ドリームフェスタ決勝が行われる代々木第一体育館は、世界でも珍しい吊り屋根式の構造物として有名である。 二本の支柱が、そこから連なるワイヤーロープで大きな屋根を吊り上げている。曲線を主体としたデザインは、どこぞの有名建築家が監督したもので、世界的にも評価がべらぼうに高い。 体育館という名前がついていることからして、なんかちんまりした、バスケットの二面コートぐらいの広さを想像するかもしれない。 が、 しかし、 会場規模は後楽園ホールの五倍。東京ドームの四分の一ほどにも及ぶ。氷を張ればアイススケートもできるし、フィギュアスケートもできる。 一日、朝の九時から夜の二十一時までこの体育館を借り切ると、使用料もかなりの額に跳ね上がる。俺たちがやっているのは興行的スポーツ及び文化的行事だから、その基本使用料が、約六〇〇万円ほどかかる。 過去にオリンピック競技の会場として使われたこともあり、今ではアーティストのコンサートやプロレスリング、サッカーやバレーボールの世界戦。演劇や柔道や新体操など、用途を選ばない。 数多くの公演やコンサートにも使われており、年末には浜崎やゆみが、毎年ここでカウントダウンライブをやることで有名だった。 ここでは毎日のように大きな催しがあって、本日行われる『ドリームフェスタ』決勝も、その一環だった。 観客がぎっしりと詰め込まれており、テレビカメラも入っている。九〇〇〇席のスタンド席と、四〇〇〇席のアリーナ席は、ここから見る限りでは空席は見当たらない。 そして、時計の針が正午を指すころ。 ファイナルの一回戦が、最終試合を除いて、すべて終了した。 以下が、そのリザルトだった。 決勝第一試合。 ハニーキャッツ 、<Fランク> 得点 160+60(○ 勝ち抜け) あやねちゃんとジローくん <Cランク> 得点 40(× 敗退) 決勝第二試合。 方丈真衣 <Dランク> 得点 30+40(× 敗退) ナナクサ <Bランク> 得点 170(○ 勝ち抜け) 決勝第三試合。 トゥルーホワイト <Aランク> 得点 150(○ 勝ち抜け) 小早川瑞樹 <Bランク> 得点 50+20(× 敗退) 決勝第四試合。 とらじまー <Eランク> 得点 170+20(○ 勝ち抜け) 桐ヶ咲高校軽音部 <Dランク> 得点 30(× 敗退) 決勝第五試合 ホワイトクローバー <Bランク> 得点 120(× 敗退) クララララス <Dランク> 得点 80+40(○ 同点 勝ち抜け) 決勝第六試合 エイトアンダー <Cランク> 得点 60(× 敗退) はーみっとすぱいす <Cランク> 得点 140(○ 勝ち抜け) 決勝第七試合 雪華 <Bランク> 得点 130(○ 勝ち抜け) とろぴかるスイーティーズ<Cランク> 得点 70+20(× 敗退) とまあ、こんなところだった。 伊織とやよいのハニーキャッツは、ベスト16のうち、唯一のFランクでありながら、圧倒的な大差で、決勝一回戦を突破している。 ドリームフェスタのルールでは、AからFまで、対戦相手のランクがひとつ違うごとに、20ポイントのハンデがつく。ハニーキャッツ(Fランク)とあやねちゃんとジローくん(Cランク)の対戦の場合では、FランクとCランクは3ランク分の差があるので、ハニーキャッツに60ポイントがプラスされていた。 ネット投票で計算される総計ポイントが200ポイントで、互いの実力が伯仲していれば、100対100で収まるはずであり、ここに60ポイントプラスされるのは、かなり大きい。 逆転劇が起きやすいルールである。 が、 それでも、 この決勝第一試合から第七試合までを見る限り、同点までもつれこんだ決勝第五試合をのぞいて、それぞれの勝者は、ハンデなど意に介さないという風に、勝つべきほうが勝っている。AからFまでのランクの差は、直接そのランクに棲息する住人たちのレベルを示している。 