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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき風神録 その八
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/08 17:04
 





 ~side 神奈子~



「ふむ…お前達の言ってる言葉の意味がよく分からんな。
私は前回までの交渉の継続を行うつもりでいたのだが、そこに無関係の妖怪の名が出てくるとはどういうことだい?」

 大天狗から交換条件としてレミリアを提示するように言われ、私は軽くとぼけて連中に返答をする。
 そんな私に、大天狗は歳月の穢れを感じさせる下種びた笑みを零して言葉を再度紡いだ。

「呆けても意味はなかろうて。この神社にスカーレットの姫君達が訪れていることは昨日より確認している。
おっと、まさかとは思うがどのようになどと問い直すことはしまい?我らが目の力、軍神殿ならご存知かと思うが」
「…千里眼か。人様の家まで目を張り巡らせるとは、実に不快だね。覗きに何の抵抗もないとは実に天狗らしいじゃないか」
「何、我々もこの許された最後の世界で生き残る為に必死なのだよ。これくらいは容赦願いたい。
それに先程は言葉が悪かったな。少し訂正させて頂こう」

 そう一度言葉を切って、大天狗は大袈裟に両手を掲げて私に言い直す。
 ――覗き聞いてるのか、二人は。まあ、それも当然か。このような異様な空気のお客様だ、気にならない方がおかしいか。
 建物の蔭から私達の話に耳を傾けているお姫様達に苦笑しながら、私は静かに大天狗の言葉を待つ。

「我々は純粋にレミリア・スカーレットと会談の場を持ちたいのだ。
現在、この幻想郷において最強の一人と謳われる吸血姫との話し合いの場を我々妖怪の山は求めている。
そうさな…だからこそ、差し出せと言うのは実に言葉が悪い。我々は軍神殿に我々とレミリアとを結び付けてもらいたいのだよ」
「それだけを聞けば笑いが出る程に私達に好都合な提案だな。
私はレミリアをお前達に紹介するだけで欲してやまない妖怪の山の土地が貰える。正直気色悪さすら感じる程に楽な条件だ」
「厳しい条件を嘆くならまだしも、楽な条件に愚痴を零す意味もあるまいよ」
「何故私を頼る?レミリアに会って話がしたいなら、直接紅魔館に向かえばいい。
下らぬ偽心を抱かぬ限り、紅魔館の連中はレミリアに会わせてくれると思うがね。誠意を示したいなら、お前達が直接レミリアの下へ行け」
「ふむ…然り。だが、そればかりは出来ぬのだ。
何故なら、レミリア・スカーレットとの会談を要求しているのは他ならぬ我らが長なのだから。
山の全てを支配する者が山を易々と降りることなど出来はしない。だからこそ、我々はレミリア・スカーレットにご足労願うしかないのだ」
「…天魔が直々に、か。ククッ、我らが愛しき友人はよくよく人気者じゃないか。
そちらの都合で向かえないと言うのならばその理由をレミリアに言え。機会なら幾らでもあっただろう?」
「その機会を隙間の女狐に悉く潰されたのよ。おっと、あ奴が退いた今も管理人には女狐が居座っていたか」
「つまらん冗談に笑って欲しいなら、巣に帰ってお仲間に言ってな」
「それに、我々が求めるのはあくまでレミリア・スカーレット一人だけ。もう一人の姫君や配下の連中は不要なのだ。
我らはレミリア・スカーレットとの会談を求めるが、その為に姫君の配下達まで山に入れる訳にはいかんのでな」
「何故だ?レミリアの家族くらい同行を許容してやればいい。実に小さいね、お前達の器が知れるぞ?」
「姫君の配下はその全てが一騎当千、誰も彼も化物よ。そんな連中に変な気を起こされては困るのだよ」
「心配せずとも、レミリアの手を借りてお前達を押し潰そうとは思わんよ」

 そう返しながら、私は表情に出さないように考える。
 …こいつらが本当のことを言っていないのは考えるまでもない。ただ、虚言の境界を見極めるのが面倒だ。
 妖怪の山の連中がレミリアを欲してるのは真実だ。だが、奴らが会合だけで終わるなどとは微塵も感じられない。
 会談の場を持ちたいのならば、私が先ほど言ったように直接紅魔館に出向き、その理由を言えば良い。フランドールの話を聞けば、
以前までの紅魔館はレミリアを護る為に強者達と関係を結ぶ方向で計画を進めていたという。それなら両者にとって益となるだろう。
 だが、連中はそれをしなかった。否、行おうとはしたが、その機会の全てを八雲紫に潰されたと言った。これが真実であるならば、
レミリアと妖怪の山の連中をつなげることは、八雲紫にとって都合が悪いことを示している。
 では、八雲紫にとって都合が悪いこととは何だ。あれは難しいようで実に理に適った妖怪だ。無意味なことなどすまい。
 管理人としてならば、幻想郷の平穏に異常をきたす意味で拙い。レミリアの友人としてならば、レミリアに害を為すという意味で拙い。
 …成程、ここまで出揃えば簡単に答えは浮かびあがる。八雲紫が連中とレミリアとの接触を妨害したのは、妖怪の山の連中が
レミリアを利用しようと考え、その行動が幻想郷の平和を乱す恐れがあるからだ。

 では、どうしてここにきて私に対してレミリアの引き渡しを要求してきたのか。
 それこそ単純。私達という『弱者』の楔が、レミリアの全てを縛ると連中は読んでいる為だ。
 恐らく連中はレミリアのことをよく調べている。あの娘の情に厚く他者の為に動く性格を知っている。だからこそ、私達を利用した。
 この妖怪の山の土地がなければ、私達が幻想郷で生きることが難しいことなど連中は理解している。その事情をレミリアが知れば、
果たして他人事でいられるか…そこまで読んだ上での交渉だろう。成程、必死だね。そこまで身を落としてレミリアを欲するか。
 私は笑みを零し、連中へ視線を向ける。ああ、お前達の手練手管、実に賞賛に値する。この私相手によくもまあ、そこまで悪智慧を働かせたものだ。

「さて、どうかな軍神殿。か弱き我らの切実なる願い、聞き届けて貰えないだろうか」
「弱者の願いに耳を傾けるのも神の役目。仕事に励むのも悪くはないが、その前に別のお勤めが先に必要だろう?」
「その仕事とは――ッ」
「――鴉が。鳥獣如きが私を愚弄したな?この八坂刀売神に対し、我が身可愛さ故に友を売れ、貴様はそう言うのだな?」

 瞬きさせる間も与えない。私は轟雷を繰り出し、容赦することもなく連中へと閃光を奔らせる。
 大天狗はギリギリのところで避けたが、兵隊連中はそうもいかない。私の放った稲光で、奴の引き連れていた他の天狗は
一匹残らず地に倒れ伏すことになる。私の行動に、大天狗は探るように私に言葉を紡ぐ。

