面接受けてきました。
五月までには内定欲しいねw
3月~五月までたくさん受験しますので、これから不定期掲載になるかも……。
まあ、でもできるだけ書いていきますので、これからもよろしくお願いします。
この作品は完全に作者の趣味で書きました。
深い考察など一切ない、パラレルワールドのギアスです。
キャラ設定や世界観、その他が崩れていると嫌な方はお帰りください。
別にいいやっていう心の広大な方だけお読みください。
更新は毎週?木曜か日曜の深夜とします。
世界最大の経済、軍事力を背景に植民地政策を進める神聖ブリタニア帝国。
しかし、決して最初からここまで強大だったわけではない。
逆にブリタニアなど歴史から見れば、弱小だった時の方が長く、ワシントンの反乱などをとっても、とても広大な領地を統治できているとは言い難く、他国の侵略や圧力外交に怯える数百年を過ごしてきた。
ルルーシュの物語を語る前に、ここでブリタニアの歴史を再考してみよう。
ブリタニアは歴史を辿るとテューダ朝期のイングランド王国にたどり着き、処女王であるエリザベス一世の息子ヘンリー九世が即位したところから始まる。そして新世界ブリタニア大陸(アメリカ大陸)の発見。これをイングランドの植民地とする。そしてワシントンの反乱。正史ではここで独立戦争を経て、アメリカ合衆国が誕生するのだが、ベンジャミン・フランクリンの渡仏してまでの、ルイ十六世との援軍交渉は失敗に終わり、ワシントンたち大陸軍はヨークタウンの戦いで大敗北してしまう。イングランド軍の完膚なき圧勝であった。
この時、首謀者であるワシントンは死亡してしまいアメリカが誕生することはなかった。
それからのおよそ百年間は、周辺諸国が市民革命や議会政治を開始したのに対し、イングランドは絶対王政を堅持。停滞するフランスなどの議会政治をよそに、イングランド王国はヘンリー十世、エドワード七世の新世界から生み出される富をもとにした傾斜生産方式による統治で発展を続けた。
だがイングランド側が強気でいられたのもここまで。
―――歴史舞台にナポレオンが登場したのである。(おそらくこの頃もうC.Cはコードをひきついでいたと思われる)
エリザベス三世の統治下で、ヨーロッパの大半を支配したナポレオンはブリテン島侵略を目論むと、すぐに大軍をもってドーヴァーに派兵。
イングランド王国はトラファルガーの海戦での敗北をきっかけに制海権を奪われ、十二万の軍勢がロンドンを制圧。皇歴1807年、エリザベス三世はエディンバラへ追い込まれ、親ナポレオン派の革命勢力に捕縛され王政廃止を迫られた。
これがイングランド最大の汚点と呼ばれる、エディンバラの屈辱である。
フランス(今のEU)とブリタニア人が非常に仲が悪いのは、エディンバラでのことがあったからであろうと歴史家は語っている。
この危機を救ったのがブリタニア公リカルドと、その部下初代ナイト・オブ・ワン、リシャール・エクトル卿である。ブリタニア国民なら誰もが知っている英雄の二人である。アーサー王伝説の次に、多くの人に読まれている英雄譚だ。
彼らの活躍があってエリザベス三世は植民地アメリカへと逃げ、新大陸東部ペンドラゴンを首都とした。そののちブリタニア大陸と名を変更、これを新大陸への遷都と言う。
その後、子のないエリザベス三世が崩御。ここで長く続いたテューダ朝の血筋が耐えてしまう。そこでブリタニア公リカルドが王位を継承し、帝政を実行。国号を神聖ブリタニア帝国として、『リカルド・ヴァン・ブリタニア』と初代ブリタニア皇帝となったのだ。
しかし、これで一応の平和は得られたものの、ヨーロッパから亡命してきた貴族との間に北南戦争が起こるなど、国は安定せず、国力は衰退。
今では世界一の強大国などと言われているが、ここまでを見る限り、ブリタニアが強者であったことなどほとんどなかったのである。
しかし、とある男によって、その状況は一変してしまう。
ブリタニアが世界に覇を唱えただしたのは、シャルル・ジ・ブリタニアが現れてからだ。
この皇帝は一代でブリタニアを強く、豊かな帝国へと変えてしまったのである。
幼い頃から皇位継承戦争で、兄弟姉妹たちと殺し合ってきたシャルル。
まだ幼く権力も弱い彼が生き残るとは誰も思っていなかった。この点はルルーシュの今の状況に瓜二つである。
しかし、とある時期から嘘のように才覚を表し、次々と敵対者を味方にとりこみ、あるいは滅ぼした。とある逸話ではシャルルと目を合わせるだけで、誰もがその王にひれ伏したというものまである。
ではなぜこのようなことができたのだろうか?
まるで魔法のような。
絶対的な王の力。
―――ギアス。
誰が最初にそれをそう呼んだのかは不明だが、その力を持つものは世界を制すほどの強大な力を秘めている。
シャルル同様、ルルーシュもこの力を手に入れてしまうのだが、果たして彼は本物の王たりえるのだろうか?
