<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.14064の一覧
[0] 完結 復活の時(鋼殻のレギオスif)[粒子案](2016/01/21 09:22)
[1] 第一話 一頁目[粒子案](2013/05/08 21:06)
[2] 第一話 二頁目[粒子案](2013/05/08 21:06)
[3] 第一話 三頁目[粒子案](2013/05/08 21:07)
[4] 第一話 四頁目[粒子案](2013/05/08 21:07)
[5] 第一話 五頁目[粒子案](2013/05/08 21:07)
[6] 第一話 六頁目[粒子案](2013/05/08 21:08)
[7] 第一話 七頁目[粒子案](2013/05/08 21:08)
[8] 第一話 八頁目[粒子案](2013/05/08 21:08)
[9] 第一話 九頁目[粒子案](2013/05/08 21:09)
[10] 第一話 十頁目[粒子案](2013/05/08 21:09)
[11] 第一話 十一頁目[粒子案](2013/05/08 21:10)
[12] 第一話 十二頁目[粒子案](2013/05/08 21:10)
[13] 閑話 一頁目[粒子案](2013/05/09 22:03)
[14] 閑話 二頁目[粒子案](2013/05/09 22:03)
[15] 閑話 三頁目[粒子案](2013/05/09 22:04)
[16] 閑話 四頁目[粒子案](2013/05/09 22:04)
[17] 第二話 一頁目[粒子案](2013/05/10 20:48)
[18] 第二話 二頁目[粒子案](2013/05/10 20:48)
[19] 第二話 三頁目[粒子案](2013/05/10 20:49)
[24] 第二話 四頁目[粒子案](2013/05/10 20:49)
[34] 第二話 五頁目[粒子案](2013/05/10 20:49)
[35] 第二話 六頁目[粒子案](2013/05/10 20:50)
[36] 第二話 七頁目[粒子案](2013/05/10 20:50)
[38] 第二話 八頁目[粒子案](2013/05/10 20:50)
[39] 第二話 九頁目[粒子案](2013/05/10 20:51)
[40] 第二話 十頁目[粒子案](2013/05/10 20:51)
[41] 第二話 十一頁目[粒子案](2013/05/10 20:51)
[42] 閑話 赤毛猫の一日[粒子案](2013/05/11 22:13)
[43] 第三話 一頁目[粒子案](2013/05/11 22:13)
[44] 第三話 二頁目[粒子案](2013/05/11 22:13)
[45] 第三話 三頁目[粒子案](2013/05/11 22:14)
[46] 第三話 四頁目[粒子案](2013/05/11 22:14)
[47] 第三話 五頁目[粒子案](2013/05/11 22:14)
[48] 第三話 六頁目[粒子案](2013/05/11 22:15)
[49] 第三話 七頁目[粒子案](2013/05/11 22:15)
[50] 第三話 八頁目[粒子案](2013/05/11 22:15)
[51] 第三話 九頁目[粒子案](2013/05/11 22:16)
[52] 第三話 十頁目[粒子案](2013/05/11 22:16)
[53] 第三話 十一頁目[粒子案](2013/05/11 22:16)
[54] 第三話 蛇足[粒子案](2013/05/11 22:17)
[55] 閑話 乙女と野獣[粒子案](2013/05/11 22:17)
[56] 第四話 一頁目[粒子案](2013/05/12 21:10)
[57] 第四話 二頁目[粒子案](2013/05/12 21:11)
[58] 第四話 三頁目[粒子案](2013/05/12 21:11)
[59] 第四話 四頁目[粒子案](2013/05/12 21:11)
[60] 第四話 五頁目[粒子案](2013/05/12 21:12)
[61] 第四話 六頁目[粒子案](2013/05/12 21:12)
[62] 第四話 七頁目[粒子案](2013/05/12 21:12)
[63] 第四話 八頁目[粒子案](2013/05/12 21:13)
[64] 第四話 九頁目[粒子案](2013/05/12 21:13)
[65] 第四話 十頁目[粒子案](2013/05/12 21:13)
[66] 第四話 十一頁目[粒子案](2013/05/12 21:14)
[67] 閑話 ツェルニに死す![粒子案](2013/05/13 20:47)
[68] 閑話 ニーナの勉強会その一[粒子案](2013/05/13 20:48)
[69] 閑話 ニーナの勉強会その二[粒子案](2013/05/13 20:48)
[70] 戦慄! 女子寮の朝[粒子案](2013/05/13 20:48)
[71] 第五話 一頁目[粒子案](2013/05/14 22:07)
[72] 第五話 二頁目[粒子案](2013/05/14 22:07)
[73] 第五話 三頁目[粒子案](2013/05/14 22:07)
[74] 第五話 四頁目[粒子案](2013/05/14 22:08)
[75] 第五話 五頁目[粒子案](2013/05/14 22:08)
[76] 第五話 六頁目[粒子案](2013/05/14 22:08)
[77] 第五話 七頁目[粒子案](2013/05/14 22:09)
[78] 第五話 八頁目[粒子案](2013/05/14 22:09)
[79] 第五話 九頁目[粒子案](2013/05/14 22:09)
[80] 閑話 第五話の後始末[粒子案](2013/05/14 22:10)
[81] 閑話 第一次食料大戦[粒子案](2013/05/15 22:17)
[82] 第六話 一頁目[粒子案](2013/05/15 22:18)
[83] 第六話 二頁目[粒子案](2013/05/15 22:18)
[84] 第六話 三頁目[粒子案](2013/05/15 22:19)
[85] 閑話 第二次食料大戦[粒子案](2013/05/15 22:19)
[86] 第六話 四頁目[粒子案](2013/05/15 22:19)
[87] 第六話 五頁目[粒子案](2013/05/15 22:20)
[88] 第六話 六頁目[粒子案](2013/05/15 22:20)
[89] 大惨事食べ物大戦[粒子案](2013/05/15 22:21)
[90] 閑話 サイハーデンの戦士達[粒子案](2013/05/16 20:13)
[91] 第七話 一頁目[粒子案](2013/05/16 20:14)
[92] 第七話 二頁目[粒子案](2013/05/16 20:14)
[93] 第七話 三頁目[粒子案](2013/05/16 20:14)
[94] 第七話 四頁目[粒子案](2013/05/16 20:15)
[95] 第七話 五頁目[粒子案](2013/05/16 20:15)
[96] 第八話 一頁目[粒子案](2013/05/17 22:06)
[97] 第八話 二頁目 [粒子案](2013/05/17 22:07)
[98] 第八話 三頁目[粒子案](2013/05/17 22:07)
[99] 第八話 四頁目[粒子案](2013/05/17 22:07)
[100] 第八話 五頁目[粒子案](2013/05/17 22:07)
[101] 第八話 六頁目[粒子案](2013/05/17 22:08)
[102] 第八話 七頁目[粒子案](2013/05/17 22:08)
[103] 第九話 一頁目[粒子案](2013/08/01 21:49)
[104] 第九話 二頁目[粒子案](2013/08/07 19:43)
[105] 第九話 三頁目[粒子案](2013/08/14 21:09)
[106] 第九話 四頁目[粒子案](2013/08/28 19:06)
[107] 第九話 五頁目[粒子案](2013/09/04 20:10)
[108] 第九話 六頁目[粒子案](2013/09/11 18:37)
[109] 第九話 七頁目[粒子案](2013/09/11 18:38)
[110] 閑話 槍衾がやってくる 前編[粒子案](2013/10/02 21:14)
[111] 閑話 槍衾がやってくる 後編[粒子案](2013/10/02 21:15)
[112] 閑話 ヴァーサス[粒子案](2014/02/05 16:12)
[113] 閑話 最悪の日[粒子案](2014/02/05 16:13)
[114] 第十話 一頁目[粒子案](2014/04/30 13:59)
[115] 第十話 二頁目[粒子案](2014/05/07 21:52)
[116] 第十話 三頁目[粒子案](2014/05/14 12:50)
[117] 閑話 ヴァーサスその2[粒子案](2014/05/28 22:30)
[118] 閑話 渚のエトセトラ[粒子案](2014/07/23 13:53)
[119] 第十話 四頁目[粒子案](2014/12/03 13:57)
[120] 第十話 五頁目[粒子案](2014/12/10 16:40)
[121] 第十話 六頁目[粒子案](2014/12/17 14:04)
[122] 第十話 七頁目[粒子案](2014/12/24 14:04)
[123] 第十話 八頁目[粒子案](2014/12/31 15:37)
[124] 第十話 九頁目[粒子案](2015/01/07 13:14)
[125] 第十話 十頁目[粒子案](2015/01/14 15:44)
[126] 第十話 十一頁目[粒子案](2015/01/21 18:13)
[127] 第十一話 一頁目[粒子案](2015/12/23 14:54)
[128] 第十一話 二頁目[粒子案](2015/12/23 14:54)
[129] 第十一話 三頁目[粒子案](2015/12/23 14:55)
[130] 第十一話 四頁目[粒子案](2015/12/23 14:55)
[131] 第十一話 五頁目[粒子案](2015/12/23 14:55)
[132] 第十一話 六頁目[粒子案](2015/12/23 14:56)
[133] エピローグなど[粒子案](2015/12/30 21:36)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14064] 第八話 二頁目 
Name: 粒子案◆a2a463f2 ID:ec6509b1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/17 22:07


