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No.18153の一覧
[0] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 【第二部】[月桂](2010/05/04 15:57)
[1] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(二)[月桂](2010/05/04 15:57)
[2] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(三)[月桂](2010/06/10 02:12)
[3] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 鴻漸之翼(四)[月桂](2010/06/14 22:03)
[4] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(一)[月桂](2010/07/03 18:34)
[5] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(二)[月桂](2010/07/03 18:33)
[6] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(三)[月桂](2010/07/05 18:14)
[7] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(四)[月桂](2010/07/06 23:24)
[8] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 司馬之璧(五)[月桂](2010/07/08 00:35)
[9] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(一)[月桂](2010/07/12 21:31)
[10] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(二)[月桂](2010/07/14 00:25)
[11] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(三) [月桂](2010/07/19 15:24)
[12] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(四) [月桂](2010/07/19 15:24)
[13] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(五)[月桂](2010/07/19 15:24)
[14] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(六)[月桂](2010/07/20 23:01)
[15] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(七)[月桂](2010/07/23 18:36)
[16] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 幕間[月桂](2010/07/27 20:58)
[17] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(八)[月桂](2010/07/29 22:19)
[18] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(九)[月桂](2010/07/31 00:24)
[19] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十)[月桂](2010/08/02 18:08)
[20] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十一)[月桂](2010/08/05 14:28)
[21] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十二)[月桂](2010/08/07 22:21)
[22] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十三)[月桂](2010/08/09 17:38)
[23] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十四)[月桂](2010/12/12 12:50)
[24] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十五)[月桂](2010/12/12 12:50)
[25] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十六)[月桂](2010/12/12 12:49)
[26] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 卵翼之檻(十七)[月桂](2010/12/12 12:49)
[27] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(一)[月桂](2010/12/12 12:47)
[28] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(二)[月桂](2010/12/15 21:22)
[29] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(三)[月桂](2011/01/05 23:46)
[30] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(四)[月桂](2011/01/09 01:56)
[31] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 桃雛淑志(五)[月桂](2011/05/30 01:21)
[32] 三国志外史  第二部に登場するオリジナル登場人物一覧[月桂](2011/07/16 20:48)
[33] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(一)[月桂](2011/05/30 01:19)
[34] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(二)[月桂](2011/06/02 23:24)
[35] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(三)[月桂](2012/01/03 15:33)
[36] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(四)[月桂](2012/01/08 01:32)
[37] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(五)[月桂](2012/03/17 16:12)
[38] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(六)[月桂](2012/01/15 22:30)
[39] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 洛陽起義(七)[月桂](2012/01/19 23:14)
[40] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(一)[月桂](2012/03/28 23:20)
[41] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(二)[月桂](2012/03/29 00:57)
[42] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(三)[月桂](2012/04/06 01:03)
[43] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(四)[月桂](2012/04/07 19:41)
[44] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(五)[月桂](2012/04/17 22:29)
[45] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(六)[月桂](2012/04/22 00:06)
[46] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(七)[月桂](2012/05/02 00:22)
[47] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(八)[月桂](2012/05/05 16:50)
[48] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 狼烟四起(九)[月桂](2012/05/18 22:09)
[49] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(一)[月桂](2012/11/18 23:00)
[50] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(二)[月桂](2012/12/05 20:04)
[51] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(三)[月桂](2012/12/08 19:19)
[52] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(四)[月桂](2012/12/12 20:08)
[53] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(五)[月桂](2012/12/26 23:04)
[54] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(六)[月桂](2012/12/26 23:03)
[55] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(七)[月桂](2012/12/29 18:01)
[56] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(八)[月桂](2013/01/01 00:11)
[57] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(九)[月桂](2013/01/05 22:45)
[58] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十)[月桂](2013/01/21 07:02)
[59] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十一)[月桂](2013/02/17 16:34)
[60] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十二)[月桂](2013/02/17 16:32)
[61] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黒風渡河(十三)[月桂](2013/02/17 16:14)
[62] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(一)[月桂](2013/04/17 21:33)
[63] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(二)[月桂](2013/04/30 00:52)
[64] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(三)[月桂](2013/05/15 22:51)
[65] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(四)[月桂](2013/05/20 21:15)
[66] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(五)[月桂](2013/05/26 23:23)
[67] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(六)[月桂](2013/06/15 10:30)
[68] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(七)[月桂](2013/06/15 10:30)
[69] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 官渡大戦(八)[月桂](2013/06/15 14:17)
[70] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(一)[月桂](2014/01/31 22:57)
[71] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(二)[月桂](2014/02/08 21:18)
[72] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(三)[月桂](2014/02/18 23:10)
[73] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(四)[月桂](2014/02/20 23:27)
[74] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(五)[月桂](2014/02/20 23:21)
[75] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(六)[月桂](2014/02/23 19:49)
[76] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(七)[月桂](2014/03/01 21:49)
[77] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(八)[月桂](2014/03/01 21:42)
[78] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(九)[月桂](2014/03/06 22:27)
[79] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 飛蝗襲来(十)[月桂](2014/03/06 22:20)
[80] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 青釭之剣(一)[月桂](2014/03/14 23:46)
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[18153] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 幕間
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:49f9a049 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 20:58

