<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.18194の一覧
[0] 聖将記 ~戦極姫~ 【第二部 完結】[月桂](2014/01/18 21:39)
[1] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(二)[月桂](2010/04/20 00:49)
[2] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(三)[月桂](2010/04/21 04:46)
[3] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(四)[月桂](2010/04/22 00:12)
[4] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(五)[月桂](2010/04/25 22:48)
[5] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 雷鳴(六)[月桂](2010/05/05 19:02)
[6] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/05/04 21:50)
[7] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(一)[月桂](2010/05/09 16:50)
[8] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(二)[月桂](2010/05/11 22:10)
[9] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(三)[月桂](2010/05/16 18:55)
[10] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(四)[月桂](2010/08/05 23:55)
[11] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(五)[月桂](2010/08/22 11:56)
[12] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(六)[月桂](2010/08/23 22:29)
[13] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(七)[月桂](2010/09/21 21:43)
[14] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(八)[月桂](2010/09/21 21:42)
[15] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(九)[月桂](2010/09/22 00:11)
[16] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(十)[月桂](2010/10/01 00:27)
[17] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 乱麻(十一)[月桂](2010/10/01 00:27)
[18] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/10/01 00:26)
[19] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(一)[月桂](2010/10/17 21:15)
[20] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(二)[月桂](2010/10/19 22:32)
[21] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(三)[月桂](2010/10/24 14:48)
[22] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(四)[月桂](2010/11/12 22:44)
[23] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 鬼謀(五)[月桂](2010/11/12 22:44)
[24] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/11/19 22:52)
[25] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(一)[月桂](2010/11/14 22:44)
[26] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(二)[月桂](2010/11/16 20:19)
[27] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(三)[月桂](2010/11/17 22:43)
[28] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(四)[月桂](2010/11/19 22:54)
[29] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(五)[月桂](2010/11/21 23:58)
[30] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(六)[月桂](2010/11/22 22:21)
[31] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 野分(七)[月桂](2010/11/24 00:20)
[32] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(一)[月桂](2010/11/26 23:10)
[33] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(二)[月桂](2010/11/28 21:45)
[34] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(三)[月桂](2010/12/01 21:56)
[35] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(四)[月桂](2010/12/01 21:55)
[36] 聖将記 ~戦極姫~ 第五章 剣聖(五)[月桂](2010/12/03 19:37)
[37] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2010/12/06 23:11)
[38] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(一)[月桂](2010/12/06 23:13)
[39] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(二)[月桂](2010/12/07 22:20)
[40] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(三)[月桂](2010/12/09 21:42)
[41] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(四)[月桂](2010/12/17 21:02)
[42] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(五)[月桂](2010/12/17 20:53)
[43] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(六)[月桂](2010/12/20 00:39)
[44] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(七)[月桂](2010/12/28 19:51)
[45] 聖将記 ~戦極姫~ 第六章 聖都(八)[月桂](2011/01/03 23:09)
[46] 聖将記 ~戦極姫~ 外伝 とある山師の夢買長者[月桂](2011/01/13 17:56)
[47] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(一)[月桂](2011/01/13 18:00)
[48] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(二)[月桂](2011/01/17 21:36)
[49] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(三)[月桂](2011/01/23 15:15)
[50] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(四)[月桂](2011/01/30 23:49)
[51] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(五)[月桂](2011/02/01 00:24)
[52] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(六)[月桂](2011/02/08 20:54)
[53] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/02/08 20:53)
[54] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(七)[月桂](2011/02/13 01:07)
[55] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(八)[月桂](2011/02/17 21:02)
[56] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(九)[月桂](2011/03/02 15:45)
[57] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(十)[月桂](2011/03/02 15:46)
[58] 聖将記 ~戦極姫~ 第七章 繚乱(十一)[月桂](2011/03/04 23:46)
[59] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/03/02 15:45)
[60] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(一)[月桂](2011/03/03 18:36)
[61] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(二)[月桂](2011/03/04 23:39)
[62] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(三)[月桂](2011/03/06 18:36)
[63] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(四)[月桂](2011/03/14 20:49)
[64] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(五)[月桂](2011/03/16 23:27)
[65] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(六)[月桂](2011/03/18 23:49)
[66] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(七)[月桂](2011/03/21 22:11)
[67] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(八)[月桂](2011/03/25 21:53)
[68] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(九)[月桂](2011/03/27 10:04)
[69] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/05/16 22:03)
[70] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(一)[月桂](2011/06/15 18:56)
[71] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(二)[月桂](2011/07/06 16:51)
[72] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(三)[月桂](2011/07/16 20:42)
[73] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(四)[月桂](2011/08/03 22:53)
[74] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(五)[月桂](2011/08/19 21:53)
[75] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(六)[月桂](2011/08/24 23:48)
[76] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(七)[月桂](2011/08/24 23:51)
[77] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(八)[月桂](2011/08/28 22:23)
[78] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2011/09/13 22:08)
[79] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(九)[月桂](2011/09/26 00:10)
[80] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十)[月桂](2011/10/02 20:06)
[81] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十一)[月桂](2011/10/22 23:24)
[82] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十二) [月桂](2012/02/02 22:29)
[83] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十三)   [月桂](2012/02/02 22:29)
[84] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十四)   [月桂](2012/02/02 22:28)
[85] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十五)[月桂](2012/02/02 22:28)
[86] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十六)[月桂](2012/02/06 21:41)
[87] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十七)[月桂](2012/02/10 20:57)
[88] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十八)[月桂](2012/02/16 21:31)
[89] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2012/02/21 20:13)
[90] 聖将記 ~戦極姫~ 第九章 杏葉(十九)[月桂](2012/02/22 20:48)
[91] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(一)[月桂](2012/09/12 19:56)
[92] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(二)[月桂](2012/09/23 20:01)
[93] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(三)[月桂](2012/09/23 19:47)
[94] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(四)[月桂](2012/10/07 16:25)
[95] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(五)[月桂](2012/10/24 22:59)
[96] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(六)[月桂](2013/08/11 21:30)
[97] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(七)[月桂](2013/08/11 21:31)
[98] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(八)[月桂](2013/08/11 21:35)
[99] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(九)[月桂](2013/09/05 20:51)
[100] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十)[月桂](2013/11/23 00:42)
[101] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十一)[月桂](2013/11/23 00:41)
[102] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十二)[月桂](2013/11/23 00:41)
[103] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十三)[月桂](2013/12/16 23:07)
[104] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十四)[月桂](2013/12/19 21:01)
[105] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十五)[月桂](2013/12/21 21:46)
[106] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十六)[月桂](2013/12/24 23:11)
[107] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十七)[月桂](2013/12/27 20:20)
[108] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十八)[月桂](2014/01/02 23:19)
[109] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(十九)[月桂](2014/01/02 23:31)
[110] 聖将記 ~戦極姫~ 第十章 天昇(二十)[月桂](2014/01/18 21:38)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18194] 聖将記 ~戦極姫~ 第八章 火群(五)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:cd1edaa7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/16 23:27