プラチナリーグにおいては、ランクがひとつズレるだけで、中学生と高校生ぐらいの実力差は開いてしまう。 で、本来、3ランクもの差があれば、200対0のコールドで終わるのが普通だった。ハンデがついたからといって、いまのところ、直接勝敗に絡むほどではない。二回戦と三回戦とすすむうちに、このハンデがどう絡むのか、俺にもまだわからない。 ガラス張りの二階プレミア席で、やわらかい椅子に体を沈めながら、伊織とやよいが、次に行われる決勝一回戦第八試合。 サザンクロスVSプレイブルー。 つまりは、美希の出番を待っている。「喰いたりないわね。私たちの一回戦は、ちょっと手ごたえがなさすぎたし、あんなの準備運動にもならないじゃない」「うう、伊織ちゃん。そういう言い方はちょっと。たしかにちょっとあっけなかったけど」 水瀬伊織が水瀬伊織である限り、余裕と自らへの絶対的な過信は当然だった。けれど、今回ばかりは伊織の過大な放言ではない。 ──相手が、弱すぎた。 というより、相手の条件が悪すぎた。 ──本来、強敵なのだろう。 条件が違えば、決勝が予選のようなフリー演技なら、圧倒的な大差で負けることもありえた。 あやねちゃんとジローくん。 腹話術士が本業のアイドルだった。 プロフィールによると17歳のB型。子供番組のおねえさんのような格好をして、右手にジローくんという名前のついた腹話術の人形をかぶせていた。 予選のフリー演技を一度見ただけだが、芸の幅は広かった。 やよいが夢中だった。 会場をドッカンドッカン沸かせていた。もし、彼女が実力をすべて発揮できたのなら、もっときわどい勝負になっただろう。 けれど、決勝で評価されるのは主に、歌とダンスだった。 一糸乱れぬ踊りを見せる伊織とやよいの前に、ほとんどなんの抵抗もできずに散っていった。 いちおう、右手のジローくんがバックコーラスを担当してはいたが、丸々一曲分、四分強の時間、観客を釘付けにできるような芸ではなかった。 くじ運に恵まれたゆえの僥倖。 とはいえ、楽して勝てるのは、おそらくこれが最後だ。 次の二回戦は、ベスト8から。 雑魚などもう、残っていない。どれと当たっても死闘になる。 ──そう、断言できる。 こちらの手の内をほとんど晒さないで勝てたのは幸運だったが、次からは、それすらも戦略に組み込まないといけない。それぐらい、厳しい戦いになる。 というわけで、 そのまえに、決勝一回戦、第八試合。 そして、一回戦の最終試合。 サザンクロス(Eランク)VSプレイブルー(Bランク)がはじまろうとしている。「それで、美希美心のサザンクロスの対戦相手である、プレイブルーって、どんな相手なの?」「そうだな。説明はちょっと長くなるが、一言で言うなら、プラチナリーグ屈指のアレンジャーだな」「なにそれ?」 聞いたことがない単語なのか、伊織が目を丸くする。「基本的に、そのままの意味だ。既存の曲をアレンジすることに長けた連中を、アレンジャーと呼ぶ」「アレンジャー、ですか」「そうだ。基本のメロディーラインと曲の骨格はそのままで、歌詞だけを自作のものに差し替えたりとか。あとは曲と歌詞はそのままで、間奏とかにも歌詞を差し挟んだりとか、そういうことをする連中のことを、アレンジャーという。アナザー版のロミシンとかみたいな感じといえば、わかりやすいか」「たぶん、よけいわかりづらくなったと思うわよ」「んー、つまり、歌詞を変える場合でも、原曲をリスペクトして変える。歌詞にストーリーがついてるなら、さらにその続きを歌うとか。お姫さまが幸せになるまでの話なら、さらにその先を歌ってみる、とか」「ええと、それはわかりましたけど。意味があるんですか、それ?」 やよいが手を挙げた。 その疑問はもっともだった。 伊織は、まだ考え込んでいる。 そりゃあまあ、意味がないならこんなめんどくさくて手間のかかることはしないだろう、と促すと、伊織は顔をあげていた。