「意外に謙虚なのですね、もう少し無茶をいうと思っていました。」
「気持ち悪いから敬語は止めてくれ。お前に敬語を使われると鳥肌がたつ。」
笹島中佐の帰還を見送り、天幕に戻ってきた新城は開口一番そう口にした。
発言の意味は、笹島中佐への要求の内容だろう。
何せ原作とは違い、真室への砲撃を要請しなかったのだ。
つまるところ、要求したのは補給と援軍という当然の物を除いた場合、兵隊の年金の増額と捕虜返還時の優先権だけなのだから。
「……俺たちは文字通り全滅してもおかしくない命令を受けている、もう少し無茶を言っても良かったんじゃないのか?」
周りにだれもいないことを、(と言っても天幕の中だから聞こえるとも思えないけれど)軍人の常として確認した新城は、軍務中でない時の口調に切り替えた。
どうでもいいことだが、親しい人間と話している時の新城の一人称は俺だ。
軍務中は、僕という一人称を使ったり、自分という一人称を使ったりするし、口調も話している相手によって傲岸不遜になったり、保胤様や篤胤様と話すときは敬意のこもった口調になるが、友人と言える存在と話すとき、その口調は一般的な喋り方に近い。
「兵力と補給以外に欲しいもの、金とか土地とか勲章とか?俺はいらないけど、新城は欲しいのか?」
「……。」
言うまでもないが、俺たちは金持ちだ。
5将家に連なる新城は、はっきり言って普通の将家よりも金をもっているし、俺も実家が金持ちな上、未来知識を使って企業を起こしたりしているので金に不自由はない。
常識的に考えれば、論功行賞程度でもらえる金や土地など、少佐や大尉クラスでは大したことはないため、新城がほしがるとも思えない。
それとも、勲章が欲しかったりするんだろうか。
そう言えば原作でも、軍への入隊理由の半分は、歳相応の軍への憧れもあったって書いてあったし、意外に勲章とか貰えたら満更でもないのだろうか?
原作では新城のドロドロの心情描写が入ったり、日常パートが少ないことなどから、こいつ人間か?と感じさせられることの多い新城だが、実際に付き合ってみると以外に人間味を見せることも多い。
まあ、そうじゃなきゃ保胤様や、親友の羽鳥や樋高、が付きあっていけるはずもないのだろうけど。
「もう少し笹島中佐が早く来ていれば、真室の穀倉への攻撃を頼んだのだが。」
まあ、魔王様にそんなものないか。
「いいじゃないか。より確実な手段で穀倉は燃やせるんだし。」
先程の笹島中佐との会話で、原作と比較し致命的に食い違っていることが俺の存在以外にある。
真室穀倉への攻撃だ。
これに関して、俺は原作とは違い一切触れていない。
なぜならば、それ以前にすでに手を打ってあるからだ。
この時点で部隊を動かせる立場にいなければ当然できなかったことだし、なんでそんなことする必要があるの?と反対意見が多くても行えなかったことだが、新城が2月13日以前において、この大隊が殿軍を押し付けられるだろうことをすでに予測しており、その上で大隊が生き延びるためには焦土戦術しかないと割り切っていたことから実現することができた。
つまり、大隊が真室大橋付近からまだ撤退をしておらず、導術もまだ消耗していないこの時点においてのみ、戦艦による攻撃ではない、大隊兵力による真室への放火が可能なのである。
帝国はいまだ真室大橋を渡っていないため、大規模兵力は真室川以南には存在しておらず、12~15日の間のみこちらは自由な行動を行えるし、兵力は消耗しているものの、放火をする程度の兵力ならば容易に集められる。
具体的には、食料が尽きかけている中なけなしの食料をかき集め、食料をバカ食いする馬をわざわざ生かしておき、12日夜、馬の上手な士官と兵10名ほどを真室へ送り出したのだ。
導術兵が一人含まれているため、合流は可能だろうし、万が一ダメなら降伏しろと言い含めてある。
これを行う士官には妹尾少尉をチョイスした、順調に行けば14~15日の間に帰還するだろう。
性格を考えれば兵藤少尉が理想なのだが、残念なことに彼はあまり乗馬が得意ではないらしい。
