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No.14803の一覧
[0] ある皇国の士官の話【皇国の守護者二次創作・オリ主・】  各種誤字修正[mk2](2010/06/12 21:06)
[1] 第二話[mk2](2010/06/19 17:45)
[2] 第三話[mk2](2010/06/19 17:45)
[3] 第四話[mk2](2010/06/19 17:46)
[4] 第五話[mk2](2010/06/19 17:46)
[5] 第六話[mk2](2010/06/19 17:46)
[6] 第七話[mk2](2010/06/19 17:46)
[7] 第八話[mk2](2010/06/19 17:50)
[8] 第九話[mk2](2010/06/19 17:47)
[9] 第十話[mk2](2010/06/19 17:48)
[10] 第十一話[mk2](2010/03/10 01:31)
[11] 第十二話[mk2](2010/03/26 05:57)
[12] 第十三話[mk2](2010/06/19 17:50)
[13] 第十四話[mk2](2010/06/19 17:50)
[14] 第十五話[mk2](2010/04/24 13:20)
[15] 第十六話[mk2](2010/05/12 21:52)
[16] 第十七話[mk2](2010/06/12 20:32)
[17] 設定(色々減らしたり、整理したり)[mk2](2010/06/12 01:32)
[18] アンケート結果です。[mk2](2010/01/25 22:55)
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[14803] 第十七話
Name: mk2◆b3a5dc4d ID:3ccea2c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/12 20:32
使用人の仕事は忙しい。
それを身を持って感じたのは、益満家に奉公に来た初日であった。
朝、益満家の方が起床する前に炊事をこなし、起きてくる前に自身の朝食も済ませる。
彼らが起きてきたならば、それと入れ違いになるような形でお部屋の掃除。
日中にかけての時間は洗濯などこの時間にしか出来ないことを行い、余った時間があるならば屋敷内部のお掃除、その後益満家の方々の昼食をご用意。
手早く食器を片付け、それが終わったならばあまり多くない時間休憩が取られる。
その後はその後で、午前に行えなかった掃除を行い、今度はお風呂の準備が始まり、場合によっては夕餉の用意もしなくてはならない。
床に入るころには、既に日にちも変わりかけている。


そのくせに、倍率と就職するための条件は厳しい。
普通の衆民は当然、弱小の将家や没落した将家、相当大きな商家までもが求人争いに加わってくるのだ。
おまけに雇用条件は、読み書きの習熟は当然、数学の知識も商家の見習い以上に要求される。
幸いなことに、私の両親が教育に随分と力を入れる人だったので、これらの条件は満たすことが出来たのだが、入ったら入ったで今度は使用人としての様々な教育が行われ、付いていけない人間は容赦なくふるい落とされて行く。
正直に行って、最初は職業選択を間違えたかと思ったほどだ。
少なくとも当時15であった私の身には、少しばかり大変すぎたらしい。
おかげで、この屋敷に来てからと言うもの、全く身長が伸びていない。
十分に栄養を取っているのも関わらずそうなのは、間違いなくここで働いているからだ、きっとそうに違いない。


それはさておき、それを肯定的に捉えられるようになったのは、実際に奉公するようになってから半年ほど後のことである。
その忙しさに相応しい待遇がなされていることと、手の抜きどころが解ってきたからだ。
それに作業に慣れて短い時間で終えられるようになれば、自由になる時間も相対的に増える。
気づければ、案外楽な職場であった。
もっとも、周りはそうでもなかったらしい。
私は慣れたから良かったものの、裕福に育った将家や商家のお嬢様がたは、労働環境に慣れることが出来ず数カ月も経たずして屋敷から姿を消していく。
さらに政治的な情報や、莫大な金銭に触れることが多いためか、問題を起こし消えていく使用人も少なくなかった。
恐らく私がここにいるのは、変な矜持や興味を抱かない、あるいは表に出さないという理由からなのだろう。
そうでなければ、私が並以上に優秀なのだ。
うん、後者と考えた方が、私の精神衛生上健全だ。

「……なんて、そんな勿体の無いことを考えていられるのも、平和だからですよね~。」

そんなことを口に出しながら、廊下を歩いていく。
もっとも今の皇国が平和だなんて、軍人であれば冗談でも口には出さないのだろうけれど。
特にこんなものが届くと、どうしても戦時であることを意識してしまう。
手元にあるのは一通の手紙、それ自体は珍しいことではない、問題はそれの送り主だ、
守原定康、この封筒にはそう書いており、封筒を閉じている蝋にも守原の家紋が押されている。
はてさて、一悶着起きそうな雰囲気を、この手紙からビンビンと感じるのだけれど……一歩間違えたら、お家騒動かしら

