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No.14058の一覧
[0] 化物語SS こよみハーレム 【完結】[鬱川](2010/01/07 20:45)
[1] こよみハーレム1 (神原編)[鬱川](2009/11/19 11:21)
[2] こよみハーレム2 (神原編)[鬱川](2009/11/20 12:57)
[3] こよみハーレム3 (戦場ヶ原編)[鬱川](2009/11/25 10:29)
[4] こよみハーレム4 (戦場ヶ原編)[鬱川](2009/11/25 23:14)
[5] こよみハーレム5 (間話) [鬱川](2009/11/27 17:00)
[6] こよみハーレム6 (千石編)[鬱川](2009/12/01 13:39)
[7] こよみハーレム7 (千石編)[鬱川](2009/12/04 12:13)
[8] こよみハーレム8 (八九寺編)[鬱川](2009/12/08 12:15)
[9] こよみハーレム9 (八九寺編)[鬱川](2009/12/10 12:36)
[10] こよみハーレム10 (火憐・月火編)[鬱川](2009/12/14 22:38)
[11] こよみハーレム11 (火憐・月火編)[鬱川](2009/12/16 12:08)
[12] こよみハーレム12 (忍編)[鬱川](2009/12/19 23:15)
[13] こよみハーレム13 (忍編)[鬱川](2009/12/21 17:25)
[14] こよみハーレム14 (羽川編)[鬱川](2009/12/25 22:35)
[15] こよみハーレム15 (羽川編)[鬱川](2009/12/29 18:32)
[16] こよみハーレム16 (後日談前編)[鬱川](2010/01/06 12:11)
[17] こよみハーレム17 (後日談後編)[鬱川](2010/01/07 15:08)
[18] こよみハーレム18 (外編)[鬱川](2010/07/30 17:31)
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[14058] こよみハーレム18 (外編)
Name: 鬱川◆1457eb98 ID:713ac1a7 前を表示する
Date: 2010/07/30 17:31
 化物語最終巻DVDを見ました。オーディオコメンタリーを聞きました。
 神原が改めて好きになりました。
 羽川さんが好きになりました。
 そんな話です。


 今回は今まで以上にメタ発言ばかりなので、特に最終巻のオーディオコメンタリーをまだ聞いてない人は読まない方が良いかと思います。
 因みに衝動的に書いているため特に落ちもなく中身もありません。






001

 週末の金曜日。
「はあ」
 家に向かう道の上に僕は何度目かになるため息を落として見せた。

 忍と二人、もはやいつものようにと言って差し支えなくなったミスタードーナツにドーナツを買いに行った帰り道だ。
 そんな僕の露骨なため息に反応してくれるはずの少女、もとい幼女はこちらも既に定位置と化した自転車のカゴの中に僕と対面するようにして座りながらチラと僕を見上げただけで、直ぐにまた小さなお口でドーナツを頬張り始めた。

 ……可愛い。
 ブラック羽川の猫語並に、いや歯磨き中の火憐ちゃん並に、いやいや八九寺並みに可愛いかも知れない。

「オイ忍。お前が可愛いのは分かったら、いい加減僕のため息の訳を聞いてくれよ、これだけ露骨にアピールしてるんだからさ」
 横長いドーナツの箱をカゴとハンドルの間に挟めるように置きながら、地面から浮いた足をプラつかせる幼女の破壊力にノックアウトされる寸前で踏み留まり、とにもかくにも話を進めようと口を開き、ついでに自転車を押していた両手の内、片方を開けっ放しのドーナツの箱から僕の分も一つ。と取り出そうとして、けれどその手は忍の白く小さな手によってはたき落とされた。

「痛った。何するんだよ忍。僕にも一個くれよ」
「駄目じゃ」

「あん? 何でだよ、それは元々僕の金で買ったもんだぞ」
 確かにドーナツに対する独占欲は僕の八九寺に対するそれと似たり寄ったりと噂される忍であったが、それでもいつもであれば僕にだけは一個くらいはくれるものなのだが。
 今日は地味に機嫌が悪そうだ。

 以前千石を睨み付けていた時のような鬱蒼とした半目で睨み付けられて僕は思わず足を止めた。

「とにかく駄目じゃ。良いからお前様は早う家に戻れ。儂はこの後忙しいのでな」
 自転車に乗られていては集中出来ん。と続ける忍に僕は首を傾げる。
「一日中影の中にいる癖に、何するつもりだよ」

