突然のことではあるのだが、フェリ達第十七小隊は強化合宿をすることとなった。
合宿自体は既に決まっていたのだが、廃都市探索行動中に、フェリが自爆した影響でズルズルと延期になっていたのだ。
だが、それも昨日までの話である。
正確には昨夜までの話である。
夕食の終了直後にカリアンから命令されたのだ。
明日から第十七小隊は合宿するようにと。
既にニーナを始めとする全小隊員には連絡が行き届き、最後に知らされたのがフェリだったのだ。
「廃都市探索中の傷害未遂と、フェリ自身が負傷した事による捜索能力の減少。これには制裁が必要だという意見が多くてね」
「・・・・・・・。主に生徒会長からの意見ですね」
「当然だろう。私はこのツェルニの安全を最大限図る義務があるのだよ。拒否した場合トリンデン君達に頼んでお菓子の供給を完全に止めるが、どうするね?」
「・・・・・・・・・・・。なんて悪辣で陰険なのでしょう?」
「はははははは。伊達に陰険腹黒眼鏡と呼ばれていないよ」
と言った会話があったために、手を抜くことさえ出来ずに、生産区画の空き領域を間借りした、強化合宿に参加している次第である。
新入隊員であるダルシェナを含めた、第十七小隊員が現場となる宿泊施設へと到着してみると、既に何人かが来ていて準備をしていた。
午前の早い時間だというのに、元気なことだと呆れ半分関心半分で見てみれば、殆どが知っている顔ぶれだった。
家事担当らしいリーリンと、その手伝いらしいウォリアスはまあ問題有るまい。
ウォリアスとなにやら企んでいるらしい、元第十小隊のディンがいるのも何となく頷ける。
問題は、取り敢えず必要ないはずの人間が二人ほどいることである。
第十七小隊付きのダイトメカニックである、ハーレイは少々意外だったが問題としてはそれ程大きくない。
そう。車椅子に乗って不機嫌そうにしている男に比べれば、何ら問題はない。
いや。もしかしたら不機嫌なのではないのかも知れない。
眩しそうに目を瞬きつつ、片手で庇を作って日光を遮っているところからすると、普段部屋の中にしかいないので単に眩しいだけかも知れない。
「キリク先輩? どうしたんですかこんな所に?」
「貴様のとばっちりだ」
どうやらレイフォンは知っているようで、不機嫌そうにしている男に割と平然と話しかけた。
レイフォンの性格を考えると、これはかなり異常な事態であると思うのだが、キリクの方も平然と不機嫌そうに言葉を返している。
「複合錬金鋼の簡易版を作っているという話は知っているな?」
「ええ。少し前にハーレイ先輩から」
「そいつが完成したので、最終調整をするのだが、貴様らが下らない合宿などしたせいで俺までこの有様だ」
「それは僕に言われても困りますが」
「当然だ。俺はこれを企画した奴に文句を言っているんだ」
企画した奴と言えば、当然それはカリアンである。
ならば、どこからかカリアンに話が伝わることを望んで、不平不満を漏らしているのに違いない。
フェリも便乗したいところではあるが、お菓子が減らされては困るので黙っておくこととする。
もちろん、事態が好転したら猛反撃に出るつもりなのは、当然の事実である。
「ああ。取り敢えず荷物を置いて、三十分後にここに集合だ。午前中は各自、自己鍛錬の時間とする」
緩みかけた空気をニーナが強引に引き締めて、強化合宿という名の拷問が始まったのだ。
リーリンがいるとは言え、ふんだんにお菓子を食べることが出来ないという現実は、フェリにとってかなりきつい事態なのだ。
それでも諦めるなどと言う事が出来ようはずは無い。
速攻で荷物を部屋に放り込み、キッチンへと駆け込む。
当然のようにリーリンとウォリアスが、なにやら働いて昼食の準備をしている姿が見える。
そのままの勢いでウォリアスに近付き、その服の裾をつまんで上目遣いで見詰める。
この辺の行動については、メイシェンで散々研究しているのだ。
一撃必殺の自信があった。
「どうしましたフェリ先輩?」