幸い、次点として考えていた妹尾少尉がそれなりに乗れるということだったので、彼にやってもらうことにした。
正直な話、もっとドラスティックで、有能な部下がいたら良かったんだけど。
ちらりと横目で新城を見るが、新城だけは駄目だ。
俺がケガで前線指揮をできない以上、陣地戦以外の野戦指揮はすべて新城にこなしてもらわなければならない。
具体的に言うと、帝国の架橋を妨害できないのだ。
「さて、補給がいつ来るかは知らないけど作戦会議だ。妹尾は遠出、松岡は偵察に出ていていないから、漆原と兵藤と西田を会議用の天幕に呼んでおいてくれ。」
なんとなく何か言いたいけれども、別に言うべきことがないという感じの微妙な沈黙が流れた後、失礼しますと一言おいた上で新城は天幕を退出していった。
新城が見えなくなったのを確認した後、近くにあった松葉杖を手にとる。
器用な兵が作ってくれたもので、無骨ながら必要最低限の仕事は果たしてくれる。
ただ、何があれってめっちゃ重い。
アルミやチタン、強化プラスチックとは行かないまでも、普通は軽い素材の木を使うのだが、選り好みすることもできず即席で作ったものなので重い。
もっとも、贅沢は言えない状況なので文句を言う気はないのだけれども。
傷の具合も良好だ。
水は川からいくらでも取れるため、傷口の洗浄には苦労はしない。
包帯も大隊の人員が大幅に減少したので余り気味だし、気温が低いため腫れや化膿も最小限に抑えられている。
後遺症が残るかどうかが不安だが、傷だけならばアレクサンドロス作戦前には必ず完治するだろう。
余談だが、この大協約世界の医療技術は予想外に低かった。
さすが、各種技術がナポレオンあたりというだけあって、現代の医療概念が全く通用しない。
特に何がヤバいって、消毒っていう概念がない。
それ以前に、細菌やウィルスの存在を前提に話したら療兵に、なにこいつ?みたいな目で見られた。
戦場なんだから妥協しろ、とかそういうレベルじゃない。
とりあえず、少量の湯を沸かして、そこで簡易的に煮沸消毒をした包帯を使ったよ。
戦場に出るまで全く考えていなかったことだけど、医療関係の技術の向上をなんとかして考えた方がいいかもしれん。
といっても俺自身そこまで詳しいわけじゃないから、何をすればいいのかわからないのだが。
とりあえず体を起こし、松葉杖を突き前進。
会議用の天幕まで距離はないため、一人でもあまり不自由は感じられない。
ただ、それ以前にかなり寒いが。
10m程の距離を歩き、会議用天幕の入り口をくぐる。
そこには、宿泊地を離れている妹尾と松岡を除いた、すべての士官が揃っていた。
さすが新城、手際がいいというのか、なんというのか。
俺が入ると同時に全員が起立し、こちらに立礼を行う。
敬礼は室内の場合はなしだ。
水軍はこういう所がゆるいらしいのだが、陸軍は厳しい。
適当にやってきた、俺や新城と違って、他の士官の礼はタイミングから角度まで、すべてが揃っている。
普通ならこちらも答礼を行いたいのだが、こちらはバランスの都合上礼ができないため、軽く敬礼を返す。
素早く肩を貸してくれた新城に礼をいい、着席する。
俺が座ったのを確認して、他の士官たちも腰をおろす。
「さて、諸君に悪い知らせだ。我々は殿軍を転進司令本部から仰せつかった。これより10日間、美奈津浜へ帝国が近づくのを阻止しなければならない。」
出会い頭の訃報に、新城を除く全員が嫌な表情を浮かべる。
兵藤少尉など、期待が外れたことによる失望感も一潮なのだろう、明らかに肩を落としている。
「これより、我々は補給と増援の到着を待ち、各種準備が整い次第作戦行動に移る。何か意見は?」
俺の中では、起草は出来ている。
なにせ、原作の焼き直しをすればいいだけだ。
俺が動けず、新城が指揮官でない以上多少の修正は必要だろうが、大した問題ではない。
ここで意見を求めたのは、主に新城に焦土戦術を含めた各種作戦を立案させるためだ。
俺の功績は少なく、新城の功績は多く、これが基本だ。
「大隊長殿、よろしいでしょうか。」