 溜息と共に、ナルキは狭い部屋の中を漁っていた。
 学園都市とは言え、都市警に所属しているナルキが、漁っているのだ。
 何処と問われたのならば、サヴァリスが押収された錬金鋼が、仕舞ってあると思われる部屋をと答えることしかできない。
 屋上での会話で頼まれたのは、サヴァリスの錬金鋼を回収する、その手伝いをしろと言う物だった。
 手伝えと言われたのだが、部屋へと入った次の瞬間、サヴァリスが片っ端から荷物を放り出したために、ナルキが単独で漁っている状況である。
 既に手伝いと呼べる状況ではない。むしろ主犯と言い切る事が出来るかも知れない。
 手際良く荷物を改めているナルキを、壁により掛かって眺めている主犯は実に楽しそうだが、やっている方は極めつけに気分が重い。
 警官希望だというのに、コソ泥のようなことをしているというのもそうだし、マイアスに何故いるのか分からないという状況もそうだ。

「これですか?」

 それ程厳重に仕舞われていないことは分かっていた。
 基本的に都市警と揉め事を起こす都市外からの犯罪者というのは、放浪バスで逃げ出さなければならない。
 閉鎖された都市内で見知らぬ人間が隠れることは、極めて困難だからだ。
 そして何よりも、マイアス都市警は外部から来た武芸者に、注意を向けていられる状況ではないのだ。
 となれば、取り敢えず他の来訪者の荷物と一緒に保管というのが妥当な判断だ。
 扉に付いている鍵を破壊すれば、後は探して取り出せばそれでお終いである。
 壊した鍵をどうしようかとかも考えなければいけないのだが、流石にそこまでは責任が持てない。
 と言う事で、カード型の錬金鋼をサヴァリスに向かって放り投げる。
 溜息付きながらやっているとは言え、そこは警察関係者である。
 多少なりとも知識と経験が有れば、全くの素人がやるよりは遙かに効率的に捜し物が出来るし、被害を押さえることも出来るのだ。
 そう。部屋中が都震でひっくり返ったような惨事を防いだという事実一つ取ってみても、ナルキの行動は賞賛されるべきである。
 鍵の破壊行為は、部屋が荒らされなかったという功績で帳消しにして貰うこととしよう。
 諦めにも似た気持ちのナルキとは、全く関係がない人間は無茶苦茶に元気だ。

「そうそう。これだよ」

 とても嬉しそうなサヴァリスを一発殴りたいが、それをすると必然的に死合になってしまうのでぐっと堪える。
 だが、そんなナルキのことなどお構いなく、おもちゃを買って貰った子供のように元気いっぱいな主犯は、とても凄まじい褒め言葉を放ってくれた。
 よりにもよって、後片付けをしているナルキに向かってである。

