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No.18153の一覧
[0] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 【第二部】[月桂](2010/05/04 15:57)
[1] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(二)[月桂](2010/05/04 15:57)
[2] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(三)[月桂](2010/06/10 02:12)
[3] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(四)[月桂](2010/06/14 22:03)
[4] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(一)[月桂](2010/07/03 18:34)
[5] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(二)[月桂](2010/07/03 18:33)
[6] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(三)[月桂](2010/07/05 18:14)
[7] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(四)[月桂](2010/07/06 23:24)
[8] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(五)[月桂](2010/07/08 00:35)
[9] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(一)[月桂](2010/07/12 21:31)
[10] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(二)[月桂](2010/07/14 00:25)
[11] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(三) [月桂](2010/07/19 15:24)
[12] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(四) [月桂](2010/07/19 15:24)
[13] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(五)[月桂](2010/07/19 15:24)
[14] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(六)[月桂](2010/07/20 23:01)
[15] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(七)[月桂](2010/07/23 18:36)
[16] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 幕間[月桂](2010/07/27 20:58)
[17] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(八)[月桂](2010/07/29 22:19)
[18] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(九)[月桂](2010/07/31 00:24)
[19] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十)[月桂](2010/08/02 18:08)
[20] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十一)[月桂](2010/08/05 14:28)
[21] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十二)[月桂](2010/08/07 22:21)
[22] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十三)[月桂](2010/08/09 17:38)
[23] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十四)[月桂](2010/12/12 12:50)
[24] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十五)[月桂](2010/12/12 12:50)
[25] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十六)[月桂](2010/12/12 12:49)
[26] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十七)[月桂](2010/12/12 12:49)
[27] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(一)[月桂](2010/12/12 12:47)
[28] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(二)[月桂](2010/12/15 21:22)
[29] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(三)[月桂](2011/01/05 23:46)
[30] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(四)[月桂](2011/01/09 01:56)
[31] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(五)[月桂](2011/05/30 01:21)
[32] 三国志外史  第二部に登場するオリジナル登場人物一覧[月桂](2011/07/16 20:48)
[33] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(一)[月桂](2011/05/30 01:19)
[34] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(二)[月桂](2011/06/02 23:24)
[35] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(三)[月桂](2012/01/03 15:33)
[36] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(四)[月桂](2012/01/08 01:32)
[37] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(五)[月桂](2012/03/17 16:12)
[38] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(六)[月桂](2012/01/15 22:30)
[39] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(七)[月桂](2012/01/19 23:14)
[40] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(一)[月桂](2012/03/28 23:20)
[41] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(二)[月桂](2012/03/29 00:57)
[42] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(三)[月桂](2012/04/06 01:03)
[43] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(四)[月桂](2012/04/07 19:41)
[44] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(五)[月桂](2012/04/17 22:29)
[45] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(六)[月桂](2012/04/22 00:06)
[46] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(七)[月桂](2012/05/02 00:22)
[47] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(八)[月桂](2012/05/05 16:50)
[48] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(九)[月桂](2012/05/18 22:09)
[49] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(一)[月桂](2012/11/18 23:00)
[50] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(二)[月桂](2012/12/05 20:04)
[51] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(三)[月桂](2012/12/08 19:19)
[52] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(四)[月桂](2012/12/12 20:08)
[53] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(五)[月桂](2012/12/26 23:04)
[54] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(六)[月桂](2012/12/26 23:03)
[55] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(七)[月桂](2012/12/29 18:01)
[56] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(八)[月桂](2013/01/01 00:11)
[57] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(九)[月桂](2013/01/05 22:45)
[58] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十)[月桂](2013/01/21 07:02)
[59] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十一)[月桂](2013/02/17 16:34)
[60] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十二)[月桂](2013/02/17 16:32)
[61] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十三)[月桂](2013/02/17 16:14)
[62] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(一)[月桂](2013/04/17 21:33)
[63] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(二)[月桂](2013/04/30 00:52)
[64] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(三)[月桂](2013/05/15 22:51)
[65] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(四)[月桂](2013/05/20 21:15)
[66] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(五)[月桂](2013/05/26 23:23)
[67] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(六)[月桂](2013/06/15 10:30)
[68] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(七)[月桂](2013/06/15 10:30)
[69] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(八)[月桂](2013/06/15 14:17)
[70] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(一)[月桂](2014/01/31 22:57)
[71] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(二)[月桂](2014/02/08 21:18)
[72] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(三)[月桂](2014/02/18 23:10)
[73] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(四)[月桂](2014/02/20 23:27)
[74] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(五)[月桂](2014/02/20 23:21)
[75] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(六)[月桂](2014/02/23 19:49)
[76] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(七)[月桂](2014/03/01 21:49)
[77] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(八)[月桂](2014/03/01 21:42)
[78] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(九)[月桂](2014/03/06 22:27)
[79] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(十)[月桂](2014/03/06 22:20)
[80] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 青釭之剣(一)[月桂](2014/03/14 23:46)
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[18153] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(四)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:fbb99726 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/20 23:27
 豫州潁川郡 許昌


