「ねートーマー。今日、ウチのクラスに転入生が来るってほんとー?」
「ええ、始業式の後に先生方がそのような内容の立ち話をされていたのを耳に挟みました。男女各一人ずつ、だそうですよ」
「おおー、ふたり。絶賛売出し中の漫才コンビとかだったらいいな。えへへ、楽しみだー」
「おいおい、あんま変な期待するなよ。HRに訪れる現実との落差にガッカリすんのがオチだ。現実はマシュマロみたいに甘くないからな」
「うるさいぞハゲー、上手いこと言ったつもりかー」
四月七日、新年度における最初の始業式を終えた直後の川神学園2-Sクラスの教室にて、そのような会話が交わされていた。
担任の教師がまだ姿を見せていないため、教室内は生徒たちによる遠慮のないお喋りで賑わっている。
葵冬馬、榊原小雪、井上準による三人組もまた、その喧噪を生み出す一端を担っていた。
「けどよ、若。S組の枠はもう埋まってるんじゃなかったか?まさか二人も脱落者が出たって訳じゃねえだろうし」
疑問の言葉を呈したのは、神々しいまでのスキンヘッドが特徴的な井上準である。
川神学園の一学年は十のクラスに分かれており、S組はその中でも特殊な位置付けにあるクラスだ。
学内において特に成績が優秀な生徒のみで構成された特別進学クラス。
いわゆるエリート集団であり、その編入可能人数には定員が設けられているのだ。
「そのまさか、ですよ。近頃成績が伸び悩んでいた林田君と前田君……姿が見えないでしょう?」
眼鏡の似合う整った顔立ちが理知的な雰囲気を醸し出す少年、葵冬馬の言葉に、準は教室を見渡す。
「ん……言われてみればそうだな。席が二つ空いてる。気付かなかったぜ」
「影が薄くて忘れられちゃったんだね、かわいそー。あははっ」
「こらこら、さらっと毒を吐くんじゃありません。で、若。あいつら、“S落ち”なのか?」
「ええ。あくまで自発的なもの、ですが。新学年になるのを切っ掛けに他の組へと移るそうですよ。確かに、彼らの成績を考慮すれば、賢明な判断と言えるかもしれませんね」
学年総合順位が五十位以下にまで落ち込んだ生徒は、S組の在籍資格を失う。それが俗に言うS落ちである。
今回の場合、林田と前田は学校側から資格を剥奪された訳ではないが、五十位スレスレの成績ではそれも時間の問題であると観念したのだろう。
他者の命令で落とされるくらいなら自ら落ちる方を選ぶ。総じてプライドの高いS組生徒らしい選択だった。
「よーするにドロップアウト、人生の負け組、いぇーい♪」
「うーむ、今日はやけにキツいねえ。何か嫌なことでもあったのか?おにーさんに話してみなさいよ」
「やー。僕、べつにイライラなんてしてないもーん。えいえい、ぺしぺし」
「人の頭で遊ぶんじゃありません!」
日常的にエキセントリック極まりない発言と自由過ぎる行動が目立つ少女は榊原小雪。
見事なまでに肌色な頭部を彼女にはたかれている準に、そんな彼らを微笑ましげな目で見守る冬馬。
葵冬馬、井上準、榊原小雪の三名は、自他ともに認める仲良しグループであった。
「転入生ねぇ……ま、俺としちゃあこれ以上濃い面子が揃わないことを祈るだけだな」
「ふふ、男子であれ女子であれ、好みのタイプだと嬉しいですね。両方だと一番なのですが」
「トーマの悪いクセが出た。僕とジュンはどうなのさー」
「二人は特別ですよ。家族、ですから」
「そうだよねー、えへへ、誰が転入してきても、トーマの家族は僕とジュンだけだもんね」
柔らかい笑みを浮かべる冬馬に、小雪は無邪気に笑い返す。
幼い頃から続いてきた、彼らの揺るがない関係は、ある意味では既に完成していると言ってもいい。閉ざされて、完結している。
