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No.14064の一覧
[0] 完結 復活の時(鋼殻のレギオスif)[粒子案](2016/01/21 09:22)
[1] 第一話 一頁目[粒子案](2013/05/08 21:06)
[2] 第一話 二頁目[粒子案](2013/05/08 21:06)
[3] 第一話 三頁目[粒子案](2013/05/08 21:07)
[4] 第一話 四頁目[粒子案](2013/05/08 21:07)
[5] 第一話 五頁目[粒子案](2013/05/08 21:07)
[6] 第一話 六頁目[粒子案](2013/05/08 21:08)
[7] 第一話 七頁目[粒子案](2013/05/08 21:08)
[8] 第一話 八頁目[粒子案](2013/05/08 21:08)
[9] 第一話 九頁目[粒子案](2013/05/08 21:09)
[10] 第一話 十頁目[粒子案](2013/05/08 21:09)
[11] 第一話 十一頁目[粒子案](2013/05/08 21:10)
[12] 第一話 十二頁目[粒子案](2013/05/08 21:10)
[13] 閑話 一頁目[粒子案](2013/05/09 22:03)
[14] 閑話 二頁目[粒子案](2013/05/09 22:03)
[15] 閑話 三頁目[粒子案](2013/05/09 22:04)
[16] 閑話 四頁目[粒子案](2013/05/09 22:04)
[17] 第二話 一頁目[粒子案](2013/05/10 20:48)
[18] 第二話 二頁目[粒子案](2013/05/10 20:48)
[19] 第二話 三頁目[粒子案](2013/05/10 20:49)
[24] 第二話 四頁目[粒子案](2013/05/10 20:49)
[34] 第二話 五頁目[粒子案](2013/05/10 20:49)
[35] 第二話 六頁目[粒子案](2013/05/10 20:50)
[36] 第二話 七頁目[粒子案](2013/05/10 20:50)
[38] 第二話 八頁目[粒子案](2013/05/10 20:50)
[39] 第二話 九頁目[粒子案](2013/05/10 20:51)
[40] 第二話 十頁目[粒子案](2013/05/10 20:51)
[41] 第二話 十一頁目[粒子案](2013/05/10 20:51)
[42] 閑話 赤毛猫の一日[粒子案](2013/05/11 22:13)
[43] 第三話 一頁目[粒子案](2013/05/11 22:13)
[44] 第三話 二頁目[粒子案](2013/05/11 22:13)
[45] 第三話 三頁目[粒子案](2013/05/11 22:14)
[46] 第三話 四頁目[粒子案](2013/05/11 22:14)
[47] 第三話 五頁目[粒子案](2013/05/11 22:14)
[48] 第三話 六頁目[粒子案](2013/05/11 22:15)
[49] 第三話 七頁目[粒子案](2013/05/11 22:15)
[50] 第三話 八頁目[粒子案](2013/05/11 22:15)
[51] 第三話 九頁目[粒子案](2013/05/11 22:16)
[52] 第三話 十頁目[粒子案](2013/05/11 22:16)
[53] 第三話 十一頁目[粒子案](2013/05/11 22:16)
[54] 第三話 蛇足[粒子案](2013/05/11 22:17)
[55] 閑話 乙女と野獣[粒子案](2013/05/11 22:17)
[56] 第四話 一頁目[粒子案](2013/05/12 21:10)
[57] 第四話 二頁目[粒子案](2013/05/12 21:11)
[58] 第四話 三頁目[粒子案](2013/05/12 21:11)
[59] 第四話 四頁目[粒子案](2013/05/12 21:11)
[60] 第四話 五頁目[粒子案](2013/05/12 21:12)
[61] 第四話 六頁目[粒子案](2013/05/12 21:12)
[62] 第四話 七頁目[粒子案](2013/05/12 21:12)
[63] 第四話 八頁目[粒子案](2013/05/12 21:13)
[64] 第四話 九頁目[粒子案](2013/05/12 21:13)
[65] 第四話 十頁目[粒子案](2013/05/12 21:13)
[66] 第四話 十一頁目[粒子案](2013/05/12 21:14)
[67] 閑話 ツェルニに死す![粒子案](2013/05/13 20:47)
[68] 閑話 ニーナの勉強会その一[粒子案](2013/05/13 20:48)
[69] 閑話 ニーナの勉強会その二[粒子案](2013/05/13 20:48)
[70] 戦慄! 女子寮の朝[粒子案](2013/05/13 20:48)
[71] 第五話 一頁目[粒子案](2013/05/14 22:07)
[72] 第五話 二頁目[粒子案](2013/05/14 22:07)
[73] 第五話 三頁目[粒子案](2013/05/14 22:07)
[74] 第五話 四頁目[粒子案](2013/05/14 22:08)
[75] 第五話 五頁目[粒子案](2013/05/14 22:08)
