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No.14803の一覧
[0] ある皇国の士官の話【皇国の守護者二次創作・オリ主・】  各種誤字修正[mk2](2010/06/12 21:06)
[1] 第二話[mk2](2010/06/19 17:45)
[2] 第三話[mk2](2010/06/19 17:45)
[3] 第四話[mk2](2010/06/19 17:46)
[4] 第五話[mk2](2010/06/19 17:46)
[5] 第六話[mk2](2010/06/19 17:46)
[6] 第七話[mk2](2010/06/19 17:46)
[7] 第八話[mk2](2010/06/19 17:50)
[8] 第九話[mk2](2010/06/19 17:47)
[9] 第十話[mk2](2010/06/19 17:48)
[10] 第十一話[mk2](2010/03/10 01:31)
[11] 第十二話[mk2](2010/03/26 05:57)
[12] 第十三話[mk2](2010/06/19 17:50)
[13] 第十四話[mk2](2010/06/19 17:50)
[14] 第十五話[mk2](2010/04/24 13:20)
[15] 第十六話[mk2](2010/05/12 21:52)
[16] 第十七話[mk2](2010/06/12 20:32)
[17] 設定(色々減らしたり、整理したり)[mk2](2010/06/12 01:32)
[18] アンケート結果です。[mk2](2010/01/25 22:55)
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[14803] 第三話
Name: mk2◆1475499c ID:9a5e71af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/19 17:45
落雷を連想させる、耳をつんざくような音が鳴り響き、中隊横列を縦に並べた大隊縦列、帝国辺境領独特の行軍隊形の中心部に霰弾が炸裂する。
流石に2個連隊の砲火を受けた先頭部は、一瞬で、文字通り全滅する。
しかし、帝国軍は止まらない。
なぜならば彼らの指揮官は、その名を世界に轟かせる東方辺境領姫、ユーリア・ド・ヴェルナ・ツァリツィナ・ロッシナその人だからだ。
彼女が指揮するからこそ彼らに怯懦は存在せず、ゆえに敗北はない。




皇国における尖兵と類似した装備を持ちながらも、不必要な荷物の一切を排除した帝国猟兵6個大隊は、北領鎮台主力3万もの火力を浴びながらも、隊列の構築を考えていないかのような速度で接近、皇国軍の30間ほど手前で一気に散開した。


全軍を以て横列を構築している皇国とは違い、隊形を作らずに散開する帝国軍には攻撃が当たりづらい。
通常ならば規定の位置へ撃ち続ければいいだけの砲兵や銃兵が、個々の部隊へと照準をつけなければいけなくなるからだ。
将校の指揮のもと撃とうにも、従来の用兵では個々の兵員ごとに散開する帝国の用兵に、指揮が追いつかない。
あまりにも士官の数が足りないからだ。


我々の世界における、日本やアメリカ、ドイツ、フランス。
これら地球に存在する国々での部隊の最小単位は、分隊である。
第二次世界大戦当時において10名前後、大戦末期から現在にいたるまでに編成された分隊には7~9名というのも存在する。
これら分隊ごとに指揮官が配属され、小隊、中隊との無線連絡による柔軟な用兵が行われるのだ。


一方の皇国は最小単位が小隊、その人数も30名を超える(現在の小隊もこんなもんである)。
これを一人の士官が指揮するのだから、当然兵を個別に指揮することなど叶わない。
ゆえにこの時代の場合、隊列を組み、指揮官の号令のもと銃を斉射するのだ。
相手も隊列を組んで進んできているのならば、前に撃てば当たるわけであり、照準なんて考える必要もない。


しかし、帝国は違う。
隊列を作らないがゆえに照準を合わせなければならない。
逆に帝国兵は各兵員が事前に受けた指示の下、正確無比に動き、そして彼らの攻撃は前に撃てば当たるのだ。





