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No.16372の一覧
[0] ウィザードリィ・オンライン VRMMO物 [Yamori](2010/06/19 11:38)
[1] 第1話  試験の説明[Yamori](2010/05/12 19:20)
[2] 第2話  性格テスト[Yamori](2010/02/11 19:45)
[3] 第3話  町外れの訓練所(前編)  [Yamori](2010/02/12 23:57)
[4] 第4話  町外れの訓練所(後編)[Yamori](2010/02/16 20:21)
[5] 第5話  戦闘訓練[Yamori](2010/02/16 20:12)
[6] 第6話  街の施設[Yamori](2010/02/21 12:57)
[7] 第7話  最初の冒険(前編)[Yamori](2010/03/03 12:34)
[8] 第8話  最初の冒険(後編)[Yamori](2010/02/21 13:02)
[9] 第9話  明日への準備[Yamori](2010/02/21 19:53)
[10] 第10話  レベル2への道[Yamori](2010/02/22 19:23)
[11] 第11話  訓練所再び[Yamori](2010/02/23 21:28)
[12] 第12話  強敵現わる[Yamori](2010/02/24 19:34)
[13] 第13話  カント寺院はサービス業?[Yamori](2010/02/25 19:45)
[14] 第14話  レベル3到達[Yamori](2010/02/28 18:25)
[15] 第15話  マーフィー先生とダークゾーン[Yamori](2010/03/03 13:45)
[16] 第16話  マーフィー先生の特別授業[Yamori](2010/06/29 22:13)
[17] 第17話  コインは耳が好き[Yamori](2010/06/28 21:49)
[18] 第18話  ウサギはどこ見て跳ねる(救出 前編)[Yamori](2010/05/12 19:07)
[19] 第19話  答えは首 (救出 後編)[Yamori](2010/05/13 21:07)
[20] 第20話  鑑定の結果[Yamori](2010/05/30 14:52)
[21] 第21話  休息日のトラブル[Yamori](2010/06/08 00:37)
[22] 第22話  魔法の武器[Yamori](2010/06/09 18:40)
[23] 第23話  新スキル[Yamori](2010/06/14 20:57)
[24] 第24話  2人の美女[Yamori](2010/06/15 00:22)
[25] 第25話  その名はホーク[Yamori](2010/06/17 21:10)
[26] 第26話  それぞれの事情[Yamori](2010/06/19 11:53)
[27] 第27話  地下2階の探索(前編)[Yamori](2010/06/24 01:56)
[28] 第28話  地下2階の探索(後編)&地下3階[Yamori](2010/06/26 19:10)
[29] 第29話  地下3階の総力戦[Yamori](2010/06/29 21:30)
[30] 第30話  それぞれの夢[Yamori](2010/07/04 18:48)
[31] 第31話  意外な特典取得者[Yamori](2010/07/10 19:38)
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[16372] 第22話  魔法の武器
Name: Yamori◆374ba597 ID:97d009b4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/09 18:40


そこはある一室であった。
縦横20メートル程の広さがあって中央には机が並んでおり、奥の方には少し大きめな机がある。
それぞれの机の上には端末替わりに使われているウィンドウが浮かんでおり、資料と思われるプリントした用紙がうず高く積まれていた。
部屋の中央の天井近くには大きなウィンドウが3つ浮かんでおり、映像が映っている事から擬似的にディスプレイの役割を果たしていることが分る。

壁にはゲームの映像らしき物のスクリーンショットがいくつも拡大されて貼りつけてある。
見る人が見ればその画像はこの『ウィザードリィ・オンライン』のゲーム画像だと分ることだろう。
一番大きく貼られた画像には、椅子に座った老人とその護衛らしき者の前で向かい合っている6名のプレイヤーの姿が映っていた。
その反対側の壁には同じくらいの大きさの画像が1つあり、両側に3枚ずつそれより少し小さめの画像が貼ってあった。
それらの画像は同じ様な構図であったが、プレイヤーらしき者たちが対峙しているモノの判別はつかない。
そう、それらは『モノ』としか言いようが無いほどに、形容し難い形状をもっていたからだ。

それらの画像を除けば部屋自体から受ける印象として一番適当なのは、『研究室』であろうか。
この部屋はこのウィザードリィ・オンラインの管理者達の待機場所としてVR内に作られた上野教授の研究室であり
この世界の全てをコントロールするという意味では『神々の部屋』でもあった。
そして本来並んでいる机の持ち主であろう人達が、奥の机の前に集まりウィンドウを見つめながら会話をしていた。