 俺が最後に関羽の消息を聞いたのは、関羽が官渡の戦で顔良を討ち、官軍反撃の嚆矢となった時だった。
 その後、関羽の消息はぷつりと途絶えたわけだが、そのことに俺は特に不審を覚えてはいなかった。顔良を討ち、そのまま袁紹軍の追撃に加わったのだろうと思っただけである。
 もともと頻繁に連絡を取り合っていたわけではない。これは朝廷から無用の疑いをかけられないための配慮でもあったわけだが、それにくわえて、官渡の勝報が届いたのは袁紹軍が洛陽戦線に姿を現した後であり、つまりは激戦の真っ最中だったので、官渡方面のことに注意を向けるような余裕もなかったのだ。


 実はこの間、戦場で負傷した関羽は許昌に帰還しており、屋敷で療養していたのだと張莫から聞かされた俺は、とるものもとりあえず屋敷に急行した。
 そして、そこで包帯で左腕を吊った関羽が、右手一本で八十二斤の青竜刀を振り下ろしている姿を目撃したのである。


「――おかしい。俺が知っている怪我人と違う」
 俺は真顔で呟いた。
 命に関わる怪我ではない、というのは張莫から聞いていた。だが、左腕に負った傷は決して軽いものではない、とも聞いていた。しかも、傷口から悪い風が入ったのか、数日間は病床から起き上がるのも苦労していたという話だったのだが……


「なんかパワーアップしてませんか、雲長どの?」
 なんで病床から復帰して間もない人が片手で青竜刀を振り回しているんだか。
 実はこの人、死の際から復活すると強くなるどこぞの異星人だったりするのだろうか。
 そんな俺の疑問を受けて、関羽は眉をひそめた。
「ぱわあっぷ? いきなり駆け込んできたと思ったら、何をわけのわからぬことを。というか、いつ戻ってきたのだ、一刀?」
「つい先ほどです。丞相府で張太守から雲長どのの負傷を聞いて、急ぎ駆けつけたのですが……」
「む、そうか。心配させたようですまないな。だが、ご覧の通り、体調はほぼ回復している。今は衰えた身体の力を取り戻しているところだ」


 そう口にする関羽の頬をよくよく見れば、別れたときに比べて少しだけこけているように見える。どうやら病床に伏していたのは本当のことらしい。
 無事に回復したのはめでたいかぎりだが、床払いして間もないだろうに、いきなり無茶しすぎではあるまいか。
 だが、俺がそう心配しても青竜刀の動きは止まらなかった。
「戦火が病人や怪我人を避けて通ってくれるのなら、今すこしのんびりしているのだがな。そうではないのだから、備えはしておかねばなるまい。いざ危急の時、ろくに武器も振れぬとあっては武人の名折れだ。それに、借りを返さなければならない相手もいる」




「借り、ですか?」
 それはおそらく関羽を負傷させた相手のことだろう。
 というか、今さらの疑問だが、関羽を負傷させた相手というのは誰なのだろうか。慌てふためいていて、この疑問を完全に放念していた。
 劉家軍の関羽といえば、虎牢関の戦いであの呂布と互角に戦い、徐州では驍将 張遼を退け、并州では匈奴の単于 於夫羅を討ち取った大剛の士である。むろん、これ以外にも美髪公の武勲は枚挙に暇がない。
 俺が関羽の負傷を目の当たりにしたのは張遼との一騎打ちの時くらいで、於夫羅と戦った後でさえピンピンしていた。
 ということは、関羽を負傷させた相手は最低でも於夫羅以上であり、張遼に優るとも劣らない実力の持ち主、ということになる。