「どうやら軍神殿の癇に障ったようだ。我らとしてはそのようなつもりは毛頭なかったのだが」
「最初からそのつもりなら、全員あの世に送っていたよ。その命あることに感謝するがいいさ。
――交渉は決裂だ。貴様も我が物顔で空を駆けまわれる翼を焼かれたくはないだろう?分かったら後ろの連中をつれて巣に戻ることだね」
「ふむ、考え直しては貰えないか?」
「再考の余地もないね。この問題は我々とお前達の問題、レミリアには何の関係もないことだ。
帰って天魔に伝えておけ。次に下らぬ手を打つならば、容赦はしないとな」
「例えそれが軍神殿の消滅につながっても、か?」

 そう訊ねかける大天狗を私は鼻で笑う。どうやらこいつらは己の欲望だけに生き過ぎて頭が腐ってしまっているらしい。
 自身の消滅など恐れるものか。そんな下らぬことの為にレミリアを売るなど考えられない。それは間違いなく諏訪子も同じ考えの筈だ。
 このような下らぬことにあの娘を巻き込むくらいなら、喜んで消えてやるさ。言ってしまえば、最悪私達が消えても、早苗さえいれば希望は残る。
 そのような考えをしている自分に、私は軽く自嘲する。悪いね、フランドール。どうやら私はどこまでも古く錆びついているらしい。
 悪足掻きをするには、歳を重ね過ぎた。利巧を捨て去るには、誇りを持ち過ぎた。私達には、お前さん達のような勇気ある生き方は出来ないらしい。
 ――必死にもがいて生きるより、友の為に死ねるならこれほどの去り際はないだろうなどと下らぬ考えをしてしまう私達のような馬鹿者には、ね。




















 ~side フランドール~



「――駄目だよ、お姉様。それ以上、動かないで」

 神奈子達のところへ飛び出そうと足を一歩動かしたお姉様に、私はそう言葉を放った。
 私の制止の声に、お姉様はぎこちない動きで私の方を振り返る。そのお姉様の表情は後から遅れて色がついて。
 …無意識、か。私の声を聞いて、初めて自分の足が進んでいるのに気付いたのね。そして、お姉様の表情に浮かぶのは一つの意志。
 私は顔に出さずに心の中で大きく息をつく。お姉様のこの表情は好きだ。お姉様の強さ、優しさ全てを込めた世界で一番格好良い姿だから。
 だけど、今はそんなお姉様の表情は見たくなかった。何故なら、お姉様の取ろうとしている行動は、お姉様の身に危険が伴う行動なのだから。
 今ならまだ軌道修正できるかもしれない。私はそう思考し、お姉様に口を開く。神奈子達には悪いけれど、私が最も優先すべきはお姉様なのだから。

「お姉様は今自分が何をしようとしているのか理解してる?
神奈子と天狗のところに行って、お姉様は一体何をしようとしたの?」
「…私があの人達のところに行けば、助かるかもしれない。みんなみんな、助かるかもしれないのよ、フラン」
「そうだね、助かるかもしれないね。
神奈子達は妖怪の山の土地を手に入れることが出来るから、消える必要もなくなるね」
「だったら…」
「だけど、そこにはお姉様の身の安全の保証が無い。お姉様が危険な目に遭うかもしれない。
その可能性が一毛でもある限り、私はお姉様を止めるよ。例え神奈子達が消えるとしても、お姉様を失うことには代えられない」

 私の言葉に納得出来ないのか、お姉様は『でも』と何とか反論の糸口を見つけようと必死に思考してる。
 その姿から、お姉様がどれだけ神奈子達を助ける為に必死になっているかなんて誰が見ても分かる。分かるからこそ、私は止める。
 お姉様の持つ優しさ、必死さはブレーキが完全に壊れてしまっているから。だから、お姉様を護るのは私達家族の役目。
 その為に、私はお姉様が反論出来ないように卑怯な言葉を並べ立てる。

「『誰かの犠牲の上に幸せなんて成り立たない』。それを私に教えてくれたのはお姉様でしょ?
ここでお姉様が自分を差し出して、本当に神奈子達は幸せになれると?神奈子達はそれで納得すると思うの?
自分達の保身の為に、お姉様を犠牲にして、妖怪の山で土地を手に入れて。それを神奈子達が望むとお姉様は本気で思ってるの?」
「…思わないよ。全然思わない、けど…」
「率直に言うわ。お姉様のそれは、ただの自己満足よ。
お姉様の優しさ、神奈子達を想う心はとても尊いものだと思うし、私達はその心に救われた。だからこそ、そのお姉様の心は護りたいと思う。
でも、今の状況でそのお姉様の優しさは人を傷つける。その行動は、神奈子達の在り方を踏み躙る行為に等しいのよ」

 お姉様の行動に、きっと神奈子達は心から憤怒するだろう。あれらは私なんかとは比べ物にならない程に強者として過去を生き続けてきた。
 彼女達のこれまで歩いてきた足跡が、きっとお姉様の行動を許さない。友だとか、絆だとか、そういう次元じゃないんだ。
 誰だって死にたくない。誰だって消えたくない。だけど、それよりも大切なものだって在る。
 例え優しさとはいえ、他者を犠牲にした上の平穏など、神奈子のような存在は最も忌み嫌うことだから。
 …私がお姉様を犠牲にして幸せになんてなりたくなかったように、神奈子達もまた同じ…否、それ以上だと思う。
 私だって神奈子達に消えて欲しくなんてない。だけど、それをお姉様と秤にかけることなんで出来はしない。そんなこと、神奈子達だって望まない。
 私の話に、お姉様は下を向いて口を噤む。そして、私への援護は早苗からも送られてくる。

「…私もフランドールさんと同意見です」
「早苗…」
「天狗の方々の詳しい事情は分かりませんが…天狗の方々にレミリアさんを差し出して土地を貰うなんて、絶対に違うと思います。
レミリアさんは私にとって大切な友人であり、神奈子様の友人でもあります。友達を裏切ってまで、私達は居座ろうとは思いません」
「でも、でも…」
「大丈夫ですよ!何と言っても、私の神様は神奈子様なんです!
あんな要求受け入れなくても、きっと神奈子様なら何か良い良案を教えて下さいます!だからレミリアさんは自分を犠牲になんてする必要無いんです」

 明るく笑って言う早苗。神奈子の良案か…力が残っていれば、それも出来たでしょうに。
 昨日の話しぶりからして、神奈子の次案など存在しない。もう一柱を切ることでしか、神奈子達は存続出来ない程に追い詰められてる。
 神一人消滅覚悟の大転移。恐らく、通常転移のような力の量にモノを言わせるだけでは為し得ないんでしょうね。だからこそ、神奈子は
私に助力を求めない。信仰や歴史が関係しているのかは分からないけれど、この神社と湖は第三者の力技の転移じゃ動かせないんでしょう。
 …多分、お姉様はそのことを薄々勘付いているんだと思う。知識や経験ではなく、直感で『ここで下がれば全てが終わる』と。
 私と早苗の言葉を受け、お姉様は口を開けない。その姿に罪悪感が生まれるものの、その感情を何とか押し殺す。
 とにかく、今の私が為すべきことはお姉様を紅魔館に連れて帰ること。その為にお姉様の意志を折ること…その筈だったのに。

