いつもご感想ありがとうございます。
誤字脱字の指摘ありがとうございます。
あくまで試作品ですので、細かい部分は後々修正しようかと思ってます。
このSSはあくまで趣味で書いていますので、深い考察はしていません。
ただアニメを見て、WIKIを一通りさらっと読んだだけの拙い知識で書いてます。世界観や人物設定などが原作と違っていることもあるでしょう。半ばオリジナルスト-リ-ですし。こんな作者の作品でも読んでやるという、心の広大な方だけお読みください。
砂漠のマラソン終了後、午後三時半―――。
煮え立つ太陽が、赤茶色した大地を熱く照らし出していた。
いつもは砂嵐の音しか聞こえないような何もない砂漠が、午後は一変、銃声と打撃音が木霊する戦場となっていた。
『ルルーシュ殿下、前方から……敵機複数、ジノです!』
「わかっている。あいつは真正面から突っ込むのが大好きだからな。全機、散開。できるだけ引きつけろ」
日本侵略にも使われた量産型第四世代KMF『グラスゴー』全二十四機(訓練機)が砂塵を巻き上げ忙しげに駆け回っている。ビスマルクの指示で訓練生は紅白に分かれて、模擬戦の真っ最中だ。
ちなみに、訓練生は四十八人いるのだが、訓練機が余っていなかった。
名誉ブリタニア人の中でも、特にKMF適正値の高かった者を選抜してチームに入れているのだ。ナンバ-ズにKMFを操縦させるなんてと、非難する声があるが、あくまで試験的なものであり、ビスマルクは問題なしと判断していた。
ルルーシュの駆る機体のすぐ横を、弾丸が飛翔していく。
もちろんアサルトライフルの弾は、ペイント弾。スラッシュハーケンの先は丸くして刺さらないし、スタントンファの威力も下がっている。できるだけ訓練中に兵士が傷つかないようコクピットもより安全に厚くできている。
しかしそのため、モジュール式脱出機能はついておらずいざとなったら自力で脱出せねばならないリスクも多分に含まれていた。
それにグラスゴーの劣化版の訓練機とは言え、ランドスピナーの高速移動で行われる戦闘は、はっきり言ってかなりの恐怖をともなう。スタントンファなどで思いっきり殴られたら、恐らく打撲程度ではすまないだろう。
よって、この模擬戦にはルルーシュもかなりの覚悟を持って望んでいた。
ルルーシュの前方には、KMFエンジンであるユグドラシルドライブを高速回転させ、全速力で目の前に迫るジノの駆るKMFの姿があった。
その後ろにはア-ニャがジノの援護をするように、アサルトライフルを撃ち続けている。
敵チームはジノを中心に、突撃攻撃を仕掛けてくるらしい。
「全機ブレーキをかけながら、ランドスピナーを高速回転させろ。モニカ、君が斬り込み隊長だ。準備を頼む」
『イエス・ユア・ハイネス』
モニカがスタントンファを前方に展開させ、グラスゴーを少し前進させる。
ルルーシュは近接戦闘が得意なモニカに、ジノの相手をしてもらうつもりだった。
他の全機はルルーシュの指示に従い、その場で動かず、ただランドスピナーを回転させ続ける。するとホイ-ルから巻き上げられた砂塵が巻き上がり、ルルーシュ達の機体を隠してしまう。これで砂でできた目眩ましの出来上がりだ。
まだナイトメアを扱い慣れていない名誉ブリタニア人もチームにはいるので、彼らをどうサポ-トするのかが、この模擬戦の鍵を握るだろう。
今正に全高4.24メートル、重量7.35トンの巨大な鉄の塊が、だだっ広い砂漠でぶつかり合おうとしていた。
『よっしゃあ! 突っ込めっ』
「……今だ! 撃てっ」
偶然にもジノの号令とルルーシュの号令が重なりあった。
視界一面を埋め尽くす弾丸の雨嵐。
敵のパイロット達の、戸惑と驚愕の声が聞こえてくる。
「ヘレン、右前方に移動。弾幕を張れ」
『り、了解っ』
「ケビン、前へ出すぎるな。まずは後退して敵を包囲しろ」
