来週面接があるので、休載します。
木曜に完成できなかった!
しかも、今作もあまり推敲できなかった!
正直申し訳ありません!
後々、ところどころなおしていきます!
この作品は完全に作者の趣味で書きました。
深い考察など一切ない、パラレルワールドのギアスです。
キャラ設定や世界観、その他が崩れていると嫌な方はお帰りください。
別にいいやっていう心の広大な方だけお読みください。
更新は毎週木曜か日曜の深夜とします。
「聞きまして。カリウス兄上が暗殺されたそうですわよ!」
「うむ。既に聞き及んでおる。相次ぐ皇位継承権上位者の不審死……。一体裏で何が起こっているのか」
「ナナリーの亡霊かもしれませんね」
「馬鹿なことを言うな! 亡霊などと……」
「失礼。ですが、イレブンに近いブリタニア植民地の皇族ばかり狙われているのは、何か気になりませんか?」
「それはそうだが……。ナナリーの名は二度と口にするでない。あの女は死んだのだ!」
ルルーシュが死に瀕している時、ブリタニア帝国でも皇位継承順位が入れ替わるという異例の事態が起こっていた。インドシナ半島を治めていた第六皇子カリウスが、何者かに暗殺されるという事件が起きたのだ。さらに、第十、第八皇子と次々に生気を奪われたミイラのような姿になって発見された。いずれもイレブンや中華連邦に程近い統治者だった。
ブリタニア皇位継承権上位者ばかり狙った暗殺者がいる――――。
国内は俄に騒然となっていった。
それに伴い大規模な犯人探しが開始され、その結果なんと犯行を指示したのが皇族会議の誰かだということが噂され始めたのだ。皇室は騒然とし、にわかに誰もが犯人は自分ではないと喚き立て、果ては立場の弱い者を犯人に仕立て上げようと画策する始末。一番怪しいのはカリーヌを含め、己の今の継承順位に納得のいかない若い皇族だろうと思われたが、ここにきてカリーヌは病で床に伏せってしまう。ちなみにもちろん仮病だ。
前々から皇族間での揉め事は、ブリタニアの歴史上当然起こっていたことだったので、シャルル皇帝は何ら干渉せず沈黙を続けている。
次は自分が殺されるのだと、自らの身の安全を考え自宮に引き篭る者が大勢現れて、捜査は暗礁に乗り上げていた。
長方形をした広い部屋だった。
皇族会議―――それは皇族全てからの要望、陳情を皇帝に上申する場でもあり、法的には何ら権限を持たない機関だったが、裏では相当の金と権力が入り乱れ、かなり力のある機関として認知されていた。皇族間での諍いや、紛争を裁く場でもあり、皇族会議によって皇族たる資格なしと認定されてしまえば、皇帝の撤回なくしては皇位継承権を剥奪される事態もありうるのだ。
その皇族会議で、今回の事件について話あわれていた。
「これで、俺の皇位継承順位が繰り上がった」
「俺もだ。だが、カリウス兄上が殺される理由がわからん。良いお人だったのに……」
「いいじゃないか、そんなもの。この調子でどんどん死んでいってくれたらいいのにな」
「……その発言は問題ですな。犯人は意外とあなただったりしてねぇ?」
「―――馬鹿な! 言いがかりも甚だしい!」
「ならば黙っていることだな。この会議で犯人だと決めつけられることのないよう。くっくっく」
血も凍るような、肉親だとは思えない話が続く。
何もかもが狂ったような世界が繰り広げられていた。
「クロヴィス兄上はイレブンになめられているらしい。あちこちでテロだとさ」
「まあ、ひょっとしたらお亡くなりになられるかもね」
「滅多なことを言うもんじゃないよ。さてさて、だがこれは私たちも準備だけはしておいた方がいいかもしれんね」
「準備? 暗殺のですか」
「ハッハッハ。これはご冗談を。ミネルバ姉さま」
ブリタニア皇帝には妻が百八人いて、皇子皇女はそれ以上。
彼ら全てに争いを強いて、皇位を奪い合わせているのだ。毎年何人もの皇族が命を落としていってもおかしくな。たった今皇族の一人であるカイルが、一人一人に自慢のワインを注いでいるところだ。
しかし、それを注がれた方の皇族は目が笑っていない。まず同席させた家臣が口をつけ、それから自分も口をつけている。
これで家臣が血を吹いて倒れようものなら、すかさず相手を切り伏せる覚悟もしている。
―――皇族会議とはそういった場でもあった。
曰く、命と度胸の張合いである。
ルルーシュが日本に送られて良かったと思われるのは、多感な成長期にこの場にいなかったことであろう。ここにいれば、絶対に精神が病んでしまう。病まないまでも、人間不審になってしまう。立場が上になるほど、取り巻きや、身辺警護が厳重になるのだが、立場の低い者、弱者は真っ先に切り捨てられるか、捨駒にされているのが現状だ。
「皇帝陛下はいつものように、神廟へお篭りか……」
「ああ。ここ最近政務も満足にこなされない」
「噂では度重なる激務の疲労で、表に出れぬとかなんとか」
「それは―――」
それは……の次に何を言おうとしたのか。
皇族ならば、誰もが理解していた。
『それは―――急がねばならない』
何をか?