散開した中隊に続くように、先頭の大隊は次々と中隊規模で部隊を散開させていく。
彼らの射撃目標は前方の皇国軍中隊。


そんな彼らを援護するのは、通常の2分の1の距離にまで接近した平射砲。
正確無比なそれは、被害を受けながらも、確実に帝国兵の犠牲を減らし、皇国兵の犠牲を増やしていた。


彼らを援護しなければならない皇国軍砲兵は、敵の予想外の戦法に、やはり予想外の困難を迎えていた。
彼らは銃兵と同じ理由で、砲撃を行う際にもいちいち照準をつける必要性に迫られる。


その照準を行うのは人力、しかし下は雪、そして皇国軍砲兵は、様々な機器を身につけねばならずどうしても着膨れしてしまう。
結果、照準をつけるのが遅くなり、最も貴重な時間を浪費する。


いくら3万の軍勢とは言え、可能な限り横に引き伸ばされた横列では、各部正面の人員は少なくならざるをえない。
そして、わずか中隊程度しか兵力の展開されていない箇所へと、帝国猟兵の大隊規模の火力と砲による攻撃が加えられたのだ。




横列中央部を構成する中隊は開戦から半刻もせず壊滅を迎えた。




◆                 ◆                 ◆
開戦から一刻がたった。

「撤退か抗戦か、そろそろ決めなければな。」

「はっ!中隊長殿に具申してまいります。」

僕のポツリとこぼした一言に、妹尾少尉が間髪を置かずに返事をしてくる。
別にこの少尉が自分に媚を売っているのではないことは知っているし、自分に媚を売るほどの価値があるとも思えない。
つまるところ、この少尉は真面目な男なのだ。
(真面目すぎる人間というのは、生きにくそうだな。)
などと心の中でぼやく。

「いい、それはもう少しあとだ。まだ、大隊からの命令を待つ猶予がある。中隊長殿も現時点では判断がつきかねるだろう。」

既にこちらに背を向け走り出していた背中を呼び止める。
あの若菜に今言ったって無駄だ、どうみても負け戦だが、まだ戦列は崩れていない。
もっとも、もって四半刻といったところだろうが。


開戦わずか半刻で開いた穴は、即座に予備兵力で埋められたものの、堅実さの代わりに柔軟さを失った横列ではそれ以上のことはできず、再び半刻もせずにその中央部に大穴をあけることとなった。
各旅団長が中央部にできた穴を埋めるために行ったらしい隊形変更は、逆に横列の統制を失わせ、帝国猟兵に続いて投入された帝国銃兵への対応を送らせていた。


砲声が、平射砲や騎兵砲とは違う、擲射砲の音が皇国砲兵陣地ではない方向から聞こえた。
これで終わりか。
投入の機会を逸し、無駄に銃兵の両翼で遊んでいる皇国軍騎兵と違い、帝国はまだ騎兵戦力を投入していない。
そして、もし僕が指揮官ならば、
怒号や悲鳴、号令に満ちみちた戦場に高らかにラッパの音が響きわたる。

「ウーーーーーーランツァーーーーーーーーーーール!!!!!!!」

このタイミングで騎兵を投入する。
遠く離れたこの地点にまで響き渡る声、帝国を意味するツァールと、万歳を意味するウーラン。


敵国辺境領の騎兵の勇猛さは名高い。
その一糸乱れぬ統制と、彼らの指揮官に対する忠誠はこの大協約世界において並ぶものがいない。


戦列が大きく乱れる、それほどまでの精強さで知られている敵を迎え撃てるだけの防御力も、戦意も今の皇国には残っていない。
そして、今まさに自分たちの身に死神の鎌が振り下ろされようとしているのだ。
最前線の、帝国騎兵の声を間近に聞いた者たちが戦線を離脱し始める。
隊列というものは崩れればもろい、一角が抜ければ、恐怖に駆られた他の戦列も抜ける。
今の皇国軍はまさに歯の欠けた櫛だ。
使い物にならない。