「…ごめんね、フラン。やっぱり私、駄目みたい」
「お姉様…」

 気付けば、お姉様は顔をあげて。どうしようもなく綺麗に微笑んでいて。
 お姉様は小さく首を横に振り、私達に言葉を紡ぐ。それは、かつて私が幾度となく恋焦がれたお姉様の姿。

「私の行動が駄目だってことは分かってる。この行動が誰の為にもならないって分かってる。
こんなことして神奈子達が喜ぶなんて思わないし、むしろ物凄く怒られるんだろうなってことも分かってる。
…だけど、やっぱり嫌。何もしないまま納得なんて出来ない。友達とこれからを一緒に歩く為の道があるなら、私はそれを選びたい」
「…お姉様のその行為は、神奈子達のことを何も考えていない行為だよ。それでもお姉様はその道を選ぶの?」
「本当は私だってそんなの選びたくないわよ…神奈子は優しいけど本気で怒ると怖そうだし、私は怖い目になんてあいたくないし…
私は元来臆病者で泣き虫だもん。可能なら、今すぐ紅魔館に帰って布団に潜り込んで後のこと全部フランに押しつけてしまいたいわよ。
でもね、そんなことしちゃうと私は絶対に『後悔』しちゃうから。後で絶対今の自分を嫌いになっちゃうと思うから、だから選ぶの」
「自分勝手だね。そして我儘」
「それは仕方ない。だって私は巷で噂の悪名高いスカーレット・デビル。世界で一番自分勝手で我儘放題な吸血鬼なんだもん」

 そう言って微笑むお姉様に迷いはなくて。
 そんなお姉様を私は見つめ続け――そして、笑った。どうしようもなく、おかしかったから。耐えられなかったから。
 お腹を抱えて笑う私に呆然とするお姉様と早苗。そして、『何で笑うの!』と怒るお姉様。
 だって仕方ないわ。何故なら、お姉様の在り方が本当にどこまでもお姉様らしくて――本当に、どうしようもなく格好良かったから。

 嗚呼、そうよ。それでこそお姉様よ。
 神奈子の誇り?私の計算?そんなものは実に瑣末なこと。そのようなものは幾らでも蹴り捨ててしまえばいい。
 お姉様はどこまでもお姉様らしく在れば良い。お姉様が望むままに、自分勝手に、己の望む道を歩けば良い。
 何処までも傲慢に、何処までも己の為に。神奈子達を助けたいのなら、そうすればいい。それが神奈子達の望まぬ道でも気にする事は無い。
 何故なら、お姉様の歩む道は必ず人を笑顔にする道だから。例えどれだけ他人を振り回しても、お姉様は救うと決めた相手を必ず救う人だから。
 そう、お姉様の行動理由など『したいから』だけで構わないんだ。その望みをただ自分勝手に私達に伝えてくれればいい。
 お姉様がそう『覚悟』を決めたのなら。お姉様がそう『意志』を定めたのなら。それはすなわち、私達紅魔館の歩く道。
 私達がすべきはお姉様の道を邪魔する事なんかじゃない。私達はお姉様の道をこの手で切り開けばいい。
 危険を排することも、下らぬ権謀を打破することも、全ては私達の役割。それがお姉様の為に生きるということなのだから。
 ――道は決まった。お姉様の心は定まった。ならば、私達はその通りに動くだけ。お姉様の望む未来を勝ちとる為に、ね。
 私は笑みを零しながら、お姉様に話しかける。ああ、本当に心躍る。

「お姉様の意志は理解したわ。お姉様が確固としてそう決めたのなら、私が口を挟むこともない。私はお姉様の望むままに動くだけよ」
「そう…ごめんね、フラン。こんな我儘勝手で貴女をいつも振り回して」
「いいよ別に。お姉様の望む道を支えることが私達の望みだもの。
お姉様は何も心配せずに自分のやりたいように行動して。後の仕上げと押し込みは私達の方でやっておくから」
「?えっと、よく分からないけど、フランに任せる」

 そう告げ、お姉様は神奈子達の方へと歩いていく。…脚が震えてるのは見ないふりをしよう、うん。
 私は軽く息をつき、困った風に早苗に向けて笑いかける。どうやら早苗も気持ちは私と似たようなものらしい。

「困ったお姉様でしょ?人に無理はするな、危険な目にあいそうになったら逃げろ…なんて言っておきながら、自分はコレだもん」
「ええ、本当に。だけど…みんながレミリアさんに惹かれる理由、改めて分かったような気がします」
「この世に二人といないわよ?あんな風に、他人の為にどこまでも優しくなれる妖怪は」
「ふふっ、自慢のお姉さんなんですね」
「当たり前でしょう?お姉様はこの世界で一番素敵な人――私の誇りであり私の全てよ」

 そう告げ、私もまたお姉様を追うように神奈子達の下へ足を進める。
 そして、神奈子達のところへ辿り着くと…神奈子が本気でお姉様に怒っていた。お姉様、既に涙目で困り果てている。
 …まあ、そうなるわよね。どんなに自分をつき通そうとしても、お姉様はやっぱりお姉様で。怒り狂った神奈子は流石に怖いでしょうね。
 私は息をつき、神奈子に言葉を投げかける。無論、お姉様の求める道を切り開く為に。

「そこまでよ、神奈子。それ以上お姉様を責めるのを止めて貰えるかしら」
「――フランドール。お前、これはどういうことだ」
「どうもこうもないわ。お姉様は自分の意志で連中との会談に応じるとの決断を下したのよ。だから姿を現した、ただそれだけのことよ?」

 私の言葉に神奈子の怒りの色が更に濃厚に染まり上がる。下手をすれば怒りだけで人が殺せそうね。
 それも仕方のないこと。お姉様の行動は、神奈子達のような存在にしてみれば唯の侮辱でしかない。誰が友を犠牲にしてまで
自分の保身を願ったと思っているんでしょう。神奈子の気持ちは分からないでもない。むしろ痛い程に分かる。
 だけど、それがどうしようもない程の勘違いであるということを私は神奈子に教えてあげないといけない。
 私は表情を変え、神奈子に口を開く。そう、神奈子。貴女達は少しばかり勘違いをしているのよ。

「――神奈子、お前の意志などどうでもいいわ。
お姉様の行動がお前にとって侮辱や誇りを汚していると感じるなら、それはそれで構わないのよ。何せ、お前のことなどお姉様には何も関係ないのだから」
「…なんだと?」
「紅魔館の主であり、我らが長であるレミリア・スカーレットが下した結論よ?
それは主が意志であり、主が望み。言うなればそれはお姉様の欲望よ。お前やお前の事情など鑑みないわ。お姉様は自分がしたいから、そうするだけ。
増長も傲慢も大概にしなさいよ、神奈子。お前の都合や誇りなど知ったことか。お姉様は自分の道を往く為に行動しているだけ。
その過程でどのような結果が付き纏おうと関係ないのよ。お姉様の望む道をどうしてお前如きが邪魔出来る?
お姉様の行動がお前にとって本当に拙いものであるのなら、お姉様を殺すつもりで止めなさい。尤も――お姉様の道は私が護るけれど」