『ィ、イエス・ユア・ハイネスっ』
敵にも総大将ジノに代わる優秀なブレイン役の生徒がいたが、完全にルルーシュの敵ではなかった。幾度にも渡る危機をルルーシュが的確な指示を出して、味方チ―ムを優勢へと導いていく。
こと戦場において、ルルーシュが発揮するカリスマは、訓練生の中でも有名となり、ルルーシュが指揮をとれば世界すらとれる、とからかう輩まで出始めていた。
ジノチ―ムの優勢だった陣形は徐々に縦に伸びていき、次第に包囲される形となっていく。
そもそも大量の砂の煙幕から突如飛び出してくるペイント弾や、スラッシュハーケンに対応できる生徒などまずいない。次々と敵機体の反応が消えていった。
しかし、―――ジノだけは別だった。
戦略が戦術に負けるなど、ルルーシュにとってはあってはならないことだが。
「何をやっているっ! 敵は同じグラスゴー一機だぞ」
完全に押し包んでも今だ沈められないジノに、ルルーシュのストレスは溜まっていく。全体の指揮をとりながら、自分もジノへ挑みかかる。
『へぇ。ルルーシュ様、ナイトメア操縦は中々上手じゃないですか』
「ふんっ、その余裕がどこまでもつかな」
しかし、敵の何の恐れもないような突撃は、凄まじい威力だった。
一瞬でこちらと距離を縮め、仲間の機体を次々と砂の海に沈めていくジノに、ルルーシュは愕然としてしまう。
『皆、さがって。私が出るから』
しかし、それをモニカが止めに入る。
『おっ、モニカさんか……。相手に不足なしっ』
モニカとジノの機体が交差し、互いの武器が火花を撒き散らした。
ジノが前に出ようとすれば、モニカがアサルトライフルで牽制しつつ、隙を見てトンファを振り下ろす。お互いのスラッシュハーケンが空中でぶつかり合い、明後日の方向へ飛んでいく。
ジノも負けてはいない。
壮絶なラッシュで、モニカに反撃の隙を与えず、絶えず攻撃をしかけていった。
砂塵で前が何も見えないこの状況で、ここまで白熱した戦いができるこの二人はやはり異常としか言いようがなかった。装備が限られてのこの戦闘で、二人の戦いは訓練生のレベルを超えていたのだ。
しかし、接近戦オンリーではジノの方が上なのか、次第にモニカが押され始める。
ジノのスラッシュハーケンが、モニカのKMFのホイ-ルを砕いたのだ。
これでモニカは機動力を大きく削がれた状態となる。
モニカが必死に距離をとろうと、潰れたホイ-ルを回転させるが、ただただ機体の熱蓄積量が高まるのみであった。
『これでっ、トドメだ!』
ジノの武器がモニカの機体を横殴りにしようとする。
しかし、そうはルルーシュがさせない。
「いや、お前の負けだ、ジノ! ―――チェックメイト」
なんといつの間にか、ルルーシュのチームの機体がジノの背後に回っておリ、アサルトライフルを突きつけ、包囲していたのだった。
ジノの奮戦は確かに凄いものだったが、彼は総大将には向いてなかった。
もの凄い砂塵と弾幕を前に、チームが付いてこれなかったのだ。
序盤であっさりブレイン役の生徒が、戦闘不能になり、これでなし崩しである。
ルルーシュの作戦は最初から、ジノと後続を切り離すことにあったのだ。
後続のア-ニャ達さえ片付ければ、あとは厄介なジノを皆でボコボコにすればいいだけである。
ア-ニャは遠距離の射撃には要注意だが、近接戦ではあまり成績を振るわない。
そのデ-タがあったからこそのこの作戦だった。
『く、くそっ! セコいですよ、ルルーシュ様っ』
「この場合クレバー(セコい)ではなく、スマ-ト(賢い)と言ってくれ。フハハハハハ!」
ルルーシュ絶好調である。
ナイトメアに乗って、完全勝利なこの状況。
幼い頃から母に指南を受けてきたナイトメアの腕は、そこそこ良いところまでいっているのだ。
―――なんだ、簡単じゃないか! 戦闘に勝つなんてっ!