それはまだ誰にもわからない。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『第十一話―――終章』
カーン率いる傭兵部隊二十名は、血と硝煙の香り漂う戦場を、悠々と闊歩していた。名誉ブリタニア人部隊の全滅を知らせる報告が届いたのだ。粗野な髭だらけの顔を醜く歪めて、勝利の感慨に酔いしれる。
(ふぅ、この俺が負けるかもしれん相手だった……)
ルルーシュ一人殺す為だけに、カーンが犠牲にしたものは非常に大きい。数百名にも及ぶ部下の死、隠蔽工作や計画の実行の為にかかる資金。これら全てほとんどカラレスの懐から出ているとは言え、カーンもそれなりに代償は支払ってきた。これで作戦失敗ともなれば目も当てられない大赤字だ。いや、それどころか、カラレスに殺されてしまう。
―――ルルーシュ暗殺にはここまでのリスクがあったのだ。
だが、この作戦にはそこまでする価値があった。皇子暗殺の手柄は皇族会議によりカラレスのものとなるが、カーンの名前も皇族たちに広く宣伝できるいい条件になっている。一代限りの騎士侯なんて低い身分ではなく、男爵位だって目じゃないかもしれないのだ。
正直傭兵としても、軍人としても、ただ人を狩り殺すだけでは満足できなくなっていた。
戦のみにしか生きる道がない自分でも、庶民から高位騎士になれるということを、今まで馬鹿にしてきた本国にいる貴族共に思い知らせてやりたい。ノーブレス・オブリージュだのと調子に乗っている阿呆どもを、自分が実力で蹴落としてやるのだ。
そうして高みに登って、見下ろしてやる。
それさぞ愉快であろう。
(その為にも、証拠となるルルーシュの死体は、何としても持ち帰らねばな……)
カーンたち傭兵団の足元には名誉ブリタニア人たち、数十名の死骸が地面に転がり、砂の海に半分沈んだようになっている。その他にも難民や自分の部下など、数百名の死体が数えられたが、そんな有象無象のものには興味がない。
―――ルルーシュ皇子の死体がいつまで経っても見当たらないのだ。
今現在、ジザンではアラビア連合軍が、駆けつけてきたブリタニア軍と持続的な戦闘状態が続いており、この豪雨の最中でもまだ戦火は衰えることを知らなかった。積み込み途中の巨大なコンテナが、アサルトライフルで撃ちぬかれタンカー船ごと沈む様子が遠目でうかがえた。
ここもいつ大規模な戦場になるかわからない。さっさとルルーシュの死体の一部でもいいから発見して、アデンへ帰りたかった。
(あの皇子の女……C.Cだったかの姿も見当たらない。捜索にあたらせた部下数名が帰ってこないことを考えると、女は皇子の死体を背負って逃げているのか)
カーンは青白い唇の端を噛んだ。名誉ブリタニア人部隊の全滅を悟ったC.Cは、乱戦ではぐれた純血派に助けを求めたのかもしれない。しかし先程の斥候の報告ではC.Cは死んだとはっきり明言していたはず。逃げたにしてもそう時間は経っていない。あるいは重荷になる皇子の死体はどこかの廃墟に放り出した可能性すらある。
「ちっ、さっさと皇子の死体を見つけんか! 死体の山に埋れているやもしれん。さっさと掘りかえすんだよ!」
カーン自身、装甲車に轢かれた難民の死体を蹴り飛ばしながら、皇子の死体を探し続ける。
兵を四方に配置し捜索させたが、どうにも戦闘で手勢が減りすぎたせいか思うように作業がはかどらない。もっと捜索範囲を広げるべきか、とカーンが考えていた時。
「隊長!」
傭兵のひとりが大声をあげた。その顔は興奮で真っ赤になっており、その瞳もなぜか赤色に輝いているように見えた。その口元はだらしなく涎を垂らし、なにぶん正常とは思えないような有様だった。
「皇子がいました! 生きております! しかも、銃を何発ぶち込んでも死なないんです! あ、あれは化物の類ですよ、絶対!」
「はぁ?」
カーンは思わず喜びで輝いた表情を、しかめっ面に曇らせた。
「どこでルルーシュを見た? あそこの空き地か?」
「はい! 空き地の廃墟です! そこに化物が! 化物!?」
「なんだ、こいつは……」
(傭兵の質も落ちたものだ。報告一つまともにできないとは……)
馬鹿なことを大声で吹聴する男は、そのまま気が狂ったかのようにルルーシュ生存を喚きたてた。
カーンは男を殴り倒し気絶させると、その足で空き地へと向かった。
ジザンの街は全て廃墟と化していたが、井戸の近くにある空き地にはまだ、集会などで使うモスクのような建物があった。曇天の空のもと、落雷にあったかのように、尖塔の天辺が脆くも崩れ去っている。
「あそこか……。化物などと、おかしなことをほざきおって」
カーンは兵数名を背後に従えて、建物の中に入った。「なっ!?」とカーンの目が丸く拡大する。
広い堂内。
降り注ぐ雨の染みで、黒く血のように染まった絨毯。
ぼろぼろに壊された木の椅子が、バリケードのように立ち並ぶ中。
その奥まった壇上のところに、確かに人影があった。
どうやら笑っているらしい。
真っ赤に染まった左目を、暗闇に光らせて。
口元だけがにやりと左右に持ち上がっている。
まるで自分のテリトリーに入ってきた侵入者を喰らう、殺気に満ちた化物の瞳。
部下の数名も怯えたように後ずさってしまった。
「皇子……、ルルーシュ皇子!」
照らし出されたライトが、影の中、その人物の顔をとらえる。
漆黒の中、闇を支配するように立っていたその男は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
死んだはずの皇子、その人だった。
「ようこそ、カーン。待っていたぞ」
突如として健在な姿を見せたルルーシュに、傭兵たちは度肝を抜かれた。
左ふとももに血の滲んだ包帯を巻いているが、その他はいたって傷を負ってはいなかった。トーマに撃たれたはずの、胸の傷すらうかがえない。
「ルルーシュ皇子……、生きていらしたのか」
(トーマめ! 殺したなどと嘘をつきやがって!)
