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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/09 11:51




 私の目覚めは、この世に並び立つモノなど存在しない程の可憐な笑顔に迎えられることから始まる。


 寝起きでぼんやりとした私に、その少女はまるで暖かな陽光を連想させるように微笑みながら言葉を紡ぐ。
 『おはよう、お姉様』。一つのベッドで共に就寝した筈の少女は、いつだって私より先に目を覚まして私にそんな言葉をかけてくれる。
 いつも私より早く起きるものだから、私がその娘にもっと寝ていても良いのにと言うと、少女は軽く首を振ってこう告げるのだ。

 『お姉様より早く起きて、お姉様の寝顔を眺めているのが私は大好きだから。
お姉様が傍に居るんだって、ずっとずっと一緒なんだって強く感じることが出来るから…その時間は、私にとって掛け替えのない宝物なの』

 優しく微笑みながら話す少女――それが私のたった一人の大切な妹、フランドール・スカーレット。
 フランのどうしようもない程に愛おしい言葉に、私はぎゅっとフランを優しく抱きしめる。そんな私にフランは抵抗することも無く
抱擁を受け入れてくれる。結局、私達が食事を摂る為に寝室を出て行くのは、咲夜が訪れる時間までずれ込むことになる。
 それまでの時間は私とフランの時間。何をするでもなく、何を行うでもなく、私はフランとの優しい時間を共有するだけ。それが私には堪らなく幸せだった。


 目覚めから朝の身支度を整え終えて、食後の紅茶を楽しみながら、私は紅魔館に住まう家族のみんなに話をする。
 話の内容は、私の今日の一日の予定。紅魔館の主である私の予定によって、基本的に他のみんなの一日の予定が決まると言っても過言ではないからだ。
 無論、私としては他のみんなには自分の好きなように過ごして貰いたいのだけど、みんなは私中心に予定を立てることを前提に考えなければ
落ち着かない…というより、私が一人で行動することが不安らしい。つい先日に幽香の一件があったから、ナーバスになる気持ちは分かるけれど、
本当に心配性な家族達だと思う。そして、それ以上に私は思うのだ。私は本当に…本当に、愛しい最高の家族に巡り会えたのだと。

 そういう訳で、私の一日の基本方針をみんなに伝える訳だけれど、私の一日の行動予定なんて、今は館内にほぼ限定されている。
 まず第一に幽香に壊された館や庭の補修を優先しないといけないから(無論、私は魔法も何も使えないから役立たずこの上ないんだけど、
庭や館外のレイアウトとかで美鈴や咲夜が指示を求めてきたりするので、一応参加はしてる)館の外に一人遊びに行く訳にもいかない。
 第二に、私以外のみんなは幽香との戦いで大小あれど怪我を負っているのだ。妖怪の自己治癒力や魔法使いの治癒魔法で完治してるとは
口々に言うものの、私はそんな言葉を微塵も信用してあげない。だから、この数週間は、誰一人として無理はさせないつもりなのだ。
 言わば私はみんなの監視役。数時間おきに、みんなに休憩を促し、そしてみんなの為にお茶やお菓子を振る舞うこと、それが私のメインの仕事。
 もっとも、幽香戦後に一番重症だったのは私の筋肉痛だったのだけど、それは忘れることにする。自分を棚に上げてみんなを心配する私万歳。
 第三に、今の私はフランから少しも離れられない。みんなの力で治ったとはいえ、フランは少し前まで何時死んでもおかしくない
状況だったのだ。そんなフランが絶対に絶対に無茶をしないよう、私は永琳から渡されているリハビリメニューを片手に、フランにつきっきり。
 少しばかりフランには窮屈な思いをさせることを詫びると、フランは笑って『お姉様と一緒にいられる時間が増えるから、私は凄く嬉しいよ』と
言ってくれた。そんなフランの言葉に、私は永琳のリハビリメニューに対し少しだけ感謝してしまう。ちょっと間違っている気もするけれど。

 館のこと、みんなのこと、そしてフランのこともあり、この数週間の私の行動は館内限定だ。…ごめん、主な理由は私の筋肉痛だった。
 フランと一緒に館内を歩き回り、館修復の作業を行ってくれているみんなに指示や労いの言葉をかける。
 そして、空いた時間を見つけてはフランのリハビリ。リハビリと言っても、フランが行うのは、自身の体内の力の流動、その確認作業。
 永琳が言うには、フランの体には自身の妖力と私の妖力だけでなく、巫力魔力霊力挙句の果てには異界の力全てが内包されているらしい。
 最早幻想郷…否、外界を含めても並ぶ存在がそれほど存在するのか、というレベルの力をフランは持ってしまったらしい。その気になれば
一山の破壊すら瞬きする間に行える程の力が在るらしいのだけど、フランはそんな力に微塵も興味はないらしい。
 フラン曰く『みんなと、お姉様と生きていけるならそれでいい。私の力はみんなを守る為だけに使えれば、それでいい』とのこと。
 やる気さえあれば神すら世界すら殺す力を持つというのに、何とも欲がないと優しく微笑むのは永琳。壮絶な力をその身に宿したフランが
導いた答えは、みんなと一緒に幸せになること。それだけが運命に抗い続けた私の妹の導いた未来だった。