だが、男なら確実に撃破できるはずの攻撃を受けて尚、ウォリアスは平然とフェリを見下ろしている。
これは計算外であるが、今更引き下がるわけには行かないのだ。
なんとしてもお菓子を確保するために、更に涙を少し溜め込んで見詰める。
「何かお菓子を下さい」
「はいはい」
この攻撃が通用したのかどうか怪しいが、何かくれるようでウォリアスが作業の手を止めて、冷蔵庫を漁る。
その手がすぐに何かを掴みだし、そしてフェリの前へと差し出した。
「これが今日一日分ですよ」
「・・・・・・。少な過ぎると思いませんか?」
演技が限界に達したようで、何時も通りの無表情を基本とした声になってしまった。
何しろ差し出された物が酷い。
「最安値の板チョコ一つで、私が満足するとでも?」
「そう言われましても、こんなのしか用意していないんですよ」
「何でもっと用意していないのですか?」
ここは生産区画であり、ツェルニの最果てと言って良い場所である。
当然のこと、店などと言う物は存在していない。
ならば、少し多めに用意しておくべきである。
用意周到なウォリアスならば、一年分くらい備蓄しておいても何ら問題無いはずだ。
いや。備蓄しておくべきである。
だが、次の一言で疑問は氷解する事となった。
「生徒会長が」
「あの悪魔め」
全てカリアンの陰謀であることがはっきりとした。
だが、まだ諦めることは出来ない。
「フェリ先輩にあまりお菓子を食べさせないようにと」
「そんな命令は拒否して下さい」
「その代わり、サントブルグから来る情報を、格安で売ってくれると」
「悪魔と取引するなど、貴男はそれでも人間ですか?」
「悪魔と取引出来るのは人間だけですよ。そして僕の最優先事項は情報を集めることですから」
「っく!!」
戦略の失敗を戦術で挽回することは、極めて困難である。
戦略環境を整えてフェリを追い詰めたカリアンの前に、為す術無く翻弄される自分を、少しだけ哀れんだ。
だが、まだ諦めるには早い。
「それに、何よりもですね」
「何でしょう?」
やや微笑ましそうな顔と共に、ウォリアスの上からの視線がフェリを捉える。
これは物理的な身長差による物だけでは、おそらく無い。
「生徒会長は心配しているのだと思いますよ」
「あの悪魔が、私の心配をする? 必要な時に使えないと困りますからね」
違うかも知れないとも思うのだが、どうしてもカリアンのことを好意的に評価できないのだ。
特に今は、どんな物を見せられても、それが腹黒い策略にしか見えない。
だが、続いたウォリアスの未来予想に、一瞬背筋が凍り付いた。
「来年の今頃、体重が二倍になっているとか」
「・・・・・・・」
無いと言いきることは出来ない。
なぜならば、最近乗った、体重計の示す値が本当ならば、ここ最近で五パーセントほど体重が増えていたからだ。
原因を考える必要はない。
「あるいはですね。これから毎週歯医者に通わなければならないとか」
「それは有りません」
流石にそれは無い。
毎食後に歯磨きは欠かさないし、だらだらと何か他のことをしながら食べているという訳でもない。
虫歯の危険性はそれ程大きくない。
「お菓子を食べているために、きちんとした食事が出来ていないのではないかと」
「それもありません」
栄養管理がきちんとしている訳ではないが、それでもお菓子の食べ過ぎで食事を疎かにしているという訳ではない。
と言う事で、カリアンの心配事の半分以上は杞憂である。
だが、一つだけ十分に危険な心配事は存在している。
それは間違いない。
「と言う訳で、合宿中は少し我慢しましょう」
「・・・・・。悪魔的な策略にしてやられた私の不甲斐なさがとても悔やまれると思いませんか?」
何時も以上に平坦な声で言ってみたが、敗北を覆すことは出来ない。
フェリ・ロス一生の不覚であった。
前庭に出たダルシェナだったが、既に先客がいた。
キリクとハーレイ、そしてレイフォンだ。
