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No.18488の一覧
[0] 恋姫†無双  外史の系図 ~董家伝~[クルセイド](2011/01/08 14:12)
[1] 一話~二十五話 オリジナルな人物設定 (華雄の真名追加)[クルセイド](2013/03/13 10:47)
[2] 一話[クルセイド](2010/05/04 14:40)
[3] 二話[クルセイド](2010/05/04 14:41)
[4] 三話[クルセイド](2010/05/24 15:13)
[5] 四話[クルセイド](2010/05/10 10:48)
[6] 五話[クルセイド](2010/05/16 07:37)
[7] 六話 黄巾の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:36)
[8] 七話[クルセイド](2010/05/24 15:17)
[9] 八話[クルセイド](2010/05/29 10:41)
[10] 九話[クルセイド](2010/07/02 16:18)
[11] 十話[クルセイド](2010/09/09 15:56)
[12] 十一話[クルセイド](2010/06/12 11:53)
[13] 十二話[クルセイド](2010/06/15 16:38)
[14] 十三話[クルセイド](2010/06/20 16:04)
[15] 十四話[クルセイド](2011/01/09 09:38)
[16] 十五話[クルセイド](2010/07/02 16:07)
[17] 十六話[クルセイド](2010/07/10 14:41)
[18] ~補完物語・とある日の不幸~[クルセイド](2010/07/11 16:23)
[19] 十七話[クルセイド](2010/07/13 16:00)
[20] 十八話[クルセイド](2010/07/20 19:20)
[21] 十九話[クルセイド](2012/06/24 13:08)
[22] 二十話[クルセイド](2010/07/28 15:57)
[23] 二十一話[クルセイド](2010/08/05 16:19)
[24] 二十二話[クルセイド](2011/01/28 14:05)
[25] 二十三話[クルセイド](2010/08/24 11:06)
[26] 二十四話[クルセイド](2010/08/28 12:43)
[27] 二十五話  黄巾の乱 終[クルセイド](2010/09/09 12:14)
[28] 二十六話~六十話 オリジナルな人物設定 (田豫)追加[クルセイド](2012/11/09 14:22)
[29] 二十六話[クルセイド](2011/07/06 10:04)
[30] 二十七話[クルセイド](2010/10/02 14:32)
[31] 二十八話 洛陽混乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:44)
[32] 二十九話[クルセイド](2010/10/16 13:05)
[33] 三十話[クルセイド](2010/11/09 11:52)
[34] 三十一話[クルセイド](2010/11/09 11:43)
[35] 三十二話[クルセイド](2011/07/06 10:14)
[36] 三十三話[クルセイド](2011/07/06 10:23)
[37] 三十四話[クルセイド](2011/07/06 10:27)
[38] 三十五話[クルセイド](2010/12/10 13:17)
[39] 三十六話 洛陽混乱 終[クルセイド](2013/03/13 09:45)
[40] 三十七話[クルセイド](2010/12/16 16:48)
[41] 三十八話[クルセイド](2010/12/20 16:04)
[42] 三十九話 反董卓連合軍 始[クルセイド](2013/03/13 09:47)
[43] 四十話[クルセイド](2011/01/09 09:42)
[44] 四十一話[クルセイド](2011/07/06 10:30)
[45] 四十二話[クルセイド](2011/01/27 09:36)
[46] 四十三話[クルセイド](2011/01/28 14:28)
[47] 四十四話[クルセイド](2011/02/08 14:52)
[48] 四十五話[クルセイド](2011/02/14 15:03)
[49] 四十六話[クルセイド](2011/02/20 14:24)
[50] 四十七話[クルセイド](2011/02/28 11:36)
[51] 四十八話[クルセイド](2011/03/15 10:00)
[52] 四十九話[クルセイド](2011/03/21 13:02)
[53] 五十話[クルセイド](2011/04/02 13:46)
[54] 五十一話[クルセイド](2011/04/29 15:29)
[55] 五十二話[クルセイド](2011/05/24 14:22)
[56] 五十三話[クルセイド](2011/07/01 14:28)
[57] 五十五話[クルセイド](2013/03/13 09:48)
[58] 五十四話[クルセイド](2011/07/24 14:30)
[59] 五十六話 反董卓連合軍 終[クルセイド](2013/03/13 09:53)
[60] 五十七話[クルセイド](2011/10/12 15:52)
[61] 五十八話[クルセイド](2011/11/11 14:14)
[62] 五十九話[クルセイド](2011/12/07 15:28)
[63] 六十話~ オリジナルな人物設定(馬鉄・馬休)追加[クルセイド](2012/11/09 14:33)
[64] 六十話 西涼韓遂の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:54)
[65] 六十一話[クルセイド](2012/01/29 16:07)
[66] 六十二話[クルセイド](2012/02/23 15:07)
[67] 六十三話[クルセイド](2012/03/22 14:33)
[68] 六十四話[クルセイド](2012/04/21 10:41)
[69] 六十五話[クルセイド](2012/05/25 13:00)
[70] 六十六話[クルセイド](2012/06/24 15:08)
[71] 六十七話[クルセイド](2012/08/11 10:51)
[72] 六十八話[クルセイド](2012/09/03 15:28)
[73] 六十九話[クルセイド](2012/10/07 13:07)
[74] 七十話[クルセイド](2012/11/09 14:20)
[75] 七十一話[クルセイド](2012/12/27 18:04)
[76] 七十二話[クルセイド](2013/02/26 19:07)
[77] 七十三話[クルセイド](2013/04/06 12:50)
[78] 七十四話[クルセイド](2013/05/14 10:12)
[79] 七十五話[クルセイド](2013/07/02 19:48)
[80] 七十六話[クルセイド](2013/11/26 10:34)
[81] 七十七話[クルセイド](2014/03/09 11:15)
[82] 人物一覧表[クルセイド](2013/03/13 11:02)
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[18488] 七十六話
Name: クルセイド◆b200758e ID:bc2f3587 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/26 10:34



