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No.18488の一覧
[0] 恋姫†無双  外史の系図 ~董家伝~[クルセイド](2011/01/08 14:12)
[1] 一話~二十五話 オリジナルな人物設定 (華雄の真名追加)[クルセイド](2013/03/13 10:47)
[2] 一話[クルセイド](2010/05/04 14:40)
[3] 二話[クルセイド](2010/05/04 14:41)
[4] 三話[クルセイド](2010/05/24 15:13)
[5] 四話[クルセイド](2010/05/10 10:48)
[6] 五話[クルセイド](2010/05/16 07:37)
[7] 六話 黄巾の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:36)
[8] 七話[クルセイド](2010/05/24 15:17)
[9] 八話[クルセイド](2010/05/29 10:41)
[10] 九話[クルセイド](2010/07/02 16:18)
[11] 十話[クルセイド](2010/09/09 15:56)
[12] 十一話[クルセイド](2010/06/12 11:53)
[13] 十二話[クルセイド](2010/06/15 16:38)
[14] 十三話[クルセイド](2010/06/20 16:04)
[15] 十四話[クルセイド](2011/01/09 09:38)
[16] 十五話[クルセイド](2010/07/02 16:07)
[17] 十六話[クルセイド](2010/07/10 14:41)
[18] ~補完物語・とある日の不幸~[クルセイド](2010/07/11 16:23)
[19] 十七話[クルセイド](2010/07/13 16:00)
[20] 十八話[クルセイド](2010/07/20 19:20)
[21] 十九話[クルセイド](2012/06/24 13:08)
[22] 二十話[クルセイド](2010/07/28 15:57)
[23] 二十一話[クルセイド](2010/08/05 16:19)
[24] 二十二話[クルセイド](2011/01/28 14:05)
[25] 二十三話[クルセイド](2010/08/24 11:06)
[26] 二十四話[クルセイド](2010/08/28 12:43)
[27] 二十五話  黄巾の乱 終[クルセイド](2010/09/09 12:14)
[28] 二十六話~六十話 オリジナルな人物設定 (田豫)追加[クルセイド](2012/11/09 14:22)
[29] 二十六話[クルセイド](2011/07/06 10:04)
[30] 二十七話[クルセイド](2010/10/02 14:32)
[31] 二十八話 洛陽混乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:44)
[32] 二十九話[クルセイド](2010/10/16 13:05)
[33] 三十話[クルセイド](2010/11/09 11:52)
[34] 三十一話[クルセイド](2010/11/09 11:43)
[35] 三十二話[クルセイド](2011/07/06 10:14)
[36] 三十三話[クルセイド](2011/07/06 10:23)
[37] 三十四話[クルセイド](2011/07/06 10:27)
[38] 三十五話[クルセイド](2010/12/10 13:17)
[39] 三十六話 洛陽混乱 終[クルセイド](2013/03/13 09:45)
[40] 三十七話[クルセイド](2010/12/16 16:48)
[41] 三十八話[クルセイド](2010/12/20 16:04)
[42] 三十九話 反董卓連合軍 始[クルセイド](2013/03/13 09:47)
[43] 四十話[クルセイド](2011/01/09 09:42)
[44] 四十一話[クルセイド](2011/07/06 10:30)
[45] 四十二話[クルセイド](2011/01/27 09:36)
[46] 四十三話[クルセイド](2011/01/28 14:28)
[47] 四十四話[クルセイド](2011/02/08 14:52)
[48] 四十五話[クルセイド](2011/02/14 15:03)
[49] 四十六話[クルセイド](2011/02/20 14:24)
[50] 四十七話[クルセイド](2011/02/28 11:36)
[51] 四十八話[クルセイド](2011/03/15 10:00)
[52] 四十九話[クルセイド](2011/03/21 13:02)
[53] 五十話[クルセイド](2011/04/02 13:46)
[54] 五十一話[クルセイド](2011/04/29 15:29)
[55] 五十二話[クルセイド](2011/05/24 14:22)
[56] 五十三話[クルセイド](2011/07/01 14:28)
[57] 五十五話[クルセイド](2013/03/13 09:48)
[58] 五十四話[クルセイド](2011/07/24 14:30)
[59] 五十六話 反董卓連合軍 終[クルセイド](2013/03/13 09:53)
[60] 五十七話[クルセイド](2011/10/12 15:52)
[61] 五十八話[クルセイド](2011/11/11 14:14)
[62] 五十九話[クルセイド](2011/12/07 15:28)
[63] 六十話~ オリジナルな人物設定(馬鉄・馬休)追加[クルセイド](2012/11/09 14:33)
[64] 六十話 西涼韓遂の乱 始[クルセイド](2013/03/13 09:54)
[65] 六十一話[クルセイド](2012/01/29 16:07)
[66] 六十二話[クルセイド](2012/02/23 15:07)
[67] 六十三話[クルセイド](2012/03/22 14:33)
[68] 六十四話[クルセイド](2012/04/21 10:41)
[69] 六十五話[クルセイド](2012/05/25 13:00)
[70] 六十六話[クルセイド](2012/06/24 15:08)
[71] 六十七話[クルセイド](2012/08/11 10:51)
[72] 六十八話[クルセイド](2012/09/03 15:28)
[73] 六十九話[クルセイド](2012/10/07 13:07)
[74] 七十話[クルセイド](2012/11/09 14:20)
[75] 七十一話[クルセイド](2012/12/27 18:04)
[76] 七十二話[クルセイド](2013/02/26 19:07)
[77] 七十三話[クルセイド](2013/04/06 12:50)
[78] 七十四話[クルセイド](2013/05/14 10:12)
[79] 七十五話[クルセイド](2013/07/02 19:48)
[80] 七十六話[クルセイド](2013/11/26 10:34)
[81] 七十七話[クルセイド](2014/03/09 11:15)
[82] 人物一覧表[クルセイド](2013/03/13 11:02)
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[18488] 二話
Name: クルセイド◆b200758e ID:bc2f3587 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/04 14:41


