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No.18153の一覧
[0] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 【第二部】[月桂](2010/05/04 15:57)
[1] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(二)[月桂](2010/05/04 15:57)
[2] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(三)[月桂](2010/06/10 02:12)
[3] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(四)[月桂](2010/06/14 22:03)
[4] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(一)[月桂](2010/07/03 18:34)
[5] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(二)[月桂](2010/07/03 18:33)
[6] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(三)[月桂](2010/07/05 18:14)
[7] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(四)[月桂](2010/07/06 23:24)
[8] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(五)[月桂](2010/07/08 00:35)
[9] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(一)[月桂](2010/07/12 21:31)
[10] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(二)[月桂](2010/07/14 00:25)
[11] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(三) [月桂](2010/07/19 15:24)
[12] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(四) [月桂](2010/07/19 15:24)
[13] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(五)[月桂](2010/07/19 15:24)
[14] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(六)[月桂](2010/07/20 23:01)
[15] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(七)[月桂](2010/07/23 18:36)
[16] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 幕間[月桂](2010/07/27 20:58)
[17] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(八)[月桂](2010/07/29 22:19)
[18] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(九)[月桂](2010/07/31 00:24)
[19] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十)[月桂](2010/08/02 18:08)
[20] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十一)[月桂](2010/08/05 14:28)
[21] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十二)[月桂](2010/08/07 22:21)
[22] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十三)[月桂](2010/08/09 17:38)
[23] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十四)[月桂](2010/12/12 12:50)
[24] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十五)[月桂](2010/12/12 12:50)
[25] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十六)[月桂](2010/12/12 12:49)
[26] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十七)[月桂](2010/12/12 12:49)
[27] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(一)[月桂](2010/12/12 12:47)
[28] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(二)[月桂](2010/12/15 21:22)
[29] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(三)[月桂](2011/01/05 23:46)
[30] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(四)[月桂](2011/01/09 01:56)
[31] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(五)[月桂](2011/05/30 01:21)
[32] 三国志外史  第二部に登場するオリジナル登場人物一覧[月桂](2011/07/16 20:48)
[33] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(一)[月桂](2011/05/30 01:19)
[34] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(二)[月桂](2011/06/02 23:24)
[35] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(三)[月桂](2012/01/03 15:33)
[36] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(四)[月桂](2012/01/08 01:32)
[37] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(五)[月桂](2012/03/17 16:12)
[38] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(六)[月桂](2012/01/15 22:30)
[39] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(七)[月桂](2012/01/19 23:14)
[40] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(一)[月桂](2012/03/28 23:20)
[41] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(二)[月桂](2012/03/29 00:57)
[42] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(三)[月桂](2012/04/06 01:03)
[43] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(四)[月桂](2012/04/07 19:41)
[44] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(五)[月桂](2012/04/17 22:29)
[45] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(六)[月桂](2012/04/22 00:06)
[46] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(七)[月桂](2012/05/02 00:22)
[47] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(八)[月桂](2012/05/05 16:50)
[48] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(九)[月桂](2012/05/18 22:09)
[49] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(一)[月桂](2012/11/18 23:00)
[50] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(二)[月桂](2012/12/05 20:04)
[51] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(三)[月桂](2012/12/08 19:19)
[52] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(四)[月桂](2012/12/12 20:08)
[53] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(五)[月桂](2012/12/26 23:04)
[54] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(六)[月桂](2012/12/26 23:03)
[55] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(七)[月桂](2012/12/29 18:01)
[56] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(八)[月桂](2013/01/01 00:11)
[57] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(九)[月桂](2013/01/05 22:45)
[58] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十)[月桂](2013/01/21 07:02)
[59] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十一)[月桂](2013/02/17 16:34)
[60] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十二)[月桂](2013/02/17 16:32)
[61] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十三)[月桂](2013/02/17 16:14)
[62] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(一)[月桂](2013/04/17 21:33)
[63] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(二)[月桂](2013/04/30 00:52)
[64] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(三)[月桂](2013/05/15 22:51)
[65] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(四)[月桂](2013/05/20 21:15)
[66] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(五)[月桂](2013/05/26 23:23)
[67] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(六)[月桂](2013/06/15 10:30)
[68] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(七)[月桂](2013/06/15 10:30)
[69] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(八)[月桂](2013/06/15 14:17)
[70] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(一)[月桂](2014/01/31 22:57)
[71] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(二)[月桂](2014/02/08 21:18)
[72] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(三)[月桂](2014/02/18 23:10)
[73] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(四)[月桂](2014/02/20 23:27)
[74] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(五)[月桂](2014/02/20 23:21)
[75] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(六)[月桂](2014/02/23 19:49)
[76] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(七)[月桂](2014/03/01 21:49)
[77] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(八)[月桂](2014/03/01 21:42)
[78] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(九)[月桂](2014/03/06 22:27)
[79] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(十)[月桂](2014/03/06 22:20)
[80] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 青釭之剣(一)[月桂](2014/03/14 23:46)
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[18153] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(四)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:49f9a049 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/06 23:24

