友人にこのSSはオリジナルストーリーじゃないか? と言われた。
すまん。なんかもうオリジナルになった。
再構成書くつもりだったのにw
この作品は完全に作者の趣味で書きました。
深い考察など一切ない、パラレルワールドのギアスです。
キャラ設定や世界観、その他が崩れていると嫌な方はお帰りください。
別にいいやっていう心の広大な方だけお読みください。
更新は毎週木曜か日曜の深夜とします。
「ルルーシュ殿下、御入来!」
数ヶ月後―――旅立ちの日。
ルルーシュは白い将校服姿に、黒いマントを羽織り、その手にはブリタニアの紋入りの刀剣を持ち、完全に皇子としての出で立ちで、式場に出た。
EUへの出兵式、およびルルーシュの初陣のお披露目の式典だった。
会場には少ないが、ブリタニア本国の貴族達数人。そしてカラレスを含むブリタニア軍人が敬礼の姿勢をとっている。その中にはジェレミア・ゴットバルトの姿もあった。
アデン基地の滑走路には、何千人ものブリタニア軍兵士の祝砲とともに、航空騎士団の浮遊航空艦が空から一面に花びらを落下させる。
良く晴れた朝だった。澄んだ光の中、ルルーシュはまっすぐに歩みを進め、微笑ながらEUへ出兵する兵士達に挨拶を述べた。訓練生仲間のうち名誉ブリタニア人達はこの基地に残るが、ラウンズ候補生達は出て行ってしまう。彼らはルルーシュと離れることを憂い、涙してくれる者までいた。その中でも―――。
「ルルーシュ殿下は馬鹿です。大馬鹿です。なぜ一言、一緒に戦って欲しいと言ってくださらないのですか? 私はラウンズよりもルルーシュ様の騎士になりたかったのに……」
「ごめん、モニカ。でも、これは僕が乗り越えるべき道なんだ。君は君の戦いをしてほしい」
顔を伏せ涙を流すモニカに、ルルーシュの心も痛くなる。
「今の僕は立場も弱い……。だから、僕についてもあまりいい目を見れないぞ」
だが、モニカは首を振って。
「私の将来の夢は変わりません。一年です! 一年でEUをボコボコにして、またあなたに会いに行きます」
「ああ……。楽しみにしている」
ルルーシュは未だに泣き止まないモニカを、あやすように抱きしめた。
次はジノだった。
「さよならは言わないっすよ。俺もモニカさんと一緒で、将来はルルーシュ様の騎士になるのが夢なんですからね」
「ああ、わかってる。お前との別れに湿っぽいのは似合わんしな。それにお前が僕の為に泣いていると思うと気持ち悪い」
「……最後まで失礼な皇子様だな」
「……お互い様だ。死ぬなよ、ジノ」
「それはこっちのセリフです」
ルルーシュはジノと拳をぶつけ合って、それで別れとする。
お互い、もう言葉はいらなかった。
三人目はアーニャであった。
こちらはいつも通りの無表情、のように見えたが、少し眉が垂れ下がっている。
これは寂しいと、悲しい半々の表情だ。
一年間一緒にいて、彼女の微妙な表情の違いにやっと気がついてきたところだ。
「……ルル殿下。危なくなったら、すぐ呼んで。絶対駆けつけるから」
「アーニャ、君は……」
恐らくアーニャはルルーシュに預けられた兵の少なさや、質といったデ-タを知っているのだ。このまま戦っても普通なら死ぬだけ。そう思っているからこそ、ここまでアーニャは心配そうな表情をしているのだ。
「大丈夫だ。僕が今まで誰かに負けたことなんてあるかい?」
「……一杯ある」
「ぐっ、あれは僕が油断してただけで、チーム自体は勝ってたじゃないか」
「…………」
「だから、心配するな。僕は絶対に死にはしないから」
「…………うん」
やっと納得してくれたアーニャの頭を、ルルーシュはそっと撫でてあげた。
髪がくしゃくしゃになるが、アーニャは何の抵抗もしなかった。
そしてそっと、二人は離れる。
この基地で色々なことがあった。大切な親友もできた。
その親友三人、言葉もなく、黙ったまま。お互い視線を合わせて再会を誓い合う。
―――そして、最後に、ルルーシュは自分の師とも、敵とも仰ぐ者へと歩み寄った。そう、全てはこの男が自分を拉致したあの日に始まった。
