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No.18488の一覧
[0] 恋姫†無双  外史の系図 ~董家伝~[クルセイド](2011/01/08 14:12)
[1] 一話~二十五話 オリジナルな人物設定 (華雄の真名追加)[クルセイド](2013/03/13 10:47)
[2] 一話[クルセイド](2010/05/04 14:40)
[3] 二話[クルセイド](2010/05/04 14:41)
[4] 三話[クルセイド](2010/05/24 15:13)
[5] 四話[クルセイド](2010/05/10 10:48)
[6] 五話[クルセイド](2010/05/16 07:37)
[7] 六話 黄巾の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:36)
[8] 七話[クルセイド](2010/05/24 15:17)
[9] 八話[クルセイド](2010/05/29 10:41)
[10] 九話[クルセイド](2010/07/02 16:18)
[11] 十話[クルセイド](2010/09/09 15:56)
[12] 十一話[クルセイド](2010/06/12 11:53)
[13] 十二話[クルセイド](2010/06/15 16:38)
[14] 十三話[クルセイド](2010/06/20 16:04)
[15] 十四話[クルセイド](2011/01/09 09:38)
[16] 十五話[クルセイド](2010/07/02 16:07)
[17] 十六話[クルセイド](2010/07/10 14:41)
[18] ~補完物語・とある日の不幸~[クルセイド](2010/07/11 16:23)
[19] 十七話[クルセイド](2010/07/13 16:00)
[20] 十八話[クルセイド](2010/07/20 19:20)
[21] 十九話[クルセイド](2012/06/24 13:08)
[22] 二十話[クルセイド](2010/07/28 15:57)
[23] 二十一話[クルセイド](2010/08/05 16:19)
[24] 二十二話[クルセイド](2011/01/28 14:05)
[25] 二十三話[クルセイド](2010/08/24 11:06)
[26] 二十四話[クルセイド](2010/08/28 12:43)
[27] 二十五話  黄巾の乱 終[クルセイド](2010/09/09 12:14)
[28] 二十六話~六十話 オリジナルな人物設定 (田豫)追加[クルセイド](2012/11/09 14:22)
[29] 二十六話[クルセイド](2011/07/06 10:04)
[30] 二十七話[クルセイド](2010/10/02 14:32)
[31] 二十八話 洛陽混乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:44)
[32] 二十九話[クルセイド](2010/10/16 13:05)
[33] 三十話[クルセイド](2010/11/09 11:52)
[34] 三十一話[クルセイド](2010/11/09 11:43)
[35] 三十二話[クルセイド](2011/07/06 10:14)
[36] 三十三話[クルセイド](2011/07/06 10:23)
[37] 三十四話[クルセイド](2011/07/06 10:27)
[38] 三十五話[クルセイド](2010/12/10 13:17)
[39] 三十六話 洛陽混乱 終[クルセイド](2013/03/13 09:45)
[40] 三十七話[クルセイド](2010/12/16 16:48)
[41] 三十八話[クルセイド](2010/12/20 16:04)
[42] 三十九話 反董卓連合軍 始[クルセイド](2013/03/13 09:47)
[43] 四十話[クルセイド](2011/01/09 09:42)
[44] 四十一話[クルセイド](2011/07/06 10:30)
[45] 四十二話[クルセイド](2011/01/27 09:36)
[46] 四十三話[クルセイド](2011/01/28 14:28)
[47] 四十四話[クルセイド](2011/02/08 14:52)
[48] 四十五話[クルセイド](2011/02/14 15:03)
[49] 四十六話[クルセイド](2011/02/20 14:24)
[50] 四十七話[クルセイド](2011/02/28 11:36)
[51] 四十八話[クルセイド](2011/03/15 10:00)
[52] 四十九話[クルセイド](2011/03/21 13:02)
[53] 五十話[クルセイド](2011/04/02 13:46)
[54] 五十一話[クルセイド](2011/04/29 15:29)
[55] 五十二話[クルセイド](2011/05/24 14:22)
[56] 五十三話[クルセイド](2011/07/01 14:28)
[57] 五十五話[クルセイド](2013/03/13 09:48)
[58] 五十四話[クルセイド](2011/07/24 14:30)
[59] 五十六話 反董卓連合軍 終[クルセイド](2013/03/13 09:53)
[60] 五十七話[クルセイド](2011/10/12 15:52)
[61] 五十八話[クルセイド](2011/11/11 14:14)
[62] 五十九話[クルセイド](2011/12/07 15:28)
[63] 六十話~ オリジナルな人物設定(馬鉄・馬休)追加[クルセイド](2012/11/09 14:33)
[64] 六十話 西涼韓遂の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:54)
[65] 六十一話[クルセイド](2012/01/29 16:07)
[66] 六十二話[クルセイド](2012/02/23 15:07)
[67] 六十三話[クルセイド](2012/03/22 14:33)
[68] 六十四話[クルセイド](2012/04/21 10:41)
[69] 六十五話[クルセイド](2012/05/25 13:00)
[70] 六十六話[クルセイド](2012/06/24 15:08)
[71] 六十七話[クルセイド](2012/08/11 10:51)
[72] 六十八話[クルセイド](2012/09/03 15:28)
[73] 六十九話[クルセイド](2012/10/07 13:07)
[74] 七十話[クルセイド](2012/11/09 14:20)
[75] 七十一話[クルセイド](2012/12/27 18:04)
[76] 七十二話[クルセイド](2013/02/26 19:07)
[77] 七十三話[クルセイド](2013/04/06 12:50)
[78] 七十四話[クルセイド](2013/05/14 10:12)
[79] 七十五話[クルセイド](2013/07/02 19:48)
[80] 七十六話[クルセイド](2013/11/26 10:34)
[81] 七十七話[クルセイド](2014/03/09 11:15)
[82] 人物一覧表[クルセイド](2013/03/13 11:02)
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[18488] 七十二話
Name: クルセイド◆b200758e ID:bc2f3587 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/26 19:07