 黄巾の乱。



 中国後漢王朝末期の184年に、太平道の教祖張角が起こしたと言われる農民反乱である。
 中国全土を巻き込み、そして多くの英傑を生み出す切っ掛けとなったこの乱は、他方より比較的小規模ながらも彼の地、涼州においてもその戦火を燻らせていた。



  **


「ちっ、待ちやがれぇぇ!」

「待てやゴラァァァ!」

「ま、待つんだなぁぁ!」

 黄巾賊とは、目印として頭に黄色の布を巻かれていることからそう呼ばれるのだが、怒声を上げて走る三人の男達の頭にも、黄色の布が巻かれていた。
 その手には一様に片刃の剣が握られており、その雰囲気や声から殺気立っていることが見て取れた。

「待てと言われて待つ馬鹿がいるわけないでしょうが!」

 男達の視線の先。
 男達の怒声に反応するかのような言葉は、逃げるように走る二人の少女の一人から、発せられた。

 二つに纏められた三つ編みを走るままに靡かせ、髪の色と合わせられた服を映えらせており。
 眼鏡の奥から覗く眼光は、疲労の色を濃くしながらも、その切れ味を一欠片も失ってはいなかった。

「詠ちゃん、私はいいから詠ちゃんだけでもっ!」

「月、もう少しだから、もう少しだけ頑張って!」

 月と呼ばれた少女は、詠という少女よりは小柄だろうか。
 月光の如くの髪は、淡いベールに覆われており、走り続けて荒くなった吐息は、頬を染めさせていた。
 地に着くほどの長い裾は既に汚れており、所々はほつれ擦り切れていた。



 故に。
 ほつれ、それによって生じた布きれに月という少女は足を取られる。
 手を引いていた詠という少女もその動きを止められ、気付いた時には既に遅く、少女達は逃げ切れない位置にまで、男達を踏み込ませていた。



