毎週、とある友人(編集みたいだな)に、感想をもらってからアップしてるんだが。
今週分のメモ帳を見せたら、「これ本当にルルーシュ?」って言われた。
確かに強くしすぎたかもしれないw
でも後悔はしてない。ルルがナイトメア戦強くてもいいじゃないか!
この作品は完全に作者の趣味で書きました。
深い考察など一切ない、パラレルワールドのギアスです。
キャラ設定や世界観、その他が崩れていると嫌な方はお帰りください。
別にいいやっていう心の広大な方だけお読みください。
更新は毎週木曜か日曜の深夜とします。
ブリタニア皇都、ペンドラゴン。
その王の居室にて、史上最大の領地面積を有する国の王が悠然と座っていた。
男はただひたすら目を閉じ、静寂と共にあった。
その部屋には誰もいない。
―――孤独。
だが、男にはこの静寂こそが心地よい。
そんな些細な人間的な情緒や不安といったものは、すでに克服している。
幼い頃より皇位争いで、兄弟を皆殺しにしてきた彼。
誰にも信をおかず、ただただ自分の信念を貫き通す。
ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。
そう、彼は確かに誰よりも強かった。衰えていたブリタニアは、彼の代で世界一の大国となったのだ。シャルルが持つ覇王の才、悪魔のようなその非情さと強硬な信念もまた、王たる器を支える確かな強さだった。
耳鳴りがするほどの、無音の空間。
しかし、そこに―――。
「相変わらず―――」
突如聞こえてきた声は、ブリタニア城の静謐とした空気に似合わない、幼い少年のものだった。
「ルルーシュには甘いんだね、シャルル」
何もない闇からいきなり、少年が現れた。
どこか人間離れしたような、美しい容姿をした長い金髪の少年。
しかし、そこはかとなく、シャルルと似た高貴さを感じさせる。
「兄さん。私がなぜ甘いと?」
皇帝の重厚な声が、部屋に木霊した。
「C.Cとの接触をこのまま見過ごすつもりだろう?」
「いつもながら、兄さんは何でもお見通しのようですね」
「ルルーシュがこれからどうなるか、ぼくとしても興味があったからね」
「……興味、ですか?」
そう言って、シャルルはようやく目を開けた。
名をV.Vという正体不明の少年だが、これでも正真正銘自分の実の兄である。
老獪した雰囲気と一緒に、子供特有の無邪気さが混じった、どこか不気味さを感じさせるような容姿をしている。
「C.C探索を打ち切ったと思ったら、こんなことになってたなんてさ。ぼくも驚いたよ。彼女については君に任せてたけど、本当にこれでいいのかい?」
「…………」
「フフ。まあ、いいけどね。君の大好きなマリアンヌの一人息子だし。叔父である僕としても、彼には生き残ってほしいと思っているよ」
V.Vがマリアンヌの名を口にした瞬間に、かすかにシャルルの眉が動いた気がした。空気がピリっと揺らめき、重くなる。
「ねえ、シャルル。僕少し気になることがあってね、日本、いや今はエリア11か。あそこに旅行してくるよ」
「なにゆえ、あのような小さい島国へ?」
「うん。……ナナリーってさ、本当に死んだのかなって」
「…………」
一瞬、沈黙が二人の間に満ちた。
やがて、V.Vが可笑しそうに肩を震わせはじめる。
「冗談だよ。あの目の見えない、足も不自由な娘が、生きているはずないよね。僕は響団で大人しくしているよ」
「―――今は、接続の時を待ちましょう。兄さん」
シャルルはそれ以上の言葉は不要だと目を閉じて、再び深淵なる闇の世界に身をおいた。
「うん。焦る必要はないよ、シャルル。計画は順調に進んでるから、いざという時に計画を実行できるよう、準備だけはしておかないとね」
「……そうですね」
「嘘のない世界を、シャルル」
「ええ、我らの願いを。兄さん」
二人の小指が一度そっと絡み、ゆっくり離れていった。
そしてV.Vの気配がこの場から消える。
すると―――。
シャルルの激しい怒りと共に、その巌のごとき体躯が震えだす。
「……やはり、嘘をついているのですね、兄さん」
皇帝シャルルのその声は、まるで世界を呪うかのような慟哭が含まれていた。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『第六話』
アデン基地政庁では、ルルーシュ出撃に対して整備班が慌ただしく動いていた。
政庁から正門へと抜ける地下滑走路でも、アデン上空でひらかれた戦端を視認できた。彼方、ブリタニア砲兵陣付近の空域が炸裂弾の影響で真紅に輝いている。
遠くから伝うジェット音がやまない。閃く白光と、赤黒い爆炎が付近で吹き荒れるたび、ちらちらと芥子粒のような機影が映る。疾走するそれがブリタニアとアラビア連合軍の小型戦闘機だということは疑いようがなかった。
ルルーシュは皇族用に装飾を施されたサザーランドに乗り込んだ。
装飾といっても元の機体にマントを付けて、ランスをソードに変えただけの示威的効果しか生まないものだったが、この皇族専用機が戦場に出るだけで味方の士気があがるのだ。