「――何ということだ」

 安定攻略における軍議の最中、突如として舞い込んできた報を確かめるために天幕を飛び出した李堪の視界に、俄かには信じ難い光景が映し出される。
 安定攻略――知謀策略の限りを尽くしていた戦いは、自軍にとって優位に押し進んでいたと言っていい。
 安定に籠る董卓軍と同数の兵で包囲し、さも策があるかのように動き、董卓軍の不平不満と疑心を燻らせ、焦れて討って出てくれば控えていた軍勢によって討ち滅ぼす。
 李堪と成宜によって構築された、謀将たる郭汜が率いる安定を攻め落とすための謀略は、既に終わりが見える状態にまで進められていたのだ。

 だが――。
 だがそれも――董卓軍に援軍が来ない、そのことを前提にしての話である。

「……『董』の旗に色々と、馬超と馬岱の『馬』旗もあるわねぇ。んー……三千ぐらいかしらぁ?」
「それぐらいだろう。――前提が崩れたな」
「韓遂が失敗したってことね。死んだか、捕えられたか……。あまりにも早すぎる気もするけど……どちらにしろ、この戦は負けね、負け」
「まだ完全に負けたと決まった訳でも無いし、韓遂殿が失敗したという可能性も無いが……だが、董卓軍が長安を超えて来たということは、梁興は敗れたのだろうな」
「ただ単に見つからなかったのかもしれないけど……最悪の場合、死んだかもしれないわねぇ」


「――くひ?」


 通常、敵地に接している拠点というものは防備を固めているというのが常である。
 勇将名将が兵を率い、万全たる体勢で敵を待つ――董卓軍で言えば、まさしく李確籠る石城がそれであった。
 だからこそ、西涼韓遂軍は石城を落とすための策略を進めていたと言っていい――まず一番に落とさないことによって、石城を、董卓軍を攻め落とそうとしていたのだ。
 反董卓連合軍との戦いにおける傷が治り切っていない今、董卓軍の西の抑えは李確が柱と言って良いだろう。
 その李確が籠る石城を包囲によって固め、防備の薄いその裏を落とせば董卓軍は防備の要との連携を失って一気に瓦解するだろう――しかしてその目論見は、突如として現れた董卓軍の援軍によって崩れ去ることとなり、戦況は大きく覆されてしまうこととなったのである。
 