「保馬様~、お目覚めでいらっしゃいますか~。」

目的の部屋の前にたどり着き、戸を叩いた後に告げると、一瞬間があり、「どうぞ」と疲れたような声が帰ってくる。
失礼します、と断った後扉を開けると、案の定そこには、書類に囲まれた保馬様の姿があった。

「まだお済みでなかったんですか?一昨日の夜からやっておられますよね?」

そう、私の記憶が正しければ、保馬様のこんな姿を見るのはすでに3日目だ。
北領から帰って来てからの数日間は、比較的時間があるように見えたのだけれど、駒城家主催の祝賀会の夜からは随分と忙しいらしく、部屋の外に出ている姿を殆ど見ない。
そして、その周りには常に、山のように積まれた書類が並んでいる。

「……俺が北領にいた間に、書類が山積しちゃったんだよ。特に軍事関係の書類は、父上に押し付けることも出来ないし。」

「でもそんなにたくさん、一体何の資料を纏めておられるのですか?」

「色々だよ。軍隊関係なら、新しく与えられる部隊の装備の手配、配属される人員の承諾書、演習場の使用申請。商売関係なら、今度行う軍艦の試験に皇湾を使うための申請書と火器を使用するための申請書に、それらに必要な人員と物資の手配。そして今挙げた全てを纏めて、軍監本部に提出しなきゃならない。これでも一部だよ?」

……うわぁ。
肩ほどの高さまである紙の山が4つあり、終わっているような気配があるのはその半分程度しかない。
家令長の飯島様や、明紀様の机上でも、これほどの書類の量は見たことが無いかも。

「そんなに急ぐものばかりなんですか?」

保馬様の隣に立ち、手元を覗きこんでみる。
止められはしなかったから、特段見られて困るものではないのだろう。
軍隊らしい簡潔明瞭な文章の隅に、保馬様の判子が押してある。
ざっと単語を拾ってみるにどうやら兵器の売買契約書らしく、私の生涯賃金を上回るだろう金額が、造作もなく踊っていた。

「そうでもない、例えばこの書類。これの提出が遅かったとして、俺の部隊に銃が行き渡る日にちが遅れるだけだよ。」

保馬様は、手元にあった紙を顔の横で左右に振りながら答える。
そんなふうに扱って、大丈夫なものなんだろうか?

「でもさ、それが遅れるって言うことは、訓練時間が減るってことだろ?そして訓練時間が少ないにも関わらず、戦場に出た兵がどうなるか。まあ、普通に考えて死にやすくなる。」

「つまり兵が死亡する、間接要因の一つになりたくないと。」

「そういう事……でさ、ここにあるものは、全部そういった物なのさ。」

多少話が長くなってきたからだろうか、保馬様は筆を置き肩の筋肉を解すように、大きく体を伸ばす。
その表情からは疲れこそ伺えるものの。嫌々やっている時の面倒くさそうな様子は伺えなかった。
北領に行く前の保馬様は、自分の仕事にここまで真摯に取り組んでいただろうか?そう自分に問いかけてみる。
答えは否だ。
もちろん、真面目でなかったとは言わない。
私達使用人よりも先に起き、遅く寝るなんていうことさえ多々あったのだから、その間にこなしている仕事の量は押して計るべきだ。
それでも、寝る時間を惜しんでまで仕事を行うといった、質の人ではなかったはずである。

「目の前で人が死ぬと言うのは、それほどまでに堪えることですか?」

私の問いに、保馬様は目を丸くしてこちらを見返してきた。
恐らく内心では、らしくないだとか、今日は槍が降るんじゃないか、とかそういった事を考えているのだろう。

「そうだね、思っていたのとは比べ物にならなかった。結構時間が立ったのにね、今でも夢で見たり幻聴がしたりするよ。」

まともな答えは帰ってこないだろう、そう想定しての質問であった。
茶化されるか、混ぜっ返されて、有耶無耶になるだろう、そう考えていたのに。
はあ……こんな風に返されて、なんて答えればいいんでしょうね?

