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No.18153の一覧
[0] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 【第二部】[月桂](2010/05/04 15:57)
[1] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(二)[月桂](2010/05/04 15:57)
[2] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(三)[月桂](2010/06/10 02:12)
[3] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(四)[月桂](2010/06/14 22:03)
[4] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(一)[月桂](2010/07/03 18:34)
[5] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(二)[月桂](2010/07/03 18:33)
[6] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(三)[月桂](2010/07/05 18:14)
[7] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(四)[月桂](2010/07/06 23:24)
[8] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(五)[月桂](2010/07/08 00:35)
[9] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(一)[月桂](2010/07/12 21:31)
[10] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(二)[月桂](2010/07/14 00:25)
[11] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(三) [月桂](2010/07/19 15:24)
[12] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(四) [月桂](2010/07/19 15:24)
[13] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(五)[月桂](2010/07/19 15:24)
[14] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(六)[月桂](2010/07/20 23:01)
[15] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(七)[月桂](2010/07/23 18:36)
[16] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 幕間[月桂](2010/07/27 20:58)
[17] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(八)[月桂](2010/07/29 22:19)
[18] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(九)[月桂](2010/07/31 00:24)
[19] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十)[月桂](2010/08/02 18:08)
[20] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十一)[月桂](2010/08/05 14:28)
[21] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十二)[月桂](2010/08/07 22:21)
[22] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十三)[月桂](2010/08/09 17:38)
[23] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十四)[月桂](2010/12/12 12:50)
[24] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十五)[月桂](2010/12/12 12:50)
[25] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十六)[月桂](2010/12/12 12:49)
[26] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十七)[月桂](2010/12/12 12:49)
[27] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(一)[月桂](2010/12/12 12:47)
[28] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(二)[月桂](2010/12/15 21:22)
[29] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(三)[月桂](2011/01/05 23:46)
[30] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(四)[月桂](2011/01/09 01:56)
[31] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(五)[月桂](2011/05/30 01:21)
[32] 三国志外史  第二部に登場するオリジナル登場人物一覧[月桂](2011/07/16 20:48)
[33] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(一)[月桂](2011/05/30 01:19)
[34] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(二)[月桂](2011/06/02 23:24)
[35] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(三)[月桂](2012/01/03 15:33)
[36] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(四)[月桂](2012/01/08 01:32)
[37] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(五)[月桂](2012/03/17 16:12)
[38] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(六)[月桂](2012/01/15 22:30)
[39] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(七)[月桂](2012/01/19 23:14)
[40] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(一)[月桂](2012/03/28 23:20)
[41] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(二)[月桂](2012/03/29 00:57)
[42] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(三)[月桂](2012/04/06 01:03)
[43] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(四)[月桂](2012/04/07 19:41)
[44] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(五)[月桂](2012/04/17 22:29)
[45] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(六)[月桂](2012/04/22 00:06)
[46] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(七)[月桂](2012/05/02 00:22)
[47] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(八)[月桂](2012/05/05 16:50)
[48] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(九)[月桂](2012/05/18 22:09)
[49] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(一)[月桂](2012/11/18 23:00)
[50] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(二)[月桂](2012/12/05 20:04)
[51] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(三)[月桂](2012/12/08 19:19)
[52] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(四)[月桂](2012/12/12 20:08)
[53] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(五)[月桂](2012/12/26 23:04)
[54] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(六)[月桂](2012/12/26 23:03)
[55] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(七)[月桂](2012/12/29 18:01)
[56] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(八)[月桂](2013/01/01 00:11)
[57] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(九)[月桂](2013/01/05 22:45)
[58] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十)[月桂](2013/01/21 07:02)
[59] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十一)[月桂](2013/02/17 16:34)
[60] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十二)[月桂](2013/02/17 16:32)
[61] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十三)[月桂](2013/02/17 16:14)
[62] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(一)[月桂](2013/04/17 21:33)
[63] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(二)[月桂](2013/04/30 00:52)
[64] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(三)[月桂](2013/05/15 22:51)
[65] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(四)[月桂](2013/05/20 21:15)
[66] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(五)[月桂](2013/05/26 23:23)
[67] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(六)[月桂](2013/06/15 10:30)
[68] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(七)[月桂](2013/06/15 10:30)
[69] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(八)[月桂](2013/06/15 14:17)
[70] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(一)[月桂](2014/01/31 22:57)
[71] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(二)[月桂](2014/02/08 21:18)
[72] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(三)[月桂](2014/02/18 23:10)
[73] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(四)[月桂](2014/02/20 23:27)
[74] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(五)[月桂](2014/02/20 23:21)
[75] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(六)[月桂](2014/02/23 19:49)
[76] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(七)[月桂](2014/03/01 21:49)
[77] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(八)[月桂](2014/03/01 21:42)
[78] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(九)[月桂](2014/03/06 22:27)
[79] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(十)[月桂](2014/03/06 22:20)
[80] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 青釭之剣(一)[月桂](2014/03/14 23:46)
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[18153] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(五)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:49f9a049 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/08 00:35