 幽州遼西郡易京城。


 見渡すかぎり広大な平野が広がる北の大地を、今、白銀の大河が流れていく。
 曹孟徳の懐刀として知られる程昱は、曹操に仕える以前、各地を旅してまわり、見聞の広さにはそれなりに自信を持っていたが、それでも今、易京城より見下ろしているような光景は見たことがないと断言できる。
 それは白銀の甲冑をまとい、白馬に跨った騎兵たちによってつくられる人の奔流であった。


「……これが音に聞こえた白馬義従ですかー。戦うための部隊とは思えないくらい綺麗なのですねー」
「ふふ、丞相閣下の使者殿にお褒めいただけるとは光栄だよ、程仲徳殿」
 易京城の城壁の上。
 周囲には護衛の兵も置かず、公孫賛は一人、許昌から派遣されてきた程昱の傍らに立っていた。
 彼方の平原では公孫賛自慢の白馬隊が縦横無尽に駆け回っている。その数は三千。公孫賛の誇る最精鋭であるが、無論、公孫賛麾下の騎兵はこれだけではない。
 先年来、公孫賛は騎兵の拡充に国力を注ぎ込んでおり、その数はすでに一万を大きく越えていた。
 これは反董卓連合結成時にくらべ、倍ないし三倍近い数である。公孫賛が短期間にこれほどの騎兵の増員をなしえた理由は――


「おにーさん発案の鐙のおかげ、というわけですね」
「まあ、そうだな。北郷があれを考え付かなかったから、ここまで騎兵の数を増やすことは無理だったな。馬自体はなんとでもなるが、それに乗る兵士の練成が間に合わなかったろう」
 程昱の言葉に頷きつつ、公孫賛はどこか苦みの残る笑みを浮かべる。
「もっとも朝廷も――いや、曹丞相もとうの昔に騎兵の拡充に動いていると聞いてるぞ。徐州侵攻においては、その騎兵が大きく活躍したともな。まったく北郷の奴め、たしかにあたしは鐙のことを黙ってろとは言わなかったが、敵になるとほぼ確定している者に、戦の技術を伝えてどうするんだ」
 それは程昱と郭嘉が、鐙の技術を曹操にもたらしたことを指している。何故、公孫賛がそんなことを知っているかといえば、程昱が自分でそのことを口にしたからだった。


「あの頃のおにーさんはいまいち自分が何をしたのかの自覚に薄かったですからねー。まあ、風たちもとくにそれを指摘したりはしなかったわけですが」
「そのあたりはさすがに策士というべきかな?」
「さて、どうでしょう?」
 童子が戯れるかのように、程昱はくるくると人差し指を回してみせる。
 意味などない。悪戯っぽく光る目を見ればそれは明らかだった。
「仮にあそこで風たちに鐙のことを隠していたら。そして華琳様たちがそのことを知らずにいたら。淮南での戦い、どうなっていたでしょうか?」
 だから、どちらが正解というものでもない、と程昱は小さく笑って言った。
 その顔を見て、公孫賛はふと思う。まさか、眼前の少女は、その頃から先を見通して動いていたのだろうか、と。
 無論、そんなはずはないとすぐにその考えを打ち消したが。