「北郷様、負傷している降兵の処遇は如何様に?」
「こっちの軍は安定の街中で対応している。西涼兵はさすがに中にいれる訳にもいかないからな、城外の仮設陣地で纏めてるからそっちに回してくれ。馬は翆――馬超と馬岱が仮設の厩で受け取っている、そっちに回してくれ」
「はっ、御意に」
「北郷様、降兵の中から恭順の意を示しているものがおりますが」
「……今は受け入れる余裕が無い。安定の方で受け入れてもらえるよう、調整しておく」
「はっ。指示があるまで、現状にて待機といたします」

 安定を巡る攻防は終わった。
 西涼軍と董卓軍の戦いは援軍と勢いによって董卓軍の勝利へと落ち着き、長きに渡る篭城より解放された安定の街は塞き止められていた活気がそこかしこで溢れ出ていた。
 膿んだ傷。
 そう趙雲が表現した鬱屈した安定の雰囲気は、もはや既に洗い流されている。
 その中心にあるのは、やはり安定解放の立役者である董卓だ。
 現在は李粛と李需の生家である李家によって歓待が行われているようであり、その熱気と歓びに誘われてか、城壁の外にいる俺達にまで董卓の名を高々と呼び続ける声が聞こえていた。
 黄巾賊に続いて西涼軍の危難からも救われたのだ、それも当然のことだった。

「いいよなぁ、中は……美味いもん食ってるんだろうなぁ……」
「はは、確かに美味いものは多いだろうけどお偉いさんのご機嫌を窺いながら酒呑んで飯は大変だと思うぞ? 月と詠も辟易してたからな、代わってやれないかなんて聞いたら喜んですぐ代わってもらえるさ」
「ぬ……北郷様、俺、真面目に頑張ります」
「うん、頑張ってくれ。これを稟――郭嘉に渡したら休んでくれていいからさ」
「は。では、失礼しますッ」

 そうした城内の活気に比べて、城外の活気は一段も二段も落ちる。
 笑い声や歓声こそ戦の勝利から零れているが、その声も顔にも、色濃く疲労が滲んでいた。
 無理も無い、と思う。
 洛陽における危急の呼び出し、そこからの長駆に長安近郊と安定における連戦は、無理をしたと認めるに十分なものであった。
 俺の声に反応して認めた竹簡を手に走り去る兵の顔もまた、疲労に覆われていた。