例え他人が、世界がどのように劇的な変化を遂げようとも、自分たちの関係が変わることだけは有り得ないと、彼らは無言の内に確信していた。
「おーい、静かにしろお前ら―。転入生を紹介するからさっさと席に座れ」
ようやく姿を見せた中年の担任教師、宇佐美巨人のやる気の欠けた号令が教室に響く。
問題児、奇人変人が多いと評判の2-Sだが、やはり基本的にはエリート集団である。規律を無視してまで雑談を優先する人間はクラスでも少数派だ。
そういう訳で、全員が指定の席に落ち着くまでに必要とした時間は驚くほどに少なかった。この辺りは特進クラスの面目躍如と言ったところだろう。
「えー、耳の早い奴はもう知ってるかもしれんが、今回の転入生は二人だ。無理だとは思う、が……頼むから仲良くしてくれよ、お前ら」
普段以上に精彩の欠けた担任の言葉に、S組の生徒達は一様に首を傾げた。
よく見てみれば、精彩が無いのは言葉だけではない。今しがた幽霊に遭遇でもしたかのように、巨人の顔色は悪かった。
「一体何があったのじゃ、ヒゲ。新学年早々から辛気臭い面を見せおって。高貴なる此方に丁寧かつ迅速に説明するのじゃ」
2-S総員を代表して、不死川心が無駄に居丈高な疑問の声を上げる。
自身を見つめる生徒達の視線に対し、巨人はがりがりと頭を掻きながら、いかにも気だるそうな調子で答えた。
「あー。残念ながらオジサンは説明する気力が残ってないんでねぇ。という訳で、ここからは生徒同士で好きなだけ交流を深めればいいと思うぞー。それがいい、それに決まったと。んじゃ、転入生の二人、入れー」
巨人が張り上げた声に呼応し、2-S教室の扉が廊下側から静かに開かれる。
不可解な担任の態度も相まって、生徒達が抱く謎の転入生への関心はいつになく大きく膨れ上がっていた。
好奇心に満ちた視線が集まる中、“彼ら”は教室へと足を踏み入れる。
――その瞬間。誰に命令された訳でもなく、教室内のざわめきは消え失せていた。
無言。無音。誰一人として、言葉を発する者はいない。それどころか、呼吸すら止めている生徒が大部分だった。
彼らを襲ったのは、自身を覆う空気が凍結したかのような、痛いほどに冷たい感覚。
平和極まりない学校の教室に存在する事自体が不自然な、あまりにも場違いな空気。
音を立てるな。声を上げるな。呼吸を止めろ。鼓動を止めろ。全力を以て身を隠せ。気取られた時が、最期。
本能が身体に囁き掛けて、その動きを無理やりに縛り付ける。生き残ろうと、必死に足掻く。
それが俗に“殺気”と呼ばれるものに因る現象だと気付いた者は、クラスで数人のみであった。否、数人“も”居た、と表現する方が適切か。
「ほう」
九鬼英雄はかつて遭遇した幾多の刺客からは未だ受けた事のない程に鋭利な殺気に、しかし臆する事無く感心と関心を覚え。
「ちッ!」
忍足あずみは忠誠を以て仕えるべき主の心身を外敵より確実に守護すべく、衣装に仕込んだ必殺の得物の数々へと密かに手を伸ばし。
「ひっ……!?」
不死川心はその人生において初めて浴びる“本物”の殺気に中てられ、なまじその意味を理解しているが為に身も心も慄きを隠せず。
「……やれやれ」
井上準は平穏無事な日常においては不要なものとして押し隠している、純粋な強者としての一面を表情に覗かせ。
「あははっ」
榊原小雪はその異質な空気を鮮明に知覚していながらも、その精神の歪さ故にただ笑みを浮かべる。
そして、葵冬馬。
葵冬馬は――――ほんの少しだけ口元を歪めて、笑った。
反応は様々ながら、その視線と関心の向かう先は一つ。沈黙の充ちた教室を悠々と闊歩し、教壇に立った転入生の姿だ。
男が一人に女が一人。
いや、少年が一人に少女が一人、そこに立っている。