 古くから、塞外より轟く鉄騎の音は、中華帝国において長く恐怖の源泉であった。それは同時に、時の政治の良否を見る計りの役割も持っていた。
 たとえ個々の武勇で後れをとろうとも、遊牧民族と農耕民族では根本的な国力が違う。中華を統べる国が安定した国威を保っていれば、騎馬民族の勢力は一定以上に膨れ上がることはなかったからである。
 彼らが侵攻をはじめるのは中華帝国の政治が乱れた時。税が高まり、民心が乱れ、外敵への備えが緩んだ時こそ、彼らは得たりとばかりに勢力を伸ばしはじめるのだ。


 そして。
 王朝の混乱と失政に乗じるという意味では、塩賊もまた塞外騎馬民族と共通するものを持っていた。
 官塩の価格が高騰すればするほど、私塩の価値は高まる。
 そして官塩が高騰するということは国庫が逼迫しているということであった。それは荒天や旱魃、あるいは蝗害といった天災に拠る場合もあるが、そのほとんどは大規模な土木工事や無益な遠征、宮廷の奢侈といった人為的な行いを起因とするものであった。
 ことに霊帝の治世にあっては、朝廷は権力争いの場と化し、各地の州牧の多くは自領を守ることに汲々とし、民衆の生活にまで気を配ることが出来るものは数少なかった。
 この悪政に乗じて勢力を肥え太らせた代表格は黄巾党であるが、彼らよりも密やかに、かつ強かに力を蓄えている者――それが塩賊であった。


 だが、賊徒に福を与えた朝廷の混乱も、ひとりの人物によって終止符を打たれる時が来る。
 曹孟徳の台頭である。
 民心の安定は国家の基。曹操は治安の改善と物価の安定を柱とした政策を次々と打ち出し、自身と配下の類まれな政治手腕によって、そのほとんどすべてを軌道に乗せることに成功する。
 もっとも、治安の改善は人手と工夫によってやりようはいくらでもあるが、物価の安定には、物資の継続的な供給が不可欠である。曹操や配下の吏僚がいくら政治に長けていようと、無から有を生み出すことができない以上、限界は存在するはずであった。


 しかし、その問題もほどなく解決する。曹操陣営の資金源であり、先の許昌建設の立役者である陳留の大商人である衛弘の尽力、そして隆盛著しい曹操に期待を寄せる中原の商人たちの協力によって。
 商人が為政者に望むもの、それは安全に商いができるだけの治安と公正の実現であった。朝野に賊徒が蔓延っていれば、品物の運搬さえ容易ではない。護衛をつけるにしても、彼らを雇うための金が必要となってしまう。
 首尾よく品物を目的地まで運べたとしても、露骨に賄賂を要求する官吏や、権力や暴力を用いて品物を廉く買い叩こうとする輩は後を絶たない。そういった横暴に対し、商人たちが訴え出ることができる場所はごくごく限られており、また、訴えたところで、そこでも賄賂を要求される始末である。
 これでは利益など出ようはずもなく、これを見越して品物の値段を釣り上げれば、本来であれば売れるはずであった物まで売れなくなってしまうのだ。


