風車の鋭い声が教室に響いた。何事かと皆が中央に視線を向けるといつの間にかそこにいたしんべヱが片手に持った宝録火矢を半助へと向けている。
ぱちぱちと紐が燃える匂いとともにしんべヱののんびりとした声が聞こえてきた。

「せんせ~、点火って、こうですかぁ?」
「そうそうそんな風にいーーーーーっ!?」

思わず素で褒めた半助はすぐに状況を理解して声を高くした。角に避難していた乱太郎ときり丸もお互いの袖を掴んでぎりぎりまで退いたまましんべヱに声をかける。

「バカっ しんべヱっ!」
「なにやってんだよお前っ!」
「え? え?」
「しんべヱ早く火を消せっ! それは本物の火薬が詰まってるんだぞ!?」
「えええぇぇ?!」

訳がわからず左右を見回すしんべヱに半助が宝録火矢を指差しながら叫ぶとようやく理解したのか、両手に掲げ持つようにして右往左往し始めた。
しんべヱが動くたびに隅っこに散った子供達が悲鳴をあげながら左右に動く。
しんべヱもなんとか火を消そうと、ふぅふぅ息を吹きかけるのだが火の勢いが強いのかまったく揺るぐ気配がない。
泣きそうになったしんべヱの手からふいに宝録火矢が取り上げられた。
横から取り上げた風車が畳にこすり付けるように固定して導火線を思いっきり足袋で踏みつける。二、三度踏みつけて力いっぱい捻ると畳と足袋に焦げ跡を残して火はおさまった。

「大丈夫かっ、二人とも!?」
「ええ、まあ。ふつうの足袋よりも裏が厚かったので熱さをかんじなかったですし」

「「しんべヱっ!!」」
「うわーーん、ごめんなさぁいっ」

駆け寄ってきた半助に片足を上げて足袋の煤を落としながら宝録火矢を渡した風車の隣で、子供達の中でいち早く立ち直った乱太郎ときり丸がしんべヱに駆け寄った。目を吊り上げて怒鳴る二人にしんべヱは頭を抱えてしゃがみ込む。
その声に我に返った他の子供達もぞろぞろと集まってきた。

「あぶないだろっ」
「びっくりした」
「爆発するかとおもった」
「うわあ、タタミに穴あいてる」
「火薬は取り扱いに気をつけないとダメだよ」
「でも風車、よく動けたね」
「・・・・・・俺、親のおかげで危険にたいする反応速度だけはあがったとおもうんだ・・・」

口々に捲くし立てられる言葉の中、最後に感心したように漏れた庄左ヱ門の言葉に風車はなんともいえない表情で笑った。小さいボヤを座布団で叩いて消す映像を見たことがあるし、と口中だけで呟く。

「こわかった~」「あのねぇ」「もう少し考えてから行動しろよっ」「あれが宝録火矢かぁ」「後でタタミひっくり返しとかなきゃ」「ぼくあれ見たことあるよ」「え、ドコで?」「爆発したら大変だったね」「ほんと」

中央に固まった子供達は互いの顔を見ながら矢継ぎ早にさえずりはじめた。徐々に大きくなっていく声に半助の握り拳がフルフルと震えを増す。

「お前達、授業中だぞ! 静かにしなさいっ!!」

宝録火矢片手に叫ぶが、興奮した子供達のおしゃべりは止まらない。
ガヤガヤと騒音溢れる中、焦げて穴が開いた所から綿が零れている事に気付いた風車が、立ったまま足袋を脱いだ所で授業の終わりを告げる鐘がなった。






「えーー、本日の授業は隠れ方について、だ」

午後。
校庭の一角、伝蔵は腰に手を当て壁を背にしたまま二列に整列して並んだは組の見渡した。
〔忍たまの友〕を開いたまま真剣に見上げてきた子供達に満足そうに頷く。

「忍術には色々な隠れ方があり、その時々に応じて使い分ける必要がある。今日はその中の幾つかを練習しよう」
「「「「「「「「「「はいっ」」」」」」」」」」

いっせいに声を揃えて答えた子供達に向かって右手の人差し指を立てた。

「まずは『観音隠かんのんがくれの術』だ」

そのままスススゥーー、と壁まで近づき、両手、両足を広げて壁にへばりつく。
いきなりの教師の行動に子供達はぽかん、としたように口を開けた。

「このように、壁などにぴったりとへばりついて気配を消す、という術だ。闇などに紛れるようにして敵をやり過ごす」

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

(む、むぅ・・・)