 怒りを示す神奈子に、私はそう言葉を突き付ける。これは全て私の本心だ。
 結局、お姉様を止める権利など神奈子に在りはしない。お姉様は確かに神奈子達の為に行動しているが、最終的に
その行動は自分の為なのだから。妖怪が自分の欲望の為に動く行為を邪魔だと思うなら、神奈子は武力を持って止めるしかない。
 これは間違いなく神奈子達の誇りや在り方を踏み躙る行為だ。だけど、私はそれを承知の上で実行する。
 神奈子達に怒られても、嫌われても、それでも救いたいとお姉様は言った。ならば私はお姉様の望みの為に行動するだけだ。
 そんなお姉様の願いを邪魔すると言うのなら、例え神奈子相手でも許さない――そう強い意志を込めて私は神奈子を睨んだ。
 私の視線を正面から受け、やがて神奈子は沈黙を捨て、大きな溜息をついた。

「…阿呆が。レミリア、お前は何処までも愚かだ。つくづく救いようのない愚か者だ。
長い年月を生きてきたが、これほどの大馬鹿者を私は見たことがない」
「ごめん、ごめんね神奈子…神奈子の気持ち、裏切っちゃって本当にごめん…」
「謝ってくれるな。我らが在り方を否定しても、それでも自分の道を往くと決めたんだろう。
…本来なら、謝るべきは私達の方だと言うに。フランドール、お前にも嫌な役目を押しつけたね。時を重ねると、自分の意見すら碌に曲げられない」
「…別に。さっきも言った通り、私はお姉様の望みを叶えたいだけ。そこにお前達のことなんて何の関係もないわ」

 私は神奈子との会話を終え、視線を天狗の方へと向ける。
 …フン、にやけ顔が気に入らないわね。予想外に自分達にとって都合の良い話になって気分が良いのは分かるけれど。
 そんな天狗に、お姉様は気持ちを切り替え言葉を紡ぐ。

「事情は聞いていたわね?私、レミリア・スカーレットは貴女達の会談に応じることにしたわ。丁重に持て成しなさい」
「無論。何せ姫君はこの幻想郷において誰よりも重要な役割を持つお方、粗相の無いよう誠心誠意を尽くすことを約束しよう。
それでは姫君、ついて来て貰えるかね?我らが長も姫君の到着を今か今かと心待ちにしておられる故」
「待ちなさい。その前に差し出すべきものを差し出しなさい。そういう約束でしょう」

 お姉様の言葉に、天狗は了承したとばかりに神奈子に竹筒のようなものを投げる。
 神奈子がそれを受け取ったのを確認し、天狗は神奈子ではなくお姉様に向けて説明を始める。まるで神奈子には最早興味はないかのように。

「土地の所有を認める件を書に認めてある。我らが長の書名も入っている。
それが在る限り我らは土地の所有を認めよう。これで満足かな?」
「…ええ、十分よ。貴女達の長のところへ案内しなさい」
「承知」
「――待ちなさい」

 そう告げ、天狗はお姉様と共にこの神社から飛び去ろうとするが、私はそれを制止する。
 まだ何かあるのかと面倒そうに振り返る天狗に、私はとびっきりの笑顔をぶつけてあげる。
 ――私の気配の変貌に築いたのか、天狗は表情を強張らせる。ああ、少しばかり怖がらせ過ぎたかしら。
 だけど、こんなモノでは済まさないわよ。もしもお前達がお姉様を裏切ったり、少しでも傷つけたりしたのなら、この程度で許せる訳が無い。

「――三時間。それだけの猶予を与えてあげるわ。
これより三時間で会談を早急に終わらせ、お姉様を無事この神社に送り届けなさい。反論は認めない、許さない」
「何を…」
「いい、約束よ?もしこの約束が一秒でも反故にされたとき、およびお姉様に傷一つでもあったとき。
――そのときは、私達『紅魔館』に対する宣戦布告とみなし、お前達山の連中を一人残らず殺し尽してあげる。そのことを一字一句漏らさず天魔に伝えなさい」

 いいわね?そう告げて哂う私はどこまでも妖怪で。同じ姉妹でありながら、お姉様には絶対に出来ないであろう顔で。
 パチュリーの道具で妖気は隠していても、殺気だけは抑えられない。長年生きている天狗ならば、私の本気は簡単に伝わるだろう。
 さて、楔は打った。お姉様の意志を守り通すだけの下準備も事前に行っている。お姉様の命を守る為の策も在る。
 あとは連中の動向次第だけど――どうかお姉様の心を裏切ってくれるなよ?私達はお姉様のように寛大でもなければ慈悲深くもないのだから。
























 高いよ!何この馬鹿みたいに大きな巨大樹は!?死者が生き返る葉っぱでも生えてるの!?
 偉そうな天狗さんに案内され、山をふよふよ飛んでやっとゴールと思ったら、更に上に行くらしい。何であんな高いところに棲むの?死ぬの?今日が曇りで本当に良かったよ。
 本当、空を自分で飛べるだけの妖力が戻ってて良かった。他の戦う力とか全然要らないけど、これだけは何とかしてほしかっただけに紫に感謝。
 もう空を三分飛んだら筋肉痛なんて悲しみにサヨナラ。そんなどうでもいい感謝をしながら、私は天狗の後をついて巨大樹の上へ上へとふよふよふよふよ。飛ぶ速度が遅くてごめんね!

 …ああ、それにしても神奈子、本当に怖かったなあ。正直幽香レベルの怖さだった。神奈子の前に出た時、本気で死を覚悟したわよ畜生。
 でも、そればっかりは仕方のないこと。怒られても仕方ないわよね…私、自分勝手な行動しちゃってるんだもん。神奈子がこんなこと
望んでないってのは痛い程に伝わってるけど…でも、それでも諏訪子が消えちゃうより絶対良い。私が天狗達のところに行くだけで解決するならそれでいい。
 そりゃ私だって怖いわよ。天狗ってことは、文レベルの妖怪達がうじゃうじゃいるところに一人で会談とか涙が出そうになるくらい怖いわよ。
 でも、それは私が頑張って我慢すればいいだけだし、天狗達も少し話せば『こいつじゃ話にならんわ』と言ってフランを呼び直すでしょうし。
 何やら天狗達は何かの交渉を私としたいみたいだけど、私のようなアホの子が難しい話なんて出来る訳もなく。きっとこの人達すぐに
『どうしてフランドールじゃなくてこっちを連れてきたんだ』って後悔することになると思う。で、私はみんなのところに強制送還と。
 …天狗達、何も知らないから勘違いしてるんでしょうね。私が強いって勘違いしてるから、交渉事なんかで私を呼びだそうとしてるのよ。ふふん、
紅魔館を本当に動かしているのはフランとパチェで私は専ら料理とかお菓子作りが役割だというのに。
 でも、その勘違いのおかげで諏訪子達を助けることが出来たんだから感謝しないと。土地権利書はしっかり神奈子に渡された訳で。
 何だか詐欺を働いたみたいだけど、私が強いって勝手に勘違いしたのはそっちだからね。今更返せと言われても無理だからね。
 とりあえず、みんなに謝る準備をしておこう。天狗達にごめんなさい、神奈子達にごめんなさい。そして私が滅茶苦茶みんなに怒られて、
そして最後にはハッピーエンドよ。まあ…私は多分怒られ過ぎて魂抜けかけてるんでしょうけれど。