ドSの本性を表し、馬鹿にしたような嘲笑を大きく響かせる。
「行動が読み易すぎるぞ、ジノっ! これがチェスなら勝負にすらなっていないなぁ! フハハハハハ!!」
しかし、その時である。
大量の弾幕によってほぼ全滅したと思っていた敵軍のうち、ア-ニャはまだ生き残り、チャンスを窺っていたのだ。空中に多く撒き散らされた砂は、ナイトメアのレ-ダーも狂わせており、ルルーシュは敵勢力の微かな生存反応に気付かなかったのだ。
ア-ニャはグラスゴーを砂漠に寝かせ、アサルトライフルの照準をあわせていた。これで目視でも気づかれにくい。
そして
『……ルル殿下、覚悟』
「えっ!? そ、そんなっ、イレギュラーだとっ!」
放たれた弾丸は、ルルーシュのグラスゴーの頭部カメラに見事に命中した。
ルルーシュの視界がいきなり、真っ赤なペイント色に塗りつぶされる。
これでは何も見えないではないか。
『おっ、チャーンスっ! 敵将討ち取ったりー!』
「ま、待てっ。うわああああ!」
そしてジノの放ったスラッシュハーケンが、呆気無くルルーシュのコクピットにブチ当たった。グラスゴーが砂漠に向かって、仰向けにひっくり返る。ひどい振動と衝撃が身体を襲った。そしてアラームが鳴り響き、ルルーシュの機体がロスト(戦死)したことを告げる。
『ルルーシュ殿下っ!』
モニカが助けに入ろうとするが、完全に後の祭りだった。
ルルーシュの機体は壊れていないが、これでもう戦闘不能扱いとなったのだ。
「ば、馬鹿なっ。さっきまで楽勝だったのに……」
ルルーシュはただ呆然と呟くしかできなかった。
結局この試合はルルーシュチームの勝利に終わったが、最後の最後で詰めを誤ったルルーシュはこれで補修決定である。
しかもやられ方がひどかったので、ビスマルクの怒りはかなりのものだった。
…………………。
「戦場での油断は即、死に繋がります。よろしいですか、殿下。そもそもあなたは御自分の力量を過信しすぎるきらいがかなりございます。戦場はあなたの頭の中だけで行われるものではありません。あらゆるイレギュラーを予想してこそ、本物の知将。そもそも総大将であるあなたが敵前に堂々と姿をあらわすとは何事ですか。確かにあなたのナイトメア操縦技術は少しですが光るものがあります。しかし、ジノ達に比べればまだまだ弱い。御自分の長所や短所を見つめ直し、心身共に成長するしか道はございません。聞いておられますか、ルルーシュ様……」
この調子で説教が徹夜に及んだ。
無表情なビスマルクがクドクド語るものだから、なおさら眠くてしかたない。
しかし、寝たら殴られるので、それもできない。
翌朝にはまた砂漠の早朝ランニングが待っているのに、この日は一睡もできなかった。
しかし、これでルルーシュの調子に乗るところや、突然の事態に弱いところが、段々改善されていくのだから、文句を言っては罰が当たるだろう。
ちなみにだが、ルルーシュのイレギュラーな事態に対する弱さは、成長してからも中々治らなかった。その弱点を克服するために、ルルーシュは自分だけの軍師、相談役を見つけることに苦心することとなる。
まあ、それもまた別の話だ……。
ルルーシュは良い指導のもと、良い仲間を手に入れ、順調に成長していっている。
しかし、それは多くのブリタニア兵や、ビスマルクの庇護下であればこそだ。
ブリタニアの皇籍に復帰してから約半年。
そろそろルルーシュにも、己の手を血で染める日が近づいてきていた。
為政者であれば、誰しもがその器を試される場所。
―――すなわちルルーシュの初陣である。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『第二話』
皇帝シャルル・ジ・ブリタニアはめったに政務の場に出なくなった、と宮殿内で囁かれているのを、シュナイゼルは幾度となく耳にしている。
マリアンヌ皇妃がまだ生存中の皇帝は、精力的とは言うまいが、それでもよく家臣の前に姿をあらわし、強権的に政務を取り仕切っていた。シュナイゼル自身、そんな父を見て育ったので、今の皇帝はどこかおかしいと、段々疑いの目で見るようになってしまっていた。
―――すなわち、父はもう皇帝という地位に疲れてしまったのではないか、と。
『あの方に睨まれると、生きた心地がせん』
シュナイゼルの家臣からもそんな言葉を何ども聞いた。
最近の皇帝は、ますます政務を放り出し、神官と共に、宮殿のどこかに篭るようになった。
世界を征服するかのような、他国への積極的侵略行為を推し進め、皇族、貴族、武官へ強く働きかけている。少しでもミスや、失敗があった家臣は放逐される。
皇帝の権威はもはや恐怖になり、今や誰も反論出来る者がいなくなっていたのだ。
これからは唯々諾々と従っていればそれで満足するような無能な家臣が増え、本当にブリタニアを思っている有能な貴族官僚は次第にその力を失っていくだろう。
(ふん―――?)
やがて奇怪な思いに囚われて、シュナイゼルは唇をそっと歪めた。
―――ブリタニア宰相である身でありながら、まるでブリタニアへの愛国心が湧いてこない。
家臣は長年の苦労と、幼い頃の苛烈な皇位争いで、皇帝の心は壊れてしまったのではないかと言う。しかし、壊れているのは父と自分、どちらだろう?