「フレンドプラスをプレイしている途中だったのでな」
「あるのかよ! いや作ったのかよ。僕にもやらせてくれよ。帰りにゲーセン寄ってこーぜとか言わせてくれよ!」

「お前様も影の中に入ってくればいつでもやらせてやるがのう。因みに友達のモデルはあの生意気な小僧か不吉な男の2パターンじゃ」
「忍野と貝木かよ! ヤダよ。どっちもやだよ。もっとマシなサンプルはいなかったのか」
 忍野はまだしも貝木とゲーセンに行く様子なんて……普通にゲーセンに行ったらいそうな気もするな。
 その場合また僕から金を巻き上げるのが目的なのだろうが。

「そもそもお前様の周りに男がおらんからじゃろう」
「痛いところ突かれた! 悪かったな友達いなくて」
「その代わり彼女は八人おるがのう。一日交替の曜日制にも出来んな、後一人減らせば七人で曜日制になるのではないか」

「火憐ちゃんと月火ちゃんを一纏めにしよう。それで解決だ……って! そうじゃない」
 思わずノリツッコミをしてしまった僕に対し、忍はドーナツを食べ終えてから、おお。と感嘆の声を上げつつ手を叩いた。

「これがノリツッコミという奴じゃな、お前様も少しずつ成長しておるようじゃのう」
「ツッコミを成長させたくなんかねえよ。いや、だーかーらー。話を進めさせろ! 僕の周りの女子はどうしてこう、人の話を聞かないと言うか、直ぐに脇道に逸れると言うか。まあいい、あれだよ、お前も見てたろあの酷いオーディオコメンタリー」
 思い出したら泣きそうになってきた。

「うむ、お前様が無理矢理儂を引きずり出して一緒に見させた奴じゃな」
 今更じゃと言わんばかりに首を振り、忍は新しいドーナツを取り出すとまたも口に咥えていく。
 なんだかこう、神原じゃないがこの光景は。

「実にエロいな! 阿良々木先輩! 股間が潤ってきたぞ」
「神原。お前は相変わらず期待を裏切らない登場の仕方をするな」
 何の前触れもなく僕と忍を飛び越えて、僕らの前に立ちふさがった手に包帯を巻いた少女、神原駿河は腰に手を当て、いつもの太陽のような笑顔を浮かべながら、忍を見つめて言う。

「うん? よく分からないがお褒めいただいて光栄だ。しかし阿良々木先輩、今はそんなことよりも忍ちゃんの小さなお口でドーナツを頬張る様を共に観察しようではないか。安心しろ我慢出来なくなったら阿良々木先輩のナニは私が頬張らせていただく」
 登場からフルスロットルだった。

「ナニとか言ってんじゃねえよ。それより神原、何でこんな時間にこんな所にいるんだ? 何処かに行く途中か? だったら送って行くけど」
 忍が動ける時間帯と言うことはつまり夜。
 まあ神原をどうこう出来る人間は恐らくほぼ存在しないが、それでも神原は僕にとって大事な人の一人だ。ついて行ってやるくらいは良いだろう。
 露骨に嫌そうな顔をしている忍を見ないようにしながら言う僕に、いや、と神原は首を横に振る。
「阿良々木先輩が悩んでいるような気がして飛んできたのだ」
「……そうか。凄いな」
 忍とは大違いだ。
「ナニを悩んでいるかも大凡の見当はついている」
「ほー。それは本当に凄いな。言って見ろよ」
 読心術の使い手である神原にはそれぐらい簡単なことだろう。
 などと半ば神原が僕の心を読むのが当たり前だと認識している自分に驚きながらも返答を待つ。

「ああ、溜まっているのだろう?」
「違う」
「私と性交渉がしたいだったか?」
「違う」
「よもや忍ちゃんを入れて3Pがしたいのでは」
「違う」

「では皆目見当もつかない」
「他にも色々あるだろ! 何でそればっかりなんだよ!?」

「うん。実は全て私の願望だ。だがこんな夜更けに、こんな所人通りの少ない道を落ち込んだ様子で歩いている阿良々木先輩を察知すればそれ以外思いつけという方が無理な話ではないか! ちゃんとお祖母ちゃんにも今夜は阿良々木先輩と泊まってくると言ってから出てきたのだぞ」
「最悪だ! もう僕にご飯を作ってくれなくなるじゃないか!」