「こちらだ、吸血鬼の姫君よ」

 そう言って、天狗は大樹に大きく開かれた空洞へ私を案内する。
 …わあ、広い。というか、右も左も天狗天狗あんど天狗。みんな強そうね…まさに化物の巣。ラスボスの城って感じがするわ。
 屈強そうな天狗達の視線が私に集中してる。み、見ないでいいから!見ても面白いものでも何でもないから!
 ザ・余所者って感じの肩身の狭い思いをしつつ、私は案内されるままに天狗について行く。うう…もう帰りたい。早く話し合い終わらせて帰りたい。
 大体、話し合いって何を話し合うのよ。漫画談議なら幾らでもしてあげるけど、私に語れるようなことなんて何もないわよ?
 天狗のボスって言うくらいだから、どうせ紫とか幽々子とかレベルの悪魔超人が出てくるんでしょ。最強クラスの妖怪は
言ってることが全然理解出来ないのよこんちくしょう。仲良くなるまで話してる内容が本当に外国語にしか聞こえないのよ。
 どうか天狗のボスが文みたいなフランクな天狗さんでありますようにと願いながら、私は天狗に指示されるままに室内へと入る。
 案内された一室、それはとても広い和室が広がっていて。案内してくれた天狗を含めて、六人の強そうな天狗さん達と、その最奥には――

「――天魔様、只今戻りました。
この姫君がかのレミリア・スカーレットにございます」

 案内してくれた天狗が一礼したその先には、一段高くなった座敷高に座った人物。
 …いえ、人物なのかも分からない。だって私にはそのシルエットしか見えない訳で。その姿を隠すように思いっきり簾みたいなもので私達との間を遮っていて。
 ええと…あの、正直反応に困る。何これ、貴方一体どこの頭虫邸の闇将軍?どうすればいいの?とりあえずカメラで写真撮れば良いの?
 他の天狗達も闇将軍…というか簾に向かって一礼してるし。私もした方がいいのかしら…でも、こんな顔も姿も見えない人に頭を下げるのも。
 そんなことを考えていると、案内してくれた天狗はやっと解放されたとばかりに他の天狗達同様、私を囲うように部屋の隅へ座った。えっと、いや、私は?
貴方は自分の席が決まっているからいいけど、私はどうすればいいの?何処に座ればいいのよコレ。まさかとは思うけど、あの闇将軍の
簾の中へ行けという訳ではないでしょうね?私、ちょっとああいう演出が格好良いと思ってる人はその…出来れば遠慮したいんだけど。
 …誰も何も言ってくれないし。普通は『お座り下さい』とか言うもんでしょ?何この就職面接みたいな圧迫感。試されてるの?試されてるの私。
 誰も何も言わないなら座るわよ?ほ、本当に座るからね?駄目だと言っても遅いんだからね?そう心を決め、私はその場に腰を下ろす。それを
待っていたかのように、天狗の一人が私に向かって口を開く。さ、さっさと会話したいなら『座ってくれ』って言えこらああああ!!

「さて、姫君よ。まずはこの地にわざわざご足労頂いたことを…」
「そういうのは要らないわ。私は貴方達の望み通り、交渉の場に赴いただけ。
ほら、さっさとこれまでの経緯をそこのお偉いさんに伝えて頂戴。わざわざフランの怒りを自分から買う必要もないでしょう?」

 私の言葉に、さっきまで案内してくれてた天狗が苦虫を噛み潰したような表情で上司さんに報告をし始める。
 いや、フランが天狗に時間を指定してくれて助かったわ。フランが話してくれたおかげで、どんなに長くても三時間後には
私は解放されるんだから。難しい話を無理に私にされても困るし。駄目だと判断したなら、即時にフランのところへ返してほしい。
 天狗が闇将軍に伝え終えたのを確認し、私は言葉を紡ぐ。とにかくさっさと話を終わらせて、みんなにごめんなさいしよう。

「それでは貴方達の求める会談とやらの内容を聞かせてもらいましょうか」
「慌しいことだ。姫君との場を持つことは我らが心より待ちわびた時間なのだ、そうそう急くこともあるまいよ」
「私が帰らないことで機嫌を損ねる人達がいるのよ。私だって怒られたくもないしね。だからさっさと話を進めて頂戴」
「そう言うな、姫君よ。まずは我らが感謝の言葉を受け取って貰いたい。
この幻想郷を自分勝手に荒らし回ってくれた下らぬ妖怪を打倒してくれたことに礼を申し上げよう」
「下らぬ妖怪…?」
「無論、風見幽香のことよ。あの愚かな妖怪は自身の身分も弁えず、この幻想郷全てを敵に回す愚かな行為に出た。
姫君が多数の部下共を統率し、あ奴を打倒する姿を我らはこの地より見学させて頂いた。実に見事な手際だった」
「愚かな妖怪…?多数の部下…?」

 あれ、何だろう…褒めて貰ってる筈なのに、全然嬉しくない。何かさっきからガンガン私の心をささくれ立たせてくれちゃってる。
 天狗的には、幽香を止めてくれてありがとうっていいたんだろうけど…何か、嫌だ。そういう褒められ方、全然嬉しくない。
 確かに幽香は幻想郷のみんなに悪いことをした妖怪だし、私がみんなの手を借りたのは事実だけど…なんか、違う。
 そんな私の気持ちを気にすることなく、天狗は愉しげに言葉を続ける。

「あれだけの妖怪達を手足のように操るとは、流石はスカーレット・デビルよな。
我らが姫君に感嘆の意を送りたいのは、このような事態を想定してあらかじめ手を打っていたことよ。
八雲紫や西行寺幽々子を引き入れ、我らが上司である伊吹萃香様までも姫君は利用した。無論、無力な人間や力無き妖怪共も
盾代わりに利用する周到さも見事。多くの人妖を意のままに操り、姫君はあの風見幽香を倒してみせたのだから」
「ち、違…」
「他者を己が意のままに動かす才、実に価値ある力よ。例え『戦う力が無くとも』その存在価値は十分過ぎる程に在るだろう」

 天狗の言葉に、私は一瞬身体が強張る。戦う力が無くとも…そう天狗が私に告げた理由、そんなの考えるまでもない。
 この人達は知っている。私が戦う力なんて微塵も持たないことを知ってるんだ。一体どうして…って、考えるまでもないか。
 だってこの人達、さっき言ってた。幽香と私達との戦いを覗いてたって。だったら、私が幽香に向かって『自分戦う力ゼロです』宣言も
しっかり聞いてるし、お!グングニルゥー!のハリボテ性能も知ってるってことよね。つまり私の最弱はバレバレユカイって訳よ。
 …でも、最弱バレしたからって困ることって全然無くない?私はもうみんなにそのこと隠してる訳でもないし、紅魔館の本当の強者は
フランだってことを話せば、私に利用価値なんて微塵も無い訳で。そもそも、向こうも私が弱いって知って接触してきたんでしょ?
だったら私は何も悪くないわ!普通にお話して、私に出来ることなら考えるし、無理なら無理って言うだけ。
 とにかくもう早くこの場を切りぬけてしまおう。うん。だって、この人達、正直なんか嫌。話してて気分悪い。多分、本当は
悪い人では全然無いと思うんだけど…なんていうか、みんなが馬鹿にされてるみたいで。