「……真面目なお答えが帰ってくるとは、思ってもみませんでした。」

結果として、自分のほうが茶化すような言葉を発してしまう。
こういう時、自分の性格が嫌になる。
この性格のせいで、子供の頃からどれほど問題を起こしたか。

「卯月がそういう事を聞いてくるなんて、俺の知る限りでは始めてでね。それを茶化したりするのは、あまりにも失礼だろ。」

全く機嫌を害した様子もなく、保馬様はさらっと返してくる。
僅かに浮かんでいる苦笑は、こちらの心中を察してのものなのだろう。
なんだか、器の違いを見せつけられたみたいね……。

「まあ、いいさ。それで、何の用事で来たの?」

そう言われて、始めて手紙の存在を思い出した。
袖に入っている厚い封筒の重みを、今更ながらに感じる。

「……これを。」

そう言って袖から出そうとして、一瞬その動作を躊躇する。
これを渡したら、保馬様の負担はさらに重くなるだろう。
あらぬ誤解を与えるような内容が書いてあった場合、保馬様ご自身が余計な疑いをかけられかねない。
敦紀様か明紀様に渡して、ことが穏便に済むよう一段階置いたほうが

「ひゃ?」

そこまで考えたとき、袖のあたりに妙な感触を覚える。
その感触の理由が、左手の袖の中に保馬様が手を入れたからなのだと気づいたときには、その封は保馬様の手に収まっていた。

「なにこれ?」

妙なものを見るように手紙を見つめていた保馬様が、蝋の印を見て心得たように頷く。

「なるほどね、こりゃ渡すのもためらうわ。」

変な誤解はされなかったみたい……じゃなくて。
女性にそういう事をするのは、いかがなものかと私は思うわけであります。

「……御察しいただけて、恐悦至極です。」

「……御祖父様のところに御覧に入れてくる。」

そんな私の精一杯の皮肉はどうやら耳に入らなかったらしく、後を気にすることもなく保馬様は外に出て行く。
その横顔は、玩具を見つけた子供のようであった。
……お父様お母様、使用人という仕事は大変です。
…………はぁ。






馬術、茶道、剣術、書道。
将家という恵まれた環境ゆえに、益満敦紀は様々な趣味を持っている。
そういった益満敦紀の持つ雑多な趣味の中でも、これだけは人に負けないというものが一つだけあった。
それは刀剣の収集である。
先代や先々代、あるいはそれ以上前の当主から続く刀剣の収集は、他家から羨まれるほどの質と量を誇っている。
それこそ、上屋敷と下屋敷にあるそれらを合わせれば、一合戦できるほどにだ。


そして、敦紀は刀剣の手入れを自身の手で行うことを好んでいた。
夜明け前、もしくは夜更け時、そんな人が寝静まっている時間帯に、一人清涼な空気が漂う部屋で刀剣と向かい合っていると、自身の心が研ぎ澄まされていくように感じるからだ。
刀身から古い油が取り除かれ、燭台の光を鋭く反射する。
そんな光景を見ていると、自身の中にある様々な思案に、自然と答えが出るような気がするからだ。
そういった事情から、刀剣の手入れに没頭していた敦紀は、ふと外の音が気になり時計を見上げた。

「……没頭しすぎたな。」

かれこれ四刻もこの作業を行っていることに気づいた敦紀は、すこし残念に思いながらも持っていた鋭剣を鞘に戻した。
保馬には話していないが、彼が皇都に戻ってきたのは随分と最近のことである。
駒城保胤はその立場上駒洲にいることが少なく、参謀長である敦紀はその代行を務めなければならないため、駒洲にいることが多い。
そして帝国の北領への侵攻が始まって以降は、駒洲鎮台を再編成し戦時体制に切り替える業務を行っていたため、皇都に戻ってくる暇などなかった。
彼が今皇都に居ることが出来るのは、彼の孫がここにいるからに他ならず、もう数日したら彼も駒洲に帰らなければならない。
そういった理由から、彼が自身の刀剣に触れるのは、随分と久しぶりのことであった。

「もしも~し、御祖父様お目覚めですか~?入りますよ~……うわ。」

そんな気の抜ける声が聞こえたのは、敦紀が立ち上がり、畳に上に広がる刀剣を片付けようとした時だった。
敦紀の返事も待たずに襖が開かれ、一拍遅れて敦紀の頭上に、呆れたような呻きが降ってくる。

「……こんな時間から刀剣の手入れですか、典雅ですね。」

周囲の状況から、敦紀が長時間己の趣味に没頭していたことを理解した保馬は、若干嫌味のこもった口調で話しかける。
現在は午前10刻、早朝からこの時刻まで、ひたすら趣味に打ち込んでいたのだ、典雅という表現もあながち間違ってはいない。
それに保馬から見れば、多少の羨望もあったのだろう。
敦紀から見ても、今の保馬の顔色は随分と酷いものであった。

