私はもうこのまま青年編(本編)をやりたかったのですが、友人が少年編が読みたいというのでまだ少年編をやります。
あくまで趣味で書いているだけなので、深い考察はしていません。
世界観や人物設定が違ってもおかしくありません。こんな作者を許せる心の広大な方だけお読みください。
ブリタニア帝国、帝都ペンドラゴンにて。
過去の皇帝達の肖像画が何枚も飾られた、ブリタニア城三階の回廊を通過してすぐの、奥にある大広間。
そこに何人もの皇族が集まって、談笑をくりひろげていた。
表向きはただのお茶会。
貴族の代表たる皇族の、午後の余暇を楽しむ優雅な宴、ということになっているが、裏では相手の足の引っ張り合いや謀略が蔓延っている。
誰が誰と浮気しただとかの、スキャンダルを噂しあったり。
賄賂を送り合い、政略結婚の都合をつけたり、と皇族は大忙しである。
それもこれも全ては―――自分が、または自分の子供が皇帝になるため、である。
力こそ正義であるブリタニアは本来武力主義なところがあるが、それよりも大事なのが政治力である。この宴では皇族達がお互い牽制しあったり、協力しあったりして、権力を高める場としても利用されていた。
しかし、今日この日。
皇族達の様子がいつもと違っていた。
落ち着きが無い様子で、皆言葉数少なく、仲間内で囁きあっている状況だ。
話題は―――死んだはずの皇子が生きて帰ってきたこと。
亡霊のようにして蘇ったと噂する声もあり、多くの皇族はルルーシュを恐れていた。辛くあたった自分達に復讐を考えているのではないか、と。
その雰囲気を壊すようにして、オデュッセウス・ウ・ブリタニアが快活な声を上げる。
「いやぁ、ナナリーは残念だったけど、ルルーシュが生きていてくれて良かったねぇ」
オデュッセウス。神聖ブリタニア帝国第一皇子。
温厚な人柄で人当たりがよい、皇位継承資格第一位の長兄だ。
しかし、その反面、特筆するような能力がない凡庸さが際立って見える。
「あら、ナナリー死んじゃったの? キャハハハっ、せいせいしたわ。私あいつ大っ嫌いだもの。役立たずが死んでくれて本当によかった。ついでにもう一人の役立たずも死んでくれないかしらね」
これはカリーヌ・ネ・ブリタニア。歳の近いナナリーを毛嫌いし、疎んじている。ネ家の権力の威を借りて、やりたい放題である。
活発な性格だが、人が死ぬことに喜びを感じる残酷なサディストだ。
特に自分のライバルになりそうな、気弱な皇女には容赦しない。
もう一人の役立たずとは、優しいだけであまり有能とは見られていない、ユ―フェミアのことだろう。カリ-ヌははばかることなく、嫌味ったらしい嘲笑を見せる。
ネ家よりの他の皇族達からも、彼女につられて失笑がもれた。
皇族の力関係がはっきりと出た一場面であった。
「カリ-ヌっ! 貴様っ!」
コーネリア・リ・ブリタニアが、溺愛しているユーフェミアを馬鹿にされたので、激しく激怒する。コ―ネリアは武断主義の皇女で、幼い頃から実の妹であるユ―フェミアを溺愛してきた。
妹に対する行動はルルーシュに対してもひけをとらない。
「何よっ、本当のことではありませんこと? コーネリアお姉様こそ、邪魔な皇女が一人死んでくれて良かったのではありませんか。これでユ―フェミアお姉様のライバルが一人いなくなったんですもの」
「私は自分の兄妹達をそんな風に思ったことなど一度もない! やはり、こんな茶番には付き合ってられん! 帰るぞ、ユフィ!」
「は、はい! お姉様っ」
そう言って、颯爽と扉を開けて帰ってしまうコーネリア。
ユーフェミアもそれに従って退席する。
まだ政務について間もないコーネリアだったが、その姿は凛々しく既に堂々としたものだった。
「ふんっ、あの姉妹。いつも一緒で鬱陶しいったらありゃしないわ。コーネリアお姉様も女としての勝負を知らない野蛮人で、本当に困ったものですこと」
「カリ-ヌ……。少し発言を慎みなさい。自分の姉に対してなんてことを言うんだぁ」
「……は-い」
オデュッセウスに嗜められ、不承不承黙るカリ-ヌ。
心の中では(無能のお兄様もいっそのこと死んでしまわないかしら)と思っていたが、顔には一切出さない。
その隣では
「ああ、見てご覧よ、皆。やはり過去の芸術作品は素晴らしいね。帰ってきたらルルーシュにも見せてやりたいな」
大広間に飾られた骨董品や、絵画を愛でている少年が一人。
芸術をこよなく愛し、政務にはあまり興味がない、クロヴィス・ラ・ブリタニアが空気読まない発言を繰り返す。皆がルル-シュや権力争いのことについて論じても、全く興味を示さない。
