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No.14803の一覧
[0] ある皇国の士官の話【皇国の守護者二次創作・オリ主・】  各種誤字修正[mk2](2010/06/12 21:06)
[1] 第二話[mk2](2010/06/19 17:45)
[2] 第三話[mk2](2010/06/19 17:45)
[3] 第四話[mk2](2010/06/19 17:46)
[4] 第五話[mk2](2010/06/19 17:46)
[5] 第六話[mk2](2010/06/19 17:46)
[6] 第七話[mk2](2010/06/19 17:46)
[7] 第八話[mk2](2010/06/19 17:50)
[8] 第九話[mk2](2010/06/19 17:47)
[9] 第十話[mk2](2010/06/19 17:48)
[10] 第十一話[mk2](2010/03/10 01:31)
[11] 第十二話[mk2](2010/03/26 05:57)
[12] 第十三話[mk2](2010/06/19 17:50)
[13] 第十四話[mk2](2010/06/19 17:50)
[14] 第十五話[mk2](2010/04/24 13:20)
[15] 第十六話[mk2](2010/05/12 21:52)
[16] 第十七話[mk2](2010/06/12 20:32)
[17] 設定(色々減らしたり、整理したり)[mk2](2010/06/12 01:32)
[18] アンケート結果です。[mk2](2010/01/25 22:55)
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[14803] 第五話
Name: mk2◆1475499c ID:9a5e71af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/19 17:46
第三中隊がつかれた様子で帰ってきたのは、九日の日も暮れ始めた頃であった。
原作より少しばかり早いが、まあ、誤差の範疇だろう。
些細なことにカリカリしてたら精神をすり減らしちまう。
別に原作をなぞることが目的じゃ無いんだし、皇国が最終的に勝てば良いだけの話なので気にすることじゃない。


威力偵察から帰還した第3中隊の中隊長と中隊参謀は、休むまもなく開念寺の講堂によばれ、威力偵察の成果を報告させられている。
たしか、この報告は新城と伊藤少佐のマンツーマンだった気がするのだが、原作通りとは行かないらしい。
講堂にはすぐに作戦会議へと移れるよう、各中隊長、各中隊参謀、及び大隊参謀、戦務幕僚と、大隊の中心が勢ぞろいしており、大隊長と新城の会話を胡散臭そうに聴いている。
中隊長が戦死したと言う報告が出たときなどは、何人かが盛大に悪態をついたり、新城の士官からの好感度の低さがよく見て取れた。


それにしても、天龍に出会ったはたしかに無いわ。
俺も部下にそれ言われたら、流石にそれはないだろって言いたくなる。
伊藤少佐も、呆れを通り越して、お前なにいってんの?みたいな顔になってるし。
原作通り、(人前でどうなの?等と言ってはいけない)伊藤少佐が盛大に悪口をいったあとで、気のきく参謀が全員に黒茶を持ってこさせ、会議がはじまった。


どうでもいいことだけど、黒茶って日本じゃ馴染みないよね。
飲む機会ってあんまりない気がするし。
紅茶とか緑茶は前世で結構飲んだことがあるけど、黒茶は知らない。
ひょっとしたら飲んだりしたのかもしれないけど。
口をつけると、緑茶とは異なる、渋味のないさっぱりとした味わいが広がる。
うん、美味しい。
数ヶ月以上発酵させており、子供の頃飲んだ黒茶が何年も発酵させたものだって聞いたときは、気分が悪くなったりしたものだけど、ごめんね黒茶。
でもやっぱり緑茶がいいよ。
ごめんね黒茶。


あれ、なんの話だっけ。

「我々は明日から少なくとも連隊規模の敵と戦わねばならん。」

ああ、ここか。
敵の先鋒が中隊だから連隊だと思ったんだろうね、伊藤少佐は。
残念。
2個旅団でした。
俺たち900向こうは8000切りっっっ!!
……古いか。

「橋を守るため、まる二日間、我々はここを守り通さねばならん。故に誰も故郷に還れん。」

まあ、実際はこの中でひとりだけ、全体で20人くらい帰れるんだけど、ほぼ全滅だね。
軍事用語の全滅じゃなくて、一般認識的な全滅に近いね。
そんな、指揮官の俺たち死ぬよ宣言に、周りの士官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「状況は以上だ。戦務幕僚。」

伊藤少佐の呼び掛けに、まだ若そうな男性が立ち上がる。
原作通りの地点で、夜襲、伏撃を行うことが決定され、会議終了後、即座に襲撃地点へと移動することが通達され、各中隊の配置がはっぴょ、なん……だと……!?
なぜ、第2中隊が原作通りの位置なんだ?
新城が一番頼りになるからあそこにしたんじゃないのか?
まさか、新城を信用していないのか?
それとも俺に死ねと言うのか?
ひょっとして砲なのか?
騎兵砲持ってないからあそこにしただけなのか?
実は結構どうでも良かったりするのか?