「…長話は断ると言った筈だけどね。それで?お前達は力を持たないこの私に一体何を要求すると言うの?」
「力を持たぬなどとは微塵も思っておらんよ。姫君には力が在る。その存在一つで幻想郷のバランスを容易に壊しうる程の。
姫君は自分が持つ力の大きさを知らぬのだ。自身が望めば、この小さな世界は幾らでも変貌出来よう。
気に喰わぬ存在が在れば、己が欲望のままに葬り去ることも出来る。そう、かつて姫君が風見幽香にそうしたように、な」
「っ、いいからさっさと用件を話して!もう面倒なお話はコリゴリよ!お前達は一体私に何をしてほしいのよ!?」
「そうさな…我らが望むは、妖怪の山と姫君との友好よ。姫君には我らとの絆を深めて貰いたい」
「…へ?」

 えっと…つまり、天狗達の要求は、私と友達になりたいってこと。え、嘘、何、そんなことだったの?
 予想外の要求に、私は身体の力が抜けるのを感じた。な、何よー!警戒しまくって損したじゃない!一体どんな無理難題が押しつけられるのかと
思ったわよ!こんな仰々しい場を用意してまで、本当にビビらせるんだから!そういうお願いなら、私は喜んでOK出すわよ!
 その話を聞くと、天狗達の態度も先ほどまで見えていたものとは違った風に見えて。そっかそっか、この人達は素直になれない皮肉屋さんなのね。だから
幽香や紫達のことを上手く表現出来ない。ううん、こんな性格なら確かに友達作るのは難しかったかもしれない。
 でも、大丈夫!貴方達の心、確かに私に伝わったわ!貴方達が素直になれないのなら、私が近づいてあげればいいだけのこと!
 今の私はリア充の中のリア充、超リア充よ!かつての引き籠り友達パチェだけ人間とは違うのよ、今の私は友達沢山引き籠り人間なのだから!
 ええ、問題無いわ。一発了承を出そうと、私が口を開きかけたその時だった。天狗が最後に一言を付け加えたのは。

「――ただし、その友好はどのような事象よりも優先される。その条件を付属して、な」
「…条、件?」
「無論。姫君には何より我らとの絆を重要視して貰わねばならぬ。
何、そんなに難しいことではないよ。我らが望む時に、その力を貸してくれれば良い。
例えば、八雲紫や西行寺幽々子が我らの敵に回った時にも、有無を言わさず我らの力となってくれれば…な」

 …えっと、え、どういうこと。意味が分からない。全然意味が分からない。
 何で私が紫や幽々子と戦うことになるの?二人は大切な友達だもん、そんなこと絶対にあり得ないじゃない。
 紫も幽々子もフランの命を助けてくれた恩もある。私達の今があるのは、二人の力あってのこと。それなのに何で?
 呆然とする私に、天狗は愉しげに笑いながら言葉を紡いでいく。何で?何で笑ってるの?全然面白くない、面白くないわよこんなの。

「何を迷う必要がある?姫君にとって都合の悪いことなど何一つないではないか。
この友好を持って、我らは姫君の力となる。我らが力は集団の力、その力の価値は八雲紫達以上のものだということは姫君にも分かるだろう?
かつて姫君が己の欲望の為に強者達との関係をつなげたように、我らともそうすればよい。
『友人』などという耳触りの良い言葉を用いても構わんよ。八雲紫達とはそのように利用し合う関係を築いたのだろう?」

 何よ、それ。天狗の言ってること、その意味が全部理解出来ない。
 それじゃまるで、私と紫達が友達じゃないみたいじゃない。表面だけ取り繕って、互いの利益だけを算出し合うそんな関係に聞こえるじゃない。
 つまり、この人達は私達のことをそんな風に思ってるんだ。フランを助ける為に、私の大切な人を守る為に
力を貸してくれたみんなのことを、そんな風に――押し黙る私に、天狗は言葉を更に並べていく。

「我らは恐れているのだ。今の幻想郷は完全にバランスを崩してしまっている。
かつては我らが群体の力、八雲紫が個の力という二つのバランスによって平穏を保っていた。
だが、今はどうだ。姫君に集う力、それらが一つの方向を向けばこの世界は容易に破壊される程のモノとなってしまっている。
我らは恐ろしいのだよ。何も理解しておらぬ者達が、気分一つで世界を壊してしまうこの状況が」
「だから…私を利用するというの…?」
「利用するとは人聞きの悪い。我らは共にこの世界の調和を保たせたいと言いたいのだ。
八雲紫、あ奴は管理者失格よ。己の望み欲望のままにこの世界を支配しようとしていた。そ奴の配下である八雲藍も信を置けぬ」

 何を、言ってるんだろう。この人は知らないのか。
 紫がこの世界を、幻想郷を守る為に命すらも捨てようとしたことを、この人は。
 私は拳を握り、そっと言葉を紡ぐ。それは精一杯の私の反論。

「もし…もし、私がこの申し出を断れば、どうするの…?」
「ふむ…賢い姫君がそのような選択をするとは思えぬが。
もし、姫君がそのような選択を選ぶのならば、仕方が無い。我らは申し出を引っ込めるとしよう」
「なら…」
「――その代わりとして、姫君にはその生涯をこの地にて終えてもらう。
姫君をこの場所に軟禁し、我らのお願いを姫君の配下達に聞いて貰うことにしよう」
「それはつまり…私を人質に取るということね」
「…どうやら姫君は自身のことを未だ理解されておらぬ様子。
レミリア・スカーレット、貴女はこの幻想郷にとって自身のことを何と心得る?」
「私は私でしょ…それ以外に一体何があるというのよ」
「姫君、貴女はこの幻想郷の妖怪達にとっての生ける王冠なのだよ。
姫君を持つ者こそが幻想郷を統べる者と称して問題無い程に、姫君は利用価値を高め過ぎた。
実に便利なものだとは思わんかね?その者を擁して、少しばかりお願いするだけで幾人もの化物達が従ってくれるのだ」