キルクが基礎状態の錬金鋼をレイフォンに差し出しながら、なにやら注文を付けているのが聞こえる。
「良いか、簡易型であるそいつは形状変化を省略して重量をかなり抑えることに成功しているが、それでも通常の錬金鋼よりもかなり密度が高く重い」
「前回使った奴以上でなければ、特に問題はないと思います」
ダルシェナ自身あまり気にとめていなかったが、目の前にいる錬金科の二人は割と有名らしい。
第十七小隊の専属技師であるハーレイは、当然として、キリクの方はその変人ぶりでかなり有名だと言う事だ。
あくまで他人事なのは、ダルシェナ自身との接触が殆ど無かったからで、別段積極的に無視しているというわけではない。
「復元して様子を見てくれるかな? 割と良い出来だと思うんだけれど、最終調整は早めにしておきたいから」
「分かりました」
言いつつそれは姿を現した。
形状は最近レイフォンが使っている刀だった。
だが、一回り大きくなっているのにも気が付いたが、最も目を引くのはやはり地金が漆黒であることだろう。
ただ黒いだけではなく、錬金鋼の粒子が七つの星の形にちりばめられ、見る物にある種の感動を与える美しさを持っていた。
「へえ。凄いですね」
「当然だ。こいつには俺の実家にある名刀のデータが使われている。普通の錬金鋼では再現出来んがこれはかなり近付いているはずだ」
不機嫌そうに言うキリクの言葉を聞きながら、レイフォンがその漆黒の刀を構え軽く振って様子を確認している。
用心しつつ、恐る恐るといった感じなのは、やはり始めて持つ道具に対する用心のためだろう。
「重さとかバランスとかどう?」
「そうですね。今のところ問題無いです。重さも丁度良い感じですし」
そのレイフォンの台詞を聞いて少し意外に思った。
体格から考えると、新しい錬金鋼は明らかに大きすぎるし、重すぎると思うのだが、本人は丁度良いと言っているのだ。
更に、振り下ろしや切り上げ、横薙ぎなどの基本的な型を繰り返しつつ、ゆっくりと身体と錬金鋼をなじませ続けるレイフォン。
「うぅぅん? 重心を後5ミリくらい手前に出来ますか?」
「5ミリ手前ね。他に気が付いたことはある?」
「そうですね」
更に、細々した注文を付けるレイフォンと、熱心にメモに取るハーレイ。
脇で聞いているキリクは相変わらず不機嫌そうにしているだけだ。
「こんな所だと思いますが」
「分かったよ。午後の訓練に使えるように調整するから貸して」
「はい」
基礎状態へと戻された錬金鋼が、ハーレイの手に渡った頃合いを見計らっていたのか、キリクが再び口を開く。
だがそれは、もしかすると説教だったのかも知れない。
「貴様が使う以上大丈夫だとは思うが、念のために言っておく。間違っても全力の剄など込めるな。他の錬金鋼に比べたら遙かに丈夫ではあるのだが、それでも限度という物がある」
「そうそう。限界をきちんと掴むまでは慎重に扱ってね」
「殆どの錬金鋼の長所を伸ばしているとは言え、貴様のような規格外生物が扱うには心許ない。実戦ならば仕方が無いが、訓練ごときで木っ端微塵などにしたら只ではおかん」
「はっきり言ってそれ一本で、普通の錬金鋼五本分くらいの費用がかかっているんだから、手荒に扱っちゃ駄目だよ」
「前にも言ったが、道具など使われて壊れるために存在するような物だが、出来るだけ有意義に壊すのが貴様の役目だ。力任せにぶっ叩いたりなぞするな」
「何時ぞやみたいに、剄の連続過剰供給で解かすとか言うのも無しだよ」
「ステレオは止めて下さい!!」
「「モノナルなら良いんだな」」
「・・・・・・。ステレオでお願いします」
キルクに続いてハーレイまで注文を付け始め、圧倒されたようにたじたじとなるレイフォンを眺めつつ、ダルシェナは驚いていた。
剄の過剰供給で錬金鋼が溶けるなどと言う話は、今までに聞いたことがない。
木っ端微塵になるなどと言う事態は、はっきりと想像の外側だ。
そして理解した。
シャーニッドがレイフォンがどれだけ凄いか、その本当の姿を知らないのだと言ったのは、全くの事実だったのだと。