「安心しろ阿良々木先輩。ちゃんと出産を前提にお付き合いしている話はしてある」
「どんな前提だよ!」
「いやしかしだな、結婚は流石に戦場ヶ原先輩に譲らねばならないからな。私は既に日陰の女として生涯を過ごしていく気満々だ」

「そんな決意を固めるな! いや、神原あれだよな? 本当は言ってないよな? 神原お祖母ちゃんに対してはこう変態的な所を隠しているというか、あまり見せないようにしているというか、そんな感じだったよな」

 全裸で電話しているところを見られて凹んでいた位なのだ。きっとこれは冗談に決っている。
 今度また神原の部屋を掃除し行った時には、暦くんご飯食べていく? と優しく聞いてくれるに決っている。
 しかし、そんな僕の期待を余所に、神原はゆっくりと首を横に振った。

 長く伸びた髪が左右に揺れて広がるところを茫然と見つめていた僕に、神原は腰に手を当てたまま自信満々に言い放った。

「いや、この間ちゃんと説明した。自分がどれだけ変態のサラブレッドであるか、阿良々木ハーレムの一員としてどれだけ貢献してきたか、私の阿良々木先輩と戦場ヶ原先輩への思いも一つ残らず語って見せた。どうにも最近、私の変態っぷりが口だけだと言う酷い侮辱を受ける機会が多いのでな。まさか、千石ちゃんや羽川先輩にまでそんな風に思われていたとは思っても見なかった」

「あ。そうだ、それだ!」
「どれだ?」
 相変わらず小首を傾げた神原は可愛い。先ほどのドナーツを咥えていた忍並に、ブラック羽川の猫語並に、歯磨き中の火憐ちゃん並に、そして八九寺並みに可愛いかも知れない。

「……何故他のみんなは、何々の何々というように場面指定なのに、八九寺ちゃんだけそれそのものなのだ? いや、勿論八九寺ちゃんが可愛いのは私も同意するが」
「そう、八九寺はどんな場面でも可愛いからだ。お前もあれだろ? DVD見たんだろ? あの忍を捜すと言って郵便受けを開けているところとか、トキメキメキメキだった」

「阿良々木先輩! それは私の台詞だ。取らないでくれ! と言うか阿良々木先輩、人にメタ発言は止めろ止めろと言う割に自分はあっさり言うのだな」
「ああ、何せ今日僕が落ち込んでいる理由はまんまそれだからな、スバリ化物語最終巻つばさキャット下のオーディオコメンタリーについてだ」

「おお、阿良々木先輩が自らそんなことを口にするとは、驚きだな」
「それぐらい僕の精神は今病んでいる」
「ああ、例のあれか。あれには私も驚いた」

「つい数秒前まで、お前と話している時までは僕の羽川さんだったのに、何でまた急にあんな事に」
 思い出してまた泣けてきた。
 オイ阿良々木。なんて言う羽川さんを僕は見たくなかった。
 あれでは確かに、戦場ヶ原が羽川様と呼ぶのも頷ける話だ。

「確かにな、私もその少し前に失礼なことを言ってしまったことを後悔したものだ」
「ああ、そうだ。それもあった、お前羽川に嫌いだって言ってやがったな」
「ちゃんと最後に否定したではないか。うん。あの方を嫌う事なんて私には出来なかった」
 そんなこと誰にも出来ないよ。
 羽川さんを嫌える人を僕は知らない。



002

「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「本題? 性交渉か? 今日はちゃんと勝負パンツ穿いてきたぞ。勿論私の勝負パンツは、阿良々木先輩と交換した阿良々木先輩のパンツの事だ。最も既にこれは阿良々木先輩のパンツと言うよりは私の匂いしかしないパンツなのだがな」

「そんなこと聞かされたら余計そんな気分にならないよ」
 なにが悲しくて自分のパンツを脱がせなくてはならないのだろう。
 いや、脱がせる気もないけどな。

「話というのは勿論、羽川さんのことなんだが」

「ああ、そうか。うん」
 話を切り出すと、神原のテンションは微妙に下がり、何とも言い難い顔で僕を見た。
 本気で性交渉だと思っていたのだろうか。いや、神原のことだ、本気で思っていたのだろう。実際の所、今の僕達はそうなって別におかしい間柄でも無いのだから。

