真司が目覚めると、そこは多くの人が騒いでいるところだった。
自分の姿を見える範囲で確認するが、普段どおりの真司の姿をしているようだった。
少し驚いたのは、今まで経験があったVRゲームに比べてかなり精密に作られている所だった。
さすが上野研究室の作成した物だけあるなと感心した。
多くのVRゲームと同じで、プレイヤーの姿は現実の世界と同じ物を使用しているようだった。
色々な理由はあるが、姿を変えると体の動きをコントロールしづらくなる。
慣れ親しんだ形から極端に姿を変えた場合、精神に悪影響があるともいわれている。
改めて周りの光景を見ると、広く取られた場所で周りには森があった。
かなり遠くには大きな岩と幾人かの人の姿も見える。
そばにある道の先には高い城壁があり、その城壁の上からは遠くにある城らしき物の姿が見えていた。
目の前には大きめの施設が建っており、その前で5つの受付らしきものが有り、そこを中心に人が群れていた。
状況が分からない真司はまずは友人達との合流をはたそうと探し始めた。
しばらく探したところ無事に5人が固まっているのを見つけた。
「よう! もうみんな揃ってたんだ。 今ってどういう状況なんだ?」
5人に会えた事を喜びながら、皆に問いかけてみる。
「遅かったな! 相変わらず寝坊グセを発揮してるな 。俺達はもうある程度情報を確認して、相談してるところだぞ」
土破がからかうように現状を伝える。
「相談って何を話しているんだ?」
「教授から説明があった種族と性格ってやつよ。 で今誰がどのクラスをやるか相談中なの」
真司の質問に江留が答えた。
「へー、ちなみにどうやってそれを確認するんだ?」
「管理者の人から教えてもらったんだけど、【ステータス】って念じれば見えるわよ。 真司のも確認して教えて」
そう言われた真司はこの辺は普通のVRゲームと同じだなと思いながらステータスを確認した。
名前??? 種族:ホビット 性格:中立
「俺はホビットで性格が中立らしい。 俺って中立な性格かなー?」
「お前はまさに中立向きだ。 女の子以外は結構なんでもうまく対応するだろ」
真司の問に、土破が笑いながら答えた。
「うるさいな。 ほっといてくれ。そういうお前は性格何になったんだよ」
「俺は善で種族がドワーフってやつだな。 まさに俺向きだ。ハッハッハ」
「どこが善だ。 むしろ悪人だろう、お前は」
そう言い合う2人に飛雄馬と望がとりなすように告げた。
「まあまあ2人とも。 教授も言っていたじゃないか。 あまり善とか悪とかこだわるなって。 こんなものただの呼び名さ」
「そうだよー それよりも真司君が来たんだし早く職業を決めちゃおうよー」
その声に改めて全員がお互いのステータスを確認した。
飛雄馬 種族:人間 性格:善
夕舞 種族:人間 性格:善
土破 種族:ドワーフ 性格:善
望 種族:ノーム 性格:善
真司 種族:ホビット 性格:中立
江留 種族:エルフ 性格:中立
「お みんな善と中立だな。 これって全員一緒のグループを組めるんだよな?」
「うん。さっき確認したけど大丈夫だってー 元々仲が良い人達って結構同じ様な性格になるらしいよー」
真司の問に望が答えた。
「ほー で誰がどのクラスになるかってもう決めたのか?」
「うーん 管理者の人に一応聞いたし、少しは決まってるんだけどねー。 これで作ちゃって良いかが不安かな」
真司の問に今度は夕舞が答えた。
聞くと、夕舞と土破がファイターをやりたいらしく、種族的にもOk。 これは現実の2人を考えるとピッタリだろう。
江留がメイジ。 何でも魔法を使ってみたかったらしく、種族的にも合っているらしい。
後が飛雄馬と望、そして真司がまだ決まってない状態だった。
悩んでいる6人に声がかかった。
「やあ 新人冒険者のみんな。 もう職業は決まったのかな? 判らなければ相談にのるよ」
そう声を掛けてきたのは革っぽい服をきた男性で、頭上に【管理者 ケン】というタグが付いていた
