「あ、主……、信長様。あの、どうかお目覚めに――いえやっぱりでも、う、うぅ……ええい、ままよ!」
四月十六日、金曜日。ゆさゆさと優しく体を揺すられて、俺が朦朧とした意識の中で朝の到来を認識し、部屋に差し込む清々しい朝の日差しを網膜に感じるべくその両目を開いた時――眼前には蘭の顔が在った。それも生半可な眼前ではない、互いの吐息がダイレクトに唇に触れ合う超絶至近距離である。確か先週辺りにも似たような事があったな、この俺に二度目の奇襲など通用せぬわ思慮の浅い従者め、などと未だ覚醒を果たさない我が脳髄は暢気にも余裕に満ち溢れた思考を見せていたが、すぐにその余裕は跡形も残さず消し飛んだ。何せ覆い被さるようにして間近に迫る蘭の表情は、頬を赤く染め、ウルウルと目を潤ませて、なんというか形容するならばさながら接吻直前の乙女のような感じで――
「っっ!!」
此処に至ってようやく事態を正確に把握する。同時に形振り構わず全力で後退り、結果としてヘッドボードに後頭部を痛烈に打ち付ける羽目になった。
「~っ!」
起床を知らせる鐘の音を自分の頭蓋骨を以って高々と打ち鳴らす。素晴らしく効果的な目覚ましだが、この言語を絶する激痛が伴う限り実用性は皆無と言わざるを得ない。下手人の莫迦従者はと言えば、ベッドの上で悶える俺の姿に気付いた様子もなく、真っ赤な顔で何やらぶつぶつと呟いていた。
「う、うぅうう、あ、主……、蘭は、蘭は!う、うう、や、やっぱりこんなの無理ですよ椎名さん~!」
昨晩の奇行を再現するかの如く、何処かの誰かへと謎の泣き言を叫びながら部屋を飛び出していく。
バタン!と老朽化した部屋が倒壊しそうな勢いでドアが閉められ、そして後頭部を抱えて転げ回りながら痛みに耐える俺だけが部屋に残された。
「……何だってんだ……まさかとは思うが、あいつは俺を亡き者にするつもりなのか?謀反なの?俺死ぬの?」
もう少しで頭がパーンと破裂するところだった。それに心臓も、である。並大抵の事では動じない豪胆さを養うべく、幼い頃より絶えず精神修練を積んでいる俺だが、幾ら何でも朝一番中の一番からあんなシチュエーションは反則だろう。色々な意味で衝撃的過ぎる。未だに動悸が収まらない。ジンジンくる後頭部の鈍痛も同様である。
「やれやれ、だ。椎名京に接触する許可を出した自分が恨めしい」
昨晩、夕飯時を過ぎた頃に帰宅してからというもの、蘭はどうにも様子が妙だった。そわそわと落ち着きなく歩き回り、時折ちらちらと俺の顔を盗み見ては赤面して何処かへとトリップする。タイミングを考えれば原因は間違いなく風間ファミリーの一員・椎名京との対話だろう。一体全体何を吹き込まれたのやら非常に気になる所だが、蘭はいつにない強情さを発揮し、俺の詰問にも頑として口を割らなかった。
ただでさえ十分に変人認定を受けている我が従者なのだ、これ以上に挙動不審な調子で振舞われては少しばかり洒落にならない。問題は深刻、ならば迅速な解決が要求される局面である。その為にも、まずは。
「起きるか……」
いつまでもこうして布団に貼り付いている訳にもいかない。という事で俺は名残を惜しみながらも潔く上体を起こし、罅割れの目立つ天井に向けてぐいっと伸びをする。
残念ながら爽やかな目覚めとは到底言い難かったが、蘭の奇行のお陰で眠気が吹っ飛んだのは確かだ。時計を見れば、現在時刻は予定通りの午前六時。手際はともかくとして、従者の役割はきっちりと果たしていった訳か。テーブルの上には既に朝食が用意されていた。ガーリックトーストと目玉焼きがホカホカと湯気を上げる横に、清涼感溢れるフレッシュサラダが鎮座している。
「ふむ。美味也」
素行は奇妙でもどうやら料理人としての腕に影響はないらしい、と一安心しながら黙々と朝食を平らげる。最後に最寄のスーパー最安値を誇る低脂肪牛乳をコップ一杯分飲み干してから、俺は本日の活動を開始した。
アパートの中庭――長年に渡り、蘭の奴が哀れな侵入者を容赦なく葬り去ってきた場所なので、俺は内心で“戦士の墓場” などと呼んでいたりいなかったりするのだが、それはまあ余談だ。とにかく、手早く着替えと洗顔を済ませた俺は部屋を出て、血痕やら何やらが染み付いているその庭へと向かった。
普段ならば一足先に起きた蘭が鍛錬に励んでいる場所なのだが、現在は姿が見当たらない。大方、今頃は盛大にパニクりながら堀之外の街を爆走している所だろう。昨晩以降は特に酷いとは言え、あの莫迦の暴走癖は何も今に始まった事ではない。実に悲しい事だが、俺は慣れていた。
「さて」
