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No.14803の一覧
[0] ある皇国の士官の話【皇国の守護者二次創作・オリ主・】  各種誤字修正[mk2](2010/06/12 21:06)
[1] 第二話[mk2](2010/06/19 17:45)
[2] 第三話[mk2](2010/06/19 17:45)
[3] 第四話[mk2](2010/06/19 17:46)
[4] 第五話[mk2](2010/06/19 17:46)
[5] 第六話[mk2](2010/06/19 17:46)
[6] 第七話[mk2](2010/06/19 17:46)
[7] 第八話[mk2](2010/06/19 17:50)
[8] 第九話[mk2](2010/06/19 17:47)
[9] 第十話[mk2](2010/06/19 17:48)
[10] 第十一話[mk2](2010/03/10 01:31)
[11] 第十二話[mk2](2010/03/26 05:57)
[12] 第十三話[mk2](2010/06/19 17:50)
[13] 第十四話[mk2](2010/06/19 17:50)
[14] 第十五話[mk2](2010/04/24 13:20)
[15] 第十六話[mk2](2010/05/12 21:52)
[16] 第十七話[mk2](2010/06/12 20:32)
[17] 設定(色々減らしたり、整理したり)[mk2](2010/06/12 01:32)
[18] アンケート結果です。[mk2](2010/01/25 22:55)
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[14803] 第十五話
Name: mk2◆b3a5dc4d ID:ca905ed0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/24 13:20
人間は疲れていても、寝ることの出来る時間に限界がある。
そうひしひしと感じさせられながら起きるのは、あまり気持ちの良いものではない。
なにせ疲れていることを自覚出来るくらいには体が重いのだ。
長い船旅のせいで、体中の筋肉はこわばっているし、波の上では熟睡もできなかった。
まあ、そんな生活を1週間すれば、大概の人間は体が軋むようになるだろう。
にもかかわらず、眠気はないのだ。
体が休息を欲していることは理解できるのに、最も手っ取り早い休息方法ができないとはこれいかに。


しょうがないから意地でも眠ってやろうと、春用の薄い掛け布団に顔を埋めた時、戸を叩く音が聞こえた。
起きようか起きまいか、僅かに逡巡し、とりあえず無視することにする。
どうせ祖父や父ならば勝手に入ってくるし、それ以外なら大抵は入ってこない。
再び扉を叩く音が聞こえ、一拍おいた後扉が開かれる。
慣れた動作らしく余分な間はなく、しかしこちらに気を使った丁寧な動作。
……とくれば一人しかいないか。

「保馬様、体をお起こしになってください。」

ベッドの枕元に近い位置から、聞き慣れた女性の声が聞こえる。
随分と長い間聞いていなかった気がするが、それでも声色で聞き分けられるくらいには聴き馴染んだ声。
ここ数年間、俺専属の使用人をしてもらっている女性の声だ。

「既にお目覚めなのは知っています、どうかお早く。」

「……なんでわかったの?」

ゆったりと上半身を起こし、重い目をこすりながら問いかける。

「保馬様は基本寝返りをすることがありません。にもかかわらず、戸を開ける少し前布団を動かす音が聞こえました。この時点で保馬様が本当にお目覚めになっているかはわかりませんが、お目覚めになっている可能性が生まれます。そして戸を叩いた後、大抵保馬様はこの時点でお目覚めになります。さらに戸を開けた時点で、保馬様が目覚めていなかったことは過去にも数回しかありません。そして目が覚めた直後、保馬様は寝返りをお打ちになります。しかし今回はそれがありませんでした。つまり私が枕元に立った時点、で保馬様がお目覚めになっている可能性は非常に濃厚でした。」

使用人の卯月涼子は、全く途切れることなく上記の言葉を喋りきった後、ということで証明終了です、と満足そうな笑みを浮かべながら付け加えた。

「……探偵事務所でも開けば?」

「ご存じないのですか?益満家程度になると、使用人の棒給もかなりのものなのですよ?」

給料高ければ探偵業をやるのか?
別に皇都に20種類の顔を持つ怪盗や、夜会服にシルクハット、モノクルをつけた胡散臭い紳士、見た目は子供頭脳は大人とか言っている、出会ったら死ぬ少年なんかが跋扈しているわけじゃないのに?
ってか皇国に探偵業ってあったんだ。
こちらの心の中のぼやきを知ってか知らずか、本気とも冗談とも取れる曖昧な笑顔を彼女は浮かべている。