 …そういうこと。確かに私の『命』なら、フランもパチェも美鈴も咲夜も頷かざるを得ないでしょうね。
 つまり、この人達の目的は最初から私なんかじゃなくて。私の後ろにいる、みんなの力を利用しようとしてるんだ。
 確かに私は力も何もないから、軟禁するのは容易でしょう。フラン達が傍にいない今、これほど利用しやすい奴なんていないと思う。
 連中にとって、交渉なんて最初からするつもりはなくて。結局どちらに転んでも連中にとっては都合のいいことだったんだ。そのことを、
きっと神奈子は知っていたんだ。知っていたから、私を本気で怒って止めてくれた。フランだってそう。私に何度も確認を取ってくれたんだ。
 私は軽く息をつき、笑う。馬鹿だな、私。本当に馬鹿だ。何が弱いから利用価値がないだ。何がすぐに返してくれるだろうだ。私、全然
自分のこと分かっていなかった。本当に何も理解してなかった。私に価値なんてなくても、私の周りの人達がみんな誰も彼も価値ある存在じゃない。
 そして、そのみんなはとても優しいから、私なんかの為に行動してくれる。そんな簡単なことにも気付けないなんて…私って、ホントばか。
 私は笑みを零しながら、最後の確認を取る。その相手は、未だなお簾の向こうで姿を見せないこの人達のトップさん。

「ねえ、そこの貴方…この人の意見は、貴方の結論。そう考えても構わないのかしら…?」
「当然だ。我らの意見は天魔様の意見。そのことに…」
「…お前には聞いていないのよ。天魔とやら、私は貴方に訊いているのよ」

 天狗の言葉を遮り、私は天魔と呼ばれる奴に質問を突き付ける。
 だけど、天魔からの返答は返ってこない。それはすなわち肯定に他ならなくて。私は軽く肩を竦めるしかない。
 そんな私に、天狗は眉を顰めながらも言葉を紡ぐ。それは私への最後通牒。

「それでは答えを聞かせて貰おうか、姫君。我らに力を貸してくれるや否や」
「答え…ね」

 私はそっと瞳を閉じ、考える。
 きっとこの場で最良の選択は頷くこと。頷き、フラン達の下へ戻り、みんなの指示を仰いで次の行動を打つこと。
 それが最良だとは思うし、私にも危険が無くて一番だとは分かってる。その手を選んでも、きっとみんなは私を責めたりしない。
 だけど、だけど――それでも、その選択は出来ない。その選択肢は、他の誰でも無い私が私を責めるから。

 この天狗達は、私の大切な人達を馬鹿にした。
 この天狗達は、私の大切な絆をコケにした。

 私とみんなの関係が、ただの利用し合うだけの関係だと、連中は言った。
 私の為に、みんながどれだけ自分の身を省みずに力を貸してくれたのか、そのことを何も知らないくせに。
 幻想郷の強者と呼ばれるみんなと私のことなんて、何も知らないくせに。

『――永遠に幼き紅い月、レミリア・スカーレット。必要な時は、他の誰でもなくこの私を頼りなさい。
紅月が闇を厭う時、私はその群雲を払い除ける敵無き牙となりましょう。最強の妖怪、八雲紫が貴女の力にね』

『ふふっ、勇ましい人ね。その在り方、好意に値するわ。常人なら気を狂わせても仕方のない境遇を、貴女は一歩も引かずに勇往邁進し続けている。
妖夢も心惹かれる訳だわ。貴女はその在り方が眩い、例えるなら線香花火。その輝きは周囲に集う闇夜の化生程目を奪われて離さない』

『鬼の盟約は永遠の誓い。レミリアが許すなら、これから先、私はお前を決して裏切らぬ莫逆の友として共に道を歩むことを誓おう。
お前の勇ある決断を尊重し、お前の信ずる道を歩き、お前の迷うる心を断ち切り、お前の背を支える一人の友としてレミリアの傍に』

『…行きましょう、レミリア。貴女達の求める真の月を返還し、深き闇夜を終わらせる。
貴女との明日を――この世界の本当の輝きを、二度と忘れぬよう永遠(わたし)に刻みつける為に』

『私の代わりに運命に勝ってくれるのでしょう?私達の無念を貴女が解放してくれるのでしょう?
もし、あれが口だけだったと言うのなら、今すぐ貴女の傍に行って、そのちんちくりんな身体を全力で踏みつけてあげるわ。
どうなの、レミリア?貴女の貫き通そうとした意地は、覚悟はこの程度の運命にねじ伏せられてしまう程度だったの?』

 紫が、幽々子が、萃香が、輝夜が、幽香が。
 この世界で絶対強者と謳われる人達がどんなに優しくて、どんなに素敵な人達なのか、少しも知らないくせに。
 それなのに、みんなは私のことを好き勝手に利用してるだけだと決めつけて。私とみんなとの関係をそのような下種びたものだと評して。
 許せない。絶対に許せない。自分のことはどれだけ馬鹿にされても構わない。私のことをどれだけグズ子扱いしようと構わない。
 でも、みんなのことを…私の大切な友達を、大好きなみんなのことを馬鹿にすることだけは許さない。
 こんな感情は初めてかもしれない。こんな気持ちは初めてかもしれない。
 かつて萃香と対峙した時とも、幽香と対峙したときとも違う。どうしようもない程に胸に渦巻く気持ち。
 ――ああ、これが『怒り』なんだ。本当に本当に本当にどうしようもなく、相手のことすらも考えられなくなる程に。
 気付けば私は右手に神槍を生み出していて。前動作や初動のない私の術式に、天狗達は表情を驚愕に染め、慌てて立ち上がる。

「っ、馬鹿な!?レミリア・スカーレットは一人では何も生み出せぬ、妖力を持たぬ妖怪では――」
「…答えが欲しいと言ったわね、鴉共。
私の解答、遠慮なくその身で受け止めるが良い――答えは『バカめ』よ!!」

 そう叫び、私は自身の保有する全妖力を槍に乗せ、迷わず簾目がけて投擲する。
 私の槍が簾を払い、その奥の誰かに衝突するや部屋中を閃光が包む。大きな破裂音が響き渡るのは、その少し後のことだった。




























 部屋中に溢れかえった光の渦が収束し、天狗達はようやく目を開けることが可能となる。
 そして、室内には既にレミリア・スカーレットの姿は見えず、天狗達は周囲を見渡す。開かれた窓を見て、レミリア・スカーレットは
最早この高度に存在していないことを理解した。

「くそっ…小娘が、下らぬ真似を。いや、それよりも天魔様だ!ご無事ですか、天魔様!!」

 天狗達が慌てて、簾の方へと近寄ろうとするが、向こう側から響く声に足を止める。
 それは笑い声。何処までも上品に、けれど愉悦は抑えられず。簾の向こうから聞こえる声に、天狗達は自分達の主の無事を知る。

「御無事で何よりです、天魔様」
「フフッ…追い詰められた状況、幾つか行動を想定していたけれど、まさかこんな手を打って出るとはね。
レミリア・スカーレット、実に想像を覆してくれるじゃないか。悪手も悪手、最低と評しても過言ではない一手を躊躇なく
踏み込んでくる姿、笑わずにはいられないわ。これだけの大天狗に囲まれて、普通は選ばないわよ?」
「はっ…まさかレミリア・スカーレットがこれ程までの愚者とは思わず。
今すぐ、妖怪の山全ての天狗にレミリアを捉えるよう指示します。あ奴がそう力の無いことは確認済み、容易にあ奴を捕えて――」
「――愚か者はどちらだ、戯け」

