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No.14803の一覧
[0] ある皇国の士官の話【皇国の守護者二次創作・オリ主・】  各種誤字修正[mk2](2010/06/12 21:06)
[1] 第二話[mk2](2010/06/19 17:45)
[2] 第三話[mk2](2010/06/19 17:45)
[3] 第四話[mk2](2010/06/19 17:46)
[4] 第五話[mk2](2010/06/19 17:46)
[5] 第六話[mk2](2010/06/19 17:46)
[6] 第七話[mk2](2010/06/19 17:46)
[7] 第八話[mk2](2010/06/19 17:50)
[8] 第九話[mk2](2010/06/19 17:47)
[9] 第十話[mk2](2010/06/19 17:48)
[10] 第十一話[mk2](2010/03/10 01:31)
[11] 第十二話[mk2](2010/03/26 05:57)
[12] 第十三話[mk2](2010/06/19 17:50)
[13] 第十四話[mk2](2010/06/19 17:50)
[14] 第十五話[mk2](2010/04/24 13:20)
[15] 第十六話[mk2](2010/05/12 21:52)
[16] 第十七話[mk2](2010/06/12 20:32)
[17] 設定(色々減らしたり、整理したり)[mk2](2010/06/12 01:32)
[18] アンケート結果です。[mk2](2010/01/25 22:55)
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[14803] 第十六話
Name: mk2◆b3a5dc4d ID:3ccea2c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/12 21:52
「桜、まだ残ってたんだ。」

季節は既に5月、一般的な桜や桃、梅などは既に花を散らしている季節だ。
実際俺のいた益満家上屋敷も例外ではなく、春になると満開の花を咲かせていた桜は、既にその色を緑色へと変えている。
そんなだから、今年桜を見ることはもうかなわないだろうと思っていた。
と思っていたのだが

「霞桜ですね。他の桜より咲くのが少し遅いんですよ。」

こちらの呟きを聞き取った卯月が、説明をしてくれる。
霞桜ね、こっちにもあったんだ。
とは言ってもすでに散り始めており、開花のピークは既に過ぎているらしい。
ちょっとした疑問が湧き、近くに落ちていた桜の花びらを手にとってみる。

「ふーん、やっぱり花弁は6枚なんだ。」

こういうのを見ると、前の世界とは違うんだってヒシヒシと感じるよな。
もしも前の世界で見たのなら、間違いなく奇形だと思っただろうし。
いわゆる、4つ葉のクローバー的な。

「桜の花弁は全て6枚ですよ?」

「しだれ桜なんかも?」

「もちろんです。ご覧になったことはないのですか?」

「しだれ桜や山桜は見たことが無いかな、普通のはあるけれど。」

こちらでも桜はとても良く見る木で、街頭を歩いていてもそこら中に植えてある。
品種改良によって生まれたという、ソメイヨシノみたいな花もあったし、こちらの人も桜は好きなんだろうな。
街頭を歩いていても日本と同じ、いやそれ以上に桜の木は見かけるし。


もっとも、この屋敷にはあまり桜は生えていない。
恐らく、この屋敷をデザインした小鼎銀蔵という人が、それほど好きじゃなかったんだろう。
でなければ、庭園のモチーフとなったという背州にはあまり桜が生えていないのか。
と言うわけで、この屋敷を囲んでいる木々は駒洲楓と背の低い西州萩で、それ以外の木々はほとんど生えていない
ただ、庭園の西側にのみ背の高い気が密集するように生えており、そこにのみ様々な木々が生えている。
俺達がいるのもここで、霞桜が咲いていたのもここだ。
それ以外の場所に植えてある草木は、その殆どが低木や花の類で、菖蒲、つつじ、山吹、芍薬など、今旬を迎えている花々が嫌らしくない程度に駒城上屋敷を彩っている。

「それでは保馬様、またお帰りになるときに、お会いしましょう。」

「仕事が終わる時間が、合っていたらで構わないよ。無理に俺に付き合う必要もないさ。」

俺がここにいる理由は駒城家のパーティーに出席するためであり、まあいわゆる客だ。
主催者の面子を潰さない限りに置いて、大概のことは許さあれる。
一方の卯月がここにいる理由は、このパーティーを手伝うための使用人としてに他ならない。
例えばだが、俺に付き合って途中退席でもしたら、それなりに顰蹙を買うだろう。
だいたい今ここで話しているのも偶然会ったからであって、卯月自身はもっと早い時間からこちらで仕事をしているはずだ。
それに周りで働いている使用人の数は、全員が駒城の者と考えるには些か多すぎるから、他家から来た者もそれなりの割合でいると考えられる。
そう言った事情にも関わらず、こちらの都合で引き抜くのも気が引けると言うものだ。