「僕がやったら部屋中滅茶苦茶になっていたところだよ」
「それが分かっているから、私が一人でやって、そして片付けているんです」
「うん。君は泥棒の天才だね」
「ごふ!」

 よりにもよって、学園都市でとは言え、警官であるナルキに向かって、泥棒の天才だというのだ。
 とてもにこやかな笑顔以外に出来そうもない、人外魔境の戦闘狂がだ。
 暴発させるために挑発しているというのならば、話はまだ納得が行く。
 救いがないというか、やりきれないというか、どうしようもないというか、サヴァリスは完璧に褒め言葉として泥棒の天才だという言葉を使っているのだ。
 命に代えて、この非常識な男を殺すべきかも知れないと思うのだが、どうやっても無理な話なので溜息と共に諦めることとした。
 そして恐るべき危険性に気が付く。
 もしかしたら、レイフォンもこんな連中と関わったために、駄目人間になってしまったのではないかと、そんな危険性に気が付いてしまったのだ。
 もしこの推測が正しいのならば、将来的にはナルキも駄目人間に。

「・・・・・・・・・・・。よそう。考えるの」

 恐ろしすぎるために、これ以上考えるのを止めた。
 もしかしたら、この心の動きこそが駄目人間への最短ルートかも知れないが、それでも恐ろしすぎる想像に耐えられないのだ。
 取り敢えず、これで汚染獣との戦いを有利に運ぶことが出来そうだと、無理矢理前向きに考えることとする。
 だが、サヴァリスはまだまだ止まらなかった。

「うん? 何故考えるのを止めるんだい? 僕は君のことを褒めたんだよ? 天剣授受者の僕に褒められたから調子に乗って、あわよくば僕を倒そうとか思うはずだよ?」
「・・・・・・・・・・・」

 頭を使って、戦う相手を作ろうとしていることは十分に分かった。
 褒める動機が不純だが、それは別段問題無い。
 全くの善意で褒めているのだと思っていたが、そうでもなかったのだという事実が分かったが、全然嬉しくない。
 褒めるという行為自体は、それなりに有効であると思うのだが、決定的に間違っているのだ、今回は。

「私は、一応警察関係者なんですよ、一応ね」
「うん? そうだったんだ。これは失敗だったねぇ。それで精神的なダメージを食らっていたのか。調子に乗って僕に襲いかかってくると言うのも、無理な話だね」

 これっぽっちも反省している素振りも見せずに、そんな事を言うサヴァリスに向かって溜息を付きつつ、後片付けを続ける。
 時間帯は深夜であるから、おいそれと巡回は来ないだろうとは思うのだが、もし見付かったら最悪である。
 警官であるナルキが窃盗を働いているという事実以上に、揉め事を起こしたら戦闘狂が張り切ってしまいそうだからだ。
 そして奇跡的な事実として、マイアスは鍵一つを犠牲として戦闘狂の宴から救われたのだった。
 
 
 
 錬金鋼の回収という窃盗行為に手を貸した建物から出たところで、とある事実が厳然として存在していることに気が付き、一瞬以上硬直してしまった。
 考えるまでもなく、ナルキには寝る場所が無かった。
 正式な手段でマイアスに入った訳ではないから、当然と言えば当然なのだろうが、だからと言って状況が好転するという訳でもない。
 恐る恐ると隣を歩く戦闘狂へと視線を向けてみる。

「うん? 寝るところがないんだろう。僕の所に泊まって行けばいいよ。どうせ宿泊費はマイアス持ちだからね」
「あ、有り難う御座います」

 もちろん、その提案を期待していたので、それはそれで何の問題も無いのだが、実はもっと切実な問題が有るかも知れないことにも気が付いていた。
 ナルキの貞操絡みの問題ではない。
 この男に限って言えば、女性という生き物をきちんと理解していないと断言できる。
 レイフォンにとって、女生とは汚染獣以上の未知の生物だったが、サヴァリスは女性という種類の人間がいることを、おそらく知っているが理解していないのだ。
 だからこそ、ナルキの貞操絡みの問題は全く気にしなくても良い。
 問題はもっと根本的なところにあるのだ。

「それで、これからどうするんですか? 何とかマイアスが停止している理由を探り出して、出来れば解決しないと」
「うん?」

 サヴァリスの錬金鋼は、あくまでも保険である。
 もし襲われた場合、マイアスの犠牲が少ない内にサヴァリスをけしかけることが出来るかも知れないと、そう思って協力したのだ。
 都市上層部が実力を知らなければ、おそらくグレンダンの天剣授受者の出撃は、だいぶ遅くなるだろうからだ。
 だからこそ、強引に戦闘に参加させるために錬金鋼を盗み出したのであって、最善はマイアスが再起動することだ。
 だが。

「錬金鋼が手元に戻ってきたんだから、後は汚染獣が来るのを待つだけだよ? ああ。僕と訓練をしたいんだね。そう言うことはもっと速く言ってくれないと」
「・・。人の話を聞いて下さいよ」

 そうだろうと予測はしていたが、実際にサヴァリスの答えを聞いてしまうと、酷く脱力してしまう。
 とても嬉しそうにナルキの身体を舐めるように見るサヴァリスから、少しだけ距離を取る。
 貞操の危機は全く心配ないが、命の危険はどっさりと目の前に山積しているからだ。
 こんな物騒な生き物と同僚だったと言うだけで、レイフォンの事を尊敬してしまいたくなるくらい、とても命の危険を感じている。
 だが、突然にサヴァリスの視線が真剣味を帯びた。
 何事かと身構えたのも一瞬、とてもにこやかな笑顔と共に、ナルキの腰の左側を指さす。