その外見的特徴に、さほど特筆すべき所はない。少なくとも和服を着ている訳でも帯刀している訳でもなく、見た限りにおいては至極一般的な制服を着用していた。
双方とも日本人には一般的な黒髪を、校則に触れる事は有り得ないであろう一般的な髪型に整えている。三百六十度、どの視点から見ても目立つような要素はまるで含んでいない。
ただ、幾ら容姿が普通であれ、身に纏う雰囲気が普通でなければ意味はないのだ。
その観点で言えば、少女はともあれ、少年は果てしなく異常だった。
“その道”を知らぬ者は彼を化物と恐れ、知る者もまた化物と畏れるだろう。
ただ眼前に立たれただけ。ただその瞳に見据えられただけで、身体が石と化すなど、もはや魔物の所業でしかない。
「……初めまして、皆様。この度、ここ川神学園に転入する事となりました、森谷 蘭(もりや らん)と申します。どうかよろしくお願い致します」
凍り付いた沈黙に斬り込むかの如く、まず口火を切ったのは少女だった。
転入生らしく緊張した様子で早口に言い終えると、礼儀正しく深々と頭を下げる。
教室に足を踏み入れた時から、常にもう一人の転入生である少年の三歩ほど後ろに陣取っているのが妙と言えば妙だが、その点を除けば至って普通の挨拶と言ってもいいだろう。
「…………………」
だがしかし、返ってきたのは、シーン、と擬音を付けたくなるほどに完全な沈黙。
本来ならば歓迎の意を示すために形だけでも打ち鳴らされる筈の拍手も、今回は不発だ。
「あー……えー……」
いかにも気まずそうな表情を貼り付けながら、少女はお辞儀から顔を上げた。
勿論、言うまでもなく2-Sの生徒達が礼儀知らずだという訳ではない。この場合、全ての原因は転入生の片割れたる少年が放つ、逃れ様の無いプレッシャーであった。
「あーもう、仕方ねぇな……。おーいお前ら、拍手拍手!そんな風に無視されたら転入生が困っちまうだろうが」
流石に見かねたのか、いかにも面倒そうな調子で巨人が口を開くと、気付いたようにクラス中からやや事務的な拍手が鳴り響いた。
今さらと言えば今さらなのだが、それでも何事もなかったかのようにスルーされるよりは何倍も良い。
蘭と名乗った転入生は、あからさまに安堵したように息を吐いて、小さく笑顔を浮かべた。
「んで、お前さん。これから同じクラスになる連中なんだ、もう少しくらい友好的に接してもいいとオジサンは思うんだけどねぇ」
溜息交じりの忠告が向かう先は、問題の少年。
彼は黙したまま、氷の如く冷め切った目で一連の遣り取りを観察していたが、巨人の言葉に初めて口を開いた。
「友好的に?俺は見ず知らずの連中の前では笑えない。そういうお目出度い性格はしていない。それだけの事だが」
一言一言が重苦しく空気を震わす低い声音は、絶えず相手を恫喝しているような響きを伴っている。子供が聞けば一言目で泣き出すだろう。
いい年をした中年教師たる巨人はさすがに泣き出す事はなく、額に汗を掻きながらも果敢に言葉を返す。
「オイオイ、何も笑えなんて言ってねぇって。ただ、そう刺々しい攻撃的なオーラを出さなくてもいいだろって話だ。心臓に悪いんだからやめてくれよ、ホントに……」
「刺々しい?攻撃的?……成程。然様か」
何事か得心がいったのか、少年は軽く頷いた。
途端、彼の全身から発せられていた殺気と威圧感が見る間に薄れていく。
彼の登場以降、身が凍るような謎の寒気に襲われ続けていた2-Sの大半の生徒は、ここにきてようやく安堵の溜息を吐くことができた。
そして彼らは、その立役者たる冴えない担任教師に心中にて感謝の念を贈る。
生徒達の中ではもはや底辺に近かった宇佐美巨人の評価が一気に上昇した瞬間である。
「ふん。挨拶一つに、こうも加減が必要とはな。自然態で過ごす事も許されんか。何とも面倒な話だ」