「今日の昼間、DVDを忍と一緒に鑑賞していたら、突然電話が鳴ってな。それが」
「羽川先輩からだったのか?」
 言おうとした言葉を先読みされた。
 心を読まれたか、エスパーM女の力を使って。

「お前は何でも知ってるなあ……って違う違う」
 思わず対羽川用の台詞を口にしたところで、慌てて思い直し止めようとしたが、それも遅く、神原は瞳を爛々と輝かせると嬉しそうに僕を見上げ、
「何でもは知らない。エロい事しか知らないぞ」
 とキメ顔、いやどや顔で言った。

「止めろ! 僕の羽川さんのキメ台詞を汚すな!」

「それで一体どんな話だったのだ? 勿論羽川先輩程のお人ならば、阿良々木先輩がその時忍ちゃんとオーディオコメンタリーを聞いていたことも知っていておかしくはないだろうが、これもすまない、阿良々木先輩は嫌うかも知れないがメタ的なことを言わせて貰えれば、今私たちがいる世界はとっくに本来の化物語の世界からは外れているし、羽川先輩の気持ちにもまあ形はあれだが応えたことになっているのだろう? あのオーディオコメンタリーを聞いていたからと言って羽川先輩が文句をいう様には思えないのだが」

「いや、普通に勉強の話だったんだけど、流石にそのタイミングだろう? 相手が羽川だって事も含めて何か裏があるんじゃないかと思うと怖くてさ。何かあのDVDを見て羽川さん、いや羽川様に思うところがあったのなら、僕は早めに対策を練らなくてはならないし」

「うーむ。何とか手を貸して差し上げたいのは山々なのだが、うーん」
「何だよ、何かあるのか?」
 積極的に手を貸してくれ。と言うつもりはないが、神原ならば一にも二にもなく、むしろ自分から手を貸してくれると思ったのだが。

 せめて羽川さんが何について話があるのか怒っているのかそうでないのか、それだけでも分かれば、僕としても心構えが変わってくるのだが。

「いや、勿論私は羽川先輩に対し、思うところはないというか。もう戦場ヶ原先輩の敵だから嫌おう。なんて思う訳ではないのだが、最近、どうも妙なのだ」
 完全に空気と化して、ドーナツを次々頬張る忍を一瞬見てから改めて神原を見る。
 神原は眉を寄せ、唸り声を上げていた。

「羽川先輩だけではなく、他の人たち、例えば真宵ちゃんや千石ちゃん忍ちゃんや、妹さん達、戦場ヶ原先輩にさえ、妙な気分を抱いてしまう」
「妙なって、性欲的な意味合いじゃないだろうな?」

「それはいつもだ。そうではないから困っているのだ」
「僕としてはそっちの方が問題だよ。で? どんな気持ちなんだ、その妙な気持ちって言うのは」

「うん……実はこう、何というかだな、いつもではなく、阿良々木先輩と一緒にいるところを見るとこう、こう。もやもやするのだ」
「僕と?」

 確かにここのところ、自分で口に出すのはあれだが、
「口に出すなどと……エロいな阿良々木先輩は」
 お前に言われたくはない。と言いたいが無視しよう。

 うん。阿良々木ハーレムとやらの面子が集まったりその中の何人かを連れて遊びに行くことが多くなった。だからと言って何故それが神原の妙な気分。に繋がるのだろう。
 いっそ他の子達を性欲的な目で見る、ならば分かり易かったのだが。

「うーん。なんだろうな」
「分からないから困っているのだ、そんな訳で今の私では阿良々木先輩の力になどなれそうもない。ああ、阿良々木先輩が困っている時に力になれないとは牝奴隷失格ではないか。嘆かわしい」

「いや、いい加減その奴隷とか何とか言うの止めろよ。お前はあれだろ。一応僕の恋人その二な訳だろう」
 ここで照れたり言葉を濁したりするのはきっと神原にとってもまた他の女の子達にとっても失礼なことだ。