「君は、どうして、官軍にいるの?」
 河東郡から西河郡へ、虎豹騎の道案内を務めた途次、徐晃は一人の少女の問いかけていた。
 一団の中で際立って若い、否、その外観は幼いといっても良い少女。多分、徐晃の弟妹たちとそうかわらない年頃であろう。
 聞けばその少女――許緒、字を仲康という少女は、虎豹騎の中でも抜きん出た実力を有しているという。なるほど、徐晃の目から見ても、許緒の身ごなしは優れた武人のそれを思わせたが、普段の立ち居振る舞いは年頃の女の子にしか見えない。
(どうして、こんな小さな子が……)
 官軍に従い、その手を血で濡らしているのか。あるいは官軍に言葉たくみに言いくるめられているのではないか。徐晃はそう考えたのである。


 それに対する許緒の返答は明朗であり、簡潔であった。
 襲われた故郷、救われた恩義、それらを経て幼い心に宿ったのは、守るべきものを守り抜くという確かな決意。
「ボク、偉い人たちはあんまり好きになれないけど、曹凛様は大好きッ。華琳様のことはとっても尊敬してるし、子和様は……うーん、ちょっと手のかかるお兄ちゃんって感じかなあ。もちろん、二人とも大好きだよ」
 そういって、許緒は眼差しを真摯なものにかえる。
「華琳様は、もうボクの村みたいなことが起きないような世の中をつくるって言ってくれたんだ。子和様もそのために戦ってる。だから、ボクも戦うって決めたんだ。ボクや、ボクが大切に思ってるみんなが安心して暮らせる世の中をつくるためにねッ」
 それは子供らしく単純で。子供だからこそ真っ直ぐで。
 それを聞いた徐晃は言葉に詰まってしまう。何故なのかは、徐晃自身にもわからなかった。



◆◆



 并州西河郡。

 李亮――徐晃の大斧による剛撃を真っ向から受け止めながら、許緒がどこか寂しげに呟いた。 
「……ねーちゃん」
 その声を聞き、徐晃は我に返る。
 咄嗟に後方にとびすさり、許緒たちとの距離をあけると、油断なく大斧を構えた。


「どうして……」
 知らず、口をついて出た問いかけは何に対するものだったのだろう。
 何故、徐晃が偽名を用いていることがわかったのか。そもそもどうして徐晃の存在を知っていたのか。
 先の戦いにおいて官軍は全滅した。それはすなわち官側は、あの戦の詳細を掴んでいないということ。徐晃が皇甫嵩を討ち取ったという事実を知るはずがないのだ。くわえていえば、徐晃は名乗りをあげて一騎打ちしたわけでもないのである。
 徐晃の言動に不審を覚えた、ということも有り得ない。白波賊の切り札である匈奴の助勢という秘中の秘を明かしたように、徐晃は県城に赴いてからこちら、何一つ偽りを口にしていないのだから。