もちろん、自分の地盤固めを、である。
皇帝が亡くなって喪に服した後、次の皇帝が十日以内に発表される。皇帝が生前決めていた次代の後継者に、ブリタニア宝剣を譲渡するのだ。そして王冠を授けられ、神事を終えて、その者が玉座に座ることになる。
神聖ブリタニア皇帝の誕生である。しかし、多くの者は、その恩恵に預かることができない。
ならば―――と、皇帝になりそうな者にごまをすり、自分が皇帝になれなくても、甘い汁だけは吸いたいと思うは人の必定であろう。
皇帝の命が危ない、この情報はブリタニアにとって、謀略戦争の始まりの合図でもあった。
『自分が皇帝になってやる』
または
『自分の応援する皇族を、絶対に皇帝にさせてやる』
といった思惑が咲き乱れるのである。
皇族ならば、誰もが考えているであろう。
『己こそ、次代の権威である』と。
だが―――。
「あ、あれはっ!」
「ち、父上!?」
そして、ちょうどそこに、ご病気と噂になっていた、シャルル・ジ・ブリタニアがディスプレイに姿を表したのだ。皆どの顔も驚きと、戦慄が色濃い。
何と言っても、今まで自分の父の死んだ後のことを思い描いていた連中だ。皆ばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「こ、これは父上……。お元気そうでなりよりです」
「うむ……。随分と皇子の数が減ったようだな」
しかし、次の瞬間、そんな笑みも吹き飛んだ。
「ふっ、ふははははは!」
最近の陛下は、笑わなくなった―――。
笑顔など産まれて一度も見たことがない。
そう言われていたシャルルの顔に、ありありと笑みが浮かんでいたのだ。
「―――皆、余の教えを忠実に守っているようで、嬉しい限りである」
シャルルが口を開いたのを皮切りに、室内でも騒然となる。ギネヴィアだけでなく、思わず席を立った者も多い。シャルルの言う教えとは、即ち、弱肉強食―――、皇位継承権を巡っての争いのことを言っているのだ。
そして―――この発言の真意は。
「力こそ真理である。もっと奪い、競い、己の覇を我に見せよ。その先にこそ、未来があるのだ」
(父上は、わが子に殺し合え、とそう仰っているのか!)
「オ、オール・ハイル・ブリタニア!」
「オール・ハイル・ブリタニア!」
皇帝が皇族殺しを認めた。
これで、さらに皇族同士の争いが激化することになる。
ここに、ルルーシュの姿はない。
皆の注目は皇位継承権の高い、オデュッセウスか、シュナイゼルに向いていた。
コーネリアも有力だったが、女性に高位の継承権は与えられていない。よってだいたいこの二人で次代の皇帝は決定だろうと思われていたのだ。
そして、皇族たちの間で人気が高いのが、意外にもオデュッセウスだった。あの朴訥とした平凡さが、組み易しと見た者が多かったのだ。
オデュッセウスとシュナイゼルの一騎打ち。
しかし―――ここに来て、その期待は大きくはずれることとなる。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『第十話』
「トーマ! なぜこんなことをした!?」
仲間達が詰め寄ってくるのを、トーマはただ呆然と見守っていた。
いや、もう彼らは仲間などではない。自分は彼らの信頼を裏切ってしまったのだから。言い訳などしない。ルルーシュ皇子を撃った、その事実はかわりないのだ。だが、それでも今まで戦ってきた戦友たちの、まるで親の仇を見るような目は、正直堪えた。
だが―――。
「皆、まだ少しでも俺を信じてくれているのなら、今すぐルルーシュ殿下を連れて、ここから逃げてくれ」
「ルルーシュ殿下を撃った張本人が何を! あのお方は……あの通り、もう……亡くなられたのだ!」
皆の視線の先には、C.Cに抱き抱えられぐったりとして動かないルルーシュの姿があった。あまりに労しい姿に、皆の瞳から涙が流れ嗚咽する声まで聞こえはじめた。だが、トーゴだけは別だった。なんとトーマの頬を思いっきりぶん殴ったのだった。
ずっとトーマの副官であり、弟分だったトーゴ。
彼ほどトーマのことを信頼していた男はいなかったというのに、今や憎しみの涙を瞳にためて、殴りかかっている。
トーマの襟首をつかんで、強く拳をぶつけた。
「ぐっ……」
しかし、トーマも今度は黙ってやられてはいなかった。拳をつかむと、一気に相手の足を払い、関節を決めながら地面に引き倒した。
体術の成績はトーマの方が上だった。仲良く練習していたかつての風景が脳裏をよぎり、トーマをさらに悲しくさせた。
「ぐわ……」
たまらずトーゴがうめき声をあげた。
「この裏切り者め。カーンに尻尾を振りやがって……」
「確かに俺は裏切り者だ。だが、それでも俺の忠誠はルルーシュ様だけに捧げられている」
「何を! でたらめを―――」
「いいから聞け!」
トーマは自分の副官だったこの血気盛んな男に、耳もとで一言つぶやいた。
「俺が撃ったのは麻酔銃だ。こうするより仕方なかった。
―――殿下は生きておられる。お前たちは生きろ」
「……!?」
トーゴが驚いた視線を向けてくる。
実際、ルルーシュに撃ったのは、睡眠薬入りの二ードルガンだった。
威力は低めに設定してあり、人間の皮膚に刺さりはしても、その針はすぐに抜け、万が一にも相手を死に至らしめないよう配慮している。
「……トーマ、どうしてこんなことを!?」
味方を、それも守るべき主君を、どうして撃つなんて真似をしたのか?