ビスマルク・ヴァルトシュタインは、ただ黙ったまま、朝焼けの空を見ていた。
ルルーシュの方など見向きもしない。
だからルルーシュの態度もまた、刺々しいものになっていく。
「……ふんっ、お前の心配なんてしてやらないからな。ボコボコにされてくたばってこい」
「そのご期待には答えられません。EU程度に遅れをとるつもりはありませんので……」
そんなこと分かりきっていた。
こいつが死ぬわけがない。
ただの照れ隠しだ。
ルルーシュの顔が暗くゆがむ。
得体のしれない胸の痛みが、心の深層でざわついていた。
「冗談だ……。相変わらず真面目な奴だな」
ルルーシュはもう顔を上げていられなかった。
ひょっとしたら、瞳に涙をためていたのかもしれなかった。
そんなルルーシュの様子を見て、ビスマルクはため息をついた。
「……なんです、その情けない顔は。あなたは皇族です。―――辛くても笑いなさい。戦地へ赴く兵士を笑って見送りなさい」
「……わかったよ」
ルルーシュは無理矢理に笑ってみせた。ぎこちない笑みだった。
正直不安で一杯だ。ビスマルク抜きでこれからやっていけるのか。
EUの最前線へと送られる友人達は無事に帰ってこられるのか。
自分が組織を纏め上げられるのか。
この微々たる戦力で勝てるのか。
カラレス含め、ほとんどの貴族達はルルーシュの言う事を聞いてはくれないだろう。カリーヌの息のかかった者達ばかりだから。
皇子といってもお飾り。
そんな自分に何ができるのか。
そして―――本当に自分は敵を……殺せるのだろうか。
ルルーシュは人を殺したことがない。
敵とはいえ、同じ人間を殺す。想像したことくらい何回もあるが、そのイマジネーションには現実味が全然なかった。日本が戦地になった時、死体なんかごろごろ見てきた。
だが、その死体を大量に自分がこれから生み出すのだ。
これでは日本を侵略したブリタニアと同じになってしまう。
ルルーシュの頭がごちゃごちゃになって、さらに不安が増大する。
しかし、そんなルルーシュの迷いを見透かしたかのように、ビスマルクがいきなりルルーシュの頭を叩いた。とても、とても痛い拳骨だった。
「いたっ」
一時周囲が騒然となる。皇族に手をあげたなんていうラウンズなど今までいなかったからだ。ジェレミアなど目をつり上げ、抜刀しているではないか。
そして―――、一言。
ビスマルクなりの励ましだったのだろう。
「―――勝ちなさい」
「うん」
「これまであなたを一年間鍛え抜いてきたのは、今この時の為です。
殿下はこれからお一人で戦わねばならない。
時には死んだ方がマシだと思うこともあるでしょう。
殺して殺されて、嘆くこともあるでしょう。
ですが―――、どうか御自身の道を貫いてください。
もう私はあなたにブリタニアを、シャルル様を憎むなとは申しません。
それだけの覚悟がおありなら、いつでもかかってきなさい。
ここからが、あなたの本当の戦争です」
「……わかった」
ルルーシュは手持ち無沙汰そうに、もじもじした。
伝えないといけない言葉があるのだが、照れくささや恥ずかしさが邪魔をして、喉から出てこない。だから、ルルーシュはぶっきらぼうに、顔をそっぽ向けて。
「……殿下?」
式典の遅れに戸惑う貴族達を無視して、ルルーシュはビスマルクに今まで言えなかった言葉を絞りだした。顔を伏せたまま、勇気をだして……。
「ありがとう、ビスマルク」
「…………」
「絶対生き残るから。強くなって、立派な皇族になって。それまで待っていてくれ」
「……イエス・ユア・ハイネス」
師の返事を受け取り、顔を下にむけたまま、ルルーシュはまた式典会場へと戻った。ビスマルクに初めてお礼を言えた自分を褒めた。
「……すまん。始めてくれ」
貴族達が出兵式を始める。一際大きな祝砲がナイトメアの砲口から発射された。
それを合図にして、兵士全員からブリタニアを称える声が、会場に溢れ出す。
「オール・ハイル・ブリタニアっ! オール・ハイル・ルルーシュ!」
「オール・ハイル・ブリタニアっ! オール・ハイル・ルルーシュ!」
