洞窟内を照らす明かりが赤みを帯び始める。
それは赤黒く煮え滾る熔岩、その炎に照らされた色だ。
地下深く、その火口をぐるりと囲むように螺旋を描いた通路と呼ぶのもためらわれるような道を抜ける。
行く手を阻むのは、百の蛇の頭と何本もの手足を持った魔獣、そうとしか形容のできない意匠を施された巨大な青銅の扉。
そこから先は王の――ギガスの神の意志が支配する聖域。
その先にあるのは巨大な広間と神の為の祭壇。
現世と神域、その狭間である扉の前で激しくぶつかり合う二つの小宇宙。
人の目では捉えきれない速度で交差する輝き。
幾重にも重なり合った軌跡は、やがて地の底で聞こえるはずのない落雷にも似た轟音が鳴り響いた事で消え去った。
「……これで三度目。私の“スティグマ”が君を捉えた回数だ」
扉を背に、人影がゆっくりと歩を進める。
呟かれる声の主は神将“迅雷の”トアス。穏やかさを秘めた眼差しのまま、落ち着いた様子で続ける。
「これで分ったろう? 君は確かに速い、まさしく神速だ。それでも……私の方が速い。私の二つ名を教えよう、迅雷だ」
「――だが、軽い。その重さじゃあ、俺は倒せない」
トアスの正面。
崩れ落ちた壁面と、うず高く積み上げられた土砂の山から黄金の輝きが放たれる。
その光に押し上げられるように、内側から土砂が弾け飛んだ。
飛礫がトアスの周囲にまで及ぶが、そのどれもがその身に触れる事はない。
光の中から現れたのは黄金の輝きを放つ聖衣を纏った聖闘士――海斗。
「確信したよ。この聖衣は俺の小宇宙の高まりに応じてその強度を遥かに高めている。
“スティグマ”だったか? 確かに速く鋭い一撃だったが……俺の意思が、小宇宙の炎が消えない限りこの聖衣を貫く事はできない」
海斗の言葉を証明するように、黄金の輝きを放つ聖衣にはこれまでの戦いでの破損こそ有ったが、トアスによって新たに付けられた傷はない。
「そして、お前の速度にも慣れてきた。“スティグマ”の正体は小宇宙を針のように細く鋭く集束した指弾だな? 確かに速いが――次は捉える」
腰を落とし、構えた両手がエクレウスの星座の軌跡を描く。
アルファからベータ、ガンマ、そしてイオタ。四つの星からなる縦に長い台形。それがエクレウスの軌跡。
高まり続ける海斗の小宇宙はその背にオーラとなって天駆けるエクレウスの姿を浮かび上がらせる。
それを見て、トアスの表情が変化した。
一瞬であったが、そこに浮かんだのは驚愕と歓喜。
「……形状が異なっていたのでね、こうして目の当たりにするまで半信半疑だったよ。だが――その構え、その小宇宙が生み出すオーラを私は知っている。やはり、君は“そう”だったのだな。
これから君が繰り出す技を当てて見せようか? その体勢から放たれる技は“エクレウス”の必殺拳、小宇宙の流星“エンドセンテンス”だ!」
「!? チッ!」
一分の隙も見逃すまいと意識を集中していた海斗であったが、初見の相手に、この地では見せた事のない技を言い当てられた事は、ほんの僅かであったが技の精度を乱す結果となった。
「まさか千年の時を経て、こうして再び相見える事ができようとはな! 久しいな、とでも言うべきかなエクレウスッ!!
決着を! 運命が私たちに決着を着けろと言っているのだ!!」
穏やかな雰囲気から一変し、トアスの口調はまるで闘争心をむき出しにしたかのような激しさを帯びる。
それまでが例えるならば陽光であったとしよう。今のトアスは業火であった。
「何を――言っている!!」
放たれるエンドセンテンス。
それを前にしてトアスは構えを取った。奇しくも、その構えは海斗と同じ。
「これが我が迅雷のトアス最大の拳“アヴェンジャー・ショット”!」
交差する閃光と閃光。
ぶつかり合う光弾。
せめぎ合うのは破壊の意思。
その事実に、今度は海斗の表情が変わる。
「同質の――いや、同じ技だと!?」
「言ったはずだよ“知っている”と!」
海斗とトアスの横を、互いに相殺しきれなかった光弾が飛び交う。
「そう、今の君には分らない事だ! ならば教えてあげよう。千年前、私は、いや私たちギガスは目覚めていたのだ。今、この時のように!
