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No.15219の一覧
[0] 反逆のティア (TOA 現実→アビス 原作再構成)[サイレン](2010/03/21 21:25)
[1] 第一楽章 異端者のアリア 第一節 無垢なまどろみ[サイレン](2010/03/14 21:28)
[2] 第一楽章 異端者のアリア 第二節 無慈悲な現実[サイレン](2010/03/14 21:37)
[3] 第一楽章 異端者のアリア 第三節 聖女を讃える街[サイレン](2010/03/14 21:39)
[4] 第一楽章 異端者のアリア 第四節 運命と白い花と[サイレン](2010/03/14 21:40)
[5] 第一楽章 異端者のアリア 第五節 時を越えて[サイレン](2010/03/14 23:11)
[6] 第一楽章 異端者のアリア 第六節 ささやかな一歩[サイレン](2010/01/09 21:16)
[7] 第一楽章 異端者のアリア 第七節 異端審問[サイレン](2010/01/06 21:13)
[8] 第一楽章 異端者のアリア 第八節 桃色の髪の少女[サイレン](2010/01/18 20:12)
[9] 第一楽章 異端者のアリア 第九節 ともだち[サイレン](2010/01/08 21:45)
[10] 第一楽章 異端者のアリア 第十節 死神と助手[サイレン](2010/01/09 21:46)
[11] 第一楽章 異端者のアリア 第十一節 創られた命[サイレン](2010/01/14 20:54)
[12] 第一楽章 異端者のアリア 第十二節 死神との取り引き[サイレン](2010/01/12 00:06)
[13] 第一楽章 異端者のアリア 第十三節 仮面のストーカー[サイレン](2010/01/13 20:47)
[14] 第一楽章 異端者のアリア 第十四節 そよ風に希う[サイレン](2010/01/13 21:17)
[15] 第一楽章 異端者のアリア 第十五節 研究室の日常[サイレン](2010/01/14 21:16)
[16] 第一楽章 異端者のアリア 第十六節 13歳の誕生日[サイレン](2010/01/16 16:50)
[17] 第一楽章 異端者のアリア 第十七節 遅すぎた後悔の行方[サイレン](2010/01/16 21:16)
[18] 第一楽章 異端者のアリア 第十八節 天使と悪魔[サイレン](2010/01/17 21:30)
[19] 第一楽章 異端者のアリア 第十九節 死神の告白[サイレン](2010/01/18 22:41)
[20] 第一楽章 異端者のアリア 第二十節 遺されたメッセージ[サイレン](2010/01/20 19:46)
[21] 第一楽章 異端者のアリア 第二十一節 天を仰ぐ者たち[サイレン](2010/01/20 21:09)
[22] 第一楽章 異端者のアリア 第二十二節 死神とレンズ[サイレン](2010/01/22 20:56)
[23] 第一楽章 異端者のアリア 第二十三節 14歳の誕生日[サイレン](2010/01/22 21:42)
[24] 第一楽章 異端者のアリア 第二十四節 光の王都[サイレン](2010/01/23 21:17)
[25] 第一楽章 異端者のアリア 第二十五節 七番目の裏切り[サイレン](2010/01/24 21:06)
[26] 第一楽章 異端者のアリア 第二十六節 偽りの聖女[サイレン](2010/01/25 21:23)
[27] 第一楽章 異端者のアリア 第二十七節 波紋[サイレン](2010/01/26 21:22)
[28] 第一楽章 異端者のアリア 第二十八節 穏やかな日々[サイレン](2010/01/28 20:24)
[29] 第一楽章 異端者のアリア 第二十九節 恋風が吹き荒ぶ[サイレン](2010/01/28 21:31)
[30] 第一楽章 異端者のアリア 第三十節 せせらぎを聞きながら[サイレン](2010/01/29 21:53)
[31] 第一楽章 異端者のアリア 第三十一節 罪作りな果実[サイレン](2010/01/30 22:00)
