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No.14803の一覧
[0] ある皇国の士官の話【皇国の守護者二次創作・オリ主・】  各種誤字修正[mk2](2010/06/12 21:06)
[1] 第二話[mk2](2010/06/19 17:45)
[2] 第三話[mk2](2010/06/19 17:45)
[3] 第四話[mk2](2010/06/19 17:46)
[4] 第五話[mk2](2010/06/19 17:46)
[5] 第六話[mk2](2010/06/19 17:46)
[6] 第七話[mk2](2010/06/19 17:46)
[7] 第八話[mk2](2010/06/19 17:50)
[8] 第九話[mk2](2010/06/19 17:47)
[9] 第十話[mk2](2010/06/19 17:48)
[10] 第十一話[mk2](2010/03/10 01:31)
[11] 第十二話[mk2](2010/03/26 05:57)
[12] 第十三話[mk2](2010/06/19 17:50)
[13] 第十四話[mk2](2010/06/19 17:50)
[14] 第十五話[mk2](2010/04/24 13:20)
[15] 第十六話[mk2](2010/05/12 21:52)
[16] 第十七話[mk2](2010/06/12 20:32)
[17] 設定(色々減らしたり、整理したり)[mk2](2010/06/12 01:32)
[18] アンケート結果です。[mk2](2010/01/25 22:55)
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[14803] 第十一話
Name: mk2◆1475499c ID:ab34658f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/10 01:31
ソロモンよ~(ry
一体黒茶とはなんなのかと、コーヒー説とお茶説どちらが正しいのやらですよ。



北領と比べれば、幾分も雪の少ない皇国内地の弓勢湾に5隻の回船が入港する。
皇都に近く、別名皇湾とも呼ばれるここは、溢れかえらんばかりの人で埋まっていた。
北領での撤退戦を見事戦い抜いた部隊が、ついに入港しようとしていたからだ。
回船の上には、合わせれば千に届くかも知れない人数が乗っており、それぞれ彼らの家族や恋人などにそれぞれの方法で手を振っている。
それを迎える人々も、戦地から返ってきた兵を出迎える家族や恋人、その関係者、物見遊山の衆民、彼らを迎える軍監本部の人員など様々な種類がおり、港を埋め尽くさんとばかりの人数がいる。
その様子は、事情を知らない人間が見れば、凱旋式と間違えてもおかしくないほどのものだった。
回船が港に接舷し昇降板が降ろされ、そこを兵が降り始めると、割れんばかりの歓声が巻き起こる。


降りてきた兵は、そのまま帰還式典を行う会場まで行進し、そこで軍監本部による点呼が行われる。
事前に報告を受けているので、非常に簡易的なものだ。
それでも、新聞などで紹介された士官などの名が呼ばれると、歓声が起こる

「皇国陸軍独立捜索剣虎兵第11大隊大隊長新城直衛、以下583名。ただいま帰還しました。」

全員の点呼の最後に、指揮官である新城直衛の報告が行われる。
この時、人々の歓声が少し戸惑ったように途絶えた。
その報告を行った大隊指揮官の名が、彼らが知っていたものとは違ったからだ。
2月初旬以降、僅か一個大隊で後衛戦闘を行い続けた司令官の名は、情報通を気取った衆民でなくとも一度は耳にした名前である。
皇族でありながら率先して後衛戦闘を行った実仁親王と、益満家嫡子の名は皇都の隅々まで行き届いていた。
であるが故に、聴衆の大半は状況が理解できない。
といってもこれは衆民に限った話ではなかった。
もし衆民の中に注意深い人間がいれば、軍人の中にさえ戸惑ったような表情のものがいることに気づいたはずだ。


実際のところこの案件に関しては、未だに軍内部でも十分に情報が行き渡っていない。
なぜならば、この情報を持ってきたのが、彼ら自身を載せていた回船であるからだ。
第11大隊が北美奈津浜にたどり着いた時点で、既に転進司令本部は撤収しており、これら情報を報告する相手は導術でも届かない位置にいる。
また、水軍に導術兵が約200名しかいない現状では、回船にまで彼らを配備する余裕はなく、大瀬が隊列を離れた時点で導術を使えたのは第11大隊に配備されていた導術兵のみであった。
彼らとて、連戦続きで長時間大瀬の戦闘を索敵するほどの余裕はなく、また、回船自体も最大戦速で当該海域を離脱していたため、コンディション、距離、この両面でまともに情報を収集することが出来なかったのだ。
結果として、直接現場にいた彼らでさえ大瀬が降伏したという情報しか持っておらず、大瀬乗組員の安否に関しては一切不明という現状に至る。
この情報が軍監本部に届けられたのは僅か3刻前、衆民が知るはずも無い情報であった。


