槍殻都市グレンダンの中央にある王宮にて、女王であるアルシェイラは激怒していた。
切っ掛けというか原因は愛しのリーリンからの手紙だった。
手紙が来たこと自体は、全身全霊をもって歓迎すべき事柄である。
昨今存在しなかったほどの機嫌の良さで封を切ったのだが、その状況は十五秒と続かなかった。
もし、レイフォンがリーリンを押し倒して出来てしまったというのだったら、切り落として一生かけてリーリンとその子供の面倒を見させてやるつもりだったが、事態は恐るべき方向へと突き進んでしまったのだ。
いや。ある意味情けない方向へと進んでいるのだ。
「まさか、この時期に廃貴族と遭遇することになるとは、思いもよりませんでした」
執務を放り出してリーリンからの手紙を読んでいたので、当然カナリスが近くにいるのだ。
何か言っているようだが、そんな物はどうでも良い。
「レイフォンが敵に回る危険性があります。サリンバンだけでは荷が重いと思いますので、天剣を誰か差し向けるべきではないかと愚考します」
手紙に同封されていた、小さな紙片に向けて、全力の殺意を込めた視線を叩きつける。
何かの雑誌の切り抜きとおぼしきそれへと、天剣三人に反逆された時でさえ笑って許していたアルシェイラが、全力の殺意を込めて睨み付ける。
その視線は極限の集中力で維持しているため、例えデルボネでもおいそれとは察知できないだろう。
なぜそんな事をしているのかと問われるのならば、非常に話は簡単である。
無駄とも思える技量を注ぎ込んでいないと、グレンダンを破壊し尽くしてしまいそうだからだ。
あまりのリアクションの無さを不審に思ったのか、カナリスの視線が少し訝しむ物へと変わったのが分かったが、アルシェイラは自分を抑えるので必死なのだ。
「あ、あの。陛下?」
「ああ? なんだかナリス? 貴様がレイフォンをぶち殺しに行きたいのか?」
「へ、へいか?」
何言っているのか分からないという顔をするカナリスだが、アルシェイラには余裕がないのだ。
そう。視線の先には、なにやら仰向けに倒れて泡を吹いている元天剣授受者がいるからに他ならない。
これが、老性体との戦いの結果だというのならば、笑って所詮その程度だったと流すことも出来た。
だが、事態はそんな中途半端ではないのだ。
絶叫マシーンとか言う乗り物で、レイフォンはこんな無様を曝しているのだ。
一緒に乗っていたリーリンと現地妻は非常に元気だというのにだ。
例え元と付いたとしても、天剣授受者であったはずの武芸者がこんな無様な姿を曝しているという事実に、破壊衝動がふつふつと沸き上がってきてしまう。
「そうか。お前が行かないというのならば、この私自身がレイフォンをぶち殺しに行ってやる!!」
「お、お待ちください陛下!!」
当然の反応と理解していても、制止するカナリスに憤りを感じる。
レイフォンの前にカナリスを血祭りに上げるべきかも知れないと、そう危険極まりない考えが浮かんできた、まさにその瞬間だった。
「陛下におかれましては、ご機嫌麗しくないようですね。もしかして手紙のせいでしょうか?」
「ああん?」
突如、何の前触れもなく現れたのは、放浪バスの停留所で腐っているはずのサヴァリスだった。
何時も通りににやけた笑いと共に、悠然と現れたその姿に、更に破壊衝動が高まる。
だが、ここで当然の妙案が思い浮かんできた。
ヒントはサヴァリスの口から出てきた手紙という単語だ。
「サヴァリス」
「はい。陛下」
レイフォンの事情を知っているのならば都合がよい。
更に、最近毎日夕食のお世話になっているリチャードへの恩返しも出来る。
レイフォンを殺すことで恩返しというのは、少々問題かも知れないが、リチャード本人が狙われるよりは幾分増しだろう。
更に、熱狂的戦闘愛好家を満足させることも出来る。
全てが満足行く素晴らしくも、当然の計画だ。
「ツェルニまで行ってきてな」
「はい?」
何故か疑問の表情をされた。
手紙でレイフォンの事を知っているのではないかも知れないが、もはやどうでも良い。
「ちょっとレイフォンをぶち殺してこい」
「は?」