 ゆえに商人たちは為政者に求める。
 安全に品物を運ぶことができる平和と、公正に商いが出来る体制の確立を。
 しかし、それがただの理想であることを、多くの商人はわきまえていた。理想とは叶えられないからこそ理想なのであって、実際はままならぬ現実と帳尻をあわせつつ、商いを行うしかなかったのだ。


 だからこそ。
 理想を現実にしてくれる、そんな期待を抱くに足る英傑が現れたとき、中原の雄なる資産家たちが、その資産の一部を割くことをためらうはずはなかったのである。


 

 かくて、丞相曹孟徳の下、中原における交易はこれまでに増して盛んになり、比例して物価も安定しだしていった。
 品物が多く出回れば、物価の高騰にも歯止めがかかる。ある商人が暴利を貪ろうと、品物の値段を釣り上げたとする。しかし、市場には、それより廉く品物が出回っているのだから、買う側はそちらにまわり、暴利を望んだ商人に残るのは在庫の山と閑古鳥の鳴き声だけ、商人は書き換えた値段表を元に戻さざるをを得なくなるのだ。
 安定した物資の流通は、均衡の見えざる手を動かし、適正な価格というものが自然と定められていく。
 無論、例外はいくらもあるし、すべてがうまくまわっているわけではないにせよ、少なくとも曹操の領内において、庶民がどれだけ懸命に働いても日々の糧にも事欠くような、そんな理不尽な状況は確実に排除されつつあった。



 そして、専売品である塩も、この流れの中にあったのである。
 曹操はまず、塩の専売そのものの廃止は将来のこととした。今の丞相府は、ただでさえ猫の手も借りたいほどの多忙さの中にある。どれくらい多忙かといえば、一部重臣から「背に腹はかえられないわ。あの猪にも少しは手伝わせなさいッ!!」という案が出るほどであった。
 この案は即座に「余計に仕事が増えると思うが」との意見によって棄却されるに到るが、ともかくそれくらい大変な状況であったのだ。
 そんな中で、多大な利害を生み出す塩の専売、その廃止にともなう混乱と利権の争いを捌くだけの余裕を持っている者は、少なくとも今の丞相府にはいなかったのである。


 無論、官塩の高騰と、塩賊の跳梁を座視するわけではない。
 曹操の懐刀である荀彧がとった策はきわめて単純であった。
 朝廷が塩を売るとはいえ、なにも士大夫がみずから塩の製造、販売を一手に引き受けていたわけではない。朝廷から権利を委ねられた商人たちがいるのだ。
 荀彧は彼らに対し、君命であるとして、貯蓄されていた塩の中から、余剰と見られる分をことごとく供出させ、それを市場に出すことで一気に官塩の値段を引き下げたのである。


 これには、当然、難色を示す塩商も少なくなかった。というより、全ての塩商が難色を示したといって良い。朝廷へと献上される利益から、彼らは幾つもの題目を掲げて(運搬費、製造費などなど)少なからざる利益を得ている。塩商たちの利益は、官塩の値が高ければ高いほど増加するのだ。つまるところ、ここにも官塩の高騰の一因はあり、荀彧は正確にそこを見抜き、手をうったのである。


 もっとも、荀彧は塩商たちを排除したわけではない。過剰な備蓄を吐き出すようにとは命じたが、これまでどおり製造と販売は塩商たちに委ねたままであった。
 荀彧がわずかでも余裕を持っていれば、ここにも改革の手をいれたに違いない。しかし、おそらく荀彧は現在、中華でもっとも多忙な人物の一人であり、問題を先送りするしかなかったのだ。
 塩商らにしても、今回の命令に対して不満は残るが、朝廷の実力者である曹操に刃向かう愚は知っている。下手に逆らって、塩を取り扱う権利を奪われてしまえば元も子もない。高利を得る塩商の地位は、他の商人たちにとっても垂涎の的なのである。


