第一報。
張遼を指揮官とした董卓軍奇襲部隊、若干の差違はあれど当初の予定通りに村に入った黄巾賊の壊滅に成功。
討ち取った賊徒数千、捉えた賊徒三千なり、引き続き予定通りに本隊に合流しようとする黄巾賊の追撃に移る。
第二報。
馬超・北郷を指揮官とした涼州軍奇襲部隊、若干の遅れがありながらも予定通りに黄巾賊の壊滅に成功。
降伏した賊徒二千、他数多の賊徒を討ち取りて、引き続き予定通りに追撃に移る。
尚、北郷の指示にて数百名の兵に黄巾を纏わせて紛れ込ませる。
第三報。
黄巾賊指揮官の下に潜んでいた庖徳、敵指揮官を討ち取ったとのこと。
予定通り、混乱に乗じて退却するまで身を潜めるとのこと。
安定を出撃して数刻、黄巾賊と接敵してからひっきりなしに届いていた報告に、いよいよ黄巾賊を討つための準備が整ったとの報が届いたのを、賈駆は知らず口元を歪めて確認した。
幾分かの差違はあれど、安定の広間にて話し合った当初の予定通りに事が進んでいるのを喜ぶと共に、この策の原案があの男――北郷一刀からもたらされたことが、どうにも腹立たしかった。
賈駆自身はそう思って、口元を歪めていたと思っていたのだが、どうにも彼女の主であり幼馴染みでもある少女の見解は違うらしい。
そんな賈駆を見ながらクスクスと笑う彼女――董卓に、知らず眉をひそめていた。
「ふふ、詠ちゃん嬉しそうだよ」
「そりゃそうよ、月。こっちが予測していた通りに敵は動いてくれて、且つ勝利が目の前にまで来ているんだから。でも油断はだめよ、ここから引っ繰り返された例なんか腐るほどに――」
「――ふふ、一刀さんの策だもんね、絶対失敗は出来ないよ」
「なッ!? あ、あいつの策だからって関係無いでしょ?! なななな何言ってんのよ、月ッ!?」
ふふふ、と笑う董卓から熱くなった顔を背け、自然とうなり声が出るのを賈駆は止められなかった。
董卓の言うように、嬉しいことには違いない。
こちらの策がまんまと嵌り、そしてなお策の途中ながらにして最高の戦果を誇っているのだ。
それは軍師としては得ようと思っていても得難いものであり、賈駆――だけでなく、陳宮や馬休もそうであるが、軍師としての才が十二分に発揮されているのだから、軍師冥利に尽きるものであるのだ。
だからこそ嬉しいし、自分が軍師として主の役に立っていることも嬉しかった――決して、そこに策を思いついたのが北郷一刀だから、などという気持ちはないのだと思っていた。
そりゃ確かに、役に立たないよりは立ってくれたほうが使えるし、嬉しいことはないけどなんだかホッとするし、ってボクは何考えてんのよ。
ぶんぶん、と頭を振って熱くなった思考を無理矢理に中断し、賈駆は前方――董卓・馬騰連合と黄巾賊がぶつかっているであろう方向へと視線を向けた。
黄巾賊涼州方面軍と董卓・馬騰連合軍が戦端を開く前日。
董卓軍と馬騰軍が共同戦線を張るために同盟を結ぶという歴史が刻まれた後、ある一人の少年――まあ北郷一刀だが、彼がご主人様と呼ばれる原因となった談義の前、両軍の首脳によって行われる会話の内容は、その共通の敵となる黄巾賊への対応の話となった。
対応、とは言っても、向こうからすれば安定の街は目的を行う場所に過ぎず、その地にて暴虐の限りを尽くして初めて目的は達成されたと言えるのだ。
そんな彼らが大人しくこちらの言うことを聞くことなどなく、もし聞くのであれ、その場その場の対応によって十分と感じていた両軍の軍師は、それが成されなかった――つまりは、初めの通りに黄巾賊と如何にして戦うか、という話し合いへと内容を移していった。
だが、話し合いの進行は困難を極めた。