そろそろ気分を切り替えるとしよう。早朝の清々しい空気を肺一杯に吸い込んで、俺は鍛錬を開始した。
まずは十分ほどのストレッチで凝り固まった寝起きの筋肉を解し、コンディションを整える。次いで、疲労を蓄積しない程度の軽い運動。幸か不幸かは兎も角として、俺の肉体はもはや成長の余地が残っていないので、主な目的は肉体的な鍛錬ではなく、日々鈍り続けていく“勘”を少しでも取り戻す事になる。元々が乏しいポテンシャルだと言うのに、それを最大限まで引き出す事すら出来ないとなればまさしく悲惨の一言である。継続は力なり。日々の鍛錬は言うまでもなく大事だ。
「まあ、こんな処か」
だがしかし、今日のメインは“こちら”ではない。運動量を普段の半分程度に留めて、俺はトレーニングの趣向を別方面に切り替えた。
先程までのように身体を動かす事はなく、じっとその場に佇み、静かに目を閉ざす。
――精神を研ぎ澄ます。雑念を捨てる。心を無に帰す。
集中し、集中し、集中し、集中し。
そして、目を見開いた。
己の内面より引き出すものは、純粋な“殺気”。一切の不純物が含まれない、只管に相手を死に至らしめんとする絶対的に凶悪な意志。
十年の歳月を通じて留まる事を知らず膨れ上がった邪悪な“気”は、もはや目視すら可能なレベルに達していた。黒々と蠢く闇色のオーラと化して身体から立ち昇る殺気。その異様な威容は、ただそれだけであらゆる者を足元に跪かせる。
これこそが、武才を生まれ持たなかった俺が見出した、真なる天賦の才能。
武神ですらも真贋を判別不可能な程に巧緻なイミテーションを創造し、世に比類なき規模の“殺気”として放出する。
それは見せ掛けの紛い物、つまりはハッタリの威圧のみに特化した、あまりにも偏った才の在り方だった。元・川神院師範代にして俺の元・師匠、釈迦堂のオッサンはかつて、「何だよそりゃ、ほとんど超能力みてーなもんじゃねぇか」と呆れ顔でコメントしていたが……全く以って同意見だ。
偽者の殺意を紛れもない本物と錯覚させる才能――性質としては、言霊や暗示・催眠術等に似通っているのだろう。なにぶん前例の見当たらない能力らしく、詳しいメカニズムは釈迦堂にも把握出来ていないそうだ。
ただ、織田信長が一種の“天才”である事は間違いない、との事だった。確かに地獄の鍛錬の結果とは言えど十代の半ばで底を尽いた武才とは異なり、こちらの能力に関しては幾ら鍛えてもまるで底が見えない。殺気の規模は年々膨れ上がり、現在では意識的に抑え込まなければ学校生活すら侭ならないだろう。
そして、成長するのは規模だけではない。より重要なもの――殺気のコントロールもまた、鍛えれば鍛えるほどその精度を増してゆく。
俺が今から行おうとしているのは、自身を覆うドス黒い殺意を外部へと放出するに際して、その性質を意のままに変化させる訓練である。
まずは広域。殺気を可能な限り分散させ、広範囲へと張り巡らせる。不特定多数の群集を纏めて威圧したい場合には必要不可欠なスキルだ。何と言っても汎用性が高いので割と多用している。最終的には数千人規模の大衆を同時に跪かせられる程度の効果範囲を目指しているのだが、其処に至るまでの道程はまだまだ長そうである。
次いで集中。本来ならば無差別に撒き散らされる殺気に特定の指向性を持たせる。対象を少数に絞り、殺気を収束させた分、広域よりも遥かに強力な威圧が可能で、こちらは対個人の際に重宝するスキル。現時点では相手の有する殺気への耐性次第で効果にバラつきが出てしまっているので、改善の余地アリだ。最終目標は世界最強・川神百代を指一本に至るまで凍り付かせ、身動きを封じられるレベルに達する事だが……何だろう、考えれば考えるほど欠片も望みが無いような気がする。
それと、この二つ以外にも色々と小技的な手法はあるのだが、まあ大別するとこんなものだ。最初は単純な放出くらいしか出来なかったが、死地に身を置き続ける中で自ずと応用を覚えた。生き残る為には、否応無く覚えざるを得なかった。故に、殺気の用途は当初では考えられないほど多岐に渡る。ただ闇雲に殺気を撒き散らすだけでは威圧の天才を名乗る資格はない。
しかし、まだ。まだまだ、俺の能力は伸びる。研鑽を積めば積むほど、才は俺に応えてくれる。それは――喩え様もなく素晴らしい事だ。
広域と集中。両者の切り替えを交互に繰り返し、コントロール精度に磨きを掛ける。
「……やはり、キツいな」
つぅ、と額に汗が伝うのが分かった。基本的に肉体的な疲労は皆無だが、殺気の放出には相当な精神力の消耗を伴うのだ。俺が運用する殺気の量に比例して、精神が容赦なく削り取られていく。この限界値、すなわち“スタミナ”を上昇させる事もまた、鍛錬の大きな目的だ。