 時は古代中国、戦乱続くこの地において、既に日常と化してしまっていたその光景。
 賊が蔓延り、それを取り締まる官僚には賄賂が横行し、力持つ者は大志と野望を抱き、力無き者は嘆き苦しむ時代。
 その少女達もまた、力無き者として、陵辱され、蹂躙され、歴史という流れの中に散っていくのだろう。
 たとえそれが、後世に語り紡がれるべき歴史とは違う流れを刻んだとしても。
決して存在するべきではない異端が、その歴史に名を残すことになったとしても。
 

 俺が、その現実から目を逸らす原因となる訳でもなく――



 
          ――気付いた時には、少女達と男達の間に、その身を投げ出していた。





**



時は少し遡る。



 夕暮れの蔵の中で光に包まれたと思えば、気付いた時には荒野に放り出されていた現状。
 その光というのが、夕暮れの陽光なのか、はたまた銅鏡に反射された何かしらなのか。
 理解が追いつかず、置かれている状況が判断出来ない今を知り得るために、俺は村、あるいは人を探すのを第一とした。
 何をするにもまずは情報、大まかな場所さえ分かれば、家に帰る目処もつくと思ったからである。
 

「本当、一体どこなんだよ、ここは……」

 
 とりあえず、と遠方に見える森を目指して歩くことにした俺は、何度目になるか分からない台詞を口にしながらも周囲を見渡していた。
 とりあえず、森に行けば川ぐらいあるだろう、まずは水の確保と思い立っての行動なのだが、如何せん森までが意外に遠い。
 距離の目安になる対象物が無きに等しく、遙か彼方の山々は全く近づく気配なし。
 地平線が見渡せる程の広大な荒野を歩きながら、俺は先ほどよりは幾分か冷静になった頭で思考していた。

「これだけ広大な荒野は、日本では聞いたことがないなぁ。中国、あるいはモンゴル辺りならばありえるのかも知れないけど、それだと何故に、って言うことにもなるし」

 日本国内なら誘拐されて捨てられて、というのも有り得るかと思ったが、それが外国になるとその可能性も低くなる。
 さすがにそこまでするのはいないだろう、との思ってのことなのだが……いない、よね?
 そもそも、誘拐される心当たりが無い、祖父関係ならばありえない話でもないか。
 うーむ、うんうん唸りながらも一向に解の出ない思案に、頭を振ってそれを中断する。
 
「まぁ、とりあえずは人だな。水が確保出来れば言うことはないんだけど、入れ物も無いし」

 思えば、大分森に近づいただろうか、先ほどまでは視界に映るその形もかなり小さいものだったが、近づくにつれて元の大きさへと変貌していく。
 荒れ地だった地面には緑が徐々に含まれていき、乾燥していた空気は水気を帯び始める。
 人の手が入っている感じではないことから、人がいることは若干諦めながら水を探そうと足を踏み入れる。

「近づかないで!」


 その一歩を踏み込んだ矢先、唐突に聞こえた高い、女性特有の声。
 切羽詰まった、震えるように発せられたその声は、不安と緊張を含んでいて。

 俺は、知らずの内に声の方向へと駆けだしていた。



**



「何だ、てめえはっ!?」

 そして、今に至る訳なんだが、うむ、もしかしなくてもピンチっぽい。
 唐突に茂みの中から現れた俺に、三人の中でも引き締まった身躯を持つ男が怒声を上げる。
 手に持つ剣を油断無く持ち直し、目配せ一つで残りの二人を前へと押しやる所を見ると、そいつがリーダー格で、いかにも場慣れしてますってのが即座に理解できる。