急遽構成された連合で綿密な連携が取れず足を引っ張り合うのではないかという意見もあれば、未だ脅威の少ない涼州から来た馬騰達が本気で戦わないのではないかと意見も出たのである。
無論、馬騰達からしてみればそんなつもりがある筈も無いが、命を賭ける兵からすればその限りでもない。
董卓とその周囲だけで軍を動かせるのであればそのような意見も出ることはないが、つい先日に安定に入った董家にあって、その実力やら何やらを疑う者は未だにいるのだ、そういった者達が次々に口を開いていけば、そのような事態になることは目に見えていた。
だからといって、彼らを除け者とするなど出来ようはずもなく、その時の賈駆は戦術を話ながらも頭痛を抑えるので一杯だったのである。
だからこそだろうか。
紛糾し、困難を極め、各々が意見を出し合い思考が疲弊し始めた頃、それまで一言も発さず場の流れに流されるがままになっていたと思われる彼――北郷一刀が放った一言が、軍師としていやに惹かれるものとして聞こえたのは。
曰く、村を餌にすればいいのではないか、と。
「渭水からこっち、ろくな休息もせず進軍してきた黄巾賊にとって、それが出来る場と現地の情報を与えてくれる協力者を得るということは喉から手が出るほど願うもの。こちらが用意した者によって村々へと分散させた黄巾賊を、うちの軍と涼州の軍でそれぞれ叩けば連携の心配もない。黄巾賊の強味はその数だけ、精兵と謳われた涼州の兵はもとより、うちの軍にも適いはしないでしょうね」
六万、といわれていた黄巾賊のために、急遽ではあるが村人の協力と承諾を得て用意した誘い込む村の数は、八。
黄巾賊の行軍路や状況にもよるが、そのうちの五つは使用されることを考えれば、分散される兵数は万前後となる。
さすれば、涼州軍五千にとっても董卓軍五千にとっても、当初の十倍より遙かに落ちて倍程度である。
元農民の黄巾賊では、如何に半分とはいえ専属の兵士に敵うはずもないだろう。
事実、伝令から伝えられた報告によって、こちらも涼州軍もさしたる被害もなく黄巾賊の一隊を壊滅させているのだから。
運が良ければ、他の隊が壊滅したことを知らない別の隊も捉えることが出来、指揮官が率いる兵数は激減することとなるのだ。
戦場は、もはや策通りに動いていた。
「……それにしてもあの馬鹿、こっちの許可を取りなさいってのよ」
唯一懸念があるとすれば、涼州軍の将である馬超のお目付役――ただ、これは周囲の目に対しての体裁であり、内実とすれば馬超がご主人様と呼ぶ北郷こそが指揮をする将であったりするのだが、その彼が独断で行った黄巾賊本隊への潜入であった。
無論、その独断がどのようにして行われたものかなど、賈駆としてみれば十分に理解出来る。
恐らくではあるが、黄巾賊への協力者として潜り込んだ涼州軍の若者――確か、名を庖徳と言ったと思うが、彼の救出を行うと同時に、涼州軍と董卓軍が黄巾賊本隊を攻める時の攪乱をするつもりなのだろう。
その案は賈駆としても考えついていたし、可能であれば取り入れる策でもあったのだが。
だからといってである――だからといって、北郷一刀本人がその潜入部隊に組み込まれているのは、如何なものだろう。
「……本当にこっちの迷惑を考えないわね、あの馬鹿は」
「へ、へぅ……一刀さんも、庖徳さんと仲良いから自分で行きたかったんじゃないかな? 旦那様って呼ばれてたし」
でも何でなんだろう、と小首を掲げる董卓に、賈駆は大体はその理由が読めていた。
とはいっても考えてみれば至極簡単なことなのだ、恐らくではあるが、馬超が北郷と夫婦になれば涼州の兵にとって次期主の旦那なるから、とそんな理由であろう。
その想像に内心いらつく自分を不思議に思いながらも、いつまでもこうしている訳にもいかない、と賈駆は頭を振って想像を追い払いつつ董卓を見やった。