衆民の疑問を斟酌する必要はないとばかりに、儀式は淡々と進んで行く。
点呼を終え、軍監上層部の人間による話などが行われた後の論功行賞。
一部兵卒への報奨、勲章の授与。
特に、この激しい後衛戦闘を生き抜いた各士官には、それぞれ1階級特進と野戦銃兵勲章が与えられた。
それぞれに軍監本部の人間直々に賞賛の言葉が送られ、手ずから勲章をつけられる。
そのたびに歓声や拍手が起こり、どこか硬い表情をした彼らもその時ばかりは頬を緩める。
その待遇は、敗北した兵の通例の処遇とは、大きく異なるものではあった。


ただ、裏を返せばそれだけのことしか行われなかったという言い方も出来るかも知れない。
本来ならばこの式典はさらに豪華なものになる予定もあったのだ。
実仁親王が出席を望んだという噂も流れており、また駒城派の重要人物が2名いることから、凱旋式に近い規模のものになるのではという予想も少なくなかった。
軍監本部においても、皇国内に漂う陰鬱とした空気を打破したいという意図もあり、その流れで決まろうとしてはいたのだ。
守原が反対を表明するまでは。
表向きは、敗軍への分不相応な高待遇は相応しくないという形ではあったが、その実情はただの権力争いに過ぎない。
守原が侮られ、駒城の評判があがるというのは、彼らにとってはそれだけのことをする価値があることなのだ。
守原と関係の深い安藤がこれに賛成し、西原と宮野木が静観したことによりこの計画は暗礁に乗り上げ、結果妥協案としてこのような形で行われることとなる。
様々な思惑が絡み合った帰還式典は、結局半刻ほどで終了した。





小さくため息をつく。
北領を脱出して以来、今の事態に関しての悩みが絶えたことはない。
現状に悩むといった行為自体が現実逃避の一種であることは理解しているが、現状を打破しうる手段が無いのではこんな思考の堂々巡りも仕方が無いのだろう。
そんな勿体の無いことを考えて、高橋利幸曹長は小さくため息をついた。
彼を悩ませているのは他でもない、彼の上官の事である。
北美奈津湾からの脱出の際、益満保馬の乗艦していた大瀬は拿捕、または撃沈されたものと思われている。
断言出来ないのはそれらが全く確認されていないからだ。
実際のところ、現場にいた本人たちでさえこの程度の情報しか持っていない。
現在第11大隊に所属していた各士官が、軍監本部の人間から様々なことを聴かれているが、帝国軍に関してはともかく大瀬に関する情報はほとんど得られないだろう。

「生きて帰ってこられたというのに随分と不景気な様子ですね、どうかされたのですか?」

一人埠頭の片隅で頭を抱えていた高橋に、猪口が声を掛ける。
隣には彼の妻と息子を伴っており、その幸せそうな様子は見るものに何とも言えない倦怠感を感じさせる。
口調が敬語なのは軍務から外れているからだろう、年齢で考えた場合猪口の方が上で、先任曹長であるのも猪口であるからだ。

「……大隊長殿の件です。益満敦紀様やそのご家族にどのように報告しようかと。」

「そのことですか、そういえば高橋曹長は益満家の家令も務めておられる方でしたね。」

はい、と心ここにあらずといった様子で返答を返した高橋に、猪口は苦笑を浮かべる。
猪口とは違い、益満家から雇用される形で保馬についていた彼には、通常の軍務とは別の責任が伴っているからだろうと当たりをつけたのだ。

「正直、共に大瀬に乗っていればという気持ちですよ。」

「というよりも、なぜ大瀬に乗られなかったのですか?」

「大隊長に命じられたんですよ、自分とは別の船に乗れと。」

予想外の返答に、猪口が目を丸くする。
帰ってくる際、当然猪口は新城と同じ船に乗っていたし、命令されない限り側を離れることはない。
であるが故に、側を離れた理由としてそれが妥当なのは理解できたが、なぜあの状況でその命令が出たのかが不思議だったのだ。

