友人がその他板で書けばって言ったけど、まだチラシの裏でやります。
これから毎週、木曜か日曜の深夜に更新していこうかなって思ってます。
この作品は完全に作者の趣味で書きました。
深い考察など一切ない、パラレルワールドのギアスです。
キャラ設定や世界観、 その他が崩れていると嫌な方はお帰りください。
別にいいやっていう心の広大な方だけお読みください。
ルルーシュの初陣が決定してから、ほぼ半日過ぎた午後10時。
秘密裏に集まった皇族達数十人が、宮殿の中のネ家に与えられた敷地で、盛大に騒いでいた。浮かれているわけは、言わずともわかるだろう。
まだ年端もいかないルルーシュを戦地へと送り出し、失脚、いや戦死させようという策が見事に成功したからだ。
「いやぁ、ここまで上手くいくとは思わなかったよ」
「しかも、だ。ルルーシュを補佐する武官を我々で決めることができる」
「皆様そう仰ると思いまして、ここに無能な武官をリストアップしておきましたよ」
「ハッハッハ。貴公、気が利くな」
「これでルルーシュも……終わりですなぁ」
ルルーシュが死ぬことによって、利益を得る人物はたくさんいる。
皇位継承順が低い者。
平民の血が流れることを嫌がるもの。
彼の母であるマリアンヌに嫉妬を持っていた者。
ルルーシュよりも能力的に劣っている者等だ。
まさに、ブリタニア宮殿に巣くう、魑魅魍魎と言ってもいい存在である。
そしてその集まりの中心には、常にカリ-ヌが存在していた。
「……皆様、まだ甘くてよ」
自分より弱い兄弟を蹴落とし、踏みにじることに、はっきりとした喜びを感じる人格破綻者。ナナリーが死んだと聞いた時も、笑いが止まらなかったほど。
―――自分はまた生き残った!
―――また人を地獄へと突き落とした!
―――わたくしには、それだけの、力があるのよ!
ブリタニアの皇家に生まれ、母方の家柄はシュナイゼルにだって負けはしない。
誰もが自分に跪き、顔色を窺う。
―――そう! だって、わたくしは、この世の誰よりも高貴なんですもの!
下賎な平民の血が流れた皇族など、名前を聞くだけでも怖気が走る。
皇族である、というのは、カリ-ヌのプライドの根っこにあるものだ。
あんなルルーシュなどと一緒にされてはたまらない。
「甘い、とは? 君はもっといい案を持っているのかい?」
「もちろんよ」
「それは楽しみだ。皆、拝聴しようではないか」
反ルルーシュというより、反ヴィ家の集まりの中。
皆が彼女を見上げる中、カリーヌは残酷な笑みを浮かべ……。
「―――その武官に、ルルーシュを暗殺させるのよ」
会上にどよめきが起こる。
皇族殺しを……、カリ-ヌは、よりにもよってブリタニア宮殿で宣言したのである。
皆の頭に、マリアンヌ妃殺害の光景が思い出される。
「そっ、それは……いくらなんでもマズいよ、カリ-ヌ」
「皇族殺害となると、皇帝陛下だって黙ってはおられないだろうし。もし、そんなことをした犯人が僕達だってバレたら、もう皇族ですらいられなくなるかもしれないだろ」
「そ、そうだ。あくまで、ルルーシュには『戦死』、敵に殺されたということにせねば……」
あまりのリスクの高さに、カリ-ヌ以外の皇族達に怖気が蔓延していく。
カリ-ヌは他の皇族達の、情けない様子を見て、吐き気がするような感覚を味わった。
―――この腑抜け共が、自分の兄弟親戚縁者かと思うと、本当に虫酸が走る。
しかし
「その話……私は乗るわ」
周囲がざわめく。
列が乱れ、一人の年長の女が集団から現れたではないか。
―――第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニア。
皇女の中で一番年上であり、権力者。