「いえいえ、保馬様がどうしても一人で帰るのは寂しいと言うことでしたら、付き添って差し上げるのが使用人の役目じゃないですか。」

既にこちらに背を向けていた卯月は、俺の言葉に首だけ振り向き答える。
にぱー、なんて擬音が付きそうなゆるい笑顔を浮かべながら手を振る様は、何と言うか言葉にし難いものを感じる。
お前それでいいのか的な。

「なるほど、確かに一理あるな。因みに、俺はこれが終わったら保胤様と少し話があって、帰りはかなり遅くなるんだ。卯月には先に帰ってもらおうと思ったんだけど、使用人の義務なら仕方ないよね。正門の辺りで待っていてくれ、今日中に合流できるよう努力するから。」

「……えっ?」

笑顔を浮かべたまま、卯月の表情が固まった。
俺は遅く起きても問題ないが、卯月は明日も普通に仕事がある。
まあ、肉体労働1日やった後、睡眠時間ほぼゼロとか、ブラック企業も真っ青だわな。
……いや、そうでもないか。
封建政治をやってた頃の中世やヘイロータイレベルじゃないと張り合えないって聞くもんな、ブラック企業。

「冗談だよ、冗談。別に話なんてないさ。」

「……はぁ。」

「なんか切なくなるから、溜め息だけって言うの止めないか?」

少なくともなんか喋ろうよ。

「……まぁ、いいです。それではまた後で。」

どこか白けたような表情を浮かべながら、ぺこりと一礼し卯月は去っていく。
……はぁ。

「保馬さんがそんな不景気な表情では、保胤様もお困りになるんじゃないですか?」

ピクッと耳が動く。
一瞬再び卯月が話しかけてきたのかと思ったが、すぐに頭の中で否定する。
そもこの声は男声だ、しかもイケメンボイス。
そして性格とか関係とかよりも、原作のインパクトのおかげで記憶に残っている声となれば、該当するのは一人しかないな。

「ああ、俊兼さんじゃないですか。ご無沙汰しています。」

ゆったりと振り向き、よそ行き用の表情を浮かべる。
前歯だけ見えるように口を開け、視線は柔らかく、笑顔は嫌らしくないように頬肉を僅かにあげるだけ。
前世で身につけたスマイルは伊達じゃない。

「そうですね、数カ月ぶりでしょうか。北領ではご活躍だったそうで、噂だけは随分と耳に入って来ましたが。同じ駒城家に仕えるものとして、誇らしい限りです。」

俺の如才ない表情と言葉に対して、これまた如才ない返答が帰ってくる。
ここらへんは完璧なんだよな、こいつ。
佐脇俊兼、言わずと知れた原作キャラだ。
20代の青年らしい溌剌さと、実生活の充足感に裏打ちされた自信が合わさり、愛想笑いなんてもの浮かべなくても随分と魅力的に見えるその表情からは、原作における悲惨な境遇など全く窺うことが出来ない。
あげく隣に相当な美人を並ばせ、威風堂々とした空気を放つ様は完璧すぎて、半端な人間では隣に立つことさえ躊躇うほどだ。

「俊兼さんにそう言っていただけると、私も誇らしい限りです。といっても、今回の件は運が良かっただけですけど。」

「そんなことはありませんよ。幼い頃から神童と呼ばれた保馬さんなら、きっと何かしてくれるともっぱらの噂だったんですよ?」

あは、ははは。
なんか乾いた笑いしか出ねぇ。
しかもそれを表に出せねぇ。
いや、俺自身が佐脇にマイナスイメージを持ってるかって言ったら、別にそんなことはないんだが、どうしても原作があれだから見る目に変なベクトルがかかるんだよな。

「それは光栄な話です。その光栄に浴し続けることのできる人間でありたいものですね。」

「保馬さんならきっとなれるでしょう。自分も見習いたいものです。」

あー、むず痒い。
人を褒めるのは慣れてるんだけど、褒められるのって慣れてないんだよな。
やっぱ今は貴族って言っても、元はただの民間人だし。
そうは言っても、口が勝手にペラペラと喋るのは、手馴れてきている証拠なんだろう。

「それにしても、俊兼さんの婚約者さんはいつもお美しいですね。浮いた話さえない私としては、羨ましい限りです。」

俺の見え見えの世辞にも、佐脇の妻は上品に笑顔のみを返す。
好き好きでは意見がわかれるかも知れないが、美人と言う点に関しては100人中99人がyesと答える笑顔であった。
因みに残りの一人はゲイである。

「先程の女性は違うのですか?随分と器量の良い方でしたが。」

「……彼女は家の使用人です。」

「使用人ですか、それは保馬さんには不釣合ですね。失礼しました。」

とりあえず笑顔を返してはいるが……こういう価値観苦手だわ。
こう生まれながらの地位だけで、相応しいとか相応しくないだとか、決めつけるみたいなの。
実際新城が養子にさえなれなかったのも、こういった出生や身分に対する偏見があるからだろうし。
そういった事を腹の中で考えるなとまでは言わないが、表に出すなと言いたくなるのは贅沢なんだろうか?

