【PHASE23】 X-DAY side MINERVA
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ザフト軍マドリード前線司令部。
ここから少し南に下った場所に、ザフトの最終兵器たるミネルバはいた。
前線では既に戦端が開かれ、ブリッジに詰めているクルーの表情は一様に硬い。
そしてそれは、モビルスーツの格納庫でも同じだった。
すっかりクルーたちに馴染んだハイネが、
蒼いモビルスーツのコクピットで作業しているルナマリアに声を掛ける。
「ルナマリア。グフの調子はどうだ?」
「ええ。やっぱりザクとは違うわね。貴方の台詞どおり」
「ははっ、こりゃ参った。そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけどな」
ルナマリアの微妙に皮肉が入った言葉に、ハイネは大げさに頭をかいてみせた。
二つの蒼いグフ。そして、橙色のグフ。
予定されていた新型の配備が、連合のジブラルタル攻略作戦の発動で遅れることになったため、
対デストロイ用に、ルナマリアとレイには新たにグフが配備されることになっていたのだ。
場合によっては、カサブランカでの海上戦闘も有り得るからである。
「それで、シンの奴はどうしてる?」
それまでの笑顔から一転、ひどく真剣な表情になるハイネ。
そしてその言葉を聞いたルナマリアも、その顔に心配そうな色を浮かべた。
「うん……何か凄い気迫で……絶対に助けるんだって……」
先程コアスプレンダーで作業しているところを話しかけようとして、ルナマリアはあっさりと追い払われていた。
それほどまでに、シンの迫力は違ったのだ。
アスランやレイも心配していたが、気迫があるのはいいことなので、話しかけるにかけられない状態が続いていた。
そして、こちらはミネルバのブリッジ。
分刻みで入ってくる前線の状況を食い入るように見つめている他のクルーたちとは違い、
一人モビルスーツ管制官のメイリンは、違う意味で硬い表情を浮かべていた。
あのあと。キラがレイの正体に言及した後。
キラ・ヤマトとアスラン・ザラに、彼女は聞き耳を立てていたことがバレてしまう。
とっさの言い訳も思いつかずただ呆然と座り込んでいたメイリンだったが、
意外なことにキラは、彼女に手を差し伸べ、そしてひどく申し訳なさそうな表情で謝った。
そしてそのまま歩き去るキラの後姿を見ていた彼女は、
アスランから部屋に入るように言われたのだ。
そこで聞いた、カガリ・ユラ・アスハの国民向け演説。
それを聞いていたアスランの表情が複雑に歪むのを、メイリンはしっかりと見てしまう。
さらに、自らの心の中にも、何か不思議な思いが湧き起こるのを、彼女は他人事のように認識していた。
続いて彼の口からもたらされたのは、二年前の大戦の英雄、ラウ・ル・クルーゼについて。
英雄だと聞かされてきた人物が、本当は世界を破滅させるために動いていた。
その二年前の真実は、彼女にとっては、重すぎた。
壊れそうになる心、挫けそうになる心を、メイリンは必死に自ら鼓舞する。
だが何よりもショックだったのは、やはりレイがクローンであるということだろう。
口をきいたことは、正直少ないけれど。
それでも彼女にとっては、アカデミー時代からの信頼できる仲間だった。
彼がクローンであるということそのものが、ショックなんじゃない。
むしろ、その事実を姉とシンに黙っているしかできない自分が、無性に歯痒かった。
「艦長!!!」
そして彼女の回想は、ブリッジに一際大きく響いた声によって中断される。
「どうしたの!?」
「偵察機より入電!我、デストロイヲ発見セリ!」
「場所は!?」
「座標データ照合……マドリード北約500キロ!
現在、ビスケー湾を南に向け侵攻中!!!」
(やはりこちらに来たか……
とすれば敵の狙いは、イベリア半島に上陸、そのまま真っ直ぐ南進して、
現在展開中のザフト部隊への側面強襲。やらせるわけには、いかないわね!)
タリアは目を閉じ、そして幼い息子を想った。
ピレネーを越えてきた連合の陸上部隊は、元々の国力差から、
必死でかき集めたザフトの部隊を大きく上回っている。
デュランダルの対ロゴス宣言で敵の兵力、士気共にかなり下落し、
そして自軍は兵力、士気共に大きく上昇したにも関わらず、だ。
だからこそ、ザフトはいくらデストロイが危険と分かっていても、
それに当たらせるのはミネルバのみで、これ以上戦力を割くわけにはいかなかったのだ。
この無謀ともいえる作戦。今度こそ、自分は死ぬかもしれない。
だが、私は艦長として、多くの命を背負っている。
だから……負けるわけには、いかない!
「コンディションレッド発令!パイロットは総員搭乗機にて待機!
アークエンジェルに敵の座標データを!
これより本艦は北上、現在ビスケー湾を南に侵攻中のデストロイを討つ!」
そして次に開かれたタリアの瞳には、壮絶なまでの覚悟が宿っていた。
彼女の声がブリッジを響かせると同時に、ミネルバが動き出す。
一様に真剣な、そしてある意味悲壮な表情をしているクルーたち。
あのアーサーですら、極度の緊張の前に一言も喋ることができない。
「?―――メイリン、放送急いで!?」
「は、はい!すみません……」
そしてただ一人だけ呆、としていたメイリンを、タリアが叱責する。
彼女はまだ幼いメイリンだからこそ、この苦境に緊張しすぎていると思っていたのだが……
(今私に出来ること……それはレイのことを考えることじゃない!)
「コンディションレッド発令。繰り返す、コンディションレッド発令。
パイロットは総員搭乗機にて待機せよ!」
少女を悩ませていたのは、そんなことではなかった。
彼女は艦内放送を終え、シートにもたれ掛かりながら想う。
レイがクローンであるという事実。今必要なのは、それを考えることじゃない。
今、必要なのは……デストロイを討つため、自分にできるだけのサポートをすることだから。
そして私に出来ることは、戦場へと赴くパイロットたちを、毅然とした態度で送り出すこと。
レイのことだ、秘密を知られたからといって、彼は感情的になることはないだろう。
仮に自分が姉とシンに話してしまったとしても、彼はそれすら過ぎ去った事実として受け入れるはずだ。
だが、それはできない。
戦場で互いの命を預け合う仲間だからこそ、話すべき時がくれば、彼は自ら明かすだろう。
そしてそれを見極めるのは、決して自分ではないのだから。
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「艦長!前方にデストロイ、カオス、ウィンダム多数!