 もっとも、塩商たちは他の者たちが持ちえぬ利点を持っており、容易に他者がその地位につくことは難しかった。 
 効率良く塩を造るにはどうするか。造った塩はどこに保管しておくのか。保管していた塩をどのように販路に振り分けるのか。安全に目的地に届けるために注意すべきことは何か。届いた後、どこに保管しておくのか。どこでどうやって売りに出すのか。もっとも利益の出る販売量、期間はどの程度か。
 そういった細々としたノウハウを塩商たちは我が物としており、それは他の商人や、丞相府の役人が一朝一夕で得ることが出来るものではなかった。
 長い間の経験と蓄積なくして得られない情報。塩商たちがそれを握るゆえに、荀彧はこの問題に対しては拙速よりも巧遅を選ばざるを得なかったのである。



 こうして小さからざる不協和音を残しつつも、官塩をとりまく状況は、少なくとも庶民の目から見れば一気に改善された。
 こうなれば、あえて危険をおかして私塩を買い求める必要もない。人々は曹操、荀彧に喝采を送り、新帝の統治にまた一つ信頼を積み重ねる。
 将来は知らず、現状の官塩を取り巻く問題は一つの解決を見たのである。



 ……その陰に、塩賊の底深き憎しみを宿しながら。



◆◆◆



 并州西河郡。
 河東郡と境を接するこの地は、同時に朔北の勢力――匈奴とも隣接しており、たえずその脅威を受け続けていた。
 近年、匈奴側も単于(匈奴の王位)の地位を巡って抗争が激化しており、大規模な侵攻こそなかったが、小規模の部隊による襲撃は絶えず行われているのが現状であった。
 それでもこれまでは襲ってくる数が限られているので、何とか撃退することが出来ていたのだが……



「昨年の暮れのことです。突然、私たちの村を匈奴の大軍が襲い、瞬く間に村はあの人たちの手に落ちてしまいました……」
 そう言って、曹純の傍らで馬を進ませていた少女は瞼を伏せた。
 許緒がその姿を気の毒そうに見やる。匈奴の支配を受けた村人たちがどのような目に遭ったのか、また今も遭っているのかは想像に難くなく、何と声をかければ良いのかと悩んでいるようだった。
 その気持ちは半ば曹純とも重なるが、今、それを口にしたとて何の解決にもならないだろう。少女の言うことが事実なのだとすれば、一刻も早く村を解放することこそが唯一の解決策になるはずであった。


 河東郡の県城を離れ、西河郡へと向かう最中、曹純は少女に確認をとった。
「……君たちの村を占領した匈奴は、幾つも京観(死体で築いた塚)を築いているという話だったが、もっとも新しいものは何時ごろつくられたものかわかるかい?」
「少し前……ええと、半月くらい前だったと思います。あの人たち、大勝利だったってすごい機嫌が良くて、村のみんなを駆り出して、たくさんの人たちの亡骸を積み重ねて……」
 その時のことを思い出したのか、少女は小さくうめき、口元を押さえた。
 それでもなお言葉を続けたのは、村を救うために必要なことだと考えたからなのだろうか。もしそうであれば、この亜麻色の髪の少女の精神力は驚嘆に値した。


「あの人たちは、略奪に出るたびに人を浚ってきたり、殺した人たちを馬で引きずってきたりしてました。でも、それでも数十から、多くても百人くらいです。でも、あの時は百とか二百とか、そんな数ではなかったです」
 それが何を意味するのか、曹純の目には明らかであった。ため息まじりに少女に礼を言う。
「そうか……ありがとう。すまない、つらいことを聞いてしまったな」
「いいえ……村のみんなを救ってもらうんです。私も、出来るかぎりのことはしないと……」
 少女――姓を李、名を亮、字を公明と名乗った少女は、曹純の詫びに対して、琥珀色の双眸に涙を湛えながら、ゆっくりと首を横に振るのであった。