「とは言っても、保馬さんなら見合いの話など山のように来るでしょうに。そういった浮いた話のひとつくらいは、あるんじゃないですか?」

こちらの心情に気づいているのかいないのか、全く変わらない調子で佐脇は話し続ける。

「どうしても忙しくて、時間が取れないんですよ。祖父などは早く曾孫が見たいなんて言っていますが。」

わざとらしく肩をすくめてみせると、佐脇も嫌味のない表情で笑う。
まあ、佐脇も将家の跡取りだし、それに近いことは頻繁に言われているんだろう。

「戦争が終わらないことには、ということですか。」

「ええ、いずれにせよ景気の良い話題はお預けですね。どこもかしこも。」

互いに苦笑を浮かべ、笑いあう。
うん、悪いヤツじゃないんだよな、悪いヤツじゃ。






佐脇俊兼の抱く益満保馬への評価は、彼の交友関係の中でもそれなりの高さにある。
その理由の半分程は関係の薄さから来るものだが、決してそれだけではない。
例えば、保馬は自身の才能を誇るといったことはしなかったし、礼を逸するということもなかった。
佐脇の顔を見れば非常に丁寧に挨拶をしたし、彼の自尊心を傷つけるような行動をとることもなかった。
また、保馬と佐脇の年齢差が大きかったことも、要因の一つだろう。
佐脇が嫉妬心を持つほど、例えば彼と新城ほど年齢が近いわけではなかったし、興味が沸かなくなるほど年齢が離れているわけでもない。
家族が持ってくる保馬の話題も、彼が人間としても軍人としても、良い評判を得ていることを裏付けするものばかりだった。
そういったいくつかの理由から、佐脇は保馬に対して好意と言って良いものを持っていた。


今回の北領の件に関しても、自身が功を挙げられなかったにも関わらず、佐脇の保馬への感情は悪化していない。
むしろ、先程本人に話した通り、彼ならばそれなりの事をやってのけるのではないかとさえ想像していた。
そして自身が同じような状況で功を挙げることができれば、どれほど良かったかと。
その反面、彼の憎悪を一身に受けることとなったのは、他ならぬ新城直衛であった。
北領において保馬が上げた戦功に乗じて、己の価値を相対的に高めた、少なくとも佐脇の目にはそう映った。
北領からの帰還以来、彼は未だ新城に会っていなかったが、もしも会っていたならば周囲の人間が眉をひそめるような会話がなされただろう。
彼の幼年時代の記憶と、過去の模擬戦闘における敗北は、それほどまでに彼の新城に対する評価も決定づけていた。

「佐脇さん?」

彼の家令らしい人間と話していた保馬が、不思議そうな視線で佐脇を見る。
心配されているのだろうか、と思った佐脇は大丈夫です、と笑顔を取り繕って答えた。
呼びかけられたことにより、自分が随分と昔のことを思い出していたことに気づく。
実際、佐脇はいったん敵意を持った相手には、随分と執着する質であった。
何かの途中であっても、その対象を思い出しただけで、それが疎かになるほどに。
これに関して言うならば、新城と佐脇は似ていると言えるかも知れない。

「すいません、少しばかり昔のことを思い出していました。」

「佐脇さんが意識をとられる、ほど印象深い話ですか?興味深いですね。」

佐脇が意識をそらしていたことを理解した保馬が、興味深そうに尋ねる。
片手には家令の差し出した飲み物が握られており、もう片方の手で佐脇に同じものを差し出していた。
保馬の家令が用意したのだろう、佐脇の婚約者も同じ飲み物を持っている。

「いえ、お話するほどのことではありません。それに、あまり幸せな思い出でも無いので。」

「そうですか、残念です。」

あまり残念そうではない表情で保馬が返す。
もっとも、保馬は社交の場で感情を表に出すこということを、あまり好まない性格ではあったが。

「ところで、今の家令は?何か言伝を持ってきたようですが。」

佐脇が手元のグラスを口に運びながら、尋ねる。

「自分の客が来たと言う話でした。水軍の方なのですが、北領で随分とお世話になったので。」

水軍、と佐脇は呟く。
少なくとも佐脇にとって、縁のある場所ではない。
そして、保馬が世話になったという人間、それがどのようなものか僅かばかりの興味をいだいた。

「来たようです。」

保馬に習い正門のある方を向くと、7人ほどの集団が家令に連れられ、こちらへ歩いてくる。
軍服を着ているのは2人のみで、後はその家族であることがわかった。

「お久しぶり、というほどではありませんが、ご無沙汰しています。坪田大佐、笹島中佐。」

聞く者が聞けば、余程の信頼を置いているのだと解る口調で、保馬が挨拶をする。
もっとも、この場にそれほど彼を知っている人間はいないし、それが解る人間など皇国には数人しかいないが。