 薩摩に攻め寄せた南蛮艦隊は、船体の大きさや人員の数に差異はあったが、そのすべてが帆船である、という一点で共通していた。
 帆船は、たとえばガレー船のように大量の漕ぎ手を必要とせず、その分、ガレー船よりも多くの物資を積載できるという利点を有する。南蛮の商船などは余剰の空間に大量の商品を載せるのだが、軍船はここに大砲や火薬、あるいは糧食といった軍需物資を詰め込んで海に出るのである。
 また、この時代、漕ぎ手は主に捕虜や囚人で構成されていた。遠征の際、指揮官は彼らの反乱や、あるいは不衛生な環境から生じる疫病の発生に神経を尖らせてきたのだが、帆船はそういった問題を過去のものとすることが出来た。
 なおかつ、長い航海や激しい海戦に備えて多量の物資を積み込むことが出来るのである。近海の戦いならば知らず、大海を越えて他国を征する軍船としてはどちらが優れているかは瞭然としていた。


 無論、帆船にも欠点は存在する。特に軍船として厄介なのは、帆に風を受けることで航行する帆船は、ガレー船のような自力航行が出来ないという点であった。風がなければ船は動かず、ただ波間に漂うことしか出来ないのである。敵軍と相対した時、動かない船など標的以外の何物でもないだろう。
 とはいえ、海の上で完全な無風状態になること――しかもちょうど海戦の時にその状態になることなど滅多にない。
 この時も錦江湾には風が吹いていた。そして熟練した船乗りであれば、わずかな風をとらえて船を動かすなど容易いことである。
 迫り来る島津水軍を前に、ガルシア麾下の南蛮艦隊はすばやく戦闘隊形をとるために動き出す。その反応の速さと、整然とした艦隊行動は、南蛮艦隊の高い錬度を眼前の敵に存分に知らしめるものであった。