まっすぐこちらに向かってきます!!!」
「アークエンジェルとの予想合流時間は?」
「5分後です!」
「そう……それまでに倒すわよ」
軍帽の下から冷徹な視線をモニターに送りながら、タリアは呟いた。
―――マドリードを出発してから、十数分後。
ミネルバは、ボタニー湾からイベリア半島へと上陸したデストロイと、
イベリア半島北岸にほど近いエブロ湖にて、遂に遭遇した。
向こうもこの地でミネルバを永遠に葬り去る気なのか、デストロイが背面の円盤型バックパックを展開、
モビルスーツ形態へと変形し、地面へと降り立つ。
「ブリッジ遮蔽。
ランチャーワンからテン、全門ディスバール装填。
トリスタン、イゾルデ起動。照準、敵モビルスーツ群。
モビルスーツ隊、発進開始!!!」
覚悟を決めたタリアの声が、ミネルバのクルーたちを鼓舞するかのようにブリッジを震わせる。
そして彼女の指示を受け、メイリンによって発進シークエンスが開始された。
アスランのセイバーを先頭に、ミネルバ所属の猛者たちが次々と大空に飛び立っていく。
「アスラン・ザラ。セイバー、発進する!」
「ハイネ・ヴェステンフルスだ。グフ、行くぜぇ!」
「レイ・ザ・バレル。グフ、発進します!」
「ルナマリア・ホーク。グフ、行くわよ!」
皆が悲壮な覚悟を決めている中、しかしただ一人、彼らとは違う覚悟を決めた少年がいる。
シン・アスカ。彼の脳裏を占めるのは、今はただ、たった一人の少女だった。
理想なんてモノで切り捨てられる人がいるなら、その人たちのために俺は戦う。
かといって、それが今ここで適切なことではないことくらい、彼とて百も承知だった。
ここで自分たちが敗れたなら、再びあのベルリンの惨劇が起きる。
それを止めるためには、今ここでステラを殺すことが最も簡単で、確実な方法なのだろう。
だけどそれに納得できない自分がいる。
例え世界の全てを敵に回しても、絶対に助けたいと思う自分がいる。
「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!」
続いて各フライヤーと、フォースシルエットが射出される。
彼がこの決戦にまず最初に選んだのは、機動性に優れたフォース。
これによってとにかく接近し、もう一度だけ、ステラの説得を試みる。
それが、彼の誓いだった。
アークエンジェルと、フリーダム。
彼らは助けてくれるとは言ったが、デストロイが暴走を開始すれば、彼らは躊躇いなくステラを討つだろう。
だからその前に、自分自身の手で、ケリを付ける。
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「チッ、厄介だな……この数は」
一方、ハイネ、レイ、ルナマリアのグフ三機を率いたアスランは、眼前の光景に思わずぼやいていた。
彼の眼前には、破壊の権化たるデストロイを囲むように展開する、
少なく見積もっても三十はいるウィンダムの群れと、カオス、そして赤紫の専用ウィンダム。
自分たちはデストロイの射線を気にしながら、これらに対抗しなければならない。
「ハイネ、レイ、ルナマリア!まずは俺たちが先行し、突破口を開く!
シン!お前はその隙にデストロイを!」
「了解!」
セイバー、そして三機のグフが一気に突撃を開始する。
そして接近する四機のモビルスーツを確認したデストロイの、胸部の巨大な砲口、スーパースキュラが火を噴いた。
慌てて回避する四機。
曲がりなりにもエースである彼らの機体にビームはかすりもしなかったが、
ふと後方をモニターしたハイネは、その光景に意図せず冷や汗が出た。
大地に、まっすぐに抉ったような裂け目が出来ている。
これがソドムとゴモラを滅ぼした終末の光、メギドの火だと言われても、おそらく自分は即座に納得するだろう。
「クッ!!!……ミネルバ、無事か!?」
「こちらは大丈夫よ。けどミネルバは狙われたら一撃で墜ちるから、
安全のためデストロイの射程外に退避します。
それとシン、アスラン。
貴方達の機体へのデュートリオンビームによる補給は、今言った理由により出来ません。
だから……出来るだけ早く、デストロイを沈黙させて」
タリアの声が搾り出すようなものに変わる。
そしてそれを聞いたアスランも、その瞳に決死の覚悟の火を灯し、敵のモビルスーツへと突っ込んでいった。
彼の行く手を、ウィンダムが遮る。
だが今の彼には、成すべきことがあった。
命を奪うことを躊躇っていた彼は、自らの進む道に迷っていた彼は、もうそこにはいない。
「邪魔をっ……するな!!!」
アスランの瞳に、SEEDの光が宿る。
モビルアーマーに変形したセイバーが突撃し、
ウィンダムのコクピットを撃ち抜きながら、敵の陣容を撹乱していく。
そしてそれに続き、三機のグフもヒートロッドを展開し、行く手を遮るウィンダムを蹴散らしながら、
デストロイへの道を切り開いていった。
「シン!!!」
「分かってる!」
ルナマリアの叫びに呼応し、シンのフォースインパルスがまっすぐデストロイへと向かっていく。
そしてそれを確認したデストロイの両腕が離れ、
空中を飛びながらインパルスに向かいビームを撃ち込んできた。
両腕部飛行型ビーム砲、シュトゥルムファウスト。
デストロイの両腕を離れたそれは、地上だというのにオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。
そのビームに邪魔され、インパルスはなかなかデストロイに近づくことが出来ない。
「くっそぉぉぉおおお!!!届け、届いてくれ、ステラァ!!!」
外部スピーカーすら付けて、シンは必死に説得する。だが、距離が足りない。
接近を妨害しているのは、先程からちょろちょろと飛び回る腕。ならば……!
「ウワアアァァアアア!」
シンの脳裏で、赤い種子が弾ける。
飛び回る腕は、ビームシールドを展開している。ライフルではダメージを与えられない。
ならばとシンはビームサーベルに持ち替え、無謀にもビームを乱射する腕へと突っ込んでいった。
そしてその一瞬、予想外の行動に戸惑ったらしいデストロイの腕が止まる。
その隙を逃さず、ビームサーベルを叩き付けるインパルス。
その斬撃を受けた左腕部は当然のように沈むが、
それでもなお、ステラの技量は相当なものだった。
左腕が墜ちることはすでに予測していたのか、右腕がインパルスの背後に回りこむ。
だがSEEDを発動したシンの技量も、簡単に沈黙させられるようなものではない。
既に回避不可能なコースに射線が取られていることを悟ったシンは、
インパルスを即座に上下に分離させる。そしてその間を縫うように奔るビーム砲。
「……っ!」
この予測不可能な動きには、とてもではないがステラといえども対応ができなかった。
分離したインパルスの間を腕が通り抜けた数瞬後、
再び合体したインパルスの斬撃を喰らい、右腕も沈黙する。
そしてそれを確認するや否や、シンはインパルスをデストロイ本体へと加速させた。
「いや……しぬのは、いや……」
デストロイのコクピットに座る、一人の可憐な少女。
攻撃手段がたった一つとはいえ潰された彼女の精神は、元からほとんど余裕などなかったとはいえ、
既に相当危険な領域にまで達しようとしていた。
彼女には、ベルリンでシンと邂逅を果たし、そして自らが暴走した記憶など残されてはいない。
だがインパルスの機影は、彼女の脳裏に刻み込まれた記憶を、僅かずつだが呼び覚ましていた。