 そう言いきった僕を神原はまじまじと見つめていたけれど、やがて嬉しそうにうん。と一つ頷き、
「それはとても嬉しいお言葉だが、撤回はしない。私は阿良々木先輩の恋人であると同時に阿良々木先輩専用の牝奴隷でもあるのだ。これは私の、変態のエキスパートである私の誇りなのだ」
 と胸を張って言った。

「そうか。ならもう何も言わないよ。好きにしろよ」
 自信満々にそれこそ誇り高く(こんな事で誇られても困るのだが)言ってのける神原を説得することは諦めて、口を閉じた僕はなら他にどんな理由があるのか。と考えるが、答えは出ない。

 二人揃って唸り声を上げる中、場の空気を一変させたのは何とも意外な人物だった。
 と言うか忍だった。
「嫉妬ではないのか?」

「え?」
「え?」
 僕と神原の声が重なる。

 忍がそこにいるのは勿論知っていたし、ドーナツを食べながらでも会話に参加することぐらいは出来るのも当然なのだが、驚いたのはそこではない。
 あの忍が。
 と言うところが重要なのだ。



003

 とは言え忍は神原には視線を送ることもなく、ただ僕を見上げて言っているだけなので、明確に神原に声をかけた訳ではないが、それでも忍が僕と忍野以外に対して反応を示すのは実に珍しい。

 僕以外いない場所でなら、他の人の話、火憐ちゃんや月火ちゃんの怪異に対して話してくれたこともあったが、今回はケースが違う。
 それに言っていることにも驚いた。

 嫉妬。と言ったのだ、誰が誰に? 神原が僕に? ではおかしいだろう、ならば僕ではなく僕と話している他の女の子に対して嫉妬した。と言うことだろうか。
 思わず神原を見ると、神原は大きな瞳を何度か瞬きしながら少しの間フリーズしていたが、やがて大きく手を叩いた。

「なんと! そうか、そう言うことだったのか。通りで以前何処かで覚えがある感情だと思ったのだ」
「そう、なのか?」

「うむ。私が以前戦場ヶ原先輩と話をする阿良々木先輩に対して抱いていた思いとよく似ている」

「ってオイ! それ大分危険じゃねぇか」
 何せ、神原はその嫉妬心が元で僕を殺そうとしたことがあるくらいなのだ。
 しかも未だ猿の手、いや悪魔の手は健在だ。
 神原がもうそんなことをするとは思わないが。

「うん。勿論そんなつもりはない、それにあの時とは状況も違う。あくまで近いと言うだけだ。あー、やっとスッキリした。それにしても忍ちゃん。ああ、以前も聞いたがなんて可愛らしい、声、喋り方、姿。あー、もう、抱きしめたい! 抱かれたい!」

「……お前様よ、儂は少し疲れたのでな、先に戻っている」
 自分の身体を抱きしめるようにして悶えている神原を無視して、忍はカゴの中から抜け出し地面に降りると、僕の影にゆっくりと沈んでいった。

「ああ、了解……ってドーナツ全部食ったなお前!」
 カゴとハンドルの間に置かれたドーナツの箱は空。
 僕の言葉にニヤリと笑みを浮かべつつも沈んでいった忍は最後の最後、金色の髪だけが残った辺りでボソボソと小さく呟いた。

「ん? 何だって?」
 聞き取れなかった僕の問いかけを無視して、忍は影の中に沈み、後は空のドーナツの箱と僕らだけが残された。

「まったくアイツは。それで神原。とにかくもう夜も遅いことだし、家まで送っていくよ」

「ああ、うん」
 神原の抱いていた妙な気持ちとやらの正体も分かり、一応解決したことだ。このまま家まで送っていこう。出来れば神原のお祖母ちゃんの誤解を解きたいところだが、こんな夜更けでは逆に迷惑だろう。
 けれど神原はどこか歯切れ悪く、自分の身体を抱いたまま小さな声で曖昧な返事をした。

「なあ、阿良々木先輩。もう少し、話をしていかないか?」
「でももう遅いし」
「良いから! 頼む阿良々木先輩」
 一度声を張り上げた神原の声は尻すぼみになって消えていく。
 なんとも珍しい。こんな神原は見たことが無い。

「……分かったよ。じゃあ、僕の家……って訳にもいかないか、ここからだとあの学習塾が近いか、そこで良いか?」
 あの学習塾跡に夜中、誰かが溜まったりしないのは以前何日か過ごした時に分かっていた。
 僕の言葉に神原は無言で頷く。