心の中で毒付きながらも呆然とするカーンが、堂内へと足を踏み入れようとした。皇子を殺して手柄が欲しい傭兵たちも、勢いこんでそれに続く。
すると、背後の気配がざっと乱れ、何かガラスでも踏み割ったような鈍い音が聞こえた。
「な、なんだ!? あれは!」
傭兵の一人が、怯えた声を上げた。
混乱は徐々に波のように、広がっていく。
この時既にルルーシュのギアスが発動していたのだ。
ルルーシュのギアス―――それは五感の支配。
人間の中の視覚聴覚味覚嗅覚触覚。
ルルーシュの瞳から発せられる光により、強制的に脳の一部を支配し操作できるのだ。
ギアスの有効距離は光信号が届く範囲全て。
持続時間は約一分。ただし回数制限はなく目の届く範囲なら、連続的に相手の五感を支配することが可能というかなり便利なものだった。
ルルーシュは手始めに傭兵たちの脳に干渉し、早速視覚をいじってやったのだ。カーンの部下たちが目に見えて焦り始める。なにせ背後から敵軍勢が地平線いっぱいに広がって、こちらに突撃してくる幻覚を見せられているのだから。
さらにルルーシュは聴覚も支配する。
傭兵たちには敵軍が軍靴と銃声の音をけたたましく響かせながら、走ってくるリアルな音を耳にしているのだ。
さらに触覚もいじる。傭兵たちの足には地響きを立てて、こちらに進軍してくる敵軍の振動を感じているはず。
相手の脳内の複数制御。
それはかなり処理能力がいる仕事だったが、ルルーシュは難なくやってのけた。
これで恐れない方がおかしい。
「ひっ、ひぃぃぃぃ!! 背後から敵襲! 数え切れないくらいの大軍だぁ!」
と―――、傭兵隊の団長格の一人が、いきなり一人見えない敵とでも戦っているかのように、銃を乱発し始めたのだ。カーンたち全員が背後を振り返るも、敵軍などどこにもいない。
他にも多数の兵が背後の見えない敵と戦い始める。
「おい、貴様ら! いい加減に―――」
カーンが乱心した部下を取り押さえようと、声を荒げたその直後。
なんとまた別の複数の味方が、銃を互いに向け合って同士討ちを始めたではないか。
「な、なんだ、こりゃ! ル、ルルーシュ皇子が……、ふ、増えた! お前も皇子か! みんな皇子になっちまった!」
「ば、化物! 蟲の化物がぁ! 俺の足を食ってやがる! やめろ! いてぇぇぇぇ!!」
最初の一人は、まるで仲間全てが敵に見えるかのように、マシンガンを撃ち続け、やがて精神が耐えられなくなって自殺した。もう一人は自分の下半身目掛けて銃を撃ち続け、その跳弾を浴びて自殺する形となった。さらに一人、二人目、三人目と、カーンの部下たちは正気を失くし、折り重なって死んでいく。
ルルーシュの紅く輝く瞳を見た瞬間、皆狂ったように正気を失っていった。
「なんだ、これは! 何なんだよ、こりゃぁ!!」
カーンの頭は今や、得体の知れない恐怖に染まってしまっていた。
(ありえねぇ、ありえねぇ、ありえねぇ! 意味がわからん! 先程まで名誉ブリタニア人たちの部隊を全滅させ、ルルーシュを大量の銃口で囲んでいたはずだろう! それが今やなにがどうして、こんなことになってやがるんだ!)
手榴弾が銃火を浴びて誘爆し、爆風が吹きすさび、灰燼と煤煙がカーンの視界を奪って横ざまに流れ去っていく。上空ではついにこの空域でも戦闘が開始されたのか、幾千万もの火線が曇天をずたずたに引き裂き、航空艦の破片が光の粒子となってここまで降ってきた。
カーンは初めて戦争というものに、恐怖を覚えた。
「っ!?」
はっと、背後を振り向いた。
そこには純然と死を撒き散らす戦争というものを目にしながら、厳然と己が前に立ちはだかるルルーシュの姿があった。
「お、お前の仕業か……。お前がこれをやったのか!」
「くっくっく。ふははははははは!」
―――魔王が笑っていた。
まだ若干十五歳の少年。カーンのニ分の一も生きていないこの皇子が、炎を背景に大きな影を伸ばしていた。
ルルーシュの足元に跪くように、倒れていく部下。
「いったい、どのような策で……、俺の兵を唆した!?」
カーンは部下の全滅という事態に、狂騒となりかけた。
しかし、彼とて幾多の戦場を駆け巡り、生き抜いてきた強者の一人である。眼前で皇子が刃を抜いたと見るや、ばっと背後へ飛びずさった。
ひょこひょこ、と左足を引きずるルルーシュ。しかし、その気配は負傷した命儚い兵士のものとは違う。手負いの獣を相手にしているような、形のない影を前に剣を構えているような気持ちになった。
「ば、化物め……」
カーンは知らず撃ち尽くし弾切れになっていた銃を捨てて、自分も剣を抜いた。
「お前は皇子などではない! 死して蘇った怨霊の類か何かか!」
「馬鹿なことを。俺が俺でなくて、一体誰だと言うのだ」
ルルーシュはサーベルの鞘を、もう用済みとばかりに投げ捨てた。この剣が次におさまる場所は、カーンの心臓だとばかりに切っ先を持ち上げる。じりじりっ、とルルーシュとカーンの二人が、お互い剣を構え間合いをとる。そうしている間にも航空艦隊の支援砲撃の火炎がこの建物にも走りはじめていた。堂はほとんど木で出来ていたため、火は外周を舐めるように勢いよく燃え盛っていった。