 普通に考えるならその相手は顔良だが、報告では顔良は関羽に討ち取られたとのことだった。死んだ相手に「借りを返す」とは言うまい。
 あるいは顔良を失って怒り狂った文醜あたりに襲撃されたのか、と俺は推測した。考えてみれば、顔良戦死の報告はあったが、文醜戦死の報告はなかったし。
 その俺の推測は半ば当たり、半ば外れた。
 関羽は眉をしかめ、忌々しそうにかぶりを振って、俺に疑問にこう答えたのである。
「結論からいうと、誰だかわからんのだ。妙な赤い仮面をかぶっていたせいでな」




 ――関羽の話をまとめると、だいたい次のようになる。
 まず、顔良との一騎打ちは関羽が勝利した。
 この時、関羽は顔良を袈裟懸けに斬り捨てた。討ち取った、と関羽は思ったらしいが、顔良の部隊を斬り散らした後、亡骸を改めてみると、わずかだが息があったそうである。
 とはいえ、斬ったときの手ごたえから関羽が討ち取ったと判断したように、傷は深く、まず助かるまいと思えた。へたに治療を施しても、それはただ苦しみを長引かせるだけにおわる公算が高い。ここでとどめを刺すのもひとつの情けであっただろう。


 だが、見方をかえれば、顔良は常人ならば死んでいる重傷を負ってなお生きながらえている強い生命力の持ち主である、ともいえる。そんな生命力の持ち主であれば、あるいはこの傷からも持ち直すかもしれない。
 持ち直したところで、結局曹操によって首を斬られるだけ、ということも十分に考えられたが、それでも関羽が顔良を自陣に連れ帰ったのは、自身と真っ向からたちあった敵将への敬意ゆえであったのだろう。


 そこで襲撃を受けた。


 襲撃は暁闇に行われた。このとき、関羽は寸前まで襲撃に気づかなかったという。
 いかに激闘の後とはいえ、関羽ほどの武将が敵襲に気づき得なかった理由はふたつ。
 ひとつは襲撃の半刻ほど前から濃い霧が立ち込めたこと。
 もうひとつは、襲撃者がたったひとりだったことである。


 それを聞いたとき、俺は思わず話を遮る形で問いかけていた。
「つまり、雲長どのはたったひとりの襲撃者に部隊を撹乱された上、手傷を負わされた、と?」
 まさか、との思いで発した問いであったが、関羽はうつむきがちにうなずいた。
「一生の不覚だ……はじめは、顔良の身柄を取り戻しにきた袁紹軍が、濃霧をついて襲ってきたのだと思ったのだが」
 周囲を警戒しても敵兵の姿は見えず、なのに死傷者だけは刻一刻と増え続ける。状況を掴めずにいるところに自身の陣幕への切り込みを許してしまった、と関羽はうめくように言った。


 にわかには信じられなかったが、実際に関羽は負傷している。
 そんなことが可能な人物を、俺はひとりしか知らなかった。
「呂布ですか?」
 袁術の下にいる呂布が官渡に姿を現すとは考えにくいが、仮面をつけた兵というと、どうしても仲の告死兵を連想させる。くわえて、他にそんなまねができる人物がいるとも思えなかった。
 だが、関羽はかぶりを振って、その可能性を否定した。
「いや、呂布ではない。虎牢関で戦ったあやつとは背格好が異なっていた。得物も戟ではなく斧、乗っていた馬も赤兎馬ではなかった。それに髪の色も違っていたな」
 顔は仮面で隠せても、体格や髪の色はごまかしようがない。
 呂布は赤毛だったが、篝火に照らされた襲撃者の髪の色は白かったという……





「赤い仮面をつけた白髪の斧使い……」
 俺は眉を寄せて考え込む。
 顔良ではない。ということは文醜なのか。しかし、文醜だとすれば、どうして仮面をつけて、しかもひとりで乗り込んできたのか。顔良を救うのならば、一軍を率いてきた方が良いに決まっているし、仮面で顔を隠す意味もない。
 この疑問は文醜に限った話ではなかった。赤仮面が袁紹軍の誰であるにせよ、単独行動で関羽を襲った理由がわからないのである。


 考え込む俺に関羽は最後の情報を教えてくれた。
「敵の刃を受け止めたとき、青竜刀ごと腕をもっていかれそうになった。あれほどの豪撃を受けたのは虎牢関以来だ。単純な膂力なら呂布に匹敵する相手だろう」
「……飛将軍並みの膂力の持ち主、ですか。そんなのがそこらをうろついているとか考えたくもないですが……雲長どのが手傷を負ったということは、当然、力だけではないですよね」
「ああ、並々ならぬ武技だった。不意をつかれたとはいえ、向こうの狙いが私の命だったとしたら、今こうしてここに立っていられたかどうかわからん」