「ともあれ、わたしの戦力は言ったとおりだよ。河北の覇者を自称するあのおほほ娘にひけをとるつもりはないさ。もっともあちらは冀、幽、二州の牧。こちらは一郡の太守に過ぎない。名目上はわたしは本初(袁紹の字)の配下だからな。名分はどう見てもあちらにあるんだが……」
 それも昨日までのこと。
 許昌の朝廷は、公孫賛に一つの地位を与えた。程昱はその使者としてはるばるこの地までやってきたのである。
 その地位とは――


「遼西郡太守公孫伯珪を鎮北将軍に任ずる。朔北の脅威より中華を守り、また、一朝河北に乱起こりし時は、皇帝陛下の忠実なる臣下として、これを征すべし――鎮北将軍は朝廷の北部方面指揮官、事あったときは周辺の州牧を麾下に置くことが出来る。これに従わないことは、すなわち朝廷に叛すること、か。まったく曹丞相も良く考えるもんだ。わたしを誘うに、これ以上のものはない」
 苦笑しつつ、公孫賛は朝廷の抜け目なさを認めた。


 現在、河北の地で巨大な勢力を築きあげた袁紹に対し、公然と不服従の意思を示しているのは、公孫賛ただ一人であろう。
 冀州牧と幽州牧を兼ねる袁紹に対し、公孫賛は遼西郡太守という小身であるが、それは朝廷の官職だけを見た場合である。
 両者の実質的な領土を見た場合、袁紹が冀州全土と幽州の南半を領しているのに対し、公孫賛は幽州の北半を領し、さらにその北に広がる遊牧民族である鮮卑族にも影響力を持っている。
 総合的に袁紹が優勢であることは間違いない。しかし、それはいつ両者の立場がひっくり返っても不思議ではない、その程度の差でしかなかった。


 当然ながら、河北の覇者たらんとする袁紹にとって、公孫賛の存在は目の上のコブである。また、公孫賛にとっても、官職を笠に度々服従を要求してくる袁紹の傲慢は腹に据えかねるところであった。
 したがって、この二勢力の間で大きな戦が起こるのは時間の問題だったのである。
 ただ袁紹は南に曹操という大敵を抱え、公孫賛にしても国力で劣り、大儀名分でおくれをとっていることは自覚せざるを得ない事実。
 そのため、互いに今一歩踏み込むことが出来ず、結果として小競り合いに終始していたのである。


 袁紹を共通の敵とする点で、曹操と公孫賛は立場を同じくする。
 袁紹軍が南下した際、北で公孫賛を動かすというのは、誰もが考えつく策であり、曹操から誘いの手が伸びてくることは公孫賛の推測の中にあった。
 しかし、公孫賛は自分から曹操と誼を結ぼうとはしなかった。それは何故か。
 理由は幾つかあるが、まずこちらから申し出ることで交渉の際に足元を見られる恐れがあったこと、そして河北で袁紹と公孫賛が戦端を開いた時、四方に難敵を抱える曹操が北上できるとは思えなかったことが挙げられる。
 利用だけされて捨てられる。朝廷の狐狸と化かしあいをするよりは、単独で袁紹と対峙した方が良いと判断した公孫賛の胸のうちを、曹操も、そして使者となった程昱も承知していた。


 ゆえに程昱が持ち込んだ話は、ただ地位職責でもって公孫賛の歓心を買うに留まらない。
 それは正確な段階を踏んで実行されるべき戦略であった。


「本初が圧力を強めている北海に対し、新たに領土とした徐州から援兵を送り込む。北海と冀州の要地である平原はさほど離れていないし、平原を越えれば本拠地である南皮を直撃されてしまう。本初は北海に更に兵を向けざるを得ない、か」
 公孫賛の言葉に、程昱はこくりと頷く。
「はいです。徐州からは曹一族の子孝さん(曹仁)が出ますし、袁紹さんが動いた後は陳留の張太守、済北の鮑太守が北進します。鎮北将軍さんは、それを確認した後で動いてほしいのですよ」