ルルーシュの長いこと切らず長髪にまで伸びた黒髪が、建物内部を覆う熱気で上へ巻き上がった。
「おのれっ、こんなところで! ――――っ」
カーンが倒壊しそうな柱を盾に、外へ逃げ去ろうとするが、一瞬早くルルーシュがその先に剣を振るった。
カーンの額に一筋の傷が刻まれ、床に血がこぼれた。
「くそっ、ガキのくせに……」
「お前は逃がさん。ここで殺してやるよ。安心しろ、ギアスは使わん。正々堂々、俺の剣でトーマたちの仇を討たせてもらう」
「わけのわからんことをっ」
二人の剣先が触れ合い、そして一瞬でぶつかり合って火花を散らした。
ルルーシュは正眼、カーンは身長差を利用した上段の構えで、剣を構えていた。
皇子と元傭兵の決闘―――邪魔する者は誰もいなかった。
(……思ったより、いい女なのかもしれない)
ルルーシュはここにはいない魔女に、一抹の感謝を捧げていた。ちなみに特定の女性に彼がこのような気持ちを抱くのは初めてであった。
C.Cは自分に【五感支配のギアス】を与え、「この力を好きに使え」と言ってくれた。
彼女は手を出さない。堂の外からルルーシュの決闘を見守っていた。最初からそういう約束だったのだ。しかし共犯者となった今でも彼女が約束を守るとは思っていなかった。てっきり仇討ちなどくだらないと言われると思っていたが、意外に情にあつい女だったのか、ルルーシュの策略を応援までしてくれた。
C.Cのここでの沈黙は、ルルーシュへのとあるメッセージであったのだろう。
―――お前の望みを叶えるがいい、と。
破れた天井が火炎の雫となって、雨粒と一緒に降ってきた。夜の帳を引き裂くような剣戟が、真っ赤に染まった世界で光となった。
一瞬の激突。しばらくつばぜり合いが続く。
互いの気合が交錯し、じりじりと時間が流れる。
そしてルルーシュは弾かれたようにカーンを蹴り飛ばし、その剣を折るような一撃を上から振り下ろした。
「はぁ!」
「ぐぅ……」
ルルーシュの剣をカーンは受け切れていない。あまり芯の通っていない軽い振りだったが、その早さは尋常ではなく、ビスマルクから習った剣術の冴えがカーンを苦しめていた。
ルルーシュは足を負傷しながらも、右足だけで器用にステップを踏み、傷から滲み出る血に構わず、右へ左へと剣を振り下ろす。
カーンは防戦一方であった。
「ふははははは! なかなかやるじゃないか、カーン。さすが歴戦の将だ。もっとこの地獄を楽しめよ」
「ふざけおって!」
狩るものと狩られる者。ルルーシュを若輩と見て、剣に油断があったカーンだったが、その表情は真っ青になり、油汗を滴らせていた。
身に振りかかる火の粉を振り払いながら、建物の外へ駆け出す。
その後にルルーシュも続き、二人の決闘は爆撃の始まったジザンの街にその場所をうつした。二人とも血と黒い灰にまみれ、顔が真っ黒になっていた。夜の暗闇のもと、彼らの殺気を宿らせた双眸だけが爛々と輝いていた。
「こ、この禍つ星の皇子め……、この光景を見ろ! お前がいたから、お前さえいなければこの街の民は死ななかった! 名誉ブリタニア人もお前が殺したようなものだ!」
カーンは瓦礫だれけとなった街を剣で差し、夜天に吠えた。
彼の中ではこの惨状を生み出したのは、皇子の責任になっていた。自分で殺しておきながらその責をルルーシュになすりつけようと言うのだ。
ルルーシュを動揺させ、逃げる隙を図ろうという作戦なのだろうが、今のルルーシュにはそんなもの逆効果でしかなかった。
「何が言いたい?」
「お前がいるところ全てに争いがついてまわるんだ! お前のせいで何人死んだ!お前を守る為に兵士が何人犠牲になった! 考えたことがあるのか、この人殺しが! お前は俺のことをえらい鬼畜のように思っているらしいが、そんなことてめぇに言われる筋合いはねぇのさ! 俺も! お前も! 生きている限り、人を殺し続け、悲しみを生み出すだけの怪物なんだよ!」
「そうだな……、俺が彼らを殺したようなものだ。俺の行くところ、死体の山ができる。よくわかったよ、カーン。―――だから俺も反省したのさ」
「何……?」
ルルーシュは修羅場の真っ只中、カーンが長剣を構えるのに対して、刃を下げたまま、無防備に歩み寄っていった。その顔には薄い笑みまで貼りつけており、まるで死を恐れるところがないようだった。
「これまでずっと、お前たちカラレスやカリーヌの目を気にしながら政務を執り行ってきた。それは目立たない為の保身であり、俺自身戦いを嫌うところがあったんだ。でもそれじゃあ、大切なものを守れないって、俺はようやく気づいたんだよ」
「…………」
カーンの表情に恐怖がありありと浮かぶ。
(こ、これは今までの皇子などでは断じてない! 悪鬼羅刹の類だ! ここで殺さねば! いずれカラレスどころか、帝国そのものを破壊する魔王になる!)