全てにおいて執着や、野心というものが湧いてこない自分は何なんだろうか。
自分に力があるのは知っている。それだけの才があり、努力をしてきたのだから。
だが、その力を使って最終的に何がしたいのか、シュナイゼルにはそのビジョンがなかった。
こうしたら世界はもっと良くなるのに、という構想はあるのだが、なぜ世界を良くせねばならないのか、その動機がシュナイゼルにはまるでなかった。
(人間は利害で動く生き物だ……。ならばいっそ恐怖で―――……)
そして、今シュナイゼルが向かう先に、ブリタニア皇帝シャルルがいる。
帝都ペンドラゴン中心部、ブリタニア大聖廟。
毎年新年の挨拶や、祭事、式典などを行う場所。
基本的に皇帝と上級神官しか入れない、宗教的権威ある部屋だ。
見張りに立っていた兵士が、シュナイゼルの姿を認めて敬礼した。
彼の案内で、棟の中へと向かう。
大勢の貴族皇族とすれ違った。
兄であるオデュッセウスや、弟妹であるコ―ネリア、クロヴィス、カリ-ヌなども、出席していた。皆一様に緊張した面持ちを浮かべている。
ちなみに身分の高低で、座る席が違うのだ。身分が高ければ高いほど、皇帝の近くに座ることができる。
シュナイゼルは挨拶の言葉を述べたが、シャルル皇帝は「うむ」と頷いたきりで、何を考えているのかわからない表情で、目を閉じ考えこんでいた。
そして十分以上経った頃、皇帝が人の列を見下ろすように、席から立ち上がった。
シュナイゼル達は揃って、皆頭を下げた。
「来年、EUへの侵攻を始めようかと思っておる」
「……!?」
出席者一同に衝撃が走った。
EUはドイツ州、フランス州など、ヨ―ロッパ列強の国々が対ブリタニア戦線を組み、その防備は完全と噂されている国家連合である。今だエリア11を得たばかり、それにまだ中東を制圧できていないこの状況で、また戦線を拡大すると言うのか。
誰の目から見ても、ここは内政を固める時期であることがはっきりとしているというのに。
シュナイゼルの頭にも、さすがにまだ時期ではないとの結論が浮かぶ。
「そこでだ。わしの子供であるお前達の誰かに、この作戦を受け持ってもらいたいと思うのだが……誰か、希望者はおらんか?」
「…………」
「どうした? 存分に手柄を立ててみせよ」
「…………」
誰もが皇帝の前で良い格好をしたい。
しかし、失敗は即失脚につながる。
EUや中華連邦などの列強には出来る限り、自分が攻め入りたくない。
他の奴が先陣で失敗し、敵が疲弊したところを、自分が手柄を独り占めにしたい、と。
全員のそういう意図が見え隠れしていた。
「この中にっ、己こそが将であるというっ、気骨を持った者はおらんのかっ!」
皇帝の叱責が飛ぶ。
シャルルの威圧は物凄く、一番近くで座っていたオデュッセウスなど、腰を抜かしてしまいそうにも見えた。
皆の顔に(おい、誰か名乗りを上げろよ)という無言のプレッシャーが広がっていく。
その時だった。
「お父様、……私が参ります」
なんと一番先に手を上げたのは、コ―ネリアだったのだ。
他の皇族達のなんと情けないことか。
女であるコーネリアが手を上げて、ほっとしている者がほとんどなのだ。
「……コーネリア、お前が、か?」
「は、はい……」
思わずシュナイゼルは笑ってしまいそうになった。
気丈なふうに見えて、あの妹はまだまだ精神的に出来上がっていない。
皇帝からのプレッシャーで、可哀想に震えているじゃないか。
コ―ネリアにEU攻めは、まだちょっと任せられない。
シュナイゼルは、薄い笑みを顔に張り付けたまま、爽やかに皇帝の前に歩んでいった。
そして
「皇帝陛下……。EUへは私が参りましょう」
「シュナイゼルお兄様!」
背後のコーネリアから怒声が飛ぶ。
「コーネリア、お前はまだ経験不足だ。ダ-ルトンによく習い、立派に成長してから援軍に駆けつけてくれ」
「し、しかし……」
「なに、大丈夫さ。私は負ける戦はしないよ」
「……お兄様」
皇帝の瞳がシュナイゼルをとらえる。
さすが、睨まれれば動けなくなると言われるほどの眼光だ。
しかし、シュナイゼルの笑顔は変わらない。
全てにおいて無関心、無感動な故の、強大な器の大きさがそこにはあった。
「……よかろう。 シュナイゼルよ、貴様にEU攻めの先陣を任せるっ」
「イエス・ユア・マジェスティ」
およそ何年ぶりかとなる親子の会話がこれだけだった。
父が自分に少しも信頼をおいていないことなど最初から分かっている。
逆に敵意すら持たれているのではないだろうか、とも思っている。
しかし、今はやるべきことやるだけだった。
そして事態は異様な方向へ発展していく。
事の発端は、カリ-ヌとそれに付随する皇族達だった。
「ねえ、お父様。シュナイゼルお兄様の補佐を務める武官を決めないといけないわよね?