「まあいいや、それでどうして呼びに来たの?」

生返事を返しながら、枕元に置いてある時計に目をやる。
午後2時、帰ってきてから半日ほど寝ていたらしい。
それだけ寝たのに体の疲れが落ちないと言うのも、なかなかにやばい話だが。

「ご友人の方がおいででしたので、それをお知らせに。」

「……友人ね。」

自慢じゃないが交友関係は狭くない。
商売関係で知り合った人間を含めれば、100人近いだろう。
おかげで挨拶回りの人間が頻繁に来て、結構迷惑している。
基本的にアポなしの訪問は全てはじいているのだが、どうしてもそれ以外の連中も来る。
今回もそのたぐいの人間だとしたら、取次がずに弾いて欲しいんだが。

「誰なの?」

「新城様と槇様です、流石にその程度の方以外は弾きますよ。今日だけでどれほどの人が来たことか。」

こちらの声色に含まれた不機嫌な感情を察してか、卯月もため息を吐き大仰に肩を竦める。
ああ、なるほど、卯月も苦労してたのか。

「因みに会いたいというお申し出は全てお断りしていたにも関わらず、既に今日だけで20人はこちらに来ています。」

うわぁ、そんなに来たのかよ。
個人で研究所を起こしている衆民の中から、将来有望な研究を行っているのを会社で雇ってから、売り込みが激しいんだよな。
それ以外にも商売の方に出資してくれだとか、こっちの作っている研究に参加させてくれだとか、蓬羽と大周屋と家のグループに混ぜてくれだとか。

「……寝かせておいてくれてありがと。」

「いえいえ、あくまで使用人ですから。それで、お会いになられますか?」

「会うよ、着替えを用意してもらっていいかな?」

とりあえず上体を起こしながら答える。
湯浴みをする時間はないな、とりあえず顔くらいは洗いたいけど待ってもらうのも気が引ける。
適当に身だしなみを整えれば、笑われはしないか?

「ここに用意しています。戦傷を患ったと耳にしたのですが、お一人で着替えられますか?」

「大丈夫だよ、もう治った。あの二人には少し待っていてと伝えておいて。」

「かしこまりました。」

そう返すと、卯月は一礼し退室して行く。
うん、これ以上は望めないほどできた使用人だ。
今までもそう感じていたが、久しく会っていなかった分それをさらに強く感じる。

「っと、待たせちゃ悪いな。」

とりあえず卯月が置いていった浴衣を羽織り、手櫛で髪を軽くすいた後部屋を出る。
ドアを開けた先は、完全に武家屋敷の趣だ。
俺の好みの関係で俺の使う部屋は洋風に作られているが、それ以外は当然のごとく和風である。
廊下に並ぶ扉はすべて襖か障子で、明かり取りの行灯が幾つも置いてあり、屋敷に備えられている庭園は専門の庭師が手を加えたもの。
杉なのか檜なのかは、あるいはそれ以外の木材なのかは分からないが、そんな感じの木の香りが屋敷中に漂い、耳をすませば水が流れる音が聞こえてくる。
こんなの前の世界じゃ、京都や奈良の神社仏閣を回った時とか、地方の旅館に泊まった時くらいしか見たことがなかったけど、こちらでは程度の差こそあれこれが標準だ。
建築には詳しくないから、日本における何時の時代の様式に近いのかとかは、さっぱりわからないけどね。


他家に対する配慮によりそれほど広くはない屋敷の中を歩いていると、一つの部屋の中からやけに特徴的な匂いが漂ってくる。
同時に聞こえてくる、男同士の雑談の声。
玄関に近いところにある、賓客用の客間からだ。

「煙草吸ってんのか、あんまりあの匂い好きじゃないんだけどな。……失礼。」

誰にも聞こえないようにぼやき、後半は襖の向こうにも聞こえるように声を出す。
客間には、卯月が教えてくれた通り、新城と槇が待っていた。
扉開ける音に反応したらしく、二人ともタバコを片手に持ったままこちらを振り向いている。

「おう久しぶりだな、見たところ痩せこけてもいないようだし、帝国での生活は快適だったか?」

「冗談にしちゃ黒すぎるな。もっとも、槇も運が良ければ、自宅で海外旅行が楽しめるかもしれないよ?」

出合い頭に槇の放った皮肉に、皮肉で返す。
ってかブラックジョークってレベルじゃないぜ今の?