[32] 第一楽章 異端者のアリア 第三十二節 15歳の誕生日[サイレン](2010/01/31 21:44)
[33] 第一楽章 異端者のアリア 番外編 Happy new year![サイレン](2010/03/01 22:12)
[34] 第一楽章 異端者のアリア 番外編 Happy valentine![サイレン](2010/02/14 22:23)
[35] 第一楽章 異端者のアリア 番外編 Happy birthday![サイレン](2010/02/10 11:46)
[36] ―間奏― 希求者のカデンツァ 儚い息子の愛し方[サイレン](2010/02/01 21:07)
[37] ―間奏― 希求者のカデンツァ 賢帝の実情[サイレン](2010/02/02 21:34)
[38] ―間奏― 希求者のカデンツァ 若き導師の寂寥[サイレン](2010/02/03 21:29)
[39] 第二楽章 愚者のプレリュード 第一節 目覚め[サイレン](2010/03/03 22:48)
[40] 第二楽章 愚者のプレリュード 第二節 余波[サイレン](2010/03/03 22:47)
[41] 第二楽章 愚者のプレリュード 第三節 彼方へと続く空[サイレン](2010/03/04 22:42)
[42] 第二楽章 愚者のプレリュード 第四節 月明かりの下で[サイレン](2010/03/04 22:23)
[43] 第二楽章 愚者のプレリュード 第五節 突きつけられた事実[サイレン](2010/03/06 21:40)
[44] 第二楽章 愚者のプレリュード 第六節 エンゲーブでの遭遇[サイレン](2010/03/07 22:25)
[45] 第二楽章 愚者のプレリュード 第七節 導師が一人[サイレン](2010/03/08 22:11)
[46] 第二楽章 愚者のプレリュード 第八節 聖なるもの[サイレン](2010/03/09 22:54)
[47] 第二楽章 愚者のプレリュード 第九節 気高き女王[サイレン](2010/03/10 23:06)
[48] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十節 彼女を救うのならば[サイレン](2010/03/12 22:12)
[49] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十一節 歯車はきしむ[サイレン](2010/03/12 09:06)
[50] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十二節 導師奪還作戦[サイレン](2010/03/14 22:30)
[51] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十三節 決心[サイレン](2010/03/14 22:35)
[52] 第一楽章 異端者のアリア 第18.5節 副官の務め[サイレン](2010/03/15 22:13)
[53] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十四節 風見鶏が指し示す[サイレン](2010/03/16 23:12)
[54] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十五節 笑う道化師[サイレン](2010/03/17 22:24)
[55] 第二楽章 愚者のプレリュード 第十六節 清き水の調べ[サイレン](2010/03/17 22:10)
[56] 後書き[サイレン](2010/03/16 23:17)
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[15219] 第二楽章 愚者のプレリュード 第七節 導師が一人
Name: サイレン◆ef72b19c ID:03b14102 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/08 22:11