それほど遠くないところにいた若菜に声をかける。
「中隊長殿、ご決断を。」

「決断!?決断だと!?大隊長殿のご命令もないのに独断で動けるか!!」

「しかしこのままでは中隊が全滅します。運が良ければ数名は助かるかもしれませんが。」

「っっっ!導術!大隊からの命令は!?」

「回線が混乱していて連絡がつきません。大隊本部もこの戦況でかなり混乱しているようです。」

「つまり中隊長殿、この場の最高責任者はあなたです。」
早く逃げなければ死ぬということを、情報は明確に示しているにも関わらず、若菜はその場に蹲り頭をかきむしり始める。
命令がなければ何もできない、というわけか。
これだからやる気のある馬鹿は嫌いなんだ、敵よりもたちが悪い。


真っ先に逃げ始めた皇国兵は既にこちらまで来ており、既に第3中隊は主力の壊乱に巻き込まれかけている。程なく帝国騎兵もこちらにたどり着くだろう。
そうなれば終わりだ。

「えっ?」

導術兵が妙な声を上げた。

「どうした導術!?大隊長殿からの連絡か!?」

若菜が満面の笑みで導術兵に詰め寄る。
ひょっとしたら現在地点の死守命令が出される可能性もあるっていうのにいい気なものだ。

「いえ、これは、第2中隊の中隊長殿からの連絡です。我ら北領鎮台主力の壊滅を受け、これより戦力の再集結地点と定められている北府へと後退せんとするが、大隊との連絡が取れず戦況も混乱している今、独力では心もとなく、ついては第3中隊との連携を希望す。なお、こちらにて大隊の撤退は確認せり。以上です。」

僅かな間思考が停止した。
大隊を経由しない中隊から中隊への連絡?
これは余りにも異例すぎる。
若菜や僕だけではない、周りの将兵が皆一様に顔に疑問を浮かべている。

「新城、これはどういう事だ?」

どういう事も何もあるか、むしろこっちが知りたい。

「……あちらの中隊長殿、益満保馬中隊長殿がどのような意図でこの連絡をよこしたのか僕には分かりません。ただ、一つだけわかることがあります。既に大隊は退避を始めており、この申し出を受ければこちらもよりスマートに撤退出来るということです。」

そう、それが唯一のたしかなこと。
こちらにとって悪い話ではない。
しかし疑問は残る、こちらの導術兵が大隊との連絡がつかず、その位置さえもわからない状況でなぜあちらの導術兵は第3中隊の位置がわかったのか、同じような理由でなぜ大隊の位置を知っているのか、そして、こちらが困っているのをまるで知っているかのように、最高のタイミングで連絡がはいるのか。

「よし、大隊が撤退し始めているのなら残る理由もない、新城、撤退の準備だ。後退をしつつ第2中隊との合流を図る。導術!あちらの位置はわかるな!?」

「はい、あちらから正確な位置情報も送られてきたので分かります。」
提示された情報では第2中隊はこちらの1里ほど後方にいるらしい。
この撤退速度に奇妙な連絡、どう考えても皇国が負けることを前提にして考えていたとしか思えない。
それも手回しの良さから言って、負けるのを当然のこととしてその上で、負けたあとのことまで考えていたのだろう。



益満保馬、か。
彼と顔を合わせた回数は1度や2度ではない。
駒城家と益満家の関係は、体面上家臣という形になっているが、実際その関係は友人関係に近く、そのような理由から年末年始や祝日、駒城家や益満家が宴会を催したとき、外戚の冠婚葬祭等、様々な行事において益満家の人間とは顔を合わせる。


だからといって人間関係を作ることが少ない新城直衛にとって、普通はただの知り合い以上の存在にはなりえない。
だがしかし、新城直衛にとって彼は、世間一般的な言葉をかりるならば数少ない友人と呼ばれる存在であった。