 そんなことを考えて無理矢理冷静になろうとしても、心臓は痛いぐらいに動悸し、あまりの緊張に気持ち悪くなってくる。
 
 どんなに力を入れても膝は定まらず、逃げ出しそうになる身躯を必死に抑えるために、奥歯を噛みしめる。
 三人の男達が持つ、鈍く煌めく剣。
 現代日本であるならば銃刀法違反ものだが、ここが日本だという結論が得られない以上、最悪の可能性も考慮しておかなければならない。
 加えて、数としては三対三だが、俺の背後にいる少女達が戦えるという可能性も、最悪を考えれば外さなければならない。
 三対一、相手は凶器有りでこっちは無し、向こうが攻めでこっちは守り。
 うむ、絶体絶命のピンチである。

「アニキ、こいつの着てるもん、高く売れるんじゃないっすか?」

「ご、豪族みたいなんだな」

「豪族か……、こいつはいい。身包みは売っぱらって、こいつは人質で金が取れる。女共は楽しんだ後に売れる。おい、今日はついてるなぁ」

 ちび、でぶ、そしてアニキと呼ばれた男達が、皆一様に下卑た笑いを浮かべる。
 その頭の中では、これからの計画図でも描かれているのだろうか、ちびの男がにやにやと笑いながら俺へと剣を向ける。
 

「おい、身包み寄越せば今なら――」


「断る」


「助け……あぁん?」


 断られるとは思っていなかったのか、俺の拒否の言葉に先ほどまでの笑みは消え、その視線には怒気が含まれていた。
 っていうか、さっき人質にするって言ったじゃん、そのまま五体満足で解放されるとか思えないわけで。
 故に、俺は再び拒否の言葉を口にする。

「断る、と言った。人質にされる訳にもいかないし、目の前で女の子が襲われるのを見過ごす訳にはいかない」

「てめぇ……っ!」

 そう言われ、手に取るように怒気が男に満たされるのを、右足を引いて半身の形を取りつつ待ち構える。
 祖父から、ついでじゃ、とは名ばかりに武術を教え込まれてはきたが、ここ最近は稽古をつけて貰っていた訳でもなく、今なお以前と同じように動けるかどうかは、分かったもんじゃない。
 それでも、少女達が逃げるか隠れる時間ぐらいは稼げるだろうと、注意を男達に向けたまま背後の少女達へと声を掛ける。

「俺が時間を稼ぐ。今のうちに、速く逃げ――」

「さす訳がねえだろうがっ!」

 やはりというか、それを男達が見逃してくれる筈もなく。
 目の前の男から、唐突に剣が振り下ろされる。
 切られたら死ぬという、死そのものが振り下ろされる感覚を、感情の中から勇気と気合いを振り絞り、迫り来る死を睨み付けることで何とか追い払う。
 そのまま男の懐へ踏み込み、凶器となる剣ではなく、それを持つ拳を払ってその軌道を変えた。

「えっ……なっ!?」

 始め茫然、次いで驚愕に染まるその顔。
 腕で剣を振るう以上、人間の構造上、刃より内側は完全な安全地帯となる。
 まして、剣の軌道を無理矢理に変えられ、かつ切っ先が地へと刺さった状態ならば、その位置は暗器でも無い限りは死角と言ってもいいものであった。
 そんな顔の下に出来た空間へと更に身体を潜り込ませ、密着させた状態から、身体全体を捻転させて、鳩尾部分にある水月へと拳を打ち込む。
 脂肪を抉りこみ、筋肉の継ぎ目を引きちぎるように拳を捻り上げる。
 横隔膜に衝撃が伝わったのか、男の顔色が変わった。  