浮遊航空艦から落下し続ける花びらは白く、まるで雪のようだった。
ルルーシュはビスマルクに言われたよう、笑顔で全兵士に向かって手を振り続けていた。
ビスマルク始め、ラウンズ候補生達が、EU侵攻用の浮遊航空艦に次々と搭乗していく。
(ああ、これで僕はこの基地に一人ぼっちか……)
涙はこぼれていたのかもれない。
でも、ルルーシュはもう振り返らなかった。
別に悲しくもないのに、涙が止まらない。悲しみの他にも、涙が出る理由が存在することを、ルルーシュはこの時初めて知った。
師と友とを乗せた航空艦がアデン基地上空を出て、砂漠の地平線へと消えていっても、ルルーシュはその方角を眺め続けていた。
(これから僕一人だけで戦わないといけない)
絶対に生きて再会する。
強くなって。
立派な皇子になって。
ビスマルクに告げたその誓いを幾度も胸に刻みつけ、意識の奥へと染み渡らせながら、たった一人の皇子はいつまでも遠くの空を眺め続けていた。
ルルーシュの戦争が、今始まった。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『第四話』
「ルルーシュ殿下、こちらもお願いいたします」
「ああ……」
「ではこちらの案件にも目を……」
「…………」
EU出兵セレモニーから四日が経っても、ルルーシュは相変わらず「お飾り状態」だった。書類仕事が終わらない。
書けども書けども、アラビア半島攻略戦におけるあらゆる部門への予算振り分け、統治するにおいての土地利用、名誉ブリタニア人の受け入れ、等々、山になった書類がルルーシュのサインを待っていた。こんなもの側近連中で片付けるべき問題だろうといったものまで、官僚連中は持ってくるのだ。大事な決定事項は全てカラレスに許可を貰いにいき、ルルーシュには話も通さないことがしばしば。
完全にルル-シュの十四歳という若さが仇になっていた。
皇族とは言え、まだ子供のルルーシュに政務など分かるはずがない。
まして軍事など、任せられるはずがない。
そのような風潮が基地内に広がっていた。
これは全てカラレスが皇族達から受け取った金を官僚にばら蒔いて、ルルーシュの命令を適当にあしらうように指示していたからだった。
回されてくる仕事は、誰でも出来るような書類仕事ばかり、といった現状。
ここにきてルルーシュは、一匹狼の恐ろしさを思い知ることになった。
―――根回し。
恐らく社会人なら誰でも一度は行ったことがあるだろう、インフォーマルな行為。
仕事とは別に飲み会などを開き、仲間同士の親睦を深める儀式みたいなものだ。
そこで挨拶を行い自分を知ってもらい、仕事関係をスムーズにしようという、どこの会社でもやっていることだが、ルルーシュは全くそういった知識がなかった。
というか、基本的に全部自分一人の力で何でもできてしまう優秀さを持ったルルーシュには、根回しをしてまで味方を作り、何かを成さねばならないといった状況すら初めてだったのだ。
ここにきて、ルルーシュの人付き合いの経験不足が弱点となっていた。
結果、政務を取り仕切る官僚の多くを、こういった根回しだけが得意なカラレスに取りこまれ、ルルーシュは孤立することになってしまったのだ。
これまで言う事を聞いてくれていた者達まで、カラレスの方に擦り寄っていく始末。
―――味方作り。
ブリタニアを中から変えるためには不可欠なこの能力。
ルルーシュは自分を無条件に支えてくれていたビスマルクや、ラウンズ候補生達の重要さを改めて思い知った。
(まさか一人がここまで心細いとはな……。僕は一人で何でもできると思っていたのに……)
ルルーシュの軍略、政務能力といったものは、既に大人顔負けであり、ビスマルクの厳しい修練によって、力もまた伸びてきている。
人脈の力……。
普通、皇族には後ろ盾と言う形で、生まれた時からついているものだが。
これがルルーシュには圧倒的に足りなかった。
やっと書類仕事から解放されると、ホールに連れていかれ、挨拶を求めてくる貴族達との謁見、占領する上でかかせない地元領主への説得、または武力を背景にした脅迫外交をさせられる。