殺害の意図なしにしても、許されることではない。
特にこの乱戦で主君を撃つような真似をすれば、戦場の混乱はより大きくなり、味方の死者も増える。
(確かに……許されることではない。だが―――俺にはこの方法しかなかったんだ)
トーマは大人しくなったトーゴの手を放し、ゆっくりとこのような事態を招いた元凶の方へと歩いていく。勝利の余韻にひたり、自分達を嘲笑している男。
―――カーンの方へ。
「くははははは! よくやったぞ、トーマ」
黒々とした科学燃料が引火し、何とも言えない匂いのする中、カーンは手を叩いて喝采をあげていた。足元にはアラブ人女性の死体。ブリタニア軍人の姿もちらほら見られるが、皆地面で冷たくなっていた。カーンはその屍を無造作に踏みつけながら、平然とした表情で立っていたのだ。
改めて、トーマはこの男に嫌悪感を抱いた。
「命令通り、ルルーシュ殿下は殺しました。……ジェシカは」
「ああ、うむ。安心しろ」
トーマの瞳に炎がうつり、その光沢を真っ赤に染める。
(それさえ聞ければ―――あとはお前など!)
トーマはジェシカを人質に取られていたのだ。
カラレスの部下数人にジェシカは取り押さえられ、カーンの命令があればいつでも殺すことができると、わざわざ監禁している様子をトーマに送信してきたのだ。
銃をこめかみに突きつけられ、怯えるジェシカの様子が鮮明に画像で残っていた。
『おっと。このことは誰にも言うなよ。もしもルルーシュや純血派が救出に動くようなら、こっちとしてもこのお嬢さんを殺さなきゃならないからな』
カーンが万が一危機に陥ったら、ルルーシュを裏切りカラレス側に付くこと。それが彼女を助ける唯一の手段だった。
トーマは苦しんだ。
ルルーシュへの忠義も捨てられないが、ジェシカを見殺しにもできない。そんな板挟みの状況下で、誰にも相談できなかった。
そして―――。
一人で考えに考えぬいた末、ルルーシュを殺したように見せかけた上で、カーンを殺す方法を選んだ。最初はそんな都合良くいかないだろうと思っていたが、州警察で危険人物を取り押さえる為に使われる麻酔銃を、アデン基地の武器庫で見かけたことがあったのを思い出したのだ。
(あとはジェシカの無事を確認するだけだ。それからルルーシュ様たちも逃がさなきゃならない。カーンの狙いはルルーシュ殿下だ。その殿下を殺すことができてさぞや満足だろう。あいつはこのまま俺を皇族殺害の犯人として裁判に突き出すつもりなんだろうが、そうはいかない。―――カーン。お前には本物の弾丸をぶち込んでやるからな!)
ルルーシュ殿下には合わす顔がない。
カーンを殺した後は、軍法会議にでも、裁判にでも出廷するつもりだった。
(しかし、その前に、この男だけは自分の手で殺してやる!)
だが、―――トーマはここで壮絶な勘違いをしていたのだ。
この傭兵あがりの残虐な男に、まともな人間の感情などないということを。
「お前が気にする必要は全くない。
―――もうあの女は死んでいるからな」
「な―――!?」
トーマの銃がホルスターから抜かれるより早く、また一発の銃声が鳴った。
カーンの右手に握られたオートマチックが火を噴いたのだ。
鉛でコーティングされた死の閃光が、トーマの身体に何発も撃ち込まれる。
「お前は殿下を殺したんだ、トーマ。警備主任だった俺が、仇をとるのが普通だろう。 ん?」
「お、おのれ……。最初から騙すつもりで」
「はははははははは!」
カーンの笑い声だけが、戦場に木霊していた。
彼が侯爵であるカラレスほどの貴族にスカウトされたのは、その残虐性もさることながら出世の為ならどんな汚い仕事も進んでする人でなしの性格にあった。騎士道を重んじるブリタニア軍では真似できない、統率のとれた非倫理的行動。それがカーンの求められた役割だった。ある時は恋人を人質にとり、ある時は生活水に毒を混ぜたり、無辜な一般市民を大量に殺戮してみたり。
思えば数十年も傭兵なんて職をやっていたのである。
向かってくる敵を無様に嬲るのが非常に愉快で、やめられなくなっていた。
「馬鹿か、てめぇ! 名誉ブリタニア人がブリタニア貴族のご令嬢とカップルだってぇ? 今時そんな陳腐な話、見世物小屋でさえやってねぇよ! あのジェシカって女はずっと前に殺してやったよ。いちいち反抗的だったんでな。ざまぁねぇな、おい! そんなことも知らずにルルーシュ殿下を裏切ってよぉ! 安心しろ、あの女の親御さんには、トーマって野蛮な名誉ブリタニア人に殺されたって、ちゃんと話つけてあるからよ!」
「ぐ……が、がはっ」
しばらく、口から血を吐いた後、痙攣を起こし動かなくなるトーマ。
「って、もう聞いてねぇか」カーンは、もう二度と目覚めることのないトーマの身体を軽く蹴飛ばして、満足そうに笑みを浮かべる。
そして―――周りの部下たちに。
「おい、見てただろう! ルルーシュ皇子を殺した名誉ブリタニア人は、この俺が討ち取った! あの名誉ブリタニア人共も、難民たちとグルだったんだ! 全員ここで処刑しろ!」
ここに来て、悪徳の塊のような男はさらなる虐殺を、部下に命じたのだった。
名誉ブリタニア人たちは、この虐殺騒ぎ、ルルーシュ暗殺の現場を見られすぎた。こいつらを生かして返せば、きっとカーンの邪魔になる。皇子の護衛の女も纏めて、ここでいっぺんに殺しておくべきなのだ。
「銃、構え!」
カーンの背後に控える兵たちが、大量の銃口を同時に構えた。