そしてその機体は、シュトゥルムファウストを両方ともあっさりと沈黙させると、
即座に彼女に向かって突っ込んでくる。何か、とても大事なことを、叫びながら。
だが彼女が不幸だったのは、それがシンとの記憶に結びつく前に、
自分に向かってくるモビルスーツ=倒すべき敵としか考えられなかったことだろう。
……無理も、ないのだが。
「嫌あああぁぁぁぁあああ!!!」
コクピットの中で絶叫を上げ、彼女は円盤部の熱プラズマ複合砲、ネフェルテム503を無茶苦茶に撃つ。
いくつか味方機をも巻き込んだ気がしたが、今彼女にそれを認識する余裕などなかった。
―――今彼女が認識しているのは、ビームの一つを回避しそこね、脚部を失ったインパルスだけなのだから。
******
「退きなさいってのォ!」
一方、デストロイをインパルスに任せた四機は、襲い来る圧倒的なモビルスーツの集団に苦戦していた。
数だけなら、全く問題にはならない。ウィンダムだけ三十いたとしても、
アスラン、ハイネ、レイ、ルナマリアという面子ならば、おそらく五分とたたずカタがつく。
が、それを不可能にしているのが、赤紫の驚異的な技量のウィンダム、そしてカオスの存在だった。
―――そして何より、いつ撃ってくるか分からない、デストロイという恐怖と。
「チィッ!散開して敵に当たる!レイ、俺がカオスを引き付ける。君は今のうちに赤紫のウィンダムを!」
「了解!ルナマリア、来てくれ!」
「分かった、任せて!」
そう言って、アスランの操るセイバーはカオスを牽制しつつ、上空へと舞い上がっていく。
SEEDまで発動している彼なら、ここでカオスを撃墜できるだろうが、
先程からデストロイの様子がおかしい。
現に今も、味方のウィンダムまで巻き込みながら、円盤部のネフェルテム503を放ってきた。
それに巻き込まれインパルスが脚部を失うが、
とどめと放たれた肩部の高エネルギー砲アウフプラール・ドライツェーンを、
インパルスはパーツをパージすることで、辛うじて回避できたようだ。
コアスプレンダーの状態で、シンはいったんミネルバに戻る。
……こんな状態では、とてもじゃないがカオスだけに集中することなど出来ない。
「テメエ……ナメてんのかよぉ!」
スティングの絶叫と共に、怒りのままに撃ってくるカオス。
今のアスランにとって、一対一ならば確実にカウンターで仕留められるような甘い攻撃。
だが、彼には反撃にまで転ずる余裕はなかった。
今は隊長として常に周囲に目を配らなければならない。
現に、先程もルナマリア機が危うくハチの巣にされるところだった。
……自分とレイがサポートに入ったおかげで、助かったのだが。
そしてそんな片手間な攻撃で沈むほど、スティングもまた弱くはなかった。
「死ねやオラァ!」
「クッ……!」
先程から、この繰り返しだ。
ウィンダムの数は確かに減ってきているが、
それでも赤紫のウィンダム、そしてカオスが厄介極まりない。
インパルスはいったんミネルバまで戻り、予備パーツを得て復活するだろう。
だがそれまでの時間稼ぎができない。
(こうなれば、俺がデストロイに特攻するしかないか……)
そしてここで、アスランの十八番がいよいよ炸裂しようとしていた。
セイバーでは機体性能に不安がある。だからこそ、デストロイを沈めるのなら、
自分まで沈む覚悟をしなければならないだろう。
「ハイネ……」
そしてそのことをハイネに伝えようと、アスランは通信機に手を伸ばした。
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「メイリン!レッグフライヤー、チェストフライヤーを出してくれ!
フォースはソードを。それと、デュートリオンビームの用意を!」
いったんミネルバに帰還するコアスプレンダーから、シンの声がブリッジに響く。
戦線はインパルスがやられるまで膠着状態だったが、
それが撤退したことにより、徐々にミネルバのモビルスーツ陣が不利になり始めていた。
そのためもあり、シンの声には焦りが感じられる。
「メイリン、急いで頂戴ね。
……こうなればせめて、アークエンジェルが来るまで持たせないと」
タリアも優秀なザフトの軍人である。
上層部が何を思ってミネルバをマドリードに配置したのか、
そしてアークエンジェルをなぜ可能性としてほとんどない、カサブランカなどに配置したのか。
そのことくらいはしっかりと理解していた。
(出来るなら、アークエンジェルが来る前に仕留めたかった。
だがさすがに、我々の現戦力では、奴らを止められないか……!?)
相変わらずその表情は冷徹なまま全く変わらないが、彼女は内心愕然としていた。
デストロイの射程に入れば、戦艦の機動力では回避など無謀なため、
ミネルバはこうして射程外から戦況を見守ることしか出来ない。
生命を賭してパイロットたちが頑張ってくれているというのに、自分は何もできない。
さらにこうしているうちにも時間は刻々と過ぎていく。
艦長席の手すりに置かれた、彼女の強く握り込まれた右手が、
彼女自身意識などしていないというのに、ブルブルと震えていた。
「艦長!」
そしてインパルスが合体を完了したと同時に、メイリンがタリアを呼んだ。
だが彼女に振り向くまでもなく、モニターについ先日知り合ったばかりの女性が映る。
「グラディス艦長。遅くなって申し訳ありません。
特務隊アークエンジェル、ただ今戦線に到着いたしました。
現在、フリーダム、及びムラサメを先行させています」
「ええ……ありがと」
モニターに映る女性は、マリュー・ラミアス。
彼女の顔を見て、タリアは自らの心の泉に、複雑な波紋が広がるような心地がしていた。
アークエンジェルが間に合って、パイロットたちが助かるかもしれないという思い。
そして、彼らの到着を許してしまった、自身らの至らなさ。
それらが複雑に絡み合い、彼女はつい乱暴に吐き捨てるような口調になってしまう。
だが何度も繰り返すようだが、彼女は優秀な軍人だった。
ザフト軍に多大な損害を与えてきたアークエンジェルにこだわることを愚かだとは、誰にも言わせない。
だがこの状況では、彼らはそのザフトの中の誰よりも、頼りになる存在だった。
自分たちが生還するためにも、何よりデストロイを沈黙させるためにも。
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「モビルスーツ全機に告ぎます!
現在、七時方向よりアークエンジェル隊所属、フリーダム及びムラサメが向かっています。
彼らと合流するまで、もう少しだけ、耐えてください!」
メイリンの上ずった声が、スピーカーから響いてくる。
その声を聞いたパイロット各人の思いは複雑だったが、唯一共通する思いがあった。
―――これで、戦局はこちらに傾く。
アスランも、それを聞き辛うじて自爆を思いとどまった。
「ミネルバの皆さん!遅くなって申し訳ありませんでした。
アークエンジェル隊所属、フリーダム、ムラサメ。ただ今より加勢します!」
アークエンジェルから先行したフリーダム、そして戦闘機形態のムラサメが接近する。
これで、デストロイを除けば、パワーバランスは一気にミネルバ側へと傾いた。
連合側の司令官にして、赤紫のウィンダムで指揮を執るネオ・ロアノーク大佐は、
そのことをよく理解している。
「スティング、まっすぐ突っ込むな!奴らを真正面から相手にしたら死ぬぞ!