長い戦場の中、カーンは幾度か、ルルーシュのような表情をした兵士を見たことがある。彼らは死を恐れずまるで亡者のように戦場を闊歩し、ただ己の信ずるままに動く怪物だった。今のルルーシュが正しくそうである。
―――ここで俺が仕留めねば!
カーンは大上段で構えた刃を、両手で振り下ろした。
ルルーシュの痩躯など真っ二つにするだろう凄まじい一撃。その攻撃がかするかどうかの一瞬で、ルルーシュの姿が二重にぶれた。
(な、何が―――)
顎に衝撃が走ったかと思うと、朦朧と意識が霞んだ。ルルーシュの左拳がカーンの顎をとらえたのだ。が、カーンは脳震盪を起こしながらも、大地を踏みしめて今度は腰から刺突を放った。相手は無防備にも剣を構えていない。
容易くルルーシュの体を串刺しにできるはず!
しかし―――。
「ぶわっ!」
伸ばした腕は簡単にルルーシュに絡め取られ、逆に関節をきめられてしまった。そしてあっさりとその腕を逆さに捻り上げられた。ガギ、といった嫌な音がしたと思ったら、その直後に激痛が走った。
「は、ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
右腕を折られ、これでカーンはまともに剣も振れなくなった。
「俺の行くところ、死体の山ができるなら、その山を敵で埋めてやろう。味方が死ぬ前に敵全てを屠ってしまえば済む話だ。そのうち俺に敵対することが愚かなことだと敵が理解するまで、俺は殺し続けよう。なぁ、カーン。いい考えだと思わないか?」
「ぐ、ぬぁぁぁ」
ルルーシュの剣が地面へ這いつくばったカーンの右腕に刺さり、地面に血しぶきが落ちた。
そしてカーンがこぼした刃を手に取って、さらに左腕へと突き刺した。
まるでピンで刺された虫の標本のようなカーン。
「ぐああああああ!!」
もちろんカーンとて抵抗している。しかし、剣術といい、体術といい、今のルルーシュには勝てる気がしなかった。カーンが攻撃にうつる前に、素早い攻撃がカウンターとして次から次へと見舞われた。
(相手の呼吸が読めん……。本当にこいつは皇子なのか! 甘ちゃんの皇族のくせに!)
「簡単に殺しはしない」
「ま、待て!」
ルルーシュの刃が右足へと振り下ろされ、それをカーンが叫びながら避けた。額に走った刀傷は今や完全に開き、カーンの顔中を覆うように血化粧をほどこしていた。体中は砂にまみれ、出血のせいで意識は飛びかけている。
「ひ、卑怯ではないか! これが皇子のなさることか! 皇子! 俺はあんたの部下でもあるんだぞ! それを! このように無残に嬲り殺すことをブリタニアの法は認めてはおらんぞ!」
「軍法199条のことか。だがそんなこと今更だな。ここには俺とお前しかいない。よってここで俺が何をしようと誰も止めはせんぞ」
「お、俺を殺すのか! ま、待てと言っている! 名誉ブリタニア人のことを怒っているならそれは筋違いだ! あれはカラレスの命でやったことだ! 奴には逆らえない! わかってくれよ、俺の境遇も!」
「醜いな……。正直お前の声を聞くのも吐き気がする」
「待て、助け―――」
その語尾が直後放たれたルルーシュの攻撃でかき消された。
撫で切りにするように腕を振るうルルーシュが、刃をカーンの体に縦横無尽に走らせたのだ。その傷は浅く、ただ敵に痛みを与えるものであり、拷問そのものだった。
「助けっ、だずげで……」
「―――俺はその言葉を何度も耳にしたぞ、カーン! その時、お前は彼らを助けてやったのか!」
捕虜に対する拷問を嫌い、自白剤の使用さえ渋ったルルーシュはもういなかった。優しさはなりを潜め、ただ敵をいたぶる残酷さのみが前面に出ていた。ついに戦うことさえやめ逃げ惑いはじめたカーン。その足の腱を剣で斬り身動き一つ取れなくなった男を、ルルーシュは顔が見えるように蹴り上げた。
ルルーシュの剣は血糊でべったり染まっており、その動きは未だに止まる気配すら見せなかった。
右太股を突き刺し、骨を砕いた後、左肩に刃を振り下ろした。
耳を切り飛ばし、いちいち叫び声を放つ口に泥を詰め込んだ。
そして恐ろしく冷徹な瞳を見せながら、刃こぼれした剣を捨てて、今度はナイフで敵の指を切り刻み始める。
その目にはルルーシュは知らず、涙がたまっていた。
脳裏に死んでいったトーマたちの顔が浮かぶ。そしてその死に顔も。
そのたびに彼の呪いが胸を焼き尽くした。
(俺は、俺の意思でこいつを殺す)
ルルーシュの甘さがトーマたちを殺した。
最初からカリーヌの手駒であるカラレスが、ルルーシュを暗殺するため動いているなんてわかっていることだった。だが、どこかで自分は死なない。自分に敵対する人間には多少手痛い思いをしてもらって、それで解決できるだろうと思っていたのだ。
(そんな幼く甘い思いで、俺は今まで戦ってきた! その結果がこれだ! 敵は殺す気できてる。俺も容赦などしてはならなかったのだ! 情けを捨てろ! 敵は殺すんだ!)