そして私たちの王、ギガスの神復活の目前まで事を進めていた。それを阻んだのは二人の聖闘士だったッ!!」
光の軌跡の中を駆け抜ける海斗とトアス。
光の乱舞は二人が互いの拳をぶつけ合う事で終わりを見せる。
「私はあの時の事をよく覚えている。そう、一人はエクレウスの聖闘士だ。今の君よりもう少し年を経ていた。髪の色も瞳の色も違っていたがね。
しかし、身に纏った聖衣は今の君と同じく黄金の輝きを放っていたよ! そしてもう一人、その師と名乗ったジェミニの黄金聖闘士」
痩身の優男のように見えてもその本質はギガスという事か。
その外見からは信じられないような圧力が、拳を伝わり海斗へと押しかかる。
「これは運命だと私は感じているよ。あの時はジェミニによって邪魔をされたが、こうして再びエクレウス――君と相見える事ができたのだから!!」
「千年……だ? そんな、昔の話、俺の……知った――事かあっ!!」
ふざけるな、と。その意思を込めた海斗の叫びとともに、トアスの身体から一瞬力が抜けた。
その事実にいぶかしむ間もなく、突き上げるように繰り出された海斗の蹴りがトアスの頬に一筋の赤い線を刻みつける。
それは押しかかる力の流れに逆らわず、むしろそれを勢いとして相手に返すカウンター“ジャンピングストーン”の変形。
とはいえ、所詮は見よう見まねの紛い物であり、本家の技におよぶはずもない。
しかし、状況を変化させるには十分な効果があった。
後退したトアスと、空中にて身体を反転せて着地した海斗との間に距離が生まれる。
近過ぎず、遠過ぎず。
それは互いの必殺拳の間合い。
「さあ、あの時の決着を着けようエクレウス。千年前の君は強かった。そして今の君も強い。ならば何の問題もないッ!! “アヴェンジャー・ショット”!!」
「ああ――そうだな。お前の言い分なんぞ知った事か。俺の邪魔をするのなら、誰であろうと倒すべき敵である事に変わりはないんだからな!! “エンドセンテンス”!!」
同質の技であるエンドセンテンスとアヴェンジャー・ショット。
今度はお互いに万全の体勢から全力で放たれた。
「うぅおおおおおおおおおおっ!!」
「あぁああああああああああっ!!」
閃光の中で繰り広げられるのは無数の拳撃の応酬。
威力は互角、精度も互角、速度も互角、放たれる拳の数も全てが互角。
変化が起こったのは直ぐであった。
繰り出される拳撃のあまりの数に、行き場をなくした力の余波が二人の間に小さな渦を生みだした。
雫の一つ、その程度の大きさであった渦は、周囲の力を取り込み続け瞬く間に巨大な渦となり、渦はやがて破壊の力に満ちた巨大な繭となって具現化する。
千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)という言葉がある。
実力の伯仲した黄金聖闘士同士が戦った際、互いに一歩も動けず、膠着したまま千日経っても決着が着かない状況に陥る事を表した言葉である。
この時の海斗とトアスの状況はまさにそれであった。
むしろ、互いの力を集束した爆弾が目の前にある時点で状況としては最悪としか言いようがない。
「フ、フフフ。ハハハハハッ! 全てにおいて互角か!! それでこそエクレウス、私の認めた人間だ」
そう告げるトアスの表情が、口調が、最初に対峙した時のように穏やかなものになっていた。