「はは、ここが帝国領になったら、家は真っ先に取り潰しだろ。今のうちに美味いものでも食っとかないとな。」

こちらの憎まれ口も意に関せず、減らず口を叩ける才能はすごいな。
ここまで黒い冗談を吐けるのは、知り合いの中でもこいつくらいだろう。
新城なんて今のやりとりを見て、鼻白んだような表情を浮かべているし。

「大周屋の跡取りは、この国に骨を埋めるつもりで生きているのか。感心感心。」

「何だ貴様、亡命も考えているのか?」

俺に一言が気になったのか、新城が意外そうにこちらを見る。

「まさか、俺も味方に命をねらわれるなんてことが無い限りは、この国で生きていくさ。」

敗戦が濃厚になってきたときに、国が人身御供として味方を犠牲にするなんてことは珍しい話じゃないが、俺にそこまでの価値はないだろうし。
まあ、各将家や皇族なんかが、もし皇国が滅んだときにどこに逃げようと考えているのかは、気にならないことも無いが。
やっぱアスローンかな、それとも南冥?WWⅡ後の日本みたいに、戦後仮初の統治者として君臨する可能性もあるんだろうか?
皇国の象徴みたいな。

「ないな、あり得ない。」

「あん?」

無意識の内に独り言が漏れていたらしく、槇と新城に怪訝な顔をされる。

「いや、何でもないよ。」

「そうか、それならいいんだが。ところで貴様そろそろ座らないか?後ろの彼女も入りにくそうにしているが。」

は?と思い後ろを振り向くと、開けっ放しの襖の向こうに、様々なものが乗った大きな盆を抱えて思惑顔を浮かべている卯月がいた。

「っと、ごめん卯月。」

「いえいえ、お気になさらず。来たばかりですから。」

襖の前から離れると、その目の前をバランスが悪そうに卯月が通り過ぎる。

「それは?」

「何を持ってくればよいか迷ったので、とりあえず持てるだけ持ってきました。好きなものを選んでいただければ。」

盆の上には急須やティーポット、酒瓶など様々な飲み物が用意されており、それ以外にも、パンやサンドイッチ、煎餅などの菓子も揃っている。
朝食、というより昼食をとっていない、俺への配慮からだろう。

「申し付けて頂ければ夕食も用意します。お望みでしたら、4時までにはお申し付けください。」

こちらが断ると知っているからだろう、酌をしようかとは尋ねず、そのまま退室する。

「良い使用人じゃないか、なにより容姿が良い。」

襖が閉められて、開口一番槇が言う。
その手には何よりも先に酒瓶が握られていた。

「やらんぞ。第一お前は今の妻以外にも女をつくっているだろ?大抵そういう男に惚れてしまった女というのは不幸になるんだ。」

新城の杯にも槇が酒を注ごうとするが、新城がいち早く杯を取り上げそれを未然に防ぐ。
流石に訪問そうそう、勧められていない酒を呑むのは、常識が反発したのだろう。
そのかわりに、珍しいものを見るような目つきで、紅茶を自身の杯へと注ぐ。

「誰もそこまで言ってないだろ。それより妙に強く反応するところを見ると貴様、あの使用人に惚れているのか?」

「女関係にだらしないから、そういう下衆な発想が浮かぶんだ。」

「ほお、ひょっとして貴様衆道趣味なのか?」

「やはり下衆だな、お前は。」

「まあ、気のきく使用人は良いものだ。家には瀬川しか使用人がいないからな。正直なところもう一人や二人使用人がいてもいいとは思うんだが、適役がいなくてな」

俺と槇の会話にうんざりしたんだろう、新城がやや強引に会話を切る。
まあ、新城はこういう感じの会話はしないしな。
新城の好む会話の傾向が、知的なものになりがちなのは、やっぱり新城を育てたのが釧路だからだろうか?

「うん?この前貴様が家に来た時、やけに美人な女を連れていなかったか?女の態度からして使用人の類だと思っていたのだが。」

……やけに美人な女?
新城がそうそう積極的に女付き合いをするとは思えないし、ってことは時期的には早い気がするけど天霧冴香か?