「ふぅ……いやいや、まだ頑張らなきゃな。子龍殿に申し訳がつかないし」
「ふふ、忘れられていなかったようで。何とも嬉しい限りですな」

 かくいう俺も、身体のあちこちに疲労が隠せていない。
 溜息漏らして身体を動かしてみればごきっぴしっと筋肉が張っているのが分かる。
 最前線で剣を取っていない俺でさえこれなのだ、呂布や華雄、奇襲のためにと慣れぬ船やら幾日もの待機やらで疲れている張遼達は、さすがの彼女達と言えど疲労困憊だということは容易に想像出来た。
 故に、董卓軍は幾日かの休養を安定にて取ることを、董卓と賈駆の下に決定された。
 石城の安否は未だ不明で、そこに務める李確の状況も不明瞭であるが、それでも、事を急いても良い方向に進むことはないだろう、との判断であった。
 兵から感謝や安堵の声が漏れたのは、当然でもある。
 
 とは言え、俺が休めない理由は他にもある――趙雲が未だ別働隊から帰ってこないのだ。
 残敵探索に移る、と忍からの情報はあったものの、未だ帰ってこないとなるといくら趙雲だからといっても心配にはなる。
 大規模な残党や賊軍は確認されいないと忍からの情報もあったが、それでも、命じた手前、趙雲を残して休む訳にもいかないのだった。

 と。
 熱が籠る筋肉を伸ばしながら、熱に任されるがままにぼんやりとそんなことを思考していた俺は、背後から近づく気配と声を察してそちらへと向き直る。
 趙雲、子龍。
 手に槍を持って歩く彼女は、戦が終わったにも関わらずに戦場の空気を纏って俺の目の前に現れた。

「……これは子龍殿。別働隊の任、お疲れでございました」
「はは。なに、勇んで行ったは良いもののさしたる数の敵がおらずに肩すかしを食らいましてな。一刀殿に功無しなどと、どう言えばよいか迷っていたのですよ」
「はは、ご冗談を」
「おや、冗談とはこれは失礼な……しばし、よろしいかな?」


「――かか、その話、わらわにも聞かせてもらえるかのう?」


 ぎゅんっ、と緊張感が一息に纏まったような感覚に、火照っていた身体は一気に熱を冷ましていく。
 趙雲とて疲労が皆無という訳ではないだろうが、その身に纏う戦と血の気配は戦場と変わらぬもので、否が応にも身構えてしまう。
 だというのに、彼女は常と変らぬ笑みを浮かべながら――その身に憤りを纏わせながら、冗談だとは失礼な、と口を尖らせて豊満な身体を俺の懐近くまで近づけた。
 女の子特有の甘い匂いというのはそれだけで胸を高鳴らせるものがあるが、それも、軽やかな汗の匂いに混じって香るとすれば、酷く蠱惑的なものがあると認識せざるを得ない。
 どくんっ、と胸が大きく高鳴って、ともすれば、このまま趙雲の身体を力の限りに抱きしめてしまいたい、なんて思春期な思考が感情を埋めようとする。
 まるで口づけをされると思うぐらいに趙雲の顔が目の前にあって――そこで初めて、俺は彼女が微かにだが血の匂いを纏っていることに気付いた。
 ただの血の匂いではない――酷く、生臭い。

 俺がそれに気づいたのを顔か気配から察したのか。
 すい、と抱きつくように肩の上に顎を乗せた趙雲が、俺の耳元で声を潜めた。
 ――いつぞやの仕返し、と勘繰るのは失礼だろうか、などと思わないでもない。
 ひときわどきんっ、と胸を高鳴らせて、知られることなく背筋を微かに振るわせて。

 ――かか、と含み笑いのような声が、耳を打った。

 幼子のような形――ロリ幼女、と初の出会いで叫んだ言葉を封印――をしながら、その実、老練なる謀略の使い手。
 安定に務めるが将、郭汜が、その背後に見慣れぬ女性を連れて、にまにまとこちらを眺めていた。。