だが、その恐るべき武芸者を前にして怯むわけには行かない。
なんとしても追いついて、そして追い越さなければならないのだ。
実力を隠している場合ではない。
そう決意したダルシェナは、突撃槍の柄を回転させ、細剣を取り出した。
それを目敏く見つけたのは、当然のようにシャーニッドであり、即座に声をかけてきたのも彼ならではの早業だろう。
「なんだ? シェーナも奥の手を持っていたのか」
「お前と同じだ。必要かどうかは兎も角として、鍛錬しておいた方が良いには違いないからな」
「違いない」
そう言いつつ、シャーニッドはシャーニッドの訓練を開始した。
ダルシェナも、自分の訓練を始めようとして、そして凍り付いた。
視線の先にはレイフォンがいる。
青石錬金鋼の刀を手にして、幾つかの基本となる形をゆっくりと再現しつつ、微調整をしているような動きに見える。
だが、今の微調整の段階でも既に恐るべき実力差を直感的に把握できてしまった。
そう。その動きはあくまでも滑らかであり自然体であり、そして練り上げられ、洗練され、研ぎ澄まされ、何よりも磨き抜かれていた。
そして、ごく僅かな余裕が存在しているその動きは、とても美しい。
そう。とても美しいのだ。
単純な振り下ろしの動作でさえ、見る物が見ればその光景に目を奪われてしまう。
いや。単純だからこそ違いをはっきりと認識できるのだろう。
ふと気が付いて、周りの連中に注意を向けてみたが、散々見慣れているはずだというのに、視線がレイフォンを捉え気味になっている。
それ程までに美しいのだ。
(私は、あそこまで行けるのだろうか?)
剄量という武芸者を武芸者としている力の源に差がある事は理解しているが、レイフォンの実力は他の面でもぬきんでているのだ。
対汚染獣戦を想定した訓練では、それを前面に出すことはなかった。
なぜならば、汚染獣とはその巨体を活かした攻撃をする人外の存在のことで、人間のように洗練された技を使うことなど無いからだ。
だからこそダルシェナは、レイフォンの強さの殆どが剄量にあると勘違いをしてきた。
それが違うことが今明らかとなった。
剄量を爆発的に増やすことは、殆ど不可能である。
だからこそ、諦めという名の逃げ道を見つけていたのだ。
それは間違いだった。
剄量を抜きにしても、レイフォンはあまりにも強すぎたのだ。
だが、剄量と違って、技量ならば何とか追いつけるのではないだろうか?
兄やレイフォンのように、卓越した技量を得ることが出来れば、素晴らしいことに違いない。
シャーニッドの挑発によって火を点けられた情熱が、更に激しく燃え上がるのをダルシェナは感じた。
必ず追いつき、そして追い越すと心に決めて、個人訓練を始めた。
昼食を終えたダルシェナは美味いコーヒーを飲み損ねたことに未練を感じつつも、きちんと訓練を行うことは出来た。
だが午後の訓練を終えた今、絶望に支配されようとしていた。
レイフォンが異常すぎたのだ。
剄量だけでなく、その技量だけでも想像を絶する領域に達していることは理解しているつもりだった。
だが、その認識や理解は全くと言って良いほど低く見積もられていたのだ。
訓練は連携をどう取るかという基本的なところから始まった。
それはダルシェナという戦力が加わったことで、隊のバランスが変わったために当然行われる、基本的な行程だった。
そう。問題はレイフォンの異常さだった。
対汚染獣戦の訓練で顔を合わせているとは言え、それ程長い時間ではなかったし、そもそもが敵として対峙して、完膚無きまでに敗北した時の話だったのだ。
そんな前提条件の元、レイフォンと組んで攻撃に出たのだが、連携は殆ど何の問題も無く成功してしまった。
そう。成功してしまったのだ。
本来ならば、始めて会った人間と連携など取れるはずがないのだ。
よほどの熟練者同士でなければ、それは望めないはずなのだ。
「遠いな」