 南蛮艦隊のすばやい展開を目の当たりにして、島津軍の胸中に不安のさざ波が立たなかったといえば嘘になってしまうだろう。
 しかし、たとえそうだとしても、その船足が鈍ることは決してなかった。
 島津軍は南蛮艦隊と異なり、その兵船のほとんどが漕ぎ手を必要とする。かき集められた漁舟や小早(こはや 小型の軍船)にも島津の水兵や、あるいは志願して参加した漁師(といってもそのほとんどが戦を経験した兵なのだが)らが乗り込み、彼らは全力で櫂を漕いで南蛮艦隊に突っ込んでいった。


 南蛮軍がこれを黙ってみている理由はない。舷側に並べられた砲門が次々に火を吹き、迫る敵船の列を穿とうと試みる。
 しかし、島津軍の兵船は南蛮船に比して小型であり、容易にこれを捉えることは出来なかった。
 無論、島津軍がまったくの無傷であったわけではない。たとえ直撃を食らわなかったとしても、至近に着弾すれば、小さい船なら転覆してしまうほどの衝撃をうみだすのだ。島津の軍船が密集して進んでいることもあって、降り注ぐ砲弾の雨の中、島津の船列は各処で綻びていった。


 だが、島津軍は空いた隙間をすぐに後続の舟が塞ぎ、なおも猛然と前進を続けた。
 先遣隊を率いるニコライ・コエルホが幾度も目にした、犠牲を恐れぬ島津軍の勇猛さ。その一端をガルシア麾下の将兵は初めて目の当たりにしたのである。
 南蛮軍は敵の無謀ともいえる勇敢さに目を見張ったが、だからといって恐れたりはしなかった。あるいは恐れたとしても、それを表情に出したりはしなかった。


 この時、各船長は甲板上に所狭しと鉄砲部隊を展開し、島津軍が射程距離に近づいたならば、一気にこれを撃滅せんと待ち構えていた。
 この光景は当然のように島津軍の目にも映った。船縁に居並ぶ鉄砲隊の姿を見れば、南蛮軍の狙いは明らかである。不用意に近づけば、たちまちのうちに致命的な損害を被るだろう。
 ――だが。
 それと承知してなお島津軍は前進しなければならなかった。何故なら、大砲を持たない島津水軍にとって、海戦とは敵の船と接舷して斬り合うことを意味するからである。近づかなければ、戦うことさえ出来ない以上、たとえ鉄砲隊の砲口が待ち構えているとわかっていても、船を進めざるを得ないのだ。
 南蛮軍は宣教師らの情報でそのことを知っている。それゆえの配置であった。




 しかし。
 間もなく鉄砲の射程範囲に到達する、という距離まで来るや、島津軍は南蛮軍の予期せぬ行動に移る。
 なんと、みずからの船に火を放ったのである。
 島津軍――ことに前面に位置する小舟の多くは、あらかじめ柴や枯れ草などを敷き詰め、これに油を染み込ませていた。頃はよしと一斉に放たれた火は、たちまちのうちに船体を包む猛火に変じ、海上に炎の壁を築き上げる。
 島津軍はこれを潮の流れに乗せ、一挙に南蛮艦隊に向けて叩きつけたのである。




 改めて言うまでもなく、木材でつくられた船に火は大敵である。それは南蛮だろうが日本だろうがかわらない。
 ゆえに迫り来る炎の塊を見た南蛮艦隊は大混乱に陥った――かと思えば、そんなことはなかった。
 確かに船にとって火は大敵であるが、それがわかっていれば備えることも出来る。
 もとより南蛮の軍船は敵と戦い、大砲を撃ち合うことを想定してつくられた戦船であり、くわえて、大海を越えるために様々な補強がなされている。当然、火に対する備えもそこに含まれていた。


 鉄で覆うような破天荒な改良をしたわけではないので、完璧に火攻めを防げるわけではないのだが、少なくとも、柴を詰め込んだだけの小船にぶつかられた程度で沈没してしまうような船は、南蛮艦隊には一隻たりとも存在しない。
 事実、南蛮艦隊に接触した島津軍の火船は、その船体をわずかに焼いた程度で、与えた損傷は微々たるものでしかなかった。南蛮艦隊の健在ぶりを見れば、いっそまったく無傷であった、と表現しても良いと思われるほどであった。 