カリーヌが皇族の中で、シュナイゼルと同じく、要注意人物に挙げる人物だった。
スタイルが良く、切れ長で妖艶な瞳を持ち、どんな男でも虜にできそうな魅力の持ち主。しかし、それは傾国の美。
美しさに騙されてはいけない。
この皇女もまた他人を見下し、破滅に追いやることを生きがいにしている、本物の魔女なのだから。
カリ-ヌはぎょっとする。
自分より果たして権力者である者は、この集会には呼んでいないのだ。
しかし、プライドの塊であるカリ-ヌは、断じて驚愕の表情など浮かべない。
必死で心臓の強い鼓動を止めようと努力し、ギネヴィアに笑顔を見せる。
「あら、ギネヴィアお姉様。御機嫌よう。でも、おかしいわね。お姉様をここに招待した覚えはありませんが……」
「ふふふ。小憎たらしいあんたの都合なんてどうでもいいのよ。私が聞きたいのは一つだけ。ルルーシュ暗殺……するの? しないの?」
「も、もちろん! するに決まっていますわ!っ」
ギネヴィアの嘲笑がカリーヌのプライドを痛く傷つけていく。
この女はいつもそうだった。いつもカリ-ヌを見下ろし、馬鹿にしている。
ただ自分よりも数年早く生まれたというだけで、調子に乗って!
―――いつか殺してやるわ、この淫売。
「ふぅん、そう……。じゃあその暗殺者に、カラレスって男を使ってみない?」
「カラレス……? 誰ですの」
「私の叔父の知り合い。一地方の官吏よ。大して役に立たない馬鹿だけど、成り上がりたいって功名心は人一倍らしいわ」
「どう、こいつ使えない?」とギネヴィアの瞳が怪しく光る。
あまり優秀でも困る。欲しいのは捨駒だ。そしてルルーシュ暗殺を成せるだけの実力は欲しい。
確かにカラレスという男は、データを見る限り、これ以上ないくらい適任であると思えた。
しかし
「どういうつもり、ギネヴィアお姉様? どうして私に協力するの? お姉様は私のこと、お嫌いでしょうに。まあ、それは私も同じですけど」
「ああ、嫌いさ。大嫌いだね。でもね、あんただけじゃないんだよ。私は自分の兄弟全員殺してやりたいくらい嫌いなのさ」
二人のやりとりを固唾を飲んで見守っていた皇族達が、「ひぃ」と一様に怯えた声を上げた。それくらいギネヴィアの迫力が恐ろしかったのだ。
「本当は私にはルルーシュなんてどうでもいいんだけど、いなくなってくれた方がありがたいって奴が、私の陣営にも少なからずいるわけ。これで満足?」
「ふ、ふふふ。そう……。ルルーシュも可哀想にね。自分の家族にこれだけ憎まれて……。疎まれて……。生まれながらの憎まれ者ってわけね。……いいじゃない。そういうの私、大好き」
―――なんて虐めがいのある獲物かしらぁ。
カリーヌの顔が醜く歪み、その身体が震えだす。
喜んでいるのだ。
この世から見捨てられたかのようなルルーシュを、これ以上ないくらいに惨めに殺せることを。
「ふんっ、家族なんてどこにいるのさ? 私は私以外の何者も信じてないわ」
「そうね。それだけは同感だわ、ギネヴィアお姉様」
「……フフフ」
「……キャハハハ!」
ブリタニア皇族、華やかな外見の影には、とても歪な、どす黒い悪夢が潜んでいる。
そこに愛などという感情が立ち入る隙間はなく、それゆえに曲がった道理が横行する。
異母兄であろうと、ひょっとしたら、実の兄弟であろうと、容赦なく噛み殺す。
そこは獣の世界。
―――弱い者は生き残れないのだ。
「ルルーシュと一緒にいるラウンズ候補生達だけど、無駄に殺すのはもったいないわね」
「そこはお姉様にお任せしますわ」
「……名誉ブリタニア人達はいらないわね。消去っと」
カラレスへと送る極秘の指令書を、作り上げる皇女姉妹。
そして、ルルーシュのもとへは、味方の皮を被った敵が送り込まれる。
