解池陥落。 その報が県城にもたらされた時、曹純は数瞬の自失を余儀なくされた。「ばかな……」 白波賊の頭目である韓暹率いる主力を撃破し、つい先日、賊の切り札であり、皇甫嵩率いる二千の官軍を全滅させた元凶でもある匈奴の軍に打撃を与えることにも成功した。 とはいえ虎豹騎の総数はわずか一千。一方の白波賊は二千、匈奴の軍は五千。兵力差は明らかであり、勝利を収めたとはいえ、致命的な損害を与えられたわけではないことは曹純も承知していた。 それでも敵の出鼻を挫き、計略を覆し、その士気に少なからぬ打撃を与えたことは間違いないと考えていたのである。軍勢を再編するにも時間を要するし、敵の計略の裏を衝いたことで白波賊と匈奴の間に不和が生じる期待も持てた。いずれにせよ、それなりの時間は稼げるだろう、と。 だが、賊徒は曹純の予想を上回る早さで陣容を立て直し、なおかつ攻勢に転じた。わずか一日で解池が陥落したことについては、予想すらしていなかった。曹純が言葉を失ってしまったのは致し方ないことであったろう。 それでも、いつまでも放心してはいられない。解池を取られたことの意味を考えれば、一刻も早く行動を起こさねばならなかった。 その曹純の傍らで、河東郡の太守である王邑は呆然と呟く。「まさか、あの賈逵(かき)がこうもたやすく敗れるとは……」 そう言ったきり、凍りついたように動かない。 賈逵、字を梁道。名族の出ながら、一族は朝廷での争いの巻き添えをくって没落。貧困に苦しむ幼少時を送ったが、苦学して朝廷に仕える。 誠実で私心のないその働きぶりを認めた王邑によって、解池の守備という重任を委ねられ、今日まで見事にその職責を果たしてきたのである。 王邑は内政にあっては堅実な手腕を有していたが、軍事に関しては凡庸の域を出ない。そのことを自覚していたから、事あるごとに賈逵に意見を求め、それに従ってきた。 もっともすべてを受け入れていたわけでもない。白波賊に対しても、賈逵はかなり早い段階で潰すべきと口にし、人がいないのであれば自分が出るとまで主張していたのだが、解池の守備を慮って先送りにしてきたのは王邑の判断であった。 その賈逵が守る解池が、たとえ突然の強襲であったにせよ、二日ともたずに陥落するとは。解池を守備していた将兵は白波賊と匈奴によってことごとく殺され、城内は地獄のような有様になっているともいう。 忠誠心に厚く、責任感の強い賈逵がそれを座視できるはずはなく、まして民や兵を犠牲にして逃げ出すなどありえない。おそらく賈逵はもうこの世のものではないだろう、と王邑は呆然としながらも確信していた。 「王太守、すぐに動かせる兵力はどれだけです?」 曹純の問いかけに、ようやく王邑は我に返る。「……あ、そ、そうですな。すぐに動かせるとなると、おおよそ二千、というところでしょうか。もっともこの城を空にするわけにもいきませんから、実質、千、いや、五百……」「この城の防備は最低限で。徴募すれば数日で千は集められましょう? 今は一刻も早く解池を取り戻すことが肝要なのです」 その言葉に、王邑は戸惑ったように目を泳がせる。「し、しかし、その間に賊徒が回りこんで、この城を攻め寄せてくる可能性も……」「ここに立て篭もっていれば攻めてくることもありましょうが、こちらから出れば、まずは出てきた部隊を叩こうとするでしょう」 無論、曹純としても二千や三千の兵で解池を奪回できるとは考えていない。敵は白波賊だけでこちらと同数かそれ以上、くわえて匈奴の軍がいる。勝算は限りなくゼロに近い。 だが、ここで敵に時間を与えてしまえば、勝算は本当にゼロになってしまう。この城に立て篭もるにしても、解池を一日で陥とした敵を相手にどれだけ耐えられるか。 