 艦隊の将兵は自船の頑強さを誇り、それ以上に敵の稚拙な攻めを嘲った。
 南蛮船に匹敵するほどの巨船を火船に仕立て、それをぶつけてくるというならまだしも、そこらの漁師が扱うような小船に火を付けた程度で、南蛮技術の粋たる軍船と対等に戦えると考えているのか、と。
 もしそうだとすれば、敵の幼稚さには軽侮を通り越して哀れみすら抱いてしまう。
 所詮は僻地の蛮族。その必勝の策など、この程度の浅知恵か。兵士だけではなく、彼らを指揮する船長たちの多くもそう考え、口元を緩ませた。



 ――南蛮軍を構成する将兵が、大小はあれど、等しく抱く過剰なまでの自信と戦意。それは容易に敵軍への蔑視に結びつく。将兵の口に浮かんだ微笑が、雄弁にその事実を物語る。
 いみじくも先の軍議でガルシア自身が口にしたように、蔑視と油断は分かちがたく結びつくもの。ガルシア麾下の艦隊は、他の部隊よりその弊は薄かったが、それでも敵軍の惨めな抵抗を目の当たりにして、将兵の心底に余裕とも油断ともつかない空隙が生じるのは避けられなかった。


 だから、だろうか。彼らが気づかなかったのは。
 炎の壁に隠れるように、密やかに近づく数隻の小早。
 それは一見、他の船と同様に柴や枯れ草で覆われているように見えたが、南蛮船に近づいても炎に包まれることはなく、また船に乗る数名の兵士も海に逃れようとはしていなかった。
 この船が燃えない理由は単純で、敷き詰められていたのは柴や枯れ草ではなく、それに似せた冷たい泥だったからである。そして、船の中央には泥と似た色の――だが、確かに金属の光沢を放つ『ある物』が乗せられていた。




◆◆◆




 次の瞬間、周囲に轟音が響き渡る
 だが、ガルシアの旗艦にあって、その音――大砲の発射音に不審を覚えた者はいなかった。なにしろ、今この時も自艦から、あるいは僚艦から敵軍に向けて何十もの砲撃が放たれているのである。その一つ一つに注意を払うことなど出来るはずもない。


 だから――
「ほ、報告ッ! 『サンクリストバン号』が被弾しました!」
 その報告には誰もが耳を疑った。
 副長は血相をかえ、声を高めて報告する見張りに詳細を求めた。
「被弾したとはどういうことだ? 敵に大砲はない、僚艦が誤射したのかッ?!」
「わ、わかりませんッ。しかし『サンクリストバン』の船腹が破損して――ッ?!」
 再び轟音。
 次撃は先の破損箇所とほぼ同じ部位に撃ち込まれた。
 南蛮船は耐久力にすぐれており、一発や二発の直撃弾を受けたところで、即座に沈没したりはしない。だが、横腹に二発、正確に砲撃を受けてしまえば、その限りではなかった。


 舷側に駆け寄って『サンクリストバン号』に視線を向けた副長は、そこに船腹に正確に二発の砲弾を受けている僚艦を見つける。見張りの報告したとおりであった。
 だが。
「ばかな、どうやってッ?!」
 敵軍に大砲はないはず。あるいは、宣教師たちの報告が間違っており、敵が大砲を保有していたとしても、ここまで正確に――まるで測ったように致命的な部位に砲撃を加えることができるはずはない。一度目は偶然だと考えることもできたが、その偶然が二度も続くとは考えにくかった。
 まして敵からの砲撃は、あの二発だけである。それを考えれば、明らかに敵軍は狙って船腹を砲撃したのだろう。だが、どうやって?!


 副長の傍らにいるガルシアも、眼前の光景に険しい視線を向けている。
 その目に理解の灯がともったのは、三度目の砲撃がなされた瞬間だった。
 今度は、先の二発からはやや離れた場所だったが、それでも船腹に見るも無残な穴が穿たれたことに違いはない。視界の先では、水兵たちが必死に海水を掻き出し、あるいは負傷者を運んでいる様子が見て取れたが、もはや『サンクリストバン号』の命運は誰の目にも明らかであった。


「……なるほどな。考えたものだ」
「隊長?」
「見てみろ」
 苦々しげな、だが奇妙に感じ入った声に促されるように、副長はガルシアが指差す場所に視線を向ける。
 そこには入り乱れる火船にまぎれるように、一際小さな舟が浮かんでおり、舳先を『サンクリストバン号』に向けて接近していた。舟の上には敵兵らしき数名の影が見て取れる。