どこかで見た覚えがあるなと思っていたら、教授の説明の時に横に並んでいた研究室所属の学生の1人である事に真司は気がついた。
一同を代表する形で飛雄馬が答えた。
「管理人の方ですか。 ええ実はまだ決めかねている状況です。 これで良いのかアドバイスをいただけますか?」
心よく了承したケンという人物は誰がどのクラスに適性が有り、またバランスが良い組み方を説明し始めた。
管理者と呼ばれる人物は複数いるらしく、周りでもあちこちのグループと話していた。
「という事は、我々の種族、性格だとこのクラス分けが一番バランスが良いのですね?」
「そうだね。他にも組み合わせはあるけど、君達の希望と先の事を考えたら僕はこの基本な組み合わせをおすすめするね」
「特に君達は元々6人だから、何かなければ途中で人が入れ替わらないだろうし」
そうやって提示されたクラスは基本職で構成されていた。
飛雄馬 ファイター 種族:人間 性格:善
夕舞 ファイター 種族:人間 性格:善
土破 ファイター 種族:ドワーフ 性格:善
望 プリースト 種族:ノーム 性格:善
真司 シーフ 種族:ホビット 性格:中立
江留 メイジ 種族:エルフ 性格:中立
「先程他の方に上級職という物もあると聞きましたが、どういうものでしょうか?」
「上級職にもボーナスポイントが高ければなれるけど、僕はおすすめしないね。 成長してパーティ構成を考えてからでも遅くないよ。君達がこの6人でやりたいならば、この構成は冒険に必要な要素をほとんどカバーできる」
「ボーナスポイントという物は何でしょうか?」
飛雄馬の質問にケンは続けて説明した。
「ボーナスポイントはクラスを作る際にランダムで与えられるポイントでね。 自分の能力値に加える事でよりクラスに必要な能力を特化できる」
「またクラスを作る際に必要な能力値があり、それをクリアする為にも使うが基本職なら低くても作る事ができるよ」
「稀に高いポイントが出ることがあって、それを使えば上級職の2つ、ビショップと侍にはなれるんだが」
そういった後ケンは上級職の説明を始めた。
ビショップ: 性格:善、悪
魔法使い呪文、僧侶呪文を両方修得可能だが、レベルアップは若干遅めで、呪文修得は非常に遅い。唯一アイテムを識別する能力を持つ。
、
サムライ: 性格:善、中立
魔法使い呪文が習得可能な戦士。最強装備の刀を装備することが出来る。レベルアップは遅めで、呪文修得は非常に遅い
ロード: 性格:善
僧侶呪文が修得可能な戦士。最強防具の鎧を装備する事ができる。レベルアップはかなり遅めで、呪文修得は非常に遅い
ニンジャ: 性格:悪
作成が非常に難しく、レベルアップとHP成長が非常に遅い
敵の首をはねて一撃でしとめるクリティカルヒットが可能。同条件では、他の戦闘職(戦士・侍・ロード)よりも戦闘能力は高い。
盗賊には劣るが、罠の識別、解除も出来る。強力な忍者専用の武器を装備可能。
素手でも攻撃力は強く、何も装備していない時のACがレベルアップとともに良くなる。
「と言う訳で、強力なクラスだが作った場合周りとレベルが合わなくなる為、逆にしばらくは戦闘についていけなくなる」
「作らない方が良いという事ですか?」
「考え方によるね。 初めから上級職を勧める管理者もいるし。 まあBPが多い場合は先を見越して上級職になり易い様にポイントを振る事は良い事だと思うよ」
そこまで話てからケンは思い出したように付け加えた。
「あと今は関係ないけど、将来職業を変えるクラスチェンジは1回しかできないよ」
それを聞いた飛雄馬は理由を聞いた。
「ゲームバランスの為だね。 呪文を全て覚えているニンジャとかで攻略されてもつまんないってのが教授の言葉だよ」
「はあ・・・色々変わった方なんですね。 上野教授って」
思わず突っ込んでしまった江留に、ケンは全くその通りだと深く頷いた。
シンは自分がシーフの担当になっている事が気になったので質問してみた。
「俺、このシーフってやつなんですけど、理由があるんですか?」