 鶏が声を張り上げ、静寂を破った。日が昇りきる前からエンゲーブの人々は動き始める。
 その人の気配にティアは瞼を上げた。東の空はまだ仄暗い。ルークが起きるのはもう少し後だろう。
 ティアはベッドの上に座り込んだまま毛布を羽織る。そして、アリエッタの顔を思い浮かべた。

 今日、イオンがチーグルの森に入る。彼と共にいれば、ライガの女王に出会うことになるだろう。
 アリエッタの母親。本来なら女王は交渉のテーブルに着かず、問答無用で戦うことになり、ジェイドにとどめを刺される。
 だが、みすみすアリエッタの母が殺されるのを見過ごすつもりはない。アリエッタは私の友人だ。
 オリジナルイオンを失った悲しみから、なんとか立ち直った彼女を再び悲しませるような真似はしたくない。
 まずはどうにかして女王に話を聞いてもらう。それができれば、アリエッタが復讐に走るようなことにはならないはず。

 そう考えるとティアは支度をし始めた。
 するとその音で目が覚めたのか、ルークは寝惚け眼で首を傾げながらティアの名を呼ぶ。

「……おはよう……、ティア?」

 ルークは見慣れない部屋に一瞬混乱に陥り、周囲を見回し、ティアの顔を見て此処が何処だか思い出した。
 ティアはルークの表情の変化に笑みをこぼし、挨拶をする。

「おはよう、ルーク。もう起きた? 今日はどうする?」

 ルークは瞼をこすりながらティアの問いを聞いた。次第に思考が晴れていく。
 今日、どうするか。どうするも何もルークの目的はキムラスカに帰ることだ。

 ルークがキムラスカまで無事に帰る方法は大雑把に言えば二つある。
 ルークがカイツールまで行く。余計な時間はかからない。その代わり道中の危険性が高まる。
 ルークが何処かで迎えを待つ。時間がかかる。しかし、拠点を確保できればあとは安全である。

 問題は目立つ髪である。それさえどうにかできれば、ティアと二人でもたいした危険はないだろう。
 旅券はルーク自身が身元証明をしているのでそこまで心配していない。路銀や地図など最低限の物は幸いにもティアが持っている。
 エンゲーブからカイツールまで旅することは可能だ。だが、慣れない旅をルークができるかと問われると答えに詰まる。
 あの谷から少し歩いただけで変なところが筋肉痛になっている。歩きなんていうのは最終手段だ。

 とりあえず、昨日の手紙の返事が来るまではこの村で待とうとルークは決めていた。
 遭難したらその場を動かない方が良いって誰かも言っていたし、と心の中で呟く。
 それは雪山で吹雪に遭った人物がなんとか生還したときの台詞なのだが、そこまでルークは覚えていなかった。

「ん~。下手に動くのは危険だから、てきとーにぶらつくかな」
「じゃあ、近くの森にでも行ってみない? 一昨日は夜だったし、ここら辺の魔物は弱いから歩き回っても大丈夫よ」

 ここぞとばかりにティアは提案した。森に行かなければ話が始まらないのである。

「へえ、森かあ。動物とかもいるのかな」

 ルークは村で見た家畜を思い出す。ちょっと匂ったが、触ってみると温かかった。
 森というからには見たことのない昆虫や草木がたくさんありそうである。
 それに、森なら人目がないのでフードを外せるだろう。身を隠すのは案外ストレスになるものである。

「じゃあ、今日は森に行ってみるか」

 ルークはティアに言われるがまま、森に足を踏み入れることになった。


 二人は朝食を宿で取り、お昼のサンドイッチも作ってもらう。ティアは森に行く前に、食料を買おうかどうか悩んだ。
 ルークは考え込んでいるティアを余所に興味津々といった様子で商品を眺めている。
 ティアはそれに気付くと、「リンゴと買って来てくれないかしら?」とルークにおつかいを頼む。
 ルークは「いいのかっ?」と訊ね、ティアが頷くのを見るとぱあっと顔を輝かせて走っていった。

 不安そうに小銭を握りしめながらお店の人に話しかけているルークの様子をティアは横目で窺ってしまう。
 店員の小父さんも分かっているようで、何くれと積極的にルークに話しかけ店先のリンゴを選ばせていた。
 終いには「おまけだよっ!」と威勢の良い声で告げ、二つのはずのリンゴは紙袋に収められ、四つはありそうである。
 ルークは嬉しそうにそれを抱えながら、「こんなに貰っちまったぜ!」とティアに報告した。

 そのまま二人はリンゴを片手に齧りながら森へと向かう。移り気なルークは道から外れることもしばしばだ。それをティアが注意する。
 その光景は二人が森に着くまで繰り返された。いや、森に入っても根本的なところは変わらなかった。
 ルークは目に移るもの全てに興味を一度は持つ。はぐれたくないティアは、ルークの質問に一つ一つ答えることでそれをなんとか阻止した。
 昔取った杵柄で、草木に関してティアは詳しい。「これは根っこが毒になるの」と余計な知識まで披露する。

 そんなティアの説明にルークは素直に頷きながら、「ティアって物知りだなー」と惜しげもなく誉めた。
 森に入ってからルークはマントを外し、赤い髪を晒している。
 それを認めたティアは良い機会だとポケットからシンプルなデザインの飾りを取り出した。

「ルーク。後ろ向いてくれない?」

 ティアは無防備なルークの後ろに立ち、肩のあたりで軽く結わえ、手元の響律符を使う。
 その金の飾りは赤い髪に映え、あつらえたようである。これはルークのためのものだとティアは思った。