「ぐ、ぐぉぉぉ」

 口の端から涎を垂らし、潰れた蛙のような声を発する男。
 痛みを逃すために、倒れ伏そうとする男の顎を蹴り飛ばし、残心を持って距離を取る。



「チ、チビをよくもやったんだなっ!」

 身躯を丸めて苦しむ仲間の姿に怒りを覚えたのか、まるで地響きかの如く大地を揺らしながら、でぶの男が突進してくる。
 たわわに揺れるその脂肪が女性のものだったらとふと脳裏をかすめ、横凪に払われる剣を慌てて後ろへと飛んで避ける。
追撃として突き出された腕と剣をかいくぐると、脂肪の壁から打ち込みは無理として、重心のかかっている足を大外刈りの要領で刈り上げる。
 足を取られ、刹那宙に放り出される形となった男の頭を掴み、力の限り地面へと叩き付けた。

 鈍く音を響かせ、声にならない痛みに苦しむでぶの男から距離を取り、囲まれない位置へと陣取るように動く。
 震える手を握りしめ、気を抜けば崩れ落ちそうになる精神と身体を、唇を噛みしめ叱咤しながら、油断することなく再び構えさせた。
 鼓動が五月蠅いぐらいに喚き散らし、ともすれば、心臓が口から飛び出そうなほどの緊張。
 目の前の男達にも、後ろの少女達にも聞こえているのではないか、そう思えるほどの鼓動を隠すように、俺は口を開いた。






「……まだ来るのであらば、それ相応の覚悟を持ってこい。手加減は、出来んぞ」






 

 無論はったりです、はい。
 


 手加減も何も、三人が一斉に襲いかかれば俺に防ぐ術は無く、その場合は本当に時間を稼ぐだけになってしまう。
 それでもまあ、女の子を助けられればそれでいいかと思う辺り、及川のことを言えないなとふと思ってしまうが。
 結局は死ぬのはご免で、このまま退いてくれと、心から切に願うのだが。

 そして。
 実際にはごく短時間なのだろうが、俺には長いとも感じられた静寂は、ぽつりと、忌々しげに零された男の声に破られる。



「……ちっ、チビ、でぶ、ここは退くぞ」

「ぐぅぅ……あ、ま、待ってくださいよ、アニキ」

「ぬぅぅぉぉ……お? ま、待って欲しいんだな」

 そう言い残して踵を返して森の中へ消えていくアニキを、慌てて追いかけるチビとでぶ達。
 その足取りには、未だダメージが残っていたが、置いて行かれないようにと、痛む身体を押しているのが見て取れる。

 俺は、男達が裏へと回り込んで、いきなり襲いかかってくるのではないかと思い、残心を保ったまま消えていく先を見張っていたのだが、その姿が完全に消え、さらにはいつまで経っても襲われず、気配も感じなくなったことから、三人が本当に退いたのだとようやく肩の力を抜いたのであった。


 
「……はぁぁぁぁぁぁぁ、た、助かった……」

 張り詰めていた緊張も、切り詰めていた精神も、一気に弛緩してしまい、震える足に逆らうことなく地面へとへたり込む。
 拳を解けば目に見えて分かるほどに震えており、強く握りしめていた掌には血が滲んでいた。
 冷静になってみれば、身体全体が震えているのが分かる。
 死ななかった、生き残れた、……殺さなくてすんだ。
 緊張が解け、様々な思考に熱を持ち始めた脳に酸素を送るためにと、深く呼吸を繰り返す。

 弛緩し、崩れ落ちそうになる精神を何とか立て直そうと、冷静になろうとする。
 
 そこまで来て。
 
 あれ、俺なんで戦ってたんだっけと、ふと何かを忘れていることを思い出し。






 だからこそ。






「あ、あのぉ?」


「ひゃっ、ひゃいっ!?」






 唐突にかけられた言葉に、俺は驚きをもって答えるしか無かったのである。



 








「…………ぷ、ぷぷぷ、あーはっはっはっは! ひゃ、ひゃいとか、ひゃいとか何ソレっ!? 何ソレェ! ぷぷぷ」

「ちょ、ちょっと詠ちゃん、助けてもらったのに、ふふふ、悪いよぉ。ふふふふ」

 先ほどまでの緊迫した空気はどこへ行ったのか、いきなり爆笑し始めた少女と、それを戒めながらも笑いを堪えきれない少女に、俺は穴を掘ってでも埋まりたい気持ちで一杯だった。
 自分が笑われているという事実、しかも女の子に、ということに俺は羞恥で顔を熱くさせる。
 涙が出ちゃう、だって男の子だもん、グスン。
 