最後の一手。
董卓軍も涼州軍も己の役割を十二分に果たし、そして今、黄巾賊内部はその指揮官を失い混乱の極みにいることだろう。
このまま放っておいても、分散した軍が壊滅したこと、そして自分達を導く指揮官が死んだという報によって、自然のうちに瓦解していくことは目に見えていた。
だからこそ、涼州における黄巾賊をここで壊滅させておかねばならぬのだ。
その好機が今にあって、後々に遺恨を残さなければならない理由など、あるはずも無く。
そんな賈駆の視線に応えるかのように、董卓は一度頷いた。
そして、賈文和の指示の下、董仲頴率いる董卓軍本隊千二百は進軍を開始する――その姿を、黄巾賊の前方に映すようにと。
黄巾賊の逃げ場を塞ぐように、楔が打ち込まれた。
**
「さすが詠なのです。最高のた、た……たみんげ?」
「……たいみんぐ、ちゃうか?」
「そう、それ、たいみんぐなのですよ! こちらも涼州の軍も、いつでも行ける準備を終えた時。黄巾賊が逃げるか進むかを決めかねている時という、実にいいタイミングなのですぞ!」
遙か視線の先に黄色の集団が蠢く様と、そちらの方向へと進んでいく見覚えのある紫を基調とした董卓軍の動きに、陳宮は知らず声を出していた。
北郷が言っていた異国の言葉――涼州の面々が言うには天の言葉とも言うらしいが、最も適した時期、という意味を持つその言葉が出てこず、張遼に教えられて慌てて声を荒げていた。
だが、陳宮の周囲にいる面々は、そんな陳宮を笑ったりすることはない。
それは、そういう人達が集まっているということもあるし、何より董卓軍本隊が動いたという事実がそうさせた――終幕が、始まったのだ。
軽口のように応えてくれた張遼でさえ、その視線は強張っている。
無理もない、と陳宮は思う。
初め、安定を、董家を狙う黄巾賊の総数は董卓軍の十倍以上にも及んでいたのだ。
西涼の馬騰の軍が協力してくれることになったとはいえ、その数は未だ五倍以上となる。
それを策によって分割し、さらにはその少数となった一隊を壊滅させたとはいえ、既に長里を駆け一戦、しかもこちらより数も多く、組織的に動けたとはその行動が制限される村の中で戦っているのだ。
陳宮の周囲にいる呂布や張遼、華雄は連戦の疲れなど微塵も見せはしないが、彼女達に付き従い敵陣を切り開いていく一般の兵達はそういうわけにはいかなかった。
見るからに疲労困憊という者も、ちらほらと見えた。
こちらからは確認出来ないが、恐らくは涼州軍の中にもそういった者がいるであろうことは容易に想像出来た。
しかも、涼州軍はその戦力の大半を騎馬隊で占めていれば、村の中で戦闘を行ったであろう歩兵の疲労は、こちらの比ではないのかもしれないのだ。
その中には、きっとあの男――北郷も入っているのだと、陳宮は知らず予想していた。
だからこそ、彼を意識している張遼のみならず華雄、果てには呂布までもが緊張しているのだとも。
陳宮は呂布と共に伝え聞いただけだが、安定救援の戦いの後、北郷は人を殺した自責によって嘔吐したという。
人を殺しなれない、または殺したことのない人間にとって、同じ人間である人を殺すというのは非常に苦痛が生じることは、知識としてだけならば知っていた。
未だ人を殺したことのない――賈駆から言わせれば、軍師は策を考えた時点で殺しているともいうが、直接的に人を殺めたことのない陳宮にとって、その苦痛は計り知れなかった。
そして、彼が自責の念だけでなく、それによって今ある居場所を失うのではないかと悩んでいたことも、後に賈駆から聞いた陳宮は彼への評価を変えてみようとも思ったものだ。
一度だけ、思案してみたことがある。