[76] 第五話 六頁目[粒子案](2013/05/14 22:08)
[77] 第五話 七頁目[粒子案](2013/05/14 22:09)
[78] 第五話 八頁目[粒子案](2013/05/14 22:09)
[79] 第五話 九頁目[粒子案](2013/05/14 22:09)
[80] 閑話 第五話の後始末[粒子案](2013/05/14 22:10)
[81] 閑話 第一次食料大戦[粒子案](2013/05/15 22:17)
[82] 第六話 一頁目[粒子案](2013/05/15 22:18)
[83] 第六話 二頁目[粒子案](2013/05/15 22:18)
[84] 第六話 三頁目[粒子案](2013/05/15 22:19)
[85] 閑話 第二次食料大戦[粒子案](2013/05/15 22:19)
[86] 第六話 四頁目[粒子案](2013/05/15 22:19)
[87] 第六話 五頁目[粒子案](2013/05/15 22:20)
[88] 第六話 六頁目[粒子案](2013/05/15 22:20)
[89] 大惨事食べ物大戦[粒子案](2013/05/15 22:21)
[90] 閑話 サイハーデンの戦士達[粒子案](2013/05/16 20:13)
[91] 第七話 一頁目[粒子案](2013/05/16 20:14)
[92] 第七話 二頁目[粒子案](2013/05/16 20:14)
[93] 第七話 三頁目[粒子案](2013/05/16 20:14)
[94] 第七話 四頁目[粒子案](2013/05/16 20:15)
[95] 第七話 五頁目[粒子案](2013/05/16 20:15)
[96] 第八話 一頁目[粒子案](2013/05/17 22:06)
[97] 第八話 二頁目 [粒子案](2013/05/17 22:07)
[98] 第八話 三頁目[粒子案](2013/05/17 22:07)
[99] 第八話 四頁目[粒子案](2013/05/17 22:07)
[100] 第八話 五頁目[粒子案](2013/05/17 22:07)
[101] 第八話 六頁目[粒子案](2013/05/17 22:08)
[102] 第八話 七頁目[粒子案](2013/05/17 22:08)
[103] 第九話 一頁目[粒子案](2013/08/01 21:49)
[104] 第九話 二頁目[粒子案](2013/08/07 19:43)
[105] 第九話 三頁目[粒子案](2013/08/14 21:09)
[106] 第九話 四頁目[粒子案](2013/08/28 19:06)
[107] 第九話 五頁目[粒子案](2013/09/04 20:10)
[108] 第九話 六頁目[粒子案](2013/09/11 18:37)
[109] 第九話 七頁目[粒子案](2013/09/11 18:38)
[110] 閑話 槍衾がやってくる 前編[粒子案](2013/10/02 21:14)
[111] 閑話 槍衾がやってくる 後編[粒子案](2013/10/02 21:15)
[112] 閑話 ヴァーサス[粒子案](2014/02/05 16:12)
[113] 閑話 最悪の日[粒子案](2014/02/05 16:13)
[114] 第十話 一頁目[粒子案](2014/04/30 13:59)
[115] 第十話 二頁目[粒子案](2014/05/07 21:52)
[116] 第十話 三頁目[粒子案](2014/05/14 12:50)
[117] 閑話 ヴァーサスその2[粒子案](2014/05/28 22:30)
[118] 閑話 渚のエトセトラ[粒子案](2014/07/23 13:53)
[119] 第十話 四頁目[粒子案](2014/12/03 13:57)
[120] 第十話 五頁目[粒子案](2014/12/10 16:40)
[121] 第十話 六頁目[粒子案](2014/12/17 14:04)
[122] 第十話 七頁目[粒子案](2014/12/24 14:04)
[123] 第十話 八頁目[粒子案](2014/12/31 15:37)
[124] 第十話 九頁目[粒子案](2015/01/07 13:14)
[125] 第十話 十頁目[粒子案](2015/01/14 15:44)
[126] 第十話 十一頁目[粒子案](2015/01/21 18:13)
[127] 第十一話 一頁目[粒子案](2015/12/23 14:54)
[128] 第十一話 二頁目[粒子案](2015/12/23 14:54)
[129] 第十一話 三頁目[粒子案](2015/12/23 14:55)
[130] 第十一話 四頁目[粒子案](2015/12/23 14:55)
[131] 第十一話 五頁目[粒子案](2015/12/23 14:55)
[132] 第十一話 六頁目[粒子案](2015/12/23 14:56)
[133] エピローグなど[粒子案](2015/12/30 21:36)
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[14064] 第十話 五頁目
Name: 粒子案◆a2a463f2 ID:1d4afd70 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/10 16:40