「シーフは序盤は必要性が薄いし、戦闘能力も低いんだけど、将来必要なアイテムや隠し扉を発見する為にも絶対必要だね。君の種族のホビットが一番向いているし、善の人だと性格的になれないからね」
「序盤必要ないなら、後でそのクラスチェンジでなるってのは駄目なんですか?」
「うーん難しいところだね。 君ならメイジになれるからその手もあるが、シーフが必要になって来た頃だとまだメイジの呪文は全部覚えていなくてね。そこでクラスチェンジをするとその後が結構中途半端になる。 君がメイジとして育つまで、残り5人を他のフリーのシーフとメンバーを入れ替える手もあるが、君達はそれを望むかな?」
6人で事を成し遂げたいと思っているシンは首を横に振った。
「であれば、確かに序盤は苦しいが初めから6人で対応できる形の方が良いと思うよ。 6人でずっとやっているメンバーは、息が合っていてやはり強い物だよ」
その言葉に一同はお互いを見つめ合い、深く頷いた。
その後にも飛雄馬達はクラスに関する色々な質問をし、必要な情報はほぼ教えてもらった。
「じゃあこんな物かな。 質問がなければ他にもアドバイスをしなくてはいけないので失礼するよ」
お礼を言う飛雄馬に対して、クラスを作った後にまた説明会があるからと言い、ケンは立ち去っていった。
「よし、じゃあみんな問題なければこのクラスで作ろうか」
飛雄馬の問に皆は同意の声を上げていた。
しかし真司だけは自分の職業に少し不満というか寂しい物があった。
(俺も戦士で戦うとか、メイジで魔法とかやりたかったな。 シーフって聞いてる限り戦闘ではあまり役に立たないみたいだし)
VRゲームに慣れていた真司はゲームの戦闘では自信があった。
しかし、と真司は考える。 先程のアドバイスを聞く限り、みんなで目標をクリアするのであれば、誰かがこのクラスをやるべきなのだろうと。
(自分の種族が向いているならば、役割を果たさないとな)
気持ちを取り直した真司は皆に声をかけた。
「俺も問題ないよ。早速作りに行こうか」
真司の声で皆は受付まで歩き始めた。
*
「ようこそ、訓練所へ。 希望のクラスは決まったかな?」
受付でケンと同じ管理者で研究室所属の学生、マサルはそう告げた。
「はいケンと言う方からアドバイスをいただき、全員決まりました。 クラス作成をお願いします」
リーダーらしき男性が丁寧にそう答えた。
ケンの下でしっかり決めたようなら大丈夫だな。 そう思いながらマサルは説明を続けた。
「じゃあまず全員名前だけ先に登録してくれ。 ここを触ると入力デバイスが出るからね」
机の上に置いてあった小さな札を指差し、それに従い全員が決めておいた呼び名を入力した。
「これでOk。それでは1人ずつこの水晶球に手をあててもらえるかな。 ボーナスポイント(BP)の数値が決定するので、割り振ってクラスを決めてくれ」
「また各数字のMAXは初期値+10だから一つの所を上げすぎない方が良い」
「分かりました。誰からいくかい? いなければ僕が最初でもいいんだが」
その声にドワが大きく手を上げた。
「はーいはい! 俺が最初にいくぜ! 初物は縁起が良いってばあちゃんが言ってたしな」
「馬鹿な事言わないで。恥ずかしいじゃない。 順番なんて関係ないでしょ」
エルが少し頬を染めて、男性をたしなめている。
なかなか面白いグループだと思いながら、マサルは答えた。
「OK。 じゃあ君からいこうか。 これに右手を当ててみて」
ドワが元気に手を押し当てると、半透明の作成画面が浮かび上がった。
「うん。BPは6だね。 希望するクラスは何かな?」
「戦士なんだけど、このポイントって良い方かな?」
マサルは楽しそうに聞いてくるドワに本当の事を言うべきか迷うが、嘘も言えない為事実を話す。
「あーすまないが・・・下から2番目だね。戦士にはもちろんなれるから安心してくれ」
それを聞いたドワはガックリとうなだれ、ポニーテールをした女性、ユマが後ろで笑い転げていた。
「まあ気にしない方が良いよ。 みんなこんなもんだからね。 名前を入力してからポイントを割り振ってみて」