いったんステラの援護に回る!」
「ええっ!?……分かったよ」
そしてアークエンジェル隊との合流前に、残っていたウィンダム、カオスはデストロイの後方へと下がった。
その光景を見ながら、漆黒のムラサメを駆るアークエンジェル隊の紅一点、ナガセが、キラのフリーダムに通信を入れる。
「隊長。敵はデストロイを盾にするつもりです。我々はどうすればいいですか?」
「僕とインパルスで、デストロイの武装を潰します。
皆さんは僕がデストロイを引き付けているうちに後方へ。
そして、ウィンダムとカオスを潰してください!」
「「「「了解!」」」」
ムラサメ四機に指令を出し、キラはデストロイへと向かう。
あれだけ数がいたウィンダムも、ミネルバのパイロットたちによって、
さらにステラの滅茶苦茶な攻撃でおよそ三分の二が撃墜され、
残っていた機体もデストロイの後方へと下がっている。
―――正しい判断だ。
自惚れでなく、デストロイをモニターの中心に捉えながら、キラはそう思う。
自分の技量は、自身が最も理解している。
核動力が封じられた世界の中、反則的なスペックを誇るフリーダムを駆る以上、
今の自分を落とすことは誰にも出来はしない。
だから、デストロイを潰すにしろ助けるにしろ、それは自分の仕事でもあると理解していた。
「おい!フリーダムのパイロット!」
と、デストロイへ向けスラスターを勢いよく噴かせようとしたフリーダムに、
シンのインパルスから無遠慮かつ無礼な通信が入った。
それに苦笑しながら応じるキラに、更なる通信が入る。
「アンタの機体じゃ接近戦能力が足りない!
コイツを持っていけ!」
そう言い捨てて、インパルスは背中に背負っていた対艦刀を、
ビーム刃を展開した状態でフリーダムに手渡した。
それに一瞬驚くキラに、シンはさらに言葉を続ける。
「オレの機体を離れたそれがビーム刃を展開できる時間は、五分だけだ!
その間に武装を!」
哀しいくらいに真剣な声色。
かつて自分がこれほど、誰かを守るために戦ったことがあったろうか。
純粋な想いでデストロイのパイロットを助けたいと願う彼を、キラはほんの少し羨ましく思う。
そして、その思いを遂げさせてやりたいと、柄にもなく思ってしまう。
「分かった……行くよ!」
決意の声が、スピーカーを通してシンの耳に届く。
それを聞き、シンもまたインパルスをデストロイへと再び向けた。
リフレクターを展開するデストロイへ向かう二機のモビルスーツを見ながら、
ムラサメパイロットの一人がぼそりと呟く。
「しかし……運命ってのは不思議なもんだよなぁ」
「どうしたんですかチョッパー?珍しくため息なんかついて」
チョッパーと呼ばれた男のぼやきに、丁寧に反応する茶髪で小柄な男。
彼の名前はハンス・グリム。コールサインはアーチャー。
ムラサメ隊の中では最年少である男だ。
彼らは空の上では互いを呼ぶときにコールサインを用いるようにしているため、
最年少である彼も、あえて敬称は付けず自分より年上のその男に返答をしたのだ。
「いや……かつては『ラーズグリーズの悪魔』とか言われて、今も真っ黒な機体で飛んでる俺たちがさ。
今はこうして、『天使』の名を冠する白亜の艦(ふね)で戦っている……
運命ってモノが本当に存在するなら、そいつはどうしょうもなく皮肉好きな奴なんじゃないかってね」
そう言いながらも、チョッパーの口調はひどく楽しそうだ。
彼自身、この皮肉な運命とやらがいたくお気に入りなのだろうか。
ラーズグリーズの悪魔。
かつて、彼らがまだ大西洋連邦軍に所属していた頃のあだ名だ。
大西洋連邦やユーラシアに伝わる古い御伽話に出てくる悪魔、ラーズグリーズ。
その名を冠する、ブレイズ、エッジ、チョッパー、アーチャーの四人。
かつてはたった四機で戦局を変えるとまで云われた彼らだったが、
モビルスーツの台頭で、軍内部において疎まれる存在となってしまっていた。
さらに大西洋連邦が核攻撃という暴挙に出たことによって、彼らは遂に、
亡命という最悪の手段をとることを決意したのだった。
「でも、悪くないんじゃない?
かつて天使の長を務めたルシフェルは、神に逆らい堕天使となり、そして悪魔、サタンとなった。
天使と悪魔って、両極端に見えて、実は凄く近しい存在なんだと思う」
「そうだな。どちらも敵を殺すことを容赦しない。
天使は神の御名において、悪魔はそのあくなき衝動から、多くの者を殺める。
まっ、俺はウェールズ生まれのくせしてキリスト教じゃないから、実はよく知らないけどさ。
忘れてはならないのが、結局俺たちはそういう存在だってことだ。
今は天使の膝元で、『絶対の正義』を掲げる俺たちでも」
チョッパーの言葉に、普段はどちらかと言えば寡黙なナガセが珍しく応え、
そしてそれをマクレーンが受け継いだ。
その言葉に沈黙する三人。
「まあ、天使と言われようが、悪魔と謳われようが、どちらでも構わないさ。
俺たちには信念がある。だから戦う。
デストロイ(あんなもの)に頼ることのない、平和な世界を築くために」
ムラサメ四機が、それぞれコクピットの中から前方を見やる。
彼らの視線の先を行くフリーダム、そしてインパルスは、
これが初めての共同戦線とは思えないほどに、華麗な連係を披露していた。
フリーダムはインパルスから譲り受けた対艦刀を持ちながらも、
自らに向く無数のデストロイからの砲撃を次々に回避していく。
そしてその隙を突き、インパルスがリフレクターの隙間から入り込み、
デストロイの肩部高エネルギー砲、アウフプラール・ドライツェーンの右砲塔を、
その手に持った対艦刀エクスカリバーで斬り裂く。
「ブレイズ……分かっていたつもりだったけど、実際に見ると全然違うわね。
ドッグファイトなら私も少しは自信はあるけど、やっぱりヤマト隊長はとんでもないわ。
それと、あの子も」
デストロイの背後に回り込んだウィンダム、カオスを潰すべく大きく旋回しながら、
ムラサメ二番機に乗ったナガセ―――コールサイン:エッジ―――が、
フリーダムとインパルスの機動を見て呆れたようにつぶやく。
かつては、任務中の私語など真面目な軍人である彼女の中では有り得ないことだったが、
口達者なチョッパーの影響ですっかりお喋りになってしまったらしい。
いや、むしろ彼に突っ込みを入れまくっているうちにそうなったと言ったほうが正しいか。
そしてそれに苦笑しながら、マクレーン―――コールサイン:ブレイズ―――も喋りだす。
「ああ。だが、だからこそ隊長をこんなところで失うわけにはいかないんだ。
彼の存在なくして、オーブの勝利はありえない。
だから俺たちは、隊長の行く手をさえぎる……」
そしてそこで、ブレイズの瞳に鋭い光が宿る。
彼の視線の先には、痺れを切らしてデストロイの右背後から現れ、
インパルスに向けてそのライフルを構える、カオスの姿があった。
そして彼は瞬時に、今彼らムラサメ隊がいるところからカオスを挟んでちょうど反対側に、
男と女どちらが乗っている機体かは知らないが、蒼いグフがいることも同時に確認する。
「あの緑のモビルスーツ、カオスを討つ!」
ブレイズの言葉が、残りのムラサメ三機のパイロットに届く。
と同時に、彼らも即座に自らの任務を理解し、彼らが最も得意とする戦闘機形態のまま、
インパルスの妨害を開始したカオスに向け、機体の速度を上げた。