『殿下! KMF射出準備が整いました。いつでもいけます! 絶対に生きて帰ってきてくださいよ!』
突如、通信から整備班の激励の声が飛ぶ。
訓練生時代からお世話になった、馴染みの整備員であった。
「ああ。こんなところでは死なないさ! でも無茶はさせてもらう!」
『ああっ、もう! 訓練生時代からあなた様は、無茶ばかりですよっ! もっとナイトメアを丁寧に扱ってくださいよっ』
言葉が砂の海に消えていく。
それと同時に、射出口が大きく開き、機体が上向きになる。
出撃準備が整ったのだ。
「ルルーシュ殿下、我らもお供いたします!」
すると、背後から数人がKMFドッグへ走ってきた。
どうやら艦橋にいた数人の武官たちがルルーシュを追って、走ってきたのである。彼らはナイトメアに搭乗すると、素早く機動し、エンジンを回し始める。
「馬鹿者っ、持ち場を離れるなっ」
『皇子一人を出撃させたとあっては、武人の名折れです。戦場へ行くのなら、是非我らも共に!』
「死ぬかもしれんぞ」
『であれば、なおさらのこと。我らを盾としてお使いください』
死をも覚悟している壮年の武官たち。
彼らにも家族がいるだろう。妻や子供、守りたいものが。
指揮さえ出しておけば、部下が命を張ってくれる艦橋とは話が違う。ここから先は自分の命をどれだけ削れるかが勝敗の鍵を握る本物の戦場だ。
彼らもそれくらい分かっているはずだろう。
なのに。
「―――それでも、この僕に力を貸してくれるというのか?」
『ルルーシュ様が仰ったように、我らも貴族の端くれ。ここで逃げては名が廃ることに気づいたのです。それに、皇族を守って死ねるなら、これ以上ないくらいの名誉でしょう』
それでも、彼らは笑ってそう言った。
ルルーシュの胸に熱いなにかが満ちる。ビスマルクから聞いたことがある。
真に何が大切なのかを理解し、それでも、死を覚悟せねばならぬ戦場へ赴く時の人間ほど美しいものはない、と。
ルルーシュはただ思った言葉を呟いていた。
「……違うな。間違っているぞ」
『殿下?』
ルルーシュのただならぬ様子に、武官たちが怪訝そうな表情を見せる。
「僕が部隊を率いる限り、負けはない。お前達はただついてくればいい」
『は、ははっ』
「敵がどれほどのものだというのだ! ナイトメア数機しか持たぬ、あとは烏合の衆だ! そんな相手に怯えはいらん! 僕に続け!」
『おおおおおおお!!』
指揮官とはどれだけ部下に死の恐怖というものを忘れさせられるかにかかっている。
この時、部下にはルルーシュが鬼神に見えたという。
この人になら命を預けられる。
一緒に死んでもいい。
そう思わせるだけのカリスマ性を、ルルーシュは確かに放っていた。
ルルーシュは目線をアデン南へむけた。バミデスが放ち出す炸裂弾が、目指す戦闘区域を灼熱の炎で埋め尽くしていた。月明かりが遥か下方の、砂塵を美しく幻想的に染めていた。
(戦える)
ルルーシュは機体ハッチをロックして、操縦桿を両手でしっかりと握りしめた。
遠方から迫ってくる敵戦車部隊を睨む。散弾の雨がアデン基地防壁にあたり、耳ざわりな破裂音をあげているのがわかる。
あの中に、もうすぐ自分は突撃するのだ。
ルルーシュは目をつぶって息を整え、腹の底に力をこめた。
びびるな、逃げるな、と自分へ必死に言い聞かせる。
(ビスマルクに約束しただろう。絶対に生き残るって)
お前は死ぬつもりか? ともう一人の自分が叫ぶ。
こんなところで死ぬわけがない、と自分が答える。
初陣を迎える兵士の誰もが陥る戦場の恐怖。それを今、ルルーシュは全身で感じていた。
(僕の味方になってくれた人間がたくさんいる。―――だから守る)
目を開いた。
戦う理由はそれでいいと思った。
ルルーシュの機体が電磁をまとい、軽く浮遊するのがわかった。
この滑走路は電気で射出する、リニア式滑走路だった。
覚悟を決めて、炸裂弾の嵐である外を睨んだ。
政庁砲台に据えられたサーチライトが、一斉にルルーシュの前方を示す。
そして―――。
正門目掛けて打ち上げられていた野太い二筋の光が赤から青に変わった。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。出撃する!」
その瞬間、レールガンのように、ルルーシュの機体が撃ち出された。
凄まじいGが身体にかかる。奥歯を噛みしめて、それに耐えるのは一瞬。
正門から撃ち出されたサザーランドは、逆制動をかけることなく、戦場をまっすぐに直進していく。ルルーシュはブレーキをかけるつもりはなかった。
向かう先は敵戦車部隊。
外壁から砲撃の効果が薄れたことで、基地防壁内にまで侵入してきていた。
ルルーシュたちの進撃に気づいたのか、砲門を回転させ一斉射撃を始めた。
砲弾は中空にあってはじけ飛び、散弾となって、ルルーシュたちを襲う。
目の前に真っ赤な炎の絨毯ができた。
しかし、ここでは止まらない。
(―――止まったら死ぬ!)