「……大瀬がああなることを予期していたということですか?」

「それはないでしょう、本人がお乗りになったのですから。とは言っても、特に理由など思いつかないのですけど。」

弱りきった表情で、高橋は天を仰ぐ。
状況を理解するための情報があまりにも不足しており、不可解なことが多すぎることが、その態度の原因であることは明白であった。

「それは、お気の毒です。」

どう言葉を返せばいいものか、猪口も図りかねているのであろう。
少なくともこの先、高橋が面倒な事になるだろうことは予期できたが、猪口に出来ることなど何もない。

「ところで、高橋曹長は何故ここに?ご家族でも待たれておられるのですか?」

どう言葉をかければよいのか、お互い何とも言えない沈黙が続き、猪口が話題を変えようと言葉をかける。

「自分は独身です。家族と呼べるものもいるにはいますが、もう何年も会っていません。大隊長殿のご家族は、大瀬の報告を聞いた時点でこちらに来るのをやめたとか。」

「それでは何故ここに残られているのですか?」

式典は既に終了し、士官を除き兵の多くは既に帰り始めている。
猪口がここに残っているのは、ただ単に高橋を見つけたからだ。

「……大隊長殿に、もし自分が戦死か行方不明になったら、この手紙を新城大尉に渡せと厳命されていたからです。」

高橋は軍服の内側から小振りな封筒を取り出し、猪口の方に向け軽く振った。
取り出し口には蝋で封がされ、その上から益満家の家紋が押されている。

「それは、中に何が?」

「自分も知りません、教えていただいていないもので。ただ、これを渡された時の大隊長殿の目はかなり真剣でしたので、かなり重要なものが入っているだろうとは思いますが。」

「……遺言状、と言うわけではないですよね。なぜ新城大尉に。」

猪口が視線を天幕の方に向けた。
港の中央に設置されたそこでは、今も事情聴取が続いている。
大瀬に乗っており、安否のわからない保馬と西田を除き、全ての士官があの中にいるはずだ。
その入口にはやけに大きな集団が待機しており、天幕の前に陣取っている。

「駒城家の方々ですね。新城大尉をお迎えに来たのでしょう。」

猪口の視線に気がついた高橋が、複雑そうな表情を同じ方向に送る。
保馬のことを考えたのだろう、彼も彼なりに保馬のことを気遣っているのだ。

「大隊長殿も戻ってくれば、あのように……。猪口曹長もそろそろお帰りになられた方がよろしいと思いますよ。ご家族の方々がお持しておりますし。」

前半の言葉は小さく猪口には聞き取れなかったが、後半は猪口にも聞き取れるようはっきりと話す。
高橋の視線の先には、何かあったのかと心配気な表情をこちらに向ける、猪口の家族の姿があった。

「そうですね、それでは失礼します。」

軽く会釈をし、猪口は彼の家族の元へと駆けて行く。
それを見送る高橋の表情は、先程のものよりは少し柔らかくなっていた。






ぼんやりと視線を遠くに投げる。
窓からは忙しなく働く水夫の姿が見え、港に接舷している数十艘もの船を見ることが出来る。
その全てが2000石級の物に見え、膨大な量の物資が絶えることなく吐き出され続けていた。
海運国家である皇国の、最大の港である皇湾にさえ匹敵するようにさえ見えるその様は、こちらにある種の絶望に近い感覚を想起させる。
大量の銃、砲、糧秣、嗜好品も少なくない、帝国は物資の多くを現地調達すると聞いていたが、その話を流した人間の正気を疑いたくなる。
これらすべてが皇国との戦争に用いられるのだからぞっとしない話だ。


港に位置しているからだろう。
物資に不足している感じは見受けられず、待遇も悪くない。
ちゃんとした食事も用意されているし、捕虜の人数が少ないからだろうか、あてがわれた部屋の質も低くない。
俺が収容されているここは、丁寧な洋風の作りがなされた将校用の部屋だ。
天井からは小振りなシャンデリアが吊るされており、小洒落た暖炉も設置されている。
ベッドなどセミダブルであり、下に敷かれている絨毯は足が沈み込むほどに深い。
おそらく将校用、少なくとも准将以上の人間のために作られたものだろう。


既にここに来てから10日間が経過している。
大瀬が降伏した後、俺たちは近くの帝国艦に収容され、その後数日間艦内に閉じ込められたまま航海をすることとなった。
断言は出来ないが、この時帝国艦は北上していたのではないだろう。
少なくとも真室や美奈津といった、北領南部に位置する都市にはまだ帝国の支配が及んでおらず、帝国水軍に命令を出せる存在はいなかったはずだ。
その後、数日間程の船旅をし、北領のどこかの都市で船から降ろされた。
もっともこれほど大規模な港と言う時点で可能性など2つ3つ程に絞れているのだが。