どうでもいいんですね、分かりました。









冬の北領は冷える、それが夜ならばなおさらだ。

風がないのが唯一の救いだろう。
前になにかのテレビで見た覚えがあるが、たしか風速1mにつき、体感温度が1℃下がるんだっけか。
風があると、匂いが相手に伝わる可能性があるし、弾もかなり流される。


百害あって一利なしだな。
そう、声には出さず頭の中でつぶやく。


ただ見ていただけの天狼開戦とは異なり、この伏撃は俺にとっては初の実戦になる。
だっていうのに、恐ろしく緊張感がない。
いや、無いのはどちらかというと現実味か。
今から俺は、死亡率50%以上の死の坩堝に命を投げ込もうとしてるってのに。


今の俺の人格の主体は、皇国で過ごしてきた益満保馬のそれに近い。
保馬としての感覚、感情で動き、昔にあった生前の習慣はどんどんと薄れていて記憶の物になっている。
しかしときどき、生前の記録に過ぎなくなったと思っていた人格××××が表に出てきて、まるで今見ている風景を物語の1シーンを見ているみたいにさせる。
こうやってじっとしていて、何かをぼんやりと考えている時など、そうなることが多い。
ただ、皇国の小説を読んでいるだけであるかのように。


これが、ただの記憶の混濁で時がたてば消えるものなのか、一種の現実逃避なのか、それとも精神病かなにかなのか。
ただ少なくとも、今の俺には5感で感じられるすべてが、現実味の薄いものであった。

「大尉殿、大丈夫ですか?」

惚けたように虚空を眺めていた俺の動作が気にかかったのか、高橋曹長が心配げに肩をゆすりながらこちらを覗き込んできた。
すっと、風景に現実味が戻る。
そして、俺のこういった感覚はたいてい他人に話しかけられるか、触られることで終わる。
今みたいにだ。

「あ、ああ、大丈夫だ曹長。暇だったので少し考え事をしていただけだ。」

高橋曹長はまだ何か尋ねたそうな表情をしていたが、詳しくは突っ込めない。
休暇中ならばそれも可能だが、ここは戦地、上官が大丈夫と言うことを否定するような行動は取れない。


俺の足元にいた剣牙虎が身動ぎをした。
剣牙虎が反応を示すということは、敵が10~15里先にいるということ。
接敵は半刻後。
懐にあった懐中時計を取り出し時間を確かめる。
午前3刻半。
原作より少し遅いのか?


会議が終わった後、出撃準備が即座に整えられるわけではない。
伊藤少佐が二度と帰れないと言っていたように、開念寺は集合場所としては使われるが、以後作戦司令部として使われることはないからだ。
つまり、書類の焼却から、兵站の移動、寝ている兵隊だっている。
それらすべてをとりあえずこなさなければいけないのだ。


まあ、それでも余裕のある出撃ではあった。
ここに来てから既に2刻ほど経っている。
余りに寒いと筋肉がこわばり、戦闘の際に全力を発揮できない。
それを防ぐため、しきりに体を動かすことが理想なのだが、こちらは伏撃の身、なかなかそうも行かない。

「曹長、全員に敵が来る前に少し筋肉を解しておくように伝えろ。新兵には特にだ。」

俺の指示を受けた曹長が、各小隊長の元へと通達しに行く。

「大尉殿は結構気が回るのですね。」

近くにいる漆原少尉が、少し奇妙な顔をして言う。
当然周りの兵には聞こえないよう、配慮した声だ。

「そんなにおかしいか?」

「ええ、新米の士官なんてそんな細かいところに気は回りません。」

そう言われればそうかも知れない。
普通なら、ここまで気は回らないだろうし。

「それに大尉殿は、妙に落ち着いているように見えます。」

漆原少尉も、初の実戦だからこそ疑問なのだろう。
よくよく見れば、漆原少尉の手は震えており、歯が鳴らないよう懸命にこらえているのがわかる。

「さあ?なんでだろうね。」

昔からあまり、肝っ玉は大きくなかった気がするのだが、なんといえばいいのだろう、自分が死んでも、故郷の人間が危険にさらされることはないと言う安心感だろうか?
今からの戦いは恐いし、自分が死ぬ可能性も高いと知っている。
それでも、後ろの心配が無いとこうまで冷静になれるのか。