自分が何かしらの理由で人を殺め、今の居場所――呂布の隣を失うばかりか、彼女から嫌われ、疎遠になってしまう、ということを。
酷く悲しく、絶望して、何となしに呂布に泣きついたことは、誰にも言えない秘密ではある――もっとも、呂布の口からその事実が漏れ出ていることは、陳公台と言えども予想は出来ていない。
一度そんな経験をしてしまえば、二度と人を殺めることなど考えられないと陳宮は思っていたのだが、だが北郷は再び戦場に立って剣を振るうと言うのだから、正気を疑ってしまうほどだった。
「何か思うところがあったのかもしれんな……。男、というものはよく分からんが、武人としていえばそれは成長とも言える。何か吹っ切れたことがあったのかもしれんぞ」
「男が吹っ切るゆーたら、女を抱くことちゃうかなーとは思うけど、そんなようには見えんしなあ。まあ正直なところ、一刀が沈みっぱなしちゅうのも想像出来へんし、良かったんちゃうか」
「一刀……どんどん強くなる。……凄い」
だからこそ、三者三様なれど董卓軍が、中華が誇る三将に認め褒められる北郷を、陳宮は不覚にも羨ましいと思ってしまっていた。
彼女達に認められるということもあるが、何よりにも、過去という事実があったにも関わらずに、それを飲み込み再び歩める、という北郷自身をも。
だからこそ、挑んでみたいとも思ってしまった。
呂布のみならず、その他の将にまで認められていく北郷一刀。
肩書きも能力も自身の方が上だと陳宮は断言出来るが、そんな彼に認められたい、と。
呂布には認められているが、賈駆はもとより張遼や華雄からは未だ軍師として認められていないと思う陳宮にとって、北郷に認められるということは、彼女達からも認められることだと認識していた。
故に、このような戦場で倒れることなど罷り成らないのだ――自身も、北郷も。
そのついでとして助けてやればいいのですよ、などと考えながら、陳宮は周囲の三将へと指示を飛ばした。
「先陣は三つに分かれ、それぞれ霞と華雄が左右から、恋殿が中央から切り込んで敵の勢いを削っていくのですよ。そうすれば、最精鋭の本隊が攻撃を仕掛け、涼州軍も切り込んでいくのです」
「ははっ、我が隊の精鋭達だ。あやつら達がいけば、勝利など後から付いてくるわ」
「よっしゃぁぁ、腕が鳴るわ! うちは左から行くでぇぇぇぇ!」
「恋……真っ直ぐ行く。…………ねね、女の子頼む」
張遼が左、華雄が右から黄巾賊へと駆けていく中央を呂布が駆け抜けていくのを見送った陳宮は、ふと傍らに控える兵へと視線を向けた。
軍というのは、何もその全兵力を戦いへと向けるわけではない。
その割合の中には輜重隊や救急隊、軍楽隊や馬の控えを引く者など多様に及ぶ。
今回の状況ではそういった者達は連れてはいないが、かと言って全ての兵力を一気に押し当てることなど、陳宮はしなかった。
五千の兵を二つに訳、先の村の攻防では半分を、今では残りの半分を前線へと押し出していた。
これは兵の疲労という面もあるし、いざという時の援軍にも成りうることが出来るのだ。
さらには、戦場の周りに斥候を放ったりするなどの様々な雑事を行うことが出来るのだが、その兵のうちの一人――華雄隊に次ぐ精鋭を誇る呂布の隊の一人の馬へと視線を向けた。
その兵――確か高順とかいう女性兵士だったが、その背中には一人の少女が括り付けられていた。
常の戦場であれば負傷した者などが居座るその位置ではあるが、彼女はどこも怪我をしている訳ではなかった。
村の攻防に入る直前、黄巾賊の面々によって陵辱と恥虐の限りを尽くされようとしていた、あの少女である。
緊張の糸が切れたのか、呂布達が助けに入った後は急に意識を失ったのだが、命に別状は無く、しかしと言ってあの村に起きっぱなしと言うわけにもいかなかったので、呂布の別名を受けた彼の女性兵士に背負われる形でここまで運ばれて来たのだった。
