おっす!
みんな元気か? シャンテ・ライテだぞ。
今朝は、ゴルがなんだか用事で先に出かけたんでシャンテ一人で通学だ。
偉いだろう?
でも、朝ご飯を食べる時間がなかったんで、歩きながら食べているんだ。
良い子のみんなは真似したら駄目だぞ?
何かをしながら食べるのは身体に悪いからな!
それでだけどな! 校舎まで行く途中に、凄く変な物を見つけたんだ。
何だと思う?
シャンテの見ている先には路面電車の駅があるんだけど、駅自体は普通なんだ。
当然、駅にはベンチがあるけど、そのベンチに座っている人物に見覚えが有るんだ。
オスカー・ローマイヤー。
シャンテが副隊長をやっている第五小隊にいる、長身でやや細めの身体を持った鋭い感じのする六年生だ。
ゴルには全然及ばないけど格好いいぞ!
当然ここに居ることは全然問題無いんだ。
六年生の校舎はかなり遠いけど、路面電車を待っているみたいだから、きっとこれから授業なんだ!
もしかしたら、朝の仕事の帰りかも知れないからな!
もしかしたら、失敗したソーセージとかもらえるかも知れないから声をかけてみるぞ!
「おっす!」
取り敢えず元気な挨拶をしてみたぞ!
ベンチに座って膝の上に乗せたお盆で、器用にご飯を食べているオスカーに。
深皿に入ったスープはまだ温かいみたいで、柔らかそうな湯気を上げているぞ。
ロールパンには切れ目が入っていて、苺ジャムらしき物が挟まれているな。
シャンテはマーマレードの方が好きだけどな!
平たい皿にはスクランブルエッグと思われる物とサラダまで乗っている。
それをホークとナイフを使って礼儀正しく食べているんだ。
これがオスカーの部屋だったら全然問題無いけれど、通学路だから問題だ!
色々な人が通り過ぎている場所なんだ。
当然他の生徒にも注目されているけど、何故か二年生以上はそのまま通り過ぎている。
シャンテは始めて見るけどきっとみんな見慣れているんだな!
驚いてるんだぞ、これでも!
「おはよう副長。今日も良い天気だね」
シャンテに向かって挨拶しながら、綺麗に食事を続けるオスカー。
シャンテもあんな風に食べてみたいぞ。
嘘だけどな。
礼儀正しく食べるとお腹壊すからみんなも止めるんだぞ!
「座って食べたらどうだね? それでは消化に悪いだろう」
礼儀正しくそう言われたぞ!
シャンテは別に平気だぞ!
でも、なんだかしゃくだからオスカーの隣に座ってみるんだな。
ゴルは時々綺麗に食べているけれど、きっとお腹壊したいんだ。
授業サボる口実になるからな!
「いや。そろそろ授業じゃないか?」
座ってから言うのも変だけれど、もうすぐ遅刻するんじゃないかって時間だと思うぞ?
シャンテは平気だけどな。
そんな事を思っているけれど、シャンテは驚いているんだ。
音を立てずにスープが口の中に消えてるからだ。
どうやっているかさっぱり分からないけどな!
やっぱりオスカーも授業をサボりたいんだな、
朝ご飯を食べていて遅くなったって言い訳するつもりなんだ。
シャンテが言うんだから間違いない!
「うむ。確かに授業に遅れると言う事はよろしくないな」
あれ?
違うのか?
「さて。朝食も終わったことだし行くとするか。副長も授業に遅れん様にな」
「お、おう」
オスカーがいなくなった場所を活剄を使って調べてみたけれど、食べかすが全く落ちていなかったぞ!
信じられない。
きっと、アルセイフと同じ化け物に違いない。
シャンテが言うんだから間違いないぞ!
午前中の授業を殆ど寝て過ごしたからお腹が減ったんだな。
頭を使うとなんだかお腹が減らないのは、シャンテだけじゃないと思うけど、みんなどう思う?
「あ、あのぉ先輩?」
目の前ではアルセイフが恐る恐るとシャンテに声をかけているんだ。
きっとシャンテの迫力に恐れをなしているに違いない!
今なら殺れるかな?
でも、ゴルはもう怒っていないって言っていたから手は出さないけれどな。
「上げませんよ?」
なんだか美味しそうな弁当を食べているんだ。
それもかなり大きな箱に入った奴だ。
殺したくなるくらいに羨ましいぞ!
「む! 先輩である私にご飯をおごるのは善行なんだぞ? この後きっと良いことがあるぞ」
「い、いや。先輩に睨まれるとそれだけで悪いことが」
なんだかアルセイフのやつはシャンテを誤解しているようだ。
ここはきっちりと言ってやらないといけないな。
「私はお前のご飯が欲しいんじゃない! メイシェンのお菓子が欲しいんだ!」
「さっきと言っていることが違いますよ。それにお預けの最中でしょう?」
む? なかなか良い記憶力をしているな。
少し殺したくなったぞ!
でもゴルに止められているから手は出さないぞ。
偉いだろう?