「そういうな、これから仕事に取り掛かろうと思っていたんだ。」

敦紀は随分と疲弊した様子の保馬に苦笑しながら、文机を指し示す。
そこには保馬のものほどではないが、それでも相当量の書類が積まれていた。

「保胤様も、少しはこちらの仕事をしてくださればいいのに。」

保馬が肩をすくめながら答える。
責めるような口ぶりではなかったが、疑問を湛えた口調ではあった。

「已むを得んだろう。保胤様は保胤様で、別の仕事がある。」

そう答える敦紀も、少しばかり渋い顔をしている。
自分が作業をする分には全く構わないのだが、保胤の認識と自分の認識の間に微妙な齟齬が生まれることを敦紀は恐れていた。

「まあ、それはそうですね。」

自分の持ち出した会話にも関わらず、特に興味もなさそうに返事をした。
これ以上この会話を続けても何の意味もないし、敦紀がどのように感じているのか、その片鱗のみは感じ取れたからだ。
もっとも、保馬は保胤がこの後に果たすはずの役割を知っているので、保胤への不信というものは存在していない。
ただ、彼の祖父と保胤の間に、そういった物が生まれる可能性があるならば、未然に防いでおきたいとは考えていた。

「そういえば、お前に伝えるべき事があったな。ほれ、お前の連隊の詳細だ。」

「……本当に半月で完成したんですね。」

敦紀の差し出した紙の束を受け取りながら、保馬は驚きの表情を浮かべる。
北領からの帰還時に敦紀の語った半月と言う言葉自体を、話半分で受け取っていたからだ。

「ありがとうございます。これだけの期間があれば、なんとか連隊を戦える段階まで持っていけるかもしれません。」

「ふん、感謝されることじゃない。一人しかいない孫を、帰ってきて早々に再び戦場に送り出そうとしているんだ。本来ならば恨まれてもおかしくない話さ。」

「自分に出来る最善を尽くす機会を与えていただいているんです。感謝こそしけれ、恨んだりなんてしませんよ。」

「そう言ってもらえるのはありがたいのだがな、残念なことに一つ嫌な知らせがある。」

「……なんですか?」

保馬が少し身構えるようにして、返事をする。

「剣牙虎の数が揃わないらしい。簡潔に言うと、剣虎兵2個大隊は無理だ。」

「は?なんでですか?」

敦紀の視線を逸らしながらの発言に、保馬は不満そうにぼやく。
剣虎兵2個大隊というのは、今度保馬に与えられる連隊の部隊のことだ。
保馬の事前の要求は、剣虎兵2個大隊と捜索剣虎兵1個中隊を基幹とした編成で、連隊を構成することになっていた。

「軍の剣牙虎の……なんて言えばいいのか、牛舎ではないし、虎舎、とでも言えばいいのか?まあ、そこで問題が発生し、収容していた剣牙虎の半分以上が逃げ出したらしい。」

「なにそれ怖い。」

保馬からすれば裏の事情がある程度把握出来ているため、それほど怖い話ではないのだが、普通の衆民からすれば恐ろしすぎる話だろう。
なにせ100頭以上の虎が野に放たれたのだから、相当な死者が出ても全くおかしくはない話なのだ。
そんなことよりも保馬からすれば、このイベント起きるのかよという不満の方が大きかった。

「というわけで、残念なことに2個大隊の編成は無理だ。……あとこれは余談だが、なぜか新城の大隊には定数の倍近い剣牙虎がいるらしい。」

敦紀は肩をすくめながら結論を話し、そして最後の言葉は小声で付け加える。
悪ガキのいたずらを嘆く、教師のような口調であった。

「それは奇異なことですね。それで、結局はそうなったんです?」

「当初の予定よりも大隊の規模を縮小し、連隊の編成を3個大隊に切り替える。1個大隊あたりの兵員を800未満に抑えれば、それほど不満もでないしな。」

なるほど、といった様子で保馬は頷く。
皇国では大隊の人員は900~1000名程度が標準であり、例外として1500名程度のものも存在する。
800名と言うのは随分と小さい部類に入るが、それが3個ならば単純に考えても2400名。
それに砲兵や補給兵、工兵を加えても、長期の独立行動を考えない連隊ならば、せいぜい3000半ば、旅団の規模にはならない。
6000名を旅団編成の最低人数と考えるならば、半旅団とも言える規模であった。