◆◆◆



 屈強な将兵の中にあって、なお一際雄偉な体格は、馬にまたがっても地に足をつけることが出来た。
 並の人間の胴ほどもある左右の腕に力を込めれば、巨馬の首すらへし折れる。丸太の如き両の脚を繰り出せば、敵兵は甲冑を着たまま宙を飛んだ。
 精気と客気に満ち満ちた両眼で周囲を睥睨すれば、最強を謳われる匈奴の猛者たちさえ顔をあげることかなわない。
 朔北の軍勢を統べ、西河郡を劫略する匈奴の王、於夫羅(おふら)の、それが姿であった。
 その姿は、もはや人というよりも智恵を持った獣とでも呼ぶべきであったかもしれない。今、その眼前で恐怖に震えながら剣を構える壮年の男性と比べれば、とてものこと、両者が同種の生き物なのだとは思えなかった。


「……どうした、かかってこぬのか? そこで震えているだけでは、汝の妻も娘も助からぬぞ?」
「……ぐ、この、なんで、こんな」
 於夫羅の言葉に、男性は小さくうめき、柄を握る手に力をこめる。だが、それだけだ。目の前の相手に斬りかかっていくことはしなかった――否、できなかった。眼前の相手から漂ってくる物理的な圧力さえ感じさせる死の気配を感じ取り、男性の身体は所有者の意思を無視し、その場を動くことを拒絶したのである。一歩でも近づけば、於夫羅の持つ大斧で腰斬されてしまうであろうから。


 だが。
「あ、ああ、お許し、お許しくださいませッ! 娘は、せめて娘はァ!」
「父上、ちちうえェッ!!」
 周りを取り囲む匈奴の兵に縋りつくように慈悲をこう母とおぼしき女性と、父の名を呼んで泣き叫ぶ少女。その服はすでに力任せに破られており、その肢体は半ばあらわになっている。ふくらみきっていない乳房が、少女がまだ年端もいっていないことを物語っていた。
「……京ッ! 甘ッ!!」
 妻と娘の名前なのだろう。男性は二つの名を叫ぶと、今にもそちらに向かって駆け出そうとする。
 ――が、その挙動はただの一言で封じ込められる。


「名を叫ぶ暇があったら、かかってくるが良い」
 一歩、踏み込みながら、於夫羅が口を開く。それだけで大地が揺れたように感じたのは、はたして気のせいなのだろうか。
「余の身体に傷一つ。それだけで汝も、汝の妻子も助かるのだ。このまま震えておるだけでは、いずれも助からぬぞ。それとも、目の前で妻子を犯されねば戦えぬか? ならば望みどおりにしてやるが」
「ぐ……この、蛮人め。どうせ、わたしたちを生かして返すつもりなどないのだろうッ?!」
「確かに余は蛮夷の王だが、約定は守る。別に信ぜずともかまわぬがな」
 そういうと、於夫羅は遠巻きに見守る部下たちに頷いてみせた。
 その意味を察した将兵から下卑た喊声があがる。そして、絹を裂くような二つの悲鳴がそれに続いた。


「やめろ、やめてくれッ! くそ、何故わたしたちがこんな目にッ?!」
 妻子に群がる男たちの姿を視界に捉え、男性は天地すべてを呪うような絶望の叫びをあげた。
 匈奴の単于はこともなげにそれに応じる。
「弱いからよ。弱者は強者にひれふし、慈悲を乞い、その慰み者になる以外の価値を持たぬ。それが嫌ならば強くあれば良い。簡単な理であろう? 何故か、汝ら漢族は受けいれぬ者が多いがな」
「蛮族がッ! いずれ天譴がその身に降りかかるぞッ!」
「なればその天譴さえねじふせよう――さあ、もう良かろう。はよう抜け。西河郡でも五指に入るというその力、余の前に示すがよい」
「う、ぐ、ああ、ああああァァァアアアアアッ!!」
 於夫羅の声と、そしてそれ以上に妻子の悲鳴に背中を押され、男性は大地を蹴る。
 裂帛の気合と共に振るわれた剣は、空気すら両断する勢いで於夫羅に襲いかかる。その身に受ければ、於夫羅がいかに頑強な肉体を誇ろうとただでは済まなかったであろう。それほどに、精魂のすべてが込められた一閃であった。