 そして、董卓軍の救援がここに至ったということは、洛陽にて混乱を起こさんとしていた韓遂、長安に攻め入る予定であった梁興は失敗したということでもあった。
 彼らが無事に使命を果たしたのであれば、ここに至っていたのは韓遂本人であっただろうが、その旗が見えないであればその可能性は無いだろう。
 捕らえられたか、逃げたか――或いは、死んだか。
 死んでいる可能性の方が大きい、という予想を李堪は決めつけることはなかったが、軍師たる成宜が可能性を浮かべるために口にした言葉は――首をひねる馬玩の耳へと届いていた。



「くひ、くひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、くひひひ、くきききききき、きき、き、き――――ッッッッ!」



「ひぃッ?!」
「……」

 途端、悲鳴が上がる。

 壊れかけのような――否、子供が首をもぎ手足を折った壊れた人形のような動きで不気味な叫び声を上げる馬玩に、異様な空気が溢れ出す。
 兵の中にはあまりの異様さと異質さと恐怖から声を漏らす者もいた。
 
 ――確かに、馬玩のことを知らない者からすれば、今の馬玩の異様は明らかに恐怖を抱くものだということは李堪も理解していた。 
 だが、李堪にしろ成宜にしろ、馬玩が梁興に壊される前からの付き合いだからこそ、これが彼女の怒りの表現であることを知っている。
 ――儚くも爛漫だった笑顔は、壊れたように歪で。
 だからこそ、馬玩が自らを壊した男の死を悲しみ怒り狂っているのだとすれば――今にも無垢なる殺意を吐き出そうとするのであれば、共をするのが同じ軍に属する者として、友としての役割だろうと李堪は一つ息を吐いた。

「さて……お前はどうする?」
「負けが決まってるなら即刻逃げたい所だけどねぇ……ま、一戦くらいは問題無いでしょう。……もっとも、勝ちか負けが決まったらすぐに逃げるわよぉ?」
「ふむ、お前らしいな……もっとも、負けるつもりは毛頭ないがな」
「あら、勇ましいわね」
「梁興のことは嫌っていたが、友が泣くのならば弔いの戦も付き合ってやらねばならぬだろう。……それに、負けるつもりは無いと言った。別に勝ってしまっても構わんのだろう?」
「ふふ、あなたらしいわねぇ」

 もしやすれば、旗を出さず韓遂や梁興があの兵を率いている――そんな淡く、微少な可能性を頭を振って振り払った李堪は、にやりと口元を歪める。
 なるほど、方針は決まった。
 一戦するかや。
 そう李堪と同じように口元を歪めた成宜は馬玩へ笑みを浮かべようとして――馬玩がその場にいないことに気づいた。

「あや?」
「あそこだ……さすがに、速い」

 視線を飛ばしてみれば、馬に砂煙を立ち上がらせながら安定を攻囲する自らの部隊へと馬玩が駆けていく。
 くききくかかと笑っていた馬玩は既に兵の下へ向かいました、などと遅れて伝えてくる兵に苛立ちのまま成宜が舌打ちして、やれやれと李堪が肩をすくめた。

「誰かッ」
「――は」
「伝達確保のため数人を率いて石城包囲中の本隊へ伝令。韓遂殿が策は失敗し長安攻略も失敗、董卓軍三千が安定救援のために出陣、これを撃滅する。董卓軍本隊の兵数不明のため、西涼への撤退も視野に入れたし、とな」
「はッ」
「さて……こっちは総勢で五千五百、安定を包囲してはる痘朴はんの二千とあたくし達の三千五百ですなぁ。汎季はん、どう攻めはる?」
「痘朴が前衛として安定と救援両方の董卓軍を押しとどめ、その間に安定を迂回して奇襲する隊と直に救援に来た董卓軍に横撃を与える二手に分かれるとしよう。私が直、お前が迂回……それでいくぞ」
「……奇襲て、ばればれやろ?」
「そんなことは分かっている。敵にこちらの狙いがばれるのも策の内だ。そうすれば、相手の対応は限られてくるからな……狙うはべきは一つ――機を合わせての三面包囲による殲滅戦だ。遅れるなよ?」
「そちらこそ」