「ああ久しぶりだな、保馬君。それと階級はいらない、好きに呼んでくれ。」

「俺も同じだ、階級はいらない。」

水軍の第1種軍装を着込んだ笹島が如才なく答え、不機嫌そうな坪田がそれに続く。
それぞれ保馬が敬礼しなかったことから、そういった扱いを望んでいるのだろうことを理解し、軽い口調を選んでいる。
彼らの後ろにはそれぞれの妻、そして子が並んでおり、各々が緊張したように立っていた。

「それはそれで、お二人とも自分とは随分年が離れていますので。」

保馬が苦笑しながら答えた。
笹島も坪田も、既に三十路は超えている。
20を超えたばかりの保馬としては、無理もない反応であった。

「君の好きなように呼べばいい。それに階級なら我々が上だが、位階で言えば君の方が上だ。どちらも望んでもいない敬意を、一方的に払うのは気に食わん。」

坪田が坪田らしい率直な意見を述べる。
このようなことをこのような場で言えるのが彼の美点でもあり、欠点でもあった。

「それでは坪田さんと。」

先程よりも苦笑の度合いを深めながら、保馬は答えた。

「ところで保馬さん、こちらの方々のご紹介はしていただけないのですか?」

会話の区切りを見計らっていた佐脇が尋ねる。
確かにこの場には10人もの人数が揃っており、その全員を知っている人間は誰ひとりとしていなかった。
そしてその中において、比較的広く面識を持っているのは保馬の他にいない。
すこしばかり考え込んだ後、保馬は端的に水軍士官である笹島と坪田、陸軍士官である佐脇の紹介を行った。
共に自身の友人という形での紹介であった。

「水軍の方だったのですか、あまりにも立派な体格でしたので、騎兵将校かと見間違えてしまいました。」

先程保馬からの説明を受けていたにも関わらず、佐脇は驚いたように目を見開いて答える。
白々しいが、儀礼の一種であった。

「それは嬉しい。駒洲の方から言っていただけると、満更ではない気持ちになりますね。自分も佐脇家のご嫡子と面識を得られるなんて、光栄ですよ。」

先程保馬に話しかけた時とは違い、よそ行き用の態度で笹島は答える。
もっとも、表面こそ笑顔で対応しているが、心の中ではこの出合いをどのように捉えればいいのか、随分と戸惑っていたが。

「ん、自分も光栄です。」

そのように現状に素早く対応した笹島と異なり、坪田はぞんざいに返答を返す。
多くの衆民と同じで、坪田が将家を好きなわけではないことが、この態度の原因であった。
その相手に評価しうる点がなければ、尚更である。
しかし、佐脇はその態度を自分への反感ではなく、衆民あがり故の粗野性だと受け取ったため、少なくとも互いの内心が表に出ることはなかった。



「ところで、自分はもう一人の知り合いを探しているのですが。」

互いの家族の紹介などが一段落し、思い出したように笹島が尋ねた。

「どなたでしょう?名前を教えて頂ければ、家令に探させますが。」

先程彼らが会話しているときは1歩引いていた保馬も、今は会話に加わっている。
粗つなく対応をこなす様は、主賓と言うよりは主催者側の人間にさえ見えた。

「ああ、君も知っている、というよりも君の方が親しいだろう。新城少佐だよ。」

唐突に出たその名前に、保馬は額に手を当てながら視線をそらす。
彼にとって、この場で出して欲しい名前ではなかった。

「ん、来ていないのか?笹島の話を聞いて、会えると楽しみにしていたんだが。」

急に黙りこくった佐脇と、不自然に視線をそらす保馬を交互に見つめながら、不思議そうに坪田が呟く。
面倒くさそうな表情を浮かべながら周りを見回していた保馬が、一応といった様子で付け加える。

「新城少佐は新しい部隊の訓練で忙しいでしょうから、おいでになっていないのかもしれません。」

「それはないだろう。確かに主賓は君だが、彼も似たようなものだろう?」

取ってつけたような保馬の答えに、笹島が当然とも思える疑問を呈する。
そもそも、この場で新城の話をしたくない保馬は、この笹島の返答に渋茶でも飲んだような表情を浮かべた。