しかし、背後にいる味方の一機が散弾に当たったのか、機体が横倒しになって、強制離脱システムが作動した。サザーランド胴体部分が爆発するが、コクピットだけは上空斜め上に発射された。
安全圏へと落下傘でふわふわと降りてくる。
『も、申し訳ありません、殿下』
「気にするな。付いてきてくれただけでもありがたいっ!」
『殿下、あまり前に出すぎると、包囲されますぞ』
「構わん。何のためのナイトメアだ。戦場を引っ掻き回してやれ!」
『ははっ』
ルルーシュは上空に旋回する、邪魔な敵航空戦力にスラッシュハーケンを打ち込みそのままの勢いを駆って、敵戦車部隊に襲いかかる。大将首だということで、四方から弾幕が浴びせられるが、歩兵の機銃など痛くもかゆくもない。
弾幕目掛けて、機体を滑らせた。
「うおおおおおおお!」
ルルーシュは気合一閃、ビスマルク直伝の剣術で戦車装甲を切り裂いていく。
ナイトメアに対して、装備の貧相な敵歩兵部隊はかなり悲惨だった。
対戦車ミサイルや大口径でないと、KMF装甲は貫くことができないので、何をしようと無力であり、ただサザーランドのホイールに轢かれたり、アサルトライフルの掃射で一瞬で肉片に変わっていく。
(これが戦争……。躊躇してたら、こっちが殺される)
脱出機能があるナイトメアとて、コクピットに攻撃を喰らえばそれで終いである。ルルーシュは今ここでは、死体の山を量産するしか、生き残る術がないことを本能で感じ取っていた。
『オール・ハイル・ブリタニア!』
『オール・ハイル・ルルーシュっ』
皇子に負けまいと、十騎のナイトメアが続いて突撃し、敵軍の真っ只中に踊り出ていく。闇の中、鋼鉄の鎧騎士が縦横無尽に駆けまわって行く。
目の前の砂塵をシャワーのように浴びながら、次々と戦場に散華の炎を撒き散らした。直掩のブリタニア航空戦力も、上空に現れ、ルルーシュたちの援護を始める。
制空権も半ばとりもどし、もうほとんどこの戦域の勝負は決まったようなものだった。
ルルーシュのサザーランドが左に行けば、その群れもまた左へ。右へ行けば右へ。進む道に爆炎と血の花を咲かせるその行進は正に、さながら地獄から現れいでた鬼の集団のようであった。
はっきり言って、ナイトメアの機動が圧倒的だったのだ。
戦車など、動きの遅い亀にしか見えない。サザーランドは敵砲の射線から退避しておけば、あとは何も怖くなかったからだ。
「よしっ、基地内の敵を掃討しながら前進するぞ! まずはジェレミアらと合流する!」
『イエス・ユア・ハイネス!』
ルルーシュの心に死ぬかもしれないという恐怖や、敵兵を殺す迷いなど何もなかった。相手が銃を、武器を向けてくる限り、戦おうと誓った。
ここで、ルルーシュの戦における最低限のルールが生まれた。
すなわち。
(―――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ)
と、いうことである。
アデン基地艦橋は呆気に飲まれていた。
敵の爆撃はましになったとはいえ、まだ危機状況下に変りないのだが、カラレスを含め、全員がモニターを注視していた。
画面に映っているのは、ルルーシュが駆るサザーランドとその部隊。
アデン基地内にいる敵戦力は歩兵を合わせると二百以上はおり、辺り一面炸裂弾や機銃の弾幕で満ちている。その中を何の恐れも感じさせない凄まじい機動で、動き回り、あろうことか敵戦車部隊を全滅させてしまった。
相手は鈍重な戦車とはいえ、砂漠の戦闘に慣れた民族である。
彼らを相手にルルーシュたちは、圧倒的な勝利を重ね続けていた。何の役にも立たない、若いだけの皇子だと思っていた人間にとっては、開いた口が塞がらないといった状況だった。その筆頭であるカラレスなど、哀れにも瞳孔が開きっぱなしである。
「お、おい、お前っ。あそこで戦っているのは誰だ!」
「は、はい? ルルーシュ殿下に決まってるじゃないですか」
「ば、馬鹿を申すな! あれが、―――あんな皇子がいてたまるか! あれでは、あれではまるでっ!」
(あれではまるで、ルルーシュの方が歴戦の将のようではないか!)
カラレスは部下の胸ぐらを掴みながら、艦橋で怒鳴り散らした。
しかし当たり散らされる部下の方はたまったものではない。
彼にも管制としての仕事があるのだから。
「落ち着いてくださいっ、カラレス副司令」
「これが落ち着いていられるか!」
「ルルーシュ殿下はビスマルク卿のもと、修練されていたと聞きますから。あの凄まじいナイトメアの腕も納得できるでしょう。ラウンズ候補生たちともまとも渡り合ってきたとの報告もありますし。いやぁ、大したものですなぁ」
「そ、そんな報告、ビスマルクが書いたおべっかに決まってるだろうが! 馬鹿か、貴様はっ!」
カラレスは混乱のあまり、頭がおかしくなりそうだった。
まだモニターでサザーランドを操縦し、剣を振るっているのが、あの若造であるルルーシュだと思えなかったからだ。
皇子が出撃すると聞いた時、内心カラレスは歓喜していた。
(ハハハハハハっ! いいぞっ、なんと馬鹿な皇子だ。まんまと戦場へ出やがって。さっさと殺されてしまえ)
もうルルーシュの死は絶対だと疑っていなかった。
だが、それなのに―――。
(あの分では死にそうにないではないか! 何をやっておるのだ、アラビア兵は!)