「ルルーシュは僕のライバルだからね。まだチェスの勝負がついていないのさ。帰ってきたらきっと驚くぞ。美しく賢く成長したこの僕の姿にね」
基本、クロヴィスは無害であるが、その位は第三皇子と高く、そのせいで疎まれたりもしている。クロヴィス自身も自分は統治者としての器ではないと思いながらも、周りからの期待に応えるため努力しているのだ。
結局クロヴィスは皇族の実力主義が生んだ、可哀想な犠牲者であった。
そして、話はどんどんエスカレートし、ルルーシュの生家であるヴィ家を馬鹿にするような発言まで飛び出してくる。
「ちっ、ルル-シュが生きていたのか。このまま死んでいてくれた方が良かったものを……」
「ふっ、下賎な平民の血をひく男児など、皇族に相応しくありませんわ」
「あのようなヴィ家に味方するとは……アッシュフォードも落ちぶれたものよ」
「いやいや、何を言っておられる。腐っても皇子ですぞ。まだまだ利用価値はありましょう。今度は中華連邦にでも人質として行ってもらいましょうかの。少年好きの宦官共が別の意味で可愛がってくれるでしょう」
「ほっほっほ」
「はっはっは」
などなど、本当に腐りきった会話が場を支配する。
成熟した政府の末路などこんなものなのだ。
しかし、その時だった。
「いや、ルル-シュは、あのヴァルトシュタイン卿が引き取るらしいよ」
今まで沈黙を保ってきた、ブリタニアの第二王子がついに口を開いたのだ。
流れるような金沙の髪、理知的に澄んだ眸。
ゆったりと長い足を組んだまま、ブリタニア帝国宰相へ任命された男が語りだす。
皇子の中で一番有能とも呼ばれる、シュナイゼル・エル・ブリタニア。
その一挙一動に皇族全てが注視する。
穏やかな笑みを絶やさない紳士的な人物であるが、その本質はあらゆる欲望や執着心を持たない虚無的な性格で、他人はおろか自分の命にさえ執着しない冷徹を併せ持つ人物である。
「なっ、それは本当ですか? シュナイゼルお兄様!」
「あのナイト・オブ・ワンがかい!?」
「あ、あの……皇帝陛下に唯一無二の忠誠を誓っていた男が、なぜルル-シュなどの後ろ盾に……」
「奴はマリアンヌに忠誠を誓っておるからな。ルルーシュはあの女の息子だからか」
皇族達の間に驚愕の色が見え隠れする。
ビスマルクが味方につくということは、ラウンズも味方にできるということ。
これはルル-シュが皇族の中で究極の武力を手にしたに等しいことだった。
実際、ルル-シュはこれよりラウンズ達と多く知り合いになり、己の味方につけ、大きく成長していくのだが……。
「ははは。これで各々方が言うようなルル-シュへのチョッカイはできなくなりましたね」
内心を全く見せないシュナイゼル。ただただ顔に笑顔を張り付けたまま発言する。
不敵なシュナイゼル。
ビスマルクがルル-シュの後ろ盾になったことにより、恐らく皇帝の頭の中でのルル-シュの皇位継承権はかなり上がったことだろう。
自分の地位も危ないかもしれない。
しかし、シュナイゼルに焦りはない。
ただただこの世を傍観しているような、他人事のような様相すら見えた。
対して、なんとかせねばと焦る大多数の皇族達。
歴史はまた一つ新しい局面へと、移り変わった。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
第一話
それからの三ヶ月、ルルーシュには慌ただしい時間が流れた。
―――僕は本当は皇子なのにっ。
口元から漏れようとしたその愚痴を、ルル-シュは必死に意思の力でねじ伏せた。泣き言の代わりに、砂漠へまた一歩足を運ぶ。
アラブ人が多く住むアラビア半島。
ブリタニアによる侵略にさらされている、この土地の最南端近くにある駐屯基地で、ルル-シュは修練させられていた。なぜならビスマルクもアラビア半島侵攻作戦に参加していたからだ。後にコーネリアが征服する中東区域だが、その南部侵攻先陣はビスマルクに任されていたのだ。
またビスマルクの頭の中には、ルル-シュに戦争というものを教えたいという教育目的もあった。
後に立派に成長したルルーシュも、ここを足がかりにEUを挟み撃ちにするのだが、それはまた別の話である。
アラビア南西部は地球温暖化か、気候変動の影響で横に長い砂漠となっていて、軍靴で駆けると、踵くらいまで砂に埋まってしまう。
奥歯を噛みしめて、ルル―シュはまた走り出す。
先頭集団のさらに先を行くビスマルクに遅れないよう、再び渾身の力で走り出す。
なんでっ。僕がっ、こんな一兵卒みたいなことを! しなくちゃならないんだっ!