 朝食の支度をしながらもリチャードに隙は存在していなかった。
 眠っている時でなければ、武芸者ならば確実に捉えることが出来る。
 時間的な問題が有るとは言え、それは何処のどんな武芸者でも変わりはない。
 であるからして、後ろを振り返ることなく包丁をもった右手をそのままに、左手でホークを二本後ろに向かって投げつける。

「っきゃ!」
「どわ!」

 何時も通りやや可愛らしい悲鳴と、色気が全く存在していない悲鳴を聞いて、安息の日は訪れないのだと理解した。
 だが攻撃はこれで終わりではない。
 避けられた二本のホーク目がけて更に二本を投げる。
 それぞれが先を行くホークに激突して急激に軌道を変化。

「あう!」
「でえ!」

 二人の後頭部へとそれぞれが突き刺さった。
 無駄な技量を身につけたと思わなくもないのだが、これをやらないとリチャードの精神的な平穏が維持できなくなりつつあるのだ。
 つくづく不幸な展開だと思う。
 レイフォンさえいてくれたのならばと何度思ったことか。

「あ、相変わらず凄まじい技量を見せつけてくれるじゃないリチャード。天剣を上げましょうか?」
「武芸者でないのがとても惜しいと思います。剄脈さえ有ったのならば私も天剣に推挙しているところでしょう」
「・・・・。俺を殺したいのか、お前らは?」

 ヴォルフシュテインが空位なのは知っているが、武芸者だったとしても手に入れようとはとうてい思わない地位である。
 よくもまあ、レイフォンはあんな連中と付き合っていられたと感心するような変態どもである。
 遠くから観察していたら面白いかも知れないが、近くで付き合いたいとは絶対に思わない。
 だが、現実としてリチャードは天剣授受者や女王と付き合ってしまっているのだ。

「兄貴さえいてくれたら」

 そう思うことは度々だが、それでも朝食を作る手は全く止めない。
 自動的とさえ言える感覚で作り続けるのだ。
 だが、思わず口をついて出てしまった言葉に反応する人間もいるのだ。

「レイフォンごときがいてもなんの役にも立たないと思うけれど」
「レイフォンはヘタレでしたからね。陛下の襲来を知ったら逃げると思いますよ」
「・・・・・・。だよなぁ」

 いざ戦いとなれば人格が入れ替わったかのような強さを発揮するのだが、それは日常生活で使われることはない。
 あるいは、日常のレイフォンこそが本来のレイフォンであり、戦場に出ている時は本当に人格が入れ替わってしまっているのかも知れない。
 それならば、変態集団の一人として十分に素質があることになる。