「1個剣虎兵大隊に2個銃兵大隊、1個捜索剣虎兵中隊。主力はこんなものだ。……さて、一つ変な知らせがある。」

「また知らせですか、一体何の?」

敦紀の言葉を聞きながら資料をめくっていた保馬が、嫌そうな表情で顔をあげる。
特別なんて言う言葉は、大抵厄介なものを伴っているものだからだ。

「お前の連隊を構成する大隊の一つに、第11大隊があてられることになった。」

「……まじですか?」

「駒洲軍には剣虎兵部隊なんて殆どない。となれば外から持ってくるか、新しく編成するしか無いわけだ。しかし十分に剣虎兵が集まらなかったせいで、新規に編成することはできない。ならばということで再編成中の部隊を持ってきたわけだ。」

道理は通っている、論理的に矛盾があるわけでもない。
特に第11大隊は、有力な鎮台の隷下にあったわけではないし、将家の将校が指揮官を務めていた部隊でもない。
そういった事情であれば別の集成軍から、各鎮台に兵が引っ張られてくることは、それほど不思議なことではないだろう。

「それ以外にも、なにか事情はあるんでしょう?」

しかし、保馬は当然といった表情で、敦紀を追求する。
もっとも保馬がこのような行動をとったのは、確固たる根拠があってのことではない。
ただ自身の記憶の中にある、原作の流れと一致していないと言うだけの理由による。

「……その通りだ。兵の6割と8割以上の剣牙虎を失った部隊を再編するには、金と時間がかかる。そして何よりも問題なのは、他所の将家から駒城の手つきと思われたことだ。まあ特別な意図がないならば、解散させて終わりだろう。しかし上層部としては、衆民の受けを考えた場合、第11大隊と言う名前は残しておきたいわけだ。」

既に答えを準備していたのであろう敦紀は、保馬の疑問に淀みなく答える。

「そして何処も面倒をみようとしないならば、駒城が引き受けるしかなかろう。」

「そういう事なら、分からないこともありませんが。」

それでもまだ、保馬は疑問を残したような口調で呟く。
当然のことだが、第11大隊駒洲鎮台に編入されたからと言って、保馬が指揮官の部隊に入れる必然性など無い。
とは言え、そもそも保馬の懸念はそれ以前の場所にあるのだが。

「こうなるように手を回したのは、御祖父様ですか?」

益満家の当主が積極的に動いたのならば、原作通りの配属先にならないのも分からないことではない。
そう考えての問いであった。

「なればいいとは思った。お前が始めて指揮を行った部隊だからな、顔見知りが多いに越したことはない。だが絶対にそうなるよう動いたわけでもない。」

「何処からも反対の声は出なかったんですか?」

「ああ、出なかったな。と言うよりも、別のところに視線が行っていただけのような気もしないことはないが。」

保馬の思案顔に影響されて、敦紀もどこか心配そうな表情になってくる。
彼の孫がこのような表情をした場合、大抵よくないことが起こるのだ。
それは?と保馬が言葉の先を促す。

「新城の第501大隊、あそこが派手にやっているのは知っているだろう?」

保馬は黙ったまま頷く。
実際新城のかなり無茶な編成と選抜は、軍にいなくとも耳に入ってくるほどのものである。
原作以上の時間に恵まれた新城は、相応の訓練を行っており、その過酷さは自発的に配属願いを出すものまで現れる有様であった。

「そのせいだろうな。あちらに注目が集まったせいで、お前の件はほとんど注目されていない。守原でさえ、全くちょっかいを出さないほどだ。」

守原、その名前に保馬の眉がピクリと動いた。

「にしても、お前もやけに勘ぐるな。なにか理由でもあるのか?」

ふと気づいたように、敦紀が尋ねる。
こうも突っ込んで聞いてくると言うことは、何らかの行動を取りたいのだろうと考えたからだ。

「……実は先程、こういう物が届いて。」

一瞬逡巡したような間をおいてから、自身の袖から手紙を取り出す。
卯月から手渡された時と比べて、状態は変化してはいない。

「守原から、お前への手紙か。送り主は守原定康と。」

守原定康は、守原家現当主守原長康の甥にあたる人物であり、28と言う年齢にして少将と言う地位に付いている大人物である。
本来ならば、敦紀であろうと呼び捨てにできる人間ではないのだが、彼の心情が彼にそのような呼び方をさせていた。

「開けるぞ?」

保馬に申し訳程度に尋ねた敦紀は、蝋によって封をされた封筒を、ペーパーナイフで撫でるように切って開けた。
なお、封筒を何らかの手段で閉じるという行動は、相手が信用できない場合にのみ行われる。
この場合のそれは、保馬の元へ届く前に誰かが開けないように、また開けた場合はそれが保馬に分かるようにといった処置であった。
実際保馬が家令に預け、新城へと届けさせた手紙には、封がされていない。
慣れた手つきで手紙を取り出した敦紀は、その分厚い手紙をしげしげと眺めた。
気軽な手紙には全く向かない高級な和紙に、達筆な文章が長々と踊っている。
しばしの間手紙に集中していた敦紀は、読み進めるに従い次第に呆れたような表情を濃くしていく。