果てには敵の応援をする始末。
「おお! まるであの姫将軍、コーネリア殿下のようではないか」
「まだお若いのに、ご立派なことよ」
口々に皇子を褒め称える机上の者共が、あまりに憎らしくてたまらない。
カラレスは前部モニターの角を、拳で殴りつけた。
「貴様らっ、皇子の命令には従うなと、あれほど言っておいたではないか!」
「……これは異な事を仰る」
しかし、官僚達はしらけた疑惑の視線でカラレスを見る。
「我らはルルーシュ殿下がまだお若く、執務能力に欠けるという、カラレス卿の意見に賛同したまで。ここまでルルーシュ殿下が有能な方であれば、我ら臣下が殿下の命に従うのは当然ではありませんか」
「……ぬ、ぬぅううう」
この上なく正論で返されて、思わず唸り声を上げてしまう。
それなら預かった金を返せと言いたい。が、そんなことをすれば、ますます自分の信頼が失墜しかねない。
(お、おのれ。ルルーシュ………!!! このままではすまさんからなっ)
カラレスは己の奥歯を、血が出るほど噛みしめていた。
これより彼の憎しみの全てはルルーシュに向けられることとなる。
ルルーシュとカラレス。
彼らの歴史に残らない水面下での戦いは、またさらに激しさを増していくのだった。
アデン基地外壁で、ジェレミアら純血派は奮戦していた。
周囲を敵兵に囲まれた状態で、サザーランドがランスを振り回し、戦場を掻き回していた。
しかし、砂漠に出た途端、その機動力が減少。砂の海がナイトメアの足にからみつき、危うく転倒しそうになるのだ。
敵軍のグラスゴーは旧型であり楽に対抗できるはずのサザーランド部隊だが、今や防戦一方だ。駆動系や敏捷さ、パワーで負けている敵部隊は、純血派から距離をとって、砂漠を旋回しながらアサルトライフルを放ってくる。
なんとか数こそ上回っているものの、戦況は明らかに不利だった。
「グラスゴーの足を狙え! 歩兵は無視しろっ、奴らの対戦車ミサイルとて、そう何発も撃てん!」
キューエルは滅多に見せることのない焦った様子で、疲れ果てた部下たちを鼓舞した。砂漠の戦闘に慣れない兵たちは、しかしよく戦っていた。ブリタニアの兵士たちは平地でのナイトメア戦を好む。このような起伏が多く、足場の悪い戦場で戦うことなど、経験がなくて当然だったのだ。
しかし、このような状況に追い込んだ張本人はというと……。
『うおおおおおおおお! 卑怯者めっ、一対一で勝負しろっ』
ジェレミア・ゴットバルトは、包囲を縮めてくる敵軍グラスゴーに対して怒鳴っていた。通信でがなるその声はかなりうるさい。
しかし、さすがジェレミアの戦績は群を抜いており、戦車合わせたナイトメア撃墜数三十という驚異的記録を樹立していた。恐らく生き残ったならば、撃墜王として表彰されることだろう。
それもあくまで一パイロットととしてであり、指揮官としては二流だったが。
「馬鹿がっ、ルルーシュ様の指示に従って、基地内に留まっておれば、このような事態にならなかったものを!」
『キュ、キューエル卿! そなたはルルーシュ様への忠誠を示すため、手柄が欲しいとは思わんのか!』
「熱くなりおって、愚か者が! お前がそんなだから熱血派などと陰口を叩かれるのだ!」
『だ、誰だっ、そのような悪口を言うのは! 勝負しろ!』
「だから、熱くなるなと言っている!」
いつまでも続きそうなジェレミアとキューエルの口論に、ヴィレッタが呆れながら口を挟む。
『そ、そんなことよりっ、ジェレミア卿。―――まずは指揮を! このままでは退路を失います!』
『うむっ、ヴィレッタ卿。良いことを言う。さすがだ』
『はぁ……。それでいかがいたしましょうか?』
ヴィレッタの声には言い尽くせないほどの疲れが見えた。
二人の上司が口喧嘩してた間、必死に部下を支え、弾幕を張ってきたのは彼女だった。
ある意味、純血派の中で、彼女が一番能力が高いのかもしれない。