 やがて、両者が目と鼻の距離まで近づいた――と思った瞬間だった。
 副長の視線の先で、砲声が轟き、『サンクリストバン号』は四度目の砲撃を受けていた。ほぼ同時に、先の小舟は半ば砕けるように海中に沈んでいく。小さな船体では砲撃の衝撃に耐え切れなかったのだろう。無論、敵兵はその以前に海中に逃れたに違いないが。


「隊長、あれは……」
 知らず、副長は問う形で言葉を発したが、答えはみずからで見つけることが出来た。
「小舟に無理やり大砲を据え付けた……?」
「だろうな。火船はこちらを油断させ、ついでにあれを隠すための目くらまし、というところだろう」
 ただでさえ命中精度の低い大砲を、ろくに扱ったことのないこの国の兵士が使用する。しかも揺れる海上で、まともな船もなく。
 この条件で敵船に砲撃を命中させるには、なるほど、確かに至近距離から撃つしかあるまい。これが大型の兵船なら、南蛮軍も相応の警戒をしたであろうが、まさか数名しか乗れないような小舟に大砲を積んで迫ってくるなど予測できるはずもない。
 なぜなら――


 副長は、思わず、という感じで声を高めた。
「し、しかし、あれでは一度撃てばそれで終わりです。大砲一門で、鉄砲が何十丁揃えられると思って……ば、ばかですか、あいつらはッ?!」
「ああ、ばかだな。敵にまわすと、とことん厄介な型の大ばか野郎だ。まさか、大砲を使い捨てにするとはな」
 ガルシアは胸中で唸った。
 その内心には予期せぬ戦術に対する驚きと、感嘆の念が相半ばしている。
 言明したように、ばかな戦法である。確かに砲撃の命中率は著しくあがるだろうが、一発の砲撃をあてても、それで大砲自体が失われてしまっては損得を論じる以前の問題であろう。敵の財政の責任者がこの光景を見れば、顔面を蒼白にするか、発狂するかのいずれかではないか、とガルシアは思う。


 たとえ何者かがこの戦法を考え付いたとしても、それを了承するような為政者はいないだろう。
 この戦法が許されるのは、大砲一門を、鉄砲一丁か二丁程度で製造できるだけの技術を保有し、ありあまるほどの鉄を産する国しかないが、そんな国は世界のどこにもありはしないのである。


 だが。
 一国の存亡を懸けた、絶対に負けることの許されない戦いであれば――あるいはこれを許可する王も存在するかもしれない。
 否、「かもしれない」ではない。今、ガルシアの眼前に立ちはだかる敵の王は、まさしくその決断を下したのだ。見たことのないその人物の凄みが、ガルシアの背筋を冷たくする。



 自然と、ガルシアは乱暴に頭をかいていた。
「これはロレンソを笑えんな。俺もいつのまにか、敵を侮る癖がついていたらしい」
 敵軍がどこから大砲を調達したのかはわからないが、貴重であるはずの大砲をこんなやり方で消費するということは、それだけ南蛮軍の撃滅を心に期していることを意味する。


 ガルシアは敵の戦意の高さは承知していた。正確に言えば、承知しているつもりだった。しかし、それは戦局全体を見回してのことで、この一戦にここまでの気概をもって挑んでくるとは考えていなかった。
 何故なら、敵はたとえ海で負けても、まだ陸の上に幾十もの拠点を持っているからである。当然、この戦で敗れたあとのことも想定して動いているだろうと踏んでいたのだ。


 しかし、もし敵がそんな考えをわずかでも抱いているならば、虎の子の大砲をこんな使い方で失うことは避けるに違いない。
 すなわち、敵はこの海戦に全力を傾注しているのだ。この一戦に負ければ、もう後はない―それくらいの気持ちで戦に臨んでいるのだろう。
 これはこちらも全力をもって応じなければ、冗談ではなく負けるかもしれん。ガルシアはそう考え、心を引き締める。


