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No.18488の一覧
[0] 恋姫†無双  外史の系図 ~董家伝~[クルセイド](2011/01/08 14:12)
[1] 一話~二十五話 オリジナルな人物設定 (華雄の真名追加)[クルセイド](2013/03/13 10:47)
[2] 一話[クルセイド](2010/05/04 14:40)
[3] 二話[クルセイド](2010/05/04 14:41)
[4] 三話[クルセイド](2010/05/24 15:13)
[5] 四話[クルセイド](2010/05/10 10:48)
[6] 五話[クルセイド](2010/05/16 07:37)
[7] 六話 黄巾の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:36)
[8] 七話[クルセイド](2010/05/24 15:17)
[9] 八話[クルセイド](2010/05/29 10:41)
[10] 九話[クルセイド](2010/07/02 16:18)
[11] 十話[クルセイド](2010/09/09 15:56)
[12] 十一話[クルセイド](2010/06/12 11:53)
[13] 十二話[クルセイド](2010/06/15 16:38)
[14] 十三話[クルセイド](2010/06/20 16:04)
[15] 十四話[クルセイド](2011/01/09 09:38)
[16] 十五話[クルセイド](2010/07/02 16:07)
[17] 十六話[クルセイド](2010/07/10 14:41)
[18] ~補完物語・とある日の不幸~[クルセイド](2010/07/11 16:23)
[19] 十七話[クルセイド](2010/07/13 16:00)
[20] 十八話[クルセイド](2010/07/20 19:20)
[21] 十九話[クルセイド](2012/06/24 13:08)
[22] 二十話[クルセイド](2010/07/28 15:57)
[23] 二十一話[クルセイド](2010/08/05 16:19)
[24] 二十二話[クルセイド](2011/01/28 14:05)
[25] 二十三話[クルセイド](2010/08/24 11:06)
[26] 二十四話[クルセイド](2010/08/28 12:43)
[27] 二十五話  黄巾の乱 終[クルセイド](2010/09/09 12:14)
[28] 二十六話~六十話 オリジナルな人物設定 (田豫)追加[クルセイド](2012/11/09 14:22)
[29] 二十六話[クルセイド](2011/07/06 10:04)
[30] 二十七話[クルセイド](2010/10/02 14:32)
[31] 二十八話 洛陽混乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:44)
[32] 二十九話[クルセイド](2010/10/16 13:05)
[33] 三十話[クルセイド](2010/11/09 11:52)
[34] 三十一話[クルセイド](2010/11/09 11:43)
[35] 三十二話[クルセイド](2011/07/06 10:14)
[36] 三十三話[クルセイド](2011/07/06 10:23)
[37] 三十四話[クルセイド](2011/07/06 10:27)
[38] 三十五話[クルセイド](2010/12/10 13:17)
[39] 三十六話 洛陽混乱 終[クルセイド](2013/03/13 09:45)
[40] 三十七話[クルセイド](2010/12/16 16:48)
[41] 三十八話[クルセイド](2010/12/20 16:04)
[42] 三十九話 反董卓連合軍 始[クルセイド](2013/03/13 09:47)
[43] 四十話[クルセイド](2011/01/09 09:42)
[44] 四十一話[クルセイド](2011/07/06 10:30)
[45] 四十二話[クルセイド](2011/01/27 09:36)
[46] 四十三話[クルセイド](2011/01/28 14:28)
[47] 四十四話[クルセイド](2011/02/08 14:52)
[48] 四十五話[クルセイド](2011/02/14 15:03)
[49] 四十六話[クルセイド](2011/02/20 14:24)
[50] 四十七話[クルセイド](2011/02/28 11:36)
[51] 四十八話[クルセイド](2011/03/15 10:00)
[52] 四十九話[クルセイド](2011/03/21 13:02)
[53] 五十話[クルセイド](2011/04/02 13:46)
[54] 五十一話[クルセイド](2011/04/29 15:29)
[55] 五十二話[クルセイド](2011/05/24 14:22)
[56] 五十三話[クルセイド](2011/07/01 14:28)
[57] 五十五話[クルセイド](2013/03/13 09:48)
[58] 五十四話[クルセイド](2011/07/24 14:30)
[59] 五十六話 反董卓連合軍 終[クルセイド](2013/03/13 09:53)
[60] 五十七話[クルセイド](2011/10/12 15:52)
[61] 五十八話[クルセイド](2011/11/11 14:14)
[62] 五十九話[クルセイド](2011/12/07 15:28)
[63] 六十話~ オリジナルな人物設定(馬鉄・馬休)追加[クルセイド](2012/11/09 14:33)
[64] 六十話 西涼韓遂の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:54)
[65] 六十一話[クルセイド](2012/01/29 16:07)
[66] 六十二話[クルセイド](2012/02/23 15:07)
[67] 六十三話[クルセイド](2012/03/22 14:33)
[68] 六十四話[クルセイド](2012/04/21 10:41)
[69] 六十五話[クルセイド](2012/05/25 13:00)
[70] 六十六話[クルセイド](2012/06/24 15:08)
[71] 六十七話[クルセイド](2012/08/11 10:51)
[72] 六十八話[クルセイド](2012/09/03 15:28)
[73] 六十九話[クルセイド](2012/10/07 13:07)
[74] 七十話[クルセイド](2012/11/09 14:20)
[75] 七十一話[クルセイド](2012/12/27 18:04)
[76] 七十二話[クルセイド](2013/02/26 19:07)
[77] 七十三話[クルセイド](2013/04/06 12:50)
[78] 七十四話[クルセイド](2013/05/14 10:12)
[79] 七十五話[クルセイド](2013/07/02 19:48)
[80] 七十六話[クルセイド](2013/11/26 10:34)
[81] 七十七話[クルセイド](2014/03/09 11:15)
[82] 人物一覧表[クルセイド](2013/03/13 11:02)
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[18488] 六十三話
Name: クルセイド◆b200758e ID:bc2f3587 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/22 14:33