喋れば喉がさらに乾くし、体力の無駄だとわかっているから、黙々と走るしかない。
真夏の太陽が真上から容赦なく照りつけてくる。
この灼熱のさなかに、ルル―シュは、上下ともぴっちりとしたパイロットスーツに身を包み、背嚢を背負い、少年には重いサーベルを腰からぶら下げている。
かなりの重装備である。
ルルーシュの他にも訓練生がいて、将来のラウンズ候補の貴族師弟達18名、それに新たに配属させられた優秀な名誉ブリタニア人が三十名、合計四十八名がビスマルクのシゴキを受けているのだった。
もちろん列の最後方の、さらに後ろに、ルルーシュはいる。
運動音痴で体力不足のビリケツだ。
だが、まだ大人に成りきっていない、十四歳の少年なのだ。それは仕方ないことである。
落伍しないだけ偉いと褒めてあげて欲しいくらいだ。
ビスマルクに連れてこられて三ヶ月、何度もゲロを吐き、死にかけた、その成果が多少なりとも現れたのだ。
死ぬ気になればなんとかなる、それがここで得た教訓だった。
なにしろビスマルクは容赦しない。
皇族であることの躊躇など一切なかった。
ルル-シュが反論すれば殴る。
ナナリーのところへ帰ろうとしても殴る。
逃げようとしたら殴る。
サボろうと画策するとまた殴る。
得意な勉学でもルル-シュが調子に乗れば思いっきり殴る。
殴る殴る殴るの繰り返し。
言ってきかぬ子は殴るしかないとビスマルクは言うが、それならもっと手加減しろと言いたい。
ここだけの話だが、ビスマルクの教育は半ば洗脳に近いと言える。
限界まで体と頭を酷使させ、思考をストップさせる。
その上で、軍人として基礎である愛国心や、仲間を思う精神を叩きこむのだ。
ビスマルクはまず、ルルーシュの世界を破壊したいという衝動を抑制しようと考えていたのだた。
まだ精神の完成していないルル-シュに、この教育法は最適だったと言えよう。
そのおかげでルルーシュのビスマルクに対する姿勢も変わってきた。
以前は皇族として、傍若無人に自分の言いたいことだけ言って、ビスマルクに殴られていたのだが、今はほとんど口答えせず従っている。
「どうした貴様ら。何をへばっている。陸戦訓練も立派なナイトメアパイロットの一課程だ。戦場は機械に頼るだけでは何もできん。遅れるな、私に続け」
ちくしょうめ!!
この化物め!
ルルーシュは恐れや畏怖も込めて、先頭のビスマルクを睨んだ。
基本、自分達と同じパイロットス-ツを着ているのだが、その背中には巨大な何メートルもありそうな刀剣を背負い、何十キロもあるような重機関銃を肩に背負っている。
そのくせ、いつものような無感情で、汗すらかいていないのだ。
これを化物と言わずして何という!
それはルルーシュだけではない、この場にいる全員が抱いているだろう感想だ。
こっちはまだ成長期なんだぞ!
いったいなんの嫌がらせだ、このしごきは!
ア-ニャやモニカみたいな女性だっているんだ。
彼女達がこんな訓練に耐えられるはずがないだろう!
あの生意気なジノ・ヴァインベルグみたいな野生児と僕達を一緒にするな!