「……信じられるか?これだけの文量があって、意味の有ることは一切書いてないぞ。」

「自分は読んでいないので。ですが御祖父様が仰るのならば、そうなのでしょう。」

特に私情を交えていない声で、保馬は反応する。
興味を示すだけでも問題がおきかねない、そう考えてのことであった。

「こんな文章ならば、読んでも構わないさ。それよりもこれを儂に渡したと言うことは、お前は不穏な繋がりはもっていないんだな?」

確信を帯びた口調で、確認するように問う。
どこか安堵したような表情でもあった。

「疑われることさえ、心外なんですがね。ええ、持っていませんよ。今のところは。」

対する保馬は、やさぐれたような表情で答えた。
自分という存在が生きているだけで、誰かから何かしらの疑いをかけられると言うことを、保馬は正しく認識している。
だがその状況を在るが儘に受け止められるほど、彼は大人ではなかった。

「そう拗ねるな、悪かったとは思っている。」

「それを悪かったと思わないような人でしたら、とっくの昔に離反でも出家でもしてますよ。」

敦紀の弁明に、皮肉げに保馬は返す。
満更でもない口調であった。

「それにしても、どうして儂がお前を観察していると言うことに気づいたんだ?」

「卯月が教えてくれました、他にも親しい使用人から気をつけてと。」

「……そう言えばお前は、昔から使用人連中とやけに仲が良かったな。」

筒抜けってことか、と呟きながら敦紀は額に手を当てた。
一般的な上屋敷でも、使用人や家令の数は10を下らない。
それが益満家のような将家ともなれば、屋敷にいる使用人や家令は50を越す。
もっとも、益満家には女性がいないためこれでも少ない方なのだ。
公爵位を持つ将家や皇家の女性ともなれば、それだけで100人程度の使用人がつくことさえ珍しいことではない。

「ある程度偉い人、まあ父上や御祖父様もそうですが、使用人を空気のように思っているきらいがありますよね。」

使用人が側にいても、几帳の上とかでズッコンバッコン出来るって、ある種の才能とさえ思えるし。
言葉には出さず、保馬は心中で呟く。
人払いをしたときなどは、流石に使用人を通じての情報の流出は、あまり起きないのだが、雑談の流れから出た言葉などはどうしても外部に流出しやすい。
自身が疑われている情報も、そのような伝で得たものであった。

「……それで、どうする?」

「返事は出しますよ。無視でもして商売の邪魔なんてされたら、たまったものじゃありません。特に今は重要な取引があるのに。」

保馬の言った重要な取引とは、蓬羽と進めている装甲艦の水軍への売り込みである。
将家の影響がいかに少ないと言っても、守原が本気で妨害をしたならば、計画の頓挫さえもあり得ないことではない。
可能な限り好意的な関係を築くに、越したことはなかった。

「何でしたら諜報の真似事でもしましょうか?」

「いや、お前には軍務に専念してもらいたいからな。それに、もうじきしたらお前も、駒洲に行かねばならんだろう。」

「それもそうですね。まあ守原に分かるような、露骨な連絡だけはやめて下さい。きっと導術は監視されてると思うので。取り敢えず、面倒くさいことになったら、全部父上に投げましょう。」

保馬の冗談に、敦紀は苦笑しながら頷く。
実際、益満家の業務の大半を担っているのは彼であるため、敦紀や保馬が口を出すことは少ない。
これが彼らの家での役割分担であった。

「話さなければいけないのは、こんなところですか?よろしいのでしたら、少し寝ようと思うのですが。」

「まあ少し待て。……お前、鋭剣を壊したと言っていたな。」

会話が一段落したのを感じた敦紀は、懐から細巻きを取り出しながら尋ねる。
それを見た保馬が顔をしかめるが、敦紀は全く気にせずに細巻きに火をつけた。
この家ではよく見られる光景である。

「ええ、適当なものでも買おうかと思っているのですが。」

敦紀の言葉の通り、今の彼は帯刀していない。
兵卒ならばともかく、士官は帯刀を強制されるため、そのうち手に入れなければならないのだが、その機会が無かったからだ。

「どれ、見繕ってやろう。」

敦紀はそう言うと、隣室の扉を開きそちらへと移動する。
扉の向こうにある刀剣の価値を想像した保馬は、そんなものを貰ってもいいのだろうかと一瞬躊躇したが、別に断る理由もないと思いその後を追った。