 そんな徐晃の不審に、眼前の麗将は思慮の深さを感じさせる落ち着いた眼差しで、ひたと徐晃を見据え、口を開いた。 
「何が理由かは知らないが、急ぎすぎたな。こちらが白波賊を打ち破った、そのすぐ後にこれまでひた隠しにされていた匈奴の助勢が明らかとなり、なおかつそれを討つ好機が転がり込む――たとえその言葉に偽りがなかったとしても、都合が良すぎると考えるのは当然だろう」
 槍をしごき、馬を進ませる曹純の姿に、徐晃は警戒の視線を走らせる。
 だが、曹純はすぐに突きかかってはこなかった。
「それに、偽名を名乗るのならば徹底するべきだったよ。李亮、字を公明、か。亮と明は共に明らかという意味、命名に不自然さはないが……それでも字がまったく同じであれば、な」
 さすがにピンと来る、と曹純は言った。


 対して、徐晃は無言を貫く。
 姓は顔も知らない父のもの、名もおなじく父が考えたものだという。そして真名はみずからつけた。
 だから、たった一つ字だけが、徐晃が母から授かったもの――徐晃と母とを結ぶ縁(よすが)だったのである。これを、たとえ一時のことであれ、失うことに耐えられるはずがなかった。


 無論、そんなことを敵に話すつもりはない。
 それに、徐晃とて字をかえないことの危険を考えないわけではなかった。
 その上でなお李公明という人物をつくりあげたのは、官軍が徐晃の存在など知るはずがないという確信ゆえだったのである。
「……何故? この身は将ですらないのに」
 白波賊の中では、副頭目である楊奉の娘ということでそれなりに顔も名も知られているが、言ってみればただそれだけのこと。その秘めた武勇を知る者は母を含めても片手の指を出ぬ。
 しかも、その真価が発揮されたのは先の戦がはじめてだった。その戦で官軍が全滅した以上、官軍が徐晃の名を知ることも、またその存在を警戒することもありえないはずなのに。


 琥珀の双眸に浮かぶ当惑を、どう見たのか。
 曹純は束の間、口元に苦笑を浮かべたが、すぐに表情を改め、周囲に合図する。
 たちまち残っていた騎兵が徐晃の周囲を取り囲んだ。
 正面に曹純と許緒。左右に二人ずつ、そして後方には三人。いずれも精鋭をもって鳴る虎豹騎の中でもとくに優れた武勇の持ち主なのだろう。
 徐晃のような少女一人を取り囲み、そしてなお油断も躊躇いも示していない。まるで、匈奴の単于でも相手にしているかのような敵の態度であった。


「白波賊副頭目楊奉の下に偉器あり。姓は徐、名は晃、字を公明。その者、智勇並び備えた剛の者、くれぐれも油断なきように」
「え?」
 突然の曹純の言葉に、徐晃は怪訝な顔を隠せなかった。
 そんな徐晃に向け、曹純はしごく真面目に口を開く。
「許昌を出るとき、とある人物からそう忠告された。かなうならば曹家に招かれよ、かなわずとも決して逃がさぬように、ともな。逃がせば天下の損失とも言っていたな。それだけの人物ならば顔も名も知れていようと、正直なところ、すべてを信じていたわけではないのだが……」
 曹純は、油断なく斧を構える徐晃と、完全に包囲されていながら、なお一片も戦意を失っていないその双眸を見て、小さく微笑んだ。
「まさかこのような少女とは思わなかったが、ふふ、当たらずといえども遠からず、か。一刀の奴、どうやって調べ上げたのやら」