「錬金鋼は隠しておいた方が良いよ。没収されたらもう一度盗みに入らなければならないからね」
「・・・・。それは、確かにそうですね」

 サヴァリスの手に錬金鋼がある以上、ナルキの活躍の場など無いとは思うのだが、それでも万が一と言う事はありえる。
 と言う事で何処に隠すか一瞬考える。

「レストレーション02」
「うん?」

 左手に填めたままだった紅玉錬金鋼を復元。
 ベルトから外した錬金鋼を右腓骨の外側、ズボンの内側へと鋼糸を使って縛り付ける。
 殺傷力の高い鋼糸だが、ナルキが使う分にはさほどでもない。
 少しだけ気をつけておけば、足を切ることもないだろうし、いざという時には鋼糸を使って一気に右手までもってくることが出来る。
 便利な方法だと自画自賛したのは、しかし一瞬のことでしかなかった。

「あ、あの?」

 サヴァリスの視線が、つい三秒前よりも熱を帯びてナルキを捉えているのだ。
 その熱量は、既に恋する乙女のそれを凌駕すると思えるほどであり、ヒシヒシと命の危険を感じてしまう。

「リンテンスさんの鋼糸の技だね。ずいぶんと縮小しているけれど、それでも闘う時にはなかなか便利なんだよね。僕も一時期覚えようかと思ったんだけれど、君は既に体得しているんだね」
「え、えっと」

 失敗したと後悔したが、既に後の祭りである。
 マイアスの事情を何とかするよりも先に、ナルキは自分のことを何とかしなければならないようだと、やっとの事で心が納得したのだった。

「と、兎に角今日はもう寝て、明日以降に備えましょう」
「うん? 僕と戦うために体調を万全にするんだね。それはとても魅力的な提案だね」

 何でこの男は、人の話を聞かないのだろうかと疑問に思うのだが、もしかしたらわざと聞かないふりをしているのかも知れないと言う結論に達した。
 激怒したナルキが襲いかかってこないかと期待しているとか。
 この推論に立って今までの言動を再確認してみると、全て納得行くような気がするから恐ろしい。

「一緒のベッドで眠るかい? 鋼糸で僕を絞め殺すとかしてくれると楽しいと思うんだよ」
「襲いませんから。それと同じベッドで眠るというのは流石に拙いでしょう」
「うん? 僕から襲うことはしないよ?」
「そう言う問題ではありませんから」

 何で漫才をしなければならないのだろうかと、疑問に思うナルキは、大きく溜息をつきつつ、戦闘狂との一夜を過ごすべく歩みを少しだけ早めた。
 もしかしたら、都市警に捕まった方が安全ではないかと、そんな事を考えつつ。
 
 
 
 明け方になって、それは発見された。
 押収品を入れるために使われている、宿泊施設の倉庫、その扉の鍵が破壊されていたのだ。
 どんな目的があったかははっきりと分からないが、都市警に所属する少年はとても恐ろしい事態が起こっていることを、これ以上ないくらいに明確に把握した。
 いや。マイアスが止まっているという事態が既に驚異的な非常事態なのだが、その中にあってこの些細な事件はとても恐ろしく感じているのだ。
 視線は自然とロイ・エントリオの方へと向けられる。
 都市警に所属する武芸者としては、少年の直属の上司に当たる、非常に頼りになる先輩へと、縋るような視線を向ける。
 異常事態が続けて起こっている現状でさえ、きっと何とかしてくれるとそう信じて。

「兎に角無くなっている物を確認してくれ。紛失物のリストが出来上がったら、そこから見えてくる物があるはずだ」
「了解しました」

 視線に気が付いたロイの出した、的確な指示に従う。
 指示に従ってさえいれば、きっと大丈夫だと固く信じて捜索すること十五分。
 荒らされていなかったために作業効率は極めて高く、捜索は順調に進み、それは発見された。
 取られたと思われる品物はただの一つだけだった。
 記録と照合するまでもなく、記憶に残っている品物だったので、それをそのままロイへと告げることとする。

「錬金鋼?」
「はい。グレンダンから来たという武芸者所有の錬金鋼でした」

 その武芸者のことは良く覚えている。
 いや。忘れることが出来なくなっている。
 にこやかに笑う色男だった。
 長めにした銀髪を首の後ろで無造作に束ね、鍛えられた筋肉とその身のこなしだけで熟練の武芸者であることが分かった。
 だが、最も恐ろしかったのはその瞳だ。
 にこやかな表情の裏で、鋭く周りを観察していた訳ではない。
 まるで、これから楽しい祭りが始まることを期待しているかのように、愉悦に耀いていたのだ。
 おそらくではあるのだが、マイアスが置かれた状況を認識していて尚、心の底から楽しみにしているのだ。
 何時汚染獣に襲われるか分からない、この現状を心底楽しみにしているのだ。
 それが分かってしまったからこそ、サヴァリスと名乗った武芸者のことを忘れることが出来ない。
 そして、その貴重なはずの情報をロイへと知らせる。

「ふむ。マイアスの状況が分かっていて楽しみにしているとなると、戦うことだけが楽しい危険人物と言う事になるのか」

 それは独り言だったはずだが、そのロイの認識に異議を挟むつもりはない。
 むしろ大賛成だ。
 だが、少しだけ安心できる材料でもある。
 汚染獣がやってきたならば、サヴァリスを最前線へと放り出し、双方が弱ったところをマイアス武芸者の総攻撃で殲滅する。
 貴重な犠牲としてサヴァリスは、マイアスの英雄として長らく湛えられることだろう。
 ここまで考えて、自己嫌悪に襲われた。
 自分達の努力ではなく、外から来た意外性によって勝利を得ようとしていることもそうだし、危険人物を後ろから攻撃して抹殺しようとしていることもそうだ。

「取り敢えず、朝食後にその人物と会って少し話をしてみよう。もしかしたら、マイアスの防衛に参加してくれるかも知れない」
「・・・。はい」

 やはりロイは違った。
 自分のように臆病な手しか思いつかない雑魚とは、そのあり方が決定的に違ったのだ。
 正々堂々と、あの危険人物と向き合い、そして誰も傷付かない方法で、現状を解決しようとしている。
 ロイがいれば、きっとマイアスは平穏を取り戻すことが出来る。
 そう信じることが出来たことに、自分でさえも恐ろしいほどの安堵を覚えた。
 