敦紀の自室に隣接するように作られた武器保管庫は、その名前の通り武器の保管を第一に考えて作られている。
それも、軍隊が行うような雑な管理方法ではなく、それぞれがガラスで出来たケースの中に入っており、傷がつかないように絹の布の上などに置くなどの手の入り様である。
その様子は確かに保管ともいえるが、どちらかというと展示をしているように保馬の目には映った。
環頭太刀や毛抜形太刀といった皇国古来より伝わる剣から、近代になってから作られ始めた、実用性を重視した軍刀まで皇国独自の刀剣に限っても相当な数がある。
中でも目を惹くのは、鋒両刃造とよばれる、切っ先から半分が両刃になった特殊な形状をした刀であり、これなどは皇都の金座筋に家を一つ作れる価値があるとさえ言われている。
それ以外にも、アスローンや帝国で生まれた刀剣、フリッサやカラベラ、エストックやクレイモアなども保管されており、そのいずれもが名の知れた職人の手によるものらしい。
いずれにせよ、この部屋を一つ作るのに、莫大な金額が消えたのだろうことは想像に難くなかった。


貴重な刀剣の収集と銘打っておきながら、暗器やゲテモノの類は一切置かないのだから、完全に趣味の領域だよな。
そう思い、祖父が死んだらこれらの遺物はどうなるのだろうと想像を巡らせた保馬は、博物館でも作るかと微妙な結論を脳内で下した。
ここ上屋敷にあるのは、益満家の歴代当主が収集したほんの一部であり、残りのものは下屋敷や駒洲の屋敷などに散らばって保管されている。
その全てを集めた場合、総量は一戦出来るほどのものなので、その想像はあながち間違っていない。

「どれでも好きなものを持っていけ。幾つか実用性に欠けるものがあるがな。」

部屋の奥まで歩いていった敦紀は、さっぱりとした口調で保馬へ問いかける。

「惜しくないんですか?俺が使ったら壊れかねませんよ?」

「安物を使わせて、お前が死んだら元も子も無かろう?お前の生命と、ここにある玩具。どちらが重要かなど、考えるまでも無い。」

この場にある刀剣全てを玩具と断じ、敦紀は皮肉げに笑う。
自身の孫と天秤にかけたのならば、大概のものはその程度の価値しかないと。

「なに、気にすることはない。剣の価値というのは、その実用性ではなく歴史的重要性によって決まるものだ。お前が実用性を考えるならば、妙なものは選ばんだろうさ。」

「それもそうですね、間違ってもこんなものは使えませんし。」

保馬は苦笑しながら、奥の壁に立てかけられている、二間を越す大剣を指差す。
それは保馬の体型を軽く超えるほどの幅と高さを持っており、とても人には使えるようなものには見えない。
こんなものを使える人間がいるとしたら、それは隻眼かつ隻腕で、義手に大砲を仕込むような変人だけだろう。

「それで、どんなものが欲しい?」

「……鋭剣を使っていて思ったんですが、意外にあれって重いんですよね。もっと軽い細剣の類はありませんか?」

片手に短銃を持っている時に、そのまま片手で振り回せそうな。
そう付け加え、保馬は片手で剣を振るう動作を行って見せる。
これは彼が前から思っていたことであり、あまり腕力に優れない自身の欠点を補うために考えていたことであった。

「細剣か、切れる方がいいか?」

「刺突だけよりは、その方がましでしょう。」

「ならこれだな。」

敦紀はそういうと、長巻が収められたガラスケースの下にある戸棚から、一振りの細剣を取り出す。
三角形の断面をしており、長さは一間と三尺(皇国の単位がよく分からないので、この場合1,3mと解釈してください)ほどで、それほど重そうには見えない。
非常に細身で、針のように細く尖った切っ先は、当に細剣そのものとも言える。

「一見エペだが、レイピアの系譜も受け継いでいる。片刃だから切ることも可能だし、当然突くことも出来る。そのせいで、鋭剣ほど頑強ではないがな。」

手渡された細剣を、保馬は一二度軽く振って見せる。
見た目ほど軽くはないが、鋭剣ほど重いわけではない。
ただし細剣独特の持ち方を長時間片手で続けた場合、腕に相応の負担が掛かりそうであった。