「かか、甘い逢瀬の途中で済まんのぅ……それで北郷、わらわに何か含む所でもあるのかの?」
「ははは、そんな、郭汜殿に含む所なんて、はは、ははは」
「……一刀殿よ、それではあると言っているようなものですぞ」
「ふん、まあよいわ……おおっ、そうよ、降伏した将で李堪じゃ。一応、目を通しておこうと思ってな」
「……李堪だ」

 すいっ、と離れていく趙雲の芳香と微かな温もりに若干の惜しさを感じつつ、郭汜に向き合う。
 にまにま、と幼女のままの顔に笑みを張り付けつつこちらを見やる郭汜の顔は、それはそれは楽しそうな玩具を見つけたような笑みで。
 初心な男子よのう、と視線で笑われているような気がして、郭汜に対して考えるのを止めた――断じて逃げではない、勇気ある撤退である。

 まあそれはともかく。
 そうして郭汜から視線を外せば、その背後からすらっとした長身の女性が手に縄を締められたままに目礼を向けてくる。
 李堪。
 西涼連合軍の雄である韓遂が配下にして、手下八部と呼ばれる一人。
 安定を攻囲するために別たれた片側の軍勢を率いていた彼女は、董卓軍の猛攻を凌ぎ剣を振るいながらも、もう一人の将である馬玩が討ち取られた時点で兵の助命をもって降伏したのだという。
 涼やかな風貌と身なりからすれば武人たる印象ではなく、戦場の最中において剣を振るうような人となりには到底見えない。
 その冷やかな視線は敗れた相手に対する嫉妬のものか、或いは、先ほどまでの俺と同じく、将たる性として探りをいれているのだろうか。
 
「さてそれで? 趙雲と申したか、如何様なことがあった?」
「……ほう。お気付きになられるか」
「かか、当然じゃ。だてにお主らよりも歳をくっておらぬわ」
「は……と、歳上ですとっ?」
「……何じゃ?」
「いえ……。ふむ……一刀殿、世には未だ不可思議なことがあるものですな」
「然様で」
「ええいッ、さっさと申せッ!」

 そんな李堪の視線を受けながら、それに気づいてなお変わらぬ態度の趙雲に郭汜が苛ついた声を上げる。
 ぷんすか、と表現するのが正しい動作で手を上げる郭汜は、なんというか、その、子供が大人ぶっているようにしか見えなくて、実に微笑ましい。
 李堪がいなければそのまま眺めていたいほどであるが、それも、趙雲の緊張した声によって中断されることになる。
 
 
 曰く――森の中にて将らしき女の亡骸を見つけた、と。


 そんな趙雲の言葉に、それまで黙っていた李堪が息を呑んだ気がした。





 ――夕闇に包まれた森の中は、酷く薄暗い。
 木々の隙間からのぞく夜空は元いた世界とは段違いなほどに星々が明るいが、それだけでは到底闇を晴らすほどには至らぬだろう。
 趙雲が手に持つ松明が無ければ、即座に迷い込んでしまいそうな森の中。
 それを少し行くと、明かりに囲まれて、ぽつんと布を仕切りとした一角が現れた。

「……事が事ですからな、勝手に判断するよりは主たる一刀殿に指示を仰ごうと思いまして。あれはまあ、そのためのもの――」
「――かか。のう、趙雲よ、そう隠さずともよいであろう。……そうまでして人目に曝せぬモノか?」
「ッ」
「……さすがですな、郭汜殿」
「……」

 闇夜の中に浮かぶ炎に照らされた白。
 なるほど、常であれば幻想的であるとか綺麗だとか、そういった感想を抱くと思われるそれは――酷い臭気を放っているかのように近寄りがたい。
 嫌悪。
 生理的な、本能の部分で警鐘を鳴らすそれが近づくことを拒もうとしていた。
 
 けれども、近づかなければ事は進まない。
 趙雲の松明に誘われるように白い布を目の前にして、いよいよ耐えきれなくなったかのように趙雲がいつものように軽口を開こうとして――その真意を、あっさりと郭汜が暴いた。
 見せぬ、或いは、見せられぬ。
 そしてそれが将であると思われる女の亡骸――。
 推測は容易で、同じ推測に至ったのであろう李堪の顔に、形容しがたい気が満ちていく。
 怒り、嘆き、悲しみ、諦観、納得――後悔。
 それらが混ざり合った顔だった。