ブリタニア貴族や富豪層らと実際に言葉を交わしたことは、もちろん子供の頃からたくさんあるが、そのたびに人種差別的な性格と、無理矢理文化人を気どろうとする浅はかな態度が透けて見えて嫌になる。
おべっかばかり使う貴族が立ち去ると、ルルーシュは呆れたように肩を竦めた。
こんな毎日が続いていくとなると、ぞっとする。
カラレスの好き放題に事態は動き、今のところ自分は何もさせてもらえない。
ルルーシュが肩を落としている、そんな時だった。
肩で風をきるようにして、堂々と大股で歩いてきた男が挨拶に現れたのは。
(また来たのか…………)
ジェレミア・ゴットバルト。
純血派という皇族に忠誠を誓う集団のリーダーだ。
ジェレミアの後ろにはキューエル・ソレイシィ、ヴィレッタ・ヌゥといった者達が続く。
「ルルーシュ殿下っ! 今すぐ御下命をっ。あのカラレスとかいう裏なり瓢箪の首っ、今すぐ撥ねてご覧に見せましょう!」
「い、いやっ。待て、ジェレミア!」
この四日というもの、なぜか毎日純血派はルルーシュに会いに来るのだ。
そして毎日ルル-シュにまともな仕事をさせないカラレスを罵る発言を繰り返し、颯爽と去っていく。
この行為に何の意味があるのか、まるで理解できない。
他人の思考を読むことが得意なルルーシュにとってジェレミアは、スザクに次いで理解できない人間だった。
「なぜ、止めるのですか、殿下! キューエル、お前も何とか申したらどうだ!」
あまりに熱血すぎて、まわりが見えていないジェレミア。
「ジェレミア、少し落ち着け。私は殿下の命令に従うのみだ」
ただ黙って、ルルーシュの言葉にのみ、重みをおくキューエル。
彼は典型的、伝統的なブリタニア軍人だ。
「ジェレミア卿、あまりそのような……不穏なことを、大きな声で仰られては……」
そして、ジェレミアのストッパーとなっている女性軍人のヴィレッタは、出世に興味があるのか、その態度には保身的な要素が強く現れていた。
基本的に信用できる人間だと、ここ数日で彼らを判断していた。
しかし、信頼はできない。
特に―――。
「それにしても、この基地の戦力はどうなっている! ナンバーズだらけではないか!」
「それについては同感だな……。歩兵にしか使えないナンバーズなど、戦力とは考えられんからな」
ジェレミアの憤慨にキューエルが同意する。
「殿下もどうしてあのような者達にナイトメアなど与え、さらに哨戒任務などという重要な仕事を任されているのですか」
「そうですっ、ルルーシュ様。
―――奴ら哨戒に出たまま、今日もまだ帰ってきていません!
絶対にどこかで油を売っているに違いありませんっ。あとで厳罰に処すべきです!」
と、ジェレミア、キューエルなどは、明らかなブリタニア人至上主義者のようだし。
「お二人の意見に賛同します。あのような者達と共に戦うなど、考えられません」
ヴィレッタなどは、己の身分の低さから、立場の弱いナンバ―ズを非難する傾向があったのだ。ルルーシュにとって、そういった彼らの考え方は古く、己の信念とは反対だった。
「違うな、間違っているぞ」
別に今以上に状況が悪くなるわけでもないし、ここで釘を刺しておくつもりで、ルルーシュはわざと彼らを突き放す発言をしてみた。
「何度も言っているが、僕はナンバーズだからと言って差別するような考え方はしないからな。いくらブリタニア貴族でも、使えないと判断すれば、迷わず切り捨てるぞ。例えお前達でもな……」
「で、殿下……! それは皇族としてあまりに―――」
「酷な仕打ちだと言うか……。だが、ブリタニアは実力主義の国家なのだろう? それを皇位継承者としての僕が実践しようと言うのだ。何か問題があるか?」
「「「は、ははっ! 申し訳ありません!」」」
ルルーシュはわざと低い声音を使い、ジェレミアらを冷たい瞳で見据える。
皇族として威厳に満ちたルルーシュの態度に、敬服する純血派。
ビスマルクには皇室で生き残るための策として、こういった行動一つ一つをチェックされていた。そこで学んだことは、自分の表情、態度などで、相手の反応が180度変わってくることだった。