もうすでに血塗れであり、沈黙したカーン。
ルルーシュは荒く息を吐いて、背後を振り向いた。
雨はとっくにあがっていた。
残ったのは見渡す限りの廃墟と、屍がうず高く積まれた地獄。
残ったのは恨み、嘆き、怨念のみ。
ルルーシュはその何万ともいう怨嗟の叫びが、空に浮き上がりこの砂漠の大地を覆い尽くしているように感じた。
(恨むなら恨め。俺は止まらない。流した血を無駄にしない為にも、さらなる血を流してやろう)
遠くからC.Cが近づいてきた。
その瞳にはありありと悲しみが浮かんでいた。
「…………」
ルルーシュはカーンの死体に突き刺さったままのナイフから手を離した。
仇討ちなどたしかにC.Cが言うように、くだらないものだった。心に何も残らない。ただ虚しさだけが残っていた。
だが―――、こいつを殺さないことにはルルーシュは前に進めなかったのだ。
そしてがくり、と膝が折れ、その場で泣き崩れる。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
くしくもルルーシュの父シャルルも、先の帝位争いで多くの大切な友人家族を失っていた。その息子であるルルーシュも皇族である為、その例に漏れずこの凄惨な次代の犠牲者となってしまったのだ。
ギアスという異能の力を手にれたルルーシュ。
しかし、その力はまだ少年の皇子の心を守ってはくれなかった。
悲しみは自分で耐えるしかないのだ。
「…………」
見守るC.Cに声はない。
黒々とした雲の割れ目から、朝日の光までが涙を流しているかのように滲んで見えた。
(死んだ……みんな死んだ……。俺が守りたかったもの、築いてきた全てのものが消えていく)
ぼたぼたと雨雫のような染みが、砂に染み込んでいく。
(母上……ナナリー、優しい世界は……)
涙をこぼし目を閉じるたびに、マリアンヌが死んだあの日が再現されるようだった。何人ものSPが驚き慌てる中、ルルーシュはあの日もただ驚愕におののき、こうやって泣き崩れるだけだった。
『死んでおる……、お前は死んでおるのだ、ルルーシュ』
父である皇帝シャルルの言葉が、今ではよくわかる。
自分の力で手にれたものは今まで何もなかった。この地位も仲間も着ている服すらブリタニアの禄で与えられたものだ。自分から力を得ようと行動などしてこなかった。ただ受身で世界の流れに身を任せていたのだ。なんと不安定で、幻想のような世界だろう。与えられるも一瞬、そして失うのも一瞬の砂上の楼閣に自分は立っている。
その恐怖がやっと今わかった。
大切なことは失ってはじめて理解できることがある。
ただし、ルルーシュの犠牲にしたものはあまりにも大きかった。
(優しい世界は幾千幾万の血の中にあるようだ……)
ルルーシュは痛む左太股に視線を落とした。
さすがに血を流しすぎたようだ。色んなことが起きた疲れもあって、もう一時も意識を保っていられそうになかった。ゆっくりと瞼を閉じる。守れなかった仲間たちの死を悼みながら、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
それを抱き抱えるC.C。
曇天の隙間をぬってさした日光が、そっと二人を包み込んだ。
街一つ滅ぼした、凄惨な戦いが終わった……。
その数日後のこと―――。
カラレスは同じ味方であるはずのブリタニア兵に追い立てられ、一人アデンの街を駆けまわっていた。共に逃げていた部下たちは今はおらず、おそらくもうとっくに捕まってしまったのであろう。今カラレスは無事生還を果たしたルルーシュの指示によって、アラビア連合と通じている反逆者としての容疑をかけられたのだ。さらに皇子を暗殺しようとしたカーンが、黒幕はカラレスだと皇子に漏らしてしまったようで、ここで捕まったら降格どころか死刑になってしまう。副官のギリアムも純血派にとうに始末されたようだ。
自分を助けてくれる者はもう誰もいない。
ようやくのことで建物の物陰に身を隠したところで、カラレスの怒りが爆発した。
「か、カーンの役立たずがぁ……。あんなガキ一人殺せんのか!」
砂漠の粉塵に目をやられ、喉からぜぇぜぇとかすれた荒い息をもらす。しかし休んでいる暇はない。ルルーシュの雰囲気が変わった―――、カラレスに対してまだ甘い対応だったルルーシュだったが、今や苛烈な攻めを見せており、カラレスの息がかかった部下複数を問答言わせず処刑して見せた。その噂は逃げ回っているカラレスにも当然伝わっている。
(今の皇子はまずい……。お、俺もルルーシュにかかれば簡単に殺されてしまう。カリーヌら皇族会議の連中め、俺を簡単に切り捨てやがって……)
あらかじめ定めてあった避難経路を辿って、港町を東に抜けようとした。しかし、海に面する倉庫には、ブリタニア軍の捜索部隊がもうすでに配置されており、カラレスの知り合いだった船の乗組員たちが拘束されていた。
「こ、ここも封鎖されておるとは……。ルルーシュめ、俺の行く先々に兵を配置しやがって……」
ぐっと拳を握り締め、奥歯を噛み締める。カラレスがいざという時の為に築いてきたアデンでの人脈は全てルルーシュに潰された。カラレスは侯爵であり、皇族といえど裁判なしに勝手に処刑できるはずがない。されど、今のルルーシュはまるでそんな法になど興味はないとばかりに、カラレスの味方を勝手に狩っていっていた。