 しかし、徐晃は半ば曹純の言葉を聞き流していた。
 その頭の中を占めるのは、どうやればこの場から逃げられるのか、ただそれのみ。
 曹純に隙はない。許緒はわずかに躊躇っているようだが、それでもそこに付け込むだけの揺らぎはなかった。それに、許緒を見ていると、弟妹たちの顔が重なる。刃を向けられるはずもなかった。
 左右後方の兵士たちは曹純たちほどではなかったが、それでもかなりの力量を持っているようだ。一対一なら知らず、多対一では勝機は薄い。
「逃がしはしない。武器を捨て、降伏せよ。その武勇、智略、いずれも野に放つには危険すぎるからな」
 今やそれは北郷の忠告とは関わりなく、曹純自身の意思であった。
 さきほど目の当たりにした大斧の一撃。その鋭さは背筋に氷片を感じさせるものだった。
 そして、その武勇以上に厄介な智略。たしかに先刻、曹純自身が口にしたように都合が良すぎるという疑念はあった。しかし李亮と名乗った少女がもたらした情報はことごとく事実であり、それはこちらに一粒たりとも疑念を抱かせまいとする徐晃の計算だったに違いない。
 自ら敵の懐に飛び込み、味方の秘奥を餌として、敵軍を誘い込む――正直、北郷が徐晃という人物の存在を示唆してくれていなければ見抜けなかっただろう。曹純は密かにそう考えていた。


「……私にかまっていていいのですか? こうしている間にも、麾下の方々は死地に進んでいるのに」
 徐晃がそう言ったのは、わずかでも相手の気が逸れてくれれば、という狙いであった。
 だが、曹純は微塵も揺らがない。
「構わないよ。村が死地であることは伝えてある。大方、こちらが村に攻め込んだ後、外で待機していた匈奴が襲ってくる、といったところか? 連中がそう複雑な作戦を採るとも思えないからな」
 その程度であれば、裏をかす術はいくらでもある。曹純はそう告げ、改めて徐晃に向き直る。
「蛮族どもには、あとでしかるべき報いをくれてやる。今、枢要なのは緒戦で君を捕らえること。そうすれば、この後の戦況は大きくこちらに傾くだろう。先の忠告とは関わりなく、今は私自身がそう確信しているんだ」


 油断も隙もなく語る曹純の姿は、徐晃の目に巍々たる城壁のように見えた。
 逃げられない、と心の底でささやく自分がいる。
(……どうして)
 この時、徐晃の内心を覆っていたのは焦りではなかった。ただ純粋に不思議だったのだ。
 こんなはずではなかった。母の望みをかなえるためにと、徐晃はありうべき状況を想定して、一つ一つ細部を詰めて、確認して、その上でこの計略を実行したのに。
 それなのに、どうして今、自分は追い詰められているのだろう?
 どうして、失敗してしまったのだろう?
 この時の徐晃には、どうしても、その理由がわからなかった。



◆◆◆



 原因があって、結果がある。
 たとえ、一見、何の関わりがないように見えても、そこに一つの結果が在る以上、それを生むに足る原因がなければ物事は動きようがないのだ。
 たとえば、この俺、北郷一刀は朝、関羽の料理をしこたま食べさせられ――もとい、食べる栄誉にあずかった。
 これは単純に食事を食べたという結果だけがあるように見えるが、原因となるものはきちんと存在する。
 それはたとえば俺が司馬家で夕食までご馳走になり、あげく酒まで飲んで帰りが深夜になってしまったこととか(司馬懿のお姉さんの司馬朗さんがにこにこ笑いながら、次々料理やつまみを出して来たのだ)、理由を問われた俺が司馬家の姉妹を絶賛してしまったこととか(これは原因となるかどうかはわからんけど)、それに対抗意識を燃やした美髪公が朝、まだ日も昇らぬ時刻から派手な音を立てて台所を戦場にしていたこととか、そういったものが積み重なった上に、俺の朝食は存在した。
 やはり原因があってこそ、結果は存在するのだ。


 それはつまり。
 俺が今、髪を片側で束ねた(サイドテールといったか)司馬懿と共に許昌を出て、河内郡の司馬家本領に向かって馬を進ませていることにも原因が存在するということであった。
 なお俺と司馬懿の二人だけで、司馬家の護衛とかお付きの人は一人もいなかったりする。
 改めて現状を認識し、俺は天を仰いで呟いた。
「どうしてこうなった?」