「あれは使用人ではなく個人副官だ。」

「個人副官!?ってことは両性具有者か!?」

はぁ、と槇が呆れたように息を吐き出す。
まあ確かにな、両性具有者だし。

「貴様その年齢で所帯も持たないと思っていたら、そういう趣味だったのか。保馬の事を笑えんぞ?」

「いや、笑うなよ。」

ゲイの人を差別する気はないけど、そう思われるのはちょっと……。
それに確証はないがお前年上趣味だろ、人の事笑えるのか?

「趣味というほど軽薄なものではない。もっとも、自分がどれほど入れ込んでいるのかもわからないのだが。」

えっ?できてるの?
早くね?

「チョッチ待て新城、その副官にお前は世間一般的な扱い方をしてるのか?」

此処で言う世間一般的な扱いとは、言ってしまえば愛人としての扱いだ。
美形ぞろいで、両性具有者以外の人間を妊娠もしない彼ら、彼女らは、皇国に置いては一般的にそのような扱いとなっている。
掘るも良し、掘らせるも良しってやつだ。
原作において新城が冴香とそのような関係になったのは、時系列的にもう少し後のことだと記憶していたが。

「どうしても貴様は下の話をしたいらしいな。」

呆れたように新城が溜息をつく。
いや、個人的には結構重要な問題なんですけど……。
あれ、でも冴香の存在って意外にどうでもいい?
重要なイベントには出てるけど、これといって重要な役割を果たしてるわけじゃないし。

「ふん、それにして貴様が副官を与えられるか。どうして一介の少佐ごときに、そんなものが与えられる流れになったんだ?」

物と言う言葉に、新城が一瞬眉をひそめる。
これは……できてるな。

「彼女の姉が実仁殿下のところにいて、俺と密接に連絡を取れるようその片割れを寄越した。ということらしい。」

ふーん原作と一緒か。

「そう言えば、貴様の新たな配属先は近衛だったな。こいつが捕虜にならなければ、お前は近衛には配属されなかったわけか。」

「いや、俺は益満家だからね。この戦いの前は駒洲軍に剣虎兵の受け皿がなかっただけで、今はなんの問題もない。俺は生き残った時点で、駒洲軍への配属が確定してるさ。」

原作において新城が近衛に行ったのは、恐らく駒城と皇家のメリットが重なったからだろう。
新城が近衛に入らなかったら、十中八九守原の手で左遷されていただろうし、実仁親王は実仁親王で優秀な手駒が欲しかったのだろう。

「なるほど、駒城も貴様をかばいかねたと言うわけか。近衛は快適か?」

「一部を除けば、なんの不満もないな。ここまで俺を自由にさせるのだから、実仁殿下の期待も相当なものだよ。」

新城が淡々と答える。
まあ士官の大半を、自分好みではないからと言って入れ替えられるのだ。
快適じゃないはず無いだろうな。

「ところで一部って何だ?」

ただ、そんな環境でも新城は不満があるという。
近衛で新城が行っていることを槇は知らないだろうが、新城の不満と言う点に彼も興味をそそられたらしい。
先程の馬鹿話をしていた時とは違い、目が商人の物になっている。

「保馬、貴様が寄越した新型の臼砲、あれは近衛では使いものにならん。」

考えこむように一拍おいた新城は、すぐに顔を上げ答える。

「臼砲って、迫撃砲のことか?」

「そんな名前だったか。あの臼砲、弾をバカ食いしすぎる。近衛の脆弱な兵站では、あれを維持できない。」

マジすか……。
兵站ですか……。

「俺は保馬と違って、そっちの兵器にはあまり関わってないんだが、そんなに弾を使うのか?」

「使うなんてものじゃないぞ、あれは。弾を筒に落とし込むだけだから、やろうと思えば1寸(皇国世界においては、時間に100進法を用いているため1寸は1/100刻になります。なお原作では明言されておりませんが、このssでは1時間=1刻と仮定して表現させていただきます。)の内に3,4発撃ち放つことさえできる。」

ふーん、まあそんなものか。
さすが迫撃砲、キチガイじみている連射率だ。

「で、それを維持できる兵站が無いと。」

俺の問いに新城は黙って頷く。

「恐らくあれは、今の軍事機構だと拠点の防御時くらいしか使えないんじゃないか?」

……新城の返答に唇を噛締める。
となると現在の独立大隊や、独立連隊の輜重段列では、早々に物資が困窮するわけか。
自分が若いのが悔やまれるな。
まともに部隊を指揮したことが無いから、どの程度のさじ加減で部隊を編成すればいいのかがわからん。