「恐れながら主、あなた様の威に抗するなど、並みの者には絶対に為し得ぬ事。特に川神学園のレベルが低いという訳ではないと愚考する次第であります」
「そんな事は分かっている。あの川神鉄心が代表を務めている学園。自明の理よ」
「ははっ!出過ぎた事を申しました、申し訳ございません」
「良い。許す」
「はっ、寛大なる御心に感謝いたします、主」
「うむ。感謝するといい」
ははー、と平伏しそうな勢いで頭を下げる蘭に、少年は鷹揚に頷く。
―――――また濃い連中が入ってきやがった。
壇上で繰り広げられている、聴いているだけで頭の痛くなりそうな遣り取りを前に、準は呻くように呟いた。
この世に変人認定試験なるものが存在するなら、あの二人は間違いなく余裕でパスするだろう。
2-Sの総意かどうかはともかく、常識人を自任する彼の感想としてはそれが全てである。もっとも彼自身、周囲からは「濃い変人連中」の立派な構成メンバーとして認識されているという現実があるのだが、それはこの際置いておこう。
「ふむ。あの二人、我とあずみのごとく主従か。面白い!」
「……そうですね、英雄さま」
余裕の態度で転入生に興味を向ける九鬼英雄と、先程の殺気に中てられたのか、狂犬にも似た眼のギラつきを隠し切れていない忍足あずみ。
金ぴかスーツとメイド服を制服とし、時代錯誤にも人力車で毎朝登校するこの主従は、2-Sどころか川神学園そのものにおける「濃い連中」の筆頭である。
「あはは、またヘンな人たちが増えるよー。やったねトーマ!」
天真爛漫、自由奔放に笑い掛ける小雪。
「声が大きいですよ、ユキ。しかし、なるほど、あの二人が……。ふふ、竜兵が言っていたこと、嘘ではなさそうですね」
壇上の二人を見遣りつつ、涼しげな瞳の奥底に暗い炎をちらつかせる冬馬。
場を支配していた殺気が抑えられた事で、生徒達のざわめきが再び活性化していく。
「おい転入生、つまらん茶番をしておる暇があったらさっさと自己紹介を済ませるのじゃ!HRが終わってしまうではないか。此方が典雅に過ごすための自由時間を無為に使うなどと、そんなことは許せぬわ!」
「いやー不死川。お前、意外と勇気あるね。オジサンびっくりだぜ。あとHRは自由時間じゃないからな、一応言っとくが」
そんな中、普段通りの調子で壇上に野次を飛ばす心に、2-S一同は尊敬と呆れの入り混じった視線を向けた。
つい先程までは撒き散らされる殺気に怯えて半泣きになっていた事を思えば、その立ち直りの速さと向こう見ずさは特筆すべき事項と言えるだろう。
「……」
「ひっ」
少年がそんな心を感情の読めない目で一瞥すると、目が合った途端にびくりと肩を震わせて素早く目を逸らすのはご愛敬。
「ふん」
すぐに興味を失ったのか、少年は心から無造作に視線を外し、S組の顔触れを威圧するように見渡してから、静かに口を開いた。
「――俺の名は、織田信長」
名乗りを上げてから、彼は口元に笑みを浮かべる。三日月の如く歪んだ、凄惨な笑顔。
「故あって、本日よりこの学園に籍を置く事になった」
一度は収めていた筈の殺気と威圧感が再び解放されていた。いや、最初よりもその質量を増している。
もはやそれらは物理的な圧力を伴って教室を押し潰そうとしていた。窓ガラスがミシミシと軋んでいるように見えるのは決して気のせいではあるまい。
「どうした、ここは笑い処だと思うが?織田信長……、笑えるだろうが、くくく。我慢などせず、存分に笑い転げるといい」
「………………」
教室は完膚無きまでに静まり返った。
笑ってはいけない。もしここで笑ったらケツバット、どころか間違いなく殺される。人生がアウトだ。
エリートクラスの2-S、その程度の未来予測が出来ない程に愚かな人間はいなかった。