 関羽に手傷を負わせた敵は、重傷を負っていた顔良を抱えて駆け去ったという。
 この行動からするに、敵の狙いは間違いなく顔良の身柄であった。だが、袁紹軍に顔良が帰還したという話は一向に聞こえてこない。
 関羽は難しい顔で話を続けた。
「もしかしたら、途中で顔良は事切れてしまったのかもしれない。はじめにいったように、私が与えた傷はかなり深かったからな。しかし、最終的に救うことができなかったにしても、自軍の勇将の亡骸を敵軍から取り戻したと喧伝すれば、兵の動揺を多少は静めることができたはずだ。それをしなかったということは、それほど袁紹軍が混乱していたのか、それとも――」
「そもそも、その赤仮面は袁紹軍の人間ではなかったか」


 俺の言葉に関羽はうなずいた。
「そういうことだ。もっとも、すべて私の推測だがな。その後の戦況については、お前も大体は聞いているだろう? いや、もしかしたら、それどころではなかったのか? そちらもそちらで、ずいぶんと大変だったらしいな」
「まあ、あれを大変と言わずして何を大変というんだ、というくらいには大変でしたね」
「ふむ、ならば今度はそちらの話を聞かせてもらおうか。戦況もそうだが、飛蝗が発生したと聞いた。そのせいで、このところ街もずいぶん殺気立っているようだ」
「はや影響が出ている、ということですね。承知しました、洛陽でのことをお話しましょう。ですが、その前に――」
「む?」


 怪訝そうな顔をする関羽に、俺は真顔で懇願した。
「さっきから青竜刀の風切り音がびゅんびゅんと唸っていて怖いっす。普通に部屋で話させてください」




◆◆◆




 豫州汝南郡 汝陽


 袁紹、袁術らを輩出した豫州汝南郡の名門 汝南袁氏。
 その祖は古く前漢の時代にまでさかのぼり、以来、数世代に渡って豫州で勢力を培ってきた袁家は、この地できわめて大きな影響力を有している。ことに汝南郡は袁家のお膝元といってよく、本拠地である汝陽を中心とした権力基盤は、たとえ漢帝を擁した丞相 曹操であっても容易に付け入ることのできない頑強さを誇っていた。
 

 もともと汝南郡は中華帝国でも屈指の人口密集地帯であり、その規模はただ一郡をもって一州に匹敵する。こと人口に関していえば、汝南郡に優るのは隣接する南陽郡のみである。
 この時代、人口の多寡はそのまま軍事力、生産力の多寡に直結する。上記の二郡を抱えた袁術――仲帝国が他の勢力よりも強大になっていったのは必然であった。
 もし、袁術が野望を逞しくして南陽郡、汝南郡の二方向から許昌に侵攻したとしたら、曹操は決死の防衛戦を繰り広げなければならなかったであろう。


 もっとも、袁術にその覇気がないことは、本拠地を南陽から寿春に移した段階でわかりきっていたことだった。
 曹操と劉表に挟まれた南陽郡を離れたことはまだしも、曹操と正面きって対峙でき、なおかつ「汝南袁氏の拠点」という利点を有する汝南郡ではなく、遠く揚州の九江郡に都を置いた袁術が曹操との決戦を望むはずがない。
 そのことを読みきっていたからこそ、曹操は平然と徐州や河北に大軍を展開することができたのである。



 ただ、仲の内部にはこのことに切歯扼腕する者も少なからず存在した。
 その急先鋒が仲国虎賁校尉(近衛軍司令官)窄融(さくゆう)、字を無碍(むげ)という人物である。
 窄融は仲の淮南侵攻において、当時江都の県令を務めていた趙昱を殺害して仲に降伏し、そのまま江都の県令に任じられた経歴の持ち主である。
 江都を得た窄融は、曲阿(きょくあ 揚州呉郡)の劉遙との戦いで功績を重ね、淮南戦の失態で降格させられた呂布にかわって虎賁校尉に任じられた。


 その後、窄融は盧江郡太守 劉勲と協力して鄭宝、張多、許乾といった反仲勢力を討伐するなど幾つもの武功をあげた末、汝陽への駐屯を命じられるにいたる。
 このことを聞いた仲の高官たちは声をひそめて語り合った。
 汝陽は曹操領と接する事実上の最前線。この人事、一見すると曹操との戦いを主張してやまない窄融の願いに沿ったものであると映る。だが、実際は好戦的な窄融を疎んじた袁術が体よく彼女を寿春から追い払ったのだろう、と。
 その証拠というべきか、袁術は窄融を汝陽に差し向けたものの、それ以上兵力を送り込むことはせず、新たな命令を下すこともなく、のんびりと蜂蜜水をなめるばかりであった。