 ――すっ、と。
 まるで涼州の果て、平原を馬で駆けていた時のように落ち着いた李堪の顔が引き締まるのを見て、成宜もまた口元を引き締める。
 総での兵数は董卓軍と大差無いが、董卓軍はここまでの強行軍で疲弊していることに加えて、恐らくではあるが梁興の軍勢からの連戦になる。
 対して、自軍は安定を包囲していたと言っても策を前提にしていたためさほど疲弊しておらず、活力から言えば差を言うまでもない。
 また、ここまで溜まりに溜まっている功名心と戦気は、開放の匂いを嗅ぎつけてか。確かで濃密な殺気という形となりて、解き放たれるのを刻一刻と待ち望んでいた。

 敗れる要素など見つけるほうが難しい――そう思うことは、実に簡単であった。
 だが、目の前に迫るは数倍以上にもなる二十万の軍勢を退けた董卓軍である
 油断など出来るはずも無く、手を緩めることなど有り得はしなかった。
 さらには、成宜が謀略に長けているように李堪は戦術に長けている――常日頃から人を信じぬ自らとしても信用に値する、と成宜は身を振るわせながらさらに口元を歪めていた。


 そして――。


「出陣するぞッ、救援に来た董卓軍を叩き潰すッ! 安定に籠る董卓軍の出撃も予想されるが、勢いと勝機は我らにあるッ! 臆するな、いざ――進めェッ!」



 西涼が韓遂軍――その残党とも呼べる者達は、李堪の号令によって戦の勝敗を決するがために謀略の要でもあった伏兵部隊を発した。

 三千五百。
 董卓軍が危惧していた、賊軍にも近かった梁興の軍勢とは違う正規軍。
 精鋭たる騎馬が、嘶いていた。





  **





「――確認するわよ」

 視線は前に。
 戦を前にしてか熱が籠っているのか、馬の動きに合わせながら肩を少しだけ上下させて吐かれた吐息は妙に熱っぽくて艶やかだ。
 額にじんわりと浮いた汗が髪を張りつかせていることに気付いているのかいないのか、そんなことを構うこともなく、賈駆は口を開いた。

「まずは安定を包囲する西涼軍の撃退ね。恋、華雄は先に突っ込んで暴れてちょうだい」
「……ん、分かった」
「ふ……任されよう」

 視界の遥か先――西涼軍に包囲されている安定が見える。
 あの地を舞台とした黄巾賊との戦がつい先日のように思い出されるが、まるで繰り返されるが如くのように、あの時に似た光景が視界に映し出されていた。

 城壁の隙間に刺さったままのものや、半ばから折れている矢。
 わらわらと兵が蠢く城壁の上は、未だ堅牢さを示すかのように防戦の準備をしているもののさしたる活気が見当たらない。
 まさしく陥落寸前といったふうな安定の街を、風に揺らめく『董』の旗だけが元気づかせているようであった。

 ――士気が低い。
 安定の有り様を見て、俺はそんな感想を抱く。

 事前の情報では安定の兵は二千程度だった筈である。
 安定救援以降にて急募した志願兵や徴兵が大半を占めていた覚えがあるが、練度が低い兵による戦の恐怖故に――という訳ではどうにも無さそうだ。
 恐怖で士気が低いのならば、救援が現れた段階で士気は回復するものだと思う。
 だが、どうにも様子はそのようではない。
 近づくにつれて、どうやら士気が低いというよりも、鬱憤が溜まっているような印象を城壁の上で防衛の準備を進めている兵から見て取れた。
 なぜ、なにゆえ――と眉を潜めて呂布と華雄を見送りだしたところで、傍らにいた郭嘉の言葉に耳を取られた。
 