「――では」


 そして。

 
「……錫、辟」


 趙雲がめくった白い布の向こう。
 血溜りに沈み、流した血の量に準じて土色となった肌は衣服を剥ぎ取られて女として隠すべき秘所を曝され、その朱から土色の至る所に醜悪に黄ばみ始めていた何かが付着している――そんな女の亡骸が、そこにはあった。
 豪華絢爛――そう表すべき剥ぎ取られている衣服は血と土に汚れているが、将たる人物が纏うものとしては不足は無いだろう。
 もしやすれば安定から逃れようとした者であったか、と少しばかりの不安は払拭されたが、しかして、唇を噛み締めて何かを耐えている李堪の顔に別の不安が生じる。
 この亡骸が李堪と同じ西涼軍の将であったなら、もしやすれば董卓軍の兵が事を成したのではないか、と。
 そんな俺の不安を感じとってか、李堪は力なく頭を振って口を開いた。

「……この者の名は、成宜。私と同じ西涼にて韓遂様に仕えていた将の一人で、軍師……でもあった。物言いなどで敵も多く、兵から慕われているとは言えなかった。恐らくではあるが……逃げるための壁に成れと命じた兵が、事ここに至って反発したのだと……」
「ふむぅ、まるで見ていたような口ぶりじゃのう、李堪よ?」
「元々軍兵を揃えるのに荒くれ者を多用したのもあるが……事実、見てきた者もそちらにはいるのだろう? 梁興などは、最たる例だ」
「……貴殿も同じであると?」
「……いや、信じてもらえるかは別にして、私に従ってくれた兵には略奪暴行は禁じていた。成宜は西涼の頃より多用していたこともあって、そういった輩が多かったことは否めまい……が……」

 ……このたわけめ。
 そう呟いて、李堪は力なく肩を落とした。
 
「さて、一刀殿……ここを見つけた時に逃げ出した兵が数名いたので尽くを討ち取っておりますが……確かに、我らが軍の装いではなく、西涼の兵のものでしたな」
「それは……いや、もう少し早く言いましょうよ」
「はっはっはっ」
「……はぁ、まあいいや。それよりも子龍殿、布とお湯の手配を頼みます」
「……承知。女官も数人呼んできましょう」
「いや、それらはわらわが差配しよう、救援の礼じゃ……が、お主も甘い男よのう、北郷? ――だが、嫌いではない」

 かっかっかっ、と笑う郭汜に苦笑して、その言葉に任せることにした。
 布とお湯は負傷兵を救護するためには必要不可欠なものではあるが、俺がこの場に来るときには城外の救護についてはある程度収拾がついていたので、さしたる問題はないだろう。
 籠城を終えた安定にそこまで保有があるかは分からなかったが、それでどうにか捻出は出来ると判断した。

 ――と、事の推移に付いていけていない李堪は、きょとんとした顔を向けて口を開いた。

「なに、を……?」
「……何も、辱められた姿を衆目に曝すことはないでしょう」
「……まさか、清められるとおっしゃるのか……敵将であった成宜を?」
「戦果を考えれば骸とはいえ首は取らねばならんがのぅ……かか、まあこういう男だということだ、諦めよ」
「左様。まあ、これが一刀殿の毒牙にございまする」
「おい」
「将として、死なせて頂けると仰るのか……忝い。……かたじけ、ない…………」

 そんな李堪の顔が驚愕に変わり、次いで瞳に涙を溜め始め――そして零した。
 土と血で汚れたきめ細かな頬を伝う涙は、ぽつりと大地へと溶けていく。
 ぽろぽろ、と。
 敵であったとはいえ、友を想って流される涙は何処か悲しいぐらいに綺麗だ、と思えて。
 声に出さずに視線だけ交えた郭汜が頷くと、俺は趙雲を促した。
 