誰も、何も言わない。
あまりの子供達の無反応さに伝蔵の方もなんのリアクションもとれずそのままの姿で固まった。
しばらくしてようやくきり丸が口を開く。

「・・・・それで?」
「それで、といわれても困るんだが・・・・・・・と、とにかくこういう術だ!
 次っ!!」

そこで強引に話を打ち切って伝蔵は次の術の為に別の場所へと移動した。






学園から裏山へと移動したは組一行は森のなかほどで立ち止まった。
うっそうと茂った藪や空を覆う木々に囲まれ、日の光があまり入らず結構暗い。
整列する子供達と向かいあったまま伝蔵は周りを見回した。

「このような森の中では周りにあるものを使う。葉っぱや藪、木の間に隠れるんだ。
 これを『木の葉隠れの術』という。―――皆やってみろっ」
「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」

言葉とともに子供達が四方に散る。
しばらくその場に留まっていた伝蔵はまず目線だけで子供達の動向を探った後、ゆっくりとその場を歩き始めた。
未熟すぎて気配がそこここの藪から漏れ出ているが、一生懸命隠れているので姿自体は見えていない。
微笑ましい子供達の姿に微笑みながら腕を組む。

「そうそう、そうやって姿を隠す」



「あ、きのこ」
「しんべヱ、むやみに口に入れちゃダメだよ」
「毒だったらどうするつもりだよ」

藪の中、喜色満面で顔の近くにあった切り株に手を伸ばしたしんべヱを乱太郎ときり丸が慌てて止めた。その直後、三人の頭上にある木の枝が軋む。

「それ毒じゃないよ、平茸ひらたけの一種」

頭上から聞こえた囁き声にぎょっとして上を見上げた三人組は、木の枝に潜んでいた風車を見つけてすぐに力を抜いた。

「なんだ風車か」
「くわしいの?」
「くわしい、っていうか・・・毒かそうじゃないか位は、ね。それ、おいしいけど火を通さないとキノコ類はあぶないぞ」
「うん、わかった、そうする~」

言うが早いかしんべヱは懐から取り出した火打石で火花を散らし、近くの枯れ草に火をつけた。
食べ物への根性か、見事一発で火をおこしてみせたしんべヱはそこにさらに枯れた葉っぱを投じる。

「しんべヱっ!」

藪の中で火を起こすという暴挙に驚き、速攻で火種の真上に飛び降りて足でもみ消した風車の足の下で、足袋がジュワッという音を立て、焦げ臭い煙だけが立ち上る。

「あぁ~ん、なにするのぉっ!?」
「なにする、じゃないっ 火事をおこす気かっ! っていうかお前はそんなに俺の足袋をダメにしたいのかっ!?」


「こりゃーーーっ!! 授業中に何をやっとるかぁーーっ!!!」


「「うわぁっ!!」」

ガサリ、と藪を掻き分けて自分達の隣から顔を出した伝蔵に乱太郎ときり丸の二人が思いっきり悲鳴を上げた。
二人の間から出てきた伝蔵はすぐに焦げ臭い匂いに気付き、風車の足の下の焼けカスと足元に転がったキノコを見て目を吊り上げる。
状況把握が早い。

「こんのっ!!」


ガスガスガスゴスっ!!


体勢を立て直す隙もあたえずその場の全員を拳で殴りつけ、藪の中から引きずり出した。衝撃で頭をクラクラと振る三人や仏頂面で頭を押さえる風車には目もくれず辺りを見渡す。

「次行くぞ、次っ!」






もう一度学園へと戻ってきた一行は今度は校庭にある池の前に整列した。
池を背後に子供達の方を向いた伝蔵は、真剣な顔で自分を見つめる子供達の前で両手の中指と薬指だけを折り曲げ、他の指はピンと立てた状態で顔の横に持っていった。

「次は『狐隠れの術』だ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「・・・・・・コホン・・・っ
 えーー、狐隠れの術とは・・・―――皆、ついてきなさい」

言うなり、途中で説明をやめて伝蔵はバシャバシャと池の中へと足を踏み入れた。一瞬躊躇した子供達も一人、また一人と入っていく。
装束が水に濡れて張り付く気持ち悪い感覚に耐えながら足が届くか届かないか、という所まで進んだとき、ようやく伝蔵が後ろの子供達を振り返った。