毎日鏡の前で笑顔の練習、相手を脅す為の恐ろしい顔の練習、なぜか女性を篭絡する為の表情まで練習させられたこともある。いつか外交で役に立つと言われてきたが、早くもこの技術が役にたっていた。
「そう恐れなくていい。逆に考えてみればいいんだ。お前達は結果さえ出せばいい。そうすれば出生させてやる」
ルルーシュの『出世させてやる』という言に、ヴィレッタの眉が少しだけ動いた。
―――やはりか。この女、高い地位を望んでいる。
ルルーシュはヴィレッタを警戒する一方、これは扱い易い駒が手に入った、と内心喜んでいた。出世させてやるといえば、この女は何でも言うことを聞きそうだからだ。
「どうだ? この僕の考えが気に食わないなら、今すぐお前達もカラレスに鞍替えするといい。僕は止めはしないよ」
「ご冗談を……。我ら純血派、死ぬまでルルーシュ殿下のお側を離れませぬぞ!」
「ほう? ジェレミア、お前は我が母、マリアンヌに忠誠を誓っていたそうだな? その子であるというだけで、よくもそこまで僕に忠誠を誓えるものだ。それともお前の忠誠は流れいく雲の如く軽いものなのかな?」
わざと意地悪な質問を繰り返すルルーシュ。
まるで圧殺されるようなこの空気に、ヴィレッタやキューエルは緊張しっぱなし。
冷や汗だらだらである。
しかし、ジェレミアは違った。
「―――ぐ、くぅ………」
「―――!?」
なんとジェレミアは泣いているではないか。
(なんだ!? 何が起こった! こいつは一体何だ!)
「な、なぜ泣くっ!」
「……今は私を信じられずとも構いません。あなた様はお母上を殺され、妹であるナナリー皇女殿下まで失い、人間を信じられずともおかしくありません。ですがっ! ですが!」
ジェレミアは目から大量の涙を流し、膝を折る。
その言葉にキューエルまでもがもらい泣きで、目頭をおさえはじめていた。
こ、この状況は予想外だ!
なんだ、こいつらは……?
同じく呆気に取られているヴィレッタが、唯一の仲間に思えてきた。
(……熱血馬鹿に同情されても不快なだけだっ。というか、ナナリーは実は死んでいないんだが……)
「人の話を聞け!」
「いいえ! 聞きませんっ」
「な、なにっ?」
「全てはこれからの私達純血派の行動を見て、切り捨てるかどうかお決めください! 私達はあなた様に結果でお示しします! あなた様に死ねと言われれば喜んで死にましょう!」
ルルーシュの額から汗が流れる。
(なんという無駄に熱い男だっ! こんなタイプの人間、僕は見たことがないっ)
(こいつらはやる……。僕が死ねと言えば死ぬ気だ……。全くもって理解できない。皇族としての僕にそこまでの価値はないはずなのに―――)
「ルルーシュ殿下っ!」
「は、はいっ」
思わず敬語で返事してしまうルルーシュ。
ジェレミアがすごい迫力で、突撃してきたからだ。
なんというか、顔がすごく怖い。
「今からこのジェレミア・ゴットバルトは生まれ変わりますっ! これまでのではなく、これからの私を御覧下さい! 必ずやあなた様に信じていただける騎士となってみせましょうぞ!」
そう言って、退出していく三人の純血派。
「ま、待て! ジェレミア! 殿下にたいしてあのような暴言をっ」
「じぇ、ジェレミア卿っ」
皇族の前から去る時に必要な挨拶と、敬礼をすることすら忘れている様子で、颯爽と出て行くジェレミア。それを慌てて追いかけるヴィレッタとキューエル。
「あいつは……ひょっとしたら馬鹿なのかもしれないな」
ルルーシュはたった一人となったホールで、苛立たしげに足を組んだ。
馬鹿に同情までされて、ルルーシュは言いようのない怒りがこみ上げてきた。
そしてルルーシュは、自分の足元まで飛び散ったジェレミアのつばでできた染みを見つめる。なんという失礼な、品のない奴……。
だが―――。
「ふっ、ハハハハっ」
(あんな馬鹿が部下に一人くらいいても、面白いのかもしれないな)
ルルーシュは知らず笑い出していた。