「・・・・・・。おやじ。惚けてねえで飯にするぞ」

 だが、あまりにも自分の想像が恐かったために強引に話を横へとずらせる。
 こちらも問題のある養父に向かって話を曲げたのだ。
 話を曲げる先も、やはり問題が有る人物だというのも不幸の一部であるかも知れないが、それでも話を曲げる。

「ああ。今日の天気はどんな塩梅だ?」

 最近めっきりと老け込んでしまったデルクに声をかけるが、何時も通りかなりずれた返事が有っただけだった。
 だが、こんなデルクも道場に立てば今まで通りに教えることが出来るのだから世の中不思議だ。
 いや。あるいは、レイフォンと同じように人格が入れ替わってしまっているのかも知れない。
 ならば、デルクこそがヴォルフシュテインを得るに相応しい武芸者と言うことに。

「・・・・・・・・・・・・・」

 そんな恐怖と共にあるとは言え、リチャードの手は休み無く動き朝食が完成されたのだった。
 
 
 
 
 
 リチャードのところで何時も通りに朝食を摂り、更に午前中一杯ゴロゴロして過ごしたアルシェイラだったが、それでもやるべき仕事という物は確かに存在している。
 暫く前に奥の院に入り込もうとした曲者をバーメリンに退治させた後始末 とか、先日カウンティアとリバースが取り逃がしてしまった老性体に名前を付けなければならないこととか、色々と仕事はあるのだ。
 仕事は確かに存在しているのだ。

「たいくつぅぅぅぅ」
「仕事して下さい」

 愚痴を言った途端に書類仕事をしているカナリスに怒られた。
 その気持ちは分かるのだ。
 何しろ、アルシェイラがするべき仕事を殆どカナリスがやってくれているのだ。リチャードの朝ご飯を食べ終えたら即座に王宮に戻り、書類仕事をしてくれているのだから、いくら感謝してもしたりると言う事はないだろう。
 ないのだが。

「だってぇぇ」
「語尾を伸ばさないで下さい」
「だぁぁってぇぇぇ」
「語尾以外も伸ばさないで下さい」

 人類最強武芸者であるアルシェイラに書類仕事などやれるはずがないのだ。
 サインをするだけの簡単な仕事だったとしても、書類などと言う軟弱な紙で出来た物を持つことは不可能なのだ。
 シフォンケーキを、ホークを使って食べられるが、書類の紙を持つことなど出来ようはずが無いのだ。
 それに疑問もある。
 グレンダンが進路を変えないのだ。
 それはそれで何ら問題無い。
 セルニウムの補給は数ヶ月やらないで済むくらいの備蓄があるし、戦争になったとしても、その辺を歩いている都市ごときに負けるはずはない。
 何ら問題はないのだが、疑問なのである。
 鼻の穴をほじりつつ考えるくらいには疑問なのである。
 そんなアルシェイラを見かねた訳でもないだろうが、書類の決裁を一通り終えたカナリスがなにやら封筒を取り出して差し出してきた。
 一目でどこから来たものかが分かる類の封筒である。

「そうそう。リチャードからこれを預かってきました」
「なになに? もしかして愛の告白? それとも私と結婚したいとか?」
「違います。なにやら手紙のようですが」
「ラブレターね!!」
「三行半かも知れません」

 アルシェイラもカナリスも、自分達の言っていることが間違っていることは理解している。
 なんの変哲もない封筒は、明らかにグレンダンの外から来た物だった。
 幾つもの都市を経由して、遙々ここまでやって来たその封筒からは微かにリーリンの匂いがする。
 もしかしたらリーリンからの愛の告白かも知れないと期待しているが、そうでは無いだろう事も分かっているのだ。
 多少残念ではあるが。
 取り敢えず、いつまで経っても話が進まないのはよろしくないので、受け取って開封し、そして凍り付いた。

「・・・・・。カナリス」
「はい陛下」
「ツェルニまで行ってくるから」
「却下です」
「その間の執務は頼んだ!!」
「リチャードのご飯が二度と食べられませんよ?」
「うごわ!!」