「――さて、御遣い殿よ。まずはその剣を下して……いや、床に置いてもらおうかのう」

 どういうことだ、どうすればいい。
 二つの感情が心中を渦巻いて、えてして混乱していると言っても間違いではない境地にいる俺に対し、それを強いた人物――その混乱でさえも掌上であるという顔の韓遂は、そう言葉を紡いだ。
 それに逆らうことは出来た。
 その韓遂の指示――状況的に命に近いが――に逆らうことも断ることも出来るのだが、それは俺が一人の時ならばの話である。
 韓遂の懐には董卓が捕えられ、韓遂の剣は彼女の首へと添えられている。
 呼吸が荒い董卓を見るに、恐らくは俺が入ってくるまで首を絞めていたのだろう、董卓の首元が若干赤くなっていることに気付く。
 あの腕の太さ、そして戦場を駆け巡ってきたという猛将という面から韓遂を見た時、彼であれば董卓の首を簡単にへし折ることなど造作も無いことのように思えた。

 董卓が無事なのも、恐らくは董卓が絶命する前に俺が来たか、或いは時間をかけて首を絞めていたのだと推測を立てる。
 脳に送られる酸素が少なくなれば眠るように死ぬ、と元の世界の時に推理小説か何かの漫画で見た気がしたが、そうなってしまえばこの時代のことだ、自然死だと思われてしまったことだろう。
 それだけの技術を持つ韓遂のことである、先に浮かべた董卓の首の行方など自身の思いのままなのだろう。
 であるならば、ひとまずは主である董卓を救うためには韓遂の言に従うが上策か、と俺は剣を韓遂の言葉通りに床へと放り投げた。

 カランカラン。
 金属が床を跳ねる音が辺りに響くが、つい先に周囲に誰もいないことは俺自身が確認済みである。
 音に誰か気づいてくれればとも思ったが、そんな虚しい願いを表すかの如く、甲高い音を立てていた剣はやがて静かになった。

「……何が目的ですか?」

「目的? ふむ、さすがの御遣い殿でも儂の目的は分からんか。いや、分かっていればこのような愚行はせぬか」

「愚行? ……はてなんのことか、見当もつきませぬが……二人の逢瀬でもお邪魔しましたか?」

「ふ……くっはっはっはっ。いやいや、御遣い殿は中々に面白い冗談を言われるな。董卓殿は見たところまだ途上、これからに期待というところですかな」

 なるほど、つまり韓遂には董卓に危害を――肉体的に支配しようというつもりはないのだろう。
 その言葉全てを受け取ることこそ今の状況であれば難しいものがあるが、俺の言葉を笑い飛ばした韓遂の雰囲気に嘘は無さそうに見える。
 それすらも嘘だとしたら、と疑いは晴らさぬままに、俺は董卓へと視線を向けた。