漆原少尉を眺める。
数日後にはこの顔が、動かず、ただの死体として転がっているのかもしれない。
でも、故郷の人間たちが、殺され犯され、隷属させられる。
そんな未来が訪れることが無いことも、俺は知っている。
なら、この目の前の人達を躯にしないために、頑張るしかない。


そんな思いがあるから、冷静になれるのかもしれない。




雪を踏みしめる行軍音が、遠くの方から聞こえてくる。
時々馬の嘶きらしき声も聞こえる。
来たか。


手にあるライフルを握り締める。
真室付近に捨ててあったものだ。
途中で馬が潰れたのか、荷馬車ごと捨ててあったものをまるごと頂いてきた。
十分な量があったため、砲兵を除く全ての兵に今は配られている。

「装填、中隊膝射姿勢。復唱の要なし。」

高橋曹長が、それを即時に伝える。

「中隊はそのまま待機。大隊長の合図と共に攻撃を行う。」

漆原少尉が多いとつぶやくのが聞こえる。
確かにそうだ、事前の予想では敵は1個連隊から、という予想だったのだ。
しかし、ここから見える限りでは1個旅団。
恐怖も抱くか。


敵の先鋒がジリジリと近づいてくる。
あれだけでも大隊規模なんだよな。
先鋒だけで、こっちの全兵力か。


逸る心はない。
もう少し待てば合図が上がる、近くの将兵の荒い息が聞こえる。
敵大隊がこちらに完全に横っ腹を見せたとき、大隊の赤色燭燐弾が放たれるのが見えた。

「撃てええええ!!!」

叫ぶように声をだす。
俺の号令に応え、中隊各員による銃声と砲の音が鳴り響く。
砲はもともと持っていた騎兵砲に加え、真室から持ってきた平射砲が数門追加されている。
剣虎兵から人員を割く余裕はないので、当然人員はどこの指揮下にも入っていなかった兵を使っている。
つまり、指揮官が死んだ部隊の敗残兵と言うことだ。
これに関しては原作では行っていなかったが、開念寺についたとき、真っ先に具申して受け入れられた。
士気はあまり期待できないが、それでも、もともとそこで砲を使っていた兵なのでそれなりの命中率は期待できる。


一気に200人以上の敵が倒れた。
砲の弾は霰弾を使用しているのでやはり効果は大きい。

「装填急げ!!」

声を張り上げる。
俺自身が攻撃に参加するよりも、指揮に徹した方が効果は大きい。
一発目を撃った時点で弾だけは込めて、射撃は行わない。


白色燭燐弾があがり、一瞬こちらの空気が凍るが気にしない。
どちらにせよ退くことなどできないのだ。
ならば地獄に向かって突っ走るしかない。


2度目の斉射の音が響き渡る中、原作にもいた敵騎兵の集団を探す。
敵兵に被害を与えるのも重要だが、それ以上に重要なのは敵指揮官を潰すことだ。
帝国の将校や高級士官は全員が馬に乗っているため非常にわかりやすい。


それが密集しているところ、いた、7騎ほどの騎兵が懸命に混乱を収拾しようとしている。
敵中央部の少し後方、ここからだと右30度の方角か。


「漆原少尉、右30度、あの騎兵が密集している地点を第1小隊に攻撃させろ。」

斉射は3回まで、突撃する前最後の射撃のみ、方向を指示する。

「はい!第1小隊、右30度の方角、狙え、撃てえ!!」

将校の集団のうち5騎ほどが落馬する。
その中に指揮官がいたのだろう、残りの2名は自分たちが狙われているとわかると転進、指揮を続けようともせずに一目散に逃げ始める。
それを見た周囲の兵も怖気付き、彼らへと続く。
この時点で既に、敵先鋒はその形をなくしていた。