 公孫賛は腕組みしつつ、脳裏で戦況を描く。
「北海、陳留、済北の三箇所で兵を動かせば本初も本腰をあげざるをえないな。その上であたしが北で動けば、たしかに効果的だろう。しかし、徐州や兌州の防備は大丈夫なのか? それだけの兵が動けば、袁術は間違いなく動くと思うが」
「徐州には陳太守(陳登)がいますし、兌州には元常さん(濮陽城主から東郡太守となった鍾遙)がいますから、滅多なことにはならないと思うのです。それに、ですねー」
 程昱は右の人差し指を立て、くすりと笑う。
「許昌では、袁紹さんが動けなくなった分、より自由に動けるようになった華琳様率いる大軍が今か今かと仲軍が動くのを待っているのです。袁術さんたちが徐州や兌州に兵を出したなら幸い、豫州から寿春まで、一息に押しつぶしちゃえば良いのですよ」


 袁紹と袁術、この両者の動きを警戒して曹操は容易に許昌を動くことが出来なかった。しかし、その一方が動けない状況をつくりあげることが出来たなら、話は大きくかわる。
 曹操の動員能力は、昨年の徐州侵攻の段階で二十万に達していた。そしてあの戦いで、曹操軍は被害らしい被害をほとんど出さずに徐州を占領し、その軍勢を麾下に組み込んでいる。
 あれから数月。それは曹操軍の再編を完了するためには十分すぎるほどの時間であった。
 
 
「といっても、軍を半分にわけて、一方は袁紹さん、一方は袁術さんというふうにぶつかれるほどの兵力はなかったですから、華琳様もこれまでは動かずに機を待っていたのですけどね」
 それは具体的に言えば、公孫賛に提示した戦略が実現可能となるまでの時間を稼いでいたということであった。
「華琳様が河北と淮南の動きを気にするあまり、居竦まっていると思っている人もいたみたいですがー、あの華琳様が他者に主導権を渡すのをよしとするはずないのです」
「ほほー、さすがは曹丞相、と言わねばならないかな。ちなみにここであたしが首を横に振ったらどうするつもりだったんだ?」
「その時は公孫家は頼むに足らずと華琳様に伝えて、袁紹さんに使者を出すよう勧めますねー。鎮北将軍の地位と、朝廷の命令があれば、袁紹さんは間違いなくここを攻めるでしょうし、そうすれば結果として、しばらくは風たちにかかる圧力がなくなりますから」
 その間――つまり、袁紹が公孫賛を滅ぼすまでの間、曹操は北を気にすることなく、兵力を南下させ、偽帝を滅ぼすことに専心できるというわけである。
 結果として袁紹の勢力を肥らせることになるが、曹操軍も淮南をくわえて強大化できる。そして曹操と袁紹の衝突の勝者が、中華の覇者に一番近いところに立つであろう。


 そう語る程昱に、公孫賛は両手をあげて降参の意を示す。
「ああ、わかったわかった。つまらないことを言ったな、許せ。あたしとしても、あえて陛下と曹丞相に弓引くつもりはないよ」
「いえいえ、もちろん風も冗談で言っているのでお気になさらず、ですよ?」
「はは、冗談であたしを滅ぼす策が出てくるとは、怖い軍師殿だ」
 そういいつつ、こっそり冷や汗を流す公孫賛。
 それを見た程昱は口元を手で覆い、くすくすと微笑んだ。
 童女のような笑みが、何故かやたらと怖く感じたのは果たして気のせいなのだろうか。
 背筋に寒気を覚えつつ、そんなことを考える公孫賛であった。