口には出さないが、(私は付いていく派閥を間違ってしまったのではなかろうか)と思っているのではないだろうか。実はキューエルも、ジェレミアには腐れ縁として付き合っているだけで、そこまで忠義を誓っているわけではない。
(できればルルーシュ殿下の親衛隊に配属されたかった)
そう、心の中で嘆くキューエルだった。
『それにしてもっ、この通信を阻害された状況はどうにかならんのか』
その時、珍しくジェレミアが泣き言を吐いた。
ベースからの指示がないままの激戦が続き、純血派の動きいくらかの迷いが生じはじめていたのだ。
『上層部は我らを見捨てて撤退を始めたのでは……』
『ヴィレッタ! 何を言う! ルルーシュ殿下がそのようなっ』
「ふむ、ありえるかもな。ルルーシュ殿下ではなく、今指揮権を握っているのはカラレスだ。あの阿呆ならばやりかねん」
『キューエル卿、お主まで!』
ここで純血派の中でも、救援が来ないのではないかという、絶望感が溢れだしてきた。
今までルルーシュ皇子の為に、という気持ちで頑張ってきたが、その気持ももう崩れそうになっている。それだけ全員に疲れが溜まっていたのだ。
上層部から送られる情報と、声は、兵士全てを活気づけるもとになる。それが封じられたことは、ブリタニア軍にとって何より痛いことだった。
『むぅ……』
ジェレミアの声にも元気がなくなる。
その隙を狙ってか、アラビア連合軍のグラスゴーが急接近してきた。
その手にはスタントンファ。まともに食らったら、コクピットがひしゃげてしまうかもしれない強力なものだ。
乱戦の合間を縫って、純血派に迫るグラスゴー。
『これで終りだ、ブリキ野郎!』
敵が勝利を確信した雄叫びをあげる。
目の前に具現化する、敗北の恐怖。
思わずキューエルは頬を引きつらせた。
その時だった。
背後からいきなり、一機のカスタムされたサザーランドが現れたのは。
グラスゴーのスタントンファを、半ばで斬り落とし、返す刀で首を撥ねる。
その速度、まるで閃光の―――。
多数のナイトメアを引き連れ、敵軍中央に斬り込んで行く。
―――来ないのではないかと思っていた援軍が来てくれたのか。
しかも、その援軍とは―――一体誰なのか?
純血派の誰もが目を疑ったであろう。
ブリタニアの紋章が描かれた黒いマントに、装甲の厚いファクトスフィア。正規の装備であるランスではなく、両刃の長剣を持つサザーランド。
聞いたことがある。ルルーシュ皇子がビスマルク卿に剣の指導を受けていたという噂だ。
―――ではまさか、あれが皇族専用機なのか!
『何をぼうっとしている! 純血派とはこの程度でくたばるほど、弱々しい部隊だったのか?』
そこに、聞き慣れた皇子の声が、通信で聞こえてきたではないか。
『ル、ルルーシュ殿下……。本当に?』
あの冷静なヴィレッタでさえ、信じられない様子で声を震わせている。
『で、殿下……。な、なんというご立派な姿かっ! うおおおお!!』
ジェレミアなど、嬉し泣きしている。
「ルルーシュ様、なぜこのような最前線にっ!」
『なぁに、キューエル。お前たちがあまりにも不甲斐ないのでな』
機体の通信から発せられたのは、まぎれもなくルルーシュ皇子の声だった。
こちらを馬鹿にしたような笑い声だったが、その中には確かな優しさが感じられた。
キューエルの目にも涙があふれる。
しかし、それはただの涙ではない。
騎士として忠誠を誓うべき、一生の主君をついに見つけたという、嬉し涙であった。
そして―――仰ぐべき主君の登場によって、純血派の士気は最高潮に盛り上がった。
『ジェレミア、ヴィレッタ卿を借りるぞ。これより敵本陣への備えをしなければならないからな』
『イエス・ユア・ハイネス!』
その同時期だった。
通信が回復したのは。
『ルルーシュ殿下! 敵航空戦力は全滅、制空権を完全に取り戻しました!
さらに、イエメン州各基地からの援軍が、まもなくアデンに到着するとの通信がラズロー隊から入っております。
名誉ブリタニア人の特殊部隊もそちらへ向かっておりますので!