「……何やってんだろ。」

小さく溜息が溢れた。
ここに来てから無駄に時間だけはあるため、やけに色々なことを思い出す。
ただ、その記憶の大半を占めるのが自ら手をかけた戦友のことだ。
自責の念はある。
もし自分が負傷していなかったならば、あの中の何人かは減らすことができたのではないか、そんな思いが絶えない。
そうでないならば、もっと早く撤退すればよかったのかも知れない。
きっと何かをすれば彼らの生命は救えたはずなのだ。
こんな思考を何度繰り返したかさえ分からない。
後悔の念だけがただ、延々と募っていく。


考えることはそれだけではない、今の内地の状況も気に掛かることの一つだ。
新城がどうなったのか、夏期総反攻の話はどう流れるのか、奏上は誰がどのように行うのか、新城の近衛入りの件がどうなるのか。
俺の存在があるばかりに、全ての事象が不確定になる。
そして俺はそこにはいない、そればかりか新城がユーリアに会わないなどという、さらなる不確定要素さえ生み出そうとしている。


正直何をどうすれば良いのかがわからない。
そもそも俺が第11大隊に配属されたことがこの間違いの元なのだろうか。
ただ、そうすれば原作通り第11大隊の大半は戦死しただろう。
しかし、俺がいることによって未来の流れはだいぶ不安定になった。
ひょっとしたら自意識過剰なのかも知れない、そう思いはするが、帝国の動向自体がユーリアという一人の人間の指示のもと動いているのだから、どこまでも変化の危険性は伴う。
そして一度変化が起きれば終わりだ。
バタフライ効果により変化は加速度的に増大し、未来の予測など完全に不可能になる。

「介入か不介入か、どちらを選んでも後悔しか無いってのは嫌な話だよな。」

再び溜息が溢れる。
恐らくこの先、全ての行動への後悔が伴うのだろう。
死者が減った場合、もっと救えなかったのかと思うだろうし、死ぬはずだった人間の行動によって起きる影響を心配しなければならなくなる。
死者が増えた場合、自分の行動を悔い、何故そこでそんな行動をとったのかという自責に苛まれるだろう。
そして、原作通りに行ったら行ったで、自分の存在意義を問い直さなければならなくなる。
落ち着くのは、結局は戦争が悪いという考えだろうか。
余りにも嫌な未来予想に、暗澹たる気分になる。




扉を叩く音がした。
なぜ扉が叩かれたのだろうと一瞬考え、大協約の将校の権利の中に【捕虜であっても将校として扱われる】という条項があったことを思い出す。
この大協約と言うのも不思議なもので、皇国の法律を見てもあらゆる場所に大協約の影響を受けたと思われる箇所が見受けられる。
作られたのは数千年も昔のことにも関わらず、全文が残されているし、当時の状況も比較的詳しく残されている。
そして、もっとも不思議なのは、ほとんどの国民や国家がこれを遵守していることだ。
前の世界で考えると、ハンムラビ法典が世界のルールになっている感じであろうか。
前にいた世界の理屈で考えると、冗談のようにしか思えない。
フサイン=マクマホン条約とかどうなるんだよって話だ。

「どうぞ。」

軍服の皺を軽く叩いて直しながら、立ち上がる。
扉を開けて入って来たのは、まだ20に届かないかといった風貌の、若い青年であった。

「失礼します、自分は第21東方辺境領猟兵師団所属、マルクス少尉であります。貴官は捕虜である益満少佐でありますか。」

「その通りですマルクス少尉。ところで何の用事でしょうか。」

「自分は、鎮定軍参謀長殿からのご連絡を伝えに来ました。お暇でしたら、本館3階にある来客室までおこし頂きたいとの事です。」

このイベントは、メレンティンの訪問か?
ここがどこかの港街であることに気がついた時点で、このイベントは起きないだろうと考えていたのだが、どうやら見通しが甘かったらしい。
まさか、参謀長に就いている人間が北府を離れられるとは思わなかったのだが。
と言っても、このイベントが起きうることを予期していなかったわけではないので、判断に困ると言うことはない。