 却下という言葉を無視して執務室を出て行こうとしたアルシェイラだったが、そんな事を許すほどカナリスは甘くなかった。
 しかも、よりにもよって、リチャードのご飯を人質に取るなどと言う卑劣極まりない方法でアルシェイラの行動を妨害してきたのだ。
 いや。ご飯だから人質ではないのだろうか?
 どちらにせよ、カナリスが卑劣で狡猾で更には卑怯であることだけは間違いない。
 だが、そのカナリスを何とか説き伏せなければならないのも事実だ。
 そうでなければ、グレンダンの執務が溜まり続け、最終的に全てアルシェイラの元に返ってくることになってしまうから。
 であるからこそ、何とか事態を動かさなければならない。
 と言う事で、雑誌の切り抜きをひらつかせてカナリスの気を引こうと努力してみる。

「カナリス? これを見ても私の気持ちが分からないと言うつもりか?」
「中身はリチャードに見せてもらいました。昨夜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。そ、そう」

 手紙の内容もそうだが、昨夜こっそりと逢っていたことに驚いたアルシェイラは、もうツェルニまで行く気力を失っていた。
 人類最強の武芸者とはいえ、所詮人に違いないのだと改めて認識した瞬間だった。

「えっとねカナリス」
「なんでしょうか陛下?」
「気にならない? これ」

 そう言いつつ手に持っている雑誌の切り抜きを示す。
 そこには、精神的にボロボロになっていることが十分に分かるサヴァリスの姿と、そこに至った経緯が事細かに書き連ねられていた。
 表題は、グレンダン恐るるに足らず!!
 誠に残念なことではあるのだが、この雑誌を見ただけで天剣授受者への恐怖や敬意が吹き飛んでしまうことは間違いない。
 これが二年前にアルシェイラの手元にあったのならば、レイフォンは未だに天剣授受者として君臨していたかも知れないと思えてくるから不思議だ。
 だが、今問題になっているのは衰えたとは言えアルシェイラの中で燃え盛っている好奇心の方である。

「興味は引かれます。レイフォンだけならまだしもサヴァリスがそのような姿になったとなれば、天剣授受者の素質が疑われかねません」
「そしつねぇ」

 アルシェイラ自身が任命した以上、その素質には自信がある。
 性格も人格も過去も出身地も関係なく、ただ強さのみを基準として集められたのが天剣授受者である。
 結果的に人格破綻者がとても多くなってしまったが、それはあくまでも結果であって選考基準とは何ら関係ない。
 いや。関係ないはずだ。

「絶叫マシーンなる謎の乗り物がどれほどの物かは分かりかねますが、乗り物ごときで天剣授受者が戦闘不能になるなど言語道断。そう言われてしまった場合の対応を考えておきませんと」
「それは有るわね」

 天剣授受者とは何か? それは汚染獣を駆逐するための武芸者である。
 そして、グレンダンの目的を達成するための戦士達である。
 その、人類最高水準の天剣授受者が二人も絶叫マシーンに挑み敗北したのだ。
 この事実を放っておくことには少しだけ問題が有る。

「ねえねえカナリス?」
「却下です」
「グレンダンにも絶叫マシーンを作って」
「予算がありません」
「武芸者全員を乗せてみたら良いんじゃないかな?」
「一体どれだけの時間がかかると思っているのですか?」
「もしかしたら、ヴォルフシュテインを持つに相応しい奴が見付かるかも」
「絶叫マシーンを基準にしないで下さい。そもそも、グレンダンには作るノウハウがありません」
「う、うぅぅぅむ」

 他のところは力ずくでどうにかなるが、全く未知の乗り物を作ることはとてつもなく難しい。
 出来たとしても、それはツェルニにある物に比べれば遙かに質の悪い物になってしまうだろう。
 だからこそアルシェイラはツェルニに行こうとしていたのだ。
 いや。この考え方を少し修正すれば。