どうか、それまで粘ってください!』
『そうか! トーマたちにちゃんと合図が届いたか。では、敵後続軍の方はラズローに任せる。もう勝ったつもりでいるアラビア兵どもに、本当の奇襲というものを教えてやれ!』
ブリタニア兵士全員に、この管制とルルーシュの会話が聞こえたのだろう。
『うおおおお!!』
基地内全てから勝利を確信した、歓声が響いた。
アデン基地上層から送られてきたデータを見ると、確かにイエメン州西部や東部から次々と援軍がアデンへ向かっているらしいことがわかった。
ブリタニア軍アラビア半島侵攻軍の総数は確かに少ないが、各基地の防衛部隊全てを合わせればかなりの数になる。これなら反対に敵本陣を包囲して殲滅することができるだろう。
深夜四時、もうすぐ朝日がのぼる。
長い長い戦闘の夜に、やっと終わりが見えそうだった。
『キューエル、お前はここにいるナイトメア部隊を片付けろ。それくらい出来るだろう』
「もちろんです」
ここで出来んなどと、口が裂けても言えない。
キューエルの胸は、いまやルルーシュに対する忠誠で満ちていた。
『うおおおおおおおおおおお!! 皆の者っ、ルルーシュ殿下に続け! これで、我らに恐れるものなどないわ!』
ジェレミアの号令、その直後。
純血派が雄叫びをあげた。
この場にいる全員がバーサーカー(狂戦士)になった瞬間であった。
サウードは相変わらず孤軍奮闘していた。
アラビア連合軍の本陣が到着するのを待ちに待って。
(そうだ。もっとかかってこい。馬鹿な奴らめ、俺達が囮であることも知らずに)
アデン基地からは、追撃戦の勢いに乗って、次々とブリタニア兵が飛び出してきた。航空艦や、外壁の上からもさかんに銃撃を行っている。
「砂漠へ退け、退けば地の利は我々にある」
サウードは外にいる戦車部隊にも援護させながら、じりじりと部隊を後退させた。
敵ナイトメア部隊には精強の士もあるようだが、どうも砂漠での戦闘には慣れていないらしく、砂丘に足をとられ転倒したりと、随分手こずっているようだ。この分だと適当に相手をしながら、逃げ回るのは決して難しくない。
(ブリタニアの皇子―――ルルーシュといったか)
敵司令官である男の名をサウードは脳裏に思い浮かべた。ここ最近になってブリタニア皇籍に復帰し、いきなり初陣を任された男のはずだが、いざ奇襲をかけてみればこの程度。しょせんは生ぬるい王室育ちの甘ったれにすぎない。対して、サウードはアラビア王家に忠誠を誓い、いくたびも戦場を駆け巡ってきた身だ。くぐり抜けてきた修羅場の数が違う。
サウードの乗るグラスゴーのライフルが、襲いかかってきたサザーランドの左腕を吹っ飛ばす。
本来、サザーランドの性能の方が、はるかに上なのだが、砂漠でのナイトメア操縦経験の差が、はっきりとここで現れてきていた。ここまでは予定通り。
基地から出てきた敵ナイトメア戦力が少ないのが、唯一の気がかりだが……。
このまま逃げきって、時間を稼げば―――。
(来た!)
サウードの顔に、壮絶な喜色が浮いた。
アデン基地西部から重厚なプロペラ音と、キャタピラの駆動音が、鬨の声となって聞こえてくる。アラビア連合後続軍が基地の北西へと回り込み、いよいよ挟み撃ちをかけようというのだ。勝利の確信に酔いしれて、サウードは反転突撃の合図に操縦桿を強く握りしめた。
しかし。
「なっ、なんだと!」
喜色が一転、部隊に悲鳴が走ったのは、そのわずか数秒後だった。
背後からアサルトライフルの弾丸が、雨あられと降り注いだのは―――。
『そのグラスゴー、アラビア連合のものだな! 恨みはないが、破壊させてもらう! 全員、突撃っ』
辺り一面を覆う砂嵐、その南方、つまりはサウードの後方から、ドドド、と砂をまき散らしてナイトメアの集団がやってきたではないか。
アラビア連合の味方ではない。
カスタムされたグラスゴーの装甲の色は青、あろうことかブリタニアの紋章がペイントされていた。トーマ達名誉ブリタニア人のナイトメア部隊だが、そんな特殊部隊が基地外に配置されていたことなど、サウードには知るよしもなかった。
青いグラスゴーはブリタニアの対戦車部隊を素通りし、こちらめがけて突進をかけてくる。サウードの頭がついに混乱した。
「馬鹿なっ! ブリタニアに援軍だとっ! いくらなんでも早すぎではないか!」
『た、隊長っ、奴ら、同じグラスゴーのくせに、強いっ』
瞬間、部下の悲鳴が轟く。
敵ナイトメア部隊は砂漠の操縦にも慣れているらしく、恐ろしく機動が正確で、攻撃も鮮やかだ。砂地での戦闘は、訓練に三ヶ月は要するというのに、この部隊は一体なんなのだ。まるであちらの方が砂漠の民のようではないか。
サウードの部下たちの乗る機体が、次々と爆散し、炎を撒き散らす。
前方からは純血派のサザーランド、後方からはトーマ達グラスゴー部隊。
知らぬ間に、サウードは全方位を敵に囲まれてしまっていた。
四面楚歌。
全てのライフルがこちらを狙っている。
ここで、指揮官としてサウードは、指揮を取らねばならなかった。
「っくそ。落ち着け! 伏兵だとて所詮寡兵だ。突破できんものではない!」
『では隊長、突撃ですか?』
「いたしかたあるまい。ここで退くことはできんだろう」