俺の指示を仰いだ上で、新城が計画を述べ始める。
新城の提案した計画の骨子は二つ。
俺を中心として、1個中隊を当てる焦土戦術兼、苗川での陣地構築を行うグループ。
新城を中心として、残存した剣虎兵、全ての剣牙虎、全ての砲を含めた2個中隊で撹乱、遅滞戦術を行うグループ。
この二つを作り、最終的に消耗した帝国軍の攻撃を小苗川で迎撃するというものだ。
特に打ち合わせはしていないが、内容に関して突拍子のないものはない。
原作と比べ、焦土戦術の提案が早いのは、既に真室の穀倉へ手を出しているからだろう。
俺にとっては、あまり驚くほどのものじゃない。
あくまで俺にとっては、だが。
上官への提案という形を取っているため、原作のようなもったいぶった説明は行われない。
特に、焦土戦術に関する概要だけは既に話し合い決めているため、原作の説明には質量共に遠く及ばない。
これは、原作以上に反発がでかいかもしれない。
案の定、新城の話が進むにつれ、漆原少尉や西田少尉の表情が強ばっていく。
新城の提案は5分ほどで終了したが、それと同時に漆原大尉が発言を求める。
「しかし、大尉殿の提案では衆民への配慮が全くなされておりません、それに真室の穀倉が残っている以上、この計画は既に破綻しています。」
素早い反論。
さすが原作随一の優等生だ。
ここらへん佐脇俊兼に通じるものがあるんじゃないか?
反論を行おうとする新城を制し、こちらから発言を行う。
「それに関しては既に手を打ってある。妹尾少尉がこの場にいないのは、それが理由だ。」
新城に責任を全て押し付けるっていうのも魅力的だが、これに関しては俺が関わっていることを明言しておかなければ、新城が独断で兵を動かしたことになってしまう。
「っ!真室の穀倉を既に焼き払ったということですか!?」
「正確にはまだだろうが、そうなるよう手配してある。」
新城を除くこの場にいる全ての人間の敵意がこちらを向く。
うん、これは嫌だ。
新城はどSだからいいが、小心者の俺にはきつい。
「それでは彼らはどうやってこの冬を越すというのですか!」
「落ち着け少尉。焼いたのは市の穀倉だけだ。残念なことにな。」
「残念なことに!?その行動で多くの人間が餓死するかも知れないっていうのにですか!?」
怒りで前が見えなくなっている漆原少尉の言動は、既に上官に対するものでは無くなっている。
「真室は大協約で守られていない。我々が撤退した時点で、あそこは……。」
流石に言葉を濁す。
上官である以上、非情を演じきらなければいけないのに言葉が続かない。
「漆原少尉、大協約で守られていない以上、真室の男は殺され、女は犯され、食料や価値のある物は根こそぎ奪われる。穀倉一つ燃やされようと、結果に変化などない。」
俺の言葉を継いだ新城が、おそらく真室に訪れるであろう未来を述べる。
「っ!!」
非情ではあるが、正論である新城の言葉に、漆原少尉が言葉を詰まらせる。
一方、漆原少尉が興奮していたせいで逆に落ち着いたのか、西田少尉が比較的冷静に発言する。
ただ、先程から、新城と俺の両方が答えに回っているため、どちらに向けて発言をすればいいか困っているらしい。
「真室を救うことができないのはわかりました。それでは、美奈津までの衆民も全て見捨てるのですか?」
「そうはしない、補給として送られてくる馬車を使い、道中の衆民は美奈津へ押し付ける。」
上官としての義務だ、新城に押し付けるわけにもいかない。
「俺の率いる部隊がそれらのことを行っている間、衆民が帝国に捕捉されないよう、新城大尉の部隊が帝国軍を撹乱する。衆民の大部分は捕捉されないだろう。」
おそらくこの中で一番冷静だろう兵藤少尉が続いて質問を行う。
「しかし、我々が村を焼いたら、衆民の信用はズタズタになりはしませんか?」
「そのために、帝国軍の制服を用意してある。この服を着て村を荒らした後に、我々が駆けつける。そういうシナリオだ。」
一応の納得を得たのか、兵藤少尉が軽く頷く。
おそらく、この大隊で、新城の次にドラスティックな考え方をする人物なのではないだろうか。