「少し重くありませんか?もう少し短くてもいいので、軽いものが欲しいのですが。」

「……お前は銃剣の間合いを知っているか?」

保馬の質問に対し、わずかに考え込んだ敦紀は答えずに質問を返す。

「おおまか2間前後ですよね。」

「そうだ。攻撃の主体が刺突であるにも関わらず、重く太いせいで踏み込みにくく、片手で持つことも出来ない。銃剣は汎用性こそ高いものの、白兵戦において優れた武器ではないと言うことだ。」

妙に先を読んだ言動をしたり、敦紀の知識に無いことを語るなど、保馬に可愛げが無いからだろう。
薀蓄を垂れることが出来るのが、嬉しくて仕方が無いと言った様子で、敦紀は長口上を始める。

「一方でその細剣ならば、刀身だけでも1間を超えそれに踏み込みと手の長さを加えて、3間以上の間合いさえ期待できる。もちろんそれだけの間合いがあれば、銃剣だけでなく鋭剣に対しても圧倒的な優位性を得ることが出来るだろう。」

現在皇国で採用されている小銃は、滑空式が1間10尺、施条式が1間40尺ほどであり、敦紀が手にとったのは現在皇国が正式に採用している滑空式のほうである。
これに20尺程度の銃剣を取り付け、1間30尺、先ほど保馬が手渡された細剣と、ほぼ同じ長さだ。
しかし、これは間合いの広さが同じであると言うことを意味してはいない。
片手で持ち、大きく踏み込んでの刺突を主な攻撃とする細剣は、その間合いに腕の長さ、踏み込みの深さが加算されるため、間合いの広さは飛躍的に伸びる。
一方の銃剣は、同じ長さと言えども両手を使わねばまともに扱うことさえ叶わず、その重さゆえに大きく踏み込むと言うわけにもいかない。

「……でも強度に不安がありませんか?長ければ長いほど、曲がりやすいと思うんですが。」

「ふん、どうせ長くは使わんだろう。曲がったなら曲がったで、廃棄すればいい。」

「剛毅なことで。」

皮肉げに、しかし満更でもない表情でぼやいた保馬は、撫で切るような動作を数度繰り返した後細剣を鞘へとしまう。

「あとついでだ、これも持っていけ。」

そう言って、敦紀は皮の鞘に入ったままの短剣を保馬へと放る。
刀身こそ見えないが、外見は30尺ほどの一般的なものであった。

「細剣と併用しろ、役に立つことは保証するさ。」

「そうですか、まあ重荷にはならなそうなので。」

保馬は自身の戦闘を、片手に細剣、片手に短銃をもって行うものだと想定している。
その想定に基づいて考えれば、短剣を使うことはないはずであった。
そこまで考えて、保馬は小さく笑い声を漏らした。
こういう一般的な家庭とは少し違う方法で愛情を示す祖父の姿が、妙に面白く、また可愛く見えたのだ。

「何を笑っているんだ?」

そんな保馬に対し、敦紀がは怪訝そうに問いかける。
なぜ保馬がいきなり笑ったのか、理解できなかったからだ。

「御祖父様が仰るのです、大切に使いますよ。ただ、もしも戦場で役に立たなかったら、別のものと交換してくださいよ?」

「……ああ、取り替えてやるともさ。お前が望むのならば、何度だってな。」

一拍間が空き、示し合わせたように二人はニヤリと笑う。
お互いの言葉の裏にある意思表示を、明確に受け取ってのことであった。

「さて、忙しくなるぞ?」

様々な意味を込めて、敦紀は保馬へと呼びかける。

「まあ、なんとかなりますよ。……いや、何とかします。」

去り際、表情は見せず背中を向けての保馬の言葉に、敦紀は満足そうな表情で微笑んだ。






あとがき
ちょっと無理矢理に第11大隊を絡めました、オリキャラずくめになるよりはましだと思います。
因みに実は私は銃より剣の方が好きです、ただし西洋に限りますが。文化や歴史、偉人、建築様式なんかも、基本的には欧州趣味です(アメリカは入りません)。
さて、本題ですが、18話は8000文字程度、19話は4000文字程度すでに書いています。これらを順調に投稿していけば、恐らく21~23話あたりでアレクサンドロス作戦に突入すると思います。
それで話なんですが、そっちに突入する前にインタールード的なの書いた方がいいですか?こんな話読みたい!みたいな要望とかあります(別に主人公は登場しなくて構いませんし、皇国の話でなくてもいいです)?
あと、アンケートではないので無理に答えていただかなくても結構です。また仰っていただいたからと言ってそのリクエストを採用するとは限りません。
もちろんそういった要望が無いならないで、それもおkです。


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