 薄い月明かりすらも届かぬ部屋の中ながら、淡い銀にも似た髪が零す灯りに僅かばかりに表情が読み取れる。
 少し疲れたような表情は韓遂に抵抗していたからか、視線と意識こそしっかりしているものの、その身体には力が入っていないように思えた。
 首を絞められていたとすれば当然のことか。
 董卓の首元が赤いがためにと先ほど推測したものではあったが、こうやって冷静に観察してみれば、いよいよをもって確定としてくる。
 そして。
 董卓のその身体に力が入っていない――または入らない状態であるのならば、この状況を打破するには彼女の力を借りることは難しいだろう。
 であるならば、如何にしてこの窮地を脱するか。
 歴戦の猛将、あの馬騰に肩を並べる将軍――韓遂。
 その脅威を前にして、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 それと同時に、韓遂の目的について考察してみる。
 この状況において、韓遂の取れる策は二つ――いや、三つだろう。
 一つ、董卓を殺す。
 二つ、董卓を人質に俺の動きを封じて俺を殺す。
 三つ、董卓も俺もどちらも殺す。
 この三つだ。
 首を絞めていたであろうという推測から、韓遂の第一目的は一つ目であったのだろうが、今こうして俺に見つかった以上、その目的が続けられるとは限らない。
 さて、一体どれか――何が目的か。
 それを見極めるためにも、と俺は口を開いた。

「我が主を離してもらう訳にはいきませんか、韓遂殿?」

「いくら御遣い殿の――若姫の婿であれど、それは出来かねますな」

「……何故、と聞いても?」

「……やはり、御遣い殿でも思い至らぬか」
 
「……ッ」

 ちりり。
 質問に返された言葉――どこか失望したようなそれに、ふと首筋に熱を感じる。
 この感覚は知っている、最近になって、この世界になって馴染み深くなりつつある気配――殺気だ。
 濃厚で芳醇な殺気を向けられてびくりと震えそうになる身体を、歯を食いしばってなんとか耐え凌ぐ。
 耐えきることなく身体を震わせていればそのまま切り捨てられてのではないか、と思える殺気の向こうで、韓遂が笑った。

「……御遣い殿、御遣い殿は西涼がどういう土地かご存じか?」

「……荒涼とした土地が広がり、西域からの商人が足を運び、漢とは違う民が姿を見せ、騎馬に優れた者が多い。私としての理解はその程度ですが?」

「ふむ、概ね間違いではなかろうて。しかしながらな、御遣い殿、貴殿の認識には一番大事なものが欠けておる――我らはな、御遣い殿、漢王朝を主と定めておるのだよ」

 韓遂の剣は、今なお董卓に向けられている。
 それは間違い無い、俺自身の視線の先であっても、その事実は変わらない。
 だと言うのに。
 まるで剣先が眉間、或いは首元に突きつけられているのでは無いかと思える殺気に、全身の毛穴が開いたような感覚に襲われる。
 思えば、これが初めてなのかもしれない。
 黄巾賊との戦いの折にも、反董卓連合軍との戦いの折にも、俺個人を目標として向けられなかったソレ――殺気が、こうして俺自身を目的として向けられることなど。
 これが恐怖か、と俺は身体を震わせていた。

 それと同時に、ようやっと韓遂の言わんところが理解出来た――董卓に従うつもりは無い、そう言いたいのだろうと。
 今回の董卓軍と西涼連合軍の同盟は、表向きこそ漢王朝を守らんとした董卓に感銘を受けて漢王朝の力になるためとあるが、その裏向きは実質的な董卓軍への降伏に他ならない。
 時の権威を擁し、時勢を得て、今まさに群雄に名を上げて時代を駆けようとする董卓軍と、争乱に巻き込まれないように先の同盟を解消し、しかるに何の援護もしなかった西涼連合軍とすれば、それはどうしようも無いものなのかもしれなかった。
 だが、西涼連合軍の中にはそれを良しとしない者がいたとて可笑しい話ではない――それが、韓遂だったというだけの話であった。

 それを知れたことは、幸いなことだろう。
 戦の最中に背後や横撃を気にしなくても良いのだから、とは思うが、しかして、今この状況ではそれを知りたくは無かったというのが本音である。
 初めて会った時に感じた好々爺たる雰囲気などどこにもない、歴戦の猛将たらんとする韓遂を前にして、濃厚な殺気を浴びながらどうやって現状を打破すべきか。
 それを模索するために――韓遂の気をどうにか逸らそうと、俺は引き続き口を開いた。