「なんだぁ!?邪魔すんなよ、クソッ!」
カオスのコクピットに座る男は、名をスティング・オークレーと言う。
彼もまたステラと同じように調整されたエクステンデットだが、
その中でもかなりの成功体とも云えるのが彼だった。
なぜなら、強化人間には付き物である精神の不均衡が、他と比べれば圧倒的に少ないから。
だがそれも、所詮は"強化人間"という枠内だけの話である。
軍人に求められる冷静な判断力。
それを一般的な基準で求められたとしたら、さすがに成功体といっても心許ない。
さらに彼は、ステラに関する記憶が無いために、彼女がデストロイのパイロットに選ばれたことを、
ほとんどトンビに油揚げを攫われたくらいにしか考えられなかった。
そんな彼が取る行動は何か。
それが、今彼が行ったような、一時撤退を是とせず、とにかく敵を倒すことだった。
「馬鹿、スティング!今出てったら死ぬって言ったのが分からんか!」
そして痺れを切らして飛び出したカオスを見て、強襲部隊の指揮官であるロアノーク大佐は、
どこか共鳴のようなものを覚えるグフと戦っている自機のコクピットの中、
表情を悟らせない仮面に覆われた顔で唯一つ、彼の機嫌を量ることの出来る口元を大きく歪ませた。
これ以上やれば噛み砕いてしまいそうなほど強く、彼は歯軋りをする。
ミネルバの戦力を侮ってはならない。
歴戦の指揮官である彼には、それが当初から半分直感とはいえ分かっていた。
そして幾多の戦いを経て、それは確信に変わっていた。
さらにこれに、ダーダネルスで突如介入し、連合艦隊をいともあっさり粉砕したアークエンジェルが加わるのである。
今は正式にオーブ軍所属となったアークエンジェル。
どこか懐かしさを感じさせるその戦艦は、オーブという後ろ盾を得、間違いなく強化されている。
恐らく現世界最強の称号を二分する彼らに対抗するには、自分たちの力だけでは到底及びはしないだろう。
だからこそ、アークエンジェル登場と同時に、彼はデストロイを盾に進軍するという方法を採った。
それも全ては、スティングやステラ、彼ら大切な兵士を失わないための最も確実な方法だったから。
だがこのままでは、スティングのカオスは、墜ちる。
その嫌な予感を振り払うように、彼はヒートロッドで攻撃を仕掛けてくるグフにビームを撃ち込んだ。
******
「グフのパイロット、聞こえるか!?」
デストロイの左側でウィンダムを牽制していたルナマリア機にその通信が入ったのは、
彼女が漆黒のムラサメをその視界に捉えた直後だった。
モニターには、MVF-M11R -BLAZE- と表示されている。
「こちらグフ、ルナマリア・ホーク。用件をどうぞ!」
「こちらブレイズ。ただ今より、我々ムラサメ隊で、カオスに対する波状攻撃を仕掛ける。
君は隙を見て、カオスを討ち取ってほしい!」
それだけ言って、ブレイズからの通信が切れた。
ルナマリアとしては正直複雑な心境だったが、今は背中を預ける大切な仲間。
だからこそ、心の壷から湧き起こる様々な感情に無理やり蓋をして、
彼女は手元を操作し、機体にレーザー重斬刀、テンペストを構えさせた。
それからの戦いを、ルナマリアは後に妹に述懐している。
曰く、『ナチュラルもコーディネイターも戦場では関係なんかないって、あの時初めて思い知った』そうだ。
ある程度距離をとって、ルナマリアはムラサメ四機がカオスへ向かうのを眺めていた。
もっとも、背後からは残ったウィンダムの攻撃がひっきりなしに続いているし、
デストロイの砲撃はますます見境がなくなっているから、あくまで優先的に注意を向けている程度だったが。
だが、それでもそれからの光景は、彼女の脳裏に刻み込まれて消えることがなかった。
自分に通信を入れた機体を中心に、四機の戦闘機が綺麗に縦列を組んで、
カオスに向かってビーム、ミサイルを発射しながら飛ぶ。
カオスも当然それに反撃しようとするが、四機はまるで示し合わせたかのように、
それぞれ全く別の方向に飛んで、カオスの攻撃を回避していた。
翻弄されている。
今のカオスを表現するのに、これほど適した言葉もないだろう。
それぞれ全く別の方向から、機体を囲むようにビームを放ちながら飛び回る四機の戦闘機。
なまじモビルスーツ形態より機動力がある分、カオスのビームがかすりもしない。
文字通り悪魔のような連係に思わず呆然としかけたルナマリアだが、即座に先程の通信内容を思い出し、
横合いから迫ってきたウィンダムを、指先から発射するビームガトリング、ドラウプニルで潰し、
カオスへと一直線に向かっていった。
「チッ!何なんだよテメエら!」
カオスのコクピットの中、スティングは毒づく。
見事なまでの連係攻撃で次々に急所を狙ってくるビーム、ミサイルを辛うじて回避しているが、
こちらの攻撃は当たらず、さらに味方のウィンダムの援護射撃すら当たらず、
最悪なことにどんどん機体にはかすり傷が増えていく。
思わず死という単語が彼の脳裏をよぎる中、スティングは彼が最も信頼する男の声を聞いた。
「スティング!すぐに助ける!しばらく持たせろ!!!」
ネオ・ロアノーク。仮面をかぶったヘンなおっさんだが、優秀な軍人。
恐らくパイロット能力は、自分をはるかに凌ぐだろう。
そんな男の声に、絶望を深くしていた彼は決意を新たにし、
ビームライフルを飛び回るムラサメのうち一機に向ける。
「いつまでもうろちょろしてんじゃねぇよ!」
叫びながら放ったその一撃は、直撃こそしなかったが、一機のムラサメの主翼を掠める。
その衝撃に、飛び回っていた機体の連係が、僅かに崩れた。
反撃の糸口見つけたりとばかりに、スティングはさらに攻撃を加えようとする。
だが、これが、彼の最期の抵抗となった。
「はああああぁぁぁぁああああ!!!」
裂帛の気合と共に、ルナマリアのグフがビームソードを構えてカオスに突撃してきたのだ。
カオスのコクピットの中、スティングは新たな敵機の接近を示す警報を聞く。
それに瞬時に目を向けたスティングだが、そのときは既に、何もかもが、遅かった。
視界に広がる白。それをグフのビームソードの光と認識するより早く、
スティング・オークレーの身体は、その愛機と共に腹部から真っ二つに両断された。
ビームソードを勢いよく振り抜いたルナマリアのグフの背後で、カオスの断末魔の爆発が起きる。
ルナマリアは敵機を撃墜した感触に一瞬意識を飛ばすが、
鳴り止まない警報の音に、ほんの数刹那で彼女は背後から迫るウィンダムに気が付き、
そのビームを回避してからムラサメに通信を入れた。
「援護感謝します!被弾したように見受けられましたが、大丈夫ですか!?」
「こちらアーチャー!ビームが掠りましたが、耐ビームコーティングのお陰で、
戦闘には支障ありません、大丈夫です!」
その言葉に、先程までほとんど憎らしく思っていたというのに、
どことなく安心するルナマリア。
が、カオスを倒したとはいえ、戦場はまだ、全く予断を許さない状況下にあった。
「貴様らァ!」
スティングを倒された怒り、そしてカオスを失ったことによってもはや勝機がほとんどなくなったことで、
赤紫のウィンダムを駆るロアノーク大佐を先頭に、ウィンダムが最後の特攻を仕掛けてくる。