「解池への調査に赴くためですが、もう一度説明いたしましょうか?」
 俺の呟きを耳にした司馬懿が小首を傾げながら問いかけてくる。
 髪を束ねたことであらわになったうなじが自然に視界に入り、俺は慌てて視線をそらす。
 そんな俺の様子を見て、目を瞬かせる司馬懿。
 司馬懿の身長は俺より小さいが、女性としては十分に長身であるといえる。容貌については散々言及したから省くが、女性らしい優美な曲線を描く肢体は十分に魅力的であった。
 こういうことを主で例えるのもどうかと思うが、曲線の描き具合は玄徳様や関羽ほど豊かではないけれど、逆にすらりとした司馬懿の方が好みだという者もいるだろう。


 つまるところ、司馬懿は様々な意味で魅力的な少女であり、黒布で顔を覆っていないため、許昌でも、街道でも、男たちの視線を釘付けにしていた。俺とて木石ではないから、自然と視線を向けてしまう時もある。
 俺が家族であれば、昨日今日知り合った男と二人で旅に出すなど断じて許さないだろう。しかし、司馬朗は実ににこやかに俺と司馬懿を送り出した。
 無論、これにも原因があった……思い出すたびに、胸をかきむしりたくなるような原因が。 






  
 俺が司馬懿から惨殺事件の被害者が、自家の家宰であると聞かされてほどなく。
 司馬家の家長が勤めを終えて屋敷に戻ってきた。
 許昌北部尉を務める人物である。妹の司馬懿を見ても、おそらく冷静沈着、頭脳明晰な人なのだろうと俺は勝手に考えていた。こう、眼鏡をくいっとして語る感じの。
 だが、あにはからんや、姿を見せたのは俺の予測とは大違いの人だった。容姿こそ司馬懿と同じ黒髪、黒目、妹に劣らないくらいに綺麗な人だったが、常にその顔に優しげな笑みを浮かべているため、はじめて司馬懿に会った時のようにその美貌に圧倒されるようなことはなく、どこか親しみやすさが感じられた。


 司馬朗は、めずらしく妹が客人を連れてきていることに驚き、その客人が劉家の驍将だと聞かされてさらに驚いていた。
 俺としては過ぎた評価が面映くて仕方なかったし、幸い雨足も弱まってきていたので、そろそろ辞去しようと思ったのだが、司馬朗は俺が口を開く間もなくこう言った。
「じゃあ今日の夕食は一人分追加しないと――いえ、男の方ですから三人分くらいの方が良いですわね」
 いつの間にか司馬家の夕食に参加確定していることに驚愕した俺だが、とんとん拍子に話を進めていく司馬朗は、俺に遠慮の言葉さえ発させず、事態をまとめてしまったのである。
 ――計算づくだとすれば(後から思えば、間違いなくそのとおりだったのだろうけど)恐るべき手際であったといえる。さすがは『司馬八達』の長女だ、と俺は呆然としながら考えていた。



 だが、話はそれだけでは終わらなかった。というより、むしろここからが本番であった。
 当然だが、家宰の死は司馬朗も知るところ。それが塩賊の手になるものであることも同様である。それを思えば、この時、司馬朗はかなり無理して笑みを浮かべていたのかもしれない。ようやくそれに気付いた俺は、粛然とその話に耳を傾けた。


 司馬朗の話によれば、曹操の治下で大幅に影響力を減じている塩賊は、内部でもかなり動揺しているらしい。官の側に寝返ろうとする勢力があり、断固として抵抗しようとする勢力があり、あるいはそれらとは関係なく利益が見込めないので足を洗おうとする者たちがあり、といった具合に。
 司馬朗と、他の三尉(聞けば李典、楽進、于禁の三将らしい)はそれらの内紛を利用しつつ、確実に塩賊を追い詰めていた。そうして、遠からず、許昌から塩賊を叩きだせると確信した矢先――今回の件が起きてしまった、ということだった。


 おそらく塩賊たちを追い詰めすぎてしまったのだろう。それに塩賊の強硬派が暴発した、というところか。であれば、あるいはまだ終わっていないのかもしれない。
 そんな俺の考えに添うように、司馬朗は言葉を続けた。
 解池、という地名が出たのはその時である。
 中華随一の塩の生産地。当然、そこは官軍が厳重に守備しているのだが、塩賊の影響力も少なからず浸透していると思われていた。
 司馬朗が言うには、その解池で不穏な動きがある、とのことだった。それを調べるために人を派遣しなければならない、とも。