「……それもそうですね。」

何となく話をしたがらない保馬の空気を感じてか、自然と空気が重くなる。
特に佐脇などは、先程までは朗らかな表情を浮かべていたにも関わらず、あらぬところに視線をさ迷わせ、会話に入ってくる様子も見せない。
そもそも彼からすれば、新城の友人と交流をする気などさらさらなかった。
今彼がここに残っているのは、去り際を図りかねているという理由だけだ。

「あの方は違うんですか?」

そんな空気を察してか笹島の妻、松恵が夫にしか聞こえない声でささやく。
笹島の服の裾を引っ張りながら彼女が指す先には、庭園の隅で所在なさげに立っている、新城と個人副官の姿があった。

「よくわかったね、おまえ。」

「あまり体格がご立派ではないという話でしたので、もしかしたらと。」

「どうかしましたか?」

周囲の空気に遠慮して、小声でしか話さない笹島夫妻に、これ幸いと保馬が話しかける。
その辟易した表情からは、この空気にうんざりしていることが窺えた。

「すみません、あちらに知り合いを見つけたので、席を外させていただきます。」

佐脇と保馬に向け一礼した後、保馬にだけわかるように笹島は軽く目配せをする。
笹島の視線の先に新城の姿を見つけた保馬は、小さく頷きどうぞと返した。

「ん?それじゃあ俺も、席を外させてもらうか、。」

この場での会話にさしたる興味を持っていなかった坪田は、無条件で笹島に続き、彼の妻もそれに習った。
その後姿を興味もなさそうに見ていた佐脇は、彼らの肩ごしに新城の姿を見つけ、再び苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「……それでは保馬さん、また新しい部隊で。」

先程の不機嫌そうな表情から多少は取り繕った表情で保馬に向き直ると、佐脇は一礼するとその場を去っていく。
彼にしても、いつまでも保馬との雑談に興じられるほど、時間に余裕があるわけではなかった。

「……あ~、終わった。ったく面倒だな、色々と。」

周囲に誰もいないことを確かめ保馬は呟く。
彼にしては珍しく心の中ではなく、声に出しての愚痴であった。

「目下最大の問題だな、こりゃ。……とりあえず情報集めないと始まらないか。」

アレクサンドロス作戦まで1月半だし時間がね~、そうぼやく彼の声は、彼以外の誰にも聞こえることはなかった。






佐脇と話すこと自体は苦痛ではないのだが、その会話に新城が絡むとどうしても面倒くさいことになる。
そんなことは前からわかっていたし、こちらとしても話題は避けるように努力していた。
まあ、今回のは不幸な事故だな、不幸な事故。
佐脇がここに来るだろうことは解っていたし、新城がここに来るだろうことも解っていたんだから。
……というか、佐脇の立ち位置はどうなるんだ?
んで俺はどう動けばいいんだ?
新城の義姉が殺されるのを防ぐべきなのか、防がないべきなのか。
原作通りに行くなら放置していた方がいいんだが……流石にそうもいかんよな。
そもそも第11大隊の状況、生存者の人数からして違うわけであって、佐脇が配属されるのか……いや、守原の介入があるかという時点から考えた方がいいのか?
配属されたとしても先が読めないし、配属されないなら尚更先は読めない、挙句虎城での戦闘次第で流れは容易に変わるし、保胤様の体調次第ではイベントが起きない可能性もあると。
俺としては原作通りに行って欲しいんだが、いずれにせよお先は真っ暗って感じか。
……成人した辺りで有り金持って、アスローンに亡命すればよかったかな。

「……疲れた。」

一度も口をつけていなかった杯の中身をちびちびと飲みながら、庭園の隅の方へと移動する。
果実酒のほんのりとした甘みが口の中に広がり、少しだけ、もやもやとしていた心を癒してくれたような気がした。
生前はたいして酒を嗜むこともなく生き絶え、こちらに来てからも意図的に飲む機会を避けていたため酒には明るくないのだが、こんな酒なら毎日飲んでもいいかも知れない。