 胸奥から、久しく感じていなかった猛々しい戦意が、滾々と湧き出してくるのを感じながら。




◆◆◆




 島津軍の大砲運用を見抜いた南蛮軍はただちに対応をとる。
 潮に乗って迫ってくる火船に対しては、舷側から幾十もの棒を伸ばしてこれを押しのけ、その隙間をぬってくる小舟には鉄砲部隊の砲火を浴びせかけたのである。
 平行して、大砲の砲手には火がつけられていない舟を集中的に狙うように命令が下る。これは直接砲撃を浴びせるためというよりは、敵兵に対して圧力を加えるためであった。直撃を食らう可能性は低いとはいえ、数十の砲門に一斉に狙われれば、恐怖を覚えない人間はいない。それは勇猛な島津兵とて例外ではないだろう。


 その南蛮軍の考えを証明するように、間もなく火船の後方に控えていた島津の水軍が動き始めた。
 これは徹底した南蛮軍の対応によって、大砲を載せた小舟が密かに南蛮船に近づくことが難しくなったためであり、さらに潮の流れが変化したことで、放った火船がかえって自分たちの陣に押し寄せて来かねないと判断したからであろう。
 あるいは、はや奇策が見破られたと悟って退却するつもりか。
 そう考えたガルシアの艦隊はたちまち色めきたった。
 失われたのは戦艦一隻。決して浅い傷ではないが、それでも二十隻の中のたった一隻である。艦隊にとっては致命傷にはほど遠い。


 だが、戦えば勝ち、進めば破ってきた無敵艦隊たるの矜持が、小癪な敵軍に対する報復の念をかき立てた。
 ただでは逃がさぬとの思いはすべての将兵に共通する。もとより提督であるガルシアも、この海域で敵軍の伏兵をおびき出し、殲滅する心算だったのである。敵が退くなら、追撃をためらう理由は存在しなかった。




 だが、ガルシアはここで一つの読み違いをしてしまう。
 いや、読み違いというよりは、一つの事実に思い至らなかった、というべきか。 
 すなわち、今しがた行われた奇襲は、島津軍にとって余技に等しいという事実をガルシアは知ることが出来なかったのである。


 もっとも、これをガルシアの失策と捉えるのは酷であったろう。
 島津軍が南蛮艦隊の全容を知らなかったように、南蛮軍も島津軍の正確な戦力を掴んでいなかった。
 ゆえに。
 島津軍は本来大砲を保有していなかったこと。現在、保有している大砲は、すべて南蛮軍の先遣隊から強奪したものであり、この方面の島津水軍が保有する大砲はわずかに五門のみである、という事実をガルシアは知りようもなかったのである。


 だからこそ島津軍は、貴重であるはずの大砲をああもあっさりと海中に沈めることができたのだ。もし島津家が保有する大砲が、彼らが苦心の末に集めたものであったなら、小舟もろとも大砲を使い捨てるような策が認められることはなかったであろう。
『最初からなかったものであると思えば、別に惜しくもないでしょう。それによって勝利が得られる可能性が上がるのであれば尚更です』
 軍議の席でその策を献じた青年の言葉に、島津家の君臣は苦笑まじりに頷いたのである。
 




 島津軍の攻勢はここからが本番であった。
 動いたのは島津水軍の中核とも言うべき関船(せきぶね)である。
 先に火船に仕立てられた漁舟や小早よりも大きな船体には、船上の兵士を守るように垣楯(敵の矢玉を防ぐため、楯や板を垣のように並べたもの)が二重にめぐらされており、敵軍の矢や銃弾から将兵を守る構造となっている。
 島津水軍は、この関船に乗って南蛮艦隊に迫ったのである。


 無論、関船といえど大砲の直撃を受ければひとたまりもないし、船の大きさ自体も南蛮船に及ばない。切り込みを仕掛けるにしても、船縁の位置が違うため、南蛮船と並べばすぐに乗り移れるというわけではない。船を並べた上で、縄なり梯子なりを渡して敵船に攻め上る必要が出てくる。それがどれだけ困難であるかは言を俟たないであろう。
 くわえて、下から上を狙うより、上から下を狙う方が有利なのは自明の理。つまり至近距離からの鉄砲の撃ち合いになったところで、南蛮軍が遅れをとることはないのである(もっとも、この関船隊に鉄砲隊はいなかったが)。
 仮にそれらの困難を克服して、島津兵が南蛮船に切り込んだとしても、そこには三桁にのぼる南蛮兵が待ち構えている。十や二十の島津兵では、たちまちのうちに海に叩き落されてしまうに違いない。