狙いなど定めていない。横一列に並んだ射撃態勢であり、当てずっぽうで撃っても余裕で殺せるだろう。この射撃で重要なのは数だった。
純血派はルルーシュ皇子を撃った名誉ブリタニア人への懐疑を強め、もはや助けようとしない。空からカーンたちを牽制していた航空艦も、この混乱でどうしてよいかわからないのであろう、空を低空で飛び回っているだけだった。
「―――ぐっ、C.C様! ルルーシュ殿下を連れて逃げてください! お前達、壁を作れ!」
トーゴが慌てて指示を下すが、もう間に合わない。
「―――名誉ブリタニア人は皆殺しだ!」
容赦のない弾丸の嵐が、難民たちと一緒にルルーシュらに降り注いだ。
サザーランド数十機を引き連れたジェレミアと、副官のキューエル、そして戦車隊や航空艦数隻の純血派の主力部隊が、州境を超えようとしたその時のことだった。
普段イエメンとサウジアラビアの州境は、多くの兵士により封鎖され、人っ子一人いないような砂漠地帯である。ここ数日アラビア半島には大規模な戦闘がなく、実に州境は平和だった。
しかし―――今は……。
黒い曇天にそびえる高い山の稜線が、ジザン方面から順に燃えるような赤に染まっている。ブリタニア軍とアラビア連合軍の航空艦隊がこの混乱を宣戦布告と受け取ったのか、互いに炸裂弾を放って空一面に真っ赤な火炎の花を咲かせていた。その燃えるマグマのような鼓動に怯えるように、砂漠の大地が低く鳴動してジェレミアのKMFコクピットを揺らした。
ここに至って、和平会談などもう用をなしていないことくらい、ジェレミアにもわかっていた。ヴィレッタとの通信が妨害されているのは、少し気になるところだが、ここでただ見ていることなど、純血派の誰にも出来そうにはなかった。
しかし、ジェミアが全部隊に出撃命令を出そうとしたその直前になって、『ジェレミア卿、即刻軍を停止させ、イエメンへ引き上げたまえ』と、突如アデン、ブリタニア政庁から命令を受けたのだ。
「一体どうなっているのだ! ここに来て我らに止まれと言うか!」
『君達と口論するつもりはない。これはカラレス卿からの命令である。君も軍人ならば聞き分けたまえ』
そんな無礼で一辺倒な問答が繰り返されていた。
焦れるジェレミアだったが、ルルーシュからの応援要請がない今、勝手に行動しては軍人として懲罰の対象になってしまう。ジェレミア個人ならばいくらでも懲罰など受けてやるつもりだったが、指揮官として部下にまで迷惑をかけてしまうことになる。
それだけは避けたかった。
そしてしばらくすると、ジェレミアらサザーランドを威嚇するように、頭上にブリタニア航空騎士団の艦隊が、眼下に銃を突きつけて現れたではないか。
地上戦では最強を誇るナイトメアと言えど、制空権をとられた状態では、いかにジェレミアと言えど抗えず、やむなくその命令に従った。
ナイトメアを降りると、小型航空艦の群れが純血派に迫った。その艦から出てきて、先頭に立っているのはギリアム男爵。カラレスの副官であり、その背後には物騒な火器を構えた彼の部下が控えている。
ルルーシュ暗殺計画で、純血派の足止めが彼の役目だったのだ。
「ギリアム卿。これは何事だ?」
「それはこちらの台詞ですよ、ジェレミア卿」
ギリアムの返答は、ジェレミアへの地位への遠慮が全くないものだった。辺境伯はその辺の爵位などでは断じてない。なのに、この男はカラレスという強力な後盾を傘に来て、まるで同格のように喋っているのだ。しかし、ジェレミアは今、そのような些事になど構って入られなかった。
「我らはルルーシュ殿下の救援である。その足を止めることがどういう意味を持つのか、卿には理解できているのか」
「もちろんですとも」ギリアムは酷薄そうな顔に、勝利の笑みを浮かべた。「救援ならばもう必要ないと、たった今カーンから連絡を受けました。さらにカラレス閣下もジェレミア卿にはアデンへお戻り頂きたいと仰っておりますので……」
「ふんっ、カラレス侯爵殿が何を申そうとも、我らに関係などないわ。我ら純血派はルルーシュ殿下直々に命令を―――」
「その命令がもう無効になっていてもですかな?」
その時、動揺の気配がジェレミアを越えて、背後の部下にまで広がっていった。
(待て―――、この男は先程何と言ったのか?)
「命令が無効? いや、待て……。卿は先程、カラレス侯爵のことを何と申した?」
「はい。カラレス司令、いえ閣下とお呼びしました」
純血派の驚愕を満足そうに見やるギリアム。ここアラビア戦線の司令官はルルーシュのはず。しかし、その皇子を差し置いてカラレスを司令と呼ぶ意味はただ一つ―――、ルルーシュに万が一の事態が起こった時、代理として副司令を司令と呼ぶ決まりがあるのだ。
「馬鹿な! ギリアム、そこを退け! 我らはルルーシュ殿下をお助けせねばならんのだ!」
「―――殿下はお亡くなりになられました」
「嘘をつくな!」
「哀れルルーシュ殿下は、重用なさっていた名誉ブリタニア人部隊の隊長に射殺されたとか。これはその場にいたカーンが証言したこと。まず間違いはないでしょう」
ジェレミアの頭に、アリエス宮の惨劇が蘇る。
あのマリアンヌ皇妃が亡くなり、ナナリー皇女殿下の足が撃たれた悲劇を。
あんなことがもう二度と起きないよう、せめて忠誠を誓うお方を守りぬこうという決意を元に作り出したのが純血派だ。
(ルルーシュ殿下まで、わたしは守れなかったと言うのか! そんな―――そんな馬鹿な話があってたまるものか! 絶対に、絶対に、嘘に決まっている!)