まだ幼少でありながらラウンズ候補生であるジノやア-ニャも、この訓練には参加していたのだ。モニカを含め彼らはここで一年間の訓練を積んでいくことになっていた。この後ラウンズに成れるかどうかは、彼らの戦場で見事に戦功を上げられるかにかかっている。
「ルルーシュ様っ! どうしたんですか? あ、まさかまたへばったとかじゃないですよね?」
「まだへばってない! というかジノ、いつものように馴れ馴れしいな、お前は!」
「別にいいじゃないですか! あっ、もうこの際、呼び捨てでもいいですよね? よっ、ルルーシュ!」
「いきなり気安す過ぎるだろう!」
ルルーシュより年下の金髪の少年、ジノがわざわざ先頭からここまで来て、無駄に体力あるところを見せつけてくる。彼はルルーシュのことを様付けで呼ぶが、その声音に一切の尊敬がない。正に同級生感覚で接してくるのだ。
「それにしても、本当体力ないですよね。どうしてラウンズ候補の訓練にルルーシュ様みたいな皇子様が混じってるんです?」
「ぜえぜえぜえ。それは……ビスマルクにっ、聞け!」
初対面はさすがにイラッときたが、今ではスザクに続いて二人目の友人となっていた。
本来子供同士など仲良くなるのはすごく早い。
宮廷で帝位争いさえしていなければ、ルルーシュだって抜群に頭がいいだけの普通の子供とかわりないのだ。
そして
「そこまでっ」
草地とオアシスに到着すると、ビスマルクが後ろを振り返り、やっと地獄のマラソンが終わった。その瞬間、ジノ以外の訓練生全てが砂の海に崩れ落ち、ぜいぜいと荒い息をついた。
「ごほっ、がはっ、はあ はあ はあ」
「うわぁ、汚ねぇ! って、ルル-シュ様大丈夫ですか?」
まだ元気なジノの声が鬱陶しい。
ルル-シュも皆と同じく、顔をしかめて口だけ開き、くたくたの体でオアシスの日陰へと歩いていく。もう何もする気がおきなかった。
しかし、
「これより三十分後にナイトメアの訓練を行うっ。貴様ら、十分前には整列しておけ」
ビスマルクからとどめの号令が飛んだ。
「ねえねえ、ルル-シュ様。休憩時間オアシスで一泳ぎしましょう! ねえねえ!」
「ジノ……。お前は馬鹿だ……」
「いきなり馬鹿って、酷いじゃないっすか!」
一人元気が余りまくっているジノに、ルル-シュは呆れた声を上げた。
ビスマルクの過酷な訓練も、この野生児を参らせるには至らなかったらしい。
まだまだ体を動かし足りないのか、この上、水泳したいと言い出しやがった。
「……ジノ、凄い」
「ルル-シュ殿下。そんなお猿は放っとけばいいんです。それより私達とお話でもしていましょう」
ラウンズ候補組の内珍しい女性組、ア-ニャとモニカが近づいてきた。
女性の身でありながらナイトメアの成績も、実技成績もルル-シュよりはるかに優れている二人。女性はか弱いものと教えられてきたルル-シュにとって、二人はその認識を覆すに相応しいほどの力を持っていた。
ふと母を思い出す。
そう言えば、マリアンヌも騎士侯であり、ナイトメアに乗っていたように思う。
「ルル-シュ様、お体は大丈夫ですか? 私を、本当のお、お姉さんのように思って、頼ってきてくれていいんですからね」
ルル-シュに何かと世話をやいてくる、この中では一番年上の金髪美人モニカ。
甘やかしすぎのような気もしないではないが……。
「……ルル殿下、体力なさすぎ」
ぼ-っとしているようで、結構はっきりものを言うア-ニャ。
ちなみルルーシュのことをルル殿下と呼ぶ。
「ふおお! 水が俺を呼んでるぜ! ヒャッホイ!」
馬鹿なジノ。
他のラウンズ候補生の騎士達は、ルル-シュに対して媚を売ったり、何かしら嫌な感じを受けるが、この三人だけは、そういった利害抜きに自分を扱ってくれている気がした。
ルル-シュはこの三ヶ月で彼らに仲間意識というものを、ブリタニアの中で初めて感じたのだった。
「ルル殿下。筋肉ついてきた?」
「え?」
いきなりアーニャがルル-シュの体をぺたぺたと触り始めたではないか。
「なっ、アーニャ! なんてうらやま、いいえ、なんて無礼なことをっ」
「触りたければモニカも触ればいい……」
「えぇっ! そんなっ、では遠慮なくっ!」
「ちょっ、ちょっと!」
「おいおい! 何楽しそうなことしてるんだ? 俺も混ぜろ! 抱きつかせろ!」
「「ジノはあっち行ってて」」
「ひでぇな! おい!」
アーニャとモニカ、ジノに揉みくちゃにされ、潰されるルル-シュ。
それを見た何人かのラウンズ候補生達にも笑顔が広がる。
ここの生活は厳しいが、何も辛いことばかりではなかった。
唯一の心配はここは最前線から少し離れただけの、前線基地だということ。
テロや戦争に巻き込まれる心配もある。