新城直衛が益満保馬と、まともな会話をはじめて交わしたのは初等教育の場である。
神童と呼ばれ、5歳足らずにも関わらず駒城家一族の初等教育に鳴り物入りで参加してきた彼は、義兄に息子がいない現状では、育みの身分でしか無い新城を含め、その場における最上級者の身分を持つ立場であった。
元服の儀を上げる直前の14歳の人間もいる中で、神童の名に恥じない成績を上げ、人当たりも良い彼はそれほど時間もかからずに団体の中心となった。

そのころすでに集団から無視されていた新城にとってそれらはあまり関係の無い話であり、その輪には入らなかったが蓮乃等はそれなりに会話も交わしたらしい。
もっとも、ここまでなら新城にとっては全く関係の無い話だ。
話をすることもなく、血縁関係も無い。
普通ならば12歳の彼はそのままこの場を卒業し、何の関係も作られることもなかったはずだ。
その少年が普通だったならば。



見られている、そう気づいたのは益満保馬が初等教育の場に来て一週間もたった時だった。
露骨に見ているというほど気にはならないが、ひっそり見ているというにはよく目が合う。
最初は怖いもの見たさに近い好奇心かとも思い無視していたが、それも程なくして違うとわかった。
好奇心だけの人間というのは、興味が薄れるのも早い。
特に子供など3日もたてば興味の対象が別のものに変わるものだ。


観察されている、そのような言葉が浮かんだのは自分がその言葉通りのことをしているからであろう。
しかし、その前提のもと考えると、納得のいくことも多かった。
悪意はこもっておらず、しかし接触をするでも無い。
気にはなるが、それを尋ねる程でもない、そんな日々が一月程も続いたときそれは起きた。

「その本面白い?」

「……いえ。」

無難に過ぎる第一声、しかし、新城の手元に有った本は艶本。
保馬の額に一筋の汗が流れる、一方の新城もあまりに答えようがなくまともな返事が返せない。
教室の空気が固まった。
周囲は益満保馬が新城直衛と話したという理由で、新城直衛は何をどう答えれば分からないがゆえに、尋ねた本人は緊張とあまりのやっちまった感で。
それが新城直衛と益満保馬の交わした最初の会話だった。


◆               ◆                ◆
天狼原野からの撤退は、保馬自身想定外のスムーズさで成功した。
理由としては、あまり期待はしていなかった協力要請の了承、副官と出会わなかったため予想ほど無能ではなかった若菜、この2点が大きいだろう。
最も恐れていた帝国兵の追撃も、そもそも地面が雪であることや、撤退途中に天候が荒れたこともあり、戦闘から1日ほどで第2中隊第3中隊ともに大隊との合流を果たすことができた。
当然帝国の追撃は受けなかったため西田少尉は生存している。



それ以降は数日間ただ歩いていたようなものだ。
案の定、守原英康はクーガー兄貴もびっくりの速度で撤退。
普通ならば北府で、残存兵力を結集して徹底抗戦なり遅滞防御なりを行ったりするはずなのだが、司令官が消え去ってしまってはそうもいかない。


原作通り皇国を裏切った美奈津は皇国艦隊を寄せ付けず、敗残兵の列は遠く北美奈津浜まで続く。
そして、原作通り損害皆無であった近衛衆兵第5旅団、原作とは異なり損害を出していない捜索剣虎兵第11大隊は彼らを無事に内地まで送り届けるために、一部の突出した帝国騎兵を叩きながらも2月5日には開念寺に集合したのだった。




[14803] 第四話
Name: mk2◆1475499c ID:9a5e71af
Date: 2010/03/26 05:52

「戦争なんてくだらねぇぜ!俺の歌を聴けぇ!!!」



むかし、そう発言した歌手がいた。
2009年に起きた第一次星間大戦を終結に導いたリン・ミンメイと並んで、戦争を終結させた英雄と称される人物である。
しかし、この発言はどうなのだろうか。
たしかに彼は人間の死を目の当たりにし衝撃を受け、時に兵器の力に頼らなければいけない自分を苛んだりもする普通の精神を持った人間でもある。
しかし、流石にこの発言はどうであろうか?
ちょっとばっかし行き過ぎではないだろうか?
人が死んでいるにも関わらず、この発言はけっこう人の神経を逆なでするのではないだろうか?