「城壁の損傷具合が低いながらも士気が低いところを見るに、恐らくは謀略の類かと」
「む。安定には郭汜殿がいるけど……それでも、と?」
「詳細は何とも……ですが、安定の兵は石城、長安、洛陽から比べて一段と錬度が低かったはず。言うなれば――意思が弱い」
「膿んだ傷、あれは痛い」
「……いきなりですね、子龍殿」
「でも的確ですよー」
「うぅ……痛いのは嫌ですけど……面白い表現をされるんですね、趙雲さんは」
「おや、董卓殿に褒められるとは軽口を叩いた甲斐がありますな」
「いや、褒めてないでしょ」

 趙雲の言葉になるほどと頷く――例えが的確であるかはさておいて。
 そのまま放っておけば治るはずの傷がぐずぐずに膿んでくると、心底としてはあまり良いものではない。
 そのまま安静にしていれば完治するものが一向に治らないのだ。

 それと同じように、疑念の種が安定にはあったのだろう――例え的に傷と言い換えても良い。
 普通ならばなんでも無い傷、それが中々に直らない。
なんで、どうして、と疑問に思う者が出てきたとして不思議ではない。
 そうして、疑問は疑念を呼び、疑念は疑いを呼び、疑いは不和を呼び、不和は不況を呼んで――士気の低下というわけであった。
 おやおや、いやいや、と何やら白熱し始めた趙雲と賈駆の言い合いの合間にそう程昱から教わると、やれやれと俺は口を開いた。

「うん、分かった、状況は分かった。――それで、俺達はどうする?」
「今回、あんたは待機」
「う、うん……まあ、そうだよな」
「当然でしょ? 怪我して剣を握れないのに前線に出た梁興との戦いは勢いを殺さないために仕方が無かったとして、今回はそういう訳にはいかないの。そんな所、剣を握れない奴は邪魔なだけでしょ」
「う……ぐむむ」
「分かった? なら、馬超と馬岱は恋達と合流。郭嘉と程昱もこっちで預かるわよ」
「――え゛っ?」

 ぬぐぐ、と俺を口で負かしたのが余程嬉しかったのか、にんまりとした笑みを誇らせながら賈駆が口早に指示を下していく。
 確かに、手に負った傷によって満足に剣を振るうことの出来ない俺が前線にいてもお荷物が増えるだけというのは理解出来る。
 理解は出来るのだが――果たして、呂布と華雄を抑えることが出来る人物などいるのだろうか、などと他人事のように考えてしまった。

 しかも、賈駆の言葉ではそれに馬超が加わるという。
 ちらりと横目で俺の指示を待つ馬超と馬岱に目を配る。
 馬超は梁興戦の熱が引かないのか鼻息荒く。
 三人の手綱を握らなければならない、その役目を自分が行わなければいけないのかと驚きの声を上げた馬岱は、震えるように涙を溜めた上目使いでこちらを見つめていた。
 その顔に三人を相手にする苦労さを思い出して――俺は賈駆の指示に合わせて声を発した。

「うん――それでいこう。翆と蒲公英は恋と華雄に合流して、先陣を頼む」
「おうッ、任されたッ!」
「うぅ……お兄様の裏切り者ォォォッ?!」

 本当にすまん。
 そんな言葉を馬超につられる形で馬を走らせ出した――どちらかというと引っ張られていると言った方が近いが――馬岱に内心で投げかける。
 騎馬隊を主力とした西涼軍と当たる上で同程度の騎馬隊を率いた経験のある馬超と馬岱は重要な戦力である。
 騎馬隊の練度こそ西涼軍に劣っているからこそ、その戦力を怪我で前線に投入しにくい俺のそばで遊ばせている訳にはいかない――賈駆の判断が理解出来るからこそ、その判断に従うのだ。
 とは言え、明らかに大変な役割を馬岱に任せたことは事実である。
この戦いが終われば何か穴埋めをするべきだろうか、などと考えてみた。

「……さて」
「……あんた、中々に酷いわね」
「今は余裕があるわけじゃないんだろ? だったら、詠の策で月の指示の通りに動いていくしかないさ」
「う……うん。そうね……あんたには、兵五百を率いて遊軍で動いてもらうわ――多分だけど、敵は正面だけじゃないから」
「……謀略の肝か?」
「詠ちゃんは奇襲急襲の類だと」
「ふむ……」
 