「承知しました、マルクス少尉。案内してもらっても構わないでしょうか?」

正直な話、会った場合と会わない場合、このどちらかを選んだ時の未来への影響が予測出来なかったのだ。
新城が大隊長になっていない時点で、既にこのイベント自体が狂っている。
ならば、個人的に非常に興味のある人物の一人であるメレンティンに会ってみたい。
そう思い、もしもこのイベントがもしも起きるならば、絶対に了承しようと考えていたのだ。

「それでは付いてきてください。」

マルクス少尉はそう言い放つと、さっさと部屋を出て行ってしまう。
背を向ける際に浮かべていた表情は、俺のような人間が参謀長に招かれることへの不満がありありと浮かんでいた。
ほとんど治りかけているのだが、まだ歩くと足が痛むため、手近なところに立てかけてある松葉杖を手に取り追いかける。
扉をくぐると、そこには屈強そうな帝国兵が4名ほど待機していた。
肩が触れそうな位置で、俺を警戒する様子からは、特に何の感情も浮かんでいない、こちらはこちらで通常業務の一環としか考えていないようだ。
確か、新城はもう少し丁重な扱いを受けていたような気がするのだが、この扱いの差はなんなのだろう。
やっぱり場所か?


5階に位置している俺の部屋から二つ降り、右に曲がって10m程進んだ場所に来客室は存在していた。
入り口の両脇にはさらに2名の兵が配置されており、余程に厳重な態勢が敷かれていることがわかる。
マルクス少尉はこちらを振り返ることもせず、先程のぞんざいな態度とは似ても似つかないほど丁寧な仕草で、扉を2度軽く叩いた。

「どうぞ。」

帝国の言葉で返事が帰ってくる。
敬語であることに疑問を覚えはしない。
原作において、メレンティンは一貫して捕虜である新城に敬語で対応していた。

「益満保馬であります。お招きにより参上しました。」

入室すると同時に室内の礼を行い、挨拶を行う。
角度は15°、前の世界では大規模な儀式の場合は大抵45°だったが、こっちは皇族に対するものでもない限りそんなことはしない。

「鎮定軍参謀長、クラウス・フォン・メレンティン大佐です。ドウゾ ヨロシク。」

顔を上げたそこにいたのは、上品な表情を浮かべた男性であった。
来客用の小振りな部屋に置かれている椅子から立ち上がり、こちらを歓迎するかのように両手をあげている。

「大佐殿がお望みでしたら鋭剣……は持っていないので短銃をおあずけしますが。」

いかがでしょうか、といった様に軍服の内側を覗かせる。

「貴官は大協約の遵守を誓われるか?」

「誓います。」

「ならば私は帝国将校としての名誉にかけ、貴官の将校たる権利を擁護しよう。よくぞいらした。」

全くに型通りの会話。
場合によってはこの会話自体に倦怠感を感じることがあるのだが、全くそういった感情を与えないのは表情故か。
泣いているかのように細まっている目は、その瞳の色こそ見えないものの、好々爺然とした印象をこちらに与え、金髪に白髪の混ざった頭髪がその印象を強めている。

「ありがとうニコライ少尉、御苦労だった。」

はっ、ニコライ少尉は去り際にこちらをチラリと見て退出して行く。

「どうぞ座ってください。」

促されて座った椅子は、どちらかと言うと皇国製の物のようだ。
皇国の文化は中途半端に帝国の文化と混ざっているため、西洋風に見えてもわかりやすい特徴がある。
北府が帝国の根拠地に使われているからだろうか、机や壁に掛かっている絵を見ても、帝国の色はあまり感じられない。

「さて、貴官に何を出そうか。黒茶か、もう少し強いものか。」

「どのようなものでも。出来れば酒の類は遠慮したいところですが。」

「強いものはお嫌いですか、従兵、従兵、大尉殿に黒茶を。」

軽く手を叩きながらメレンティンが呼ぶと、扉の向こうに控えていた従兵がすかさず入ってくる。
盆の上に湯気を上げる黒茶が乗っているところを見ると、頼む前から控えていたのだろう。