そんな黒歴史の話はいいだろうとか、ギャグアニメに突っ込むなとか様々な意見はあるだろうが、とりあえずこの発言をできる彼は大人物には違いない、少なくとも俺はそう思う。





2月6日現在、第11大隊は真室大橋より数里ほど北に前進した地点にある開念寺に大隊本部を置いている。
一方の近衛衆兵第5旅団は3000人以上の規模を持つため、同じ地点に部隊を集結させることができず、もう少し西寄りの村落を一時的に間借りしているらしい。

俺たちがこの地点に布陣し、未だ撤退しそこねている理由というのは、天狼原野からなんとかして脱出したらしい独立砲兵旅団を含めた、5000人以上の部隊の撤退支援である。
俺たちが救出すべき友軍は、様々な装備を消耗し軍としての形を失いながらも、真室大橋へと南下している。
これらの部隊の真室大橋の通過は、10日過ぎまでかかると見込まれており、それまでの間は橋の爆破が許可されていない。


結果として、第11大隊と近衛衆兵第5旅団は、真室大橋前方での布陣という防御体制を取っている。
近衛衆兵第5旅団は、真室大橋へ西側からアプローチしている路南街道という比較的大きな街道を、第11大隊は、この街道の東にある側道を、共に封鎖するように陣取っている。


ただ、封鎖といっても、帝国はどうやらまだ兵站が本格的には整っていないらしく、積雪による妨げも重なり追撃はあまり行われていない。
幸いという言い方もできるだろうが、どうせ9日あたりになったら本格的な追撃が始まるのを知っているので、ただの嵐の前の静けさなのかもしれない。


第3中隊は原作よりも早く到着したため、1日ほど休息をとってから威力偵察へと出立した。
剣虎兵計3個中隊の中から、第3中隊が選ばれたのは、やはり新城の存在らしい。
まあ、威力偵察って言ったら、攻めの精神と、引き際を見極める能力の二つが要求されるし、この中では一番妥当な人選だろう。
たしか第3中隊は原作では本隊から20里ほどの地点にいたが、今回はもう少し北にいっているかもしれない。


いずれにしても、天龍の坂東さんとは是非とも出会った上で戻ってきてもらいたいものである。
もしあそこで坂東さんに会ってなかったら、新城が虎城の戦いで死んじゃうしね。


それに、原作における帝国との戦争の終結には、天龍も大きく関わっている可能性があるため、ひょっとしたら坂東さんの存在はかなりのフラグなのかもしれない。
若菜は……いいや。


助けられる人間を見捨てるのは、精神的に来るものがあるが、もしあいつが生きていたら、俺たちどころか北領鎮台まで危険にさらされる。
新城に原作通り戦ってもらうには、若菜の死が前提条件なのだ。
こういう時つくづく思う、相手が、死んで行く人間が知り合いでなくてよかったと。




そんなフラグと行軍続きの第3中隊とは違い、こっちは楽なものである。
真室大橋防衛のために開念寺には大隊主力がまるまる残っている。


剣虎兵2個中隊に、捜索剣虎兵1個中隊、原作には名前が登場しないが、当然存在する銃兵1個中隊、撤退に成功したため無傷で残っている大隊軽臼砲や、第3中隊を含む各中隊の所持している騎兵砲もここにある。
機動力の求められる偵察行為を、馬のいない騎兵砲部隊によって制限されることを伊藤少佐が嫌ったためだ。


そんなわけで偵察がしっかりと行われているため、基本的にこの地点に敵は存在しておらず、少しばかり暇を持て余している感がある。
敵兵が接近しているとしても、導術の監視と、剣牙虎の嗅覚を逃れて接近するのは不可能に近く偵察もおざなりだ。
よって、大隊本部での会議を除けば、部下と雑談をしている時間がもっとも多い。