 同数の兵で攻囲して疑念を生み出して攻略を容易にする、というのだけが敵の策はないとの賈駆の言葉に、徐々に馬足を速めて戦況を眺めながらも、戦場を確認する。
 先陣を駆る呂布と華雄に馬超と馬岱が合流し、今まさに安定を包囲している西涼軍とぶつかろうとしている。
 二千という数には遠く及ばないが、率いるのは董卓軍でも最上位に位置するであろう武人達だ。
 それに、西涼軍は安定の城門を塞ぐために数か所において布陣している。
 二千が幾つか分かれているのであれば、先陣を駆ける兵数でも十分に対処は可能だろう。

 となれば、俺達としてはその謀略の肝に当たるべき。
 そして、それを賈駆は奇襲と――そのための兵があの二千とは別にいると読んだのだ。
 

 そしてその読みが当たったことを示すかのように、安定より遥か向こう――安定救援戦の際に本陣を張っていた丘の向こうから、三千を超すほどの軍勢が現れたのであった。





  **





「全軍を叩き起こせッ! 敵軍が援軍を含めて攻めて来るぞッ」
「伝令は救援の先陣が敵軍にぶつかった混乱に紛れて外へ出る用意をッ! 決死行になる、馬を引けィッ」

 救援に来たであろう董卓軍本隊。
 一気に戦況を進めんとする西涼韓遂軍とその援軍。
 その両軍がぶつかる地であり、中間に位置する安定の街はその両軍の動きをつぶさに確認出来ていたとともに、瞬く間に喧噪飛び交う戦場と化していた。

「救援軍の動きはどうなっておる?」
「はッ。率いるは董卓様本人と思われます。現在、『呂』と『華』の旗が先陣を切り、それに続いて『馬』の旗が二つ――馬超と馬岱と思われます」
「馬謄の娘達か……『十』――北郷は如何しておる?」
「本隊とともに動いているようです」
「ふむ……対して、敵軍の動きは?」
「……包囲の二千に援軍――敵の肝は三千を超える程度。こちらは二手に分かれて、ここを迂回する軍勢と二千に合流する軍勢として進軍している模様だ」
「ふむぅ……包囲の軍勢が三千ほど、別働隊が二千ほどになるということかや」
「申し上げますッ、救援軍が先鋒、呂布様と華雄様が包囲軍と戦闘を開始ッ! 馬超、馬岱はこれに同調して横撃に移るものとッ」
「加えて申し上げますッ! 韓遂軍の別働隊、こちらの弓が届かぬ位置にて迂回中ッ! 本隊の横腹を穿つ模様!」

 その中でも最たる場所――安定の司令部では、矢継ぎ早に飛び込んでくる報告に目まぐるしく郭汜が地図上の駒を動かしていく。
 安定を中心とし、その周囲に西涼軍。
 それをさらに中心として、正反対の位置に現れたのは両軍の救援軍。
 董卓軍の救援は先陣を先行させて、本隊は少し後ろ。
 西涼軍の救援は二手に分かれて、安定の街を迂回して救援軍を叩く軍勢と安定包囲の軍勢に合流する軍勢。
 戦況の推移、両軍の動き、その含む所に、なるほどのぅ、と郭汜は音に出すことなく感嘆の声を上げた。
 
 恐らくではあるが、董卓軍の救援はここに至るまでにだいぶ無理をしているのだろう。
 こちらが出した伝令か、或いは石城から出た伝令が河を下ったのかは分らぬ。
 だが、どのような形にしろ、どのような経緯にしろ、伝令が洛陽まで向かい、そこから軍勢を整えて出撃したのではここまで早くは来られなかったであろう。
 ――洛陽にて凶事でも起こったのかや?
 その推測に謀略の匂いをなんとなしに嗅ぎ付けるが、しかし、今はそれに思考を動かすことも終わったことを詮索することも、そのような余裕は無い。
 どのような理由であれ、ここまで早く救援に来るためには道中に少なからずの無理を兵に強いたことは、推測に難くなかった。