「それで教授、本当に止めなくてよかったんですか? あの問題を起こしていた彼らに対して警告等で止めることもできましたが」
そう話していたのはシン達が最初に出会ったケンと呼ばれる管理人であった。

話しかけられた上野教授は深く背を沈めていた椅子から体を起こすと、頭を振りながらその質問に答えようとした。

「構わんよ。 すでにこの世界は動き始めている。 我々は余程のことがなければ干渉をするべきではない
まあ彼らの行為も褒められたものではないが、あれぐらいの執着心は今後の事を考えればむしろ必要とも言えるだろう
また限度を越えた行動を取る人間は、自然にこの世界では淘汰されるはずだ。 それぐらいの事は受講生達に期待してよいだろう?」

「はあ…… 教授がそうおっしゃるならば異論はありませんが」
あまり納得しかねる様子でケンがそう告げると、教授はうなずき視線をディスプレイに上げる。

その様子を少し離れた所で見ている女性2人が会話をしていた。
街の施設全般担当のブッチと冒険者の宿(アドベンチャーズ・イン)担当であるメグミであった。
「あれさ、教授ってただ面白がっているだけだよね」
「ぜっーたいそうだって! また悪ノリのクセが出てるわよね!」

その隣では同じ街の施設担当のメルが、目を輝かせてつぶやいていた。
「ああ! さすが教授ですね。 何と言う深いお考えでしょう……」

それを聞いたブッチとメルはまた始まったという顔しながらハァーと溜息をついた。

その時、教授のそばの机で擬似端末をいじっていた戦闘システム担当のガルマが声をあげる。
「うーん 教授。 どうも彼らが設定した対人用の戦闘ですが、ちょっと公平と言い難い物にしてありますね
レベルや装備は彼らの権限じゃいじれませんが…… 今そちらのディスプレイに転送します」

送られてきた設定を教授と周りの管理者が確認をする。
「ふむ…… そうだな。 一応誰かにも現場に行っておいてもらうか。 顔見知りが良かろう
指導をしていたコトハ君と、そうだな一応シーフクラスのホーク君にも行ってもらおう」

心配そうにディスプレイを見ていたコトハだったが、名前を呼ばれたことで慌てて答える。
「はい! すぐ行きますね。 それで対応はどうしましょうか」
「今後の周りへの影響もあるだろうから、彼らが増長しそうなら君が得意な”指導”をしておいてくれ
それでホーク君の方は…… ん? おらんのかな」

室内にはほとんどの管理者が集まっていたが、特徴があるホークの姿はなかった。

「今調べてます。 ええと、ホークですが現在現場にいますね。 どうも初めから隠れて見ていたようですが」
「そうか彼らしいな。 分かった、彼には私から連絡をしておく」
すぐに調べ始めたガルマの答えに、教授はそう答えた。


しばらく目を閉じて何かを考えていた教授は、椅子から立ち上がり集まった管理者を前に厳かに宣言する。

「さて諸君、分かっているな? これは我々にとって良い機会だ!」

管理者達は自らが尊敬してやまない教授の言葉に耳を傾ける。




「さあ第8回目ののトトカルチョを始めよう! 前回は1階の特典を得るパーティー当てだったが、今回は難しいぞ!
ガルマ君、さっきのデータですぐにオッズを出してくれたまえ!  今度は私も負けんぞ!」

教授の言葉に管理者一同は子供の様にワァーと歓声を上げ、口々に予想を言い始める。
なんだかんだ言っても教授とその研究室のメンバーは似たもの同士が揃っているのであった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


訓練所の広場の隅には、迷宮の玄室を型どった建物が出現していた。
壁の一画にはドアが設置されており、ここからそれぞれの対戦者が入れるようになっていた。
壁やドア自体は半透明になっていて、周りの観客からも十分に中の様子は確認できる。
管理者達が対人戦のシステムを用意しているのはここ訓練所内だけであり、実際には迷宮内でプレイヤー対プレイヤーが戦える仕様にはなっていない。
作られた理由としては、やはりどれほど優れたAIよりも熟練したプレイヤーの方が手強いからである。
深層に挑むプレイヤー同士が戦うことで更なる高みを目指せるようにと作られており、今回の受講者全員が初めの説明時に使い方は教わっていた。