その眼差しは慈愛に満ちてさえいた。
二人の間に生じた光の繭により、こうして向かい合っていながらもトアスからは海斗の表情を窺う事は出来ない。
「だが……全てにおいて互角であるならば、それはすなわち――」
『――私の勝ちだ』
その言葉をトアスは胸の内に秘めた。
二人を包み込んでいた閃光は既にその色を失っていた。
「万全の態勢であったならば、そうは言うまいよ。これは戦いなのだからな」
憂いさえ帯びたトアスの視線の先。光の繭の向うから赤い色が散っていた。
それは生命の色。鮮血の赤。
海斗の背中から、左肩から、右足から。ここに来るまでに受けた傷口の全てが開き出血をしていた。
「そして、既に君の肉体には私の与えた聖痕――スティグマが刻み込まれていた」
海斗の身体に浮かび上がる淡い光点。聖衣の上から灯ったその数は三つ。
「成程、確かに君の聖衣を貫く事はできなかった。しかし、私のスティグマは身に纏う物の有無を問題とはしないのだ。だからこそ“聖痕”なのだよ」
トアスのその言葉が終わると同時に、海斗の聖衣から黄金の輝きが消えた。
そして、三つの光点から鮮血が噴き出す。
「この技は、本来生贄となった人間の血を神に捧げる為のものだ。その中で私は生物の気脈、血脈の急所を知り研鑽を重ねて“スティグマ”とした。
君に打ち込んだスティグマは血を奪い、五感を奪い、そしてゆるやかに君の命を奪うはずだった。しかし、この状況ではそれもかなわない。
五感が衰えた事で苦痛が和らげられる事がせめてもの救いか」
光の繭がその力の全てを解き放とうと、海斗へと向かいゆっくりと進みだしていた。
事ここに至り、両者の拮抗は完全に崩れていた。
糸の切れた人形のように海斗の身体が崩れる。
だが、完全ではない。その額が地に触れようかという所で、どうにか膝をつきながらも堪えている。
「その身体で……よく持たせるものだ。しかし、その光球はもはや私の力でもどうする事もできない。君はよくやった。間違いなく強者であったよ。静かに敗北を、死を受け入れたまえ」
光の繭が迫る。
突き出された海斗の両手からピシリと音が鳴った。亀裂の音だ。
エクレウスのアーム(腕部)に無数の亀裂が生じていた。
それはアームだけではなく、立て膝となっていたレッグ(脚部)にも現れていた。
光には触れてはいない。
余波だ。
炎の周囲に手を近づければ熱を感じるように。
光の繭が放つ破壊の力、その余波ですらが聖衣の耐久値を超えていた。
光が海斗の身体を包み込む。
その瞬間、海斗がどのような表情を浮かべていたのかをトアスは知らない。
トアスは背を向けていた。
それが情と言わんばかりに。
「これが私たちの千年の決着だ。さらばエクレウス」
眩い閃光がトアスの背を照らし、地に長い影を落とした。
第18話
少し昔話をしようじゃないか。
これは、俺が先代から、いや先々代だったか? まあどうでもいいやな、兎にも角にも聞いた話さ。
今より千年の昔。
って、ぴったり千年ってわけじゃないんだ。数十年ぐらいの誤差はある。
まあ、キリが良いから千年って事にしとこう。カミサマ方々からすれば人間の十年なんてクソみたいなもんだろうしなァ。
んで、これから話すのは聖域に於いてその将来を有望視されていたとある聖闘士の兄弟、その弟クンの話だ。
お兄ちゃんの話はアレだ、機会があればまた今度じっくりとしてやるよ?