「助けたっていうのに、ここまで爆笑される俺って……」

「あ、あんたが悪いのよ、くくく! あんたがひゃいとか言わなければ、ひゃいとか……くく、はっはっはっは!」

「詠ちゃん、さすがに笑いすぎだよう……。こほん、先ほどは助けて頂いてありがとうございました」

 よほどツボに入ったのか、転げるように腹を抱え、笑いを堪えるかのように、地面に手を叩き付ける少女を置いて、もう一人の少女が咳払いをした後に、謝礼として頭を下げる。
 
 よくよく見れば、儚げながらも、ふわりとした印象を覚える彼女は、その穏和な笑みと、月が如くの髪がお互いに映えあい、衆人がいればその殆どが可愛いと言える少女であった。
 擦り切れ、砂や泥によって汚れた衣服はどこか高貴さを匂わせるが、彼女という存在がそれと相まって、守ってあげたくなるような庇護欲をも沸き立たせる。
 まあ、人によっては匂いに誘われた狼になるやもしれんが。

「くくく……ごほん、まぁ、助けて貰った礼はするわ。感謝してる、どうもありがとう」

 先ほどまで笑っていた少女も、笑い疲れたのか、一つ呼吸を置くと、素直に感謝の言葉を発した。
 眼鏡から覗く切れ長の瞳は、性格を表すかの如く強気を秘めており、その口調と相まって刃物という印象を抱かせる。
 彼女もまた所々に擦り傷や切り傷を作っており、先の少女とは違い、白くのぞく肌に残る赤い痕は、その印象と合わせてどことなく色気を漂わせていた。

 ……っていかんいかん、これじゃさっきの男達と同じじゃないか。 

 それに目を取られそうになるのを理性にて必死で堪え。
 美少女達を前にして緊張するのを見栄にて必死に抑え。
 深く息をすることで己自身を何とか誤魔化す。

「いやいや、礼を言われる程じゃないよ。困った人がいれば、それが女の子なら尚更だけど、助けるのは当たり前じゃないか」

 それでも、結局誤魔化しきることは出来ず、出てきた言葉には、本音が混じったものだったが。

「……女じゃなくて男だったらどうしたのよ?」

「ははは、助ける……と思うよ?」

「はぅ……ぎ、疑問系なんですか」
 
 当然、その部分には突っ込みを入れられ、さらには答えにも突っ込みを入れられた。
 動揺と緊張で、もはや何を言っているのかも、自分では分かっていなかったのかもしれない。
 何コイツやっぱり男ってサイテーっていう視線と、男じゃなくてよかったですと本気で安堵している少女。
 両極端な反応に、そういや猫ってこんな感じだよなぁって思ってしまう、別に他意は無いが。
 殺し合い一歩手前まで逝っていた精神が心安らぐには十分であり、そこまできて、ああそういえば、と人を探していた理由を思い出す。


「まぁ、その話は置いておいて。俺の名前は北郷一刀。ちょっと聞きたいんだけど……ここは何処?」


 迷子が問うような、何気なく、本当に何気なく発した問い。
 少女達の服装を見る限り、外国の辺境でもおかしくはないかと思い始めていた俺の期待は、大きく外れることとなり。
 小振りで、瑞々しい唇から発せられたその台詞は、現状が理解出来ていない俺の頭が、更におかしくなったのじゃないかと錯覚出来るほど、衝撃的なものであったのだ。










「私は姓は董、名は卓、字は仲頴と言います。ここは涼州が石城で、その太守をしています」

「同じく姓は賈、名は駆、字は文和。月、董仲頴の軍師をしているわ」

 

 

 


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