とは言ってもまだ地下1Fで探索を続けるプレイヤー達には無縁のものであり、シン達も実際には使ったことは無かった。
対して戦士2人組みの方は既に利用をしたことがあるらしく、設定も彼らが行い既に1人が部屋の中で待機していた。

シンも既に装備などの準備は終えていた。
頭は冷静だが心にはまだ熱いものが残っている。
シンは駈け出したい気持ちを抑え、ゆっくりとドアを抜ける。


中に入ると周囲の風景は一変した。
部屋の中の光景は迷宮でよく見る玄室のものになっていた。
床や壁は岩をくり抜いたかのように多少ごつごつしているが、明らかに人の手が入ったかのように仕上げられている。
部屋の広さ的には10メートル四方ぐらいで、剣を振り回すのに問題ない広さになっていた。

正面には茶髪の男が腕を組み、顔にはわずかながら笑みを浮かべて立っている。
1対1の設定なのでもう一人の黒髪の方は部屋の外で見ているのだろう。
男の装備は初めにドワ達も使っていた胸当てと兜、盾を持っており、武器は普通のロングソードを腰に差していた。
胸当ては肩までの上半身を覆う形に作られていて、下半身の防御効果はない。
プレートメイルに比べるとまだ軽い為、この世界では戦士系以外に僧侶も装備できるようになっていた。

対してシンの方は、防具は最初に50Gで買った革の鎧しかなく、武器はショートソード+1のククリを装備していた。
シーフでも小型の盾は装備できるのだが、シンは通常は弓を装備していた為、盾を使うことがなく買っていなかった。
その事に対しシンは少し不安を感じ、無意識に腰に差していたククリの柄をつかむ。
すると掴んだ剣から僅かであるが、力強いものが流れ込んでくるような気がする。
その感触に少し弱気になりかけたシンは改めて気合を入れ直すのだった。



このウィザードリィ・オンラインにおいて+1等が付いたり特殊名がつく魔法の武器と普通の武器との間にはある違いがある。

まず基本的な威力、切れ味が違う場合が多い。 
例えばロングソードの基本ダメージは1~8と設定されているが、ロングソード+2(真っ二つの剣)の場合は基本ダメージが1~10に設定されている。
加えて+の数字分だけダメージが加算される為、ロングソード+2の場合は実質ダメージは3~12となる。

次に命中率が高くなる。
通常、攻撃の際に相手の防御力(AC)を抜けるかの判定があるが、それぞれの武器にその抜けやすさが設定されている。
前述のロングソードでは4、ロングソード+2では6となり、敵に当たった際にそれが敵の防御を抜け、有効打になりやすくなる。

そして一番の違いが攻撃回数が付与されている事があるということだろう。
通常では戦士系などの戦闘職はレベル5を境に攻撃回数が増えていくが、その他のクラスでは攻撃回数が増える事は無い。
だが魔法の武器はそれを可能にする。
シンがもつショートソード+1であるククリは、ドワ達のように2回の攻撃回数を行う事を可能としていた。
これが例えば、ドワがこのククリを持っても3回攻撃ができるようにはならない。
レベルの上昇で上がった攻撃回数と、魔法の武器で上がる攻撃回数は多い方が優先されるのだ。
またあくまでも上限が2回攻撃になるだけで、状況によっては1回しか攻撃できない場合も多い。
これらの攻撃を有効に使うには、やはりそういう戦い方に慣れていくしかない。
だが攻撃回数を増やす武器の使い方を覚えるのは決して無駄にはならない。
なぜなら特に深層で見つかるこれらの武器では4回攻撃を可能とするような物さえあるからだ。

このように魔法の武器を手に入れることは、圧倒的な攻撃力の上昇を可能とする。
逆に言えばこれらの魔法の武具が無ければ、深層での探索は難しいという事でもある。
それゆえ、いやそれらを発見する為だけにシーフというクラスが存在すると言っても過言ではない。

現時点ではこれらの情報はプレイヤーの間では知られていない。
ただしボルタック商店に初期状態で1振りずつしか置いてない魔法の武器を購入できれば、問われればボルタックは説明を行うことだろう。
1万ゴールドを超えるような武器を購入した者には、それ以上の価値を持つ情報を手に入れることができるようになっていた。
また魔法の武器を使う者が増えれば、自然にそれらの差を感じ取れるだろうから、攻略が進めば情報が出回るのも時間の問題であろう。