「……つまりは我ら――主、董卓に従うつもりは無い、と?」

「然り。そも、我ら西涼が董卓殿に従わねばならぬ理由が無い。寿成が誼を通じていたことは知っておるが、かといって、それがどうして同盟を結び、あまつさえ従う話となるのだ、御遣い殿よ?」

「うぐっ」

「ッ……主に、危害を加えないで頂きたい」

「む……いやいや、これは失礼。年甲斐もなく気が入りましたかな」

 しかし、それは韓遂とて理解しているのか。
 俺の言葉に反論するように口を開いた韓遂は、つい力が入ったのか、あるいは故意なのかは知らないが、董卓を捕らえる腕に力を込める。
 首を腕で押さえられ、その身体に剣を向けられている董卓から力を込められたことによる苦痛の声が上がり脚を踏みだそうとするも、韓遂の視線に射抜かれて思いとどまる。
 思いとどまった俺を見てか、韓遂が腕から力を抜くと董卓の首に掛かっていた力が緩んで――軽い董卓の身体が床へと脚をつけた。
 ごほごほ、と董卓が軽く咳き込むが、董卓が力を取り返す暇を与えずに、韓遂は再びその腕に力を込める。
 董卓の身体は、幸いにも浮いていない。

「ふむ……しかし、このままであったも埒が明かぬな。……董卓に我らが従うのでは無く、董卓が我らに従う、そのようにすれば董卓も助けてみせようか、御遣い殿よ?」

「しかして、その後に一体どうするおつもりですか?」

「知れたこと、漢王朝の権威復興よ。漢王朝に反した逆賊共を全て討ち滅ぼし、戦乱と争乱を漢王朝の威光の下に収めるのだ」

「ッ……あなたは」

 確かに、韓遂の言うことにも一理ある。
 戦乱と争乱を漢王朝が収めることが出来れば、それが一番良いにこしたことはない。
 反董卓連合軍という名において漢王朝に弓を引いた諸侯らを逆賊として討ち果たし、天下安寧の時代を築くという韓遂の言葉――野望は、漢王朝を主と仰ぐ者達からすれば輝いて見えることだろう。
 だが、しかし、けれど。
 時代の先を――世界こそ違えど漢王朝が潰える時代を知っている俺からすれば、その野望に共感することは出来そうもない。
 むろん、俺の知る歴史とは違う点はある。
 反董卓連合軍で董卓軍が勝利したことこそがそれであるが、しかして、歴史の大枠は大体にて決まっているのだろうと俺は思う。
 華雄が、討ち取られそうになったことこそが、その証だ。

 であるならば、韓遂の野望は大変危ういものだ。
 華雄の時こそ歴史の大枠に逆らう形で奇跡的にも助けることが出来たが、それが何度も続くかと問われれば難しいだろうと返さざるを得ない。
 そしてそれは、漢王朝の権威復興と天下安寧を目指す韓遂の野望にも当てはまる。
 ――漢王朝が潰えるという歴史の大枠、それに抗うことは出来るのか。
 反董卓連合軍との戦いを避けるよりも、そこで討ち死にする運命であった華雄を助けるよりも、敗北の未来でしか無かった反董卓連合軍に勝利することよりも。
 これまでよりも遙かに抗うことが困難だと思える未来に、董卓を――みんなを巻き込ませる訳にはいかない。
 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「……左腕で足りるかな」

「うむ? 何かな、御遣い殿、覚悟が決まったかな?」

「そう、ですね……はい、決まりました」

「一刀さんッ、私は、私はどうなっても構いませんからッ……うぐっ」

「月ッ……ごめん」

「はっはっはっ、何と麗しき主従愛よ。まあよい、では御遣い殿、一応ではあるが今ここで宣言してもらおうか――董卓軍が西涼連合軍に下るという、宣言をな」

 韓遂の腕に力がこもって、董卓の軽い身体が若干に宙に浮く。
 董卓に余計な口を挟ませないようにとの韓遂の考えからだろうが、今の俺にとっては――これから取らんとしている行動からすれば、それなりに都合が良い。
 逆らうことがあれば董卓の命は無いぞ、と示すように剣先がぎらりと月光に輝き、俺はふと――痛いだろうな、と思った。
 きっと痛い、きっと怖い、きっと辛い――でもそれ以上のことを、董卓達に味合わせたくはない。
 それに、きっと韓遂は董卓と俺を逃さぬように、口を開かぬようにするだろう――殺そうとするだろう。
 黙ったままでは悪し、従っても悪し――ならば後は決まっていた、俺が心を決めるだけだ。
 そう思った俺は韓遂に気付かれないように、ちらりと床に置いたままの剣を見た。
 抜き身の剣先は、韓遂に向いたまま床に置かれている。