「しかし……なんとも気の抜けた顔を……。これではあの男にそっくりではないですか」
すやすや、と。
まるで昼寝でもしているのではないかと思えるぐらいに穏やかな顔のその少女に、陳宮は知らず愚痴を零す。
それを見てくすり、と笑う女性兵士を一度睨み付け――陳宮は知らぬことだが、彼女の周りにいる兵からすれば背も小さく威厳の無い彼女の睨みは非常に和むものなのだが、そういったことに気付くことなく、陳宮は再び戦場の方へと視線を移した。
騎馬隊が主力の涼州軍が共闘相手にあって、その機動力と均一にするために部隊の大半は張遼が率いている騎馬隊で構成されている。
その機動力をもってしてか、先ほどまで周囲にいた三将は、既に戟を振り上げながら黄巾賊へと肉薄する前であった。
まるで、作り上げた砂山を子供が削り倒すようにその姿を削られていく黄色の群衆に、当初危惧していただけの抵抗がないことを見抜いた陳宮は、勝利を確信した。
「勢いも天運もなく、今また指揮官もおらず……。敵ながら可哀想なのですな……」
もはや軍としての機能どころではなく、その形を留めるのも難しいであろう黄巾賊にそんな感情を抱くが、だからといってここで見過ごすわけにもいかないのだ。
陳宮はぐるりと周囲を見渡す。
今近くに残っている兵は、先の村で戦闘した面々の中枢であり、その内実は負傷兵やら消耗の激しい兵であった。
これ以上の無理を強いるには厳しいとあって残ることになったのだが。
周囲を見渡していく陳宮の視線に、皆一様に頷いた。
「涼州の兵ばかりか、我らが将軍ばかりに戦わせては董卓軍の名折れです。なに、疲れや怪我など戦場では茶飯事、今更何を気にすることがありましょうや――何より、数倍の敵を打ち倒す、それを成すというこれだけ昂揚する戦で戦わぬなど、武人として我慢出来るはずがございませぬ。故に公台様、是非にご下知を」
そういう女性兵士の言葉に、先ほどまでヘロヘロで立つのも難しいと思われていた者達までが、声を――獅子の如き咆哮を上げた。
獣臭さも、欲も、そういったものを感じさせないその咆哮は、しかして自然へ、大地へ、風へと戦い挑まんとする獅子哮だった。
普段であるならば、そのような願いなど聞き届けるはずは無かった――効率、死傷者への手当、女性兵士に背負われた少女を呂布から託されたことなど、普段の陳宮であるならば、そのような無茶な願いを聞くことは無かったのである。
だが、挑む、と決めてしまった陳宮ではどうかと問われれば――震える感覚が、その答えであった。
「……死ぬことは許さないのですぞ?」
「応ッ!」
だからほら。
その獅子哮に答えるかのように強くなる震えによって、陳宮の決心は固まった。
「よろしい、いい返事なのです。……張遼、華雄両将軍の左右を固めつつ、黄巾賊を押すのです! 後方の包囲していない方へと押せば、勢いに劣る黄巾賊のこと、必ずやそちらへと敗走を始めるのです。その時が好機、一気に押しつぶすのですぞッ!」
「応ォォォォォォォォッ!」
陳宮の指示を受けて、今や今やと解き放たれるのを待ち望んでいた獅子達は、その戦場へと解き放たれる喜びによって、一層高い咆哮を上げた。。
一応は陳宮自身の護衛と少女を背負う女性兵士はそれには参加することは無いが、それでも陣を進めるということに、陳宮自身昂揚していることが自覚出来た。
それでもなお、周囲への警戒は続けるが。
遙か彼方にあった勝利は、今や目前にまで迫っていて。
陳宮は、何かを――それこそ挑戦状を叩きつけるかのように、高く上げた腕を振り下ろした。
「突撃なのですッ!」