「だんだんわかってきたわ。相手がわが曲の一番二番を歌うなら、プレイブルーの連中は、自作した三番四番を歌う。それを聞いた観客が、どっちに傾くかは言うまでもない。この場合、皮肉にも相手のステージが優れていれば優れているほど、プレイブルーの評価はあがってしまう」「そうだな。これをやられると、対戦相手がただの前座に成り下がる。競おうとすればするほどに、相手にエールを送ることになる。プレイブルーのために、熱を溜めてやることにしかならないからな」「うう、それってズルくないですか?」「いや、かかる手間を考えてみろ。一曲ごとに仕切りなおしなのと、歌詞の変更なんてその曲の世界観を完全に把握してないと書けないからな。間違いなく、天才の仕事だぞ」「そ、そーゆーものなんですか」「手間がかかること以外に、弱点はないの?」 伊織はすでに自分たちとプレイブルーが対戦する場合を想定し始めていた。ドリームフェスタで、ハニーキャッツがプレイブルーと戦う可能性は、ある。 まあ、そのときは美希が負けているわけで、あの娘の敵討ちということになっているのだろうけれど。「弱点ねえ。強いて言うのなら、一回一回、観客にこの曲がアリかナシなのか、判定してもらわないといけないってことだな。原曲があるとはいえ、たまにハズレもでてくる。歌詞が微妙にイメージにそぐわなかったりとか。そう考えると、一発勝負としては怖いな」「相手のミス待ちってのも、なんか微妙ね。そういうのって弱点じゃないでしょ。直接そこを攻めることができないんだから」「まあ、そーだが」「ほかに、なにかない?」「ふむん。これは弱点というよりは特性なんだが、格上には通じない。同じ曲を歌う以上、相手より上だと示さないと負けるからな」「うーん」 唸るのも無理はない。 本来、どう考えても、今のレベルで太刀打ちできる相手ではない。「で、どうだ? 美希、美心はともかくとして、おまえらがプレイブルーと戦って、勝てると思うか?」 もしも。 そんな仮定だが、シミュレーションは、今のうちにしておくものだ。「無理ね」 伊織の出した答えは、妥当だった。 水瀬伊織らしくはなかったが。「既存のコピー曲で勝負しなければならない私たちには、相性が悪すぎるでしょ。私たちのオリジナルっていったら、『バレンタイン』しかないけど、それで勝てるとも思えないわ」「そうだなー。このレパートリーじゃあどうしようもないな」 Dランクアイドルまでなら、既存のコピー曲だけで上に上がれるので、こんな早く必要になるとは思っていなかった。 絶対のエース曲。 出せば、必ず会場の雰囲気を変えられる曲。 天海春香の『洗脳、搾取、虎の巻』。 如月千早の『蒼い鳥』。 菊池真の『迷走Mind』。 リファ・ガーランドの『太陽と月』。 YUKINOの、『My song』。 Aランクアイドルは、必ずその代名詞になるだけの、出すだけで必ず戦局を変えられるだけのエース曲を持っている。そして当然ながら、そんなものは、望めば得られるようなものではない。 時代と、戦略と、人の巡りと、本人たちの強運、アイドルを支えるチームの、絶対的なサポート。そういう諸々を積み上げた少女のみが得られるもの。 が、必要になってしまった。 これは、どうあれ俺のポカだろう。 プロデューサーとして、予想してなかったではすまされない。Eランクに昇格するだけのポイントは稼いだので、帰ったら早速、曲を発注しよう。「あの、プロデューサー。自分たちで曲つくったりするのはどうですか?」「無理。周りはコピーとはいえ、プロの曲だぞ。素人が作った曲が通用するはずないだろ」「あ、そうか」「ちょっと待って。これって全部、実際に戦う美希、美心にもあてはまるんじゃない?」「ああ、そうだな」 ハンデで、60ポイントがつくとはいえ、実力差がありすぎる。 実際、俺自身がこんな立場におかれたら、頭を抱えてのたうちまわる自信があるのだが、さてどうなるのやら。