ジェレミアは、轟々と燃え盛るその熱意で、ルルーシュの固く凍った警戒心を緩めることに成功していたのだ。これも、また一つの運命と言えよう。
ジェレミアはルルーシュにとって絶対に裏切らない忠臣として、しだいにその信頼を集めていくことになる。
これでルルーシュの持ち駒は、ジェレミアら純血派、そして訓練生仲間だった名誉ブリタニア人の部隊、合計で百近くになった。
カラレス侯爵は齢にして四一、先のエリア10侵攻戦において、いくたびも戦場を駆け巡った猛将。しかし、それは彼が流した噂であり、真実はインドシナ半島南端にある小さな島で、守護を命じられただけの一地方官であった。
四年前、ルルーシュがまだ十歳であった日本侵攻作戦でも、厳島で多数のブリタニア軍が撃破されていくと知ると、すぐさま部隊を引き上げ逃げ延びた。日本軍の藤堂が兵力を分断している隙をつき、―――すなわちブリタニア侵攻軍を見捨てて、一気に国境を超えて、ハワイ基地に備えていた増援軍に助けを求めた。
後に厳島の奇跡と言われる日本の反撃作戦だが、カラレスのこの逃走は多少の戦略的撤退は強いられたが、結果としていち早く日本に援軍を送ることに成功していた。
その後も一地方の官吏として無能な才を振るい続けた彼は、今回、皇子の初陣を邪魔し、隙を見て暗殺することを命じられた。
「侯爵である俺が、なぜ暗殺などという汚れ仕事を……」
命令を受けた時は、不機嫌にそう言い捨てたカラレスだった。己の実力ではなく、運と親の権力だけで手に入れた地位だが、それでもこれまで生き残ってきた誇りがある。
ただでさえ、日本侵攻作戦で一番の赤っ恥をかいたのが、彼である。
これ以上、面倒事に関わるのはもう勘弁だった。
といったところで、カリーヌ達皇族に歯向うような気概を見せる男ではなかったのだが、数十年と忠実にブリタニアに仕えてきた身としては、もっと華々しい活躍の場を貰いたいという苛立が募っていた。
(放っておけばいいのだ。十四歳の小童など戦場に出れば、勝手に死んでくれよう。いいや敵と密かに協力して、ルルーシュを罠に陥れて混乱させるほうがいい。そうすればこちら側の戦力をほとんど失わずして、この基地の最高権力を手に入れられるわ)
これまで卑怯なことばかりして生き延びてきただけあって、汚い手段だけはよく知っていた。アラビア半島侵攻作戦は戦いの規模そのものは決して大きくはないが、これが後々EU侵攻作戦の成否を占う重要な局面にあるのは間違いない。
(おれとて、何十年と戦場に出ていた古強者だ)
彼には彼なりの野心があった。エリア11成立以来、どの戦場にも出陣させてもらえない屈辱を味わっている。ここでただルルーシュを殺してしまっては、自分の未来に禍根が残ろう。狙うは一つ―――。
(ルルーシュ殿下を殺した上で、何かしら俺も手柄を挙げねばならんということか。殿下には無謀な突撃に出られて、止める暇もなく戦死されたことにでもしよう。そしてこの俺は、見事殿下の仇を討ち、敵将の首をあげるのだ)
ここでさらに名を上げておけば、身の振り方一つにしても幅が出てこよう。
おまけに、カラレスも当然ルルーシュ皇子の今までの経歴は良く調べた。ラウンズ育成の訓練を受けてきたとはいえ、どうせあの皇子殿は戦場で何もできまい。全権を奪うつもりでやってやろう。
「ああ、しかし」政庁執務室を出る前、彼は含み笑いを見せ、一人言をつぶやいた。
「無能な皇子殿とは言え、一応皇子。そこそこ命令は従っておかんとな。へそを曲げられても、のちのち面倒だ」
その夜に行われた軍議も、思惑通り、カラレスのペースで進んだ。
まず彼の副官が、ビスマルクから受け取った、アラビア軍との戦の結果を公表する。
現在イエメン州から東へ、海岸線に沿うようにして攻略戦を展開している。
こうして各地の貿易港や主要な街を支配下におき、徐々に北へ進軍していた。
「今のところは順調ですな」
副官がそうこぼしたように、ブリタニアの進軍をアラビア連合は止めることができず、次々と主要基地を攻略されていっている。しかし、それは全てビスマルクの軍略と、十分な戦力があってこそのものだった。今ここでもしアラビア連合とアフリカ北東の地域が協力関係を露わにした場合、ブリタニア軍の方が真っ先に奇襲を受ける恐れがあった。