始めて、生まれて始めて、アルシェイラはサヴァリスの目が点になる光景を目撃した。
これは珍しいとかも思うのだが、それをゆっくりと観賞している余裕はないのだ。
隣では、カナリスが顔に手を当てて大きく溜息をついているが、それはこの展開に付いてか、それともアルシェイラがグレンダンを離れることを諦めたからか。
「なんだ貴様? レイフォンを殺すという任務に文句でもあるのか?」
「い、いえ。そのようなことは御座いませんが、如何せん、話の脈絡があまりにもなかった物ですから」
「なに!! 貴様の頭は、話の脈絡など理解できるのか?」
「一応そのくらいの能力は持っています」
「驚きの新事実だな」
サヴァリスについて新たな発見があったが、それは本筋とは何の関係もないので、見なかったこととする。
問題はレイフォンだ。
「てっきり、ツェルニで廃貴族らしき物が見付かったという知らせが、こちらにも来たかと思ったのですが、違ったのですか?」
「何故それを知っているのですかサヴァリス?」
話がここに来て、やっとカナリスが介入したがアルシェイラにはどうでも良いことだ。
速く話を進めて、レイフォンを抹殺したくて仕方が無い。
「弟がツェルニに居まして、サリンバンの接触を受けたそうですよ」
「成る程。その知らせは確かにこちらにも来ているのですが」
「おや? 陛下がご機嫌麗しくない理由は、廃貴族ではなかったので? サリンバンの団長がレイフォンに挑みかかって、完膚無きまでに敗北したそうですから」
「ああ。その辺も知らされていますが、あまり詳しくは書かれていないですね」
もう十分だろうと、話に割って入ることとする。
女王であるアルシェイラが、臣下の会話を妨げないという、最上級の温情を与えたのだ。
ならば、それ相応の対価を支払うべきである。
「廃貴族などどうでも良い。兎に角レイフォンをぶち殺してこい」
「御意ですが。いかがなさいました?」
「いくら戦うことが好きとは言え、あまりにも唐突すぎましては」
話が進まないので、リーリンから送られてきた雑誌の切り抜きを二人に向かって見せつける。
これで納得するだろうとそう確信して。
「? レイフォンが情けないのは何時ものことではありませんか?」
「いや。これは何時もよりも少しだけ情けなさが強いようですね」
「そうだ。何時も以上に情けない姿を晒していることに、我慢がならない」
別に、ヘタレなのは問題無い。
実際の戦闘さえきちんとこなしていれば、後はどうでも良い。
そうでなければ、リヴァースを天剣には選ばなかっただろう。
だが、今回のこれは、流石に限界を超えている。
「と言う事でサヴァリス。ちょっとレイフォンぶち殺してこい」
「御意ですが」
「なんだ? まだ文句があるのか?」
やっと話が前に進んだかと思えば、熱狂的戦闘愛好家であり、戦闘狂であるサヴァリスの反応が、今一ぱっとしない。
これはおおいに計算違いだ。
「ここにかかれている」
「ああ?」
「絶叫マシーンとは何でしょうか?」
「ああ?」
言われて見て、レイフォンをこうも情けない姿にした、絶叫マシーンという物について、何ら知識がないことを発見した。
ならば、もう少し条件を付けてみる必要があるのかも知れない。
「ふむ。言われて見れば、確かに絶叫マシーンなどと言う物は知らないな。ならば貴様がその絶叫マシーンとやらを体験してみて、怖いとか思ったら生かしておけ」
「御意」
「何も感じなかったら抹殺しろ」
「承りました」
そう言うと、とても嬉しそうに部屋を出て行くサヴァリスを見送りつつ、カナリスの視線が少しきついことも認識していた。
無視しても良かったのだが、気の迷いという奴で相手をしてやることとする。
「なんだ?」
「サヴァリスでは、全力で何も感じなかったと言い張ると思うのですが」
「それは考えられるな」
戦うこと以外は特に興味のないサヴァリスである。
全身全霊を傾けて、絶叫マシーンに乗っても何も感じなかったと言い張るかも知れない。
いや。そう言い張るのは間違いない。
「他の人間を差し向けるべきでは?」