「このように、水の中に入って気配を消して隠れる」
「はい、先生っ」
「なんだ? 庄左ヱ門」
「ただ水にもぐってるだけですか?」

手を上げて首を傾げた庄左ヱ門に伝蔵は重々しく見えるように頷いた。

「そうだ。川や池などの水の中に飛び込んで相手をやりすごすんだ。
 犬に追われた狐などがこうやって匂いをごまかして逃げることから、このように名付けられた」

おおおぉ、と頷いた子供達の頭越しに乱太郎が手を上げる。

「せんせ~」
「なんだ、乱太郎」
「しんべヱが沈みません~」
「は?」

思わず伝蔵が声の方を見ると水の上に寝そべっているしんべヱと、そのしんべヱに掴まった乱太郎、きり丸、さらに近くに居た団蔵と三治郎がその体を引っ張ってなんとか沈めようと奮闘していた。

「何がどうなっとるんだ、これは」
「ぼく、むかしから沈まないんですぅ~」

ジャブジャブと水を掻き分けながら近づいてきた伝蔵にしんべヱが鼻を垂らしたまま何故か得意そうに笑顔を浮かべる。
そんなしんべヱには何も返さず黙ってしんべヱの体を押さえてみた伝蔵だったが、しばらくしてひとつため息を吐いて腕を放した。

「ああ、とにかくもういい。しんべヱは諦めなさい」

頃合よく鳴り響き始めた授業終了の合図にその場で手を叩いて注目を集める。

「各自、今日習った授業内容をよく練習しておくようにっ 本日の授業はココまでっ!」
「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!」」」」」」」」」」






「ああ~あ、おわった、おわった」
「けっこう疲れるよねぇ」

井戸端で濡れた制服を絞りながら兵太夫と三治郎が笑う横で、乱太郎ときり丸が殴られた頭を擦る。

「まだ頭が痛むんだけど・・・」
「オレもだぜ」

「ぼく、狐隠れはムリなのかなぁ・・」
「そんなことないよ」
「みんなで練習すればいいんじゃないか?」

しょんぼりと落ち込んだしんべヱに伊助が励ますように言うと、庄左ヱ門が腕を組みながら提案した。
手ぬぐいで体を拭いていた団蔵と虎若もそれに食いつく。

「練習かあ」
「でも水にもぐるだけだろ?」
「・・・・・・そもそも、気配をかくす、っていうのがわからないんだけど」

ビチョビチョになった手ぬぐいを絞りながら風車がポツリと呟くと他の子供達もいっせいに頷いた。

「そうだよねぇ、あれ、なんなんだろ」
「いきを殺せってことかな」
「あ、そうかも」
「そんな事したらしんじゃうよ?」
「だから最低限だろ」
「水中だったら呼吸なんてしてないよね」
「苦しくなって上がったときに見つかったら最悪だよな」
「最悪だな」
「怖いよ、それ」

同級生の会話を聞きながらその輪には入ってなかった風車は、水分を絞り終わった衣服を勢いよく振って伸ばしながら空を見上げた。夕焼け色に染まってきた空を横切るように鴉が数羽飛んでいる。

「食堂の前にお風呂かな。ぬれたままもなんだし」
「それだっ!」

何気なく呟いた言葉にいきなり大声を出され、驚いて庄左ヱ門の方を振り向いた。真っ直ぐに風車を見ていた庄左ヱ門はすぐに皆を見回す。

「お風呂で練習すればいいんじゃないか?」
「お風呂?」
「あ、いいね。ここのお風呂けっこう広かったし、十分いけると思う」
「たしかに池の中で練習するよりずっとましだぜ」
「へぇ? あ、ちょっとそれは」

どうだろう、と風車が止める前にその気になった子供達は各々の服を身につけお風呂場へと向かった。
ノリノリの子供達に遅れるようにお風呂場へと向かった風車は脱衣所に何ひとつ衣服がないのを見て服を着たままお風呂へ繋がった戸を開ける。
お風呂の中に沈んでいる水色の井桁模様に眉を顰めた。

「お風呂はそんな風につかうもんじゃないぞー。っていうかのぼせるから」

お風呂の縁に手をかけて覗き込んだ風車の後ろで、少し開いていた戸口が全開に開け放たれた。

バンッ!

「うわっ?!」

バシャンッ!