「サヴァリスを代金代わりに絶叫マシーンをツェルニから輸入すれば」
「巨大な建造物らしいですから、輸入するとしたら設計図ですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 一日近く早く情報を得ていたカナリスは、既にこの結論に達していたのだ。
 であるならば、もっとこう、アルシェイラの希望を叶えるべく行動を起こしてくれていても問題無いのではないかと思うのだが、そう言う展開にはならない。
 これはもしかしたら、アルシェイラの女王としての資質に問題が有るのかも知れないし、カナリスの補佐官としての資質に問題が有るのかも知れない。
 いや。元を辿ればカナリスは確かアルシェイラの影武者だったはずだ。
 影武者である以上、本体の欲望を叶えるために奔走することこそが本分であるはずで。

「ちなみに」
「な、なにかな!!」
「影武者とは身代わりであって自立行動端末ではありませんのであしからず」
「そ、そうですよねぇ」

 完膚無きまでの敗北だった。
 
 
 
 
 
 カナリスに敗北したアルシェイラだったが、当面の仕事を押しつけることには成功したために気晴らしのために町へと出てきていた。
 気晴らしをする必要があったのかという疑問は持ってはいけない。
 いや。頭脳戦で敗北したことで鬱憤が溜まっているから気晴らしに出たと言う事も出来るかも知れないが、それはなんだかとても敗北感を刺激する思考である。
 そんな事を考えていたのは、実は一瞬前までの話である。
 思い返せば、カナリスに仕事を押しつけてから既に数時間が経っている。
 グレンダンは既に夜へと突入して、あちこちにある街頭がほのかな光を路面へと投げかけている、そんな時間になっている。

「!!」

 思わず建物の影に隠れる。
 直線距離にしておおよそ二キルメルトル。
 気まぐれに活剄を使っていなかったら決して見える距離ではなかった。
 小高い丘の上に立っていなければ、活剄を使っても見ることは出来なかっただろう。
 それは、仲睦まじい男女の姿に見えた。
 一緒に歩くと言うには距離が近すぎ、身体が触れるには遠すぎる距離だ。

「どどど、どうしよう」

 女王とあろう者が慌てる。
 アルシェイラ・アルモニスが、建物の影に隠れ気配を殺し、そして思考がまとまらないという恐るべき事態へと叩き落とされた。
 見えたのは、うら若い女性と、若いと言うには後何年か必要な少年の二人だ。
 ぶっちゃけカナリスとリチャードだ。
 ご飯でお世話になっているリチャードと、仕事でお世話になっているカナリスだ。
 この二人がとても仲睦まじい雰囲気で歩いている姿を見つけてしまった。
 明日になったら二人をからかうネタにするなどと言う事まで考えたが、そんな事をしたが最後、美味しい食事と便利な影武者を失うことになりかねない。
 ならばどうするか?

「こ、ここは情報収集をすべきよ!!」

 拳を握り自分に気合いを入れる。
 横を通りかかったおじさんが驚いて仰け反っているが、気にしている暇など無いのだ。
 そして活剄の密度を上げて二キルメルトル先の音を拾う。
 デルボネに頼めば簡単なのだが、何となく自分の力でやってみたくなったのだ。
 普段殆ど使わないから、たまには使わないと錆び付くかも知れないとそんな理由を付けて、活剄の密度を上げる。

「明日の朝食の材料はもう手配済みですか?」
「ああ。明日は学校がないから少し手の込んだ物を造るつもりなんだが、希望とか有るか?」
「そうですね。フレンチトーストなど食べてみたいと思います」
「? 普段食べないのか?」
「一応良家なのでもう少し手の込んだ物が出てきてしまうので」
「天剣授受者って、食事にはあんまり気を遣わないのかと思ってた」
「リンテンスやサヴァリスは気を遣っていませんが、私は違います」

 聞こえてきたのは、とても普通の会話だった。
 いや。喋っている人間は特別だが、内容はとても普通だった。
 この事実が更にアルシェイラを混乱に導く。
 いや。むしろ叩き込む。