 
 
 諸々のところから上がってきた報告に目を通しつつ、カリアンの胃は恐るべき速度で病んでしまっていた。
 自らの精神を鼓舞して、前を向き続けることは出来ていると思うのだが、その歪みがあちこちに出始めているのだ。
 だが、これは別段特別なことではない。
 ツェルニ全域が、多かれ少なかれこんな状態なのだ。
 第一戦で戦っているヴァンゼを始めとする三個中隊も、たった一人で戦場へと出ているレイフォンも、そして訓練を続けている第四中隊も、一般生徒の中にさえ恐怖が広がりつつある。
 それを止める手立ては、もちろん取っているのだが、何時までも続くという訳ではない。
 都市の暴走という恐るべき事態に直面し続け、平穏を保ち続けることが出来るグレンダンの戦力を、是非とも少し分けて欲しいのだが、ゴルネオの旅立ちが失敗した影響でほぼ不可能な状態となっている。
 このままでは、何時か何処かが決壊し、そしてツェルニは汚染獣にでは無く人の手によって滅ぶだろう。
 それを阻止する方法は、カリアンの手の中にはない。

「せめてもの救いは、補給が終了していると言う事だろうか?」

 つい最近、ツェルニはセルニウム鉱山での補給を終わらせている。
 そう。汚染獣に滅ぼされなければ、あと十ヶ月は存続を許されているのだ。

「いや」

 補給のために鉱山の側に戻ることが出来れば、そこで一息つくことが出来るかも知れない。
 ならば、この時期の暴走こそが災厄であったと言う事になる。
 だが、問題は他にも山積しているのだ。
 しかも、全てがかなり危険度の高い問題ばかりである。
 メイシェンとレイフォンの関係もそうだし、深刻ではないが、原因不明な食料生産プラントの不調もそうだ。
 原因不明と言えば、あちこちで構造物が崩壊をしているという事実も上げられるだろう。
 死人が出ると言った事態にはなっていないが、崩壊自体が増加傾向にある以上、危険極まりない事態であることに変わりがない。
 不調な場所を上げれば、きりがない。
 こう言い変えることが出来るかも知れない。
 学園都市ツェルニ全てが不調を来していると。
 そこに住まう人も含めて。

「愚痴を言っている暇さえないとはね」

 溜息を付き、パッケージを確認してからゼリー飲料を口に運ぶ。
 戦略・戦術研究室では、超臨死ゼリーを薄めて睡眠薬代わりに使っているそうだが、カリアンはまだそこまで絶望に支配されてはいない。
 何時かは必要になるかも知れないが、それでもまだ、カリアンは諦めてはいない。

「弱気になっているのは、私も同じか」

 超臨死ゼリーを使うかも知れないと、そう考える時点でカリアン自身が弱気になっていることの証明である。
 あれがどれだけ恐ろしいかは、カリアン自身が身を持って体験しているのだ。
 溜息を付きつつ、必要な書類にサインをしていると、扉がノックされた。

「開いているよヴァンゼ」
「入るぞ」

 扉を叩くその音とテンポで、それが盟友の物だと言う事はすぐに分かった。
 ヴァンゼ自身も、戦闘と執務で多忙を極めているはずだが、その間隙を縫って来たと言うことは、それなりに重要な用件であると腹をくくったのだが、今回は少し違ったようだ。
 その手に、不釣り合いなほど華麗なティーセットが乗っていたからだ。
 見覚えが有る。
 それはカリアンが生徒会室でお茶をする時に、必ず使うティーセットだ。
 つまり、ヴァンゼの用件とは。

「茶菓子が手に入ったのでな、少し休憩にしよう」
「・・・。ふぅ。良いだろう。その挑発、乗ってやろう」

 軽口を返しつつ、飲み終わったゼリーのパッケージをゴミ箱へと投げ捨てる。
 お互い、余裕などと言う物は無いのだが、それでも、このまま燃え尽きる訳には行かないのだ。
 何処かでゆとりを持ち、再出発しなければならない。
 そのためにヴァンゼが用意してくれた機会を、カリアンはきちんと利用しなければならないのだ。
 思えば、レイフォンを武芸科に転科させる悪巧みをしたのも、この生徒会室であり、盟友のヴァンゼであり、あのティーセットだった。
 仕切り直すには丁度良いだろうと思う。
 その体格からは想像も出来ないほど華麗に、手際よくお茶を淹れるヴァンゼを眺めつつ、カリアンはそう決意を新たにした。
 だからこそ笑うのだ。ニヤリと。
 
 
 
 延々と続く訓練のさなか、ふとニーナは考えた。
 アントーク家というのは、代々に渡ってシュナイバルを守護してきた、いわば騎士の家系である。
 双鉄鞭で武装した、誇り高い騎士の家系だ。
 だが、ニーナは続けて考えた。
 ニーナという個人は、自らを誇れるほどの武芸者なのだろうか?
 ニーナ個人の実績という物を、出来うる限り冷静に振り返ってみる。
 誘拐されそうになった、シュナイバルの電子精霊を救った。
 これは胸を張って誇ることが出来る実績だろうか?

「出来ないな」

 野戦グラウンドに横たわり、何時も通りに晴れ渡った空を眺めつつ、そう言う結論に達した。
 最終的には、自分と相手の力量差を考えることもせずに、闇雲に突っ込んで重傷を負ってしまった。
 助けようとしたはずの電子精霊と同化することによって、やっとの事でニーナ自身が助かることが出来たという、とても情けない結末を迎えている。
 こんな結末を誇れるはずがない。
 では、ツェルニにやって来てから、何か誇ることが出来る実績を上げられただろうか?
 入学直後に第十四小隊へスカウトされた。
 もちろん、入隊直後は、他の隊員の足を引っ張るだけ引っ張ったと断言できるが、それでも、そんなに悪くはなかったのではないだろうかとも思う。