ムラサメの四人やルナマリアは、エースとはいえキラのような反則的な腕前を持っているわけではない。
そのためまずは一斉に攻撃してくるウィンダムの群れを上昇してやり過ごし、
そしてまた華麗な連係を見せながら、反撃へと転じていった。
「悪いが、ここまでだ」
「こんなところで、死んでたまるもんですか!」
ブレイズの冷たい宣告と共に、ルナマリアの執念と共に。
残り少ないウィンダムは、ゆっくりとその数を減らしていく。
ロアノーク大佐のウィンダムも頑張っているのだが、
機体性能があくまで通常のものと変わらないということもあり。
一分もすれば、残っているのは、彼のウィンダムのみとなっていた。
「ここまでか……」
覚悟を決めて、コクピットの中、ファントムペインに配属となって以来外すことのなかった仮面を取り、
ネオ・ロアノーク大佐は、じき訪れるであろう自らの最期の時を待った。
スティング、そしてウィンダムのパイロットたち。
彼らを守りきれなかった自責の念が、今更ながらに湧き上がる。
が、すぐに訪れると思っていたその最期の瞬間は、彼がいつまで待っても訪れることはなかった。
不思議に思い、周囲を見渡すネオ。
そして彼の眼に映ったのは、円盤部、そして肩部の砲塔を全て潰され、ほとんど丸裸になっているデストロイの姿。
そして、自らの機体を包囲して銃口を向ける、モビルスーツ形態に変形したムラサメの姿だった。
******
「もうやめてくれ、ステラ!」
対艦刀エクスカリバーを構えながら、インパルスが外部スピーカーをも通じて呼びかける。
その気になればすぐにでもコクピットを潰してしまえる零距離。
この声がステラに届いていない筈はない。
だがそれでも止まらないデストロイの攻撃に、シンはあくまで武装を封じ込めることにこだわった。
右の砲塔が潰されたアウフプラール・ドライツェーンが、左砲塔のみ臨界をはじめる。
その射程に捉えられているのは自らのインパルス。
だがそれもすぐに、対艦刀を持って突っ込んできたフリーダムによって叩き潰された。
誘爆で激しい爆発を起こす砲塔から、フリーダムは対艦刀を犠牲にし、
爆風を盾で防御しながら距離をとる。
「シン君!パイロットの子は、まだ説得できないの!?」
キラの声には、焦りの色がありありと浮かんでいた。
シンの技量は、本気になったキラの機動に付いてくるとんでもないもの。
その技量を生かした連係で、すでにデストロイの円盤部は左右共に沈黙。
さらに、他のいくつかの武装も全て沈黙。
そして今、左肩部に残っていた砲塔も遂に叩き潰された。
これでもう、デストロイはモビルスーツとしての役割は果たせない。
円盤部を失えば飛行は出来ないし、護衛のウィンダムもほぼ全てが壊滅。
さらに先程、グフとムラサメの連係攻撃で、カオスが撃墜された。
「やってますよ!でもまだ駄目なんです!もう少し、もう少しだけ!」
そう返答をして、なおも必死に呼びかけるシン。
だがそれを向けられているデストロイからの反応は、いまだない。
既にデストロイに残されているのは、胸部のスーパースキュラのみ。
その威力こそ途方もないとはいえ、動くこともままならない今のデストロイでは、
それはただの玩具に過ぎない。
そしてそのスーパースキュラを潰すことは、誘爆する危険がある以上、
恐らくその近くにあるだろうコクピットへの直接攻撃と、実質的に大差がなかった。
「もうやめるんだステラ!これ以上怖い思いなんかしなくたっていい!
オレが、オレが守るから!!!」
既にその声は、半ば絶叫となって響いていた。
しかしデストロイはそれにも反応せず、胸部のスーパースキュラが臨界をはじめる。
それを見たキラは眉を歪ませ、インパルスから借り受けた対艦刀エクスカリバーを構えた。
約束を守れないのは辛いが、それでも守らなければならないものがある。
キラはそう自らの信念に従い、デストロイのコクピットへ向けスラスターを吹かせようと手を動かし―――
直後にシンから届いた通信内容に絶句した。
*******
「あたまが……いたい……」
デストロイのコクピットの中、ステラの精神は既にオーバーロードを起こしていた。
頼みである武装は大半が潰されている。
何度『死』と言う単語が脳裏をよぎったか分からない。
だがそれでも、先程から周囲を飛び回るフリーダムとインパルスは、
決して自分を殺そうとはしていなかった。
怖いものは殺す。
そう教えられてきたステラには、なぜ彼らがそんなことをするのか分からない。
「もうやめるんだステラ!これ以上怖い思いなんかしなくたっていい!
オレが、オレが守るから!!!」
どこかで聞いたような声が響く。
だけど、あと一歩のところでそれが思い出せない。
そしてその思い出せないということは、彼女にとっては不快なことでしかなかった。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」
満足に動くこともままならない機体で、スーパースキュラを撃つ。
全てを殺してしまう圧倒的な威力の、光の奔流。
スティングやアウルあたりであれば快感にもなりえるそれは、
しかし彼女にとっては、ただ大きな安心感を生むものでしかなかった。
だから、彼女はまだ、ヒトとして壊れているわけではないのだろう。
だが安心感だけという以上、それが敵を殺せなかった場合彼女の精神がどうなるかは、
語らずとも明白なことだった。
「うそ……まだ、いる……」
必殺の意志を込めて放ったスーパースキュラは、しかし誰一人として敵を落とせてはいなかった。
レーダーには相変わらず、自分を囲むように存在する敵機。
しかも、もはやレーダーに表示される味方機は、ネオのものしかない。
「いや……しぬのはいや……」
もはや呪いに近いその言葉で自身を縛りながら、
彼女はもう一度、スーパースキュラのエネルギーをチャージする。
だが、そこで彼女にとって、思いがけない出来事が起きた。
「デストロイのパイロットの君、聞こえる?」
今まで、インパルスからは何度となく通信が入っていた。
だが、今度の通信の相手は、フリーダム。
それにわずかに訝しがる彼女に、フリーダムからさらに重ねて通信が入った。
「もし聞こえているなら、今すぐに君の目の前を見てほしい。
大丈夫だよ、僕は、決して君を撃ちはしない」
敵というには、あまりにも優しい声。
その程度で心動かされるステラではなかったが、前を見ろといわれた以上、
例え内心ではどのように思っていても、見てしまうのが人間としての本能だろう。
そして本能的に、コクピットのモニターから前方に視線をやったステラは、
そこに、信じられないような物を見た。
「ステラ、オレだよ、シンだ!シン・アスカだよ!」
彼女の目の前にいるのは、手を機体の前で合わせ、そこに一人の少年を乗せたフリーダム。
そしてその少年の顔をもっとよく見ようと、ステラは無意識のうちにモニター解像度を上げた。
それは、まるで何かの運命に導かれるように。
「…………シン?シンなの?」
そしてその少年の顔を見た瞬間、ステラの脳裏に、懐かしい記憶が蘇る。
海に落ちた自分を助けてくれた少年。
ザフトに捕まった自分を、ネオの元に返してくれた少年。
その彼が今、フリーダムの手の上で、自分に向かって手を振っている。
「ステラー!聞こえているなら、オレの言うことを聞いてくれ!