「どうするのよこれ」「知らん。戦うのも、指揮をとるのも俺じゃあないし。藪下さんのお手並み拝見ってところだ。さて、はじまるぞ」 ──『Relations』のイントロが流れる。 つながり、という意味の曲。 そして、如月千早のセカンドシングル。さらに付け足すなら、彼女をAランクにまで押し上げた曲。 そんなストーリーがおまけについているからなのか、プラチナリーグでは、この曲を大舞台で使うフォロワーは多い。 大舞台でこそ、かがやく曲。 圧倒的な歌唱力をもつ千早の曲だけあり、歌いこなすには相当のレベルを必要とする。この曲をアイドルの力量を計る器だとするなら、今持っている感情すべてを叩き込んで、ふれないだけの大きさをもっている。 最初は、プレイブルーのステージからだった。 プレイブルーも、サザンクロスも、歌う曲は、『Relations』となる。 美希、美心のサザンクロスが、この曲を選び、そして、プレイブルーがそれに追従した、ということだ。 藪下さんには、いくつかの選択肢があったはずだ。 その中での本命は、佐野美心のフィールドである、演歌で勝負すること。さすがに、演歌をコピーするだけの対応力は、プレイブルーにはないだろう。 しかし、藪下さんはそれを選ばなかった。 やぁね、もう。プレイブルーがどーだとか、相手がどうだかとかで、対応を変えるのって、なんかかっこわるいじゃない。 彼女なら、こう言いそうである。 この曲を選んだ、という時点で、それは小細工無しの正面突破を意味する。この曲は、プレイブルーがコピーできる曲のなかで、ド本命だ。 プラチナリーグで一番有名な曲は、『GO MY WAY』で、あとはあずささんの曲がそれに続くが、千早の『Relations』も、ベスト10には入るだろう。 多くの大会で使われる曲だし、オーディションの課題曲になったこともある。そんな曲に対し、プレイブルーの仕込みを終えていないはずがない。最後まで、サプライズが起きないのなら、それはサザンクロスの必敗を意味する。 それでも、 この曲を選んだ。 なら、答えはひとつしかない。 藪下さんの指示は、ステージのうえで、自分たちが格上だと証明する。 そういうことらしい。 青と白のライトがクロスし、プレイブルーのステージがはじまる。「上手いわね」「まあな」 プレイブルーのステージは、おおむね観客に受け入れたようだった。どうしても千早の原曲には劣る。しかし、もともとBランクでも上位に位置しているユニットなのだ。土台を支える歌唱力は、相当なものだった。 そして。 彼女たちの仕掛けは、これで終わりではない。「ところで、途中でラップみたいな呟きというか、詩みたいなのが入ってたけど、なにあれ?」「あれか。あれはトラップだ。プレイブルーがサザンクロスに仕掛けた、な」「ちょ、物騒ね。あの詩にどんな意味があるのよ」「あれ自体に意味はないんだが」「ん?」「ただし、サザンクロスの『Relations』を聞くときには、あの詩がないと、なんか物足りなく感じるはずだ」「は、どういうことよ?」 伊織が首をかしげている。「えーと、あれですか。よく料理漫画であるような、辛さで審査員の舌を麻痺させておいて、正確な審査ができなくなるみたいな」「ああ、だいたいそんなんだな」 イメージとしては、そんな程度の理解でいい。 これ以上説明しても、あまり効果はあがらないだろう。「麻薬みたいね。ないと物足りなく感じるか」「ん、科学的に言ってしまうと、錯聴というらしい。目の錯覚ってのはいろいろあるが、その耳バージョンだ」「魔法みたいです。どんな仕組みなんですか?」「ちょっと専門的な話になるが、そもそも、普段から人間って聞きたい音を選り分けて聞いてるよな。人間って、テレビの音が鳴ってる前で、人が話してても、問題なく話し声を聞き取れるだろ。これって、実はすごく不思議なことだと思わないか?」「あ、そういえばそうです」 やよいがこくこくとうなずく。