ジェレミアは放心したように、下を向いて動かなかった。
そんな彼の様子に、さらにギリアムは調子にのった。
あの武官の名門で知られた純血派の面々を、堂々と公衆でいたぶれるのだ。彼のような小役人には絶対に味わえない、人生で初めての逆転劇であった。
ここでギリアムは一生の不覚をとる。皇族の死、それは彼が容易く純血派の前で口にしていいことではなかった。彼らはルルーシュをもとに、一つに纏まっていた。特にキューエルの忠誠心は高く、怒りに手が震えている。その手にあるは、抜き身のサーベル。騎士叙任式の際、ソレイシィ家の宝刀を継承した彼の誇りそのものである。
「…………」
「で、あるからして、卿ら純血派の指揮権は今やカラレス卿にあり、ルルーシュ殿下のことは運が悪かったと思って、即刻アデンへと帰還なさってください。悪いことは言いません。今からでもカラレス司令に頭を下げるのです。その方が後々の為だと―――」
しかし、ギリアムの言葉はその後には続かなかった。
「運が悪かった? カラレスに頭を下げろ? ……だと。
―――貴様一体何様のつもりだ!」
「―――待て、キューエル」
ジェレミアが止める間もない。
キューエルはギリアムの首を宙に撥ね飛ばしていたのだ。
返す刀で、ギリアムの背後にいる部下に斬りかかると、純血派の部下たちがその後に続いて発砲。ブリタニア同士で戦闘が始まってしまったのだ。
ナイトメアのライフルが火を噴き、あたりで爆発音が響きわたった。頭上では機内火災を起こして沈降してきた大型航空艦が、山岳に激突し大爆発を起こした。
純血派より遠く離れた位置での爆発であったが、燃え盛る炎が降り注ぐ雨にも負けずさらに夜の闇を明るく照らし出す。その炎の照明が純血派のサザーランドを青黒く浮き立たせ、良い敵の的になってしまっていた。
側面からの砲撃に加え、頭上航空艦からの支援砲撃の苛烈さに、混乱を深める純血派たち。
ここは、指揮官であるジェレミアが、退くか、進むか、選択を下すべきであった。だが、ルルーシュの安否で頭が一杯の彼に、そんな余裕はなかった。
『ちっ……』
サザーランドに乗り込んだキューエルが、まだ呆然としているジェレミアに焦れた舌打ちをした。
『ジェレミア、何をぼさっとしている! 殿下が死んだなどと、私は絶対に信じんぞ!』
「…………」
『貴様はそうやって、また大切なものをみすみす失うつもりなのか!』
キューエルが銃を乱射しながら、ジェレミアを叱責する。
「っだが、ルルーシュ殿下が亡くなったと―――、それにブリタニア軍を裏切るわけには……」
『馬鹿者! お前のような阿呆に今まで付き従ってやったのは何の為だと思っている! お前の唯一良い所は、その前しか見ていない阿呆なところだろうが! ここで後ろを振り返っていてどうする!』
「―――――」
ジェレミアの目に涙があふれる。
(そうだった。あの時、アリエスでも、わたしは上からの命令にただ従って、その結果大切なものを失った。ここでまた同じ愚を犯すところであったわ!)
「すまん……、キューエル。わたしが間違っていた。ルルーシュ殿下をお助けする! 邪魔する者は全て敵だ! 薙ぎ払え! うおおおおおおおおお!!」
『それでいい! 我らの主はルルーシュ殿下のみ! ジザンに乗り込み、殿下をお助けした後で、カラレスの首も俺が撥ねてくれる!』
「ああ。ことの真偽など今はどうでもいい! ただ進むのみだな!」
『うむ!』
「キューエル……。ありがとう。恩にきる」
『やめろ……。気色わるい』
ナイトメアを得た純血派に恐れる敵は何もなかった。
同じブリタニア軍と言えど、容赦など微塵もない。ジザンへと続く道を塞ぐ全ての者を踏み潰し、空から爆撃してくる大型航空艦にはエンジン部にライフルで穴を開け、爆散させてやった。
『今すぐ攻撃をやめよ、ジェレミア卿! さもなくば、貴公ら全て反逆者として処分する!』
「黙れ、カラレスの犬が! 貴様らのような国賊の言うことなど、誰が聞くものか! 純血派の諸君、我に続け!」
『うおおおおおおおお!!!!』
必死に停戦命令をしているヘリにも、ハーケンを浴びせ、サウジアラビア向けてさらに疾走する。この戦闘で純血派の死者十数名とかなりの被害を出したが、それでも振り返る者はいない。
(ルルーシュ殿下を助けだす!)
その気持ちは一つ。
もはや、彼らを止める者はいなかった。
だが、その頃、ルルーシュたちは地獄の最中にいた。
ジェレミアたちは、間に合いそうになかった。
―――ルルーシュ殿下。どうかお逃げください。
トーマが背後からルルーシュを撃った直後、耳元で聞こえてきた言葉がそれだった。
撃たれた瞬間には分からなかったが、トーマが撃ったのは麻酔銃のようで、殺傷能力は皆無だったのだ。出血もないし、後遺症も残らないタイプの薬品だ。
どうして、トーマがこんなことをしたのか。
優秀なルルーシュの頭脳には、もう全てがわかっていた。
(どうせ、カーンが奴の女を人質にとったということだろう。なるほど、これは予想できていなかった。―――だが!)