シンが相手のステータスを確認しようと意識すると、種族はヒューマンでレベルは3と分かるが同じパーティーでない為HPまでは分からなかった。
シンのレベルは5でありレベルだけで言えば有利だが、なにしろ相手は戦闘職であり油断することはできない。
仮にドワ達を相手にするのであれば1対1で勝つのは難しいと思えたが、レベルから推測すればHP自体はそこまで負けてないはずである。
不安としては、最近は弓を使ってばかりで剣を持って接近戦をするのは久しぶりであり、まずは落ち着いて攻撃を避ける事に徹しようとシンは決めた。 

「用意はできたか? 始めるぜ。 少しは歯ごたえがあるところを見せてみろよ」
「ああ、いつでもいいぞ。 お前はシーフを馬鹿にしてたが、どれぐらいの事ができるか見せてやるよ」
「ちっ! うるせえよ!」
男の挑発にシンが返すことで戦闘が始まった。

茶髪は盾を構えると剣を抜き、振りかぶりながらシンに突進してきた。
左上からの斬り下ろしが迫ってきたところで、シンは慌てずに一歩後ろに下がる。
勢い良く振り抜かれた剣の軌道は、ユマのような鋭さは無かったがそれなりのスピードと威力がありそうだった。
男はさらに一歩踏み込み、下がった剣を跳ね上げるようにしてシンに斬りかかる。
先程のようなスピードは無かったため、シンは慌てずに男の盾側である左手にまわることでそれを回避した。
男を見ながらそのままシンはさらに進み、部屋の中央まで行って距離を取り直した。
男もすぐに振り向き、2回も攻撃が躱された事にいらだったのか顔を歪ませる。

「本当に逃げ足だけは早いな お前らは!」
挑発して隙を作ろうと考えたのか、男が叫ぶ。

対してシンは無言で男の動きを見つめながら考える。
(今の攻撃は本気なのだろうか。 わざと手を抜いてきて試された? それにしては悔しそうだがあれも演技か?)
攻撃はそれなりのものだったが、普段見ているドワ、ヒューマ、ユマと比べるとかなり差がある。
レベル3ということで差し引いてもそこまで驚異には見えないが、油断を誘っている可能性もあり気を抜ける状況ではない。

今度は男はゆっくりとすり足で近づいてきた。
自分の攻撃が簡単にかわされたことから、少し慎重にやろうと考えたようだ。
シンとしては真正面からはやりたくなかったが、下手に動きまわって壁に追い込まれると苦しくなる。
近距離で何とか攻撃をよけて、隙があれば攻撃に移ろうと決めて動かずに待つ。
剣を正面に構え、シンは体勢は低くとり重心を下に移して動きやすくする。

ジリジリと近づいた男は攻撃範囲に入った辺りで、剣を横殴りに振るってきた。
頭を狙われたシンは咄嗟にさらに体勢を低くしてそれを躱す。
力を入れずに振ったためか、体勢を崩さず通り抜けた剣は意外に早く次の攻撃に移ってきた。
男はしゃがんだシンに対し斜め上から垂直気味に剣を振り下ろす。
対してシンは右足を斜め後ろに1歩伸ばし、それに体を引きつけるようにして体ごと剣を避ける。

さすがにこの攻撃で男の体勢が崩れた。
シンは少し変わった形状を持つククリの扱い方が分からなかった為、普段のできるだけ素早く振り抜く攻撃でなく、かなり力を込めて振るってみた。
茶髪の男はある程度予想していたようで、手に持つ盾でしっかりとその攻撃を受け止めた。

それから数回お互いが攻撃を行うが、シンはすべて避けて見せ、男は盾と鎧で上手く攻撃を受け止め、お互いダメージを与えられなかった。

(さすがにACが低いせいで硬そうだな)
シンは1階でよく出る敵と比べてそう感想を持つ。
実際地下1階でよく出会うローグやコボルトのACは、8から10と見た目の防具に反してほとんど生身のように高い。
対して戦士のプレイヤーであるこの男で言えばACは2とかなり差がある。
厳しいと思われたこの試験でも、これだけプレイヤー側に有利にできているのであった。

均衡が崩れたのはそれからすぐであった。
男の振り下ろしてくる攻撃に対し、慣れてきたシンは不用意に右に避けてしまった。
男は盾の正面にシンが来たのを見て、剣での攻撃ではなく左手の盾を押し出すようにぶつける。
正面からきた幅広い盾の攻撃は避けるスペースもなく、シンの肩口に当たり体勢を崩された状態になった。