「なあ、曹長。」

俺を気遣ってか、すぐ側まで来ていた高橋に呼びかける。

「何のことを言われているのかさっぱりですが、その果実酒なら油州の梅を原料にしています。今年の物は随分と出来がいいそうで、ここ数年でも一番のものだとか。」

わかっているじゃないか。
こちらの言いたいことを理解しているにも関わらず、余計な一言を続ける。
彼らしいと、苦笑が溢れた。

「ふーん、詳しいんだな。」

「自分は軍人でもありますが、家令でもありますから。」

「そう聞いてはいたけどね、どうにも実感が湧かない。軍人と家令の両立なんてできるもんなのか?」

「軍人兼使用人と言う方は多いですけれど、軍人に本分を置いている方は、あまり見受けられませんね。保馬様は、守原家陪臣の草浪中佐と言う方を知っていますか?」

「評価すべき軍人だと聞いている。もちろん、守原であることを除いて、だが。」

軍隊に入ると、自然と出来る人間の名前は耳に入ってくるものだ。
高橋が口にした草浪中佐、それ以外にも笹島中佐や新城の噂も耳にしたことがある。

「あの方は兵部省に勤めておられますが、滅多にそちらの仕事をなさることはありません。基本的には、守原の裏仕事をされていますので。」

今の言葉で、高橋の言いたいことが理解出来た。
つまり軍人であっても、軍の仕事をしない人間が相当な数いると言うことを言いたいのだろう。

「曹長もその手合いだと?」

「もう少し軍事に偏っている事を除けば、似たようなものです。」

こちらの質問に対し終始淡々と答える様は、幼年士官学校にいた頃の曹長と言うより、家の家令である飯島の姿を彷彿させる。
なるほど、この知識の広さと、感情コントロールの能力が、益満家の家令に取り上げられた要因の一つなのかも知れない。


「家令ね、具体的に何をしてるのさ?」

「色々ですね。護衛や諜報、口に出せないことまで。……それでは、自分は仕事に戻ります。ご加減もよろしいようなので。」

言われて気づく。
人と会話したことで、随分と気分が落ち着いたらしい。
酒が程々に周り、思考が鈍っているのもプラスの要素かもしれない。

「わかった、曹長も元気で。また新しい部隊で会おうな。」

「はい、自分もそう願っております。」

最後の言葉だけは、軍隊のですあります調で答えた高橋は、少し照れたような笑みを浮かべると背中を向けて去っていく。

「ふぅ、新城のところにでも顔をだすかな。」

新城の方へと視線をやると、新城と天霧冴香らしき女性?笹島夫妻とその息子に、坪田夫妻、駒城夫妻まで揃い、庭園の一角を完全に占領していた。
笹島の息子のリクエストなのか、千早が新城の近くに座っており、周りの客は恐ろしいものでも見るかのように、その集団を見つめている。
……ん?ってことは。
試しに空を見上げて見ると、太陽をバックに細長い蛇のような影が、空を飛んでいるのが見えた。

「……良かった、ここは原作通りなんだな。」

数分後、導術による声が響き、会場が一時騒然となる。
天龍が来たのだ、無理もない。
皇都に住んでいては、天龍など見ることも無いだろう。
そんな非日常的な現象にも動揺することなく、新城は坂東さんの声に返答をしたのであった。





一時は騒然となっていた庭園も、1尺もする頃には落ち着きを取り戻していた。
やってきた天龍に悪意があるわけではないことがわかったからだ。
天龍と人間の距離が詰まってきた現代においても、天龍に神秘的なものを想像する人間は少なくない。
そして、神秘性と言うものは得てして無知と表裏の関係にあり、無知は恐怖を喚起するからだ。
その点において、前龍族代表の息子であり、現龍族利益代表の弟と言う坂東の地位は、彼らを安心させるに足るものがあった。

「にしても驚いたな、君の交友関係は天龍にまで及んでいたのか。」

互いの挨拶が終わったところで、笹島が新城に耳打ちする。
内地に帰還して以来、彼らはすでに幾度か顔を合わせていたため、口調は大分砕けた口調であった。

「何のめぐり合わせでしょうね?自分の交友関係の狭さは、誰にも負けない筈なのですが。」

よく言う、といった様子で笹島は鼻を鳴らす。
今新城の周りにいる人間の多さを考えれば、交友関係が狭いなど、冗談でもなければ言えないはずだからだ。

「ふん、今日の主賓が君であるかのように見えるほどだよ。」

この場所には多くの人間がおり、先程までいなかった保馬も既に合流している。
それ以外にも、駒城家当主篤胤、その嫡子である保胤と側室の蓮乃、彼らの娘そして乳母、保馬に坪田、笹島、天龍、剣牙虎までいるのだ。
その人数は13人と一匹にも昇る。
そして、彼らの接合点となっているのは、間違いなく新城であった。

「……不思議な話です。」

気恥ずかしさを感じたのか、新城が顔を背けながら答える。
おおよそ彼らしくはない反応であった。

「まあいいさ、それにしても……」

笹島が新城とは別の方向に視線を向ける。
その視線の先には、妙に熱く議論を交わす、保馬達の姿があった。

「一体あいつらは何を話しているんだ?」

良く良く見れば、彼らの議論の中には、篤胤まで入っているように見える。
どこから持ってきたのか、大きめの用紙と木筆まで持ってきて話しあう様は、彼らに大分酔いが回ってきているのだろうことを伺わせた。