「つまり永続して、安定した補給が行える場所のみでの使用か。」

それを解決するとなると、連隊付きの兵站部隊を拡充するしかないが、新城のように機動戦を好む軍人からしてみれば、長ったらしい輜重段列なんて迷惑なだけだろう。
それに加え、剣虎兵の部隊はただでさえ馬が使いにくい。
騎兵砲を人力で曳かなければいけないことさえあるのに、弾の山なんて運べないか。

「他に迫撃砲に関して問題はあるか?なにぶん試作品に近い先行量産型でな、どんな不具合があるのかわからないんだ。」

「不発が多い事くらいだな、それ以外ケチを付けるところは見つからない。」

おお、すげえ。
もっと暴発とかして、人が死んだりしてると思ったのに。
不発はあれだな、もう少し信管のシステムを変えて、雷管や撃針の素材を変えないとな。

「ちょっと聞いていいか、その迫撃砲ってやつはなんだ?」

俺と新城の会話からおいてけぼりになりかけていた槇が、タイミングを見計らい口を挟んでくる。

「新しい構想のもとに作られた、銃兵の随伴砲だよ。槇にも1度話したことがあるはずだけど?」

「そうだっけか?」

「兵器開発は3社合同で進めてんだから当たり前だろ。量産は家だけじゃできないから、そっちと蓬羽にも書類は送ってあるんだぜ?」

蓬羽なんて、これの性能を軽く語っただけで、スッポンのように食いついてきたっていうのに。
まあ大周屋は、兵器開発にはあんまり興味がなくて、出資オンリーだから仕方ないけど。

「色々やってんだな、お前のところは。」

新城が感心したように呟く。

「将家ってだけじゃ、生き残れない時代がくるだろうから、金のある内に先んじておこうと思ってね。」

もっとも、小銃や迫撃砲、鉄条網に鉄帽など、試作品を作ったのはいいものの、どれも制式採用されていないから大赤字だけどね。
ほんと、普通の商家だったら、首吊って死ぬところだわ。

「そう言えば、貴様が関わっている試験艦の公開実験がもうすぐだったっけか。」

「うん。あっちは水軍に気に入ってもらって、援助でも引き出さないと計画が潰れるからさ、こっちも必死なんだよね。」

船作ったのはいいけど、黒字になる要素がなくて、大赤字だもんな。
人件費はそれほどじゃないんだけど、まさか造船があんなに金がかかるとは。
新型艦砲の集中配備を狙った蓬羽が積極的に支援してくれていなけりゃ、益満家ごと潰れるレベルの出費だったし。
この戦争で、会社の業績が上向きになればいいな。
……無理なら技術を全部売って、撤退するしかないし。

「帰ってきて早々、忙しそうだな。7日後には駒城家主催の、帰還祝賀も行われるという話だが。」

新城が呆れたように呟く。

「ふ~ん、帰還祝賀ね。2回目?」

「いや、1回目だ。貴様の生死さえわかっていない状況で、帰還祝賀などできるはずも無いだろう。」

それもそうか。
自分が駒城にとって重要とは思わないが、益満家は重要だろうし。
じゃあ大まか原作通りになるのかな、帰還式典は。

「なのに奏上はやったのか。」

「済まないとは思っている、本来ならば俺がこなすべきではなかった。」

本当に済まないと思っている様子、面倒事を押し付けられることは多いが人の功績を横取ることはしない新城のことだ、こんなこと始めてだったのだろう。
もっとも本人が今回の件を名誉なことだと思っているはずはないし、今現在の俺への謝罪も一般的な価値観に沿っての行動だとは思うが。

「責めてるわけじゃないさ。それに、大変だったんだろ?」

「おかげさまで、守原にかなり恨まれているらしい。一度命も狙われたしな。」

すいません知ってます、代わってあげる気はないけど。
新城が恨みを背負ってくれているお陰で、命の心配をする必要が無くなったし。
きっと今なら、夜の皇都を一人で歩いても、物取り以外には襲われないだろう。