004

 学習塾跡の中は相変わらず静かだった。
 室内は壊れた窓と、影縫さんが空けた大穴から指す月明かりのおかげで割と明るかった。
 神原は相変わらず静かなまま、静かな神原はそれはそれで可愛らしいものだが、やはり僕としては落ち着かない気持ちの方が強い。

「神原、何かあったのか? さっき忍が何かほぞほぞ言ってたけど、それか?」
 明らかに忍が消える直前発した台詞の後から神原の様子はおかしくなった。
 彼女らしくないと言うか大人しくなってしまった。

「忍ちゃんが何を言ってたか阿良々木先輩は聞こえなかったか?」
「ああ、なんかボソボソ言ってたし僕に背を向けてたしな」
「そうか。忍ちゃんはな、次の自分の番だから、さっさと済ませろ。と言っていた」

「何の話だか」
「……分からないか?」
 なんだ、このシリアスな空気。何か奇妙な雰囲気になってきたような……

 いや、止めよう。オーディオコメンタリーで鈍感を連呼され続けた僕だが、この手の雰囲気はもう何度も体験している。それがどんなものであるかぐらい、分かっているつもりだ。

 忍の台詞ではないが、僕だって日々成長しているのだ。
 けれど多分、忍のそして神原が言いたかったことは僕の想像よりもっと深いものだろう。それはきっと、変態のエキスパートを自認する神原ですら口にするのを躊躇うような事。
 僕から言わなくてはならない事。

「神原」
「ん? なんだ阿良々木先輩」
 まだどこか悩んでいる様な神原に僕は言う。

「本当に、今夜泊まってくるって言ったのか?」
「あ、ああ。確かに言ったが」
 神原も僕の言葉から何かを察したのか、口調にブレが生じ始めた。

「そうか。じゃあ」
「しかし阿良々木先輩、流石にそれはいかんぞ。勿論私は阿良々木先輩から求められればいつ何時、どんな場所であろうと、ここであろうと処女を散らす覚悟は出来ているが、流石にそれは拙い」

「何で?」
 神原らしからぬ物言いに、ちょっと意地悪してみたくなってあのブラック羽川。もとい単なる黒い羽川さんのような喋り方で言ってみる。

「いや、だから」
 うろたえる神原。
 あ、ヤバイこれちょっと楽しい。
 オーディオコメンタリーで僕を苛めた羽川さんの気持ちがちょっと分かる。

「いつも言っているだろう? 私は阿良々木ハーレムの一員として唯一にして絶対的なルール。戦場ヶ原先輩が行った行為以上のことをしてはいけないのだ」
 途惑っている理由はそこだったのか。しかしそのルール、あの真面目一辺倒の羽川さんが……いやあれは僕が破らせたのか。
 とにかく既に前例はあるしそれ以上に。

「何だ神原。聞いてないのか?」
「む? 何がだ」
 てっきりいつかの初デートの時のように、電話で数時間、いや今回ならば十数時間くらい自慢していたかと思っていた。
 まあ、今のドロヶ原さんはそんなことしないか。

「いや、言いづらいことではあるし、と言うかあまり言いたいことじゃないけど、僕と戦場ヶ原な、そのー」
「既に行為に及んでいたのか!?」
 いつもであれば心を読むな。と言ってやりたいところだが、今回に限って言えば正直助かった。思った以上に言い出しづらかったからな。

「まあ、そういうこと」
「何故言ってくれなかったのだ! 言ってくれればその場所で私も行為に及んでいたというのに」
「だからだよ」

「ああ、もう。これまでの私の葛藤をどうしてくれる。さあやろう、直ぐやろう、今やろう。戦場ヶ原先輩とした数以上の回数をこなそうではないか」
「無茶言うな!」

「阿良々木ハーレムの二番手として、他のみんなには悪いが二番目の栄誉は私が頂く」
「え?」
「ん?」

「あー、いや。何でもない」
 余計なことを口走るところだった。

 と思ったら、もう遅かった。
「もしや阿良々木先輩。既に他の誰かと行為に……」
「いや無い、それは無いぞ。うん」
 心の中でごめんなさいしておこう。バレると色々と拙いのだ。相手が相手だけに。