「他って、誰を向かわせるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。リヴァース辺りを」
「カウンティアも一緒に行くな」
「そうなったら、ツェルニは危険ですね」
「ああ」
独占欲と嫉妬の権化と言えるカウンティアが、学園都市に行く。
しかもお人好しのリヴァースと共にだ。
学生から色々と聞かれて、それに懇切丁寧に答えるリヴァース。
その姿に我を忘れて、目から衝剄を飛ばして辺りを破壊するカウンティア。
まるで目の前に起こっているようにはっきりと見えてしまう。
「・・・・・・・・・・・。トロイアットはどうでしょうか?」
「来年から、ツェルニは出産ラッシュだな」
女たらしであるトロイアットなんぞを行かせたら、即座に軟派に走るに違いない。
しかも、武芸以上に磨き込まれた軟派のテクニックにかかっては、若い少女達に抵抗の術はない。
結果は見る前から明らかである。
「カルヴァーンやルイメイは?」
「カルヴァーンは道場があるし、私を放り出しては行きたがらないだろうな。ルイメイは会敵必殺になりかねない」
レイフォンとルイメイは、個人的に色々と経緯があるのだ。
特にレイフォンは殆どルイメイを毛嫌いしている節がある以上、ツェルニ全土を焦土と変えて、即座に戦ってしまうかも知れない。
そんな危険極まりない物を、学園都市に行かせるほどアルシェイラは無茶苦茶ではないのだ。
「え、えっと」
「ティグリスはカルヴァーン以上に、私を監視するつもりだから行かないし、デルボネは論外だな」
「あ、あう」
理路整然とカナリスを追い詰める。
こんな機会滅多にないために、非常に楽しい。
「バーメリン」
「ツェルニが見えたら全力攻撃間違い無しだ」
「・・・・・・。残るのは」
「リンとお前だが」
リンテンスが行くとしたら、それは凄まじい異常事態の予感がするばかりだし、執務をほったらかしにするアルシェイラを残して、カナリスが出掛けるはずがない。
つまり。
「サヴァリス以外にいないのですね」
「天剣授受者だからな、何しろ」
人外魔境、変態的変質者の集まり、強さだけを徹底的に極めた異常者集団。
それが天剣授受者である以上、これは当然の結果である。
もちろん、そうなるように仕向けたのはアルシェイラ本人であり、それを悔いているという訳ではない。
いや。むしろ誇りであると胸を張って言い切ることが出来るのだ。
「ふむ」
もし、この基準で考えるならば、やはりレイフォンは天剣授受者ではなかったと言う事となる。
確かに剄量自体は、現天剣授受者中最大を誇っているが、それ以外はあまりどうと言う事はない。
確かに、一目見た技の殆どを再現できる能力はあるが、本来の威力を発揮することはなかった。
瞬発力はかなり良い線行っていたが、技の奥行きもなく、見た目派手なだけだったと酷評することも出来る。
ここまで考えて、ふと思う。
レイフォンに天剣を授けたことは間違いではなかったのかと。
その時になれば準備は終了している。
それがアルシェイラの持論だったのだから、焦る必要はなかった。
「・・。まあいいか」
既に選択は終わり結果が出ているのだ。
ならば、今のこの事態を見極めて、新たな選択をするほかに出来ることなど無い。
割り切ったアルシェイラは、リーリンからの手紙を読み返すべくハンモックに身体を乗せた。
もちろん、カナリスの抗議の視線など完全無視である。
リーリンの手紙と昼寝を堪能したアルシェイラは、当然の行動としてリチャードの作った夕食を攻略すべく、何時ものように強襲を仕掛けていた。
夕食を強奪する代償として、近々サヴァリスがグレンダンから居なくなることを伝える。
恩を仇で返してばかり居ては、何時か毒を盛られかねないから、時々有益な情報も伝えるのだ。
「というぅわけぇなのぉよぉぉ」
「語尾以外も伸ばすな」
折角可愛らしい喋り方をしているというのに、リチャードは相変わらずつれない反応しかしてくれないし、デルクに至っては出来るだけアルシェイラを視界に納めないように、必死の努力をしている有様だ。
もう少しこう、何か刺激的な出来事が欲しい今日この頃である。
「でもよ」