敵の得体の知れなさを思えば、受身の戦は何としても避けるべきであった。 くわえて言えば、解池やその周辺から逃げてくる民や兵は少なくあるまい。彼らを収容するためにも、現段階でかき集められるだけの兵を集めて出陣する必要があるのだ。それは同時に、まだ官軍には戦うに足る兵力と覚悟があるのだと、各地の敵味方に示すことにも繋がるのである。 この曹純の説明には王邑も頷かざるを得ない。慌てた様子で配下に指示を出し始めた。 曹純が率いる虎豹騎には、今さら用意を命じる必要はない。河東郡の将兵の準備が出来るまでの間、曹純は一人の人物のところへ足を向けることにした。 おそらくはただ一人、今回の敵の動きの理由を推測できる人物のもとに。◆◆◆「知りません。たとえ知っていたとしても、口にするつもりはありません……」 問いを発する曹純と、気遣わしげにこちらを見つめる許緒に対し、徐晃はそう言ったきり、口を噤む。 事実、徐晃は今回の母の動きについては何も伝えられていなかった。 徐晃に与えられた任は曹純と虎豹騎を撃ち破り、許昌からの大軍を引き出すこと。では、その次は? 予測ならしている。許昌の防備が薄くなれば、いずこかの勢力――おそらく河北の袁紹、淮南の袁術らが動き出す。主力が不在の許昌では、大軍を有する二者の侵攻は止められまい。許昌は陥ち、帝都を失った漢帝国は再び混乱の坩堝に叩き落されることになる。『この身を王昭君ごときよりも下に扱いし宮廷の愚者ども。許しはしない……決して』 そういって歯軋りする母楊奉の背を、幼い頃からずっと見てきた徐晃にとって、母の願いを察することは難しくない。 すなわち、自らを北辺に追いやった国への復讐。 それゆえ、頭目である韓暹を殺したことを聞いても、さして驚きはしなかった。むしろ、どこかで安堵さえ感じていた。目的を果たすためとはいえ、韓暹の傍らに侍る母を見るのは、徐晃には辛いものであったから。 ただ、その安堵はほんの一時のことだった。韓暹を殺したのが於夫羅であったこと、そして白波賊と匈奴の軍勢が示し合わせて解池を陥としたことを聞き、これまで韓暹が務めていた役が於夫羅に変わっただけであることを悟ったからである。「母さん……」 それもこれも、自分が失敗してしまったためだ。徐晃はそう考える。 於夫羅にしてみれば、先の戦いの敗北は徐晃に謀られたとしか思えぬであろう。徐晃が姿を消した以上、その責を楊奉に問うのは必然であり、おそらくその席で楊奉は決断を下し、韓暹を切り捨てて於夫羅に――言い方は悪いが乗り換えたのだろう。 ――だが、しかし。 それでは説明できない点がある。「解池ほどの堅牢な城市を、どうやって短期間で陥としたのか。内から開いたという城門といい、相当以前から準備を整えていたとしか思えない」 その曹純の言葉に、徐晃はわずかに肩を震わせた。 そう、そこだけが不可解なのだ。徐晃の不首尾を知って方針を変えたのだとすれば、解池への攻撃準備がこうも早く整うわけがないのである。 於夫羅を引き込んだから戦力に余裕が出来た、という理由も考えられないわけではないが、そも匈奴の軍勢をこの地に引き入れたのは楊奉であり、匈奴を動かしただけで解池が陥とせるのならば、とうの昔に動いていたであろう。 聞けば解池の攻撃でも匈奴はほとんど動かず、督戦兵として後方に控えていただけであったという。であれば、解池を陥とす戦力として、必ずしも匈奴は必要ではなかったということになる。 解池を陥とした主力は白波賊。 元々、楊奉の影響力は頭目である韓暹を凌ぐといわれていたが、実際に韓暹を殺害して成り代わるとなれば、他の幹部が黙っていないはずだった。