オレは決して君に怖い思いはさせない!
怖いものが来たらオレが守ってやる!
君がオレを忘れていても、オレは君を覚えてるから!
だからもう、そんなモノに乗って、怖い思いをしなくていいんだ!
だから……!」
モビルスーツが支配する戦場において、生身の人間の声が届くなど有り得ない。
しかし今、シンの心からの叫びは、確かにステラに届いていた。
それは、ネオのウィンダムを除く全てが破壊され、
残ったモビルスーツは皆、動きを止めて彼らの行方を見守っていたからという、物理的な理由。
そして何より、ステラの記憶の中で、シン・アスカという少年が、
あるいはネオに匹敵するくらい大きく、あたたかい存在としてあったという理由から。
「でも……ステラ、これに乗るしかない……
こわいものは、みんなやっつけて、ネオを守らないと……」
シンの言葉は、とても優しく心地よく、自らの心に染み渡っていく。
出来るなら、ステラは今すぐに、シンの腕の中に飛び込みたかった。
だが、ステラを縛る二重三重の鎖の中にはまだ、
ブロックワードに匹敵するほどの強度を誇っているものがある。
それこそが、ネオ・ロアノークという、彼女が最も信頼する他人。
「ステラ!!!」
そう。今彼女を呼んだその男こそ、ステラがデストロイに乗り続ける理由。
「俺は大丈夫だ!ステラが行くところに、俺もちゃんとついて行く。
だから、ステラがしたいようにすればいい!!!」
「ねお……?」
ネオの言葉に後押しを受け、ステラは遂にスーパースキュラのチャージを止めた。
デストロイの胸部で収束していたエネルギーが霧散し、周囲に静寂が訪れる。
それを機会と見たのか、フリーダムがゆっくりと、デストロイへ向かって近づいていく。
これがフリーダムのみだったならば、恐らくステラは再び恐慌状態になってしまっていただろう。
だが今、フリーダムの手元には、彼女を誰より安心させてくれる少年がいる。
近づくにつれて、その表情がよりいっそう鮮明に、ステラの前に映像として映し出されていた。
「シン―――!!!」
画像がより鮮明になるにつれて、ステラの中で靄がかかっていた記憶も、
また同じように鮮明になっていった。
もっと彼の顔を見たい。
映像なんかじゃない、すぐ手の届くところにある大きな安心として。
その一念で、ステラは自らデストロイのコクピットハッチを開け、外に出た。
「ステラ……!」
シンの緊迫していた表情が、ステラと目を合わせた瞬間一気に崩れ、泣き笑いの表情になる。
そんな彼の顔を見て、ステラをデストロイに縛り付けていた最後の鎖が、遂に千切れた。
シン・アスカ。
彼は、その時のことを、恐らくこれからずっと、一生涯忘れることはないだろう。
緊迫した戦場の中、ずっと。
ただ助けたいという一念のみで呼びかけていた声に反応して、
ついにステラは、自分からそのデストロイという名の牢獄から抜け出した。
そして彼女は、自分に向かって、デストロイのコクピットから飛び出してくる。
「う、うわあぁぁ!?落ちるってステラ!」
デストロイのコクピットがある位置は、相当に高い。
落ちたら間違いなく死ぬというのに、この少女は気にした様子もなく飛び出した。
シンもまたそれを見て即座にフリーダムの手から飛び出そうと構えるが、
しっかりとステラを受け止められる位置にフリーダムが移動したため、
辛うじて彼は、ステラをその両腕に受け止めることが出来た。
もっとも、モビルスーツのてのひらの上などという恐ろしく足場の不安定な場所で、
なおかつ高所から飛び降りてくる、少女とはいえよく育ったステラを受け止めたのだ。
腕に少女の身体が収まった瞬間、シンはあっさり後ろ側へ倒れたのだが。
「……心臓、止まるかと思った」
これはステラを受け止めたあとに、シンが思わず呟いた言葉だった。
が、全く同じ言葉を、彼を手元に置いているフリーダムのパイロットも呟いていたとは、
彼は当然知らないだろう。
キラ・ヤマトの天才的な腕だからこそ、飛び込んでくるステラを抱き止められる位置に、
即座にフリーダムを移動させることが出来たのだ。
キラ自身、まさかいきなり飛び出してくるとは思っていなかったため、
反応できた自分の技量に、今までのどんな時より感謝していた。
「痛ぅ……!って」
ステラの重みでぶっ倒れ、背中と頭をしたたかに打ちつけ、シンの目の前には一瞬火花が散った。
が、それでも彼はすぐに復活し、その目を開ける。
「シン!!!」
と、そこにあったのは、自らが絶対に助けると幾度となく熱望した少女の笑顔。
倒れた自分の上に覆いかぶさった少女は、子犬のようにじゃれ付いてくる。
「む、胸!胸当たってるってステラ!!!」
初心な少年は、一方的にじゃれ付いてくる少女にたじたじになっていた。
ステラを助けたら、まずは今まで全然役に立てなかったことを謝ろう。
そして、彼女の前でもう一度、これから絶対に守るということを誓おう。
そう考えていたのが、自分の胸に当たる柔らかい感触で、全て吹っ飛んでいった。
そんな光景をモビルスーツのコクピットで見ているキラは、
少女を助けられたことに心から喜びつつも、
あまりのばかっぷるっぷりに、今すぐ手を放して放り出してやろうかとも考え始めている。
そして、周囲でそれを見守っていたモビルスーツのパイロットたちは、
全てが終わったということを理解し、一様に安堵のため息をもらしていた。
「……そういうことだ。俺は、あんたらの所に投降する」
ステラが無事にシンによって救われたのを見たネオは、
自らを囲んで銃を突き付けているムラサメに対して、通信を入れた。
そしてしばらく後、そのうちの一機から、折り返し通信が入る。
「了解。艦長より着艦許可が出ました。
こちらはオーブ軍特務隊アークエンジェル所属、ケイ・ナガセ一尉であります。
武装を全てパージした後、私の誘導に従ってください」
「ナガセ?……いや、何でもない。受け入れ感謝する。
こちらは地球連合軍第81独立機動軍ファントムペイン所属、ネオ・ロアノーク大佐だ。
身勝手な願いかもしれないが、デストロイのパイロット、ステラ・ルーシェの受け入れも許可してほしい」
「それならば安心していただいて結構です。
もとよりラミアス艦長によって、第弐優先順位として設定されていますから」
第弐優先順位ということは、最初から、彼らはステラを助けるつもりだったということだ。
最優先は自分たちを足止めするということは当然として。
そしてそれは、ネオ・ロアノークが心の奥底でいつも願っていたことと大差はない。
何ということだ。
結局自分は、ステラを助けるという同じ願いを持ちながら、
それを妨害して、あまつさえ大切な兵士たちを死なせてしまったのだ。