「なにやっとるかーーーっ!!!」


いきなりの背後からの大音に驚いて手を滑らせた風車に追いすがるように放たれた怒声はお風呂いっぱいに響き渡り、その声の後、すぐに中に入ってきた伝蔵は上半身をお風呂に突っ込んだ風車の襟首と、のぼせて沈みかけていたしんべヱの腕を掴んで引っ張り上げた。
他にも浮かび上がってふらふらと体を揺らしている子供達に目を吊り上げる。


「お風呂で練習なんてするんじゃないよ、まったくッ!!」






「「・・・・・・はぁーーーーっ」」

室内に少し離れながらも九十度直角に置かれた二つの机。
それぞれ自分の机の上に手をついたまま、伝蔵、半助の二人は同時にため息を吐き出した。その重々しいため息に双方がゆっくりと顔を上げ、互いの顔を見やる。

「・・・・・・初の授業、どうでしたか? 土井先生」
「・・・・・・そちらこそどうでした? 山田先生」

言葉には出さないがそれだけでわかったのか、二人の空気が重くなった。両肘を突いて組んだ手の上に額を乗せる。


「いやー、まったく、今年の生徒は出来がいいですなぁ」
「・・・・・・そうですねぇ・・・・」
「あ、いや、お宅の所はどうか知りませんが、私が担当するい組の生徒達はもう言う事ありませんよ」
「・・・・・・そうなんですね・・・・」


そんな空気を打ち破るように廊下から声が聞こえてきた。少しだけ開いていた障子の隙間から流れ込んできたのだ。
障子の前で止まったその声は、失礼しますよ、と声をかけてからガラリと開けた。
四十半ばの妙に脂ぎった中年と、まだ若いだろうに顔色悪く不健康そうな男。
部屋の中にいた伝蔵、半助を見つけると中年は得意そうに笑って会釈し、今にも倒れそうな男はその折れそうな細い体で小さく挨拶をした。

「どうでした? お二人とも初の授業は?」
「え、ええ・・・・まあまあですよ」

中年の言葉に若干引きつったように半助が答えると、中年の笑みが益々増した。

「そうですか、いや、よかったですなぁ。ウチの生徒ばかりが優秀なんじゃないかと心配になりまして、先ほどろ組の斜堂しゃどう先生ともお話してたんですよ」
「そうなんですか。良かったですね」
「まったく、出来が良すぎて言う事がありませんよ。予習もバッチリしてきてましたし」
「・・へえぇーー」

声高に喋る中年の言葉に半助の引きつり笑いが広がっていく。これ以上広がる前に、と伝蔵は中年の体で半ば見えなくなっていたもう一人の男の方へと視線を投げた。

「斜堂先生はどうでした?」
「・・・・・・ええ・・・まぁまぁです・・・・」
「さっきから何度聞いてもこんな感じですよ。そんな事だから、やっぱり今年はウチのクラスが一番出来がよかったのではないかと思ってしまいましてねえ」
「・・・・・・はあ」

横からその話に割り込んだ中年がにこやかに伝蔵と半助を見る。段々と半助の相槌の感覚が長くなっていた。

「あ、いやねえ? なにやら土井先生のクラス、授業中にもかかわらず騒がしかったように思ったもので。余計なお節介かとも思ったんですが少し気になったんですよ。なんせ担任なんて初めてでしょう?」
「・・・・・・・・・そう、です、ね」
「どのような教育方針で行く気かは知りませんが、他のクラスの迷惑になるような事だけはやめてくださいよ?」

ブチッ

そんな音が聞こえそうなほどの形相で中年を見る半助の怒りを抑えるため、伝蔵は咄嗟に力の込めすぎで震える腕を掴んで前に進み出た。

「まあまあまあ。これから明日の仕込があるんで、もう雑談はいいですか? 安藤あんどう先生、斜堂先生」
「あ、ええ構いませんよ。どうぞごゆっくり」
「・・・・・・おじゃましました・・・・」

にこやかに言ってきた先達に中年も素直に下がり、押されるように先に廊下へと出た男がゆるゆると頭を下げて音もなく先に進む。続いて出て行った中年も障子をきちんと閉めてその後に続いた。

「あああああの先生はあ~~~~っ!」

怒りの炎が猛る半助の後ろで腕を組みながら伝蔵は苦笑いを零した。
まだ年若い教師の中で子供達への悩みよりも同じ教師へと怒りの方が勝ったようだ。

「まあまあちょっとは落ち着きなさいよ、土井先生。まだ始まったばかりじゃないですか」

荒い息を繰り返していた半助も同僚の前では冷静に努めようと呼吸を鎮めた。背筋を伸ばして伝蔵を見返る。

「・・・・・・そうですよね」
「そうですよ。全てはこれから。これからだよ」

そう言って笑う学園で古株に入る人間の言葉には、経験者ならではの説得力があった。


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