「……ごめんな、月。……韓遂殿。董卓軍は――」

 身を引き締める。

「か、ずと、さんッ……」

 呼吸を落ち着かせ、とるべき行動のために身体に活を入れる

「ふっふっ、これで董卓軍も漢王朝直属の軍か。逆賊も容易に討てると――」

 にやけて笑う韓遂の剣先が気の緩みによって動いた、その瞬間。



「――西涼連合軍には下らない、下りま……せんッ」



「――なッ?! ……ぐっ、いいだろう御遣い殿ッ、そこで董卓が死ぬのをッ……なあッ!?」

 言い切る、それよりも前に床を蹴る。
 速く、ただ速く駆けるためにと床を蹴ると、董卓を人質に取ったが故に俺が素直に降参の言葉を口にすると思っていたらしい韓遂は、驚きの声を上げると共に驚愕に顔を染める。
 しかし、そこは歴戦の将、すぐさまに気を引き締めた韓遂は、俺より先に董卓に剣を向けようとした。
 だが、させない。
 驚愕の色が、幾ばくか身体を硬直させている驚きが韓遂の身体から抜けきる前に、俺は床にあった剣を蹴飛ばした――韓遂に向けて。
 
 がちゃんッ、と音を立てて蹴り飛ばした剣は、真っ直ぐ韓遂に向かえば良かったものの、実際には床をくるくると回転しながら韓遂へと向かっていく。
 しかしながら、俺より何より、床の上を回転しつつ向かってくる剣に意識を向けた韓遂は、まずはとそれを剣にて払った。
 驚愕によって董卓を身代わりにしようとは考えつかなかったのか、董卓分の体重が加算されている身体で剣をはじき飛ばしたのだ。
 董卓が韓遂の腕によって引き上げられているからこそ出来る芸当ではあったが、董卓を用いて避けるという判断が出てこなくて良かったと今更ながらに思う。
 そうこうしているうちに、俺は韓遂に肉薄しようとしていた。


「ぐっ、おのれ御遣いッ! 貴様の愚行で董卓が死ぬ様を拝むが良いわッ!」


 しかし、俺が肉薄するより早く韓遂が動く。
 俺からでも分かるほどに腕に力を入れて董卓を逃がしはせまいとして、俺が蹴飛ばした剣を払った剣で、董卓のその首に狙いを定めていた。
 間に合わない、その剣が董卓の首元へ突き立てられるのに。
 間に合わない、その剣が董卓の白く艶めかしい柔肌を突き破るのに。
 間に合わない、その剣が董卓の肉を切り裂き鮮血を巻き起こさんとするのに。
 ――けれどそれは、誰も傷つかないようにすればの話。

 その剣がまずは俺に向かってきていたならば、俺はそれによって頭なり腹なりに致命傷を負っていたことだろう。
 何せ、剣を構えている自分に向かってただ突き進んでいる者を突き刺すだけなのだ、狙いを付けることは戦場で兵を討つよりも容易いことだろう。
 まずは距離を取ろう、とされていても、俺の行動は無駄足だったに違いない。
 俺がこれから取ろうとしている行動は、近くなければ意味がない。
 無事に終わらせるためにはさらに近い必要があるのだが、最悪の場合を想定しての行動ならば遠くても駄目なのだ。
 であるからこそ、俺は韓遂の意識を逸らすために近場にあったもので注意を引いたのだが。
 
 それはさておき。
 剣が董卓に向けて突き進んでいく最中、見える景色――駆けているために後ろにと動いていく部屋の景色がスローになっていくのを、俺は意外にも冷静に見ていた。
 駆ける脚も遅く、流れる景色も遅く、振り下ろされていく剣も遅い。
 それでも、だというのに意識ばかりは先に先にと進んでいて。
 先に進み過ぎた意識は、俺の左腕を前に出すには十分なものであった。


 そして――。
 
「あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁッ?!」

 ――びしゃりっ、と鮮血が宙に舞った。





  **
 
  
 
 