 ――生易しい、と言われるかもしれない。
 梁興に犯された村の出来事からすれば酷く温くて、その村に縁故ある者からすれば憤りと不平不満をぶつけられることは目に見えていた。
 同じ境遇を、陵辱を、狂気を、狂喜を。
 そう願う人がいることは、理解出来ていた――仄暗くて重く粘つく、胸の奥にこびりつくようなその感情。
 友人達と居場所から決別することになったあの一件でも感じたのだ、理解出来ない筈がない。
 
「……一刀殿」
「……」
「一刀殿」
「……は、何でしょう?」
「手を……傷に障ります」

 けれど。
 それでは狂気の連鎖が続くだけなのだ――そう深く飲み込んで、思考を冷静にする。
 何処かで、断ち切らなければならない。
 死んでいった兵も、死んでいった民も――陵辱された女達も、忘れることは出来ないけれど。
 先に続く時代のために、俺は息を吐き拳を握りしめることで、無理矢理にその感情を消化した。
 趙雲に言われて、初めてそこで傷を負っていた手を握りしめていることに気づいた。
 ずきんっ、と鈍く痛んだそれが誰かの心のようで。
 ふわり、と僅かな熱を伴って優しく繋がれた趙雲の手の平が、何処か安心出来た。

 そうして。
 郭汜が近くにいた兵に女兵を数人呼ぶ声と、忝し、と何度も何度も繰り返される李堪の声を背中に覚えながら、俺は趙雲と手を繋いだまま安定までの道のりを歩いていた。
 どちらとも、話もなく、また手を離そうともしない。
 それが自然である、というままに趙雲と肩を並べて歩いている途中、木々が開けた向こうから、俺は空を仰ぎ見る。
 月の煌めく夜空の彼方に、暗雲が見えた気がした。
 




 **





「――報告は以上になります」
「……左様か」
「むぅ……ご苦労であった、下がって休め」
「はッ」

 暗雲立ち込めるは空の彼方――石城を攻囲する西涼軍は、ある一つの報告によってその進退を迫られていた。
 その報告をもたらしたは、血と土と汗によって薄汚れた鎧を纏った兵――安定の戦いから命からがら逃れた兵達である。
 その中には、成宜や李堪が事ここまでと悟って放った伝令もいる。
 その者達が皆一様に持ち帰った報告――韓遂の死去と西涼軍の連敗に、さしもの楊秋と候選も苦い顔を隠せなかった。

 報告の兵に休めと伝える候選の声の後に、二人の間には言葉が無くなった――周囲には誰もいない。
 連日続く攻囲戦の最中ということもあるし、報告が相次いだのが夜更けということもあったが、此度はそれが幸いした形になった。
 ――このような話、程銀と張横にそのまま伝える訳にはいかぬからな。
 片や命を救われ、片や一侍女から寵愛を受けて将にまでなった二人の将は、その韓遂への信奉具合はただものではない。
 もしこの場で事をそのまま受け取っていたとすれば、仇討なりなんなりと軍勢を動かしていたことは容易に想像できた。
 故にどう伝えるべきか。
 そこが、頭の痛いところだった。
 口火を切ったのは、楊秋だ。

「伝えねばならぬ、か……?」
「……ならぬでしょうな。李堪か成宜、或いは馬玩が放った伝令の口ぶりでは、他にも数がいた筈でしょう。そこから聞かぬと限りませぬ」
「聞けば止まらぬ……候選殿でもそう思いか?」
「然り。あの二人だけではござらぬ、将兵、その全てが思い思いのままに動かぬと断言は出来ぬでしょうな」
「ぬぅ……あと少しということろで……」

 石城の陥落は、もはや目前であると言っていい。
 補給も情報も何もかもを封じてしまえば、董家重鎮たる李確でさえ手が出せないでいた。
 このまま事が進めば石城の前に安定は当初の目的通りに陥落し、董卓軍において西方の要である石城はそれに連なり陥落させることが出来、そこから長安、そして洛陽にまで迫れる筈であったのだ。
 それが、策の要であり最重要人物たる韓遂が敗死するとは。
 それどころか、韓遂の企みを防いだ後に、梁興の軍勢を討ち破って安定解放まで軍を進めていたのだから、戦とはままならぬものだ、と楊秋は溜息をついた。