マサルはドワに告げて戦士への登録を促した。
「えーとどれに振るのがいいのかな?」
やっと持ち直したドワが聞いてきたので、試験のルールに従いマサルはアドバイスをした。
「まずにVITはどの職業でも生き残る為には非常に大事な為、ある程度まで確保するべきだ」
「戦士ならまずSTR(力)に11になるように入れて、余った5ポイントはSTRかVIT(生命力)に分けるね」
「戦士の場合はSTRに入れれば攻撃力が上がるし、VITならHPがより上がりやすく打たれ強くなる」
ドワはユマをチラッと見てからSTRに2、VITに4を入れた。
「攻撃はユマに任せるよ。 俺は守りを固めるさ」
マサルはその男の言葉に少し感心した。 意外にこのゲームの重要点である役割という物を理解していると。
「ふふん。じゃあ次はアタシね。アンタの分しっかりと攻撃重視にするわよ」
次はそのユマで、名前を入力してBPは9であった。
マサルはそのユマが善で人間な為アドバイスをした。
「君がある程度のレベルでサムライかロードを目指すなら、STRとVITの他にも少し入れると早めになれるよ」
少し考えた後、ユマはこう告げた。
「ううん、いいです。 みんなと一緒にレベルを上げたいし、初めは有効な能力値に振りたいです」
「なるほど、確かにそれも良い方法だ。 では振り分けをどうぞ」
ユマはSTRに5、VITに4を振った。
次に残り2名が登録し、名前がノムの方はプリーストでBPが8、エルの方はメイジでBPが7であった。
ノムには同様に善である為、ビショップになれる事を説明したが断ってきた。
次に残り2人の男性の内、先程のリーダーらしきヒューマが登録し、BPはなんと17であった。
「おお!すごいね。 10台後半はなかなかでないよ。 10人に1人ってところかな」
マサルの声にパーティからは喜びの声が上がった。
「さすがヒューマだな! お前は一番良い所を持っていきやがる! あの時の合コンでもそうだった!」
「だから恥ずかしいからこんな所でそういう事は言わないで! ふう、まあともかくヒューマおめでとー」
「良かったですねー 幸先が良いですよ」
「ほんと!誰かさんとは大違いね」
「うるせえ!俺を引き合いに出すな!」
「ヒューマ おめでとう。これ結構良いステータスにできるんじゃないか?」
皆が騒ぐ中、ヒューマは全員にお礼をいった後、マサルに告げた。
「アドバイスをお願いできますか?」
「もちろん。 そうだね、まず前提として君は善のヒューマンだから、ロードになれる可能性が高い。 サムライなら少しレベルを上げればなれるぐらいだ。 ここまでBPがあれば、将来はロードにならない方が勿体無いんだが、どうする?」
「目指した方が良いでしょうか?」
「ああ、僧侶系が2名以上いる事は深部では必須条件に近い。レベルが上がったら良いタイミングでなるべきかな」
マサルの発言を受け、ヒューマは深く頷いた。
「ではロードを目指した振り分けを教えてください」
「了解。まず特化せずに必要値にむけ均等に振る。 これで早ければレベル7~8ぐらいかな」
「まあレベルアップ時に下がる時もあるから実際はもっとかかるけどね」
言葉通りにヒューマが振り、登録は終わった。
マサルはリーダーらしき者が高BPを出した事に少し驚いていたが、本当に驚くのはこれからだった。
最後の黒髪の男性、シンが右手を出し、登録画面が出たのだが・・・。
「BPは・・・29!? まさか! いや可能性は確かに・・・しかし出るとは」
マサルは思わず声を出してしまい、目の前のシンを見直した。
シンは後ろのメンバー同様に、ポカーンと口を開けていた。
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BPの確率はウィザードリィ@Wikiを参考にしました。
5~9 59050/65536(≒90.10%)
15~19 6316/65536(≒9.64%)
25~29 170/65536(≒0.26%)
だそうですので29だと0.05%ぐらいでしょうか。