「それを璧(へき)にお願いしたいのです」
「承知しました、姉様」
「ありがとう。北郷様もよろしくお願いしますね」
「はい……はい?」


 俺は首をひねった。
 なんか今、不思議な展開がなかったか?
「……あの、お願いしますね、とは?」
「もちろん璧のことを、です。良くできた自慢の妹ですが、まだまだ未熟な面があることも間違いありません。北郷様にご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、どうぞ見捨てずにいてやってください」
 そういって頭を下げる司馬朗。傍らの妹もそれに追随する。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ……って、いや、あのそうじゃなくてですねッ?!」
 あわせて頭を下げかけた俺は、慌てて首を横に振った。 


 一方の司馬朗は俺が何を慌てているのかわかっていないのか、頬に手をあてて考え込んでいる。
 司馬懿の方も何やら考え込んだ末、ぽんと両手を叩いて、こう言った。
「璧というのは、私の真名です」
「いやそれは聞けばわかりますから!」
 俺が慌てているのは、決して璧が誰のことだかわからなかったからではない!
「では話がまとまったところでお食事にしましょう」
「いつまとまった?!」
 嬉しそうに言う司馬朗に、俺は思わず素で突っ込んでしまった。
 天然か、天然なのか?!
「璧、お皿を出してください」
「はい姉様」
「無視ですか?!」
「大丈夫ですよ、北郷様。お代わりはたんとありますから」
「姉様の料理は絶品ですので、お楽しみに」
 その言葉を証明するように流れてくる魅惑の芳香。
「うおおお、流されているとわかっているのに、楽しみにしてしまう自分が憎いッ!」
 やるせない涙を流しながら叫ぶ俺と、姉妹の穏やかなやりとりが対照的な、奇妙な食卓であった。







 その後も色々話はあったのだが、この時点で勝敗(?)はすでについていたのだろう。
 俺は半ば諦めながらそう考えた。
 ちなみに、解池の調査なのに、どうして司馬家本領に向かっているのかといえば、敵の目を誤魔化すためである。表向き、俺たちは家宰の死を知らせにいくことになっているのだ。
 同時に、俺に司馬家の防備を見てほしい、という姉妹の意向も重なっていた。塩賊のことを考えれば、本領に武力侵攻してくる可能性もないわけではない。淮南戦役の英雄の目から見て、気になるところがあったら指摘してほしい、とのことだった。


 なんかもう明らかに俺の評価が暴走しているとしか思えなかった。
 とはいえ、仲軍から高家堰砦を守り抜いた俺の名は守城の名将として、すでに確固たるものとなってしまっているらしく、今さら俺が声をはりあげても評価が覆ることはなさそうだった。
「とはいえ、どの口であの司馬仲達に兵を説けというのか」
 本人に聞こえないようにこっそりと愚痴る俺だった。



 俺が許昌を離れることに関して、問題は他にもあった。
 まず朝廷の許可。続いて関羽の許可。
 だが、これは思いのほか速やかだった。朝廷に関しては司馬朗が手をうってくれたお陰である。
 そして、関羽に関してだが――意外にもあっさりと許可を出してくれて、俺の方が驚いた。てっきり「一度や二度、手柄をたてたとて調子に乗るな」的なお説教が待っていると思っていたのだが。
 これは俺を一人前と認めてくれたということなのだろうか、などと不思議に思っていると、関羽はやや迷いながらも、一つの事実を教えてくれた。
 ――すなわち、関羽もまた解池に赴くのだということを。
 無論、それは俺についてくるとか言う意味ではなく、朝廷からの正式な命令であった。