さて、仁智勇を兼ね備えた兄はペガサスの聖闘士として常に女神アテナの傍らに。
才能に於いてはその兄に勝るとも劣らないと言われた弟は、エクレウスの聖衣を身に纏い常に誰よりも速く戦場へと駆けていた。
兄弟は互いに切磋琢磨し、高め合いながら来るべき聖戦に備えていた。
そして、遂に訪れた冥王との聖戦だ。
その戦いに名を連ねた聖闘士は六十九人。その中で生き残った聖闘士は七人。
これが多いのか、少ないのかってのは、判断に困る所だな。
で、生き残った聖闘士、そこにお兄ちゃんの、ペガサスの名は無い。
ペガサスは最期の時までアテナの為に戦い、アテナの為に死んだそうだ。
そしてエクレウス、弟クンだな。
彼もまた兄と同じく聖戦を戦ったワケだが……彼の名は聖域の史書にも正史にも――後世伝えられるべき歴史のどこにも記されてはいなかった。
名前だけじゃないんだな、これが。
“エクレウスの聖闘士”の存在自体が後世の歴史書には記されてはいなかったのさ。
「それは何故かって? それはな、エクレウスがその存在すら赦されぬ程の大罪を犯したからさ。その切欠となったのが“ギガントマキア”だ」
暗闇の中、どこからか現れたスポットライトが光を灯した。
照らされた光の中に古びた安楽椅子の姿が浮かび上がる。
「そう、ギガントマキアさ。知ってるかい? ギガスとの戦いをこう呼ぶのさ。ハハハッ、皮肉だねえ」
その椅子に腰掛けるのは黒いタキシードに身を包んだメフィストフェレス。
彼は、逆さに向けたシルクハットを指先でくるくると回しながら続ける。
「ペガサスとエクレウスの二人は兄弟だが、実はその下に妹が一人いたんだ。三人兄弟だったわけだな。
年の離れたペガサスとは違い、エクレウスとは歳も近く過ごした時間多かったせいかね、妹はエクレウスによく懐いていたそうだ。とても仲の良い兄妹だったらしいねぇ」
麗しの兄妹愛ってやつか、俺そーゆーの好きよ?
そう言って歯を見せて屈託なく笑うメフィストフェレス。
その表情はまるで幼い子供が見せる無邪気なもの。
そう、子供は無邪気だ。善悪を知らず、それ故に禁忌に、悪意というものへの枷がない。
ならば、このメフィストフェレスは何者なのか。
聖人か、それとも――
「そう、らしい、さ。詳しい事を知る者は兄であったペガサスか、エクレウスの師であったジェミニ黄金聖闘士――カストルしかいなかった。
その二人が口を閉ざしていた以上、他人が知る事など微々たるモンだな。
さてさて、いよいよ激化する聖戦の中で誰もが予期せぬ事態が起こった。忌むべき存在、そうギガスの復活だ。冥王もギガスもどちらも放ってはおけぬ大事。すぐにでも戦力を割く必要があった。
しかし、ギガスとの戦い――ギガントマキアは、聖域にとっては聖戦ではない“歴史にさえ残す意義の無い”戦いとされている。
なにせ、大義も何もないんだ。人とギガス、種族としての生存を駆けた殺し合いにすぎないんだからなァ。
その戦いで命を落としても名が残る事はない、いや誰にも知らされる事がないんだから最悪野垂れ死にと同程度の扱いになるかもしれない。ヒドイ話だよ、と、とととっと」
指先から落ちそうになったシルクハットを爪先で拾い上げ、それを軽く蹴り上げる。
舞い上がったシルクハットはそこにあるのが当然のように、メフィストフェレスの頭に覆い被さっていた。
「その戦いに自ら名乗り出たのは、聖戦の中で破損した聖衣の修復を終えたエクレウスだった。ハハッ、まるでどこかの誰かさんのようじゃないか?