しかし、それは悪いことばかりではなかった。
「ちょっと、ギネヴィアお姉様……」
「なによ?」
「資料読んで気になったのですけど……。
このジェレミア・ゴットバルトって男、結構優秀そうだけど、送っちゃって大丈夫なの? ルルーシュに取り込まれそうだけど……」
カリーヌの手元にある資料には、厳しい顔をした軍人の顔写真があった。
ヴィレッタやキューエルといった貴族を中心とした派閥だ。
なんでも皇族に忠誠を誓う、ここ最近名を上げてきた集団のはずだ。
「ああ、そいつ……。いいのいいの。純血派とかダッサイ派閥作ってるし。天に召されたマリアンヌ様のご遺児は私が救うのだって、熱苦しい馬鹿らしいから」
「そ、そう。……そうね。マリアンヌに忠誠を誓ってるような輩は、いらないわね」
「ルルーシュとまとめて殺してあげるわ」
「では、カラレスに指示を……」
「もうしてあるわ」
「ふふふ。さすがギネヴィアお姉様」
ジェレミアを甘く見たこと、それがこの二人を後々後悔させることになるとは知らずに……。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『第三話』
夕暮れのサナアの街は買い物の人々で賑わっていた。基地から借りてきたサンドバギ―を郊外に止めて、ルルーシュ達は雑踏をいく。今日は久々の休日だった。
砂漠での訓練を忘れ、一日中遊んでいられる時間は滅多にない貴重なものだった。だから、少し遠出して、占領統治下西部にある大都市にまで来たというのに……。
「ほら、ルルーシュ殿下。元気をお出しください」
「いつまでいじけてんすか? ビスマルク教官が冷たいのは今日が初めてじゃないでしょ? それより今日はせっかくの休みなんですから、もっと明るくいきましょうよ!」
「……ルル殿下、戦争怖い?」
「…………」
と、言うふうにモニカ、ジノ、アーニャと声をかけられたが、今だにルルーシュの怒りはおさまらない。
―――ブリタニア本国から、父であるシャルル・ジ・ブリタニアが、勅命をもって命令してきたからだ。その勅令が入った手紙も、ただ単なる事務手続きのようなものだった。
『ルルーシュよ。未だに死んだままのお前に、生きるチャンスをやろう。ビスマルク抜きで中東南部を平らげてみせるがよいっ。分かっておろうが、お前に拒否権はない。……細かい指示は皇族会議で決定された。せいぜい励むがよい』
肉親の愛情など欠片もない、ただの雑務としてのビデオレタ―。
恰幅の良い銀髪の皇帝が現れた瞬間、ホロとしての映像であろうと、ルルーシュは思わず腰のサーベルを抜き放ちそうになったほどである。
別にあの男に、親子の情などほとんど抱いていない。
だが、せめて―――。
ナナリーのことについて、一言でも触れてくれてさえいれば良かったのだ。
母、マリアンヌが身罷った時もそうだった。
母が死んでも、ナナリーが傷を負っても、全く気にしない。
ある者はそれが強さだと言う。ある者は、それが王だと言う。
しかし、ルルーシュには認められない。
憎しみが好悪の念を超えて、固定概念にまで成長した今となっては、シャルルを認めることはルルーシュのアイデンティティーを壊すことと同義となっていた。
そして、腹が立つことはもう一つあった。
―――ビスマルクが何の反論もしなかったことだ。
ルルーシュとて人間である。
いくら憎い、恨めしいと、ビスマルクに当たりながらも、半年間も教授を受けてきた相手である。彼の強さや、戦略眼、そして信念に尊敬だって生まれていた。心の中で、甘えがあったのかもしれない。
―――母を慕っていたこの男なら、僕や、そして日本にいるナナリーを守ってくれるのではないか?