「よし、総員突撃体制。」

復唱する声が聞こえ、それに重なるようにして着剣する音が響きわたる。

「目標敵先鋒中央部!!距離300総員突撃に移れ!!!突撃いいい!!!」

号令をかけると同時に、真っ先に飛び出す。

「遅れるな!!中隊長殿に続け!!!」

そう叫ぶ声が背中の方から聞こえる。
大隊主力は今だ突撃を敢行していないが、ここを逃した場合敵が持ち直す可能性がある。
指揮官のいない今こそが絶好の攻撃チャンスだ。


周囲から、声とも言えないような叫び声があがり、それに重なるように剣牙虎の叫び声が鳴り響く。
今でこそ慣れているからそうでもないが、最初に聞いたときは全身の血が凍ると思ったほどだ。
敵の先頭、今から突っ込もうとしていた地点にいる士官が、恐怖に顔を引きつらせるのが見えた。
敵は今まさにその感情を味わっているのだろう。


先頭をかける俺の横を、俺のパートナーである剣牙虎、暁が飛び越えて行く。
敵の集団中央部に着地した時点で、既に2人、姿勢を翻しながら放った爪でさらに1人をなぎ払う。
士官を狙うようにしつけられている剣牙虎は、それこそまっさきにさっきの士官を仕留めていた。


強い、情報で聞いていた以上だ。
瞬く間に3人を仕留めるなんて。
やはり、目で見るのと、ただ聴くだけではぜんぜん実感が違う。


その恐怖で統制の取れなくなった一団に、つっこむ。
既に逃げ腰になっていた兵の腹に銃剣を突き刺し、相手を蹴った反動で引き抜く。
できたら、止めを刺しておきたいが、それほどの余裕はない。

その横にいた少年兵らしき兵が繰り出した、銃剣での突きを、横に転がって避け、突撃前に装填していた銃弾を放つ。
何か、見えないものでぶたれたように数歩後退し、膝をついた少年をそのまま放置し、次へとすすむ。


殆どの敵の顔は見えない。
背中を向けているからだ。
そこら中に死体が転がり、走りづらく、なかなか敵の背中に追いつかない。
そんな俺を笑うかのように、暁が、何十mと言う距離を一瞬で詰め、新たに2人を血祭りに上げる。
一人勇敢にも立ち向かおうとした兵がいたが、その速度に着いて行くことができずに爪によって引き裂かれながら吹っ飛ばされていた。
こちらもようやく追いつき一人を背中から刺し貫く。
刺さったままの銃を放置し、鋭剣を抜きその兵の喉元を切り裂き止めをさして、周りに敵兵がいないことを確かめ一息つく。


周囲を見渡すと、中隊の突撃は完全に敵中央部を捉えており既に抵抗している兵はいない。
突撃を敢行してから数分のことだ。
敵が突撃により大きな被害を蒙ったとは考えづらいから、おそらくすでに大半が逃げ出していたのだろう。
もっとも、逃げ切りを許すほど、剣牙虎の速度は遅くはないが。

「敵の掃討が終りました。ほとんどが突撃の前には逃げ出していて、あまりやることがありませんでしたがね。」

「損害は?」

現在の戦況を考えれば最も重要なことだ。
敵が死ぬよりも、味方が死なないことの方がありがたい

「死亡が2名、負傷が3名ですね。」

なるほど。
原作よりも損害が少ないのは砲の力か。
新城も火力戦志向になるわけだ。
これほどまでに味方の損害を抑えることができ、敵の損害を増やすことができるのだから。
ふと、ナポレオンも砲兵出身で、砲の使い方を良く知っていたと言う話を思い出す。
野戦主義者で運動戦の徒であるという点も一致する。
新城とナポレオン、この二人の戦術と言うのは意外に似ているのかもしれない。
ナポレオンに籠城戦をやらせたらどうなるんだろうな、などと考えると少し笑顔が漏れ出る。

「どうしますか?まだ半刻以上優にありますが撤退しますか?」

「まさか、ここで撤退などしたら友軍を見捨てる形になる。それは論外だ。」

個人的にはそれもいいのだが新城に死なれるわけには行かない。
第3中隊がどうなっているのか情報が欲しい、しかし導術は全員が開念寺におり、それを知る術はない。
どちらに行くか……。