「……ん?」

 祝辞を述べる洛陽の有力者達――董卓に顔を通そうと思っていたであろう人物達を適当にあしらって、賈駆はふと顔を顰めた。
 祝いにと注がれた酒を呑んでいたためか、頬は目尻の辺りが仄かに朱に染まり、普段の強気で冷静な表情は微塵もない。
 それどころか、男を知らぬ少女の無邪気な色気がその身から滲み出そうとしており、このまま酒を進めていれば、辺りにいる男共は皆がその色気に見惚れることだろう。
 そういう時であった、ふと疑問を抱いたのは。

 きょろ、と辺りに視線を飛ばしてみても、賈駆の視線には目当ての人物――董卓がいない。
 北郷と話をしていた時に部屋を出たのだから、既に結構な時間が経過しているというのに、だ。
 もう一度、と思い視線を巡らせてみても、帰ってくるのは不在の証ばかり。
 豪快に笑う武官が杯を傾け、国の先を文官達が集って議論する。
 祝いの席であろうと無かろうと、常と変わらないような景色の中には、やはり董卓は存在しない。
 夜風にでも当たっているのだろうか。
 そんな疑問も首をもたげた時、ふともう一つの事実に賈駆は気付くことになる。

「……あの馬鹿までいないわね。……まさか、ね」
 
 まさか、そうまさか、だ。
 董卓と馬鹿――北郷がこの場にいないという事実に、ある疑念が意識へと広がる。
 はっきりと言って、董卓は北郷に好意を抱いていると言っていいだろう、そう言い切れる。
 初めて北郷に助けられた時から色々なことがあって、今や董卓軍には無くてはならない存在にまでなって、多くの諸侯にその力を認めさせて。
 その傍ら――そして、北郷が忠を董卓に向けているのだから、董卓と北郷、二人の距離は思ったよりも近いものだ。
 そんな関係なのだから、董卓は北郷に好意を抱くようになった――賈駆は、そう見ている。
 何より、董卓が北郷のことを話す時に実に楽しそうな笑みを浮かべるのだから、それも外れてはいないだろう。

 そんな北郷に好意を抱く董卓と、好意を向けられる北郷が揃ってこの場にいないのだ。
 邪推な考え方をすれば、二人が時と場所を共にしていると取れるものであった。

「まさか、だけど……うん、まさか、だし、ね……」

 董卓は女で、北郷は男だ。
 北郷とて董卓を嫌っている訳ではないだろうし、男女が好きあうことには何ら支障は無い――しかし、その推測に賈駆はちくんっ、と胸が痛むのを感じた。
 本人すら気付かぬほどに小さな痛み。
 酒の飲み過ぎか、と思える胸焼けにも似た痛みが賈駆の思考に広がることもなく、もう一度視線を酒宴へと向ける。
 ――そこで、賈駆は更にあることに気付く。

「……うん? ……韓遂もいないわね」

 武官に絡むように酒を飲み干している馬騰、その馬騰に絡まれるように酒を呑まされている馬超、その二人を遠目に酒を呑んでいる馬岱に馬鉄と馬休。
 西涼連合において双雄の片が宴を楽しんでいるというのに、もう片がこの場にいない。
 さらには、董卓と北郷も揃っていない。


 ――ふと、賈駆の脳裏に予感が走った。



「…………まさか……ッ」



 予感が走った、それと同時に賈駆は走り出す。
 使える武官は――駄目だ、皆酔ってしまっていて、使えそうもない。
 人を呼べる文官は――こちらも駄目だ、赤ら顔で議論している内容はもはや意味の無いものとなっている、ただの酔っぱらいだ。
 軽く舌打ちをして、しかし、と思いながら賈駆は部屋の扉を開ける。
 酒と人の熱気で暖められた部屋に流れ込むように寒気が身を震わせるが、それすらも惜しむ樣に、賈駆は周囲を見渡した後に脚を進めていく。
 北郷ならば、との想いを胸に秘めながら。


 董家当主であり董卓軍の長、董卓。
 董卓軍の要となった天の御遣い、北郷一刀。
 ――そして、西涼連合が雄、韓遂。
 最悪な予想が、思考を占める。


 見過ごしていた。
 見逃していた。
 見切れなかった。
 どんな思いを口にしても、その予想は消える筈もなく。
 その予想が外れるように、と賈駆は闇夜の中へその身を投げ込んでいた。