「・・・・・。いや。違うな」

 十四小隊に入ったことは、誇らしいことだとは思うのだが、それは武芸大会で勝利するための力になって、始めて本当の意味で誇ることが出来るのだと思う。
 武芸大会で連戦連敗だという事実がある以上、小隊員だろうと何だろうと誇りを持つことは出来ない。
 では、第十七小隊を結成してからはどうだろうか?
 レイフォンのお陰もあり、小隊対抗戦での成績は上から数えた方が速い。
 だが、これもやはりニーナが誇れるという類のものでは無い。
 オスカーに諭され、レイフォンの本当の実力を見て、そして指揮官であろうとしたが、ニーナの本質を変えることが出来ないのか、どうしても前へと出て戦ってしまう。
 シンやウォリアスとの勉強会を経験したお陰で、戦術の構築に関してはそれなりに出来るようになったが、やはりニーナはまだ変わっていないのだと、それだけは間違いない。
 なぜならば、誰かに指示を出すよりも、自分が率先して動いてしまうからだ。
 小さな集団の指揮官としては、それ程間違ってはいないと思うが、例えばツェルニの中隊を預かる場合には非常な問題になる。
 集団を効率よく動かして戦果を得るためには、どうしても最前線から離れなければならないのだが、離れると言う事が出来ないのだ。
 これは、指揮官として非常な欠点であると分かっていても、それでもニーナの本質は最前線で戦うことなのだと、改めて認識してしまってもいる。
 それ以上に問題なのは、汚染獣戦でニーナは殆ど何の役にも立っていないという事実があると言う事だ。
 幼生体戦では、レイフォンが殆どの個体を殲滅していたからこそ、余裕を持って戦い勝つことが出来た。
 老性体戦の時には、予め準備していなかったら、確実にニーナの行動が不利に働いただろう。
 それを防いだのはウォリアスの用意周到さだ。
 そして、ただ今現在のツェルニの暴走。
 汚染獣と連戦している現状でも、ニーナは何の役にも立っていない。

「・・・・・・・・・・・・。そうか。私は自分が思っているよりも、武芸者としても指揮官としても役に立たないのか」

 リュホウに散々に打ちのめされ、何度もグラウンドに転がされて、やっとの事で認めることが出来た。
 ニーナ・アントークは、役に立たないのだと。
 レイフォンのようになりたいと思っていないと、ずっとそう考えてきたはずだったが、本当はレイフォンのようになりたいのだ。
 ツェルニにとっての脅威を、実力で排除したいのだ。
 ニーナは、騎士ではなく英雄になりたいと、そう思っているのだ。
 それでは駄目なのだと、やっと、心と体が理解した。
 レイフォンのような、ある意味異常者ではないニーナが、英雄になることは出来ない。
 ならば、せめて無能という評価を避けるべきだ。
 武芸者としては、強い部類に入るだろうが、そんな物は汚染獣の前には全く無意味に違いない。
 だが、一方の事実として、小隊員でニーナよりも実力の劣る武芸者が、戦場に出て生きて帰ってきている。
 だが、これは個人の強さがどうのと言うよりも、犠牲者を出さないように中隊の指揮をする人間が細心の注意を払っているからこそ、生き残ることが出来たのだ。
 個々の実力ではなく、集団としての実力が物を言っているのだ。
 リュホウが言っていた、指揮官とは悪辣でなければならないと。
 ウォリアスは卑怯な策を使って、レイフォンに敗者の地位を押しつけた。
 負けそうになったナルキが、刀を振り回して足掻いた時、レイフォンはその行動を高く評価していた。
 ならば、ニーナがやるべきなのは、正々堂々と戦って勝つことではなく、むしろその逆なのではないだろうか?
 むろん、正々堂々と戦うことは重要だが、ツェルニの現状を考えると、戦力を温存し続けなければならない。
 汚染獣との戦いは、何時終わるか分からないのだから、人や物の消耗は出来うる限り押さえなければならないのは当然で、ニーナの個人的な思考を差し挟む余地など無い。
 むろん、正面から戦って勝つことこそが最も重要なのは間違いないが、状況がそれを許さないのならば仕方が無いではないか。
 いや。仕方が無いなどと言うのがそもそもの間違いだ。
 やはり正々堂々と戦って、汚染獣を殲滅し、ツェルニを世界最強都市として全人類を跪かせるべきで。

「・・・・・・・?」

 何かが違う。
 そう。ニーナの個人的な思考を優先させて、ツェルニを世界最強にする訳には・・・。

「うわ!!」

 突如として、とても冷たい物が空から降ってきて、混濁していたニーナの思考を一気に吹き飛ばした。
 慌てて身体を起こして周りを見てみれば、何時も通りの光景が広がっていた。
 リュホウに散々に打ちのめされ、野戦グラウンドに転がる第四中隊の面々が、高圧放水による覚醒を遂げているという、何時もの光景である。
 第四中隊と呼ばれている面々は、呻きつつも意識を取り戻して、起き上がりつつある。
 毎回毎回、同じ事を繰り返しているというのに、リュホウは声を荒げることもなく、むしろ淡々と叩きのめしては高圧放水で覚醒させるという作業を続けている。
 金剛剄を習っていた時のレイフォンと同じで、根気良く出来るようになるまで付き合ってくれているのだ。

「さて。そろそろ何か違うことをしてもらえないだろうかね? 水道代も莫迦にならないことになりつつあるようでね、生徒会から苦情らしき物が私のところに来ているようなのだよ」

 何故か、とても不確定な話し方をしているが、それでも、そろそろ色々なところで限界が訪れていることは間違いない。
 話としてはニーナも知っている。
 ツェルニのあちこちで都市の構造に問題が起こっていることや、深刻ではないが、食料生産プラントの不調、建築資材を培養する施設も、あまり快調ではないという話も聞いた。
 ニーナ達が戦力になるまで、ツェルニは待てないところまで来ているのかも知れない。
 それを認識した瞬間、ニーナの背中を冷たい汗が一筋だけ流れた。
 本当に、時間が無いのだ。
 理想を追い求めることは大切だが、それもツェルニが無くなってしまっては意味がない。
 ならば、やはり、ウォリアスのように卑怯な手を使ってでも勝たなければならないのだろうと思う。
 こう考えることに抵抗はある。
 抵抗はあるが、それでも、必要なことだけは理解している。
 理解しているが、納得はしていない。
 納得はしていないが、それでも、やらなければならない。