「ん? なんだ?」
「ほら、ルークの髪って長いでしょう。森だと木の枝に絡みついたりすることもあると思って」

 ディストに修理してもらったものである。ユリアシティで発見されたこの譜業は創世暦時代の技術で作られている。
 とはいってもそこまで貴重なものではない。10世紀ごろの職人がその頃かろうじて伝わっていた技術をもとに思考錯誤した代物だ。
 だが、これはルークのために作られたものではないかとティアは見つけたときに思った。
 この響律符は、その職人がローレライの鍵のような機能を付けてみようとして失敗したものである。

 ローレライの剣とローレライの宝珠は、一体となることではじめてローレライの鍵として完成すると言われている。
 ローレライの剣は武器であり第七音素を集結させ、ローレライの宝珠は響律符であり第七音素を拡散させる力を持つ。
 この相反する二つの機能を付けてみようとして見事失敗したのが、このルークの髪に収まっている響律符だ。
 集結と拡散という効果を望んだ結果、この譜業は周囲の第七音素を歪めるようになった。簡易的な妨害装置のようなものだ。
 これを身につけている限り、地核のローレライがルークを認識することはないだろう。頭痛に悩まされることもない。


 ルークは、ティアの「似合ってるわ」という誉め言葉に「そ、そうか?」と照れた。何かを誉められるという経験には慣れていない。
 何か外に来てから慣れないことばかりしている気がするとルークは思い、そして、ずっと屋敷に居たからそれも当然だろうと考え直した。
 外は怖い。でも、楽しい。矛盾した思いを抱え、ルークはそれを誤魔化そうと森の奥へと進む。その先でルークはイオンを見つけた。




 導師にしか許されない紋様の入った白いローブに音叉を模した錫杖。
 村長の家で見かけた緑の髪の少年は息を荒く吐きながら、ライガルに抗っていた。
 「ティアッ!」というルークの呼び声に、ティアはすぐさまライガルのような魔物が嫌う音を出して追っ払う。
 耳を伏せて、唸り声をあげ未練を残していたライガルは二人が傍に駆け寄ると去っていった。

 ルークは今にも倒れそうなイオンを支える。
 イオンは蒼白な顔をしながらも律義に礼を口にした。

「ありがとうございます、あの……」
「神託の盾騎士団、第五師団所属師団付技手、ティア奏長であります」

 ティアは導師を前に自分の所属を告げた。
 イオンは、「ああ、あなたが……」と呟く。その声は小さく傍に居たルークにしか聞こえなかった。

 実際のところ、ティアはあの六神将と親しくしている技手ということで注目されていた。そうでなくても白衣で練り歩く姿は人目を引く。
 イオンもアリエッタと親しいということで名前だけは知っていた。
 ただ、イオンは基本出歩かない人間であり、ティアも出不精だったのでこれまで顔を知る機会がなかったのである。

 イオンの視線を受けて、ルークは端的に自己紹介をする。

「俺はルークだ」
「ルーク……。古代イスパニア語で聖なる焔の光という意味ですね。いい名前です」

 イオンは、その名前の意味を口にして微笑んだ。
 度重なる誉め言葉に、ルークはうろたえつつも導師が一人で森を歩いていることに疑問を持つ。

「なあ、イオン。どうして守護役が一人も傍にいないんだ?」

 導師の傍には必ず守護役がいる。それがルークの知る常識だった。だが、思い返せばあの村長の家でも守護役の影はなかった。
 30人いる守護役のうち一人も導師の傍にいないなんてことは、あり得ない。

「アニスはちょっと用事があるみたいで」

 イオンははにかみながら答え、これ以上聞かないでくださいと態度を示した。
 ルークは、「そうなのか」と納得して見せる。だが、違和感は拭えなかった。
 昨日はあのジェイドという軍人と拘束もされずにいたので親しいのだと思っていたが、違うのかもしれない。