「皇国ではあまり酒の類は飲まれないのですか?」

「そういうわけではありません、ただ自分は下戸なので。叔父などは水のように飲みますよ。」

お互い当たり障りの無い会話を続ける。
緊張をしてはいるが、手が震える程でもない。

「はは、それは面白い。私もかなり酒には強い方なのだが、君の叔父上と私ではどちらが強いかね。」

「さあ、ですが皇国の酒は強くはないですからね。自分も幾度か帝国の酒を飲んだことがあるのですが、一口飲んだだけで倒れていまいました。」

言外にそちらの方が強いのでは?という意味を込める。
真実など知らないが、まあ社交辞令のようなものだ。
メレンティンもそれ以上突っ込まず、笑って今の言動を流す。

「ところで、あまり君は私がここにいることに驚いていないようだね。何か検討がついているのかな?」

「そう見えますか?内心は驚きに充ち満ちていますよ。帝国は北府に拠点を置いていると聞いたので尚更です。ただこちらから尋ねるのも無粋かと思ったので。」

わざとらしくない程度に目を大きくしたが、あちらはどのように感じただろう。
違和感を与えるほど態度に出ていただろうか。

「ふむ、そうか。」

小さく頷き、納得する姿に違和感は見られない。

「それで、どうして大佐殿はこちらへ?」

「本国からの援軍が今日到着するのだが、我々を苦しめた大隊の隊長がここにいると聞いてね。寄ってみたのだよ。」

まあ、理由なんて原作以上のものはないだろう。
と言っても俺がやった事自体はほぼ新城の模倣であるし、特に何かをできたと言う実感も無い。
むしろこんなふうに持ち上げられても困るのだが。

「はあ、それは光栄です。もっとも自分があの大隊で果たした役割はたいしたものではないのですが。」

出された黒茶をすすりながら答える。
うん、苦い。
ミルクと砂糖が欲しいな。

「うん?君はあの大隊の隊長ではなかったのかね。部隊の行動を指揮していたのは君だろう?」

こちらの真意を図りかねたのだろう。
首をかしげなからメレンティンが尋ねてくる。

「それは間違いではありませんが、大佐殿の評価している行動が自分の指示であるかどうかはわかりませんので。」

「それは一体どういう事なのだろうか。」

うーん、素直に生きるって言うのも考えものかもな。
怪訝そうな目線、というよりもこいつに会ったのは間違いだったのかも知れない、なんて雰囲気がビリビリと出ている。
正直正対しているのが辛い。

「言葉のままです。例えば2月11日の夜襲は、自分の前任である伊藤少佐の行動ですし、真室川撹乱射撃は自分の参謀である新城大尉が立案と指揮を行っています。」

と言っても嘘をつく気などさらさらなく、事実をありのままに答える。
こうやって考えると、本当に俺は何もしていないな。
怪我をしたことを考えても、もう少し一士官として動けた気がするのだが。
メレンティンは今の話を聞くと、ほう、と頷き神妙な表情で黙り込んだ。

「……まさか、我々の考えていた猛獣使いが複数だったとはな。」

そう呟く声からは、どちらかと言うと恐ろしい何かに触れるような雰囲気があった。

「指揮する人間が異なっているにも関わらず、その全員がこれほどまでに柔軟に兵を動かすことが出来るのか。皇国の士官というものはそれほどまでに優秀なのか?」

「伊藤少佐に関しては既に戦死していることもありますし、自分は詳しいことはわかりません。ただ、新城大尉に限って言うならば、近いうちに帝国の戦略上の障害になって現れるのではないかと。」

まあ、脅しておいて損はないだろう。
皇国を過剰評価して進撃速度が鈍ると言うのならば、それ以上の僥倖はない。
来年の冬だ。
そこまで耐えることができたのならば、それ以外はなんとでもなる。

「上部の無能に対し、下部は有能な人材が溢れていると言うことか。」

そう呟くメレンティンの声には、確かに戦慄の色があった。

「守原英康閣下は言われるほど無能ではありません、帝国軍、ひいては辺境領姫閣下が強すぎるだけです。」

「参謀を行っている身の私としては、とても嬉しい言葉だな。それを言ってくれる相手が有能であればあるほど。」

先程からの会話を聞いている限り、こちらを評価しているようには聞こえない。
世辞か?
恐縮です、と一言だけ返す。

「君から見て、帝国の長所はどこだと、ひいては自軍の短所はどこだと思うかね。」

「そうですね、一言で言ってしまえば柔軟性かと。近頃の隊列重視の思考は、大昔の密集隊形を連想させます。」

質問攻めだな、と思いながら返答をする。
あまりこういった会話を重ねすぎると、自分の方でボロが出そうで恐いのだが、帝国軍参謀長の兵の運用理念を聞けるチャンスを逃すのは愚策だろう。

「柔軟性か、そう言えば君たち猛獣使いは、一度も隊列を組んだことがなかったな。」

「ええ、虎と共に隊列を組むのは難しいですから。大佐殿は、皇国の短所をどのように捉えておいでですか?」

「君と同じだよ。隊列を守って戦うには、時と場合を考えなければいけない。ただ、騎兵の使い方が拙いように私の目には写ったな。」

騎兵?そう言えばメレンティンは元騎兵将校だったっけか?