その最悪な皮肉に、ネオは思わず声を上げて笑った。笑うしかなかった。
そして、周囲のモビルスーツが、全てが終わったことを理解して退却し始める頃。
シンはようやく、それまでじゃれ付いていたステラをいったん引き離し、自分の対面に座らせた。
「シン、泣いてる……嬉しいの?哀しいの?」
まっすぐ向かい合うステラが、心底不思議そうな顔をして、その白い指でシンの涙をすくう。
どうやら自分は、気が付かないうちに大粒の涙をこぼしてしまっていたらしい。
ああ、なるほど。だから、ちょっと前から、ステラの美しい顔が、よく、見えなかったんだ。
そんな簡単なことに今更ながら納得して、シンは答える代わりに、少女をきつく、
絶対に離さないと誓うように、抱きしめた。
「シン……?」
突然抱きしめられ、ステラは驚いたように声を上げ、その身体を硬直させる。
だがそれも一瞬。
誰よりも優しい安心を与えてくれる少年に身を任せ、ステラはゆっくりとその身体から力を抜いた。
そして彼女を抱きしめているシンが、ふと前方に目をやる。
彼の視線の先では、ステラという心臓を失ったデストロイが、ゆっくりと後ろ側へ倒れていった。
轟音を響かせ、大地に沈むデストロイ。
それを見ながら、少女を閉じ込めていた牢獄が完全に崩壊したことを実感し、
シンはよりいっそう、少女を抱く腕に力を込める。
沸騰する頭の片隅に残った理性が、これ以上やれば痛がるだろうということを警告するが、
嬉しさと達成感に体中を支配されているシンは、今はただ溢れんばかりの感情のまま、少女を強く抱きしめていた。
******
「それじゃあ、ステラのことは、頼む」
フリーダムの腕から降りて、シンはコクピットから降りてきたキラに、ステラを託した。
脅威が去ったことで、アークエンジェルとミネルバが到着し、クルーがそれぞれ降りてきている。
だが、たとえ死地を共にした仲間であっても、彼らの間は、まだ大きく隔たれていた。
シンたちは、ザフトの軍人。だが、アークエンジェルはあくまで、デストロイを倒すときだけの仲間。
だからデストロイを倒したところで、シンにとっての仕事はまだ、終わったわけではないのだ。
「うん。正直オーブの技術力でどこまで出来るか分からないけど。
けど彼女の部隊の隊長だった人を捕虜にしたし、出来る限りのことはするよ」
いまだにシンから離れようとしないステラを見て苦笑いしながら、キラはシンに握手を求めた。
シンは結局ステラを戦場に引きずり出した『隊長』という言葉にわずかに顔をしかめるが、
それを振り払うように頭を振って、キラの手を、今度はしっかりと握り返した。
「ああ。ザフトの技術じゃ、彼女を助けられない。
悔しいけど、オレじゃ何も出来ないんだ。だから頼む」
大切なものを託すように、シンはキラの手を強く、強く握る。
握力はそれほどかけられていないのだが、それでも託された想いの重さに、キラはその顔を僅かに強張らせた。
「行っちゃうの、シン?」
自分を置いてミネルバへと歩いていく少年を見送りながら、ステラが寂しそうに呟く。
その言葉にシンは、今すぐに全てを捨てて彼女の元に駆け寄りたい衝動を覚えた。
だが、彼にはステラを助けたことで、分かったことがあった。
最後にもう一度引き返し、シンはステラを優しく抱きしめて、ささやく。
「大丈夫。全てが終わったら、必ずステラのところに行くから。
オレにも、やりたいこと、やらなくちゃいけないことが出来たんだ。
だから今は行かせてくれ、ステラ。
帰ってきたら、いっぱいいろんなところに連れて行ってやるから。
世界はとっても広いんだって、
狭いモビルスーツのコクピットだけじゃないって、
いくらだって教えてやるから。
だから……待っていてくれ」
聞き様によっては、男、いや漢シン・アスカ一世一代の大告白である。
ミネルバ側ではタリアやアスランが困った顔をして目を逸らし。
ルナマリアとハイネが素晴らしくイイ笑顔をし。
メイリンが真っ赤になってキャーキャー言って一人で盛り上がり。
レイは相変わらず無表情ながらも、どことなくうれしそうな顔をし。
アークエンジェル側では、マリューがどことなく羨ましそうな表情で穏やかに笑い。
ムラサメ隊のチョッパーが冷やかそうとして、ナガセに相変わらず肘鉄を入れられていたり。
荒廃した戦場の中、彼らは束の間の平和を享受していた。
「では……」
「ええ。今度は、平和な世界でお会いしたいですね……本当に」
最後にタリアとマリューが握手を交わし、それをきっかけとして両戦艦のクルーたちが、
それぞれの母艦へと帰っていく。
タリアは握手を交わしたときのマリューの台詞が、ただの社交辞令以上、
さらには心からそう願っているかのような響きを持っていたことに驚いていた。
手を放した後も、彼女はしばらく呆然と、歩き去るアークエンジェルクルーの背中を見送っていたほどだ。
だが、彼女には感傷に浸る余裕などない。
デストロイを倒したところで、自軍が不利なのは変わらないのだ。
ミネルバのクルーたちが、彼女を呼んでいる。
戦場を吹き抜ける風が、不思議なほど穏やかに、彼女の頬を撫でていく。
それに乗って聞こえる声の中でも、アーサーのとりわけ緊張感を抜かせるような声に苦笑し、
タリアは最後に何か言いたげにマリューの背中を一瞥し、
そのままミネルバへと、今度は一切振り返ることなしに、ゆっくりと戻っていった。
******
ミネルバと、アークエンジェル。
本来の歴史ならば決して交わることのなかった、二つの最強を冠する戦艦。
だが、最強はたった一つであるからこそ、最強で有り得る。
いずれ、今度は互いにとっての最強の敵となって、それぞれの道を塞ぐように現れるだろう。
その時が来ないことを心から願いながら。
しかしそれでもなお、それが恐らく現実となる予感をそれぞれの胸に秘めながら。
天使と女神の名を冠した二つの戦艦は、
恐らく最初で最後であろう共闘を終え、互いに背を向けて飛び去っていった。
・
・
●あとがき
こんにちは。ステラ救出まで書こうとしたら、知らないうちに恐ろしい容量になってしまっていたこうくんです。
パッと見たら、普段の倍くらいありました。というわけで、今回はテレビで言えば、一時間枠のスペシャル版だったということでよろしくお願いします。
また、年末が近いため、次週は休載という形にさせていただきたいと思います(どこの漫画家やねん自分)。
さて、今回安直にもステラさん生存という形をとってしまいました。
この設定を生かせるかどうか、自分にそこまでの技量があるかどうかは凄まじく疑わしいですが、
シンステがもっと見たかった作者のわがままということで許していただけると幸いです。