◆◆◆




 荊州襄陽城。


 荊州牧である劉表、字を景升という人物が統治の拠点を置く城市である。
 長江の支流である漢水の中流域に位置する襄陽は、水利に恵まれ、また中華帝国の臍ともいえる要地にあることから、人々の流入が盛んであった。
 劉表は中原の戦乱を避けてきた難民を受け入れて人口を増やし、同じく中原から逃れてきた知識人らを受け入れて文化を興し、今やその首府である襄陽は中華全土を見渡しても屈指の大都市として、大いなる繁栄の時を迎えていた。


 その襄陽城の一画、劉表の一族が住まう室。
 その内で、今、一人の少女が物憂げな表情で窓の外を見つめていた。
 糸杉のごとくすらりとした身体に白絹の衣服を纏う少女の背を、服とは対照的な艶やかな黒髪が流れる様は思わず見惚れてしまうほどに優美であった。だが、それは同時にどこか脆さを感じさせる。まるで高価な青白磁の器を前にした時のように。
 触れてはならないものであると見るものに思わせてしまうのは、病的なまでに白い頬や、透き通るように薄い暗灰色の瞳のせいなのだろうか。


 少女の姓を劉、名は琦、真名を薔(しょう)。荊州牧劉表の長子である。
 もっとも劉琦は生来病弱なこともあって、早くから後継者候補から外されていた。
 現在の後継者は劉琦の妹の劉琮である。荊州の有力な臣である蔡一族らは劉琮を支持している。彼らを上回る権勢を得ようと、時折、野心を抱く者が劉琦の近くに侍ろうと画策することがあったが、聡明な劉琦は荊州と、またその者たちのことをも考え、これを退け続けた。
 やがて、そういった野心家も劉琦に近づくことを諦めたため、後継者争いは未然に芽を摘まれることとなったのである。


 だが、それは同時に劉琦に孤立を強いた。
 劉表の一族とはいえ、権勢とは無縁の病弱な少女のもとにあえて顔を出す臣下はいない。
 また劉琮の生母と近臣たちは劉琦の聡明さを警戒した。今でこそ後継者の座に欲を見せていないが、いつ豹変するかしれたものではない。健康が回復したら、長子としての立場を示して、劉琮の座を奪わないと誰が保証できるだろう、と。
 劉表は二人の娘のことを等分に可愛がっていたし、劉琮本人も優しい姉に懐いていた。それゆえ直接的な危害を加えることこそなかったが、蔡瑁らの冷えた感情が劉琦に向けられていることは、見る者が見れば明らかであった。
 蔡瑁らに睨まれることは、荊州における栄達を捨て去るに等しい。そんな危険をおかしてまで、少女のもとを訪れる者は荊州にはいなかった――そう、つい先年までは。 


 
「お嬢様、新野の玄徳様がお見えでございます」
 侍女から一人の人物の来訪を告げられた途端、劉琦の白い頬にかすかではあるが朱が差した。
「お通ししてください。それとお茶の用意をお願いしますね」
「かしこまりました」
 そう言って侍女が退出してしばし後。


「やっほー、薔(しょう)ちゃん、お久しぶりー」
 それまで室内に滞っていた儚さとか脆さとか、そういった諸々をすべて取り払ってしまいそうな生気に満ちた声と共に、その人物――先日、新野の城主に任じられた劉備がその姿を見せたのである。





 普段は滅多に見せない笑みを、めずらしくはっきりと表情に浮かべた劉琦は、すぐに心づいたように頭を下げる。
「お久しぶりです、桃香様。本日はお呼び立てしてしまい、申し訳ありませんでした」
「なにいってるの、薔ちゃんのためなら新野から来るくらい何でもないんだから」
「ありがとうございます。けれど……その、他の臣たちが、また口さがないことを申すのでは、と……」
 劉琦がわずかに眼差しを伏せる。
 その意を悟って、劉備は困惑を誤魔化すために、あははと笑いながら頬をかく。
「え、えーとね、それは今にはじまったことじゃないし……じゃない、ほら、景升様に報告しなきゃいけないことがあるって言えば、あんまりうるさくも言われないよ……たぶん」
 語尾にこめられた不安げな感情に気付かない劉琦ではない。胸に両手をあてて深々と頭を下げる。
「本当に申し訳ありません。桃香様は荊州にいらしてまだ日も浅いのに、偽帝から私たちを守るために新野を守ってくださっている。私たち荊州の臣民はどれだけ感謝してもしたりないというのに……」