 董卓と北郷、二人の身を韓遂が狙っている。
 そんな最悪な予想を表すような、闇夜の中へと――。



 

 **





「――さて、李確殿はどういう動きをするかな?」

 闇夜が段々と白け始めようした頃、ひんやりと冷え込むその中にて、揚秋はぽつりと呟いた。
 冷える夜と暖かい日の光によって生じた風によって、陣に立てられた旗が靡く。
 その様を特に感情を込めずに眺めた後に、揚秋は現状を整理するために思考を働かせる。

「……頃合い、か」

 梁興が長安に。
 馬玩が安定に。
 李堪と成宜がその後詰めに。
 自身が石城を包囲し。
 程銀、張横、そして侯選が後詰めとして待機している。

 長安に向かった梁興は、はっきりと言って長安を落とすことは出来ないだろう。
 いくら兵力を限った董卓軍とはいえ、長安はもう一つの都とも呼べる都市だ、その防備も力を入れていることだろうことは明白である。
 もっとも、長安は落とせずとも良い、と揚秋は考えていた。
 石城、そして安定が攻められたという報が長安へと伝われば、その報は洛陽へ届けられると同時に、優秀な董卓の部下がこれを救わんと兵を発することだろう。
 戦場は石城と安定、そう思って長安を出陣した董卓軍の前には梁興の軍勢。
 機先を制してしまえば、騎馬隊を多く引き連れた梁興の敵では無い。
 そうなれば、安定を落とすにしろ石城を落とすにしろ、時間的な余裕が出来るし、何より援軍が来ることもないと全力を向けられる。
 長安からの兵を梁興で留め、その隙に石城と安定を落とし、後に全軍で長安を落として洛陽へ攻め入る。
 概ね予定通りに進んでいる策に思考を働かせて、揚秋は一つ頷いた。

 まあ、それぞれを落とすのは各々の戦術次第なのだがな。
 そう考えながら揚秋は、眼前に聳え立つ石城の城壁を見やる。
 それほど大きくない街でありながらも防備が優れているのは、やはり董卓軍の根拠地であるということと、そこを守るのが李確という理由なのだろう。
 自身の兵と後詰めを動かして力任せに攻め入れば落とすことも可能であろうが、やはりそれは損得を考えれば無茶な話であった。
 しかし、出陣を誘って包囲殲滅との策を取ろうにも、こちらの使者の亡骸を返されて以降は、ただひたすらに弓矢を番えて防備を固めるばかり。
 どうしようもない、とはまさにこのことであった。
 
「もっとも、籠城戦となった時に不利なのは向こうなのだがな……それに」

 元々の防備が優れているとはいえ、やはりこちらが急に動いたことによる準備不足は否めないだろう。
 兵の練度こそ李確直属の兵ということで充実してるだろうが、戦には弓矢や槍、刀などの物資が必要で、兵を癒すにも物資がいる。
 元々の準備があるだろうが、やはり、戦を前にした状況でなければその数は知れていると揚秋は考えていた。

 そして。
 夜が明けていく空を見上げながら、揚秋はまたもぽつりと呟いた。
 夜が明けていく――策が、主である韓遂が動く時間が迫っている、その事実を確認するために。

「……洛陽にて董卓を害しこれを混乱せしめ、その混乱に乗じて皇帝陛下を保護し長安へと至る……か。中々……いや、実に有なる策だと言わざるをえないが……まあいい、今は目の前のことに集中するとするか」

 遠く洛陽にて行われている宴――董卓軍と西涼連合軍の同盟を祝しての宴に紛れて董卓を害し、その混乱に乗じて皇帝陛下を保護する韓遂の狙い。
 普通の同盟であれば難しいそれも、馬騰が以前主導して行われた同盟によって董卓軍はこちらを既に信用していると言っても過言ではない。
 その信用の隙を突くという策に心身が昂揚するのを感じながら、しかし、と揚秋は気分を落ち着かせる。
 唯一の不確定要素――二十万という大軍を抑え、あまつさえ瓦解を引き起こして殲滅せんとした将、天の御遣い、北郷一刀。
 彼の者と顔を合わせたことは無いが、あれだけの策を生み出す者がどういった動きをするのか。
 そのことに意識が逸れそうになるも、遠い洛陽では自身の身では最早どうしようもない。

 今は目の前のこと――如何にして石城を落とすか、ということにだけ視線を向けて、揚秋は実に楽しそうに口元を緩めていた。






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