 どこをとっても島津軍の勝ち目は薄かった。しかし、それでも島津軍は退こうとはしなかった。
 それは決して捨て鉢の戦意ではなく、明確な勝算に裏打ちされた闘志であった。
 しかし、その勝算を現実のものとするためには、やはり敵船に肉薄しなくてはならない。
 この時、島津軍の関船の数は十五隻。一隻一隻が単独で敵船にあたっては、近づくことすら出来ずに撃沈されてしまうだろう。
 島津水軍を束ねる梅北国兼は、ここで新たに二十隻近い小早を展開させた。先の火船戦法を繰り返すためではない。火攻めに効果がないことは、もう証明されてしまっている。
 では今さら小早のような小舟を展開させたところで意味はないのか。
 

 そんなことはなかった。とくにその小早に大砲を載せて、これみよがしに動いて見せれば、すでにその戦法によって船を一隻失っている南蛮艦隊は警戒せざるを得ない。
 無論、この大砲は偽物である。しかし、丸太をそれらしい形に組み、それらしい色をつけ、それらしく見えるように布でもかけておけば、南蛮軍の方から勝手に警戒してくれるだろう。
 何故といって、この場に展開している島津軍が保有する大砲の数が五門しかないことを南蛮軍は知らないからである。
 五門のうち四門は役割を果たして海に沈み、もう一門は運悪く南蛮船からの大砲の直撃をうけ、役目を果たすことなく波間に没したことなど、南蛮軍には知りようもないことであった。
  

 とはいえ、火船による目くらましがなければ、小早が砲船を気取って徘徊したところで、敵船からの銃撃によって殲滅されてしまうだろう。再び火船を放つには今は潮の流れが悪い。くわえて、いかに小舟とはいえ、用いることのできる船の数には限りがあった。
 この状況で国兼はどう動いたのか。
 彼は有する関船のうち、なんと三分の一にあたる五隻を火船に仕立てたのである。
 関舟であれば、船首に火種を山と積み込んで燃え上がらせても、船尾の漕ぎ手が船自体を進めることは可能である。すなわち潮の流れを気にする必要がないのだ。


 また、先の火船とは異なり、関船であれば、その船体自体が一つの武器になる。
 元々、関船をはじめとした和船は竜骨構造を用いておらず、衝角による突撃戦法などには向かないのだが、単純に火船としてぶつけるだけであれば――つまり乗っている人間の安全を考慮する必要がないのであれば、いくらでも無茶が出来るというものだった。漕ぎ手は接触を確認した後か、またはその寸前に海中に脱すれば良いのである。




 この島津軍の目論見は成功を収めた。
 ガルシア麾下の南蛮艦隊は炎の塊となって突っ込んでくる関船はもちろんのこと、その影でうごめく小早の存在にすぐに気づいた。先刻は見逃したが、すでに指揮官と同じく、兵たちも眼前の敵を侮ることの危険を認識しはじめている。そして、小早の存在に気がつけば、その上に載っている大砲(と見張りの兵は判断した)にも気づかざるを得ぬ。
 いっそ無能な提督の艦隊であれば、敵の細かい動きに気づかず、かえって島津軍の目論見を外すことができたかもしれない。
 しかし、ガルシアの艦隊は有能であり、それゆえに敵の動きに対応せざるを得なかったのである。


 その混乱に的確に乗じた梅北国兼の手腕は、称賛されてしかるべきであったろう。
 国兼は南蛮船のうち、外縁部に位置していた二隻に狙いを定め、みずから指揮をとって十隻の関船を殺到させた。当然、敵船からは大砲の洗礼が浴びせられたが、島津軍はたくみに船を操り、この砲撃をかいくぐっていく。
 それでも内の一隻が直撃を受け、さらにその隣に位置していたもう一隻があおりを食って航行不能に追い込まれたが、残る八隻は目論みどおり南蛮船に肉薄した。





 島津軍の接近を目の当たりにして、しかし、南蛮軍の将兵は慌てなかった。
 二隻対八隻とはいえ、そもそも船の性能が圧倒的に違う。これだけ近づけば、大砲を避けることも難しかろう。敵の船の大きさを見ても、乗っているのは一隻に精々数十名、多くても百名といったところで、それも漕ぎ手を合わせての数である。恐れるべき理由は何ひとつ無いはずであった。