 その劉琦の言葉に、しかし劉備は穏やかに、しかしきっぱりと首を横に振る。
「荊州の人に助けられたのは私も同じだよ、薔ちゃん。感謝してもしたりないっていうなら、それは私の方」
 徐州から逃れ、淮南を駆け、はるばる長江をさかのぼった。あの逃避行のことを思い出しているのか、劉備の声がやや沈んだように思われた。
 しかし、それも次の瞬間には、また元の生気に満ちた口調に戻る。その心根の強さを感じ取り、劉琦はかすかに目を細めた。まるで中天に輝く太陽を見るかのように。
「その恩義にすこしでも報いたいから、景升様から新野の守備を頼まれたときも喜んでお引き受けしたの。そのことを感謝してほしいなんて思ってないし、まして感謝されて当然だなんてこれっぽっちも考えてないから。だから、そんな風に薔ちゃんが気を遣う必要はないんだよ?」


 劉備はさして力を込めて語っているわけではない。当然のことを、当然のこととして話しているだけなのだろう。
 劉琦にはそれがわかる。
 だからこそ余計に眩しいのでしょうね、と内心で呟きながら、劉琦はこくりと頷いた。
「……はい。では、言い直しますね、桃香様。本日は私の招きに応じ、遠く新野からお越しいただき、本当にありがとうございます」


 劉備はにこやかに、どういたしまして、と頷いてから、まだわずかに納得いかないのか、小さく唇をとがらせる。
「……うーん、でもまだちょっと硬いよね、もうちょっとくだけて話してくれた方がわたしとしては嬉しいんだけどなー。あ、そうそう、あとそろそろ『桃香様』もやめない? 普通に『桃香』で私は全然かまわないんだけど」
「それは……すみません、もうすこしお時間をください。玄徳様は私と同じ劉姓の一族の年長者、しかも太祖縁の宝剣を持つお方。目上の方に丁寧な口の聞き方をするのは当然だとしつけられてきましたので……」
「そっかー。でもでも、元はむしろ売りの私と、州牧の息女である薔ちゃんなら、むしろ薔ちゃんの方が目上かもしれないよ。それに年長者っていっても、一年も離れていないんだし」


 無茶な理屈を展開してくる劉備に、劉琦は困ったように微笑む。その姿だけを見れば、たしかにどちらが年長者かわかったものではなかった。
 文字通り深窓の令嬢として育った劉琦には、他者との距離の掴み方がわからない。特に劉備のように自分の感情を素直に出してくれる人は、これまでいなかったから尚更である。
 それでも、劉琦が困惑よりもはるかに大きな喜びを感じているのは、ほころんだ口元を見れば明らかであったろう。実際、劉備の口から腹蔵ない素直な言葉がぽんぽんと飛び出てきて、自分に向けられることが、劉琦には楽しくて仕方なかったのである。


 父は優しくしてはくれるが、病気がちな劉琦の身体と、劉琮の母への遠慮があったし、妹にしても母や近臣たちへの遠慮があるせいだろう、近頃は足を向けてくれることも稀になった。それは仕方のないことだと、強がるでもなく劉琦は自然と納得していた。そして、家族でさえそうなのだから、それ以外の人たちにこれ以上、何を求めることが出来るだろう、とも。
 そう考えることが出来る聡明さと、受け入れてしまえる強さを持っているゆえに、劉琦は孤立するしかなかった。望むと望まざるとに関わらず、それが荊州の安定のためには最良だとわかってしまうから。


 だから、はじめて劉備と出逢った時、劉琦は心底驚いたのである。
 明るく、暖かく、時に騒がしいくらいであるけれど、たしかな温もりを伝えてくれるその為人。太陽が降って来た、とそう思った。
 