だが実際には韓暹が楊奉の手にかかったにも関わらず、白波賊にはほとんど動揺が起きていない。時をおかずに全軍を動かしたことからも、それは明らかだった。 自軍の半数に満たない官軍に敗れたことで、韓暹の力を疑う者が出たことは疑いないが、それにしても何の準備もなく、楊奉が全権を握ることができるとは考えにくい。 くわえて城攻めに必要な様々な武具や兵器は一朝一夕で用意できるものではない。 つまるところ。 鉄壁とも称される解池の防備を揺るがすほどの戦備を、楊奉はあらかじめ整えていたのである。人と、物の両面で。 もちろんそのこと自体に問題は何もない。徐晃は知らされていなかったが、そもそも徐晃は白波賊において確たる地位についているわけでもないのだから、そこに不満を抱いたりはしない。 ただ、あまりに早い方針の転換は、楊奉が徐晃に対して一片の期待もしていなかったことの裏返し。「母さん…………」 否、そもそもすべては予定通りなのかもしれない。周到に整えられた戦備がそれを示す。「母さん……」 解池での殺戮に、官軍に囚われた徐晃を気遣う思いは皆無であり。「母さんッ」 母にとって、自分は捨て駒であったのだという事実だけがのしかかる。 突然取り乱した徐晃の様子を、曹純と許緒が痛ましげに見つめていた。理由はわからずとも、徐晃の苦悩が奥深いものであることは察せられた。 徐晃はそんな二人の様子に気付かない。 気付いたのは別のことだ。徐晃の脳裏に、ふとよぎった楊奉の言葉。あれは皇甫嵩を討ち取った報告をした時だったか。『――口先だけの謝罪など、あなたの弟妹たちでも出来ることよ。それとも、次はあの子たちの誰かをあなたの代わりに戦場に出せば良いのかしら。それがあなたの望み?』 ――まさか、と思い、徐晃は小さくかぶりを振る。 いくら何でも、そんなことはない、と。 徐晃の弟妹と楊奉は言ったが、楊奉の子供というわけではない。度重なる戦乱の中で、徐晃が助けてきた子供たちだ。母を除く白波賊のすべてを嫌悪していた徐晃は、白波砦ではなく、あえて解池にほど近い土地に弟妹たちを置いていた。逢う機会は減ってしまうが、かえってそこの方が安全であるとわかっていたからである。 もし楊奉が解池の攻撃に踏み切るようであれば、先んじて避難させれば良い。そう考えていた。無論、万一、官軍に気付かれたり、賊に襲われた場合の対処も教え込んである――そして、そのすべては楊奉も知るところであった。 解池が白波賊と匈奴に陥とされた今、弟妹に危険が迫っていることは間違いない。そのことにさえ思い至らなかった自分の迂闊さに腹が立つ。 だが、それ以上に徐晃の胸を焦がすものがあった。 徐晃に煮え湯を飲まされた形の於夫羅は、解池の殺戮だけで満足するのだろうか。 徐晃に秘中の秘を官軍に暴露された形の楊奉は、徐晃の失態を看過してくれるだろうか。 考えたくもない、最悪の想像が胸奥から湧き出てくる。 否、それは想像などではなく、至近に迫った現実なのだ。そのことを、他の誰でもない徐晃自身が確信している。確信、してしまっている。 徐晃の四肢に力が篭る。 得物である大斧は当然のように没収されているが、拘束されているわけではない。 これは曹純の指示による。「四肢を縛って我らに降れといっても、説得力なんてないだろう」 そう言って、徐晃を一室に閉じ込めこそしたが、手足は自由のままであった。無論、見張りはつけたし、もし徐晃が逃げ出そうとすれば容赦するつもりはなかったが。 徐晃としても、許緒や虎豹騎の精鋭を振りきり、官軍で満ちる県城を突破できるとは思っていない。考える時間が欲しかったこともあって、官軍が隙を見せるまでは大人しくしているつもりだったのである。 