 ――だが、届かない。



「……いかに名が知られていようと、所詮は土いじりしか能のない漢族か」
 於夫羅は、その巨躯からは信じられないほどに素早い身のこなしで男性の一撃を避け。
「暇つぶしにもならぬわ、下郎」
 舌打ちまじりに振るわれた大斧は、ほとんど力が込められていないように見えた。にも関わらず――その先端が男性の身体を捉えた、そう見えた時には、男性の上半身は文字通り引きちぎられ、宙を舞っていた。


 みずからの夫が。父親が。
 血と臓物を撒き散らしながら倒れ伏すその光景を、その妻子は見ることはなかった。
 すでにその姿は匈奴の兵士たちの中に没し、悲鳴を発することさえ出来なかったから。
 於夫羅はその光景を眉一つ動かさずに眺めていたが、すぐに興が失せたのだろう。得物である大斧を担ぎ上げると、その場から立ち去ったのである。   

 

◆◆◆



 ――曹純がその光景を見ることが出来たのも、そこまでであった。
 無意識のうちに握り締めていた柄から手を離す。出来うるならば、今すぐにでも駆け出したいが、今、この場にいるのは曹純と李亮のみ。切り込んだところでたちまち斬り捨てられてしまうだろう。
 ことにあの於夫羅という敵の王は、たとえ十騎で取り囲んでも討ち取れるとは思えなかった。


 もとより、今のような光景が日夜繰り返されているであろうことは予測していたこと。怒りに任せ、折角の好機を潰してしまえば、あのようなことが今後も長く繰り返されることになってしまう。
「……今は、我が世の春を寿いでいるが良い、蛮族ども」
 呟く語尾が、消せぬ怒りのために、わずかに震えた




 そうして、曹純は半ば無理やり、意識を将としてのものに切り替える。
 李亮によれば、匈奴の軍勢は一所にとどまっているわけではなく、移動を繰り返しているらしい。それでも大体の兵力は推測できる。その数はおおよそ五千というところであるという。
 あの単于に率いられた匈奴の騎兵が五千。皇甫嵩率いる二千の部隊では、その急襲を防ぎきれまい。曹純は、その時の皇甫嵩の驚愕と無念を思い、祈るように小さく俯いた。


 一方で、曹純の胸には一つの疑問がわきあがっていた。
 匈奴の帝国は、時に十万以上の兵力で国境を侵してくる。あの於夫羅という敵将が匈奴の王たる単于であるというなら、五千という兵力は明らかに少なすぎた。
 ただ、と曹純は思う。
 近年、匈奴内部の覇権を巡り、国内における抗争が激化しているという情報は聞いている。一口に匈奴と呼んでいても、その中には幾つもの部族がある。あるいは、於夫羅は抗争に敗れてこの地まで逃げ延びてきた族長の一人なのかもしれない。
 無論、たとえそうであっても、五千の兵力の脅威は、何一つかわらないのだが。


 考え込む曹純に、李亮が声を潜めて告げる。
「私が村を出た時、村にいたあの人たちの兵は五百くらいでした。見る限り、今も大差ないと思いますが、確実ではありません。お話ししたとおり、私は一度、村に戻ります」
 曹純と共にここまで来た五名の騎兵は後方で控えさせている。そして、残りの軍勢はさらに遠く離れた地点で待機させていた。
 曹純率いる虎豹騎は、夜陰にまぎれて密かに県城を抜け出し、不眠不休でこの地までかけ続けた。まず間違いなく、敵はこちらの動きに気付いていないだろう。
 だが、不用意に近づけば、匈奴兵に発見されてしまいかねない。曹純は、遊牧民族である匈奴兵の機動力を甘くみるつもりは欠片もなかった。