「シノーラがもう少し手加減してくれれば、俺の負担は減るんだけれどなぁ」
「あの人の辞書に手加減なんて言葉はありませんからね」
「だよなぁ」

 とても仲睦まじい会話のさなか、アルシェイラのことが話題に上った。
 しかも、双方とも愚痴を言っている。
 この事実をどう処理したらよいか皆目見当がつかない。
 だが、現実は容赦なく突き進み、買い物をした二人がサイハーデンの同情の側へと到着する。

「こ、これは!!」

 ラブシーンである。
 ラブシーン以外あり得ない。
 ラブシーンがなければおかしい。
 ラブシーンがなければこの都市を破壊しよう。
 徐々にヒートアップするアルシェイラのことなどお構いなしに、恐るべき事が起こった。

「では明日の朝参ります」
「ああ。フレンチトーストは楽しみにしていてくれ」
「毎朝楽しみにしていますよ」

 軽い挨拶を交わした二人は。
 何の躊躇いもなく、ラブシーンもなく、それどころか手を振ることさえなく別れてしまった。

「え? あ、あの? おぉぉぉいぃ?」

 アルシェイラの困惑など知らぬげに、いや。実際に知らないのだろうが、二人はあっさりと別れてしまったのだった。
 残ったのは、この中途半端な展開をどう処理して良いか分からずに、八つ当たりでグレンダンを破壊するべきかどうか迷っているアルシェイラのみ。
 もはや、進路を変えないことなどどうでも良くなってしまった。
 それどころか、生きて行く気力が著しく欠乏してしまったような気分だ。
 アルシェイラの周りに集まっていた野次馬を無視して、今夜はやけ酒を飲んで寝ようとふと頭に浮かんだので、都市の破壊を放り出してしまうこととした。
 散々な体験であった。
 
 
 
 
 
 ツェルニの養殖湖、その側にある木の上で惰眠を貪っていたディックだったが、ふと何かの気配を感じて覚醒した。
 それはもしかしなくても、何時もの狼面集の気配であることだけは間違いないが、今のツェルニは大変危険な場所であることを彼らは知らないのだろうかと疑問にも思う。
 ここには現役と元の天剣授受者がいるのだし、ディックの生物兵器だっているのだ。
 それ以外にも、なにやら規格外の生き物が多数居るらしいツェルニにやってくるとは、よほどの物好きであると断言できてしまう。

「それは俺もか?」

 自分の意志で来たわけではないにせよ、結果だけを見れば確かにディックもここにやってきている。
 ならば、このツェルニでこそ何かが起こるとそう考えた方が良いかもしれない。
 この考えに至ったので、ゆっくりと身体を動かしてみると天剣授受者の攻撃で炭化していた足はほぼ完治していた。
 炭化した怪我が寝ているだけで治ってしまう身体というのもどうかと思うが、便利であることに変わりはない。
 それはさておき、狼面集はディックには興味を示さない様子なのは少し有難い。

「いや。何を企んでいやがるんだか」

 ここにはディックの飼い主がいるのだ。
 どうこうされるとは思わないが、それでも少しだけうっとうしい。
 巻き込まれるのが面倒になりつつある今日この頃だが、突如としてそんな思考は吹っ飛んだ。

「!!」

 汚染獣襲来を告げるサイレンが鳴り響いたと思ったのだが、それが間違いであることはすぐに分かった。
 これは都市間戦争。武芸大会の相手が近くにやってきたことを告げるサイレンなのだと。
 だが、これで更に分からなくなった。
 武芸大会に介入してツェルニを敗北させると言う事も出来るかも知れないが、それで何か得をするというわけでもないだろうと思う。
 もしかしたら、ディックの知らないところで狼面集が儲かるのかも知れないとも考える。

「それは許せねえな」

 ディクセリオ・マスケインは強欲である。
 誰かが得をするのならばそれを奪って自分の物にしなければ気が済まない。
 相手が狼面集だったのならば、例え損をしてでもそれを奪わなければ気が済まない。
 この結論に達したディックは、活剄の密度を上げて治りかけの足の治療に専念するのだった。


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