ルルーシュが悔しいのは、どうしてそれをトーマが教えてくれなかったのかということだった。別に裏切りがどうとうか、そういうことで責めたりはしていない。こんな事態を招く前に、ルルーシュならば人質を安全に取り返すという策が思いついたかもしれないのに。
(口止めされていたにしても、もっとうまいやりようがあったはずだぞ! トーマ!)
ルルーシュは部下を信じきれなかった己と、そして自分を信じきれなかったトーマに後悔の念を抱かずにはおられなかった。
そして、意識が混濁した中、ルルーシュは全ての意思を総動員し、どうにか眠らないよう努力していた。しかし、視界はだんだんと暗くなっていき、真っ暗になる。
『トーマが殺された!』
『くそ! ルルーシュ殿下をお守りするんだ!』
『せめて、この方だけでも―――!』
ぼんやりとした視界に、地獄がうつっている。
訓練生時代からともにあった仲間たちが、次々と銃殺されていっていた。
遠くにはトーマの死体が転がっており、まわりの火が燃え移ったのか、黒く煙を吹いていた。カーンたちは狂ったような笑みを浮かべて、容赦なく引き金を引き、目についた動く者を片っ端から殺していく。
トーゴたちはまだ奴らと対等に戦えているようだったが、しかし数の暴力には勝てない。ルルーシュの指揮を失い、純血派からの支援を失った混乱の極みにあるこの状況でまともに動ける兵などそう多くはいなかった。
また一人と銃弾を浴び、まだ戦える者はもう十数人ほどだった。
その彼らもルルーシュの身体を引きずり、爆撃で破壊された路地に隠すので精一杯。
全滅するのは時間の問題だった。
『ははははは! 殺せ! 殿下のご遺体など気にするな! 所詮死体だ!』
遠くからカーンの大笑が聞こえてきた。
(―――ふざけるな!)
ルルーシュは揺れる視界の中で、自分の腰にあるサーベルを抜き放つ。
手に力が戻っておらずうまく掴めないので、自分の手が切れるも構わずその刀身を握りしめた。流れ出す血液が夜闇に光る刃を、紅く染めて光彩を放つ。ルルーシュはその痛みでさらに意識を取り戻したが、まだ足らず、その切っ先を左太もも目掛けて―――。
「ぐ、ああああああああああ!!」
突き刺した。
大腿部を通る動脈やら、筋肉の筋やら、大腿骨の重要性などは、全く考慮していなかった。そんなことよりも、自分の仲間たちが今この時にも殺されていっていることの方が重要だった。
足の痛みに腰を丸めて嘆きながら、ルルーシュは意思の力で意識を覚醒させた。
「っ!? C.C…………」
目の前に頭を撃ちぬかれたC.Cの死体があった。
不死身の魔女とは言っていたが、死ぬ時は死ぬんじゃないか、とルルーシュの心に痛みが走る。
そして、自分を守るように足元に倒れている、名誉ブリタニア人たちの顔を見下ろした。
その瞳は暗く濁っており、彼らはもう二度と目覚めることはない。
(アメリゴ、ロン、イエン……)
共にずっと戦ってきた仲間が死んでいた。
名誉ブリタニア人だったが、気のいい奴らだった。
ビスマルクのしごきに一緒に耐えた一人一人がルルーシュの前で死んでいく。前述した通り、仲間の少ないルルーシュにとって彼らは世界そのものと言っていいほどの存在だった。命を賭けてでも守ろうとしたものが、容赦なく壊されていく現実に、ルルーシュの精神も崩壊を迎える寸前となっていた。
世界が容赦なく、壊れて行く。
ルルーシュは無意識のうちに地面に膝を付いていた。
血と泥でまみれた、水たまりの雫が頬にかかった。
「あああああああああああああああああああ!!」
自分の喉が声にならない叫びをあげている。だが、涙は流れなかった。
やってきたこと、全てが無駄になっていくような光景に、まだ十五歳の少年は頭を抱えて空に向かって絶叫していた。
ただ、ただ爆炎にまみれた黒い灰と、無数の光線となって雨を振らせる雲に向かって。
しかし―――。
ルルーシュの叫びに対して返ってきたのは、神の救いなどでは断じてなかった。
「おいおい、ルルーシュ殿下。まだ生きてるじゃねぇか」
「これ撃ったら、俺たちの手柄ってことだよな!」
自分の叫び声を聞きつけたのだろう。血に染まった銃剣を突きつけた傭兵が、ルルーシュ の目の前に迫っていた。
とうとう自分が死ぬ番がきたのだ。
どうやら、ここが死に場所のようだった。
(僕もたいがい殺してきたからな。……いずれ殺されるかもしれないと、覚悟を決めていたが、まさかこんなところだとはな)
目にうつるは、この上なく醜い世界。
仲間の死体、難民の死体、勝ち誇る傭兵たち。
もはや抗う術はなかった。
「―――……」
「じゃあ、死ねよ。皇子様!」
ただだらっと肩の力を抜いて、死を与える銃弾が放たれるを待つ。
そして―――。
「…………」
いくら待っても、痛みも衝撃もルルーシュには感じられなかった。
ただ、誰かに抱かれているという温かさがあった。顔に何か液体が飛び散ったのがわかる。それは鉄のような味がして、ルルーシュを困惑させた。
ゆっくりと目を開いてみる。
すると、そこには、ルルーシュを守るように抱き抱えるトーゴの姿があった。