「シャーニッド、ダルシェナ」
「あいよ」
「なんだ」

 全身ずぶ濡れなダルシェナと、何故か殆ど濡れていないシャーニッドに声をかける。
 この二人が、ニーナのすぐ側にいたのは幸いだった。

「リュホウを倒す。手を貸してくれ」
「その意気込みは良いが、どうやるのだね?」
「・・・・・・・」

 二人に声をかけたはずだというのに、何故かリュホウがすぐ側で体育座りをしているという光景と出くわしてしまった。
 ダルシェナとシャーニッドも驚いているから、殆ど瞬時にここまで移動してきたのだろう。
 とても謎な展開だが、強引にそれから目を逸らせる。
 いや。逸らせてはいけない。

「貴男を倒すための作戦を決めるのですから、遠くに行っていてもらえないと駄目ではないかと」
「ふむ? 成る程。奇襲攻撃を仕掛けるつもりだね。では私は向こうに行っていよう」

 僅かな言葉から、ニーナの基本戦術を予想されてしまうと言う事故は起こってしまったが、それでももはや止まることは出来ない。
 改めて二人へと視線を向けるついでに、厳重に辺りの気配を探る。
 殺剄をしたリュホウを発見するのは難しいだろうが、やっておいて損はないと思うのだ。
 そして、ニーナがやろうとしていることを手短に伝える。
 手数がそろわないために、かなり大雑把な計画だが、それでも何らかの効果はあるだろうと期待する。

「分かった。指揮はお前が執るのだな」
「はい。私が指揮を執ります」

 ダルシェナの質問に答えつつ、リュホウを見やる。
 刀の状態を確認していた、老年の武芸者の視線が、微笑ましげにニーナを捉えた。
 やれる物ならばやってみろと、挑発しているようには見えない。
 やっとここまで来たのかと、呆れているようにも見えない。
 純粋に、これから何が起こるのかを楽しみにしていると言った、そんな暖かな光を湛えている視線だった。
 そしてその視線こそ、ニーナを怒らせる。
 お前を倒すために必死になっているというのに、自分の理想を捨ててまで倒そうとしているというのに、何故楽しみにしているのかと憤りを感じる。
 だが、その暖かな視線も一瞬で霧散した。
 続くのは、冷徹で鋭い戦士の視線だ。
 どんな事をしようとしているのか、それを探る恐るべき鋭さをもった刃物が、ニーナの身体を素早く解剖して行く。
 物理的な痛みを覚えそうなその視線に耐えつつ、剄を練り上げる。
 初撃はシャーニッドの狙撃だった。
 一直線に飛んだ剄弾は、しかし命中することなくリュホウの頭のすぐ脇を通り過ぎる。
 あからさまな狙撃が命中するくらいならば、ニーナ達はこれほどまでに苦杯を舐めさせられていない。
 続くのはニーナだ。
 まだ未完成ではあるが、雷迅を放ち一気に距離を縮めつつ攻撃を放つ。
 やはりこれも、余裕で回避される。
 不完全な雷迅だと言うこともあるが、真正面から一直線に突っ込むこの技をニーナが使ったところで、熟練の武芸者には通用しない。
 レイフォンが使えば話は全く違ってくるが、今問題としなければならないのは、ニーナとリュホウとのやりとりだ。
 通用しないことは既に分かっている。
 ニーナ自身もリュホウも。
 その証拠に、脇をかすめたニーナが僅かに振り向くと、リュホウは追撃を放つことなくダルシェナを注視している。
 そして、当然の様にダルシェナの突撃が始まる。

「シャーニッド!!」

 ここで、シャーニッドに第二撃目を放つ様に指示を出す。
 微かに驚いた表情のリュホウが、ダルシェナの攻撃を回避しつつシャーニッドへとその注意を向ける。
 だが、攻撃を放ったのはダルシェナだった。
 その足が持ち上がり、突撃の勢いを回転に変換することで生まれた速度をもって、リュホウの脇腹へと突き進む。

「っむ!」

 今まで、ダルシェナの行動は殆ど一直線の突進だけだった。
 細剣での攻撃があるとは言え、どちらかと言うと槍を使った突撃の方を好むダルシェナの性格上こうなっていたのだが、今回は完璧な奇襲攻撃となった。
 だが、熟練の武芸者と学生武芸者では、やはりあらゆる物が違った。
 驚愕で動きが止まることもなく、それどころか、今まで以上に鋭い反応を見せたリュホウが、ダルシェナの蹴りを腕で防御する。
 そして、ここでシャーニッドの第二撃が放たれた。

「っち!!」

 体勢を崩しつつ、この訓練で始めてリュホウの放つ舌打ちが微かに聞こえた。
 だが、ここまでしてもまだ攻撃は回避されてしまった。
 ダルシェナの蹴りの威力に、自らの脚力を合わせて空中へと逃げるリュホウ。

「貰った!!」

 ここで、ニーナが第二撃を放つ。
 照準を付けなければならないシャーニッドよりも、体勢を完全に崩してしまったダルシェナよりも、一歩外にいたニーナの方が速く動けるから。
 そして、僅かな時間でさえも、武芸者の戦いにおいては致命的になる。
 活剄衝剄混合変化 雷迅。
 愚直なまでに突撃を突き詰めたこの技を放つ。
 ニーナの放てる最高の一撃を、空中で移動がほぼ不可能なリュホウに向かって、手加減することさえ出来ない一撃を放つ。

「っは!!」

 だが、それでも届かなかった。
 サイハーデン刀争術 逆捻子・長尺。
 突撃するニーナに向かって、向きの違う螺旋を二つもった衝剄の塊が放たれる。
 威力自体は大したことがない。
 それはせいぜいニーナの攻撃力の、十分の一に、やっと届くかどうかと言う程度の低出力だった。
 だが、照準が明らかに致命的だった。