「ご愁傷さま、良い護衛でも雇うんだな。紹介しようか?」

「いや、いい。副官が大分腕のたつ奴でな、半端な護衛よりは余程強い。」

すいません知ってます、わかってて聞きました。

「ほう?こいつとどちらが強い?」

槇が新城の一言を聞き、楽しそうに俺の方を指す。
こちらに来てから、嫌というほど剣術は教え込まれたため、そこら辺の奴よりは強い自信がある。
とは言っても、学生の頃に体験した剣道に似たような剣術で、どれほど実用性が高いものなのかはよく分からないが。
教えられたとおりにやると木刀を正眼や大上段で構えことになるが、そもそも鋭剣を両手持ちすること自体少ないし。

「わからない、ただ俺よりは強いと思う。」

「ふーん、なあ両性具有者って、筋力的にはどっちよりなんだ?」

「俺だって会ってからそう経っていない、わかるものじゃないさ。ただ、副官とは言っても軍人になれるほどだ、並の女性と同程度と言うことはないだろう。」

ふと気になって聞いてみたが、新城から明快な答えは得られない。
そういや、両性具有者ってあんまり見ないよな。
保胤様や篤胤様はもちろん、俺の父や祖父も付けてないし。
副官が貰える階級ってどこからだっけ?

「……まあ、そういうのに入れ込むことを悪いとは言わないが、貴様はそろそろ正妻を見つけた方がいいぞ?」

話が一段落したところでこぼれた槇のつぶやきに、新城はちょっと傷ついたような表情を浮かべた。







駒城家下屋敷、その一角で二人の男性が話し合っていた。
一人は駒城家次期当主であり、新城直衛の義兄弟でもある駒城保胤。
一人は益満家現当主、益満敦紀である。
駒城派内部において、重鎮中の重鎮と言ってもよいほどの地位に就いている二人が会談をするとなると、何か重要な案件が取り上げられているのではないかと考える人間は少なくない。
実際、重要な案件が取り上げられる場合、この二人は呼ばれないと言うことは、まずありえないからだ。
もっとも今回に限って言うならば、特にこれと言った重要な話をしているわけではなく、駒洲の経済や皇都の流行など取留めの無い歓談を交わしているだけである。
この二人に限って言えばこういったことは珍しいことではなく、年齢こそ離れているものの、二人の主従関係の長さゆえにこのように私的な場を設けられることは珍しいことではなかった。

「そう言えば、保馬君の様子はどうだった?」

そんな歓談の間を縫い、何気ない風を装って保胤が尋ねる。

「元気でしたよ。戦傷を負ったという話でしたが、障害も残っていないようでしたし。」

茶飲み話の延長だと認識したらしい敦紀は、保胤のその態度には気付かずに、当たり障りの無い返答を返す。

「いやそういった意味ではなくて……今回の処理を不満には思っていなかったか?」

だがその答えは、保胤の望んでいたものではなかったらしい。
言いづらそうに視線を下に落とした後、慎重に言葉を選ぶように付け加える。
つまるところ保胤の尋ねたかった情報は、そこに集約されていた。

「……先日の奏上の件ですか。」

そこまで言われて、敦紀も理解したらしい。

「既に奏上の件は耳に入っていたらしいですが、それを気にしたような仕草は見られませんでしたよ。とは言ってもあれは、正の感情は率直に示しますが、負の感情はあまり表に出しませんから、断言はできませんが。」

考えこむようにアゴ髭を撫でながら、敦紀は慎重に答える。
保馬が帰ってきてから既に3日ほどが経過しているが、保馬自身がその話題を持ち出したことはなかったし、敦紀が奏上の件を伝えた時も特に大きな反応は示さなかった。

「そうか……とするとどうすべきか。」

敦紀の返答を受け、保胤も思考をまとめようとするかのように、額に手を当てる。
実際この問題は、処理を誤れば駒城内部における内部分裂さえ誘発しかねない、相当にナイーブな問題であった。

先日行われた、新城直衛による奏上。
本来ならばこの奏上は益満保馬によって行われるはずであった(事情はどうであれ、指揮官は彼であったのだから)。
だが、それが行われることはなかった。
その理由としては二つのことが上げられる。
一つ目の理由、それは益満保馬の生存が判明したのが僅か1月前であるということだ。
俘虜となっていた大多数の兵とは異なり、北部の港湾都市に抑留されていた彼の存在の判明は、必然的に遅くならざるを得なかった。
結果的に奏上の日程は大幅にずれ込むこととなり、益満保馬の内地への帰還などにかかる日数を考えれば、6月台になると見込まれていたのだ。