結果、彼らの誰一人として少年の名前には触れることなく、沈黙を選んだのであった。
その光景をどこか不可解そうな表情で見渡して、少年―――信長は首を傾げた。
「何時もの事ではあるが……ここで笑いの一つも起きないとは、何ともはや摩訶不思議よ」
若干拗ねているように見えなくもない彼の反応から鑑みるに、もしかしてもしかすると、笑って欲しかったのかもしれない。
が、流石に死亡のリスクを冒してまで場を和ませようとする猛者はこの場にはいなかった。
「主。私めが愚考するに、皆様は主の威に打たれているものかと存じます。故に彼らには信長様の名を指して笑うなどと畏れ多い行いは到底出来ぬのでございましょう。どうかお察し下さいませ」
蘭は恭しく片膝を床につけて馬鹿丁寧に告げる。2-S一同が揃って微妙な顔を作った。
言っている内容自体は殆ど間違っていないのだが、何かが違う。致命的に違う。決定的にズレている。だがしかし、残念ながらそれを指摘する人間は不在であった。
「ふん、まあ良い。笑わぬなら、殺してしまえホトトギス、だ」
「いや短気過ぎるだろ!2-S皆殺しかよ!」
「間を外した。仕切り直す。……俺の名は、織田信長」
湧き上がるツッコミ魂を抑えきれずに立ち上がった準を完膚なきまでに無視して、信長が淡々と繰り返した。
「私の名は森谷蘭。本日より2-Sの名に恥じぬよう、励ませて頂きます」
そんな彼の三歩後ろに静かに佇んで、蘭は先程とは違う、凛とした口調で名乗りを上げる。
「自己紹介、との事だが」
そして信長は、相も変わらず何を考えているのか分からない無表情で、無感動に告げた。
「俺は、眼前の障害物を排するに欠片の躊躇も無い。言っておくべき事があるとすれば、それだけだ」
春風に桜の舞い散る四月の初め。
川神学園第二学年特別進学クラス、奇人変人エリート集団2-Sは、飛び切りの奇人変人二名を転入生として迎え入れる事になる。
少年が一人に少女が一人、主従が一組。織田信長と森谷蘭。
彼らの転入が2-S、引いては川神学園に何をもたらすのか、現時点にてそれを知る者はいない。
「織田さんに森谷さん……、双方共にとても魅力的だ。どちらから先に口説くべきか、ふふ、これは嬉しい悲鳴ですね」
「フハハハハ、まずは委員長としてお前たちを歓迎しよう。そして我が名は九鬼英雄!我が新たな領民共よ、その輝かしき栄光の名を胸に刻むがいい!」
「織田信長に、森谷蘭……か。危険だな。英雄さまに危害が及ぶ前に始末しておくべきか……?」
「良いか、高貴な此方と同じクラスにいる以上、無様な振る舞いは許さぬ!お前達が下賤な山猿共とは違う事を期待しておくのじゃ。……ひっ、に、睨むでない」
「わー、信長だ信長だー。でも教科書に載ってる肖像画とあんまり似てない、不思議なんだー」
「待て待て待てユキそれはマズイ!あーどうもスイマセンうちの娘がご迷惑をっ!」
「おいおいお前ら、そういう交流はHRの後でな。ったく、さっきはあんなに大人しかったってのに……ままならないね、ホント」
「ふん。俺が、先刻同様に黙らせてやってもいい」
「お前のやり方はいちいち心臓に悪いからやめてくれ。オジサンはもう歳なんだよ、ちったぁ労わってくれよな」
ただでさえ特進組らしからぬ騒がしさで満ちている教室が、益々騒がしくなるだろう。
少なくともそれだけは、担任を含む2-Sクラスの全員が疑いなく予測するところであった。
二〇〇九年、神奈川県川神市にて。私立川神学園の、新たな春が始まる。
取り敢えず導入部分は終了です。うん、改めてこの部分だけ読むと実にシュールだ。色々と。
この作品の主な方向性が示されてくるのはおそらくきっと次話以降になると思われますので、出来ればそこまでお付き合い頂ければ幸いです。