◆◆



 しばらく後、劉琦の私室を辞した劉備は、形良く整った眉を顰め、なにやら考え込むようにおとがいに手を当てながら、ゆっくりと歩を進めていた。
 するとその先で、劉備を待っていた者が声をかけてくる。
「もうよろしいのですか、桃香様?」
「あ、星ちゃん、ごめんね、待たせちゃって。うん、ちょっと薔ちゃんから気になる話を教えてもらったんだ」
 趙雲はそれを聞き、小さく頷いた。
「そのようなしかめ面をされているところを見るに、やはり穏やかならぬ話であったようですな」
 そう言いながらも、趙雲の表情に驚きはない。劉琦からの使者が新野を訪れた時点で、きな臭い内容であることは明らかだったからだ。
 劉備が荊州の有力者たちに疎まれていることを知っている劉琦が、襄陽まで出向くように伝えてきた。それはすなわち、書面に記すことさえ憚られるような内容を伝えたいということを言外に示していた。


 劉備は周囲を気にしつつ、声をひそめる。その声は、劉備にはめずらしく隠しきれない怒りを孕んでいた。
「この前、寿春から使者が来たんだって、この城に」
 相手の名ではなく、あえて根拠地を口にするあたりに、劉備の浅からぬ感情が示されている、と趙雲は思う。
 無論、趙雲とて無心でその名――淮南の袁術の名を口にすることは出来ない。
 趙雲自身は淮北で曹操軍と対峙していたため、直接、袁術軍と矛を交えてはいない。だが、淮南の戦いにおける詳細は当然のように当事者たちから聞きだしている。その名に好意的な感情を示せるはずがなかった。


 しかし、と趙雲は内心で首を傾げる。
 襄陽に来てからこちら、そういった話は誰からも聞かされていない。荊州の中には数こそ少ないが、劉備に好意的な人物もいる。そういった者たちからも、袁術の名は聞かされていない。
 趙雲はその点を口にした。
「荊州にとっても、寿春は不倶戴天の敵であったはず。使者の持ち込んだ内容がなんであれ、我らはともかく、他の荊州の臣下が知らないというのは妙ですな」
「うん、薔ちゃんの話だと、そもそも使者が来たことさえ、ほんの一部の人しか知らないんだって。内容にいたっては薔ちゃんさえわからないって。ただ――」
「和戦いずれにせよ、秘すべき内容であることは間違いない、ということですか」
 たとえば新野を差し出す代わりに和平を結ぶ、とかそういったことか、と趙雲は考える。


 荊州の蔡一族らが、劉琦と親交を深める劉備を敵視しているのは衆知の事実であった。
 仲の領土である荊州南陽郡。新野はそれに接する仲との最前線である。この城に劉備が派遣されたことにも、蔡一族らの思惑が絡んでいることは間違いあるまい。袁術から何らかの手が差し伸べられたか、あるいは蔡一族が何らかの話を持ちかけ、その返答が来たのか。いずれにせよ、袁術が絡んでいる時点で、新野の劉備たちにとって他人事ではありえなかった。




 もっとも、と趙雲は口元をほころばせる。
 そこにはつい今の今まであったはずの負の感情はない。どこか暖かさを含んだ笑みを湛えながら、趙雲は口を開く。
「蔡一族は桃香様を恐れることはなはだしいですが、それは致し方ない面もありましょう」
 思わぬ趙雲の言葉に、劉備は驚いたように目を瞬かせる。
「へ? わ、わたし、何かしたっけ?」
「劉家軍の武威は、今や荊州全土に鳴り響いております。その主である桃香様が劉琦殿に力を貸せば、それに追随する者も出てまいるやもしれませぬ。無論、お二方にそのような野心がないことは承知しておりますが、それがわかる者であれば、そもそもこちらを敵視したりはせぬでしょう」


 そう、劉備率いる劉家軍の強さは、今や天下に隠れないものとなっているのだ。数こそ五千に満たず、それこそ兵力でいえば蔡一族が動員できる兵力の十分の一にも達すまい。
 だが、そんなことは些細なことであった。何故ならば――