しかし、そんな期待は、何の意味もなかった。
ビスマルクはただ一言「皇帝陛下からの命令ですので」とそう片付けた。
ルルーシュとてブリタニア皇族へと復帰したのだ。戦争へ赴く日が近く来るだろうとは思って覚悟していた。
―――ナナリーが平和で、優しい世界にいてくれるのであれば。僕はどうなろうと構わない。僕はいくらでもこの手を血に染めよう。
―――全てはナナリーの為。
それが、ビスマルクの厳しい指導や、自分のこれからの将来を憂う不安を、和らげる心の支えとなっていた。言わば、ルルーシュの根幹である。しかし、それが辛くないはずないではないか。
まだルルーシュは十四歳。
子供は大人の庇護を受けて、たいていは育っていく。
マリアンヌが死んでから、ビスマルクはルルーシュにできた最初の庇護者であり、師であったのだ。皇帝の命令だから、仕方ないのは理屈で分かっている。でも、一言くらい反論して欲しかったのだ。
ルルーシュの思考が暗い方向へ進みそうだった、その時―――。
「もうビスマルクなんてどうでもいいよ。……人間何をするにしても、どうせ最後は独りなんだ。これくらいで―――ムブっ」
「ルル殿下……。綿菓子食べる?」
いきなり甘いふわふわしたものが、口に入れられた。
「アーニャ、口に突っ込む前に聞いてくれる?」
突然のことに一瞬動揺するが、アーニャ達を見てただただ呆れるルルーシュ。
モニカはブリタニア占領下であるが、中東の街を物珍しそうにフラフラしている。ジノは輸入品だろう焼き鳥を口一杯にほうばっていた。
思いっきり遊び呆けている友人達。
ルルーシュは怒る気力もなく、ただ呆然と口に突っ込まれた甘い砂糖の塊を舐める。
色とりどりの看板、パンを焼く香り、お菓子屋、ゲーム屋、夕暮れの空を映す綺麗な赤色の水面。訓練ばかりの毎日だった日々にはない、ありふれたそれらがすごく新鮮に感じる。
アーニャはルルーシュに微笑かけて、
「……大丈夫。ルルは独りじゃない」
「あ、ああ」
その突然の言葉に少し呆気にとられるルルーシュ。
アーニャは言葉数は少ないが、とても感受性の強い優しい女の子だ。
「ルル殿下、頭いいけど、考えすぎる。たまには私みたいにボーっとすればいい」
「そ、そうだね」
このように、いつも一言一々が重要で、ルルーシュを助けてくれる。
「……面白い?」
「この街がかい? そうだね。面白い」
「そう、良かった」
「うん……」
アーニャとのこの会話で、なぜかルルーシュは子供の頃、母が自分をあやしてくれていた時のことを思い出していた。
―――全然似てないし、まだ僕より小さい娘なのにな。
「アーニャ、以前僕達会ったことないかな?」
「…………ない、と思う」
こんな年下の女の子に母性を感じるのは、おかしなことだと思いながらも、たまにアーニャが違って見えるんだから不思議な話である。それにどこかで会ったことがある気がするのだが。
と、先頭を行くモニカがこちらを振り返り。
「ちょ、ちょっと、ルルーシュ様! なにアーニャといい雰囲気になっているんですか!」
「え? 別に僕らは……」
「まずはアーニャから離れて言ってくださいっ!」
ルルーシュは否定しかけるも、見ればアーニャがルルーシュにくっつき、携帯のカメラをこちらへ向け……。