 ともあれ、諸々の要素が重なり、俺たちは思いもよらぬ速さで出立する運びとなったのである。
 俺は視線を空に向けた。そこには黒雲が重く垂れ込め、まるでこれからの道程の厳しさを示しているようで、道行く人の顔もどこか不安の陰を帯びているように見えた。
 俺はそのまま視線を傍らの同行者へと向ける。
 常と変わらない面差しは、俺よりはるかに落ち着いて見えた。その泰然とした様子を見れば、俺と同年か、あるいはそれより上にしか見えない……見えないのだ、が……
 俺は身体にのしかかる、なんともいえないやるせなさをこらえながら、先刻のことを思い出す。出立前に司馬朗と話した、その内容を。



 司馬懿が、女性ながら卓越した剣技の持ち主であることは昨日の一件でわかっていた。しかし護衛が俺一人というのは、いくらなんでも危険すぎる。まして司馬懿はこれほど人目をひく美人なのだから。
 まさか二人きりの旅程とは思っていなかった俺は、今日、司馬朗にそう言ったのだが、司馬朗さん曰く「家の者は屋敷を守ってもらわねばなりません。護衛に人を雇うほど、司馬家の台所事情は豊かではないんです」とのことでした。
 ――いや、妹さんの身命がかかっているのにそれで良いのか、と内心突っ込まざるを得ない俺。
 そうしたらお姉様は実ににこやかにこう仰いました。


 ――北郷様がおられるのです。何の心配もしていませんよ、と。
 

 ……こんな殺し文句を言われたら、任せてくださいと言うしかないではないか。うう、司馬懿とはまた別の意味で、この姉君もただものではない。昨日からてのひらで転がされっぱなしのような気がするのは気のせいか? 人使いの上手さも、人の上に立つ者の資質なのだろうなあ。
 なんとなく悔しくなった俺は、冗談まじりにこう言ってみた。
「しかし、妙齢の妹君を、昨日今日知り合った男に任せて良いのですか? どんな間違いが起こるかわかりませんよ」
 繰り返すが、もちろん冗談である。
 が、それに対する司馬朗の答えに俺は絶句してしまう。ある意味、この一両日の間でもっともショックな答えだった。


「あら、北郷様は子供がお好みなのですか? もしそうであれば、わたしとしましては、今の内に矯正することをお勧めいたします」
「は、はあ?」
「何かお辛いことがあったと推察しますが、恋愛は失敗した後にこそ、人としての価値を問われるもの。どうか自棄にはしらず、ご自分を見つめなおしてください。きっと、北郷様を好いてくれる方はおられますから」
「そ、それはどうも……?」
 何を言っているのかはわからないが、司馬朗がえらく俺のことを心配してくれていることだけは良くわかった。
 混乱する俺に、司馬朗はさらに追撃をかける。
「もしどうしても璧をお望みなら……そうですね、璧は先月十三になったばかりですから、後三年ほどお待ちいただければ。もちろん璧が北郷様を受け入れることを肯えば、ですけれど」


 ……ちょっと待て。今、何か聞き捨てならないことを聞いた気がするが。
 誰が十三だって?
「私ですが、何か? そう、共に旅をする前にお願いがありました。私のような小娘に丁寧な口を聞いてくださるお心遣いは感謝しますが、年長の方にそのように気を遣っていただくのは、私としても心苦しいです。どうぞ普段どおりにお声をかけてくださいませ」
 そう言う司馬仲達さん(13)
 ――つまりなにか? 俺は去年までランドセル背負ってた(?)子の顔を見て、桃源郷だなんだともだえてたのか? あまつさえ旅程を同じくすることにちょっとどきどきしてたのか? いやまあ、確かに司馬朗も女性にしては長身だし、司馬家は大柄な家系なのだということは想像に難くないが、しかしあれで十三歳って、えー……  
 

 俺は司馬家の姉妹の前で踵を返し、後ろを向く。
 すー、と大きく息を吸い込み、準備完了。 


◆◆


 その日、許昌の北門に「嘘だあああ」という叫びが響き渡る。
 後にそれを聞いた者は、一様に語った。
 それはまるで今にも泣き出しそうで、聞いている自分たちも涙を誘われてしまうような、そんななんとも切ない叫びであった、と……

 


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