 実のところ、仲の朝廷では窄融の前歴や好戦的な性情に懸念を抱く廷臣が少なくなかった。窄融を虎賁校尉に任じる際にも反対意見は幾つもあがっていたのである。
 彼らは窄融が汝陽に赴いた場合、彼の地で叛乱を起こすのではないかと恐れたのだが、大将軍である張勲はその懸念をあっさりと否定した。別に窄融の忠誠心に期待したわけではない。張勲は窄融が叛乱を起こしたところで成功するはずがない、と見切っていただけである。
 なにしろ汝陽をはじめとした汝南郡一帯は汝南袁氏のお膝元、そこで窄融のような寒門の武人が袁術に対して叛乱を起こしたところで、いったい誰が味方につくというのか。叛乱を起こしたその日のうちに鎮圧されるのがオチであろう――それが張勲の考えであり、この言葉は廷臣たちの耳に確かな説得力を持って響いた。


 つけくわえていえば、この時期、仲は合肥と盱眙で起きた叛乱の対処に苦慮しており、一応は味方である窄融をいつまでも警戒しているわけにもいかなかった。
 そのため、廷臣たちの目は自然と汝陽から外れていき――結果、窄融の配転と前後して、ひとりの廷臣が寿春から汝陽へ移動したことはほとんど人々の耳目に触れなかった。
 これは、その人物が正規の官人(武官、文官)ではなかったためでもある。
 彼女は医者であった。それも宮廷付きの医師として皇帝の傍に侍るのではなく、一般の兵士や下級役人、さらには市井の貧しい人々と向き合う型の医者であった。ゆえに彼女は仲の高官の視界に映っておらず、彼女が寿春から汝陽に移動したことを知るのは、それを命じた者を除けば、彼女の患者くらいのものであった。


 その者の姓は張、名は機、字は仲景。
 後に『医聖』として中華帝国の歴史に不滅の名を刻み込む人物である。 



◆◆



 治療を終えて部屋から出た途端、張機の口からは地の底に達してしまいそうな重苦しい吐息がこぼれおちた。
 長時間にわたって極限までの集中を維持していたため、今すぐ床にへたりこんでしまいたいくらい疲れ果てていたのである。、
「はあああぁぁぁ………………助けた私も流石だけど、助かった患者もすごいわよね」
 普通死ぬでしょ、あの傷。
 そんな物騒な言葉を呟きながら、張機は億劫そうに頭の後ろに手を伸ばす。その手が髪留めを外すと、一瞬の間を置いて、それまで団子状に結わえられていた髪が背中を覆うように広がっていった。


 端整ではあるが、表情にとぼしく硬さを感じさせる顔立ち。意志の強さをあらわして常に挑むような光を帯びている瞳。強く引き結ばれた唇とあいまって、張機の容貌はどこか利かん気な少年を思わせる。身体の線を覆う野暮ったい治療衣も、その印象を強める一因になっているかもしれない。
 張機は乱暴な手つきで髪を梳くと、次にその治療衣を脱ぎ捨てる。
 と、そのとき、張機の前方を人影が遮った。
 面倒そうに顔をあげた張機は、そこに予期した顔を見出して、ついと視線をそらせる。


「どうだった?」
 無駄な前置きのない、ただ結果だけを問う声。
 効率的なやり取りは張機も望むところであった。疲れているときに嫌いな相手と話をするなど面倒くさいにもほどがある。
「たぶん、助かるわ」
 相手を見習って短く応じた張機であったが、どうやら相手はその返答では満足できなかったらしい。次の問いは先の問いよりも強い語気で構成されていた。
「たぶん?」
「右の肩から左の腰まで、ただ一刀。即死しててもおかしくない重傷から、確実に回復しますなんて言えないわよ。しかも、傷を負った後、素人の応急手当だけで過ごしたせいで体力もかなり落ちている。正直、なんで生きてるのって状態だった。たぶん助かるってところまで持っていけただけでも奇せ――」
 何事か口にしかけた張機は、そこではたと口を噤み、忌々しそうに床を蹴った。