「おう、お前ら。ちょっと来てくれ。」

ちょうど視線のあった坪田が、手招きをする。
断る理由もない笹島と新城は、言われたとおりにそちらへ寄って行った。

「この地図を見てくれ。」

彼らが集まっている机、その中央には龍口湾から伏龍平野、挙句は虎城山地にまで至る巨大な地図が広げられていた。
既に木筆で様々なことが書き込まれており、紙には軍を意味する様々な記号が並んでいる。

「龍口湾に帝国軍7万が上陸、湾口から既に数十里の縦深を確保しているが、兵站は完成しきってはいない。そして1週間以内にこの数は15万を超える。なお現在龍口湾付近に戦列艦100隻が展開中。対するこちらは即応可能なのは龍州軍等5万。初期上陸の阻止に失敗したため、若干の被害は出ているが緩やかな後退により、指揮系統の混乱はなし。駒洲軍と背洲軍、護洲軍は現在戦線へ移動中。近衛総軍は戦線に到着しており、現在総予備。現在上陸から2日目だ。この状況ならどうする?」

一瞬何のことを言われたのか、笹島には理解することが出来なかった。
その理由は3つある。
なぜこんなところでそんなことを話しているのか
なぜそれを全員が大真面目に考えているのか。
そして、なぜそれを口に出すのが、駒城家当主なのか。
隣の新城も、同じことを考えているようで、呆れたように額に手を当てていた。

「直衛でも君でもいい、早くしたまえ。」

篤胤が笹島を急かす。
いつの間にか机に向かう全員の視線が、全て彼ら二人に集まっていた。
このような状況の場合、どのように反応すればいいのか。
図りかねた笹島が助けを乞うように新城の方を見ると、意外なことに彼は笑みを浮かべていた。

「では僕から。」

新城が前に歩み出る。

「2日目にしてここまでの縦深が確保されている、しかし後方が安定していないと言うことは、帝国の戦線が異常なまでに広がっていると言うことを意味します。にも関わらず兵力は7万。すべての方面に十分な兵力が配分されているとは思えません。ならば話は簡単です、他の軍を待つ必要はありません。銃兵による正面攻撃で敵兵を一箇所に牽引、その上で騎兵による迂回戦術を行い、龍口湾最深部に突入させます。」

紙に簡単な線を引きながら、新城は答える。
もちろん現実はここまで簡単ではない。
ここに到るまでに様々な手続きや、不確定要素を乗り越えなければいけないからだ。
それを含めて考えても、新城の解答は十分実現可能で、かつ効果的な内容であった。
新城の答えに篤胤は満足そうな表情を浮かべる。
彼の考えと新城の考えが、概ね合致していたのだろう。

「それが阻止されたらどうする気だ?向こうには龍がいるんだぞ。」

そして、それに真っ先に食いついたのは保馬であった。
傍目から見てもわかるほど顔を赤くしており、若干呂律も怪しい。
おそらくはこの中で一番酔っている人間だろう。

「騎兵による迂回戦術、それが失敗したら龍州軍は包囲されて壊滅する。それに敵に龍がいる以上、危険な手札は切れない。縦深陣地の構築による遅滞防御を行い、敵兵站が伸びきったところでそれを絶った方が、よっぽど危険性が無い。」

すでに幾度か話した内容なのだろう。
彼が酔っているわりに、その言葉は淀みなく放たれた。

「運動戦なんて馬鹿馬鹿しい。陣地帯の構築こそが、最良の手だ。」

「そうは言うが保馬、陣地を築くだけの時間的余裕が存在するか?そんなものを作る間に、騎兵師団に戦線を突破される。」

新城が素早く反論を行う。
やはり彼らしくはない行動である、とどのつまり、彼も酔っているのであった。

「騎兵師団のみが突出して来るのか、それなら好都合だ。数の優位を使い包囲殲滅すればいい。」

「帝国がそう簡単にやらせると思うか?それに騎兵だけではない、帝国猟兵は1日の間に60里以上を走破するぞ。」

「なら龍州軍を時間稼ぎに使い、駒洲、背洲、護洲軍を再編成。虎城山地を盾に、防御陣地を築く。」

「その必要はない、龍洲軍による戦略的、戦術的行動で、全ての問題は解決することができる。不要に国土を疲弊させる必要はない。」

「国土の疲弊?それに気を使うのは良いが、帝国と野戦でぶつかるなんて正気の沙汰じゃない。天狼原野での戦と同じことが伏流平野で起こるぞ!?」

「速やかに前線を動かせば、伏龍平野直前で敵と接触できる。敵は船であり砲の運搬は制限され、逆にこちらは天狼以上の砲を投入できる。平野以外での戦闘ならば、それほど一方的になることもないはずだ。」