「暇だ。なんか暇っていうことに罪悪感を覚える。」

「罪悪感ですか?少なくともそれは自分たちよりも上の地位の人間が持つべきものの気がします。」

第3中隊が危険にさらされているにも関わらず、のんびりしているというのが気になった発言だったが、隣の西田少尉から皮肉めいた返答が帰ってくる。

「噂によると、司令長官が真っ先に逃げ出したとか……」

漆原少尉がいたずらめいた顔で相槌を打つ。
たしかにそれは真実なのだが、いったいどこからその話が広がったのやら。

「そんな話を聞いたら、ただでさえ低い士気がさらに下がるから広めないでくれよ?」

「士気が下がる、ですか。あまりにもいまさらですね。」

鼻で笑われる。
漆原少尉って原作では青臭い理想を言ったり、上官の命令に反発したり、結構若さの目立つキャラだったけど、うん、まさにそのものだ。
それでも、年齢の近い俺には結構親近感を持っているらしく、かなり親しげに話しかけてくる。
うん、戦場でこれやると上官不敬罪になりかねないんだけどね。

なお、この場における順位にはこうなっている。
俺(中尉)>西田(漆原より先に少尉になった)>漆原


「ひょっとしたらもう一度、生きて内地を踏めるかもしれないって思ったんですけど、天狼開戦の後の撤退が滞りなく行われただけに残念です。」

西田少尉が、本当に残念そうに零す。
まるで生き残ることを半分諦めているかのように。
西田少尉がそう語る反面、生きて皇都に帰りたがっていることを俺は知っている。

「それほど悲観した話でも無いだろ。案外運が良ければ生き残れるかもしれないぜ?」

「そうはいっても、さっきの大隊長の話だと帝国軍は4万だそうですよ?対してこっちは近衛とうちを合わせても4000にも届かないんです、さすがに無理ですよ。」

全く悪気はないのだろうに、余計なことを言うのはやはり原作通りだ。
この優等生君め、正論述べて生きて行けるほど世の中は甘くないぞ。

「まあ、剣虎兵は嫌われているからな。装備も無傷で兵員もほとんど消耗していないし、生け贄にするには絶好の部隊だったんだろ。」

西田少尉も漆原少尉に同調する。


嫌われている、か。
定数874人に対して、現在の兵員は870人、当然剣牙虎は無傷だ。
この4名も、一人が戦死、残りの3名も脱走に敵前逃亡、そういった理由で減った人員なので、幾度かの戦闘を行ったにしてはこの大隊の消耗は恐ろしく少ない。


もしこの国に正当な評価システムが存在しているならばこれは前代未聞どころか奇跡的な数値なので、軍内部における剣虎兵の地位は大きく向上するのであろうが、そこら辺はなかなか信用できないのがこの国の上層部である。
もっとも、死んだら評価も何もないのだが。

「だが、俺たちは不幸だけれども一番不幸な部隊じゃない。うちの大隊の前には遅滞防御部隊がいるんだぜ?あそこに組み込まれるよりはましさ。」

俺のネガティブでもあり、ポジティブでもある発言に二人とも苦笑する。

「もしかしたら遅滞防御部隊に組み込まれたりして、第3中隊は帰ってこないかもしれませんね。」

「そうはならないよ。あそこには新城中尉がいる。」

漆原少尉の問いに、西田少尉は即答する。

「新城中尉か、あの方には剣虎兵学校にいたときに様々な事を教えていただきました。たしかにあの方なら……」

一人で合点がいったのか、少し楽しそうに笑う。
漆原少尉と俺の年齢は2つほど違うが、剣虎兵学校では同期として机を並べた仲である。
共に剣虎兵として切磋琢磨し、そこで新城直衛から軍事に関して様々なことを教わったのはそれほど昔のことではない。