 ほどなく敵船を射程内にとらえた鉄砲部隊が、一斉に銃撃を開始した。
 敵の船は周囲を盾のようなもので覆っているが、それでも飛来する銃弾すべてをはじき返せるわけではない。船の大きさの関係から、斜め上方から撃てるという利点もあいまって、南蛮軍の銃撃は十分な効果を発揮しているように見えた。敵の船から鉄砲はおろか、弓矢の一つも放たれないのがその証拠である――南蛮兵たちが、そんな思いを胸中に抱いたとき。


 彼らの頭上に『それ』が降ってきた。


 はじめ、南蛮軍はそれが何なのかわからなかっただろう。
 それはいわゆる焙烙であった。簡潔にいって、ただの焼き物である。盾の影に隠れながら、南蛮船に投げ入れることが出来るくらいだから、重さも大きさもしれたものだった。
 これを敵船に投げつけるのは、石を拾って敵兵に投げつけるようなものか。印地という、石を投擲に用いる戦闘技術があり、熟練者の手にかかれば、人ひとりを制することも容易いというが、しかしこの焙烙投げは、印地のような技術や業が介在する余地はないように思われた。これにあたったところで、精々が手傷を負う程度であろう。


 それがただの焙烙であれば。


 焙烙を直接ぶつけたところで、脅威にはならない。だが、ただの焼き物である焙烙も、一つの工夫で危険きわまりない凶器に変じる。たとえば、そのうちに火薬を詰め込む、といったような。
 この工夫がなされた武器を、人々は焙烙玉と呼んでいた。



 次の瞬間。
 突如、小さな爆発音が南蛮船の上で起こり、わずかの間をおいて、南蛮兵たちの悲鳴と絶叫が海原に響き渡った。
 焙烙に詰められていた火薬が引火し、その爆発力によって焙烙が砕け、破片が鋭い刃物となって周囲に四散したのである。


 四散した焙烙は至近に位置していた銃兵の腕を傷つけた。別の兵の肩を切り裂いた。もっとも運の悪い者は目をえぐられた。
 だが、周囲の兵たちは彼らを助けることが出来なかった。
 投げ込まれた焙烙玉は一つや二つではなかったからである。



 ほんの数分前までは想像すらしていなかったような混乱が船上に現出した。
 焙烙玉を投げ込むだけであれば、多少の位置関係の不利など気に留める必要もない。
 焙烙玉は次々に放物線を描いて南蛮船に放り込まれ、更なる混乱をいざなった。船縁で筒先を揃えていた敵の鉄砲隊も、すでにそれどころではなくなっている。
 それを確認した者の中には、焙烙玉ではなく弓矢を手にとる者も現れた。鉄砲隊の迎撃がなければ、盾の陰に身を潜めている必要もない。
 南蛮船一隻に対して、島津軍は関船四隻をもって取り囲み、矢と焙烙玉によって南蛮船を脅かしていったのである。


 そして。
 敵の混乱が、もはやとどめようもないと判断した梅北国兼は、南蛮船に対して切り込みをかけるよう指示を下す。
 島津軍は喊声で応じ、縄梯子をかけるなどして南蛮船に乗り移るべく動き始める。
 これに対し、南蛮軍からも反撃が行われるが、それは組織だったものとはなりえず、島津軍の勢いを止めることは出来ないものと思われた。


 もう一隻の方も、戦況はほぼ同様であり、戦いは島津軍有利のままに進んでいるように思われた。
 しかし。
 それはあくまで戦況をこの場に限定した場合の話であった。
 たとえこの二隻を失ったとしても、ガルシア麾下の艦隊はなお十七隻を余している。
 それに対し、島津軍はすでに関船の半数を投入しており、今回の陽動でただの一度も砲撃がなかったことから、島津軍が保有する大砲がないことも敵に悟られてしまっただろう。
 南蛮船から敵兵を駆逐すれば、船も、船に積んである大砲も奪うことが出来るが、大砲の扱いに長じた者など島津軍にいるはずもない。帆船を動かすことも同様である。
 

 火船として敵に突っ込ませた関船も、ガルシアの巧みな指揮によってただの一隻も敵船を道連れにすることが出来ず、空しく燃え朽ちるのみであり、なにより、仮にガルシアの艦隊を撃ち破ったところで、その先にはドアルテ率いる無傷の三十隻が待ち構えている。
 いまだ島津軍は圧倒的に不利な戦況に置かれたままであった。




 ――たとえ鬼神であっても、この戦況は覆せぬ。
 ――そんな南蛮軍の確信にひびを入れるべく、一隻の船が動き出した。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031211853027344