 先程までとは打って変わったような冷徹を帯びた声が室内に透き通る。
 その声に、その場の天狗の誰もが跪き下を向く。そんな彼らに、天魔と呼ばれる者は淡々と言葉を紡ぐ。

「交渉に失敗した上に、責任の全てを吸血姫に押しつけ…失態を重ねてよくもまあ、未だ偉そうな顔が出来たものね。
言っておくが、お前達に次なる一手を打つ資格は無いわ。長年の付き合いだ、お前達の顔を立ててやろうと全て黙って見ていればこの様。
相手はあの萃香様が友と認めた者よ。それをお前達は浅い策で絡め取ろうと息巻いて」
「で、ですが『姫』。我らは…」
「確か、あちら側の指定は三時間だったわね。いいか、これは命令よ。
今より三時間、この場所からお前達は一切動くな。無論、他の天狗達に命を出すことも許さない」
「そ、それではレミリアが…」
「妖怪の山の守りは堅牢よ。見回り天狗達の隙を抜いて山を降り切るのは至難の業、そう簡単に出来るものか。
こちら側の下らぬ策謀で不快にさせたんだ。これくらいの礼も出来ねば、指を指されて笑われよう。その後のことは好きにすればいい」

 反論は許さない。その者は、絶対強者として在り、天狗達に命を下す。
 天狗達が渋々と従う姿を眺めながら、天魔と呼ばれた者は口元を愉しげに歪ませて想いを告げる。

「そう、最初からこうするべきだったのよ。レミリア・スカーレットを知るならば、下らぬ策ではなく正面から見定める。
爺達の謀略など面白くも何ともないわ。意志の強さ、心の強さに直接触れてこそ私達は妖怪として生まれた悦びが在る。
風の運んだ姿に真実など見えはしないわ。その正体を掴むのは何時だって実体を形に収める記者自身の役割だものね。
――さて、このまたとない機会。じっくり心ゆくまで見せて貰おうかしら。この世界を救った英雄さん達の、その強さと在り方をね」























 レミリアが天狗達と共に去ってからの時を、フランドールはただ黙して待ち続けていた。
 神社の境内で、立ちつくしたまま瞳を閉じて。まるで風の流れを感じ続けているかのように、彼女はそう在り続けた。
 ただ、彼女の愛する者の戻りを待つ為に。
 ただ、彼女の愛する人の帰りを待つ為に。
 そして、彼女の閉ざされた瞳はゆっくりと開かれる時を迎えた。
 ――約束の時間になっても、彼女の待ち人は帰ってくることはなかったから。

「…行くのかい、フランドール」
「ええ、勿論よ。約束を破るような連中には誰かが躾けてあげないといけないものね」

 背後に立つ神奈子に、フランドールは愉しげに笑って言う。
 首元につけていた首飾りをそっと外し、フランドールは神奈子にそれを投げ渡す。

「大切に取っておいてよ。パチュリーが三日かけて作った代物だから、壊しちゃうと怒られちゃうわ」
「妖力殺しか…成程、よく出来ている」
「何事もなければ、それで無力を装ったまま山を降りることを考えていたんだけどね…どうやら、この山の連中は本気で命が要らないらしい」

 そう告げて、フランドールは抑えていた妖気を解放する。
 それは一瞬、けれど何処までも届く。フランドールを中心として、放射状となった光が幻想郷中を照らす。
 その光は彼女が抑えきれずに変貌した妖力の形。異形となりて周囲に現れるのも仕方のないこと。何故ならフランドール・スカーレットの
身体には、何の虚偽もなく世界一つ分の妖力が蓄えられているのだから。
 全ての力を解放し、背中の羽を四枚羽へと変貌させたフランドールに、神奈子は愉しげに笑いながら言葉を紡ぐ。

「成程、それがお前さんの本当の姿か。
惜しい、実に惜しいね。私に力が戻っていたならば、是非とも一戦演じてみたかったものだ」
「あら、別に私は構わないわよ?何なら連中との準備運動代わりとして一戦交えて下さる?」
「悪いがそれは出来ない相談だ。私はこう見えて疲れるのが嫌いでね。『戦闘前』に余計な力は極力使いたくはないんだよ」

 そう言い放ち、神奈子は力の制御を戦の形へと切り替える。
 背中にしめ縄、全てを打ち貫かんと聳える御柱を携えた神奈子の姿に、フランドールもまた愉しげに笑いながら訊ねかける。

「いいの?折角お姉様の道のおまけで貰えたんだ。貰えるものは貰っておけばいい」
「残念だが気が変わってね。レミリアの意志と想いは尊重するが、これは『私の道』だ。
諏訪子と二人なら消滅覚悟で臨むが、幸いお前さんは力が有り余ってるんだろう?ならば私はそこまで無理をする必要がないからな」

 話を進めながら、神奈子は天狗から貰った竹筒を片手で砕き割る。
 砕き、燃やされた竹筒と書状は最早この世に存在せず。燃え尽きた紙切れを眺めながら、神奈子は笑って語るのだ。

「さて、これで私は連中から『力づく』で土地を奪い取るしかなくなった訳だ。
フフッ、実に充足しているよ。レミリアが自分の信じる道を行ったように、私も自分の信じる道を歩くことが出来る」
「本当に馬鹿ね。素直にお姉様の好意に甘えていればいいのに。だけどその在り方、嫌いじゃないわよ」
「それは嬉しい言葉だね。さて…それでは奪いに行くとしようか。我らがお姫様を」
「奪いに行くのではないわ――迎えにいくのよ。お姉様は誰のものでもなく、お姉様だけのものなのだから」

 そう笑いあう二人は何処までも強き輝きに満ち溢れ。
 吸血姫と軍神は踊る。この緑深き古戦場にて、どこまでも強く誇り高く。


















 そして、レミリアの為に動き出したのは、無論この二人だけではない。
 彼女の危機を知り、その者達が動かない筈が無いのだ。何故なら彼女達はレミリアの守護者。
 レミリアの為に生き、レミリアの為に全てが在る彼女達が、この戦場に降臨しない筈が無かった。

「来ましたね、フランお嬢様からの合図。何か起こるだろうなとは思っていましたけれど、やはりこうなりましたか」
「全ては想定内よ。レミィのことだもの、こうなるんじゃないかとは思っていたわ。
…言っておくけれど、レミィの安全は保障されている。間違っても永夜の時のように暴走してくれないでよ」
「ええ~…それをパチュリー様が私に言うんですか。心配しなくても大丈夫ですってば。
今度は決して見失わない。言わばこれは私達の雪辱戦。私達は私達に任された仕事を実行するのみ――そうよね、咲夜」
「ええ、その通りよ。全ては母様の為に…鴉如き、何匹集まろうと私達の敵ではないわ」

 レミリアの下に絶対強者の星々は集う。
 妖怪の山、その上に胡坐をかく者達はまだ気付かない。気付けない。
 全ては張り巡らせられた策の上。恐ろしき程に獰猛、そして優秀な三匹の狼達が、自分達の喉笛を掻き切らんと迫っていることに。






 


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