 劉家軍はわずか五百の軍勢をもって、あの偽帝袁術の誇る告死兵と、それを率いる飛将軍呂布を撃退せしめたのだから。
 あまつさえ、十万を越える袁術軍の総力をあげた大軍勢による猛攻を、最後まで耐えしのぎ、広陵以東への侵攻を食い止めることに成功さえしたのである。
 しかも、それを為したのは関羽や張飛、あるいは諸葛亮や鳳統といった、劉家軍の中でも天下に名の知られた猛将、智将ではない。
 淮南における戦いが始まるまで、その名を知られることもなかった新参末席の将軍たちが、天下を驚愕させる大功をたてたのである。


 ゆえに、蔡一族ら劉家軍を敵視する者たちは当然のようにこう考えた。
 わずか五百の軍と末席の将軍たちがそれだけの力を持っているのであれば。
 本隊と、本隊を指揮する上位の将軍たちの力はそれ以上ということになりはしないか、と。
 劉家軍に数倍する兵力を抱えていたところで、どうして安堵できようか。
 長年、袁術と矛を交えているからこそ、彼らは知っていた。自分たちの武力が偽帝に遠く及ばないことを。その偽帝を退けた者たちの上に立つ劉備が、長年にわたって無力化させてきた劉琦と親しくなっていく様を、どうして安穏と見ていることが出来ようか。


 そう言うと、趙雲はくすりと楽しげに笑う。
「まあ、安穏としていられぬのは我ら新野の将兵とて同じことですが。淮北で別れた時は将ですらなかった子義と一刀があれだけの功をたてたのです。我らがそれに後れをとるような無様を晒せるはずがありませぬ」
「うん、そうだよね……子義ちゃんと一刀さん、それに他の皆も、頑張ってくれたんだから……」
 伝え聞いた高家堰砦の死闘を思い浮かべたのだろう。劉備の顔に翳りが生じた。
 が、それはすぐに意思の力で拭い去られる。
 太史慈と北郷が、そしてあの地で果てた多くの兵士たちが命を懸けて守り抜いた劉旗。それを掲げるに足る自分であることを、一刻たりとも揺るがせにはできないのだから。
 その決意は劉備や趙雲のみならず、新野にいる者たちすべてが――武官、文官に関わらず、等しく抱くものであった。
 趙雲は頷きつつ、告げる。、
「そういうことであれば、襄陽に長居は無用ですな。新野の朱里と雛里を交え、劉琦殿からの情報を検討すべきでありましょう」
 




 自らの言葉に頷く主の傍らに立ちながら、趙雲は許昌で別れた友の姿を思い浮かべる。
 ――深々と。自分に対して深々と頭を垂れ、桃香様を頼む、とそう言った黒髪の友の姿を。
 あの時点で、荊州の劉備の安否は判然としていなかった。その周囲には諸葛亮や陳到らがいるとはいえ、武の面で手薄であったことは否定できない事実。
 本来であれば、真っ先に自身が駆けつけたいところであったに違いない。焦がれるほどにそうしたかったに違いない。だが、どうしてもそれが出来ない理由があった。
 義妹だけでは力が足りない。
 だからこそ、あの誇り高い乙女が頭を下げて頼んだのだ――主君を、義姉を、自らがすべてを懸けた夢を、その傍らで守って差し上げてくれ、と。


 ああ、その願いをどうして無碍にできようか。


 あの時、真名に懸けて誓ったこと、真名を交し合ったことは、決して一時の感情ではない。
 趙雲は劉備に聞かれないよう、そっと内心で呟いた。
(案ずるな、愛紗。そなたが戻り来るその時まで、桃香様には、たとえ相手が誰であれ、この趙子竜が指一本触れさせぬ)






 そして、同時にこうも思った――こっそりと。
(ゆえに、そちらはこの好機を逃すなよ。敵地で一刀と二人きり……ふむ、これぞ災い転じて福と為すの極意であろうよ。さすがに口には出せなんだが、な)




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