訓練が終わり、精根尽き果てて座り込んで、一言だけ口にする。
技量で追いつくことは不可能ではないと、午前中の風景を見てそう思った。
だが、夕日を浴びている今は絶望と無力感に囚われてしまっている。
「シェーナ」
「ディン」
建物の中で何かやっていたはずのディンが、よく冷えたスポーツドリンクの入った、ボトルを放り投げてくる。
重い身体に難儀しつつもそれを受け取り、そして気が付く。
ディンとこんな風に接するのは、ずいぶんと久しぶりだと。
「笑ってくれて良い。惨めだ」
故郷で自信を喪失してここに来た。
ディンとシャーニッドに出会い、そしてチームを組んで、気が付けば小隊員にまでなった。
第十小隊は解散してしまったが、それでもダルシェナ自身に実力が無いと言うことにはならない。
入学した時と比べて、確かに実力は付いているはずだった。
だが、それは指揮する人間がいて、支援してくれる人間がいて、始めて発揮できる攻撃力だと言うことが、今日はっきりと理解できた。
レイフォンとの訓練でさえ、ディンを始めとする第十小隊の指揮と支援があった。
今日、レイフォンと二人で訓練して思い知ったのだ。
何時の間にか、周りを見ることが出来なくなっていたのだと。
それは、ディンの指揮や仲間の支援が充実していた証拠でもあるのだが、逆に無くなってしまえばダルシェナにはそれ程の価値はないのだと。
それを気が付かされてしまった。
レイフォンは、確実にダルシェナが次に何をするかを予測し、幾つかの候補を挙げ、そして現実にそれが起こった時の反応速度を上げておく。
訓練を始めてからしばらくは、その恐るべき能力に全く気が付かなかった。
そう。あまりにも違和感がないがために、しばらくは気が付かなかったのだ。
レイフォンが合わせてくれていると言うことに。
「笑えんさ。シャーニッドから聞いたが、あいつはニーナ相手にも同じ事をやってのけたそうだ」
「ふん! 化け物だな」
「・・・・・。ああ」
ディンと二人で夕日を浴びつつ、ゆっくりと話せる日が来ようとは思ってもいなかった。
だが、それはもっと違う場面であって欲しかった。
「俺は、あいつを戦略兵器として使うつもりだ」
小さく呟いたディンの視線は、遙か遠くを見詰めていた。
その視線の先に何を見ているのか、それは今のダルシェナには分からない。
「あいつは天才だ。それも異常なほどの天才で、模倣することはおろか目標とすることさえ危険だ」
天才は模倣の対象にはならない。
なぜならば、天才はその持って生まれた才故に偉業を成し遂げることが出来るからだ。
才を持たない人間に、同じ事をしろと言うことの方が無理なのである。
だが、目標とすることは出来る。
ああなりたいと思い、努力することで自らの力を高めることは出来るのだ。
だが、レイフォンはそれさえ危険だとディンは言うのだ。
そして、ダルシェナも同じ意見だ。
「ああ。あれはたまに見て、凄いなと感心して、自分も頑張ろうと思う程度にしておかないと、自分と他の人間を巻き込んで災いを振りまくだけになりかねない」
以前の、対汚染獣戦での心構えを説かれた授業でも思い知らされた。
レイフォンは違うのだと。
その実力以上に、人としてのあり方が違いすぎるのだ。
誇るでもなく、ただ淡々と事実のみを語り、そして遙か彼方にある目標を示す。
見知らぬ都市で目にする道路標識に似ているかも知れない。
指し示された方向へ行くことが、近道だというところがよく似ている。
それに引き替え、人間的には非常に不器用であり、恐ろしいほどに年相応なのだ。
武芸が絡まない場合という条件は付くが。
「何で、あんな奴が学園都市にいるんだ」
独りごちる。
不審を感じているわけではない。
不条理は感じているが、それでもレイフォンには感謝しているのだ。
ツェルニの武芸者には、絶対に必要だと。
そう思いつつ、最後に残った液体を一気に飲み干して、未だに重い身体に鞭を打ちつつ立ち上がる。
食欲はあまりないが、これから夕食なのだ。