だが、脳裏に浮かんだ思考が、そんな思慮を粉微塵に打ち砕く。一刻も早くここから脱出しなくては、そう考える徐晃の耳が曹純の言葉の一部をとらえた。 許緒に対し、曹純は解池への出陣を伝えたのである。「……解池へ?」 徐晃が反応したことが意外だったのか、曹純は目を見張るが、すぐに頷いた。「そうだ。可能な限りの兵を集め、解池から逃げてくる民と兵を救出する。仲康は王太守と共にこの城を守ってくれ、公明殿の世話も任せる」 王邑の危惧があたる可能性もないわけではない。許緒を残しておけば滅多なことはないだろう、と曹純は信頼していた。「わっかりました、子和様、気をつけ……」 そんな曹純の信頼に気付かない許緒ではない。大変な時だということはわかっているが、そこはかとなく嬉しそうな顔で、気をつけてくださいね、と言いかけた許緒の言葉を、この場にいるもう一人の人物の言葉が遮った。 無論、それは徐晃のこと。曹純と許緒が意外に感じるほどに強い口調で、徐晃は口を開き、言った。 ――お願いがあります、と。◆◆◆ 「お願いがあります」「却下します」 結構本気で口にした言葉だったが、あっさりと退けられてしまった。 しかし、ここで諦めてはいけない。俺はもう一押しを試みる。「そこをなんとか」「なりません」 しかし、返ってきたのは、けんもほろろなお言葉でした。「そもそも――」 俺が次は何と言って説得したものかと考えつつ馬を進ませていると、隣で、同じく馬を進ませていた司馬懿が口を開いた。「解池の様子を探るというのは、私が姉様から命じられたこと――姉様は私にお願いと仰っていましたが、同時に上司としての命令でもあるのです」 若き廷臣はそう言って、落ち着いた眼差しでこちらを覗う。「北郷殿はそうではない。表向きは護衛ですが、私は協力してもらっている立場です。どちらが危険を冒すべきなのかは明らかでしょう」 解池の調査のために都から派遣された司馬懿であるが、当の解池が白波賊に陥とされてしまった今、真っ直ぐに向かうのは危険極まりない。 とりあえず解池には俺が向かい、司馬懿は県城の方へ行ってもらうつもりだった。白波賊の討伐に赴いた曹純が県城にいるかは微妙なところだが、解池に向かう関羽は、この報告を聞けば間違いなく県城を目指すはず。このあたりで一番安全なのは県城であろう。 だが、俺のその提案に対し、司馬懿はあっさりと首を横に振る。そして、この問答へと続くのである。 俺は困惑しつつ、頭を掻いた。「それは正論――と言いたいところですが、賊徒と匈奴が溢れている城市に、女の子を一人で行かせるわけにはいかないでしょう。そんなのは論外です」「顔を隠すなり、金銀で人を雇うなり、誤魔化す手段はいくらでもあります」 あくまで淡々と語る司馬懿に、頭を抱えたくなる。薄々気付いてはいたが、やはりこの少女、自分の容姿に関して自覚がいまいち薄い。 多分『それなりに人目を惹く』程度にしか考えていないのではあるまいか。 この状況で顔を隠した者が解池に入れるとは思えない。金銀で人を雇うにしても、素顔を晒さねば不審を抱かれるだろうし、晒せば晒したで、間違いなくひと悶着起こるに決まっていた。 妙な例えだが、俺が賊であれば絶対に司馬懿みたいな美少女は見逃さないし、無関係な民だったとしても、よこしまな思いの一つ二つ抱くに決まっているではないか!――って、何を力説してるんだろう、俺? ともあれ。 司馬懿を解池に行かせるのは断固阻止せねばならない。司馬懿に傷でも負わせようものなら、姉である司馬朗や妹である司馬孚たちに何と言って詫びれば良いかわからん。 だが、当の司馬懿は何とかなるの一点張り。