「そこでお前だ!」
「僕ですか?」
「お前のお菓子を私におごれば全て丸く収まる! さっき言ったことも間違ってない!」
「ああ。成る程」
やっと納得してくれたようだ。
記憶力は良いけれど頭が悪いな。
まあ、ゴルみたいに頭も良くて強いやつなんかそうそういないけどな!
だけど、シャンテには少し納得がいかない事があるんだ。
この際だから聞いてみよう。
「だいたい何でお前は毎日お菓子を食べられるんだ?」
「なんでって」
困った顔をしているな。
言いたくないのかな?
は! 分かったぞ!
「そうか! 毎日メイシェンにアルセイフのミルクを飲ませているからお菓子をもらえるんだな!」
何故かシャンテがそう言った途端、教室にいた男共の半分くらいが噎せたり吹いたりしている。
女生徒も何人か驚いたりしているようだな。
みんなの視線がアルセイフに突き刺さっているぞ?
もしかしてみんなもお菓子が欲しいのか?
駄目だぞ? メイシェンのお菓子はシャンテのだからな。
アルセイフをみんなで襲うんだったら止めないけどな!
まあ、それはそれとして、なんかあったのか?
シャンテは何にもしてないぞ?
「いやいや。僕お乳出ないですから」
「出ないのか?」
これはビックリだ。
帰ったらゴルに教えてやろう。
「牛だって、雄はお乳出ないでしょう?」
「! そうか! そうだったのか!」
また一つ勉強になった!
人間の雄もお乳は出ないのか!
ゴルは結構おっきな胸しているけど出ないんだな。
念のために今度試してみよう。
だけど、そうなると。
「そうか! 今度こそ分かったぞ! 毎日メイシェンのお乳を絞っているんだな!」
「っぶ!」
「ひゃっ!」
いきなり食べていた物を吹き出すアルセイフ。
もったいないじゃないか。
それと何でメイシェンまで驚いて胸を隠しているんだ?
さっぱり訳が分からないぞ?
「せんぱい?」
「なんだ?」
だけどメイシェンのあれは凄いよな。
一杯でそうだ。
お菓子がもらえるなら毎日絞っても良いぞ!
いや。まてよ?
「そうか。そう言うことなら私が毎日お乳を絞りに」
「先輩先輩」
脱力し尽くしたアルセイフが、シャンテの服の袖を引っ張る。
なんかあったのか?
「そう言うこと言ってるとお預けの期間が延びますし、実際にやったら二度ともらえませんよ」
「!! そ、そうなのか?」
これはもう驚きだ。
折角、良い手だと思ったのに。
「なら何でお前は何時ももらえているんだ?」
「なんでって」
暫く考え込んでいるけれど、やっぱり人には言えない秘密が有るのか?
もしかして、本当は毎日搾っているけれど、シャンテに渡さないために黙って居るつもりか?
そんな事は許さないんだぞ?
ゴルに止められているけれど、殺っちゃうぞ?
「食事の準備とか片付けとか、掃除とか買い物とか、毎日じゃないですけれど手伝っているからじゃないですか?」
「!! そ、そうだったのか!! お手伝いをしていればお菓子がもらえるのか!!」
こ、これは驚いた!
まさかそんなことだとは思いもよらなかった!
良し。これから毎日メイシェンの手伝いを!
「いきなり難しいことすると失敗しますから、まずはゴルネオ先輩のところで修行してからの方が良いのでは?」
「!! おう! お前頭良いな!」
さっきは悪いと思ったけれど、アルセイフはもしかしたら頭が良いのかも知れない!
やる事が決まったんだったら突っ走るだけだ!
「じゃあ私はゴルのところに戻るからな!」
窓枠を蹴って一気に一年の校舎を飛び出した。
目指すはゴルのいる教室だ!
結局ゴルの手伝いをしたら怒られた。
何でだ?
着替えを手伝っただけだぞ?
良く分からないな。
でも、それも今はどうでも良いぞ!
「拳に剄を集中させて、化錬剄の変化を起こさせて固定しますよね」
「ああ」
ここは練武館の第五小隊用の訓練室だ。
始めてアルセイフのやつがここに来て、ゴルになんだか説教している。
偉そうなやつだ。
ゴルに怒られた腹いせに今夜襲っちゃうぞ?
「で、固定したら手袋とか服の袖を脱ぐように、ただしそっと手を引き抜きます」
「う、うむ」
巨大化したゴルの拳から、恐る恐る手が抜けていくのを見ながら、シャンテはソーセージを頬張るぞ!
アルセイフは何時でも殺れるけどソーセージは今しか食べられないからな。
「剄の細い糸みたいな物でつながっていますから、暫く放置しても存在し続けます」
「な、成る程」
さっきからなんかやっているけれど、千手衝とか言う技をゴルに教えているらしいぞ。
シャンテも今気が付いた。
でも、ゴルがこれを体得すればシャンテはもっと一杯ご飯が食べられるんだ。
頑張れゴル。
「それでここからが難しいところなんですが、少しずつ大きさを変えて行きます。ゆっくりと慎重に繊細に」
「う、うむ」
額に汗が浮かんだゴルは格好いいぞ!