「ようやく見つけたぞ、逆賊めが……」
「ぬぁ!」
「ここで殺してやりたいところだが、ルルーシュ殿下から貴様を生かして捕らえよとの御命令が下っている。貴様に貴族の誇りがいっぺんでも残っているのなら、潔く投降するんだな」
キューエル・ソレイシィがいつの間にかカラレスの背後に迫っていた。
その声音はぞっとするほどの怒りで満ちている。皇族に絶対の忠誠を捧げる彼ら純血派の中でも、彼のルルーシュに対する忠誠心はずば抜けている。今にも手に持った剣で、カラレスの首を撥ねたい、という殺気がその瞳には満ちていた。
「たのみの子飼いの貴族たちも、もうすでに拘束するか処刑してある。助けはない。もはや貴様の命運もこれまでだ」
「馬鹿な! 俺は侯爵だぞ! しかもいずれ総督にすら推薦されている大侯爵だ! その俺を何の権限があって捕らえるというのだ!」
カラレスは足腰が恐怖で砕けそうになるのを必死で堪えていた。
「それに―――あれはカーンの独断だ! 俺がルルーシュ殿下を弑するなど……なんと馬鹿げた話であろう!」
「ではなぜ逃げた? 殿下が生還されたと聞いた時、貴様はまるで夜逃げするように荷物をまとめて基地を出ていったそうだな。政庁の官僚たちが多数それを目撃している」
「馬鹿な!」
(きちんと口止めしておいたはずだぞ!)逃げる途中で会った部下たちには、多額の金を握らせておいたのに。結局官僚や文官は長い物には巻かれよ主義が蔓延っており、カラレスを売る者などたくさんいたのだ。
「俺は逃げてなどいない! 第一俺はルルーシュ殿下が死んだと聞かされて気が動転していたのだ。そんな細かいことなど覚えておらんわ!」
「ほう……、気が動転していたと? しかし、昨夜全ブリタニア軍に殿下救出は諦めるよう司令の名で命令を下していたそうだが、それも気が動転してのことだったのか?」
「そ、そうだ……」
「ふんっ、それにしてはえらく手際が良かったな。まるで最初から殿下が亡くなられたことがわかっているようだった」
「き、貴公! そなたは俺よりも低格であろう! なんだ、その口の聞き方は!」
「……これが侯爵か。殿下の仰るように、今のブリタニア貴族は貴族としての有り様を忘れているようだな。もういい! 貴様を殿下の御前まで連行する。言い訳はそこでするんだな」
「待てぇ! 見逃せぇ、キューエル!」
セットされた髪を乱雑に掻きむしり、カラレスは奇声を発した。
この時点でカラレスは狂っていたのかもしれない。
プライドの高い、狡猾な蛇のような顔も、今や真っ青に染まり、額に浮き出る血管がひくひくと痙攣を繰り返していた。
何代もの間、帝国の重鎮として君臨し続けた侯爵の家柄である、騎士の中でも名門である彼。その彼にとって、今のこの立場が信じられないことだった。
大貴族である自分が、縄をかけられみすぼらしくも街角で引っ立てられている。万引きを犯したこそ泥のように。
――――全てがおかしい。
――――ありえなかった。
「おかしいのだ! 全てがおかしい! 俺がこんな惨めな最後を遂げるというのか! こんな馬鹿な話があるか! ―――これはルルーシュの陰謀だ! あの皇子は呪われている! いずれブリタニアの国そのものを滅ぼす魔王だ! 俺は皇族会議からあの悪魔を殺すよう命令を受けていた! 言わば正義の使徒である! なぁ、わかるだろう! 俺は正義なんだよ!」
「愚か者め! ついにはここで自分の罪状を白状したか! しかし、聞きづてられんことも言っていたな。皇族会議が本当の黒幕か……。これはまだまだお前には聞かねばならんことがありそうだ」
「待て! 待つのだ、キューエル! 俺はあの魔王を討つ為にここにいるのだ!」
「殿下が魔王だと? 莫迦ばかしい。殿下こそ正義そのものである! ひったてろ!」
暴れ続けるカラレスを、純血派が数人がかりで連行していく。
その服装はシャツとズボン一枚のボロボロで、貴族の誇りの欠片もなかった。
侯爵カラレスは、その後、ルルーシュの監視のもと、非常に厳しい拷問を行われることになる。傲慢な大貴族の最後であった。
重症を負ったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、即刻ヴィレッタらに救助され緊急医療室へと運び込まれた。C.Cに聞いた話では、体中の血液がかなり流れ出していたようで、あと一時間でも遅ければ命にかかわったという。いまだカラレスや皇族会議への対処を終えていない状況で、のんびり輸血を受けていることに気分が悪くなったが、ジェレミアの涙混じりの懇願によって我慢することにした。ルルーシュを守るために散っていった部下たちの為にも、今は休むことに専念するべきだった。ブリタニア本国、なんとシャルル自身からしばらくの休養を命じられた。これは非常に珍しい―――どころか、皇帝が直々に命令をして行政機関を動かすのは数年ぶりのことだったので、少なからず皇族会議の面々はルルーシュの待遇に不満を持つことになった。
ルルーシュはずっとベッドに横になっていた。