「うぅん?」
そんなアルシェイラの要望がかなったのか、激辛カレーがたっぷりと盛りつけられた皿が、目の前に置かれる。
近くの安売り店から調達してきたらしい、色々混ざり物の入ったパンと、サラダにデザートというメニューだ。
期待しているのとは少し違うが、これはこれで有りである。
「天剣授受者に都市外での仕事って」
当然、任務の詳しい内容は伝えていない。
むしろ、レイフォンを殺しにサヴァリスを差し向けたなどと、いくら何でも言える訳がない。
ここまで考えると、やはり恩を仇で返しているのかも知れないと、ほんの少しだけ自己嫌悪に陥る。
僅かに0,3秒で忘れたけれど。
「特にサヴァリスなんか送って、相手の都市を破壊する以外に何か出来るのか?」
「それは大丈夫じゃない? いくらあの馬鹿でもそのくらいは考えるでしょうから」
サヴァリス本人にとっては、レイフォンとの戦闘もそうだが、廃貴族がツェルニに出たという状況も、それなりに魅力的なはずだ。
きっと、廃貴族を我が物にしようと画策するに違いない。
あの頭でどんな策が考えられるか疑問ではあるが、それでもいきなり都市を滅ぼすような真似はしないだろう。
おそらく、たぶん、きっと、ツェルニを破壊するなどと言うことはしないはずである。
「うん。そう信じよう」
「・・・・・・・・・・・」
アルシェイラの心の中を読んだ訳でもないだろうが、リチャードの視線が少し厳しい。
いや。サヴァリスという人選をしただけで、おおよそどんな内容の仕事か察することが出来るのだろう。
「むしろよ」
「うんうん?」
豪快にパンをちぎって、カレーに浸してからかぶりつく。
王宮でこんな事をしたら、あちこちから苦情が殺到してくるだろう食べ方だ。
そして、こう言う食べ方が出来ることも、ここを訪れる理由の一つである。
「むかついたんでレイフォンを抹殺しに差し向けました♪ って、言われた方がしっくり来る人選じゃないか?」
「・・・・・」
口の中に物が一杯なので喋れません。
そう言う態度を全力で取る。
決して動揺して、超刺激物が気管に入ったりしてはいけないのだ。
ゆっくりと咀嚼して、味わってから飲み込むふりをしつつ、その莫大な活剄を総動員しつつ、気管に入り込んでしまった激辛カレーの一滴を何とか秘密裏に処理する。
そして、全てをやり終えた後で、リチャードへと批難の視線を向けるのだ。
自分、グレンダン女王アルシェイラ・アルモニスは、そんな莫迦なことで天剣授受者を派遣などしないと。
「今、短い時間だったけど、もの凄く剄脈が活発になったよな」
「な、なんのことかなぁぁ?」
当然と言えば当然のことだが、剄脈の動きを察知できるリチャードには筒抜けだったようなので、全身全霊を傾けて誤魔化すこととする。
そんなアルシェイラの視線の先で、リチャードの手が緩やかに動く。
そしてその軌道の先にあるのは、デザートである。
とても酸っぱい林檎を薄切りにして、たっぷりの蜂蜜に漬け込んだという、恐るべき一品である。
漬け込んでから三ヶ月という、食べ頃の一品である。
激辛カレーの後に食べるデザートとしては、最高の一品である。
「シノーラさんよ?」
「な、なにかな?」
「林檎の塩漬けをデザートに食べたいかい?」
「い、いやぁねぇ。塩漬けの林檎なんて、甘く無いじゃない?」
切り口が変色しないように、塩水を付けるという話は聞いたことがあるが、塩漬けの林檎などと言う物は聞いたことがない。
美味しいかも知れないが、断じてデザートではないと思うのだ。
「でだが」
「な、なにかな?」
「実際問題、何が有ったんだ? 絶叫マシーンとやらでボロボロにされた兄貴を抹殺に行ったのか? それとも、廃都市で見たって言うおかしな生き物絡みか?」
「あ、あはははははははは」
リーリンとレイフォンから手紙が来ていたようだ。
この確率をきちんと計算すべきだったと思ったが、既に後の祭りである。
きちんと話して理解して貰わなければならない。
そして、レイフォンの事は半殺しまでだと、サヴァリスに命令を追加しなければならない。
面倒ごとが増えてしまった。