保馬に触発されて熱くなってきたのか、新城も強い口調での反論を始める。
議論を行う様は、互いが敵であるかのようであった。
その様子を見た笹島は、面白く感じながらも、二人の思想の根底にある、ある物に気づいていた。
それは、新城が運動戦を重視しており、保馬は陣地戦を重視していると言うことである
そして共に火力の集中を非常に重要視しており、隊形をゴミのようなものだと考えていると言うことであった。

「面白いな。こんな場でもなければ、ここまで率直な意見は聞けなかっただろう。」

いつの間にか笹島の近くに来ていた保胤が、彼に話しかける。
外見のわりに酒に強い彼は、酒に飲まれることがなかったのだろう。
あるいは、自身で飲む量を制限していたのか。

「……止めなくて良いのですか?」

「父が議論に参加しているんだ。私では止められないよ。」

既に議論は真っ二つに分かれており、積極策を唱える新城派と慎重派である保馬派になっている。
保馬派には彼と坪田。
新城派には彼と、篤胤、と言う様相である。
坂東は興味深そうに彼らの議論を眺めており、女性陣は呆れたような視線で彼らを見つめていた。

「にしても、ここまで軍事的方針が違うのに、よく北領で共に戦えましたね。」

「前半は運動戦、後半は陣地戦。戦闘の前半後半で、上手く分担が出来ていたと思うよ。私は。」

その言葉を聞いて、笹島はこの人も、彼らの根底にある思想を理解しているのだなと思った。

「……ですが、斬新すぎますね。」

彼らの会話は、遂に戦略面から戦術面に移行しようとしていた。
浸透突破だとか、散兵線、傘型戦闘隊形、突撃戦法、対地直協などという、よく分からない単語が盛んに飛び交っている。
遂に坪田と篤胤は脱落し、議論は保馬と新城の1対1となっていた。
もっとも本当に彼らが自分の言葉を理解しているのか、笹島からすれば怪しい限りであったが。

「そうだな、隊形の廃止なんていうものを、上層部がそう簡単に受け入れられるとは思えない。」

あんたも上層部でしょう、と言う言葉を笹島はすんでのところで飲み込む。
自分も酔っているのかも知れない、笹島はそう考えた。

「後ろ盾がなければ、二人とも悲惨なことになっていたでしょうね。」

「そうかもしれない、でもそうはならなかった。これはひょっとしたら皇国の幸いかもしれない。」

保胤は、どこか遠くを見るような視線で答える。

「それにしても、彼らの話は面白いですね。恐らく現在の軍制度よりも、1世代か2世代は先を行っている。」

保胤が保胤なりに、色々なことを考えていると気づいた笹島は、それを聞かなかったことにして、自然と話題を彼らの議論へと戻した。
少なくとも現時点で、笹島には天下国家を語る気はなかったからだ。

「……纏めさせてみるか。」

保胤が、顎に手を当てながら、軽い調子で呟く。

「何をですか?」

「虎城での対帝国戦を想定した防衛計画の作成だ。」

それは正しく、今彼らが焦点としていることであった。
議論の展開は互いの作戦が失敗した場合のシミュレーションへと移っており、現在は新城の作戦が失敗し、駒洲軍が虎城山地まで押し込められた場合の戦略について話し合っているようであった。

「なるほど、いいかも知れませんね。嫌な想像ですが、その展開ならありえなくも無い。」

実際この戦略は彼らが指揮官で、かつ仮想の状況で行われたものであり、その通りに行く可能性は限りなく薄かった。
しかし帝国の上陸後、皇国が虎城まで押し込められるという保馬の案ならば、あり得ない話でも無い。

「ああ。……せめて駒城だけでも国のことを考えなければ。」

保胤の口から零れた不吉な言葉を、笹島はあえて聞かなかったことにした。
それほどまでに、保胤のつぶやきは、不気味な色を伴っていのだ。






あとがき(長いので興味ない人は飛ばしてください。)

オリキャラの掘り下げがたらないですね~、琥珀さんじゃないのに……(書いていて自覚はありましたが……)
というか、人数が一定数を超えると動かしづらすぎる……坪田さんが生き残ってその妻が来て笹島夫妻と息子二人が来て佐脇と婚約者が来て駒城夫妻と娘と使用人多数と新城と冴香と坂東と千早と、挙句の果てに主人公、どないせいゆうねん。

さて、1話開きましたが、名前の件について。
色々なご感想ありがとうございました。変えるべき、変えなくていい、二つの意見がありどちらにしようか大変迷ったのですが、最終的には自分の都合で決めることにしました。
わざわざアドバイスまで貰っていて、この判断どうよ?って思ったなら、存分に叩いてください。私はMなのできっと喜ぶはずです。
閑話休題、とりあえずはこの名前で続けていこうと思います。理由に関しては長くなりますので、感想返しの冒頭で触れらせていただきます。
それでは。


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