「なんと! 羽川先輩かと思えば千石ちゃんだと!」
「だから心読むなよ! あー、もういいや。そう、なんか千石の奴僕と戦場ヶ原のこと知っててな、いつものようにツイスターゲームを二人でやってたらそのまま」
 何故かどうしてか流されていた。今思い出しても何故そうなったのかさっぱり分からない。

 ただ、あの時の千石は非常に、異常に、それこそ八九寺並みに可愛かったことだけは言っておこう。

「流石は千石ちゃん。ラスボスの名は伊達ではないな」
「前から思ってたけど、千石がラスボスって何でだよ。あんなに可愛らしい中学生に対する評価じゃないだろ」

「知らないと言うことは幸せなことだな阿良々木先輩。いや、それは良い。ならば私は三番目か。いざ!」
 言うなり、神原は僕を地面に上に押し倒し、僕の上に覆い被さった。
 痛みを感じるより前に神原との距離の方に驚く、顔が非常に近い。
 髪が伸びて女の子らしくなった神原の整った顔立ちに僕は目を奪われる。

「か、神原」
「……阿良々木先輩。いくら何でもこの場面で神原は無いのではないか?」
 月明かりに照らされて笑う太陽の少女の言葉に、僕は苦笑する。
 確かに、それはそうだ。

「じゃ、駿河」
「うん。それでいい」
「ならお前も阿良々木先輩じゃないだろ?」
 僕に言われ、神原もまた何度か瞬きをして少し考えるようにしてから、うん。と一つ大きく頷いた。

「そうだな。では……らぎ」
「……」

「気に入らないか? ならばらぎ子」
「それは止めろ!」

「冗談だ。では暦、改めて」
「ああ」
 こんな場面でも、変わらない明るさが今の僕はとても愛おしい。
 ニコニコと笑ったまま神原は、いや駿河はそっと目を閉じた。
 近づいてくる彼女に僕もまた少々やりづらくはあったが首を持ち上げて、僕らはキスをした。



005

 後日談というか、今回のオチ。

 朝が来て、元気の塊になったかのような明るく、いつもの数倍は高いテンションの神原と別れ、家路についた僕を待っていたのは誰であろう。
 三つ編み眼鏡の制服姿。
 僕の大好き、羽川翼……さん。だった。

「よ、よお羽川。こんな朝早くから一体」
「あれ? 今阿良々木私のこと呼び捨てにした?」

「あれー? 羽川さん、いや羽川様。ひょっとしていや、勿論僕の勘違いだとは思うけど、何か怒ってる?」
「え? 全然。何でそう思うの? 私は別に、阿良々木が私のことをないがしろにして事もあろうに千石ちゃんに手を出して、その上センター試験までもう少しだって言うのに勉強もせずに神原さんと朝帰りしたからって怒っている訳じゃないよ」

「怒ってるじゃん! 理由まで説明して怒ってるじゃん!」
「だから怒ってないってば。もー、嫌だな、何言ってるのよ阿良々木は」
「あの、その呼び捨てどうにかしていただけませんか羽川さん」

「あれ? 阿良々木は仮にも好きな女子から呼び捨てにされるのなんて嫌なの? へー、そっか。そうなんだ」
「是非呼び捨てにして下さい!」

「さ、今日は一日中勉強だからね。みっちり教えてあげる。膝の上に乗ったまま」
「一日中ですか!?」
 オーディオコメンタリーの時はたったの三十分だった。あれでもきっと筋肉痛になったのだろう。それを一日中続けると、羽川さんは、いや羽川様は言った。

「あれー? 阿良々木は嫌なんだ……」
「よろしくお願いします!」

「うん。よろしくね」
 ただでさえ寝不足だというのに。
 やはりあの時感じた違和感は、正しかったのだ。
 僕に未来予知の能力でも備わったのだろうか。

 僕の手を引いて歩き出す羽川。
 その表情はさっき別れた神原に勝るとも劣らない程晴れやかで、それとは対照に僕の表情は暗く沈んで行く。
 こうして僕の休日は始まると同時に終わるのだった。





 久しぶりに化物語の小説を書くと、会話のテンポが思い出せなくて苦労しました。
 近隣の本屋が全て売り切れだったので、猫物語がまだ読めていません。
 読み終わったらまた化物語の小説を書くと思います。多分全く別の話になるでしょうが。
 その時はよろしくお願いします。


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