そんな風に殺気のコントロールを続けること数十分――首筋にひやりとした何かが触れて、俺は咄嗟に息を呑み、全力で跳び退った。
「ふふふ、その様子だとやっぱり気付いてなかったみたいだね。私の美事な気配遮断は相変わらず神域に達してるなぁ。いや全く、私ってば時々自分の才能が恐ろしくて夜も眠れなくなる位だよ。ってワケでおはようご主人!」
どうやら気付かない内に背後から忍び寄っていたらしい。悪戯成功、と言わんばかりの腹立たしい笑顔で朝の挨拶を掛けてくる我が従者第二号、明智ねねに対し、俺は冷たいジト目を向けた。
「家の敷地内で無駄に気配を消すな莫迦ネコ、すわ敵襲かと思って慌てただろうが。知っての通り、殺気が通じない本物の手練れに襲われたら、俺一人じゃ割とどうにもならないんだからな」
「まぁまぁご主人、そう機嫌を悪くしないでってば。朝の清々しい空気が台無しだよ。それにホラ、朝一番から頑張ってる努力屋のご主人に、益州の張任さんも真っ青な忠臣からの有難い差し入れだよん」
悪びれずに言いながら、ねねは一リットルペットボトルのスポーツドリンクをこちらに向けて放って寄越した。
つい先程までは冷蔵庫内に眠っていたのだろう、良く冷えている。なるほど、さっきはコレを俺の首筋に当ててくれやがった訳だ。従者の分際でやってくれる、この恨み晴らさでおくべきか――と心に誓いながら、俺はスポーツドリンクを一気に喉へと流し込んだ。丁度身体が水分を欲していた所だったので、認めるのは癪だが、中々ありがたい差し入れである。
「あ、やっぱり汗掻いてるね。ちょっと待ってて、ひとっ跳びしてタオル取ってくるからさ」
朗らかに言うや否や、文字通り“ひとっ跳び”してアパートの二階へ軽々と飛び上がる。自室からスポーツタオルを持ち出し、そして当たり前の様に中庭へと跳躍して、スタッと軽快な音を立てながら俺の目の前に華麗に降り立った。一連の動作、時間にして十秒以内の出来事である。
「ん?どうかした?」
「いや……」
何というか、今更ながら改めて思うが、蘭ともども人外極まりない奴だ。このまま二人と暮らしていると、いつかこの光景が常識だと錯覚してしまいそうで怖い。
「はい、どうぞ。早く拭きなよ、万が一でも風邪なんか引いたら一大事だからね」
「む。そんなお前らしくもない細やかな気遣いで俺を懐柔しようとは小癪な奴め。俺は騙されんぞ」
「何かにつけて人を疑ってかかるのは嘘吐きの悲しいサガだよね~。私の溢れんばかりの忠誠心がスポーツタオルと云う形を取って具現化しているのが分からないなんて、もういっそこれは哀れみにすら値するよ」
わざわざ言い返すのも馬鹿らしかったので、俺はねねの差し出す忠誠心の結晶とやらを黙って受け取る事にした。
うん。言われるがままに受け取ったは良いのだが――何故にピンク生地。何故にファンシーなキャラ絵。いやまあ自室から持ち出した以上はほぼ間違いなくねねの私物なので、デザインがやけに女の子女の子しているのは当然と言えなくもないのだろうが、しかし。
「これは……使ってもいいのか?」
「良くなかったら最初から渡さないよ。まぁ、タオルを顔に巻き付けて、たっぷりと染み付いてるであろう私の匂いを肺活量の限界まで吸引するのが“使う”って言葉の指す意味だったなら、さすがに遠慮して貰うけどね」
「俺にそんなフェティシズムはありませんのでどうか安心しやがれ」
「ほっ。いやぁご主人がノーマルな人で心から安心したよ。返事によっては謀反ルートに突入してただろうね。敵は本能に有り!って感じで」
一文字抜いただけでやけに残念なセリフに成り下がっていた。やはり寺は大事だ、焼き討ちなど以ての外である。
「名前ネタは笑えないから止めろとあれほど。……って言うか真剣で心配してたのか……」
あまりにもショッキングな事実だった。下手をしなくてもここ最近で一番凹んだかもしれない程のショックだ。
俺は傍から見てそれほど変態っぽく映るのだろうか、と深刻に苦悩しながら、出来る限り手早く汗を拭いてそそくさとタオルを返却する。妙な疑惑を掛けられるのは御免だった。
「しかしそれにしても、どういう風の吹き回しだ?お前がこんな早朝から活動を開始している所を、俺はかつて見た事がないぞ」
「それはまた奇遇だね、たぶん私自身も見た事ないと思う。おめでとう!ご主人は午前七時以前に活動している私を目撃した世界初の人類だよ。この得がたい栄誉は一生モノの誇りとしてご主人の胸に固く刻み付けられたのであったとさ。めでたしめでたし」