「っぐ!」

 真っ正面から、ニーナの頭部へと直撃した、衝剄の塊のせいで雷迅の軌道が僅かにずれる。
 リュホウが自由に動けないのと同じように、ニーナも一度定まった軌道を変えることは困難だ。
 僅かな角度の違いでも、距離が開くと致命的なズレとなってしまう。
 そう。ニーナの身体がリュホウのほんの少し左を通り過ぎるという、致命的な違いを生んでしまう。
 だが、まだ終わらない。

「ぐわ!!」

 連続した銃声と共に、旋剄で距離を詰めていたシャーニッドの奥の手である拳銃が、至近距離からリュホウを襲う。
 散々体勢が崩された状況で、着地の僅かな手前、回避も防御も非常に困難な状況で放たれた剄弾は、確実にリュホウの身体を捉える。
 そして、止めとばかりにダルシェナの突撃槍が至近距離から投擲される。

「ぐふ!」

 見事に腹筋に突き刺さった突撃槍を見たリュホウは、微かに笑いつつその場に崩れ落ちる。
 そこまで見届けたニーナ自身も、急速に接近する地面に、受け身を取ることが出来ずに激突して意識を飛ばしてしまった。
 だが、ほんの少しだけ満足している自分を発見した驚きを感じることが出来たので、悪い気分ではなかった。
 
 
 
 生徒会室の椅子に座り込んだカリアンは、一つの報告を見て溜息をついていた。
 リュホウが教官をしている第四中隊の戦力化についての報告書には、幾つかの注意書きと共に戦力化が出来たという一文が添えられていた。
 戦力化出来ることは、とても喜ばしいことである。
 喜ばしいことではあるのだが、それでも注意書きの一つがとても重要だった。

「中隊として運用することは不可能ではないが危険である。四個小隊を遊撃戦力として投入するべきと考える。か」

 既に善戦している三個中隊とレイフォンは、かなり消耗してきている。
 このままでは、何時か確実に破綻する。
 それを救うと期待された第四中隊だが、使いどころがかなり難しい状態となってしまった。
 戦力は集中して使う方が効率的である。
 カリアンでも知っている戦術の常識から考えれば、期待はずれと言わざるおえない。

「ウィンスかニーナが指揮を執ってくれると助かったんだが」

 前に出たがるニーナと、正面からの戦いに執着しているらしいウィンスでは、中隊規模の指揮官は務まらなかったようだ。
 これははっきりとした誤算だが、それでも戦力が増えたと前向きに捉えなければならないのがカリアンの立場だ。
 いっそのこと、オスカーに第四中隊を指揮させてみてはどうかとも考えたが、すぐにそれが駄目だという結論に達した。
 中隊を指揮出来る人材は、今のところツェルニに四人いる。
 ヴァンゼとゴルネオ、シンとオスカーだ。
 だが、オスカーは少し特殊な経過をたどって中隊指揮が可能となっている。
 グレンダンに援軍を頼みに行くという計画が立てられた時、第二中隊の指揮を執る人間がいなくなると言う現象が予測された。
 それを解決するために、先代の第五小隊長だったオスカーにも第二中隊の指揮が出来るようにと、訓練が施されたのだ。
 結局のところ、放浪バスが来ていない現状では、ゴルネオが旅立つこともなくオスカーが指揮を執ることもなくなっている。
 そして、決定的なのが、第二中隊と第四中隊は全く性質の違う部隊だ、と言う事だ。
 オスカーに第四中隊を指揮させるためには、今から指揮官としての訓練をしなければならないと言う事になる。
 第二中隊の打撃力を引き抜いて、何時戦力化出来るか分からない第四中隊を結成するには、現状は厳しすぎるのだ。

「それでも、一戦一戦の疲労を減らすことが出来るかも知れないな」

 遊撃戦力とは、詰まるところ牽制や陽動を別な指揮系統で行う部隊と言う事になるはずだ。
 指揮命令系統が混乱する危険性があるかも知れない。
 集団対集団ならば、あまり心配はないことなのだろうが、一対多数の戦場が基本である今回は、指揮命令系統の混乱は出来るだけ避けて通りたい。
 強力な攻撃をするために、わざと隙を作った隊列を整えたところに、遊撃部隊が飛び込んで巻き添えという、どうしようもない馬鹿馬鹿しい展開は避けなければならない。

「いや。流石にそこまで間抜けなことにはならんか」

 そう考えたが、油断は出来ない。
 戦場とは、あり得ないことが起こる空間なのだ。
 そんな事を考えつつ、これはヴァンゼ達と相談の上で決めることだと割り切り、そして新たな書類に視線を落として、最終的に脱力した。
 そこには、第四中隊を解体して小隊として運用する上での、考えられる問題点と利点が列挙されていたから。
 これを先に読んでおけば、この数分間のカリアンの思考はなかったはずだ。
 それはつまり、他の仕事を片付けることが出来たと言うことに他ならない。
 この忙しい時に無駄をしてしまったと溜息をつき、カリアンは精神を立て直して次の書類へと視線を落とすのだった。
 
 
 
 
 
  後書きになっていない後書き。
 林檎の蜂蜜漬けなんて物を、とうとう作ってみました。
 材料として、丸々と太った紅玉を二つと、レンゲの蜂蜜を五百グラム。
 紅玉は洗って四分割後、厚さ二ミリくらいにスライス。
 大きめのタッパーに切った林檎を放り込み、レンゲの蜂蜜を全力投入。
 念のために、冷蔵庫で三ヶ月ほど保存という、至極簡単な漬け物でした。
 林檎の歯触りが好きならば、一週間目くらいから食べられますが、甘さがしみこむのは一月後くらいから。
 なかなか美味しかったので、今年の秋にも作る予定。
 
 ちなみに、安納芋という、というサツマイモを購入。
 炊飯器で軽く料理してみようかと思っている今日この頃。
 結果は来週報告したいと思います。
 
 
 後書きになっていないという突っ込みは却下です。俺自身十分に理解しているから。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.041684865951538