「耳は思った以上にいろいろな処理をしてくれてる。だからこそ、耳に入ってくる以上のものが聞こえてきたりする。それを逆利用すれば、存在していない音を聞こえさせることだってできる」「小賢しいトリックね」 伊織は軽く笑い飛ばすが、そんな簡単なものではない。「そんなことを言うな。音響設備の歴史は、この錯聴との戦いの歴史だ。なんでスピーカーがふたつもあると思う? 音を二方向から出すことで、その場で臨場感を出して、あたかもその場で演奏されているように感じさせるためだ」「はー。すごい」「うまく使えば、すさまじい武器になるってことね」「ほかにも、ほれ。この会場吊り屋根式だろ。音響は相当悪いからな。かなりの工夫がしてあるぞ。ためしに、会場の音を録音して後で聴いてみるといい。似ても似つかないひどい音になってるから」 ここから、昔のひとたちが、限られたトラック数でどう音を立体的に見せてきたか、そんな話をしたかったのだが、やよいが難しい話に頭から煙を上げはじめたので、とりやめになった。「というわけで、プレイブルーは120パーセントの力を出し、サザンクロスは、元の80パーセントの力で戦わないといけない。お先真っ暗だ」「う、ううっ。に、20パーセントも差がついてしまうんですか?」「いやあのね、やよい。40パーセントだから」 ガラスの先に、ステージのすべてが見下ろせる。 ステージの上から、プレイブルーの残り香が払拭される。しかし、まだ観客の耳には、さっきの『Relations』の囁きがこびりついているはず。 状況は最悪。 戦う前からがけっぷちに立たされて。 しかし、規定通りの時間に、舞台の幕は上がる。 美希と美心の、サザンクロスが、ステージに立つ。 会場を覆うスモークに映る、和服姿の影絵だけが、美希と美心の登場を知らせていた。 人は、ときにステージを神聖視することがある。 少し考えればわかる。そんなものは眉唾だ。 ステージに、神は降りない。 ステージとは、そこに立つ少女たちの価値に、正当な評価を下す場所だ。 そして、イントロがはじまる。 ただの一音も発せないうちに、観客を引き込む力。この曲にはそういう雰囲気がある。 ステージを覆っていたスモークが晴れて、シルエットが形作られる。 星井美希と佐野美心は後ろを向いていた。 影はライトに消され、スモークは排煙装置に吸われていき、彼女たちを邪魔するモノはなにもなくなる。 最初の一音から、圧倒された。 一言で言いあらわすのなら、如月千早が乗り憑いた、そんなステージ。 伸びやかな声をそのままに、 不遜な態度をそのままに、 歌い上げる曲が、オリジナルに、まったく遜色しない。 何が起こっているか、わからない。 美希の振りかざす手に、わけもわからずに視線が吸い付けられる。 緩急のはっきりした振り付けと、つま先と手首までピンと一本の線が通ったような動きは、あずささんの教え込んだ動きを、『わかっている人間』が、さらに改良したような痕跡があった。「まさか、千早が?」 ただの消去法だったが、それは口にした瞬間、事実に変化するような重みをもって、口の端に残った。 ──歌と、歌い手が共振する。 時に、歌そのものが意志をもって、歌い手を『選んだ』のだと、そういう錯覚を観客に教え与えるような、ステージがある。 生半可な技倆でできることではなく。 それだけのステージを演じられるのは、なにかが奇跡的に噛み合ったときだけ。この曲の主人である千早ですら、この領域に立ったのは、ほんの数度。 だが、たしかに今、彼女たちはそれを再現していた。 万雷の拍手。 プレイブルーの曲など、欠片も残っていない。 事前の下馬評を大幅に覆すかたちで、サザンクロスのふたりは、圧倒的な大差をつけて、二回戦進出を決めた。 決勝第八試合 サザンクロス<Eランク> 得点 180+60(○ 勝ち抜け) プレイブルー<Bランク> 得点 20(× 敗退)