(よし!)
男は体勢が崩れたシンを見てチャンスと思い、振り下ろした剣に力を込める。
左足を一歩踏み込み、剣先を上げつつ渾身の突きをシンの胴体目がけて突き通そうとした。

(やば……い)
一歩たたらを踏んだシンは、相手の剣を持つ右手が上がらずに前に押し出そうと動き出すの見て、不利な状態だと悟る。
避けれない状態で突かれる事を予想したシンは、もう駄目かという考えが頭をよぎる。

その時シンの思考は高速で回り始める。
頭に浮かぶのは先程悔しそうな顔をしていた女性シーフの顔。
そしてリオのすまなさそうな顔が頭に浮かぶ。

(負けられるかよ!)
バランスを崩していた足に急速に力が入り始める。
だが片足しか地面についてない状態なため、左右に飛ぶことはできない。
低い位置から迫りくる突きに対し、シンは無意識に全力で頭ごと上半身をかぶせる。
前に傾いた重心の勢いで、残った足に力を込めてシンは空中に飛び上がる。
突きはシンの革鎧を削りながらも、体に突き刺すことはできなかった。

部屋の外から見ていた観客からは歓声が上がる。
避けれないタイミングで放たれた突きに対し、シンが華麗に前転宙返りを決めて回避したのを見た驚きの声だった。

男の左手側に着地したシンは体を回転させ、ほとんど無意識に攻撃に移る。
シンは右手に持つククリで無防備に側面をさらす男の左腕に斬りつけた。
深く腕を切り裂かれた男は手に持つ盾を保持しきれなくなり、床に落とした。
シンは切り裂いたククリから慣性が抜けていき、新たな力が吹き出るのを感じる。
深く考える前に腕が勝手に動き、男の胴鎧に守られた脇腹にククリを突き立てる。
剣先に重心があるククリは十分な重さを持って男の胴鎧をぶち抜き、深くその刀身を潜り込ませた。
シンにとっては初めての2回攻撃であった。

「ぐあっ」
男からそんなうめき声が上がる。
男は混乱していた。
経験上絶対に避けれないと思われた攻撃は、前転というありえない動きでかわされて一瞬の内に左腕と脇腹に攻撃を受けたのだ。
痛みから逃げるように反射的に飛び下がると、目の前にはシンが引き抜いたククリをまた構えるところだった。
半ば恐怖から逃れるように、右手に持つ剣を振り上げシンに向かって振り下ろそうとする。
シンは振り下ろされた剣に対し、半身をとりながらククリで斜めに受け止め、そのまま刃先を下げて衝撃を逃がす。
振り下ろした状態で無防備な相手に対し、横をすり抜けながらシンはククリを振るった。
左腕同様に深く右腕を切り裂かれた男は、これで剣も落としてしまう。
男はもう戦える状態ではなく、半ば呆然と立ちすくみ弱々しく声を上げた。

「クソッなんだあいつは 何でシーフがあんなことができるんだ」
男のHPはもうわずかしか残っておらず、後1~2撃も食らえば死んでしまうような状況だった。

シンはそんな男の様子を見て、勝負はついたなと思った。
剣も盾も使えない状況であれば、シンの攻撃を防ぐ手段はない。
対人戦の仕様は良く覚えてないが、初めの取り決めではHPが0になったら終りだと言っていたの思い出す。
死んでもここ練習所である限り、何のリスクも無く生き返ることができるが、だからといって無抵抗の男を殺すのもしのびない。
男が負けを認めて部屋から出て行けば、それでこの勝負は終りになるだろう。

シンは構えていたククリを下ろして男に近づいていく。
初めはボーッと見ていた男だったが、近づくシンに対して声を荒げる。

「おい それ以上近づくな!」
シンは言う通りに少し手前で足を止めて男に話しかける。
「もう終りで良いよな? 自分の状況は分かってるだろうし」

その言葉に顔を歪ませる男であったが、急に少しづつ表情に変化が起きはじめていた。
「お前…… なにを勝ったつもりでいるんだ? まだ俺のHPは0になってないぞ」
「……そうか じゃあ気は進まないが勝負をつけさせてもらおう」

男の言葉に仕方がないかと内心つぶやき、シンは止めを刺すべくククリを構えようとした。
その時シンの後ろからかすかな足音が聞こえてきた。

反射的に振り向こうとしたシンの背中に衝撃と激痛が与えられ、シンは為す術も無く前に倒れ込む事となった。





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