「砲では照準が追いつかず、装填中に敵の懐に飛び込めるだけの機動力を持ち、倍する敵を突破出来るほどの衝力を持つ。騎兵は非常に有用な兵科だとは思わないかね。」

騎兵の有用性か、実際あんまり考えたことが無いんだよな。
今でこそ小銃の性能の低さ故に、主力の一角を担えているが、新型のボルトアクションシステムが完成しつつある以上、廃れて行く兵科だろうし。
もちろん剣虎兵だってその例外じゃない。
当然帝国の装備の進化に応じて、反比例に減少して行くだろう。
むしろ、新城のせいで剣虎兵という兵科が、大規模に発展して行くことの方が俺には恐ろしい。
まあ、それでも今は関係ない話だが。

「確かにそうですね。天狼開戦において、皇国は騎兵を全く有用に使えませんでしたから。」

「ああ、うまく側面からの攻撃を行うことが出来れば、我々もあれほど容易く勝つことは出来なかっただろう。」

今は騎兵将校の任にはついていないはずだが、元々騎兵が好きなのだろう。
騎兵について語る時のメレンティンの瞳は、先の表情よりも少しばかり楽しそうに見える。

「……いや、失礼。君に関係の無いことばかり話してしまい申し訳ない。これほど実務的な話をする気はなかったのだが。」

「構いませんよ。大佐殿とのお話自体は自分も嫌いではありません。」

「こちらからの質問ばかりでは申し訳ないからな、君から何か質問はあるかね?」

質問、か。
確かにいくつかある。

「それでは、自分たちが苗川を防衛している時の話です。上流部を騎兵1個大隊程度が渡川していたのですが、彼らはどのようになったのでしょう。」

原作通りにいかなかった今回の北領戦で、最大の誤差が彼の件だろう。
渡河した事のみは確認したものの、それ以降一切会うことがなかったことは、俺の中に残る大きな疑問の内の一つであった。

「ああ、それはカミンスキィ大佐の指揮する第3東方辺境領胸甲騎兵連隊のことだろうか。」

「大佐殿がおっしゃるのならば、そうなのかも知れません。」

カミンスキィ、という名前に耳が反応する。
皇国の守護者でイケメンランクTOPの男の敵だ。
原作を読んでいて、掘られて死ね、と思ったのは俺だけではあるまい。
もっとも登場時点で掘られていたが。

「アンヴァラール少将殿、苗川攻撃の指揮を行っていた指揮官の事だが、少将殿は諸君らを迂回し直接美奈津浜を叩くことにしたらしいのだよ。」

初耳だ。
というより何故に?
迂回と挟撃は戦術の基本じゃないのか?

「そうなのですか?自分たちは撤退途中遭遇しませんでしたが。」

「諸君らを迂回して、かつ美奈津までたどり着こうとした場合の道は、それなりに険しいのだよ。加えて諸君らの行った焦土戦術もあったしね。」

焦土戦術、という言葉を放つときのみ、メレンティンの瞳が剣呑に光った。
こちらを攻めることをしないのは、己の立場と、性格ゆえのことなのだろう。

「というよりも、そもそも何故迂回を?本来ならば我々の挟撃を狙うべきではないのですか?」

「罠があると知っていて。そこに飛び込む兵はなかなかいない。糧秣が不足しているような状況では尚更だ。」

なるほど、こっちがある程度の対策を行っていたことは、バレバレだったわけね。
にして迂回か、場合に寄っては撤退途中に1個騎兵大隊と戦闘をしなけりゃいけない可能性もあったのか。

「ふう、何と言うか、君と私が話をしているとどうしても仕事の話になりがちだな。私はホスト役にはあまりむいていないらしい。」

メレンティンは自分に呆れたようにぼやく。

「自分にはそうは思えません。それに、大佐殿がどうかは知りませんが、自分は軍事に関する話をするのは嫌いではありません。」

「私も君と同じで嫌いではないよ。まあ、君がそう言うのならば、こういった話も良いものかも知れないが。そう言えば、最初から尋ねようと思っていたことがあるのだが、何か今の状況に対して要望はあるかね?」