「ブリタニアが出張る以上、アフリカもそうやすやすと動いてはこないだろうが、万が一のこととなれば、こちらのほうが挟み撃ちに遭いかねませんな。中華連邦にも気をつけませんと……」
「そこは本国の外交手腕に任せよう」
カラレスは机上に広げられたアラビア半島地図を見ながら言う。
「行軍中、哨戒部隊に警戒させるのを忘れるなよ」
「はい。念のため、皇子の御名においてアフリカに使者をたてるのもよいでしょうな」
副官のその要請に、部下達は頷いた。
部隊の編成と配置の相談を始めながら、カラレスはちらりと皇子の方を窺った。軍議が始まって以来、まったく話を振られず、ただ腕組したまま、地図のみを見据えている。
『皇子とは言えまだ十四歳の少年に、任せられることなど一つもない。殿下の仕事は全て我らが肩代わりするのだ』と、カラレスが事前に部下たちに金を握らせた結果がこれだ。
カラレスは胸中密かに笑い、話の矛先をルルーシュに向けてみた。
「この作戦、殿下はどう思いますかな?」
するとルルーシュは一瞬こちらを見たが、すぐ視線をずらして「アフリカに対しての備えは概ねこれで構わない。危険なのはアラビア連合軍の奇襲作戦だ」と答える。もっともな意見だったが、あとは何も話が続かなかった。軍議に居合わせた各隊の隊長からは、ちらほらとそれに賛成する意見が出るが、会議をしきっているのはカラレス子飼いの者ばかり。
ルルーシュは完全に孤立していた。
中から変えるとしても、圧倒的な力がないと、このように潰されるか、いずれ内部に取り込まれるのだ。
(くくく。その調子だぞ、お前達)
カラレスは考える素振りをしながら手で口元を隠し、思わず笑みで歪んでしまった口を隠した。
(あとは何もかもをこのカラレス副司令に任せておけばいいのだ。まあ、もっともどこでルルーシュ殿下に死んでもらうか考える方が、よっぽど頭を使いそうだがな。一兵卒も失わずにアラブ兵に勝利するよりも難しいだろう)
隠された嘲弄の視線に晒されている一方のルルーシュは、腕組した手に爪をたてていた。
先から集中力を駆使して、必死にカラレスのほうを見ないよう努力していた。
今あの勝ち誇ったような顔を見ると、平静でいられない気がしたからだ。ジェレミアが口にしたように、このまま腰のサーベルで斬り殺してやりたい衝動にかられる。
カラレスとその部下の態度が明らかにおかしい。
ルルーシュの意見を子供の戯言と全て片付け、自分達だけで勝手に作戦を立てていっている。
ビスマルクたちが近くにいないストレスもあったのだろう。
ここ最近のルルーシュのささくれだった心が爆発しそうになった。
特にカラレスは日本侵略にも出撃している、腐った貴族のお仲間だ。
ルルーシュが憎む条件は整っている。
(やはりこの腐ったブリタニアを変えるなんて無理だ)
内心で囁く声があった。
立派な皇子になる、その誓いを破壊しようとする内なる声だ。
自分ならブリタニアを壊せる。
一からブリタニアに反抗する勢力を作り上げ、自分がそのトップに立つのだ。
名前はそう、黒の騎士団とかどうだろう?
超合集国を作り、ナナリーの望んだ優しい世界を実現するんだ。
(何を我慢する必要がある)
(さあ、このカラレスという屑を殺せ。そしてブリタニアからの離反を宣言するんだ)
(今のお前なら簡単に殺せる。さあ―――)
この悪魔のような囁きはすぐに叫びに転じ、やがては大勢のハーモニーとなってルルー シュの頭を侵食していく。
(さあ、殺せ!)
瞬間、ルルーシュは席を立った。
交わされていた言葉が絶たれ、全員の視線がこちらに集まる。
ルルーシュの手には、サーベルが握られており、その刃が僅かに銀色に光ってみせた。
そして
ルルーシュの鍛えられた剣閃が、カラレスに向かおうとしているその瞬間。
基地内に耳をつんざく様な、おおきなサイレンが鳴り響いた。
『敵襲っ! アラビア連合軍が奇襲をかけてきました!』
第五話へ続く。