もっとも、奏上に特にこれと言った目的がないならば、このスケジュールにはなんの問題もない。
しかし、駒城派にはこの奏上を早期に行わなければいけない理由があった。
それが二つ目の理由、守原が中心として計画している夏期総反抗の阻止である。
この計画の主眼は、北領を奪還するために総軍をもって帝国を撃破することである。
しかし、陸上戦力、水上戦力、その両面において大きく帝国に劣る皇国がこれを行った場合、皇国の滅亡は避けられないだろう。
それを阻止するためには、奏上の場において夏期総反抗の反対を謳い、皇主自らの反対意見を引き出す必要性がある。
それを行うのが6月以降では話にならない。
駒城篤胤及び保胤は、益満敦紀、明紀両名の同意を取り付けた上で、奏上の早期実行を決断。
結果代理として、新城が奏上を行う手はずとなったのだ。


益満家当主の了承も得ており、新城直衛の同意も取り付けてある。
奏上の強硬に対しての、守原からの批判はあったものの、表向きの手順としては何の問題も存在はしていなかった。

「保胤様はあれが駒城に対して反感を持つことを懸念しておられるのですか?」

しかしながら、理屈面において問題が存在しないとしても、感情面においては問題が生まれる要素は十分にある。
普通ならば尉官や佐官風情では、皇主の尊顔を拝むことさえ叶わない。
にも関わらず奏上は、皇居深部の謁見の間において、あらゆる有力将家に囲まれ、皇主の眼前で自身の戦果を報告することができるのだ。
その瞬間においてのみ、奏上を行う人間は皇主に対し親しく接することが認められ、たとえどのような地位にいる人間であろうとこの瞬間を妨げることは叶わない。
将家衆民を問わず、全ての軍人の誉とも言える行事である。
それを本人の了承を得ずに、代理を立てて行ってしまった。
一般的な人間であれば、言葉にすることが困難なほどの怒りを覚えるだろう。

「当然の懸念と行ったら、お前は怒るか?」

保胤は目元を覆うように手をあてながら、溜息とともに言葉を吐き出した。
いくら皇国を救うためと言っても、今回の件は全て駒城が行ったものである。
そしてこの件に関しては、保馬に責はない。
情に厚い保胤からすれば、この相談を持ちかけること自体、非常に気がのらないものであった。

「いえ、その懸念は当然のものだと思います。特に青年期の男は無鉄砲な行動をとりがちですから。」

自分の若い頃を思い出したのだろう。
敦紀は苦笑いしながら、あれが若い頃の私と似ていたなら、間違いなく監視をつけるべきでしょうし。
と付け加えた。

「監視か、気が乗らないな。……いや、すまない、それはお前のほうだったな。」

自分が相手を不快にさせかねない言葉を発した。
それを機敏に察することができ、すぐに謝罪できるからこそ、従うことができる。
保胤と付き合った全ての者が感じる安心感を覚えながら、保胤の言葉を肯定した。

「つけるべきでしょうね、監視は。正直なところ、あれが絶対に駒城の味方であるとは、自分でも断言できないのですよ。」

「世界の全てが彼の敵になっても、家族だけは味方でなければいけないよ敦紀。それにこれは駒城が独断で行うものだ、益満は、お前の意見は一切関係ない。」

たとえ保馬がこの件に気づいたとしても、益満家内の和が乱れることがないように、自身が責を負うつもりなのだろう
それを察した敦紀は頭を深く沈み込ませた。








あとがき

この遅さは……どげんかせんといかん……。
一応言い訳をすると、1万文字超えるくらいまで書いて、何故か下ネタと麻雀のオンパレードになっていたんですよね……それで書き直したと言う。
公開しても構わないところだけ切り離して、外伝にでもしますかね。
そして、次の話ではなんと、みんな大好き佐脇君がついに登場します。みんな大好き佐脇くんが登場します。大事なこと(ry

ところで自分は着発信管は、あると思いますぜ、旦那。
だって着発信管がなきゃ、龍兵があんな戦果を上げられないと……

あ、感想はちょっと待ってください。
今日中に【356】までのご感想にはしますので。
それ以降は次話投稿時にします。

修正
15話における銃の描写が間違っていたので、修正しました。


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