「神崎中尉、君は第1小隊と第2小隊を連れ第3中隊の援護に行け、合流するまで可能な限り接触は避け、合流した後は新城中尉の指揮下に入れ。

原作では、援護を受けられなかった第3中隊は壊滅している。
そして、新城の命に万が一があってはいけないのだ。

「曹長、俺たちは大隊の援護だ。西田少尉の第3小隊が続け。」

そして新城の命の価値は俺に勝る。
それがこの選択の理由だ。

「剣虎兵以外の兵は退路を確保、砲兵は開念寺まで速やかに後退し、以降の命令を待て。」

「大尉殿、砲兵の援護があった方が退路の確保は容易になります。」

「しかし、あんなデカブツを持って迅速な撤退などできん。そして我々はこの戦いの後も戦い続けなければいけないのだ。」

西田少尉の発言を一言の元にねじ伏せる。
原作でも撤退できたのだ、ならもう少し先を見たい。
うまく行けばもっと帝国に嫌がらせができるはずだ。
もし俺が死んだとしても、新城が有効活用してくれるだろう。

白色燭燐弾の光が消え、光帯の灯りだけが差し込む林の中を駆け抜ける。

「中隊長殿、左十刻方向!!」

ちぃ、このイベントは健在か!
時間もずれたし起こらないと思っていたのだが。

「総員突撃!!」

背中を向け悠長に装填をしている中隊を、後方から奇襲する。
普通ならば、一瞬で敵を蹂躙できるシチュエーションだ。
こっちは1個小隊規模、いけるか?
しかしやらなければ、大隊本部が総崩れする。
それを一瞬で判断し、部隊に号令をかける。


10頭を超える剣牙虎により、敵のめぼしい位置にいる士官は一瞬でその生命を絶たれる。
既に戦闘をしている剣牙虎のあとを追いかけるように接敵し、着剣もしていない敵の頭をストックで殴りつけ、そのまま手近な場所にいた二人目を銃剣で突き刺す。

人数比ではあちらが圧倒的に優勢なのだ、こちらの優位は背後をとったという状況のみ、ならばその優位を保つため敵の精神を圧迫し続けなければならない。


敵が横列を取っていてよかった。
中央を分断され指揮官も失った敵は、数名が抵抗するも程なく全員が逃げ出した。

「っ曹長!状況は!」

走りっぱなしで整わない息のまま高橋曹長に呼びかける。

「損害2名、猫も1匹やられました。」

くそっ、人数が足りないとこんなものか。
小隊で中隊を破った、普段ならば感嘆の声で迎えられるのだろうが、この戦況では虚しいな。


大隊本部はその先、数分ほど走った地点で交戦しており、その後方で、わずか2人の護衛しかつけずに伊藤少佐はいた。
なるほど、生き生きしている。
作戦会議をしていた時と比べれば格段に違う。


優秀な士官なのだろう
助かったらいいな。
そんなかなわないことを祈る。

「やけに人数が少ないな、どうした!?」

「第3中隊が危険にさらされていたため、止む無く増援として第1,2小隊を送りました。残りは退路確保のためです。」

「そうか、御苦労。ついでだこっちも手伝え。」

やはりこの展開か。

「大隊長殿、撤退という選択肢はないのでしょうか?」

「この程度では、まだぬるい。橋を守るにはもう一撃必要だ。」

やはりそうなのか。
原作でも、読んでいてこのあたりが潮時だと思ったのだが撤退できない事情があったのか

「この前方にある方陣を攻撃する。まだ完成はしていないが硬くてな。」

「わかりました、お手伝い致します。」

原作では方陣を正面から攻撃していたが、それだけの兵力を今の第2中隊は持っていない。
故に大隊長と共に戦線に参加するという形になる。


人の怒号や雄叫び、悲鳴に命令、虎の号砲に断末魔の叫び声、それらすべてが入り交じった混沌へと身を投じる。
敵の規模は大隊より少ないくらいか?
圧倒的な攻撃力を誇る剣虎兵と剣牙虎を前にかなり粘る。


俺自身も暁の声を隣に聞きながら、鋭剣を振るう。
小銃はこの戦闘に参加して、まもなく銃剣部が壊れたので捨てた。
新城ほどのガタイがあればいいのだろうが、あまり力のない俺ではあれを鈍器として使うのは辛い。


敵が突き出してきた銃剣を、こちらに届く前に鋭剣で逸らし、大きな隙のできた敵を鋭剣で切りつける。
普通に切っても、寒さ対策のために厚く着込んだ防寒服にはなかなか刃が通らない。
自然と攻撃は突きか、手首や、首など、服が厚くなく大動脈の存在する部位への攻撃となる。