「ルル殿下と今日綿菓子食べた……」
ツーショット写真を自分のブログ用に撮っているではないか。
「ま、まさか……、ルルーシュ様は自分より幼い少女にときめきを感じるのですか!」
「ま、待てっ。話が見えない。モニカ、一旦落ち着くんだ」
「と、年上ですっ! 年上の女性の方がいいですよね? 絶対っ」
ブツブツ言いながら、ルルーシュに迫るモニカ。
そこをアーニャがカメラで撮る。
「ルル殿下とモニカ、今日も仲良し……」
「アーニャ、その写真私の携帯にもデータを送りなさい! 今すぐ!」
「……了解~」
「た、助けてくれー、ジノっ」
だが、先頭を行くジノの様子がどこかおかしい。
「―――おいっ、それ以上はもうやめろっ。死んじまうぞ!」
「うっせぇ! ブリキのガキは黙ってろ。これは俺達の問題だ!」
誰かと揉め事でも起こしたのか、数人の外国人に絡まれているようだった。
それも喧嘩に発展している。
まだ十代の子供とは言え、ジノは強い。
屈強な砂漠の民相手に、一歩の引いてはいなかった。
しかし……。
対戦相手は現地住民であるアラブ人がほとんどだが、その足元に、なんとルルーシュ達と同じ訓練生である名誉ブリタニア人何人かが倒れ伏しているではないか。
占領統治下の街とは言え、ブリタニアの支配に抵抗する人々は大勢いる。
経済も治安も良くなっているはずなのに、民族としての誇りが服従を許さないのだ。
「ジノっ! 大丈夫かっ」
「あっ、やっと気づいてくれたんですか……。ルルーシュ様って俺を放って、女の子といちゃいちゃしちゃってさ」
「拗ねてる場合か!」
ルルーシュ達も混乱の中へと足を踏み入れた。
モニカとアーニャが護身用の銃を取り出し、「フリーズ」と相手を威嚇する。
「っち……、ブリキの応援かよ」
「魂まで売りやがってっ、このブリタニアの犬がっ」
ルルーシュはアラブ人達の言葉を聞いて、これがただの喧嘩ではないことを知った。
「う、うう」
ジノに守られるようにして倒れている名誉ブリタニア人達。
あまり彼らと喋ったことはなかったが、それでも半年間一緒にやってきた者達だ。
名前や性格くらい把握している。
顔には複数箇所殴られた痕があり、身体中あちこち血が滲んでいる。
しかも、中には女性の姿もあり、モニカやアーニャ達の頭に血がのぼる。
恐らく彼らは、同胞に裏切り者扱いされて、ここまで痛めつけられたのだ。
しかし、なぜか護身用の銃に手をつけていない。
そして逆に将来のラウンズ達に片付けられて行くアラブ人達。
次第に散り散りになって逃げていってしまう。
「おい、大丈夫か、お前ら?」
「…………う、ル、ルルーシュ殿下っ! こ、これは失礼しました! お見苦しいところをっ……、ぐわっ」
「馬鹿っ、黙って横になってろ!」
ひどい傷なのにそれでもルルーシュに対し、膝をおり、まるで土下座をするように身を伏せる。その姿になぜかルルーシュ自身も歪な不快感を感じた。
「確かお前はトーマだったか……。なぜ銃を使わなかった?」
「お、俺の名前、覚えててくれたんですかっ」
「半年も一緒だったんだ。当たり前だろう。そんなことより、なぜ抵抗しない? あのまま殺されていてもおかしくなかったぞ」
―――なぜ戦おうとしない?