迷っている暇はない。古来から周囲を敵に囲まれた軍は、一点突破と定石が決まっている。それにどうせ死ぬなら、敵基地に向かって突撃したいというのもあった。それに、ここでサウードが逃げ出せば、後続軍が反対に危機に陥ることになる。後続軍にはナイトメアがほとんどないのである。
ここで、ブリタニアのナイトメア部隊を足止めできなければ、作戦そのものが失敗に終わってしまう可能性が高い。
『た、隊長……!』
決死の声で兵の数名が叫んで、敵の集団に突撃をしかけた。しかし、次々とアサルトライフルに蜂の巣にされ、サウードの側で味方機が爆発し、脱出も間に合わずに死んで行く。
(なんというっ―――これでは犬死ではないか)
後続部隊の動きも鈍い。もしや自分たちを見捨てるわけではあるまいな。
そんな不安も心の奥底で湧いてくる。
サウードは下唇を強く噛み締め、まだ残る兵らに突撃の合図を出した。
つまり玉砕指示である。
(まさかブリタニアが、我らの奇襲を読んでいたとでも言うのか。それとも―――)
敵戦力を見誤っていた。
名誉ブリタニア人がほとんどで、彼らを使役する貴族たちはブリタニアから赴任してきたばかり。敵の結束が固いはずがないといった予想があった。よもや、基地外にわざわざ部隊を伏せていようとは。「不覚」、とサウードは歯噛みする。
そして、この作戦を立てた者は一体誰なのだ、という疑問が出てきた。
その謎は今正に、さらなる敵軍となって眼前に現れようとしていた。
『―――止まれ』
サウード達が血路を開いて、敵基地内に侵入しようというところで、今度は防壁内に伏兵があったのである。窪地になったところにサザーランドがずらりと並んでアサルトライフルを構えている。その数、およそ二十。まだこれほどの新型機を基地に温存していたのか、と目を見張った。
止まれと呼びかけたのは、敵軍の中心にいるサザーランドだった。
一機だけマントをつけ、ランスではなく、剣を持っている。
一目でわかった、これが皇族機。
敵の司令―――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだと。
『お前達があてにしている後続部隊は来ない。先程到着したのは我が方の援軍だ。
そちらの巡洋艦は我々が襲撃させてもらった。命からがらサウジアラビア基地へ帰投したみたいだが、こちらに兵を割けないのは明白だ。君達は負けたんだよ』
「はったりを申すな! 我々の本陣は大軍である。それをこの一刻で片付けたというか!」
『嘘ではない。後続部隊にはナイトメアが少なかった。囮である部隊のお前達にナイトメアをまわしすぎたのが敗因だな』
サウードは、何か反論しようと口を開きかけたが、何も言えなかった。
その勢いに釣られてか、副官のファハドがアサルトライフルを構え、ルルーシュの機体を撃とうとする。その銃身を掴みおとしたのは、しかしサウード自身だった。
『た、隊長……』
「―――いいんだ。奴の言葉に嘘はなかろう」
後続部隊が巡洋艦であることと、こちらの保有ナイトメアが少数だということを知っている時点で、アラビア連合軍の動きは完全に掌握されたことが分かった。勝利を確信したのがわずか数分前だというのに、敗北を確信したのも、またこの一瞬のことだった。
いまや、こちらは袋のねずみ。ここで反抗しても、蜂の巣にされるだけか。
(敵を釣って罠にかけるつもりが……)
コチラのほうが食われてしまった。
敵を稚魚と侮って、釣竿を引けば大物だったというわけだ。
サウードは自らグラスゴーを降り、武装解除して、
「奇襲をしてまで軍を進めてきた我らだ。捕虜の扱いに多くは望めないのは理解している。だが、せめて俺の部下たちには、寛大な処置をお願いしたい」
『いいだろう。こちらも虐殺したいわけではない』
敵の皇子はあっさりと首肯した。
眼下でナイトメアから降りてくるアラブ人たちが捕縛されていくのを、ルルーシュはじっと見守っていた。皆悔しそうに顔を伏せ、腕に手錠をかけられていく。
完勝とまではいかなくとも、ブリタニア軍の勝利であった。
そこへ、小型航空艦に運ばれて純血派のヴィレッタがやってくる。北側に接近してきた敵本陣に対し、ラズロー隊と協力して迎撃したのが彼女だ。
艇から勢いよく飛び降り、こちらへ向かってくる。
「申し訳ありません。敵艦隊の撤退を許してしまいました」
「いや、構わない。お前の追討ちをかけるタイミングはあれで完璧だ。逆に敵の大艦隊の半数を墜としたお前の功績は非常に大きい」
「いえ、ルルーシュ殿下の作戦があればこそです」
艦橋管制から送られてくる敵艦隊進路を分析したルルーシュは、敵が攻めて来るならワディドアン渓谷を沿うように移動してくるだろうと読んだ。大型浮遊巡洋艦に多くの兵を載せて、アデン北西の砂丘でこっそり降ろすに違いない、と。
ルルーシュはビスマルクにこの辺りの詳しい地形を、訓練生時代に教えられてきた。そこでワズロー隊に改めて現場のデータを送ってもらい、詳細な作戦をたてたのだ。
サウジアラビアとイエメンの州境で叩く案もあったが、万が一敵が別の進路をとった場合、アデンの守りが薄くなる上、そもそもアラビア半島は砂漠ばかりで、こちらの兵を隠しておける場所がほとんどない。
(敵もまさかこちらに伏兵がいるとは思うまい)
(ならば、―――いっそその地理的不利な状況を逆手にとってやる!)