生前、剣を握ったことなどなかったが、こちらに来てからは銃を握るよりも早くから、鋭剣を握っていたため銃剣よりは使い慣れている。
将家の家などでは、当然必修科目の中に剣の授業も入るからだ。
益満家のような軍人一族だと、むしろ勉学よりもこちらに時間を割く。
騎乗が苦手だった俺は、そこそこ乗れるようになった後は、鋭剣の練習ばかりしていたものだ。

「ああああああああああああああああああああ!!」

叫び声を上げて突進してきたのは野生のゴリラを彷彿させるような体格だ。
……力比べになったら瞬殺だな。
小銃を振りかざす敵の攻撃を、なんとか避けながら鋭剣を胸へと突き立てる。
それにも関わらず、頑強な敵は死なない。
本来、大陸にいる人間のほうが、力も強く、その身長も大きい。
なにより、鍛えられた筋肉を持つ相手には、力の入っていない攻撃では浅くしか入らない。


自分自身もまるで獣かと思うような声を上げ、全力で剣をひねる。
本来、殺すのならばコチラのほうが確実だ。
しかし、過剰な負荷がかかった鋭剣は、案外あっさりと折れる。
あんまりやらない理由っていうのはこれなのだが。


折れた。
ここ一番っていうときに折れやがった。
現在の状況を確認、小銃?捨てた。鋭剣?折れた。
目の前にはゴリラのような体型の男。
入りが浅かったためまだ生きており、アドレナリンが大量放出されてんのか
痛そうな表情をしながらも、殺意のこもった表情でこちらを殺そうとしてくる。
ファイナルアンサー、拳銃。


懐にあった拳銃を抜き、発射。
頭の中心部に黒い穴が空き、敵が倒れこむ。
やはり銃は楽だ、リボルバーがあればなおさらいいのだが。
これは実をいうと他人のものである。
真室でいろいろなものを拾いに行く時に、落ちていたものをくすねた物だ。
簡単に外せるように、服の内側に紐で結びつけてあり、非常時の時はいつでも使えるようにしてある。
そして使い終わったら、そこら辺に投げ捨てればいい。
これがあと、3つほど懐に引っかかっている。


今殺したのがこの周辺の部隊の士官だったのか、敵が目に見えて怯んだ。
なるほど、よっぽどの大人物だったんだな。
一人死ぬだけで周囲の士気が危うくなるような。

「総員、敵が怯んだぞ!!気張れえ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

俺の声に周りの味方が答え、その声で敵がさらに怯む。

こうなると付け込みやすい。
剣牙虎の声を間近で聴かせてやれば、戦意の崩れかけた敵兵が持つはずもない。
戦国策だな。
虎の威を借る狐。
そんな古語が頭に浮かぶ。

「大尉殿はお強いんですね。」

そう、西田少尉が、少し引いたような顔でこっちを見る。
確かに結構この戦いでも殺したな。
案外、人を殺すのに抵抗感が少なくて驚いた。
この後に猛烈な後悔にさいなまれるのかもしれないが、いまそれがないのは大きな救いだ。

「そうでもない。武家ってのはみんなこんなものさ。」

軽口もほどほどに、近くにあった誰が使っていたとも知れない鋭剣を拾い上げる。

「さっきの鋭剣、父から聞いた話では高かったらしいんだけどな。やっぱ戦争は質より量だな」

自分でも何を言ってるのかよく分からないことを、ひとりごちる。
当然つぶやく間も剣をふる手は止めずにだ。


しばらくの間、逃げ続ける敵を追撃し続け、あたりに人もまばらになったところで一息つく。

「ありゃ、周りに誰もいないな。少尉と暁と隕鉄だけか。」

懐中時計を取り出し、時間を確かめる。
襲撃開始から、もうじき1刻が経とうとしていた。
潮時か。

「本隊と合流しましょう。撤退もそろそろ悪くない時間です。」

西田少尉も同意のようだ。
大隊と合流しよう、残っていたらの話だが。

頃合もよく、高橋曹長がこちらへとかけてくる。
周りに剣牙虎が3頭、兵も6人ほどいる。

「大尉殿!!全滅です!!大隊本部は全滅、第1中隊の大尉殿も戦死しました。あなたがこの大隊の指揮官です。」

「そう、か。」

前から予想していたこと、俺が生きている限り、俺は新城よりも上の立場になってしまう。
新城の道を妨げるわけには行かない、もし内地に戻ることができたのならば、新城が正当な評価をくだされるように手を打たねば。
それよりも今はこの戦場だ。