「じゃあ、イオン。此処で何してるんだ? 行方不明中って聞いたんだけど」

 ルークは単刀直入に問い質した。いろんな可能性があり過ぎて本人に確認する方が早いと思った。
 導師と守護役は家族の様でもあると聞く。守護役を人質として言うことを聞かせていることもあるだろう。
 一人でいるのは助けを呼びに行く途中だとか。考えすぎかもしれないが。

「ダアトは行方不明と説明しているのですか。此処にいるのは僕の意思ですよ。チーグルの話を聞いてみたいんです」

 イオンは曖昧な表現をした。表情は相変わらず笑顔のままである。
 ルークはそれをどう解釈すればいいのか迷った。これ以上は立ち入って欲しくないということだろうか。

 傍らで聞きに徹していたティアはその食い違いに口を挟まずにはいられなかった。このままではダアトの立場を強化しても、その先から崩されそうである。
 生まれて2年であるということを理解しているが、導師という立場にいる以上、ふらふらされては困るのだ。

「イオン様。ダアトは行方不明としか説明できないのです。街で大詠師派が導師を軟禁していると噂された直後のことですから、それを信じている者もいます。
 大々的に捜索しているのは、導師を解放しろと訴える改革派を納得させるためでもあるのです」

 2年前、オリジナルとレプリカが入れ替わるときに導師は病とした。それからイオンは余り表舞台に立っていない。
 大詠師でも良い行事は彼が行うようになっている。噂が発生する下地はできていた。信憑性があるからこそ広まったのである。
 そこで、導師は和平のために独断で旅立ちましたとは口が裂けても言えない。事実が事実であるだけに行方不明というままなのだ。

「そうなのか?」

 ルークは、ティアの告げる情報に驚いた。
 ティアは神妙な顔で懸念を口にする。

「ええ。改革派はイオン様がいたことで一つに纏まっていたの。そのおかげで教団の要人や施設を狙った破壊活動は収まっていた。
 でも、このままだとどうなるか分からないわ。創造力の豊かな人はどこにでもいるから」
「そんな……、ダアトがそんなことになっているだなんて」

 イオンは思いもよらないダアトの現状に戸惑いを隠せない。
 イオンは和平に協力することが導師の役割だと考えていた。ひいてはダアトのためになると。
 だが、その良かれと思った行動がダアトに混乱を齎している。空回りする感情にイオンは泣きそうな顔になる。

 
 ダアトで導師として振る舞っていたが、モースなどはあからさまにレプリカであるイオンを見下していた。
 初めはイオンも彼らの言う通りに導師らしく行動するだけだった。だが、疑問に思ってしまったのである。
 レプリカとしてそれで良いのかと。レプリカはオリジナルの代用品。オリジナルらしく在らねばならない。
 知れば知るほどオリジナルは自分とかけ離れている。人形のように彼らの言うことを聞くのは何か違うような気がした。

 そして、シンクの存在を知ってその曖昧模糊としたものは明確な形を持った。
 彼はレプリカだ。自分の前に作られた失敗作。なぜ失敗作なのに堂々としていられるのだろう。
 自分の方がオリジナルに近いはずなのに彼を羨ましいと思った。

 しかし、イオンはオリジナルの代用品である以上イオンらしく在る訳にはいかない。そして、せめて導師らしく在りたいと思ったのである。
 だが、イオンはレプリカである自分に引け目を感じていたために自分の価値を低く見る癖があった。
 その齟齬が今回、混乱を大きくしてしまった。モースたちがレプリカを必要としたのはその存在が欠かせなかったからである。
 その人格は二の次だ。健全にダアトを運営していくためには、導師が不在という状況は歓迎できない。
 預言に次の導師が詠まれないという事態を乗り越えるためにレプリカを求めたというのも一つの事実だ。


 イオンは黙り込み、3人の雰囲気は悪くなってしまった。ティアが言い過ぎたと後悔しても遅かった。
 気まずいままとりあえずイオンの言うチーグルを探しながら進む。すると、道の先に大きな木が見えてきた。
 チーグルの住処である。緑の葉をつける木は命を育んでいた。苔むした地表の根からはキノコが生え、花も咲いている。
 その幹のぽっかり空いた洞から小さなチーグルが顔を出していた。



 


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