ルルーシュは今朝の、父であるシャルルの一言が、頭に思い浮かんできていた。
『未だに死んでままのお前に、生きるチャンスをやろう』
そして、ビスマルクに初めて出会った、あの時のことを。
『皇族としての義務をお果たしください』
『なんの力も持たない、力を得ようと努力もしようとしない。今のあなたに皇族としての価値はありません』
―――生きるためには。大切なものを守りたいなら、強くなるしかない。
ルルーシュはビスマルクからそのことをまず教わった。
では、この名誉ブリタニア人であるト―マ達は、何の為に戦っているというのか。
こんな所で、同じナンバーズに殴られ、ルルーシュに無様に頭を下げ、血を無駄にながして……。
そして、彼らの話を聞くにつれ、ルルーシュは初めて名誉ブリタニア人というものがどういうものなのか。何を考えているのかが、少しだけわかったような気がした。
「今はわかってもらえませんでした。……でも、名誉ブリタニア人として、俺が頑張って出世すればここで燻っている同じナンバーズの皆に希望を与えることができます。ブリタニアは実力があれば出生できるって聞きました。だから……」
「…………ブリタニアと戦うという選択肢はなかったのか?」
ブリタニア皇子であるルルーシュから、反体制的な言葉が出て、驚くト―マ。
しかし
「正直迷いました。でも、無駄に血を流すよりもマシだと思いましたので」
「それは…………。いやいい」
ルルーシュはその言葉を否定してやりたかった。
結局何かを変えようとするなら、確実に血は流れる。
この男が見ているのは、ただの夢幻。現実を見てはいない。
事実、ブリタニア上層には貴族が蔓延っており、この男一人がいくら頑張ろうとも、何も変わらないだろう。ここで希望を絶ってやるのも優しさだ。
しかし。
「ルルーシュ殿下のような我々を差別しない皇族の方もいますし、今は駄目でも将来はきっと―――」
その希望を語る瞳は輝いていて……。
どこか、日本で別れた大切な友達を思い出して……。
できなかった。
ジノ達が複雑そうに、眉をひそめ、地面を冷たく睨むルルーシュを心配そうに見つめる。
ルルーシュは名誉ブリタニア人のこの言葉を、これからずっと考えていくことになる。
どうしたら、世界を変えられるのか?
この後。
スザクという名誉ブリタニア人が目の前に現れることで、このルルーシュの悩みはさらに拍車がかかることになるのだった。
前線基地で暮らすようになってちょうど九ヶ月が経過したその日―――。
基地内司令部には、ブリタニアからの使者として、黒スーツ姿の二人が到着していた。
ビスマルクは部下達を部屋から追いやると、訓練中のルルーシュを呼びつけ、賓客用待合室に来訪者を迎えた。
恐らくあと五ヶ月後に迫るEU出兵でのビスマルクに対する具体的指示や、このアラビア半島戦線でのルルーシュへの指揮権の移譲など細々とした文言を伝えるのが目的なのだろう。使者二人の態度は儀礼的に畏まってはいるが、どこか事務的な軽薄さがにじみ出ていた。
「私はベルクマン・ソレールと申す者でして、ブリタニア皇族議会の使いです。どこかでお聞き及びではございませんか?」
「ああ……。噂で聞いたことがある。確かカリーヌの子飼いの貴族だったっけ」
ルルーシュがぶっきらぼうに答える。平民との混血であるルルーシュに、主を呼び捨てにされたことが気に障ったのか、使者の一人が椅子から腰をうかせかけたが、もう一人がそれを制し、話を続ける。
使者が言うには、現在、議会はシュナイゼルを中心としたEU侵攻作戦に、ビスマルクを武官のトップに置いて、最前線を指揮してもらいたいようだ。相当数の兵と、最新式KMFを数台与えられるそうだ。ルルーシュが気になった情報は、ラウンズ候補生達、ジノやアーニャ、モニカといった連中もその最前線へ送られることが決まったことだった。