ゴルの前に浮かんでいる拳は少しキモイけれどな!
「あ」
「ああ」
だけど、あっという間にその拳が消えちゃったんだ!
これは驚きだ。
どのくらい驚いたかというとだな。
えっと。思わず食べかけていたソーセージをこぼしたくらいに驚いたぞ!
「まあ、ここが一番難しいので仕方が無いですよ」
「そのようだな。だが、これを拡張すれば千人衝になるのか」
「剄の総量もそうですが、他にも少し難しい事がありますから、すぐには出来ないでしょうけれど」
そうなのか?
聞いていると簡単そうだぞ?
焼いたソーセージが無くなったんで、シャンテも訓練に参加してみるんだな。
「こうか?」
拳に剄を込めて大きくするのは、前にゴルに習っているから出来るんだ。
凄いだろ!
「・・・・。それはそうなんですけれど」
「・・・・・。ああ。たしかにそうなんだが」
アルセイフだけじゃなくてゴルの顔も少し変だぞ?
何だ?
「副長。それは拳ではなくてソーセージだ」
「ぬ?」
しげしげと見てみると、どう見ても拳にしか見えないな。
だけど、捻ったら分かったぞ。
指に全部切れ目が入っているんだ!
焼いたら美味しいかも知れないぞ!
嘘だけどな!
「取り敢えず、そこから拳を抜いて」
「ぬ? ぬぬぬぬ?」
抜けないぞ?
服ってどうやって脱ぐんだったっけ?
えっと。
そう言えば、着替える時ってたいがい他の人がクジ引きでやってくれていたな。
みんなシャンテが着替えようとすると集まってきて、色んな物に着替えさせようとするんだ。
便利だけれど、急いでいる時は少し困りものなんだぞ!
とりあえず、今はこれを何とかしないといけないな。
そうだ。ここはやっぱり。
「ゴル。脱がせてくれ」
「っぷ!」
いきなりゴルが吹いたぞ?
シャンテは何にも変な事言ってないぞ?
今日はこんな事ばっかりだな。
取り敢えずゴルは脱がせてくれないようだから、シャンテが頑張って脱ぐんだ!
足で拳を押さえてみたけど、全然脱げない。
足の裏で押さえているから結構スカートが邪魔なんだけれど、シャンテはがんばるぞ!
もっと力を入れようとしたらオスカーに止められた。
「副長。副長にはまだ無理なようだから、取り敢えず休憩したらどうだね?」
「む? さっき休憩したばかりだぞ?」
「そうかね? ソーセージを焼いて砂糖楓の樹液をかけた物があるのだが」
「! 食べるぞ」
ソーセージが気になったら、すぐに拳が普通の大きさに戻ったぞ!
これで食べられる。
「シャンテ先輩って、いくつですか?」
「俺と同い年のはずだが」
頬の赤いアルセイフとゴルがなんだか変な事を言っているけれど、シャンテには関係ないんだな。
取り敢えず食べる事に忙しいんだ。
「それにしてもそのソーセージ、どうしたんですか?」
「これかね? 私が食肉加工業を営んでいるのは知っているね?」
「はい。チラシをもらっているので」
「あれは私の作った試作品だよ。香辛料の量を間違えてしまってね。少々きつい味になってしまってね」
「ああ。それでシャンテ先輩にあげたんですか」
「ああ。君もどうだね?」
「僕が手を出して、血を見ないですか?」
「・・・・・・。見るな」
なんだかシャンテのソーセージを盗ろうという相談があったみたいだけれど、平和は守られたみたいだな。
これで心置きなく食べられる。
でも、メイシェンのお預けっていつまで続くんだろう?
うぅぅぅん?
やっぱりアルセイフを殺してシャンテが独占するか?
「シャンテ」
「むわ?」
「今お前、物騒な事考えただろう?」
「!」
さ、流石ゴルだ。
シャンテの事なんかお見通しなんだな。
凄いぞゴル。
すぐに千人衝も出来るようになって、アルセイフをぶち殺せるな!
その時助けになるために、シャンテも頑張るぞ!
取り敢えず今は栄養付けとこう。
と言う事でシャンテは食べるので忙しいから、また今度な!
後書きに変えて。
はい。復活の時第三話の前祝いとして、こんなのを作ってみました。
主役は当然シャンテ・ライテ。
折角主役にしたのに、何故か食べ物の話題しか出せませんでした。
いや。なんだかそんな気がしたので。
ちなみに。
砂糖楓の樹液というのは、メープルシロップの事です。
焼いたソーセージにかけて食べるのは、ケベック風の食べ方だとか。
正しい知識ではないかも知れないので、知ったかぶりは危険です。
第三話は、完成しているので来週から毎週更新する予定です。
完成してしまっているので、途中で大きな変更が出来ないことを予めご了解ください。
では本編で。