「話を勝手に完結させるな。俺達の会話はまだまだこれからだ」
「いやさ、ホントは私もまだ布団の中でぬくぬくしてたかったんだけど、夢の中でいきなり強烈な金縛りに遭ったもんで、問答無用で目が覚めちゃったんだよ。そりゃもうパジャマの中にブロックアイスを一ダースほど注ぎ込まれたみたいな感じで、眠気なんて一瞬で吹っ飛んじゃった。何だったんだろうね、心霊現象かな?」
「うむ、まず間違いなく霊の仕業だな。俺はここに長年住んでるが、偶にそういう事があるんだ。世にも奇妙な何とやらってな」
「へぇ。不思議な事があるもんだね」
怪訝な顔で首を傾げるねねから、俺はそっと視線を逸らした。そう、広域に放出した殺気がボロアパートの敷地全体を、ひいてはねねの部屋を巻き込んでいたなんて事は断じて有り得ないのだ。
「ま、でも私としてはちょうど良かったかな。どのみち今日は自主的に早起きする予定だったし。いつもより一時間、いや三十分、……やっぱり十分くらい」
「正直は美徳だと思うが、残念ながら十分じゃ十分とは言えないな。取り敢えずその心意気だけは評価しておこう。しかし、何でまた」
「何故って?それは勿論――」
一度口を閉ざして、ねねはおもむろに虚空へと前蹴りを繰り出した。しなやかなで強靭な脚が跳ね上がり、凄まじい速力で朝の空気を太刀の如き鋭さで切り裂く。
そして、静止。
天へ向けて伸び切った足をそのままに、爪先に至るまでピンと張り詰めた姿勢を保ったまま、ねねは言葉を続けた。
「――正念場だからさ。ご主人が始めた2-Fとの小さな戦争、風間ファミリーとの対決。泣いても笑っても今日で決着だ。こんな大事な日に、パーフェクトサーヴァントたる私が朝寝坊なんて間の抜けた真似をする訳がないじゃないか」
「……」
「見たところ、ご主人も気合入れて鍛錬してたみたいだし。だったら従者の私も相応に気合を入れようと思うのが当然でしょ?」
「成程」
たかだか十分の早起きを“相応”と言い張っている辺りには敢えて触れるまい。重要な事は自覚の有無だ。織田信長の従者として真に力を発揮すべきタイミングを己が目で見極められるか否か。
そのまま俺の隣でシャドートレーニングを始めたねねは、その点では合格と言えよう。無論、言うまでもなく及第点ギリギリだが。
そんな訳で、二人並んで鍛錬に励むこと暫し。
「はぁ、はぁ、信長さまっ!先刻は見苦しき様をお見せしてしまい誠に申し訳ございませんっ!」
暑苦しく叫びながら猛烈な勢いで玄関から駆け込んできたのは、言うまでもなく蘭である。ぎゃりぎゃりぎゃり、と中庭の土を盛大に掘り返しながらブレーキを掛けて減速し、俺の目の前でぴたりと停止すると同時に流れるような動作で平伏する。相変わらずプロの業であった。
「しかし町内一周ランニングを通じて己が精神と向き合った蘭は二度とあのような失態は――ってあれ、ねねさん!?そんな、どうしてここに!ねねさんの居場所は布団の中の筈です!」
「何だか引っ掛かる言い方だね……まあいいや。私だって時には本気を出すのさ。何と言っても今日は決戦の日だからね、気合入れなきゃダメでしょ。従者として」
「ね、ねねさん……!良かったです、従者たる者の心得をついに理解して下さったんですね!う、うぅ、主、蘭はやり遂げました。果てなく過酷な任でしたが、やはり誠心誠意を込めて努めれば報われるものなんですね……蘭はいま、感動で心が打ち震えています」
本当にポロポロと涙を流している蘭であった。水を差すのは気の毒なので、取り敢えずねねの本気が十分前起床だという残酷な事実は告げずにおいた方が良さそうである。
「信長さまの一の従者として、私も負けてはいられません!よーし、やりますよ!」
元気よく言いながら、蘭は玄関脇に立て掛けてある木刀を手に取った。主に侵入者の血が染み込んだ結果として赤黒いカラーリングが施された、色々な意味で年季の入った木刀である。剣術の鍛錬から自宅警備、果ては変質者討伐や聞分けの悪い連中の説得に至るまで、蘭はこれを実に幅広く運用している。
『こんな超が付くほどバイオレンスな辻斬り魔を敵に回す所だったなんて、想像するだけでゾッとしないねホント』
とは、蘭が振り回す血塗れの木刀を初めて目撃した際にねねが漏らした冷や汗混じりのコメントである。
閑話休題――織田信長と森谷蘭と明智ねね、織田家主従三名。登校時間が訪れるまでの間、各々の鍛錬に励んだ。
全ては今日行われる大将戦にて、確実な勝利を収めるため。