その背中は傭兵が撃ったサブマシンガンで穴だらけ、口からも血が溢れ出し、もはや致命傷なのは間違いなかった。
「おい……。離せ……トーゴ……。……離せ!」
「で、殿下……。どうか、逃げてください!」
傭兵はしつこくルルーシュを守るトーゴにイラついたのか、また背後から銃を撃ってくる。
その弾丸全てをトーゴは一人で受け止めていた。己の身体が次々と蜂の巣にされていくことを覚悟して―――。
「おい……! 馬鹿な! 僕を助けて何になる! 早く逃げろ!」
「殿下……。殿下は皇族なんです。俺達の……トーマの希望だった」
「お前たちすら守れない僕にっ、皇族の価値なんてあるわけないだろう! お前たちは僕を利用するんだろう!」
それなのに、こいつらは、ルルーシュを守る為だけに死んでいって……。
「こんなところで死んで! ……僕なんかの為に! 馬鹿みたいじゃないか!」
「いいんです……。これで……。あなたを守ることが、後の世の為になるって……、わかって、いる、から」
「僕は皇族として、そんな価値はない! 何の力もない! 現に今お前を守ることすら! ―――守ることすらっ!」
傭兵たちがトーゴの身体に銃剣を突き刺し、至近距離で引き金を引いた。
肉が飛び散り、さらにルルーシュの衣服が血に染まる。
しかし、決して弾丸や刃が、肉体を貫通したりはしなかった。
トーゴの執念だろうか、彼はルルーシュを抱き抱えたまま離さなかった。
「どうか―――殿下……。い、き……て」
「っ―――――――」
それっきり、トーゴは動かなくなった。
もう彼の身体は原型をとどめてはいなかった。
傷だらけの穴だらけのボロボロである。
彼の身体がゆっくりと、地面へと崩れおちていく。
ルルーシュの腕をすり抜けて……。
(なんだ……、これは? これは現実なのか。僕は……、僕は、ここで死ぬのか!)
「フゥ……。やっとくたばりやがったか。そんじゃ、そろそろお別れの時間だぜ、皇子様」
傭兵の銃が今度こそルルーシュの頭に突きつけられた。
だが、今度は目を閉じない。
ただひたすらに、前だけを見据える。
「―――神でも、悪魔でも、どちらでもいい……」
ルルーシュは目の前にある絶望を前に、魂の底から欲する。
ここで死んだら、守ってくれた名誉ブリタニア人たちの死が無駄になってしまう。
ここで死んだら、何の為に今までたくさんの人々を殺してきたのかわからない。
ルルーシュは死んだはずのC.Cの手が、ぴくりと動いたのに気がついていた。
その伸ばされた白い彼女の手を、しっかりと握り締める。
―――渇望はするは、力。
―――全てをこの手で守れるほどの強大な権力。
「どうか……どうか……、僕に力を! 僕の全てを引換えにしても構わない! 望むならば何でも与えよう! 神にでも! 魔王にだってなってやる!」
―――こんなところで死んでたまるか!
―――トーゴたちがくれた命を、こんなところで捨てるのか!
―――ナナリーとはもうこれっきりなのか!
力がなければ、何も守れない。
力こそが正義。
脳裏に一瞬、ブリタニア皇帝の姿が浮かんだ
『わしは手にいれる! 神を殺すアーカーシャの剣を!』
ルルーシュは表面上は父からのこの教えを憎んではいた。
だが、心の奥底では、その絶大なる力憧れてもいたのだ。
(力、力が欲しい!)
―――このまま、死んで行くのは我慢できない!
―――C.C!!!!!
『……本当にいいんだな?』
頭の中で、悲しげな顔の魔女が佇んでいた。
「―――力をくれ! 全てを変えるだけの力を!」
ルルーシュの頭が燃えるように熱くなった。
左目が割れるように痛みを発する。
「ごちゃごちゃうるせぇな! ガキはおねんねの時間だぜ!」
傭兵が銃の引き金を引き、あとはルルーシュの頭がはじけ飛ぶだけ―――。
そうなるはずだった。
しかして、ここで運命は、ルルーシュを世界の王へと駆り立てる。
「ぼくは……。いや、おれは……、ブリタニアを変えてみせる!」
「―――お兄様?」
ナナリーの声が、誰もいない講堂に響き渡った。
ルルーシュに呼ばれた感じがしたのだ。
グラスゴーを中心としたナイトメアの編成部隊が、迎撃してくるサザーランド相手に互角に戦っていた。あたりで爆発音が聞こえ、租界に住む人々が逃げ惑い死んでいく。
ナナリーの足元には何百もの死体が散乱していた。その中にはブリタニア人も含め、日本人の姿も多く見受けられた。ブリタニアの汚職官僚と、NACと呼ばれる日本の資本家たちの秘密の会議がここ、静岡工業地区で行われている事を知り、ナナリー率いる軍勢が一挙攻め込んだのだ。アッシュフォードの檻から抜け出したナナリーはギアスの力で一挙に反体制グループを作り上げ、ブリタニア相手に戦争を仕掛けていた。
グループと言っても、ナナリーは別に仲間意識を持っておらず、ただ自分を【聖女】と崇めてくる彼らに大雑把な命令を下しているだけだった。そもそもナナリーに巨大化する組織を運営する知識も力量もなく、ただやりたいことをやりたいようにやっていただけだった。
それでも、彼らはナナリーに心酔したようについてくる。