「……自分もどれほどの人数、自分の部下が乗っていたのかを把握していないのですが、部下が賦役に就いているならば彼らとその労を共にしたいと思います。」

当時は状況が状況であったため、大瀬に第11大隊の人間がどれほど乗っていたのか、俺は把握していない。
西田少尉を含め、数名ほど顔見知りの人間が乗っていたことは覚えているが、その他がどのようになっているかはわからないのだ。
断言出来ることといえば、新城や高橋曹長が脱出に成功したことくらいだろうか。

「しかし君は負傷しているのだろう。負傷した人間を働かせることは、大協約にも反している。」

「監督程度なら自分にも出来ます、その程度には傷も癒えました。」

「ふむ、ではそのように手配しておこう。」

「それと、なのですが恐らく自分たちの剣牙虎が3頭ほど、そちらの世話になっているはずなのですが。」

剣牙虎がどんな風に扱われているか、あんまり良く扱ってもらえているとは思えないな。
原作のように高待遇を得ることができたのは、結構運に恵まれていたのではないかと思う。
特に、剣牙虎に仲間が殺されているであろう帝国兵ならば、大協約で保護されていない剣牙虎を殺すことも十分考えられたはずだ。

「私もこちらに来たばかりで、そこまでは知らないのだが、ここに君達の扱っていた猛獣がいるのかね?」

ああ、メレンティンも来たばかりで知らないのか。
原作だと、新城に会う前に剣牙虎を見てきたような言い方をしていたけれど。

「はい、一応そちらの俘虜管理将校殿には自分の私物と言う形で扱っていただきたい、というようには伝えています。」

「後で手を回しておこう、君が望むなら会えるように口利きをしておいても良い。」

「ご厚情痛み入ります。」

メレンティンは、彼自身かなり情の深い人間なのだろう。
今会話を交わしていて、恐らく俺は原作における新城ほどの評価をされていない。
にも関わらず原作と同程度の配慮を配ることが出来るのは、彼自身の度量の広さを表しているのだろう。


その後、俺とメレンティンは半刻ほど現在の軍事について語り合った。
メインとなったのは、いわゆる現在の隊列重視思考とその限界についてというものであったが、この会話で色々なことが理解できたように思う。
メレンティンは、過去のとある出来事さえなければ大将になっていた程の人間であり、その戦略能力に関しては間違いなく1級品である。
そんな彼でさえも、騎兵による機動戦術と、隊列を組んだ歩兵の進撃という考えから離れることはできていなかった。
天狼開戦での帝国の戦術も、非常に発展的ではあるものの、革新的な戦術ではない。
恐らく、このメレンティンの考えは彼自身だけのものではなく、帝国の基本的な方針そのものなのだろう。
もっともこれは、帝国が用兵の柔軟さを書いていることを示しているわけではない。
帝国が現在の兵器で行いうる最高限度の用兵を行い、その結論が騎兵を主力とした機動戦術であっただけだ。
そして、帝国が過去に戦った勢力のほとんどが、彼ら自身と似た傾向を持っていたのだろう。
だからこそ、従来の枠組みにとられない新城に、苦戦したのではないだろうか。


程々に会話を終え、あてがわれている部屋へと戻る。
行きと同様に、俺を案内したのはマルクスと呼ばれていた少尉であった。
こちらを胡散臭いものでも見るような視線を送ってくるのはあいも変わらずで、好意的な感情は篭っていない。

「これが後2ヶ月か。」

部屋に入ると同時に布団に倒れこみ、空を仰ぐ。
メレンティンが訪ねてくるなんていうイベントがこの先起きるとは思えないし、ユーリアも北府を離れられるほど暇ではないだろう。
というか、メレンティンに与えた俺の印象が、それほど良いものだったように思えないから、遭遇フラグ自体立たないんだろうな。
……長い2ヶ月になりそうだ。





あとがき
遅れてすいません。
流石にリアルと趣味をどっちかとれと言われれば、リアルをとらざるをえないので。
止める気はありませんが、この先どうなるやら……

というわけで、謝罪とは名ばかりの自己満的裏話。

主人公、新城、漆原、兵藤、妹尾、カミンスキィ、バルクホルン、その他オリキャラ達、ここらへんは、死ぬ可能性があったのdeath。
最初から殺す予定がなかったのは西田少尉だけですね。
主人公はアンケート次第では死にました。
容姿だとか、キャラ付けだとか、かなり適当なのはその名残です。
実はこのアンケートで一番得したのは主人公という……。


Ps)感想返し再開しました。ただ量が多すぎるので前回の感想からとなっております。申し訳ありません。


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