従者の言葉を借りるならば、正念場だ。俺はあらゆるパターンに対応すべく策を練り、備えを施した。手抜きも手抜かりも有りはしない。
昨日は一時の勝ちを譲ったが、だからと言って今回も同様に事が運ぶなどと思い上がって貰っては困る。
只管に勝って勝って勝って勝ち続ける、それだけが織田信長の人生。社会の庇護の下でお気楽に生きてきた表側の学生とは、勝利を求める想いの重さが絶対的に違う。
2-F。風間ファミリー。決して雑魚では無い、むしろ実力者揃いではあるが、しかし。
「主」
「……時間か」
蘭に促されて携帯電話を開けば、液晶画面は午前七時三十分を示している。
HRに間に合うよう到着するにはまだ多少の余裕があるとは言え、通学中に何かしらのアクシデントに見舞われないとも限らない。遅刻のリスクを少しでも減らすためには早めに出立しておくのが確実だ。
と言う訳で、俺達は早朝鍛錬を切り上げて、各自の部屋に戻って身支度を整える。
そして数分の後、再びアパートの中庭に集合。
「ん~、何だか朝にこうやって集まるのは斬新な気分だね」
「そう言えばねねさんとは一緒に登校した事がなかったんですよね。アパートが同じで学校も同じなのに……。ねねさん、私と主が出発する時はいつもベッドの中ですけど、その後はどうされているんですか?」
「起きる着替える顔を洗う歯を磨く髪を弄る、そして食べながら全力疾走。それだけさ。シンプルでいいでしょ?」
「あ、あはは、やっぱりとても慌しそうですね。うーん、もう少し早起きすればのんびり出来るのに」
「別にいいじゃないか、結果として遅刻はしてないんだからさ。睡眠時間を取るか穏やかな朝を取るか、そんなコトは私の自由だもんね。それにさ、私が毎朝パンを咥えて通学路をダッシュする事で、曲がり角にて運命の出逢いに遭遇する可能性が生じるかもしれないじゃないか。恋に恋する麗しき乙女として、この事実は見過ごせないでしょ」
「えっと、私は全力疾走中のねねさんと衝突する人のお身体がとても心配です……。そういう意味では確かに見過ごせないですけど」
馬鹿馬鹿しい会話を繰り広げている二名を放置して、俺は中庭を横切った。
玄関口で足を止め、空を見上げる。本日は快晴なり。雌雄を決するには好い日と言えよう。
「蘭。ネコ。往くぞ」
「ははーっ!至らぬ身なれども、己が全力を振り絞って本日も仕えさせて頂きます!」
「いただきまーす」
「もう、ねねさん!主に対しそのように不敬な態度、それこそ見過ごせませんよ!むむむ、やっぱり従者としての自覚が未だ足りていないようで――」
「気のせい気のせいメチルアルコール~」
「……往くぞ、と云っている。莫迦共め」
何とも締まらないことこの上ないが。
兎にも角にも――織田家、いざ出陣である。
「げっ、来やがった!おいあいつら来やがったぜおいどうするよやべーぞ」
「あーもうサルうっさい!来るのは分かってたんだからいちいち騒がないの!」
「うう……これからゴハン食べるところだったのに。おなかすいたよ~」
「その怒りはアイツにぶつければイイ系~。つかキレたクマちゃんなら案外イケんじゃね?」
時計の針が示す時刻が正午を回る折、すなわち昼休み。蘭とねねを引き連れて2-F教室に足を踏み入れた俺が第一に感じ取ったのは、“空気の違い”だった。
三日前に様子を見る為に赴いた時、或いは二日前にルール確認の為に訪れた時、総勢四十名の2-Fの内、織田信長という存在に呑み込まれていなかったのは風間ファミリーとごく一部の人間のみであった。その他大勢は俺が放つ殺気の重圧に耐えられず、縮こまって控えている他なかった。
しかし――今回はどうにも様子が違う。クラスの誰もが、明確な敵愾心を以って俺を迎えている。前回までは怯え竦んでいた生徒達は、一様に敵意と戦意を宿した目を俺に向けていた。代表的な例としては、2-Fクラス委員長の甘粕真与だ。
「わ、私はみんなのお姉さんなのです。私がしっかりしなきゃいけないんです!」
前回の気弱な態度は鳴りを潜め、彼女は最前列の席にて臆することなくこちらを睨んでいる。これで手足が生まれたての小鹿の如くプルプル震えてさえいなければ、文句なしに勇ましい姿と言えるだろう。
そんな彼らを傲然と睥睨しながら、やはり昨日の勝利に励まされている部分が大きいようだな、と分析する。俺にしてみれば予定調和の敗北、周囲の目から見てもさほど価値のある勝利には映らないにせよ、当人達にとっては一勝は一勝だ。現在の戦況は一勝一敗、“勝てるかもしれない”と希望を抱き、結果として強気になるのも不思議はない。
「ふん。気に入らん目だ」