少なくとも、普通の人間では容易く納得はできないだろう。
「しかし、美奈津が襲われたらどうするんですか?」
「襲われない。美奈津は大協約によって守られているからな。」
原作で新城がイラついて、講義という表現を持ち出してきた質問だ。
正直、士官ならばこの程度のことは知っているべきだと思う。
特に軍人ともなれば使うことも多いだろ、と言いたいのだが、特志幼年士官学校では大協約に関する授業は一切行われなかった。
「一つ。」
そう前置きしてから、西田少尉が話しだす。
「焦土作戦については、大隊長殿は既に把握なさっていたようですが、既に決まっていたことなのですか?」
「焦土作戦に限っては、そうだ。もっとも、これ以上の作戦が提案された場合は、そちらをとる可能性もあったが。」
質問は?と言葉を続け、発言が出ないことを確認してから次の話に移る。
「それでは、これより先の戦略については先の案を採用する。」
異論はでない。
もっとも漆原少尉は消沈しているからというのが大きいだろうが。
嫌な感じの沈黙が広がっており、誰も発言しない。
正直、向かないと思う。
人に、前世では考えられないほどの人間を一手に動かしている、それ自体には得難い快感を覚える。
だけれども、こういう命令を下すとなると、部下とまともに目も合わせられなくなる。
少し重い。
これが少しで済んでいるのは、自分が死んでも新城がいるという甘えと、たとえ大隊の人間がほぼ全滅したとしても、原作通りなんだから仕方がないという逃げ場があるからだ。
最初こそ、普通にやっていけるかと思ったが、大隊の半分が一夜にして死んだのは堪えたらしい。
こう言う精神状態になると、積極策を出せなくなるというから、俺が怪我をしていてちょうど良かったのかも知れない。
負傷してもしなくても、野戦は新城に任せるつもりだったけど。
「それと、簡易的な再編成の表だ。目を通しておいてくれ。」
現存兵力435名(援軍は未到着。)
予想される援軍は、約300名(銃兵250名、砲兵50名)
焦土作戦を行うグループ(1個中隊約150名、内導術2名)
指揮官 :益満保馬少佐
鋭兵中隊 :兵藤少尉(130名弱)→銃兵小隊×3(各約30名)、短銃工兵(約30名)、療兵分隊(約10名)
給食分隊 :(5名)
輜重小隊 :(鋭兵による交代制、馬曳化。)
備考
撤退途中で部隊に組み込んだ兵を基幹に、第3中隊の工兵を加え構築。そのため、構成人員の7割以上を敗残兵が占める。
撤退中にある砲の回収も任務に含める。
妹尾少尉は、帰還後こちらへ合流(予定)
陣地構築も並行して行う。
野戦を行うグループ(2個中隊約600名、内導術2名)
指揮官 :新城直衛大尉
剣虎兵中隊 :西田少尉(約170名、剣牙虎16頭)→捜索剣虎兵小隊(35名、剣牙虎4頭)剣虎兵小隊×3(約35名)療兵分隊(約10名)
鋭兵中隊 :松岡少尉(約150名)→鋭兵小隊×4(各約30名弱)療兵分隊(約10名)
鋭兵中隊 :漆原少尉(現在未到着。想定人数、約150名)→鋭兵小隊×4(各約30名弱)療兵分隊(約10名)
砲兵中隊 :増援の士官が指揮(約100名、平射砲6門、騎兵砲6門。想定される増援を含む。)
給食分隊 :(20名)
輜重小隊×3 :(鋭兵による交代制で運用。)
備考
砲兵中隊の不足人員は、益満保馬少佐指揮下に入らなかった敗残兵より流用予定。
総勢:約735名(想定人数)
なお、各数値の端数は省略
「……。」
微妙な沈黙が広がる。
なにせ俺の部隊は、俺を含めて士官が2名、部隊の人員は6割以上を捜索剣虎兵第11大隊以外の人間、残りを援軍により補充している。
装備も全員にライフル銃を装備している新城の部隊と違い、一部兵にしか渡されていない。
部隊が壊滅した兵が多くを占めるため士気も低く、大隊の負傷兵の多くがこちらに配備されている。
これらの要素を踏まえて考えると、1個中隊と銘打っておきながら戦えるのは、100名足らずに過ぎない。
反面、新城の部隊は充実している。