「そうちょ…」

命令を出そうとした直前、足を大きく引っ張られた。
体のバランスが大きく崩れ、姿勢を維持できずに倒れ込む
古い言い回しであるが、一瞬遅れてくる、熱した鉄の棒を突っ込まれる感触というものを実感させるような痛み。
痛みから数瞬後に気づいた。
撃たれたのだと。

「っあああああああ!!」

太ももを見ると、かなり厚いはずの防寒着にもかかわらず僅かに血がにじんでいる。

「大尉殿!!」

一拍遅れて状況把握が行われたのか、曹長と少尉、周りの兵が駆け寄ってくる。
当たったのが俺だけってことは流れ弾か。

「大丈夫ですか!?」

「っいい!」

その場で手当てを初めようとしていた曹長を一喝して止める。

「この場で無為に時間を潰せば、それだけ多くの兵が死ぬ。曹長、青色燭燐弾を上げさせに行け。少尉は生存者の救出だ。」

「しかし、このままでは大尉殿が、」

そう言いかける言葉を無理やり遮る

「それよりも内地を考えろ!ここで俺に関わずらっている暇があるなら少しでも兵を救え!!」

納得はしていなくとも、少しは従うそぶりを見せた周囲の兵を見て、声を落ち着かせる。

「応急手当なら一人でも出来る、暁を残すから護衛はいい。何かがある場合新城中尉に従え。」

それでもためらいが残る2人にもう一度行けと叫ぶ。
それで吹っ切れたのか、2人は半々に兵を割け、それぞれの向かうところへ別れていった。




兵の姿が見えなくなった事を確認してからつぶやく。

「あーあ。キャラじゃないってのに。なあ、暁。」

暁を杖がわりにして立ち上がり、万が一にも兵の来ない林の中へ移動する。
防寒具を剥がし傷口を確かめると、そこにはなかなか、目の背けたくなるような光景が広がっていた。

「弾は、貫通しているのが唯一の幸いか。」

さっきの兵の一人に療兵が含まれており、彼がおいて行った包帯を手に取る。
応急処置の基本は、直間併用だ。
直接圧迫による止血と、血管上部にある動脈を圧迫して行う間接止血。


その直接止血にあたる包帯を、可能な限りきつく巻いていく。

「うぐ、ぐあああああああああああああああああ!!」

抑えようとしているのだが、あまりの痛みに声が漏れる。
こんな戦場のはずれまで来る人間がいないことを祈ろう。


包帯を巻き終え、その上部に止血帯をつくる。
これで、出血はかなり抑制出来るはずだ。

「ああ、痛み止めが欲しい。」

ステロイドがあれば最高だ。
いっそ麻薬のようなものでもいいのだが、頭が吹っ飛ぶから却下。
とりあえず生きて帰るためには、まともな思考力を維持しなきゃならない。


懐中時計が、さっき被弾してから20分ほどたったことを教えてくれる。
負傷者の収容は終わったな。
うまく行けば、原作よりも多くの兵、多くの猫が生き残ることだろう。
といってもまあ、重要なのは兵の数より猫と士官だ。
原作より兵が多く生き残ったといっても、たいした数ではないのだから。

「よし、頼んだぞ暁。」

そう言って暁の上に乗せてもらう。
行き先を指定しなくても、自然と仲間の匂いを追って暁は開念寺まで俺を連れていってくれるはずだ。
原作では、砲兵旅団の撤収には成功していたし、帝国も真室大橋の奪取は諦めたのだろう。
そして、13日まで兵が減らずに残っていたということは、戦闘を行わず、かつ真室大橋を守りきったということだ。
急がなくても、合流はできる。


こちらを心配し、幾度も気遣う素振りを見せる暁の頭を軽く撫でてやり、俺はこの戦場を後にした。













あとがき
長いですね。区切りのいいところ探してたらここまで来てしまいました。
今回の文章は小説風です(きっと)。一人称視点を主に使い、原作である皇国の守護者とは違う感じの文章です。
皆さん的には、戦記物の方がいいですか?
ちょっと悩みます。

あと、ちょっと時間が足りなくて、感想返しが後になりそうです。
すいません。


ちょっと一言。
小野不由美さんの屍鬼がアニメ化だそうです。


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