未だ皇国には前時代的価値観と体制が、根強く残っている。
それは時代的に日本の明治時代に近いのではないだろうか。
武士道なんていう考え方や、露骨な貴族制が残っている所を考えると部分的にはさらに古い価値観が残っているかもしれない。
第二次大戦前後の日本も、大和魂という名の人命軽視や一部将校の質は目にあまるものがあったが、ここまでひどくはない気がする。


そういった体制そのものを一言のもとに切り捨てる新城の言葉は、漆原少尉にかなり強い印象を与えたらしい。






「中隊長殿、馬とそりの用意ができました。いつでもいけますよ。」

しばらくの間三人で雑談を交わしていると、高橋曹長が俺を呼びに来た。

「わかった、人員は?」

「はい、気のきくやつを5人ほど。」

「真室大橋の方に、北領鎮台が捨ててった装備がかなりあるらしいんだよ。」
俺たちの会話の内容が理解できず、怪訝そうな顔をしている二人に、理由を説明してやる。
そりは一つ、馬は2頭しか確保できなかったらしいが、日にちはだいぶある。

「4万と殴り合うことを考えたら、砲もいろいろと欲しいところだが、使える人間がいないな。」

そうひとりごちる。
独立砲兵旅団を取り込み真室大橋後方に陣取れば、小苗川で新城が行ったものよりもより大規模なものが出来るかもしれない。
そんなことを考えたこともある。
しかし権限が無い。
独立砲兵旅団の指揮官は少将、俺が4階級特進しても同列だ。

「まあいい、行くぞ曹長。」

「中隊長殿も行かれるので?」

「大隊長殿から許可を得る際に、報告書の提出を義務付けられた。一度自分の目で見ておきたかったし、欲しいものもある。」

「数刻後には戻る。すまないが西田少尉、神崎中尉に中隊指揮の代行を頼む旨を伝えておいてくれ。」

原作の決戦までの短い時間では、それほど多くのものを見つけることもできなかっただろう。
決戦まではまだ数日ある。
それまで、可能な限り装備を見つけたい。
ライフル銃がいくつあるのか、北領鎮台1万2000の捨てていった装備だ。ひょっとしたら擲射砲や臼砲、平射砲等もあるのかもしれない。
擲射砲や臼砲は、夜間戦闘で素人が使えるものではないが、平射砲ならなんとかなるかもしれない。
まあ、どっちにしろ行ってからだな。




新城が戻ってきたのは原作通りの2月9日だった。
結局、第3中隊はそれほど北には行かなかったらしい。
若菜が導術の範囲外に出ることによって、大隊との連絡を取れなくなることを恐れたことが原因だとか。


大隊本部から40里ほど北の地点で帝国の偵察騎兵中隊と接触、殲滅はできず帰還。
大隊への帰還途中、森林部にて天龍を救助、なお、交戦中に若菜大尉他3名が戦死。


とのことでほぼ原作をなぞったらしい。










あとがき
すいません。今までと比べると、かなり投下が遅れました。
別にFFをやっていたわけじゃないです。
書く意欲や、執筆時間などは変わっていないのですが、状況把握が難しくって。

真室大橋を通過していないのって、独立砲兵旅団だったんですね。
あと、新城たちの偵察時の位置とか。
特に、実仁親王がどこで何やってんのかとかwwwww

そういったこと考えてたら自然と時間が過ぎてしまいました。

あと、キャラが把握出来ません。
もともと難しい新城は置いておくにしても、他の士官が空気過ぎて……。
漆原、西田、妹尾、兵藤、全員かなり早く死にましたからね。
特にお前ら下の名前なんだよとwwwwwww

一番わかりやすいのは、保胤さんと笹嶋さんです。
あの皇国で、まともな人こいつらくらいしかいないんじゃねーかと。

とりあえず次が山場です、戦闘シーンうまく書けますかね~?


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