1個大隊くらいなら小細工なしで、正面から殴り合える兵力だ。
大隊の剣牙虎、砲、装備、全てが優先して配られている。
これらの部隊の違いは素人にさえ歴然だろう。
漆原少尉がこちらに含まれていない理由は、今更言うまでもないだろう。
わざわざトラウマを植え付ける必要もない。
それに、友人とは言え、いちいち突っかかってくる部下は好ましくない。
「……大隊長殿、これを本当に実行されるおつもりですか?」
新城が微妙な空気を伴ったまま発言する。
「ああ、こっちの部隊は戦う気はない。ほぼ全員が焦土作戦と、防御陣地の作成以外の仕事はしない。逆に言えばそれだけのためにこれほどの人員を、確保したんだ。」
この決定は新城にも知らせていなかったため、この驚きは俺以外の全員が共有しているものだろう。
「俺は負傷しているため、前線指揮ができない。だから先に後方に下がり、後の戦いのための準備を行う。」
指揮官が逃げるのかという批判が出るかも、と考えていたのだが、意外にそのような意見はでない。
「しかしそれでは、大隊長殿が指揮をしづらくありませんか?」
?西田少尉の発した質問の意味がわからず、少し思考が止まる。
……ああ、なるほど。
「新城大尉に、後退戦闘における全ての指揮権を移譲する。俺は口を出さない。」
天幕に本日2度目の沈黙が広がる。
おそらくこの沈黙は、どっちが大隊長なんだ?という心の声の表れだろう。
確かにこれは色々とおかしいかもしれん。
でも、絶対コッチのほうが効率がいいし、俺のやりたい事もスムーズに出来る。
平時ならば上官に止められるだろうが、戦時、しかも敗軍にそんな人間はいない。
ただ、反論されたら面倒かも知れない。
いちいち、説明するのもいやだし。
「異論がないならば、本会議はこれで終了する。補給が到着次第もう一度招集をかける。」
反論が出る前に、会議を打ち切る。
どうせ議題は出尽くしたのだし、何をするにしても補給待ちだ。
これ以上話すことはない。
衝撃的な焦土戦術の発表と、さらに衝撃的な大隊長の実質的指揮権移譲宣言に、基本無表情な新城以外の全員が困惑した表情を浮かべている。
「以上解散。」
松葉杖を取って立ち上がると、入ってきた時と同様すかさず新城が肩を貸してくれる。
他者を執拗というまでに観察する新城だからこそ、こういった気配りができる。
参謀だろうと、指揮官だろうと難なくこなせる能力の高さの一因は、こういった観察力の高さなんだろう。
入り口まで手伝ってもらい、それ以降の手伝いは断った。
これから自分がやらなければいけないことを考えると、少し一人で落ち着きたかったから。
待望の援軍と補給は、半日を待たずして到着した。
各種の準備を終えた新城の部隊は、準備を整えると夜中のうちに宿営地を離れた。
原作を大幅に上回る砲兵と剣牙虎、銃兵はこちらが早めに取ってしまったから、原作とあまり兵数は変わらない。
それでも、戦力としては原作を大きく上回っているはずだ。
細かい指示は一切出していないが、おそらく原作以上にうまくやってくれるだろう。
俺もあまり長居している時間はなく、早めにでなければいけない。
焦土作戦を行うのが早ければ早いほど、助かる衆民の数は増えるだろう。
そして、それ以上に急ぎたいのが築城だ。
原作よりも長い時間があるため、この時代のスタンダードとはいろいろと違うものを作れるはずだ。
人の嫌がることを強要しなければならない欝な気分と、初めて未来の知識を存分に使えるかも知れないという興奮、その二つが入り交じった微妙な気持ちで、俺の部隊は宿営地を後にした。
あとがき
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
焦土作戦なんですが、以下の理由によりカットすることにします。
・主人公が負傷中のため書いてもそれほど動きが無い。
・漆原少尉のイベントがない。
・原作をなぞるだけとなると、主人公の心理描写が中心になり、誰得な文章になる。
部隊編成は素人なりに全力でやりました。
ツッコミは歓迎します。