私、ナイト・オブ・ワン―――ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿とか……。
よろしいんじゃないか、と思っておりますの。あのEUを攻めるんですもの。彼の力は是非とも欲しいですわ」
「……ビスマルクを、な。しかし、あやつには、アラビア半島南部を任せておる」
「そうでしたわね。でも、あそこには……確か、ルルーシュお兄様がいらっしゃったはず。もう御歳14歳、来年15歳になられるんだもの。そろそろ初陣を経験しても良い頃ではありませんか?」
周囲が俄に騒然となる。
それに一番真っ先に反対したのは、コーネリアだった。
「馬鹿なっ! ルルーシュにはまだ無理だ! 何を考えている、カリ-ヌっ」
「別に何も。ただ私は、この場で一番合理的な策を、陛下であるお父様に献上したまでのことですわ、お姉様」
「どこが合理的なものかっ。お前はルルーシュを失脚させたいだけではないか!」
「まあ、嫌ですわ。この案には私だけでなく、他の方々からも支持をいただいているのに……。ふふふ」
そしてコーネリアが驚愕の声を上げる間もなく。
「私もカリ-ヌに賛成だ」
「俺も」
「僕もだ」
「私もよ」
他の皇族達が賛成の声を、聖廟に大きく響かせはじめたではないか。
まるで示し合わせたようなタイミング。
コーネリアの瞳に烈火のごとき、怒りが燃える。
「貴様らっ、自分の兄弟を何だと思っている!」
「皇帝陛下、これは皆の総意です。せっかくエリア11から生還したルルーシュお兄様に手柄を譲ってあげたい、と皆そう申しておりますわ」
カリ-ヌが勝ち誇ったような顔を、コーネリアに見せた。
まるでルルーシュ攻撃派と、擁護派に別れたような、そんな混乱を見せる聖廟。
シュナイゼルはただそんな光景をただずっと見守っていた。
薄汚い皇族の足の引っ張り合いにも、ルルーシュの命運にも興味はなかった。
ただ父である皇帝陛下シャルルが、ルルーシュをどのように扱うのか、それを窺っていた。
「陛下っ」
「お父様っ」
「皇帝陛下っ」
皆の視線がシャルルに集まる。
皇帝の発言を今か、今かと、待ち望む。
そして―――。
「…………よかろう」
皇帝がルルーシュの初陣を認めたのだった。
それもビスマルク抜きでの、アラビア半島攻略戦となる難題を、ルルーシュに……! これはとんでもないことだった。
本来皇族の初陣はもう少し成長してから、何度も検討されて、やっと出撃となる。それをこの会議の決議だけで採択するのは、歴史上初めてのことだった。
カリ-ヌを含め、ルルーシュ失脚、もしくは戦死を狙う者達の思い通りに、議会は踊っている状況となる。
「父上っ!」
「これは決定事項である。奴をビスマルクに預けてもう半年……、これで勝てねば所詮その程度の器だっただけのこと」
「しかしっ、これでルルーシュにもしものことがあってはっ!」
「しつこいぞ、コーネリアっ! 我がブリタニアに弱者はいらん!」
「……ち、父上」
追いすがるコーネリアに、シャルルは無慈悲にも背を向け、大勢の神官と共にその場を去っていく。
「ビスマルクの代わりの補佐役だが、それはお前達で決めるが良い。今は忙しい……。これ以上、わしの手を煩わせるなよ」
「い、イエス・ユア・マジェスティ」
全ての決定権を持つ皇帝にそう言われては仕方ない。
皆が頭を下げ、皇帝の退出を見送る。
(あれ? 僕が思ったよりも、父上はあまりルルーシュにご関心がないようだな)
シュナイゼルの頭の中に、幼い頃のルルーシュの姿がよぎる。
いつも自分にチェスで負けて、何度も再戦を挑んできた負けず嫌いな弟だった。
―――だが、他の兄弟達とは違い、頭の良い子だった。
―――将来は私を凌ぐかとも思うほどの、覚えの良さを見せていた。
―――さて、ルルーシュはこの危機にどう対応するかな?
シュナイゼルの頭にはどうでもいいEU攻めよりも、中東の方がはるかに興味深くうつっていた。