だが、そのエクレウスの進言を止めた者がいた。女神アテナと兄であるペガサスさ。止めただけじゃあない。その身を拘束さえもした。
その時にはギガスの神の復活が目前まで迫っている事が分っていた。一刻の猶予もない事も。なのに、だ」
メフィストフェレスがパチンと指を鳴らした。
すると、彼の周りに何体もの西洋人形が現れ、まるで生きているかのように手と手を取り合いダンスを始める。
人形の種類は様々であったが、共通している点が一つだけあった。
どの人形にも――顔がない。
「くるくるくるくる。廻り回るロンドの様に。歴史は繰り返す、人の営みが流れとなってくるくると。そう、終わりのない輪舞さ。これがまた意外と飽きないんだよなァ。むしろ好きだね」
メフィストのフェレスの鳴らす口笛のリズムに乗って、人形達は回る。まわる。周る回る廻る。
「そう、歴史は繰り返している。キャストは違えど舞台で繰り広げられている演目は同じ。ギガスの神の復活を阻むべく突き進むエクレウスが――」
安楽椅子を蹴り飛ばし、メフィストフェレスが暗闇へと飛び込んだ。
スポットライトが消え、安楽椅子が消え、そして人形達が消える。
「――お前さんだよ、エクレウスの海斗クン」
ずいっと、メフィストフェレスが顔を近付けた暗闇の中には、膝をつき力無く項垂れた海斗の姿があった。
身に纏われた聖衣はカノンと戦った時程ではないにしろ酷く破損していた。
純白であった聖衣は、無数の亀裂と海斗の血によってその輝きを失っている。
その身体は身じろぎ一つせず、噴き出す程であった出血は止まっていた。
「現代において神復活の為の贄として、聖母として選ばれたのはあのお嬢ちゃんさ。言ったよなァ、歴史は繰り返すと。
ならば、今まさに危機にあるあのお嬢ちゃん。千年前のその役は誰が演じていたのかな?
ここまで来ればわかるだろう? お約束だもんなァ。だからこそ、千年前のアテナとペガサスは止めたのさ。最悪の事態を想定した上で、ね。
そう、ギガスの聖母として選ばれたのはペガサスとエクレウスの妹だったのさ。拘束を破り、制止を振り切ったエクレウスはギガス達の下へと向かい――そこで業を背負った」
しっかりと聞こえるように、一語一語を理解できるように。
メフィストフェレスは海斗の耳元に顔を近付けて呟いた。
『エクレウスはその手で妹を、その身に宿したギガスの神ごと――殺したんだ』
「その後、エクレウスは聖域から姿を消し、聖戦終結後に海皇の海将軍として生き残った聖闘士達と戦ったそうだが……まァ、その辺は蛇足だな。
さて、その辺を踏まえた上で、満身創痍で聖衣もボロボロ、そんなお前さんにビッグなプレゼントをあげようじゃないかァ!」
そう言って、おもむろに立ち上がったメフィストフェレスがシルクハットに手を伸ばす。
まるでマジシャンが観客へ向けて行うように、帽子を取り海斗へと深々と頭を下げて見せた。
「じゃじゃじゃ~~ん! こちらに取り出した商品は冥王軍自慢の一品!」
勢いよく頭を上げたメフィストフェレス。
その手の上にあったのは先に手に取ったシルクハットではない。
そこにあったのは大の大人ほどはあろうかという巨大な彫像。
冥界の宝石、そう思わせるかのように黒く光り輝く彫像であった。
それは人に似た姿をしながら、角を生やした鳥の頭を持ち、その背には巨大な羽を持った、言うなれば鳥人の姿をしていた。
女神アテナの聖闘士に聖衣があるように、海皇ポセイドンの海闘士に鱗衣があるように。
「何と冥衣(サープリス)にございます!!」
冥界の王、冥王ハーデスに従う冥闘士がその身に纏う鎧。それが冥衣。
「ただ一言、来い、とお求めになるだけで、この最高位の冥衣がアナタの物に!! な~に、御心配は無用です。この冥衣は聖闘士でも問題なく身に纏っていただけますよ」
海斗の肩に手を回したメフィストフェレスは、旧年来の友人にそうするかのように気安く、気さくに語りかける。
「さあ、ここに力があるぞ! 手を伸ばせばいいさァ!! 助けるんだろう? 助けたいんだろう? 間に合わなくなるぞ?
今のお前さんじゃ無理なんだ、でもこれがあれば助けられる!! 勝てる!! 何者にも負けやしないさァ!!」
ピクリと、これまで何を語っても反応しなかった海斗の身体が、指が動いた。
それを見て、メフィストフェレスは――嗤った。
「我々は君の選択を歓迎しよう。そして、ようこそ冥王軍へエクレウス。いや――」
「新たなる天雄星――ガルーダよ」