「……血は止まった。傷は塞いだ。薬も塗った。後は患者の体力次第。他に私たちにできることといったら、傷口から悪い風が入っていないように天に祈ることくらいかしら」
「もうひとつ出来ることがある。急変に備えて、絶えず医者を張り付かせておくことだ。必要ならば一月でも二月でも」
 それを聞いた張機の目が、すっと細くなった。
「――私はあなたの配下になった覚えはないわ。寿春で私を待っている患者がたくさんいるんだけど、虎賁校尉さま?」


 張機から尖った声音を向けられた虎賁校尉――窄融は唇の右端を吊り上げた。 
「たしかにあなたを配下に迎えた記憶はない。だが、あなたの仲での立場を保証したのは私だ。あなたの指示に従い、険阻な山間に生える薬草を定期的に集めているのも私の配下。あなたひとりで、今かかえているすべての患者の面倒をみられると思っているのか?」
「無理でしょうね。誤解のないように言っておくけれど、私としてもあなたに感謝はしているの。だから、呼び出されたらこうやって駆けつけた。あなたの目的がなんであれ、私の目的に資するかぎりはあなたの指示に従うわ。けれど――」


 キッと窄融を睨みすえた張機は、視線に劣らぬ鋭い口調で窄融に要求を叩き付けた。
「あなたの指示が私の目的を妨げるなら、その指示に従う義理はない。ここに留まるのはあと三日。三日したら一度は寿春に帰らせてもらうわよ。またここに戻ってくるとしても、それはあちらでの治療が一区切りついてからのことだわ」
「ふむ……」
 張機の言葉を聞いた窄融が、感情の感じられない眼差しを向けてくる。
 初めて出会ったとき、蛇のようだ、と張機が感じた眼差しだ。その感想は今なお変わっていない。


 しかし、あいにくと張機はその程度で怯むほど繊細な心の持ち主ではなかった。
 真っ向から窄融を睨み返し、強気に言葉を重ねる。
「そもそも、あの趣味の悪い子供はどうしたのよ。あの子がいれば、別に私を呼び出す必要はなかったはずでしょう?」
「喬才は別件で他所に出向いている。それに、アレもあなたと同様、私の配下というわけではなくてな。いつでも行動を掣肘できるわけではない」
「あらそうだったの。それはともかく、今いったことは変更しないわよ。行動を掣肘できないといっても、言うことをきかないわけじゃないんでしょう? なら――」




 張機がそこまで口にした時だった。
 不意に、その場に第三者の声が割って入ってきた。
「無碍さま……」
 おどおどとした声を聞いた張機がそちらを見やれば、見覚えのない少年の姿が見て取れる。
 その少年を見たとき、張機は一瞬女の子と見間違えた。それほどに綺麗な顔立ちをしていたのである。


 窄融が抑揚のない声で問いかけた。
「敬輿(けいよ)。どうした?」
「は、はい、お話中のところ申し訳ございません。于麋(うび)、于茲(うじ)の両将軍が至急無碍さまにお目にかかりたい、とお越しになっているのですが、いかがいたしましょうか?」
「……そうか、すぐに行くゆえ、二人にはしばし待っているように伝えよ」
「かしこまりました。それでは失れ……」
「まて、敬輿。こちらに来い」
「は、はい」


 窄融は近づいてきた少年の腕を掴むと、いきなり抱き寄せるにして胸元に引き寄せた。少年が悲鳴じみた声をあげるが、窄融はおかまいなしに少年のあごを掴み、無理やり張機の方に顔を向けさせる。
「あなたは敬輿と会うのは初めてだったな。この者、曲阿の劉正礼(劉遙)の子で劉基、字を敬輿という。曲阿を落とした折、劉遙の一族は皆殺しにして長江にほうり捨ててやったのだが、こやつだけは見目麗しきゆえに助命した。以後、あなたのもとに使者として差し向ける時も来るかもしれぬ。見知りおいてくれ。敬輿、こちらは張仲景どのだ」
 窄融が促すと、劉基は苦しげな声で応じた。
「……劉敬輿、と申します。仲景さま、ど、どうぞお見知りおきくださいませ」
「……張仲景よ、よろしくね」


 窄融の説明と今しがたの行動を見れば、劉基がどのような境遇にあるのか、張機には容易に推察できた。
 痛ましいと思わなかったといえば嘘になる。
 だが、張機は窄融に対して何も言うつもりはなかった。張機には目的があり、権力者や権力者の一族の悲哀に首を突っ込んでいる暇はない。
 それを宣言するように、張機は窄融と劉基の横を通り過ぎ、自室へと歩み去っていく。


 その懐には未だ完成に程遠い一冊の本が秘められていた。



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