 対して、西涼軍にはここまで大きな動きは無い。
 包囲していた軍勢にしても積極的な攻めは控えていたし、恐らく伏兵として待機していた救援の軍勢に至ってはほとんど疲弊していないだろう。
 故に、両軍の動きはここまで違う――大きく動く西涼軍と小さく動く董卓軍という、構図。
 そして、それを両軍――その頭脳である軍師が承知しているからこそ、それぞれの動きが噛み合った動きで戦況が進んでいくことに、郭汜は再び感嘆の溜息を洩らした。

「……呆けている場合ではないぞ」
「分っておるわい。うむ……月がおるなら詠も救援の中におろう。多分じゃが、本隊は疲弊が溜まっておる。故に少数ながらも精鋭たる呂布と華雄をこちらの解放に向かわせておる筈じゃ」
「……本隊はどう動く?」
「この迂回している敵別働隊を迎え撃とうとしておる筈じゃ。西涼の騎馬が迂回の勢いに乗せて攻め寄せるは脅威じゃが、恐らく、率いておるは石城から古参の兵じゃろう。五分程度には戦える筈よ」

 洛陽入り以降の兵ならば、恐らく神速と謳っても間違いではないここまでの行軍にはついてはこれないだろう。
 ならば、洛陽以前――それこそ石城からの古参兵ならば可能である、と断じての推測は、果たして当たっているや否や。
 戦が終わった後にでも答え合わせといこうかのう、とにんまりと口を歪める郭汜は、しかし、すっと視線を引き絞って地図上を睨んだ。

 呂布と華雄。
 董卓軍でも一、二を争う武人ならばいかに精強で知られる西涼軍とはいえ簡単に敗れることは無いだろう。
 むしろ、逆に食いちぎってしまいそうな想像すらある――が、そこはやはり人、過度な自信は策略を組む上では邪魔者以外の何物でもない。
 常に失敗を想定してこその謀略――失敗したとして、それでも利と益になることを行わなければならないのだと、郭汜は気を引き締める。
 
 対して、本隊の方は先陣よりも兵も将も多い。
 董卓がいれば当然に賈駆もいよう、あの二人ならば同数程度の敵軍を相手にすれば優位に事を進めることが出来るだろう。
 それは精強で勢い駆る西涼軍とて例外ではない――いかぬな、と再び思考を冷静に沈めていく。
 どうにも、董卓と賈駆を相手にすると童のころからの縁で盲目になりかねない。
 まあ、北郷もいるのだ、年若いながらもそれなりに優れた観察眼を持つあやつがおるならばさしたる心配も必要あるまい――が、何かがぞわりと背筋を撫でる。
 それは、西涼軍に安定を囲まれた後にも感じたことのある感覚で。
 あながち無視は出来ないその感覚に、郭汜は瞳を瞑って思考を働かせた。

「ふむ……恋達の方も五分程度には戦えるじゃろうな。あやつらは――馬超らは知らんが――お主にも勝つほどの武よ。そう簡単に負けはせぬ」
「うむ……だが――」
「――そこで終いよなぁ。如何せん、兵の量と質は武力だけで五分から押し返せる程度は無かろう。月達の方もそうじゃ、五分で戦えて兵の質でそれで終いよ」
「……随分と冷静な判断をする」
「過度な望みはせぬことが策略謀略の約束事よ」

 にしし、と笑いつつも視線だけは真剣に地図を眺める。
 状況、戦況、戦機、各将の思考、敵軍の動向、その全てを高速に混ざり合わせながら、郭汜は一つの判断を線として繋げていく。
 それを、樊稠は遮ることはない。
 腕を組み、じっと何かを待つようにただ黙っているのみだった。


 ――そして。


「――うむ」

 一つ頷きながらも声を発した郭汜に、その思考が結論を付けたことを樊稠は感じ取る。
 勝利を狙い澄ますかのようににやりと口端を歪める童女の如くな謀将は、そんな樊稠に伝えるかのように口を開いた。




「――救援の救援じゃ」




 そうして。
 タンッ、郭汜は駒を一つ地図上へと置いたのだった。




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