実際、頭の冴えも武芸の腕も俺以上の人だから、面と向かって否定できないのが辛いところだった。 考え込む俺を見て、司馬懿が小さく首を傾げる。そして、めずらしく不思議そうな表情をあらわにしながら口を開いた。「どうして、北郷殿は私を解池に行かせたくないのですか?」「いや、それはもちろん危険だからです」「危険というなら北郷殿も同じことです。そして危険を冒す必要性が高いのは私の方だということもお話しました。それでもまだ納得されない……何故なのでしょう?」「……本気で聞いてるから性質がわるいな、この子は」 思わず本音がこぼれてしまった。「? 何か仰いましたか?」「いえ、ただこのお姫様を説得するにはどうしたものかと」 「お姫様??」 目を瞬かせる司馬懿を前に、俺は一つ息を吐いて覚悟を決めた。 このままではいつまでたっても結論が出ないだろう。「率直に言いましょう」「お伺いいたします」「女性の前では良い格好をしたい――それが男というものなのです」 とりあえず、いろんな事情を四捨五入してそう言うことにした。ぶっちゃけ理屈では勝てん。 案の定、司馬懿は目をぱちくりとさせている。さすがにこの台詞は司馬仲達といえど予測できなかったと見える――まあ、当たり前だが。「……それは殿方の意地、ということなのでしょうか?」「そう、ですね。男児たる者の沽券に関わる重大なことだと考えてください」 至極まじめな表情で言う俺。 対する司馬懿は、馬上で何やら考え込むように頬に手をあてている。 沈黙はしばらく続き、緩やかな馬蹄の音だけがあたりに木霊する。 もしや呆れられてしまったろうか、と不安になったが、司馬懿の顔を見るかぎり、そういった風にも見えない。その脳内でどのような考えが渦巻いているのか俺には知る由もなかったが、ふと、視線を感じて振り返ると、司馬懿が何やらじっと俺のことを見詰めていた。 どうしたのか、と思って口を開きかけた時だった。「承知いたしました」「どうかしまし……って、え?」 あまりにもあっさりとした言葉だったので、今度は俺が目をぱちくりとさせる番だった。 そんな俺に対し、司馬懿は言葉を付け足す必要を感じたのか、こう続けた。「私が一人解池に向かうのは避けるべきという北郷殿のお言葉、承知いたしました」「それは、その、ありがたいですが、なんでまた急に?」「私たち女は殿方を立てるもの。以前、叔達(司馬孚)がそう申していたことを思い出したのです」 ははあ、なるほど。確かに司馬孚が言いそうな台詞ではある。 ともあれ、司馬懿が聞き入れてくれたことは確かなので、俺はほぅっと安堵の息を吐いた。 危難が襲ってくるのはこれからなのだが、他人のそれを見ているより、自分で踏み込んだ方が気が楽だ。 などと俺が考えていると。 隣の司馬懿がこんなことを言い出した。「では共に参りましょう、北郷殿。解池の速やかなる奪回のために」 束の間、呆然とした後、すぐに俺は慌てて口を開く。「……は? あの仲達殿、俺の言葉を聞き入れてくださったのでは?」「はい。聞き入れました。『一人で』解池に赴くのは避けるべきだとのことでしたよね?」「あ、いや、確かにそうですが、それは二人で行けば大丈夫という意味では……」「それに女性の前で良い格好をしたい、とも仰っておられました。ならば解池における北郷殿の活躍を、この目で確かめることこそ私の役目。謹んで務めさせていただきます」「……本気で言ってるから性質が悪いな、この子は」 思わず本音がこぼれおちた。本日二度目である。 どことなくすっきりとした面持ちで前を向く司馬懿の横顔を見る。これ以上何を言い募っても結論は変わらないだろう。それを直感的に悟った俺は、司馬懿に悟られないように小さく、小さく息を吐くのだった。