不思議はないが――その感情の動きが俺にとって些か都合が悪いのも、また確かである。織田信長は如何なる場合であれ絶対的な畏怖の対象でなければならない。未だ屈服させていないクラスとは言えども、こうも明確に俺に逆らう態度を取られては困るのだ。反抗心の芽は早めに刈り取っておかねばなるまい。
栓を少しずつ緩めていくイメージで、漏れ出す殺気の量を増大させていく。
数秒が経ち、日常生活における限界値ギリギリの殺意が教室を覆い尽くした時、鬱陶しいざわめきは完全に止んでいた。
「――図に乗るな。羽虫も同然の存在如きが、喧しい」
どこか楽観的な色を映していた表情は、殺意に満ちた恫喝を受けて瞬時に凍り付き、漂っていた暢気な雰囲気が砕け散った。
代わりに広がったのは、息が詰まるような重々しい沈黙である。
「……ったく」
シン、と張り詰めた静寂が漂う中、不機嫌面で俺の前に歩み出た生徒が一名。例によって忠勝であった。
「いちいち脅かしてんじゃねぇ、てめぇの相手は俺達だろうが。非戦闘員まで巻き込むなボケ」
「くく、呆けているのはどちらだ?俺の眼前に立ち塞がる者ならば、全ては等しく排除すべき障害よ。無力な女子供であれ老人であれ、この俺を敵と定める者は悉く滅し尽くすのみ。其れを恐れるならば、膝を着き頭を垂れ、我が足元に跪くがよかろう」
あまりに傲岸不遜。嘲笑うように口元を歪めて放たれた台詞に、誰もが言葉を失った。
が、気圧されて大人しく黙り込むような連中ではない。それを証明するかの如く、川神一子は噛み付くように声を荒げた。
「なにバカなこと言ってんのよ!アタシ達はぜっっったいアンタなんかに屈しないわ!」
「あぁやだやだ、犬っころはキャンキャンと吼え声ばかりうるさくて嫌だね。色々とハンデを貰っても私に勝てなかった癖に。そんな負け犬がご主人をバカ呼ばわりとは頂けないな、尻尾を巻いて大人しくしてたらどうなの?ワン子セ・ン・パ・イ」
実に憎たらしい表情と口調でねねが嘲笑う。相手を心底から舐め切った態度だった。
傍で見ているこちらまで腹立たしくなりそうなそれを直接的に向けられた一子の心中は、なんと言うか、察して余りある。
「うぬぬぬ、なんて可愛くない後輩……っ!いーわよいーわよ、その喧嘩買ったわ、今すぐ表に出なさい!縦社会の厳しさを体に叩き込んであげる!」
「どうどう。ワン子、挑発に乗っちゃ駄目。後で存分に殴り合えばいいと思うけど、今は抑えて」
ブチ切れて激発しかけていた一子を、椎名京が感情の読み取り辛い無表情でクールダウンさせていた。
「……うぅ、分かったわよ。あとで覚えてなさいよ、ネコ娘っ!」
「冷却完了。今だよ、大和」
「よし、任務ご苦労。お陰で話を進められそうだ」
「成功報酬は大和の初めてでいい」
「是非とも末永くお友達でいよう。というかこの状況でボケられる京には正直尊敬の念を覚えざるを得ない」
「大和に褒められた。『このボケがいいね』と君が言ったから、四月十六日はヤマト記念日」
「褒めてないからね!?いやいや京、さすがにもうちょっと緊張感持とうよ!」
影の薄そうな男子生徒が繰り出したキレのあるツッコミに、俺は心中で深く同意していた。この連中、織田信長を前にしてコントを展開するとはいい度胸――だとかもはやそういうレベルではない。俺の後ろで「椎名さん、ふ、不潔ですっ」などと動揺した声を漏らしている莫迦も含めて、少しばかり気が緩み過ぎだ。
「……不届き」
更なる締め付けが必要か。そんな思考の下に殺気の放出量を増大させようとしたが、これ以上の威圧は日常レベルを逸脱してしまう事実に気付き、咄嗟にブレーキを掛ける。戦闘に用いるレベルの殺気を学園内で所構わず撒き散らそうものなら、まず間違いなく教師陣の介入を受ける羽目になるだろう。川神鉄心は言うに及ばず、ルー・イー、小島梅子、宇佐美巨人……誰も彼も世界で通用する歴戦の猛者共である。出来る限り相手にはしたくない。
それに、現時点の放出量でも威圧効果は十分な筈だ。改めて教室を見渡してみれば、殺気に対してそれなりに順応出来ているのは風間ファミリーの面々と忠勝くらいのものだった。他の生徒達は完全に萎縮して沈黙している。それこそ日常における許容限界の殺気を張り巡らせているのだから一般人としては当然の反応なのだが――さて、問題は風間ファミリー。この場違いに呑気な連中である。
確かに殺気の効力は相手の精神状態に大きく左右される不安定なものだが、しかし幾らなんでもここまで余裕の態度で受け流せるというのは普通ではない。その拠り所は果たして何処に在るのか。彼等の態度から窺える感情は、自信、安心……いや、信頼、か?