ルルーシュ達もその時は、一兵士として、この基地を守る任務につかねばならないかもしれない。戦争をするかもしれない、そんな漠然とした高揚感と恐怖心があった。
「しかし、まさか名誉ブリタニア人とナイトメア訓練するとは思わなかったよな」
「……そうかしら? ビスマルク卿は差別主義者じゃないから、別に誰がナイトメアに乗っても気にしないんじゃない」
ジノのぼやきにモニカが反応した。
話は一緒に訓練を受けている、名誉ブリタニア人についてへとシフトする。
普通名誉ブリタニア人は、パイロットになれない。
ナイトメアに乗れるのは、高貴なるブリタニア人のみ、というのが軍の基本らしい。名誉ブリタニア人は捨駒か盾として、歩兵に使われることが多いのだ。
「……それにしても、名誉って俺、まともに話したことないな。あいつら妙に暗いし、俺達避けてるしさぁ」
「それは仕方ないわよ。あなたと違って彼らは身分を気にするのよ。彼らが私達に何か不敬を働けば、それだけであの人達は処刑されてしまうかもしれないのよ」
「俺ってそういうのよく分かんないだよね。別に何人だって実力さえあれば成り上がれるのがブリタニアって国だろう?」
「それは……」
モニカが言いよどんだ時、ルルーシュはやはりブリタニアに対する疑念が頭に浮かんだ。
「腐ってる……」
「はい?」
「殿下?」
「……?」
ルルーシュの一言に三人の目が向けられる。
疲れ果てたルルーシュの口から、止めどなく心情が吐露されようとしている。
その流出を防ぐ為の努力をする気力もない。
「ブリタニアは腐ってきているのかもしれない。いや、もう腐っているんだ。
罪の意識すら感じない差別主義者が、国の特権階級で利権を貪り……。
超大国という名のもとの他国への侵略、占領行為……。
己の気に入らぬことがあればすぐに力に訴える……。
実力主義……大いに結構だ。僕は戦いを否定しない。
だが、強い者が弱い者を一方的に支配することは断じて許さない。
世の中力だけなんてこと、僕は絶対に認めない。
―――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけなはずだ。
―――己こそ正義。
―――己こそ絶対。
―――己こそ世界。
そんな国いずれ滅びる。
僕が理想とするのは、もっと優しい世界。
妹が、ナナリーが望んだ美しい世界を。
だから……」
「ルル―シュ殿下……」
三人の目が全てこちらに注視していることに気づくルルーシュ。
先程の発言は取られ方によっては、反体制主義者の言に聞こえるだろう。
慌てて先程の発言を取り消そうとするルルーシュ。
「いやっ、ははは。冗談さ。……結局…………世界は何をやっても変わらないから」
「……ルル殿下、泣いてる?」
「泣いてない! 泣いてないよ!」
「「…………」」
しかし、ア-ニャを除いて、二人の様子がおかしい。
「ルルーシュ様! 私ラウンズ目指してましたけど、―――今、やめます!
私をルルーシュ様の騎士にしてください!」
「あっ、モニカさん! ズルいって!
ルルーシュ様の騎士には俺がなるつもりなのに!」
「男なんてむさ苦しいだけです! 是非私を騎士に!」
「ここは男の友情を取るべきでしょう! なっ、俺達友達ですよね? ル ルー シュっ」
「よ、呼び捨てにするなんて、なんと不敬なっ!」
そしてジノとモニカの言い合いが始まってしまった。
ここに連れてこられた時、ビスマルクを恨んだ。殺してやりたいとも思った。
ナナリーのことは相変わらず心配で、夜一人で涙を流すこともある。
訓練は厳しく、死にたくなるほど辛い。
だが、―――仲間ができた……。
一緒に戦ってくれるかまだわからない、自分だけの仲間が。
彼らはルルーシュが憎んでいた帝国貴族であり、皇帝である父の騎士であるラウンズ候補である。本来なら殺してやりたいくらいの恨みを持ってもいい相手だ。
だけど、―――そんなこと思いたくない自分がいる。
憎みたくない自分がいるんだ。
―――母上、あなたの仇は必ずとります。
―――ナナリーは絶対にこの手に取り返します。
―――ブリタニア皇族に復讐します。
―――あなたの屈辱を数倍にして晴らしてみせます。
この気持ちは一生変わりません。
ですが
―――彼らを信頼してもよろしいでしょうか、母上?
―――僕は、ブリタニアを―――どうしたいのか?
壊すのか?
守るのか?
変えるのか?
頭の中がぐるぐる回る。
「ブリタニア人も色々なんだな……」
「…………?」
ルルーシュのそっとした呟きに気づいたのは、携帯でブログを書いていたア-ニャだけだった。成長期を迎えた皇子の瞳の端には、うっすらと光ものがうつっている。
ルルーシュは頭から水筒の水を浴びる。
伸びっぱなしの黒髪が頬に張り付く。
大量の水がルルーシュの顎を伝い落ちていた。
第二話へ続く。