そこで、意外にも指揮のうまかったヴィレッタを作戦指揮官とし、KMF狙撃ライフルの名手数十名を選抜し、渓谷に伏せておくことにした。小型航空艦三隻を斥候とし、敵がどうやら奇襲に何の備えもせず、まっすぐやってくることを知ったルルーシュは、峡谷の隘路をゆっくり進撃してくる艦隊めがけて総攻撃の指示を出したのだ。
果たしてヴィレッタはルルーシュの期待通りに動いた。
巡洋艦クラスの大型船舶は、その重量を支えうる動力を凄まじく大きなエンジンに頼っているため、どうしても装甲は薄くなりがちなのである。たかが大口径ライフルの弾丸だが、至近距離であれば貫通することも可能だった。
サウードの奇襲により混乱しているブリタニア軍がまさか伏兵などしかけていまいと、油断していたサウジアラビア艦隊は為す術なく混乱。舷側の砲門を開いて、やみくもに、炸裂弾を放つのがせいぜいで、ナイトメアの高速機動についてこれるはずがなく、エンジンや甲板が爆発し、退散する羽目になった。
「それと……名誉ブリタニア人のナイトメア部隊が、あそこまで使えるとは思いませんでした。恐らくパイロットとしては私よりも彼らの方が……」
ヴィレッタが悔しげな表情で、面を俯く。
「ルルーシュ殿下もそうですが、ラウンズ訓練生とは指揮官としても皆優秀なのでしょうか。あれほど息のそろった攻撃は初めて見ました」
「ははは。彼らはナイトメアの腕は確かにずば抜けているが、おおまかな指示はほとんど僕が出していた。彼らが独自で動いてくれたら、この戦いももっと楽だったんだが」
ルルーシュとしては珍しく、ヴィレッタに対して年相応の笑い方を見せる。
「彼らもお前のように、出世欲が強いんだ。だから僕の命令ならどんな指示だろうと喜んで従ってくれる。優秀だし、得難い人材だよ、彼らは……」
「え? いえ、その」
ヴィレッタは己の本心を皇子に見透かされていたことからか、右往左往し、さらにかしこまってしまった。
「る、ルルーシュ殿下の戦略は、ビスマルク卿直伝ですか?」
「いや、あの馬鹿は僕に正攻法しか教えなかったよ」
「そ、そうなのですか?」
「ああ、実際やってみて分かった。戦争ってチェスみたいだなって」
「…………」
ヴィレッタは最後まで理解できないという顔をしていた。
ルルーシュは自嘲めいた笑顔を浮かべ。
「そろそろ、夜も明ける。瓦礫の撤去作業を急がせろ」
「イエス・ユア・ハイネス」
ルルーシュはヴィレッタに背を向けて、「皇子にご報告があります」と長蛇に並んだ部下を引き連れ航空艦に乗った。操縦士に命じてゆっくりと政庁へ戻らせる。
眼下の砂漠に、敵味方合わせて何百もの怪我人がうずくまり、あるいは何人かの死体が転がっている。防壁内も同様であった。焼け焦げた者、バラバラになった者、血塗れになった者等、死屍累々と横たわっている。
「―――」
ルルーシュの胃からものが逆流しそうになった。
何か、燻るような重い感情が、心の奥底で叫びを上げている。
(全てではないが、僕の指示で死んだ者もたくさんいる)
泣き出したいような、凄まじい痛みが胸を貫くが、ルルーシュはそれを笑顔で飲み下した。ビスマルクの言葉『あなたは皇族です。―――辛くても笑いなさい』を、思いだしたのだ。
『死んでおる。お前は、生まれた時から死んでおるのだ!』
父である皇帝の声が耳の中で、蘇ってきた。
(では、今戦っている僕は、生きていると言えるのですか、父上!)
たくさんの死者が無念と慚愧の慟哭をあげる一方、皇族としてのルルーシュはそれを当然と受け止めている。兵士を喜んで死なせるのも、よい指揮官としての条件だから。
だが、人間としての。
一人の少年としてのルルーシュの気持ちはその正反対だった。
―――ヴィレッタに何と言った?
―――戦争ってチェスみたいだなって?
(嘘をつくな、ルルーシュ……)
(これが、戦争……。僕のせいで人が死ぬ。そんなことくらい分かっている)
アラビア兵の死骸を踏みつぶしながら、勝利の雄叫びをあげるブリタニア兵たち。
そんな彼らにルルーシュはひたすら笑顔で手を振り続ける。
勝者と敗者―――、ブリタニアの軍服に飛び散った血液。
そのグロテスクな青と赤のコントラストの中、ルルーシュは前のみをまっすぐに見据えた。
(全部わかったうえで、僕は兵に死を命じた。だから何も言わない)
(―――言い訳なんてしてたまるか!)
「生き残った部隊の再編を急げ。オマーンへ攻めこむぞ」
「は? 今すぐですか」
部下が呆気に取られた顔をして、ルルーシュを見た。
未だ基地内に放たれた戦火が消えないこの状況だ。誰が考えてもまずは地盤を固める時期だろう。たくさんのブリタニア兵が死んだ危機的状況であり、本国から援軍を募るのが一番だ。それが、いわゆる常識人としての考えだ。
王道はなにより強い。
それはルルーシュも認める。
しかし。
「敵もそう考えているはずだ。ブリタニアはひとまず攻めて来ないだろうとな。この戦闘でアラビア連合軍はブリタニア以上に多くの兵を失った。カウンターをかけるには今しかない」
「し、しかし……、捕虜もいますし、今すぐには」
「―――流した血を無駄にするな! 急げ!」
「い、イエス・ユア・ハイネス!」
皇子に一喝された官僚達が、慌ただしく動き出した。
第七話へ続く。