「それはともかく。今日が最終戦って事で、ルール確認をしたいと思う次第だけど……んー」
俺が思考を纏める前に、直江大和がやけに歯切れの悪い調子で口を開いた。俺に向けて語り掛けながらも、ちらちらとスピーカー横の掛け時計をしきりに見遣っている。
「おかしいな……昼休みまでには戻るって言ってた筈なのに」
「電話で確認したのって一時間前だし、何かトラブルに巻き込まれたとか?」
「これまでのパターンから考えると普通に有り得そうで困る。電話も繋がらないし、いよいよ雲行きが怪しいな」
「ったく、毎度毎度フラフラと何やってんだあの野郎は。イライラさせやがる」
風間ファミリー+忠勝は顔を寄せ合ってスクランブル作戦会議を開いている。漏れ聴こえてくる内容から察するに、現在は人待ちの真っ最中の模様。
俺がわざわざ自ら足を運んだと言うのに待ち惚けを食らわせるとは何事だ、接客精神の欠片もない愚か者どもには速やかなる制裁が必要だな――と思わず殺気を全力全開で放ちたくなる衝動に駆られたその時、ふと俺の目が窓の外、グラウンド上に一つの人影を捉えた。こちらに向かって疾駆し、見る見る内に距離を詰め、そして次の瞬間。
「とうっ!俺、風と共に参上っ!!」
何やら威勢よく叫びながら、あろうことかそのまま窓から教室内に飛び込んできた。言葉に違わぬ突風の如き勢いで窓枠を踏み越えて跳躍し、教室の中央付近にバランスを崩す事もなく軽やかに着地する。
「いやー悪い悪い、遅くなっちまった。三日振りだなお前ら、キャップの帰還だぜ!」
呆れるほどの活力に満ち溢れた声を張り上げたのは、鮮烈な赤色のバンダナを頭に巻き付けた少年。
あの川神百代を差し置いて風間ファミリーのリーダーを務める男、風間翔一だった。
「ホントーに遅いわよもう、間に合わないかと思ってハラハラしたじゃないのよ!それで、今度は一体全体どんなハプニングに見舞われたの?」
ふぃー、と天井を仰ぎながら額の汗を拭っている彼にタオルを投げ渡しながら、一子が文句を付けた。
「それがさー、多馬川の河川敷で引ったくりの現場に遭遇したもんで、被害者のバアちゃんの代わりに犯人取っ捕まえてやろうと追い掛けてたら見事に学校とは逆方面に行っちまったワケ。とりあえず捕まえて警察に引き渡してから、このままじゃ遅刻だーってコトでここまで全力疾走してきたぜ」
いやー参った参った、とお気楽な調子で笑う翔一の暢気な姿に、凍て付いていたクラスの空気が一気に弛緩した。
「おいおい、風間のヤツまたやったのかよ。確か前も何かの事件解決して新聞に載ってたよな?」
「お年寄りの方のために頑張って犯人を捕まえるなんて、風間ちゃんは優しいですねー。クラスの誇りですよ!」
「うんうん、さっすが風間クンよねー。やっぱイケメンは人助けの方法からしてイケメンだわ」
「あー濡れるわー、真剣で抱かれてぇ。むしろ食っちまいてぇ」
先程までの沈黙が嘘であったかのように、様々な声が教室を飛び交っている。比率的に女子の黄色い声が多数を占めているのはまあ、川神学園エレガンテ・クアットロが一人の宿命だろう。
「……ふん」
2-F生徒達の様子を見る限り、やはり実質的にクラスの中心を担っているのはこの男のようだ。織田信長の存在によって通夜の如く沈み込んでいた雰囲気を、ただ登場するだけで容易く打ち払ってみせるあたり、その人望の厚さが垣間見える。
――成程。大体は、予想通りの存在か。
となれば、直江大和が選んだであろう“策”にも凡その当りが付こうというものだ。
事前に想定していたパターンの一つである以上、必然的に俺の取るべき対応も定まってはいるが、さて……どうなる事やら。
「相変わらず波乱の人生送ってるねキャップは……。コナソ君じゃないんだから、そう何回も犯罪の現場に居合わせるとか有り得ないってばフツー」
「お、だったら俺って名探偵の素質あるんじゃないか?冒険もいいけどスリル・ショック・サスペンスってのもそれはそれでいい感じだな!でもどうせなら蝶ネクタイ型変声機とか腕時計型麻酔銃とかキック力増強シューズとか欲しいよなー……よしワン子、九鬼のヤツに頼んで開発して貰おうぜ!風間ファミリーは本日を以って少年探偵団へと生まれ変わる!」
「キャップ、飛ばし過ぎ自由過ぎ。ちょっと自重しようか」
場の空気を一切読まないフリーダムな振る舞いに、直江大和は呆れ顔でツッコミを入れた。
キャップこと風間翔一はその言葉で落ち着きを取り戻したのか、ようやくテンションを下げて、2-Fの招かれざる客人――織田家主従の方へと注意を向ける。
「俺不在の三日間、キャップ代理のお勤め御苦労さん、大和。こっからは俺が引き受けるぜ」
「そうしてくれると助かるね、ホントに。正直言うとそろそろキツかった所だ。この人達の相手は色々な意味で疲れる」
「ははっ、軍師・大和ともあろう者が泣き言とは、こりゃなかなか珍しいもんを見たんじゃね?」
うんざりした調子でぼやく大和を茶化すように言いながら、翔一は他の面々を代表するようにして一歩前に進み出る。殺意を多分に含んだ冷徹な視線を送ると、俺のそれとは対照的な、さながら炎が燃えるような目で真正面から見返してきた。
凍て付く冷気と燃え盛る熱気。相反する色を宿した瞳が机三つ分の距離を挟んで向かい合う。
そこで、違和感。具体的に何がどうおかしいとは断定出来ないが、しかし。
この男……前回の時とは、身に纏う“気配”が異なっているような。気の所為、か?