旅の準備を終えていたサヴァリスの元へ、アルシェイラがやってきたのは数日前のことだった。
一日でも早く、一時間でも早く、一秒でも早くレイフォンと殺し合いたかったのだが、残念なことに放浪バスが居なかったために、出発できなかったのだ。
そして、その間の悪さが、更なる悲劇をサヴァリスにもたらした。
そう。レイフォンを殺してはいけないというのだ。
折角強い相手と心置きなく戦えると思っていたのに、これは驚くべき事態の変化である。
だが、すぐに合点がいった。
最近、サヴァリスの代わりにリチャードの所で夕食を摂っているアルシェイラが、きっと何か失敗をしでかして妥協せざる終えなくなったのだ。
ならばもう、肩をすくめて世の中の不条理に溜息をついて諦めるしかない。
「世の中ままならないことばかりですねぇ」
折角放浪バスの停留所を警護するという、外から来る武芸者と戦いやすい仕事をしていたというのに、犯罪を犯してくれる武芸者というのは、どれもこれも小物ばかりだった。
溜息一つで吹き飛ばせる程度の、ゴミのような奴らばかりだった。
そして、憂鬱極まりないその仕事から解放され、レイフォンと殺し合えると思っていたにもかかわらず、最大でも半殺しまでと言われてしまった。
少しだけ気分を悪くしてしまった。
ほんの少しだけだ。
「途中で立ち寄った都市でも、滅ぼしてしまいましょうか?」
軽い気持ちでそんな事を言いつつ、放浪バスへと乗り込む。
都市を守っている武芸者だったら、グレンダンに来た連中よりはきっと面白いに違いない。
リンテンスの例を挙げるまでもなく、きっと世の中には強者が大勢いるに違いない。
それを発掘するためにも、都市を一つ二つ滅ぼしてみるのもまた一興かも知れない。
『アホなこと考えていると、またバス停の守衛をやらせるぞ』
「!! へいか?」
突如耳元で響いた声に、一瞬身体が浮かびかけてしまった。
だが、それが念威端子越しであることにも、同時に気が付いた。
「驚かさないでくださいよ。折角自分を腐らせないように苦労しているのですから」
『ふん! 取り敢えず無事に帰ってきたら、好きな老性体と三回くらい遊ばせてやるよ』
「それは、本当ですよね?」
『ああ』
アルシェイラの確約を得た。
無事グレンダンに帰り着ければ、老性体と遊べる。
紆余曲折を経て始まった都市外への旅立だったが、やる気がみなぎってきたのが自分でもはっきりと分かった。
『では行ってこい』
「はい。老性体の件、お忘れにならないように」
『ああ。間違ってレイフォンを殺してしまいましたとか言うのがなければな』
「!! その手がありましたか」
真面目に、真剣に、何よりも任務を遂行することばかり考えていて、うっかりミスをしましたという基本的な失敗を忘れていたのだ。
痛恨の極みである。
そして、今からではそのうっかりも許されない。
いや。間違って殺してしまったから老性体戦の約束は反故にされるかも知れないが、そこにこそ重大な問題が有ることに気が付いた。
「うぅぅむ? レイフォンと殺し合うのと、老性体三体と、どっちの方が面白いだろう?」
扉が閉まる直前に出て行った端子に聞こえないように、そっと小さく呟く。
短い時間に凝縮された、一秒を磨りつぶすかのような戦いと、数日間かけてゆったりと殺し合う戦い。
どちらの方が、よりサヴァリスを満足させてくれるのだろうかと考える。
この一事を考えることで、ツェルニまでの長い道のりは退屈せずに済むかも知れない。
それだけでもサヴァリスにとっては喜ばしいことだ。
後書きに代えて。
はい。予測された方も多かったですが、何時ぞやの絶叫マシーンネタが、さらなる地獄をレイフォンにもたらす事となりました。
ちなみに、林檎の塩漬けなどという食べ物は、今のところ俺は知りません。世界のどこかにあるかも知れませんが、見た事も聞いた事もありません。
誰かが作って感想を書き込んでくれたりすると、かなり嬉しかったりします。
林檎の蜂蜜漬けは、今年やってみようかと準備しているところなので、来年頭くらいに感想をお知らせできるかも知れませんが、駄目かも知れないので過剰な期待はご遠慮ください。