「人数がわかったら、於夫羅の斧を奪ってお知らせにあがります。そのあとのことは、すべて曹将軍にお任せいたします。どうか、村のみんなをお救いください」
「無論。民を守ることこそわたしたちの務めだ、安心してくれ。それより、君こそ気をつけて。もし、村からいなくなっていたことがばれていれば、ただではすまない。それにあの於夫羅という単于、ただものではない。その得物を奪うのは容易いことじゃないだろう。無理する必要はないよ」
 その曹純の言葉に、李亮は小さく俯く。
「……大丈夫、です。あの人たちは、私が……私たちが反抗するなんて、思ってもいませんから」
「そうか……だが、もしうまく行かなかったとしても、拘泥する必要はない。その時はすぐに私たちに知らせてくれ。必ず、奴らを追い払ってみせる」
「はい……お願いします」
 李亮は深々と曹純に頭を下げると、踵を返した。様子を見て、村に戻るつもりなのだろう。
 曹純はその後姿を気遣わしげに見送ったが、いつまでもここに立っていて誰かに見られたら、それこそ本末転倒である。
 間もなく曹純自身もこの場を去り、あとにはただ冷たい漠北の風が野の草をそよがせるのみであった。




◆◆◆




 そして、機会は待つほどもなく訪れる。
 その身にあまる大斧を、引きずるように李亮がもってきたのは、二日後の夜半であった。
 それを見て、曹純はほぅっと安堵の息を吐く。
「上手くいったようだね」
「はいッ。やっぱり私みたいな小娘一人、いなくなったところで気にする人はいなかったみたいです。村にいた匈奴の人の数は六百人くらいです。みんなにお願いして、匈奴の人たちにお酒を勧めて。私はこの斧を取ってすぐ村を出ましたけど、今ごろはみんな眠ってしまってるはずです。将軍様、どうかッ!」
「重ね重ね、ありがたい。いかに強猛な匈奴兵といえど、酔いつぶれたところに奇襲を受ければ赤子も同然だ」
 曹純はそう言うと、持っていた槍を高らかに掲げ、麾下の将兵に命令を下す。
「天下無類の兵たちよ! 我らが武威をあまねく天下に知らしめる時が来たッ! 命知らずにも我らが領土に踏み込みし蛮族ども、一人残らず血祭りにあげるのだッ!」
 曹純の激語に応じるように、周囲に展開している虎豹騎から喊声があがる。
 それはたちまち闇夜を圧してあたり一帯に響き渡る。


 ――その喊声に耳をくすぐらせながら、李亮はゆっくりと曹純の背後に近づいていく。


「全軍、突撃ッ!!」
 号令と共に、怒涛となって突進を開始する勇壮な騎馬の軍。
 何者もあたるべからざる勢いをもって、彼らは李亮の村を救うべく駆けて行く――この場に残ったのは、曹純と数名の側近のみ。ここで「何か」が起こったとしても、もはや虎豹騎の勢いは止まるまい。


 ――その勇姿を視界の端に捉えながら、李亮は於夫羅の大斧を握り締め、抱え持つ。いとも、軽々と……いとも、易々と。


 そして。
「曹将軍」
 やわらかな問いかけは、どこか優しささえ含み、曹純の耳に届く。
「ん、どうした、李公明殿?」
 はじめて会った時、思わず息をのんでしまった美貌がこちらを振り返る。とてものこと、男性だとは思えないその秀麗な顔に。
「――さようなら」
 李亮は、まっすぐに斧を振り下ろした。






 その場に響くは、頭蓋を断ち割る重い音。
 その手を伝うは、命を断ち切る手ごたえか。
 いつまで経っても慣れぬことのないその光景は、しかし。



 金属同士がぶつかる硬い手ごたえと、爆ぜるような擦過音にて、現出することなく消えうせる。
 いつの間にか、自分と曹純との間に入り込み、李亮の一撃を苦もなくうけとめた小さな人影。
 予期せぬ出来事、予期せぬ光景に、李亮は束の間、呆然とする。

 
 そんな李亮に向け、再び同じ問いが発された。
「どうした、李公明殿?」
 その瞳に驚きはない。怒りもない。
 虎豹騎の長は、蒼穹の如き瞳を、ただ怜悧な輝きで満たしながら、こう言った。


「それとも、徐公明殿と呼んだ方が良いのかな? 白波の女傑殿」

 


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