僅かな引っ掛かりを解消するべく思考を巡らせる前に、翔一は臆した様子も無く口を開いた。
「話は聞いてるぜ、FとSの代表で風間ファミリーとお前らが勝負してるってな。ったく、リーダー不在の間にそんな一大イベントを進行させるなんてヒドいよなー。お前らだけ楽しそうでズルイぞぅ!」
「ふん、下らんな。仮に貴様が初めから参戦していた所で何が出来た訳でもあるまい、風間翔一。くく、忘れたか?俺を前にして怯え竦み、身動きすら能わず無様に震え上がった事を」
「ああ、確かにそうだな。三日前の俺じゃ皆の足を引っ張るだけだった。それは認めるしかねーな」
俺の嘲笑を柳に風とばかりに受け流し、翔一は涼しげな顔で言葉を続ける。
「あの時、俺は猛烈に悔しかった。ビビッて動けなかった自分に腹が立ったし、情けねーと思った。けどな、そんな事はどうでもいいって思えるくらいに俺は燃えた!やられっぱなしじゃ男が廃る、絶対にリベンジしてやる!ってな。そんな訳で武者修行に旅立って、そしてあの日の雪辱を晴らすため、俺は帰ってきた!」
威勢良く言い放ってから、翔一は何事かを確認するようにファミリーの面々に忠勝を加えた六名を順番に見渡した。
源忠勝、川神一子、椎名京、師岡卓也、島津岳人、そして最後に直江大和。全員が小さく頷いたのを見届けると、満足気にニヤッと笑い、再びこちらに向き直る。
「何せ天下分け目の大将戦なんだ、やっぱリーダー不在じゃ盛り上がりに欠けるだろ?ってな訳で、その辺りを踏まえて今回のルールを指定するぜ」
そう前置きしてから、ビシィッ、と真っ直ぐに俺を指差す。
そして――風間翔一は恐れを知らぬ勇者の如く、堂々たる態度で啖呵を切った。
「2-F所属、風間翔一!クラス代表としてお前に決闘を申し込むぜ、信長っ!!」
~おまけの2-S~
「ふむ、信長が2-Fに赴いて数分、あちらでは大将戦のルールが決定している頃でしょうか。今日には決着が付くことになる訳ですが……果たしてどうなることやら」
「フハハハ、心配は不要であるぞ、我が友トーマよ。信長は王たる我が認めた大器の持ち主、間違っても2-Sの名を落とすような結果にはなるまい。我が統べるSの名を背負っての戦いに臨むなど、本来ならば断じて許さぬところだが……奴にならば代理を任せても問題はなかろう。そうであるな、あずみよ!」
「まさしくその通りでございます、英雄さまァァっ!あんなバケモノ――おっといけねぇ、うっかり間違えちゃいました☆あんな反則みたいな存在の相手は、ただの学生さんにはちょっと荷が重いでしょうからね~」
「オイオイ、このチートメイドにまで反則呼ばわりされるってどんだけだよ。で、恐ろしい事にそんなあいつとサシでやり合ったお前的にはどうなのかね、不死川」
「む?決まっておろう、此方は何の心配もしておらんのじゃ。高貴なる此方の朋友が、Fの野蛮なサル共如きに敗れる道理なぞ無いのじゃからな。それに、今更庶民に負けられては此方の名誉にキズが付こうというもの。あやつは決闘で此方を負かしたのじゃぞ」
「あはははは、“きまった!どうじゃ~カレーなるこなたの飛び関節は~”だっけ?僕ちゃんと覚えてるよーん、どうだエラいでしょー」
「わざわざ再現するでないわ~!ぐぬぬ、なんとも拭い難き屈辱よ……思い出すだけで腸が煮えくり返ってきたのじゃ、おのれ織田め」
「いやいやアレはどう考えても自業自得でしょうよ」
「さて……、信長、あなたはこの局面をどのように処理するのか。お手並み拝見といきましょうか」
という訳で久々のキャップ登場、そして対戦カードは見ての通りとなりました。
この組み合わせはあまりにも妥当過ぎて、逆に意外性があったのではないかと思います。互いに後のない大将戦にてリーダー同士の対決、は少年漫画的には王道中の王道ですよね。まあキャップはともかく信長がアレなので、友情・努力・勝利が適用される真っ当な勝負になるかは別ですが。
相変わらず多忙ですが、皆さんの感想をエネルギー源に出来るだけ早く続きを書きたいと思います。それでは、次回の更新で。