まるでナナリーを中心とした一つの宗教のようだった。
一度奇跡を見せただけで、いとも簡単に忠誠を誓うのだから、人間とはなんて愚かなんだろうと思う。
(お兄様以外、みんなゴミのようなもの……。勝手に私に希望を見ているようだけど、せいぜい道具として使いつぶしてあげます)
目指すはブリタニアの崩壊。
自分たち家族を貶めた皇族たちを皆殺しにするのである。
そして兄の奪還。
幸せだった時間を取り戻すこと。
この二つである。
そこまではナナリーは、ルルーシュの思想とほぼ同じだった。
だが、彼女は良くも悪くも母親似だった。
もう一つ、目標ができてしまったのだ。
(V,V……。あなたの魂胆はわかっていますよ。所詮あなたもただの道化。私の手の平で踊っていてくださいな)
以前、ナナリーにギアスを与えた少年。
あの時、ナナリーはギアス以外にも、相手に触れると、その気持ちが手にとるようにわかる力も手に入れていたのだ。V.Vの意識は深い霧のようで読取づらかったが、彼の一番大きい欲望が少しだけ見えたのだ。
そして、あの男が父と何をしようとしているのか、自分の母が外道のような存在であったことなども、部分的に把握してしまっていた。
ギアス嚮団。
人体実験。
嘘のない世界。
よくもまぁ、そんなものの為に、自分達兄妹を弄んでくれたものだ……。
ナナリーの心が憎しみに染まる。
(こんな世界……、どうなろうと知ったことではありません)
世界をその瞳で見るごとに、ナナリーの絶望はより深くなっていった。
「どうしたの、ナナリー? 仮面つけとかないと、正体がばれちゃうよ」
「……そうですね。うっかり忘れてました」
護衛の兵士数人と共に、車椅子を押してくれているのは、ナナリーの同い年くらいの少年だった。茶色の髪の、新しくできた自分の兄弟。
V.Vが突然預けてきた、ギアスユーザーである。
この少年が自分の監視のためか、純粋な協力者として動いてくれているのかわからないが使える内は何でも使ってやろうと思っている。
ナナリーは膝にのせていた、白く薄っぺらい鉄仮面にも似たデザインの仮面をか
ぶる。皇族だとばれないように、自分を神聖視する民衆を煽る儀礼的目的にもこの仮面を用いていた。
「ブリタニア貴族の方々の始末はこれで終わりですね。そろそろ中華連邦とも連絡をとりたいので、九州にでも行きましょうか」
「そうだね。でも、君のお目当てのお爺さん、ここにはいないみたいだよ」
「構いません。ここで駄目ならまた京都に直接乗り込んでしまいましょう」
「うん。京都の租界は発達してるみたいだし、五重塔って僕一度見てみたかったんだ」
少年がナナリーに親しげに話かけてくる。
自分に縁もゆかりもない者だったが、この少年はどうやら自分を本当の妹のように思っているらしい。正直愚かしいことだと思う。
ルルーシュが座っているはずの場所に、あたかも最初からいたように図々しく笑みを浮かべるこの少年が、ナナリーは正直あまり好きではなかった。
(所詮、オママゴト。使えなくなったらボロ雑巾のように捨てればいいってV.Vからも言われてますしね)
富士山が見える静岡の渓谷ブロックの、サクラダイト精製工場の坑道の中。
うねる地下通路の奥にあるコアブロックへと足を運ぶ。
もうそろそろクロヴィス率いる、正規軍が到着する頃だろう。
急がねばならない。
その時だった―――。
「死ねっ、白い死神が!」
「……ロロ、頼みます」
採石場の窪み、横穴と縦穴が合流した複雑な地形の現場で、まだ生き残っていたブリタニア兵士が銃を構えていたのだった。
しかし、ナナリー達はまるで慌てようとしない。
その前に、ロロと呼ばれた少年が、一瞬で相手の喉笛を掻き切っていたからだ。
相手の体感時間を止める。それが彼のギアス能力だった。
だが、敵はまだまだいるらしい。
坑道の奥から奥からぞろぞろと現れ出てくる。
「……ふぅ。面倒くさい」
ナナリーの右目が紅く染まり、世界を照らし出す。
敵は魅入られたように、その美しい少女の瞳に吸い込まれた。
その瞬間だった。
「ひっ、ぐ、ぎゃぁぁぁ。俺の身体が……朽ちて……」
「何だ、これは……。身体が老いていく!? 嘘だろう、なんだこれは!」
敵が見る間に生気を奪われたように絶叫し、悲鳴をあげながらのた打ち回る。
外見的には何も外傷がないような彼らだったが、みるまに老人のように衰えていき、最後はミイラのような骨と皮になって、風と共に灰となった。
目の前に残るのは風化した塵のみ。
それを見ても、彼女は何も感じなかった。
(ふぅ……。このギアス、一度使うとこちらもひどく疲れる……。連続性に欠けるのが問題ですね)
車椅子に座ったままのナナリーだったが、さすがに数十人分の時間を奪ったのは堪えた。
息を切らして、心臓の鼓動を整えていく。
これが彼女のギアス能力。
人々がナナリーを聖女と呼び、神聖化する根源の能力だった。
《必読》
ナナリーの力の詳細はまた今度。
そろそろ、中変えルルーシュ1クール目が終わります。
来週から面接が始まるので、一週間お休みします。
あしからず……。
第十一話へ続く。