 董卓軍の動きが早いは精兵たるが故か、或いは――天の御遣いと呼ばれる男が、何かを持っているからだろうか。
 などと、詮無きことを考えて、楊秋は苦笑して頭を振った。
 今考えるべきはそのようなことではない。
 如何にしてこの事実を将兵らに公表し、かつ、統率を乱すことなく次なる行動に結びつけるか、である。
 次なる行動として上がるは二つ、攻めるか引くか、ただそれだけだ。

「我らが総軍たるは約五千。その総数たるを投入すれば、ここまで疲弊させておるのだ、李確籠もる石城とて容易に落とせよう」
「ですが、損害は被り、疲労は溜まりましょう。さすれば、逆落としで董卓軍に蹂躙されるは必定かと」
「うぅむ……では、如何する?」
「ふむ……」

 攻めるか、撤退か。
 そう頭の中に浮かんだ中で、撤退という単語だけがすぐさま消えた。
 西涼に退く、という目的は既に韓遂の死――死んだことの事実すら確認出来てはいないが――によって検討の意味事態が消えているのだ。
 西涼連合という豪族等の集まりでしかない中で、有力豪族たる韓遂が死んだ後にその配下に収まっていた者達の行く末など決まっていよう。
 勝ち馬に乗ろうとする者達によって嬲られるか、勝者たる董卓、或いは韓遂亡き後に西涼にて最大勢力になるであろう馬騰による掃討である。
 少なくとも、逃げ帰って歓迎されることは万に一つとて無いだろう。

 となってくると、残された手立ては一つ――攻めるしかない。
 確かに、候選の言うとおり長きに渡る攻囲によって石城の将兵らは疲弊しており、そこからくる士気の低下は、いかな李確といえども対応しきれまい。
 様子見や小競り合いなど、小規模戦闘のみで殆ど被害のない自軍からすれば現状の石城を陥落させるのはさほど難しいことではないだろう――だが、後に残るのは破壊された城壁城門と、名将たる李確の徹底抗戦によって大きく損耗されるであろう兵であることは想像に難くなかった。
 西涼軍の強さは騎馬のを用いた戦略と騎馬自身の精強さによるものだ、籠城などすれば、それを活かす手段はほぼ無くなってしまう。
 
 どちらの手を取るにしても八方塞がり。
 そんな状況で、どんな策を打つというのか。
 そう頭を悩ませようとする候選を見やりながら、楊秋はさも当然の如く言葉を紡いだ。

「うむ。撤退も石城攻略も愚策というのなら、残る策は一つしかありませんな……」
「……何? 楊秋よ、事ここに至って、これ以上に策があるというのか?」
「策、というほどではありませんが……しかし、このまま座して死ぬは西涼兵の名折れ――となれば、取れる策など一つしかありませんでしょう?」
「ぬ……まさか?」
「ええ――」

 考えてみれば簡単なことであった。
 撤退――後々に詰むことは目に見えている。
 石城攻略――石城を攻略したとて董卓がそれを見逃す筈もなく、逆落としで討たれるだろう。
 ならば――。


 ――石城に籠もる兵も救援に来る董卓軍も、その全てを一同に討ち破ってしまえばいい。


 西涼兵の精強さに油断している訳ではない。
 洛陽からここまで駆けてきた董卓軍の疲労に期待している訳でもない。
 洛陽からの急動、梁興、馬玩、成宜、李堪などの軍勢との連戦、安定で取るであろう休息と補充、それらから鑑みるに、ここに至る時には董卓軍の総数は石城の城兵を加えても五千に及ばない程度であろう。
 無論、それはただ推測であるし、何より、兵数が多いから勝てるというものでもない。
 
 ただ。
 唯一つ、確固たる勝機を得ようとするのであれば。
 

「――決戦しか、道は無いでしょう」


 涼州特有の広大な地。
 馬が駆けるに邪魔するものは無く、兵が広がるに遮るものは無く、遠くを見渡すに気にするものは何も無い。
 策を弄せぬほどに広々としたこの大地が決戦を行うに相応しいということが、唯一つの勝機たり得た。


 それ即ち――梁興にも李勘達にも率いらせなかった西涼騎馬兵の精鋭衆、精強で名を知らしめたその威力の存分な見せ所である。







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