そもそも一年という訓練期間、彼らといつかは別れなければならないことくらい、ルルーシュは理解していた。せっかく友人となった彼らと離れるのは身を切られるように痛いが、ラウンズになるというのがそもそもの彼らの夢だったはず。その道行きを邪魔してはいけない。恐らく頼めば彼らはルルーシュと一緒に戦ってくれるだろう。だが、自分のエゴで他人を巻き込めない。それだけルルーシュも大人になっていたのだ。
「そこで、ルルーシュ殿下にはアラビア半島南部の制圧、余力があればその北部バグダッドまでの進軍、そして統治をお任せしたい。来月、ビスマルク卿にかわり、カラレス公がこのアデン基地に着任なさいます。ルルーシュ殿下におかれましては、カラレス公の助言をよく受けとめ、ブリタニアのますますの発展の為、そのお力をお使いください」
ルルーシュは少しだけ眉根を寄せた。それはビスマルクも同様だった。
カラレスと言えば、ブリタニア人至上主義者で、統治下の市民への乱暴な振る舞いで有名になっている貴族だ。そんな男の助言を聞かねばならないのか、とルルーシュの心は暗くなった。
「―――どうして僕の武官にカラレスが……? 彼が戦場で活躍したという噂は聞いていない。彼はどちらかと言えば、文官のようが気がするが」
「はぁ。いやしかし、カラレス卿も中々稀有な才を持った人材でして、きっとルルーシュ殿下のお役に立てると思いますぞ」
「それと、もっとサザーランドをまわせないのか? この戦力では敵軍が総攻撃に出た場合、僕達の基地は包囲される形になるんだが……。補給線の防備に削く戦力すらままならない。航空戦力もだ。君達は戦争をなめているのか?」
「そう申されても、ほとんどの兵力はEUにありまして、ルルーシュ殿下に任せられる兵力はこれが限界となるのですが……」
使者へ問い掛けながらも、ルルーシュにはなんとなく皇族議会の思惑が見えてきていた。他の多くの皇族達は、このルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを戦死させたいのだ。
十四歳という年齢での初陣、あまり優秀でない部下、そして送られる兵の少なさ。
それに兵の質もお粗末なもので、名誉ブリタニア人がほとんど。
純粋なブリタニア軍人は少く、回されるサザ―ランドやグラスゴーといった機体は全て彼らが使用する。つまりはブリタニアには不要と判断された捨駒の多くを、ルルーシュが引き取ることになったということである。
「衛生エリアに昇格した土地のナイトメアを回すことくらいできるだろう? なぜそうしない」
「……えー、それは、その、それが最善であるからです。あなたにも、我々にとっても、ブリタニアの未来のためにも」
「ははは。それはつまり、僕が死んだ方がブリタニアの未来に良いってことか?」
「邪推をなさいますな。初陣を前にナーバスになるのも分かりますが、あなた様の御兄弟は全てあなたの勝利を願っておられます。どうぞお励みくださいませ」
よくも白々しい。
自分の兄弟たちが、ルルーシュをどう思っているかなど、聞かなくてもわかる。
ビスマルクが離れ、ジノ達といった将来優秀な者達がどんどんルルーシュの側から離れていく。つまりは、この戦争でルルーシュに後腐れなく死ねと、彼らは言っているのだ。
「総司令官はルルーシュ殿下、副司令はカラレス卿、ナイトメア部隊の隊長にジェレミア卿、アーネスト卿、ウィリアム卿……。航空部隊には……」
ルルーシュもこれから部下になるであろうデータを見るが、使えそうな駒は限られている。
チェスで言うならポ-ンがほとんど。
ジェレミアら純血派でやっとナイトくらいだろうか。
しかし―――。
―――待っていろ、ブリタニアの屑共。
―――お前達の思い通りになど誰がさせるものか。
「ルルーシュ殿下……。聞いておられますかな?」
黙ったままのルルーシュに、使者達が怪訝な顔を見せる。
ルルーシュは難しい顔を一転、使者に笑顔を見せる。
「ああ、帰ったら君達のクソッタレな飼い主に伝えておいてくれ」
「は? く、くそ?」
「僕は死なない。―――いつかお前達を、そろって地獄に送ってやるってね」
ルルーシュの本当の戦いが始まった。
第四話へ続く。