横にはC.Cが看病してくれていたのか、椅子に座ったまま眠っている。
窓にあたって十字に影を引く差し込んでくる夕日の光が、室内を紅に染め上げていた。
「…………」
ルルーシュは背中を丸め首を捻って、外の景色を眺める。ひどい混戦から数日後、アラビア連合の出方をうかがう為、哨戒に出ていた航空艦が帰ってきたのか、べースにゆっくり着陸するのが見えた。
額や手首、左の太ももにきつく包帯が巻かれ、右腕には輸血の管がまだ刺さっていた。
数多の擦過傷と、火傷が全身にあり、体中ボロボロだったが、深い傷はなく一週間もすれば元気になるそうだ。それもこれも、ルルーシュを死守した名誉ブリタニア人たちの犠牲のおかげだった。
トーマやトーゴ、訓練生から一緒だった多くの仲間はもういない。
ビスマルクにしごかれて、泣き言を吐きながらも笑い合っていた友達が死んでしまった。
「俺は何もできなかった……」
上半身だけ起こして、じっとうつむいて、じくじくと疼く痛みを耐えながら、ルルーシュは自分を罵倒し続けていた。
「なにが部下を守る……だ。結局皆死なせてしまった……」
唇を噛みしめて、拳を握りしめた。
ボロボロと水滴が目からこぼれ落ち、手の甲に落ちていく。
「―――後悔しているのか?」
「っ!?」
横を見れば、起こしてしまったのかC.Cがじっとこちらを見ていた。
「その後悔はこれから何度もあるかもしれんぞ。ギアスの力も万能ではない。また仲間が死ぬかもしれん。友が死に、愛する者がお前の為に死んでいく。その覚悟がないのなら戦争などはじめからするな」
「…………」
「私の契約者はこれまで何人もいた。だが幸せに死んでいった者などほとんどいない。いずれも自らの過ちと世界を……、そして私を恨んで死んでいった。お前もその例には漏れず、ここで朽ち果てるか?」
ルルーシュの頭に、このまま逃げ出して、どこか一人こっそりと生涯を過ごすという選択がよぎった。
ブリタニアから逃げて。
過去から逃げて。
重荷を捨てて。
自分すら捨てて―――。
「……嫌だ」
数十秒後、ルルーシュの唇がゆっくりと動いた。
「逃げることなんてできない。そもそもどこにも逃げる場所なんてない」
「あるさ。人間一人いなくなるだけだ。いくらでも方法はある。一番簡単なのは死んでしまうことさ」
「…………」
「なぁ、ルルーシュ。……お前は正直優しすぎる」
「だから、ここで終わりにしろと言うのか?」
ブリタニアで嘲笑を浮かべる皇族、貴族たち、そして自分を侮ったままの父。
そういった今は勝てる気のしない強大な敵をにらみつけ、敵意を燃やす。
―――このまま悲嘆に暮れて、人生を過ごす?
―――ブリタニアの支配のもと、鎖に繋がれたまま飼い殺しにされる?
―――負け犬のまま、泣いて逃げ出す?
「―――馬鹿な! そんな生き方、俺に受け入れられるか!」
このまま負け犬のまま終わりたくないという気持ちがあった。
トーマたちから託されたものを放棄できない。優しい世界をまだ全然作れていない。
そもそもルルーシュは反骨精神の塊である。
父親に反抗し、ブリタニアに喧嘩を売る意思の強さは、まさしく王の器たるものだった。
「―――約束してしまったんだ! ブリタニアを変えるって!」
ルルーシュはカーンを討った、その凶悪な双眸をぎらつかせた。
(何のために契約したと思っている! 納得できない運命ならば、神をも殺す意思と力で踏みにじってやる! それができなくて何が王か!)
「ほう……、目に力がでてきたな。本当にまだやれるのか?」
隣でC.Cが呆れたように、微笑んでいる。
あれほどの地獄にあって、まだ戦い抜く意思を見せたルルーシュに驚いているのであろう。
C.Cが契約した者の中でも、ルルーシュほど心の強い者は少なかった。
マオしかり、かつての契約者は、力を与えても、その力にのみ込まれる者がほとんどであった。そしていつも彼女を恨んで憎んで死んでいくのだ。その負の連鎖に半分絶望していたC.Cにルルーシュの瞳の輝きは希望にうつった。
この男なら、自分を死なせてくれるかもしれない―――と。
「王の力はお前を孤独にするぞ」
「そんなことは知らん」
「また仲間が死ぬかもな」
「死なせない」
「世界は残酷だぞ」
「そんな世界は俺が破壊する」
「まるで魔王だな」
「望むところだ」
「ふふ」
C.Cは自然と笑っていた。
まるで心底感情をぶつけられて嬉しいとでも言うように。
ルルーシュも今壮絶な笑みを浮かべていた。
涙を流しながら、世界を憎み、運命を嘲笑する。
この後、ルルーシュの敵への容赦は全くなくなる。いったん銃を向けてきた者は一族全て皆殺しにされるとまで噂されたほどだった。しかし、いったん懐に入ってきた者は非常に大事に扱うアンバランスを見せるようになっていった。
歴史は語る。
シャルル同様―――。
ルルーシュが覇王の才を見せ始めたのは、曰くこの瞬間からだった、と。
ここに中から変えるしかなかったルルーシュは、中から変えるルルーシュになったのであった。
これでアニメで言うところの1クール終了かな~。
2クール目は『コードギアス・中から変えるルルーシュ』とタイトルが変更されます。
あ、同じ板でやるので、心配はご無用ですよ。
これからもよろしくお願いします。