 そんなフランが宿している力が誤作動を起こさない為にも、日頃のチェックは欠かすなという永琳の助言のもとに、フランは毎日必ず
己の力の確認作業を行っている。力の流動から、美鈴や咲夜や萃香を相手にした軽い模擬戦闘、簡単な術式展開などメニューは様々だ。
 自身の力を解放するときのフランの表情は、可愛らしい女の子の顔から、力の意味を知る大妖怪のそれへと変貌する。
 最愛から最強へ。私が記憶を取り戻す前によく見せていた、他人を平伏させるようなフランの鋭い瞳。そんなフランの表情も私はたまらなく好きだった。
 心から格好良いと思う。あれが本当の吸血鬼の姿なのだと思う。だから私は素直な感想をフランに告げるのだけど、そんな発言をする私に
フランは顔を真っ赤に染め上げて『恥ずかしいよ、お姉様』と照れてくれる。私にしてみれば、そのギャップ差は卑怯だと思う。本当に可愛くて可愛くて。



 フランのリハビリには紅魔館の家族一同全員協力のもと付き合ってくれている。
 ただ、やっぱりと言うべきか、今のフランの強さは本当に尋常じゃないレベルらしく。以前までの戦闘技術に加え、他を圧倒する程の力を
有した為か、今のフランを1on1で抑えられるのは、紅魔館では萃香だけみたい。
 基本、フランのリハビリバトルは多対一で行われている。フラン一人に対し、美鈴と咲夜、そして援護限定だけどパチェもつく。ときにはそこに
文まで入って、最強揃いの四対一なんて状況にも関わらず、フランが敗北を喫することは一度としてなかった。本当にフランは凄いと思う。
 そのことをフランに言うと、フランは笑って『そういう訓練だから。褒めるのは美鈴達の方だよ』と言葉を返していた。最初はその意味が
よく分からなかったのだけど、萃香に訊くと美鈴達はフランが調整した力の同等程度まで力を抑えて相手をしているらしい。
 首を傾げる私に、萃香は笑って『美鈴が竜に、咲夜が吸血鬼に、パチュリーが力を解放し、文が竜巻を呼んで
しまうと、紅魔館がまた壊れてしまうじゃないか』と告げた。つまり、フランと美鈴達は意図して手加減限定下の中での本気バトルをし、
美鈴達はフランが勝てるように更に調整をしているらしい。正直戦闘に関して門外漢の私には理解不能だけど、それは凄いことだというのは分かった。
 ただ、それならどうして萃香はフランに勝っているのかを訊ねると、萃香は歯を見せて言った。『手を抜いてワザと負けるのは嫌いだからね』。萃香らしいなと思う。



 フランのリハビリメニューを一通り終えて、私とフランは館のみんなと共に楽しい時間を過ごす。
 美鈴や咲夜やパチェ、そして萃香や文を加えて沢山のお話をしたりする。私達が談笑に興じる中、フランはそれを聞いて楽しそうに微笑んでいる。
 まだ萃香や文のようなフランにとって『線の外』だった人達との会話はぎこちないけれど、それでもフランは頑張って『本当の自分』で接しようと頑張っている。
 その姿が私には…いいえ、私達には凄く好ましい。頑張れ、フラン。少しずつでも構わない、貴女は今度こそ自分の望むままに生きる道が許されているから。
 私の為に他者を威圧したり見下したり、そんな傲慢な吸血鬼の姿を偽る必要なんてないの。フランはフランらしく、歩いていけばいいんだから。



 一日を終え、一緒にお風呂を楽しんで、私とフランは再び眠りに就く。
 私が吸血鬼としてヘンテコな昼夜逆転生活を送り続けているから、フランもそれに合わせようと朝起きて夜寝る生活を送っている。
 そんな生活を私が送っているのは、他の家族や友達と生活リズムを合わせたいからだけど、その為にフランまで無理をさせる訳にはいかない。
 しばらくの間はフランと同じ真に吸血鬼らしい夜活動の生活を送ろうかと尋ねたのだけど、フランは首を振って否定する。

『夜起きて活動して、それで一人じゃ意味がないから。私はみんなと…お姉様とこれから先もずっと一緒が良い』

 はにかんで健気に断言するフランを、私は今日何度目か分からない抱擁をする。私だってそうよ、私だってフランとずっと一緒がいいんだから。
 そう告げると、フランは顔を少しだけ紅潮させて、小さく『お姉様、大好き』と呟いてくれる。照れ隠しに顔を私の胸に埋める姿なんて本当に愛らしい。
 フランってば本当に卑怯だ。他の誰でもない貴女にそんな風に想われて、私にはこれ以上どうやってもフランに想いを伝え切れる自信が無いじゃない。
 伝えたい想いは沢山ある。共有したい思い出は山ほどある。だから、私は沢山沢山詰まった想いを時間をかけて渡していこう。

 私とフランの未来はまだ始まったばかり。
 私とフランの未来は何処までも広がっている。
 貴女が私を愛してくれる。私は貴女を愛し続けたい。手をつないで、一緒に何処までも歩いていきましょう。
 そんな風に私はフランと共に歩む暖かな道を夢想して、再び眠りにつくのだ。誰より可愛らしいフランの寝顔を見つめながら。





















「それでね、それでね、また別の日にはフランと一緒にお料理をしたり…」
「…もういいから。アンタの近況、よーーーーーーーーーーーっく分かったから」

 私が話を更に続けようとすると、そこには眉を思いっきり顰めた不機嫌顔の霊夢が。あれ、何で不機嫌空気?
 何か霊夢の顔に『これ以上フランドールの話を続けると泣かす』って思いっきり書いてあるような…私のフラン話は108まであるんだけど。
 何故何ナデシコと首を傾げる私に、霊夢の隣に座って紅茶を飲んでいた魔理沙が苦笑を浮かべながら横から言葉を紡ぐ。

「ほら、レミリアが嬉しそうに妹の話ばかりするから霊夢の奴、機嫌悪くなっちゃったじゃないか」
「…魔理沙、博麗神社に来てもアンタには二度とお茶出さないから。つーか二度とウチに来るな」
「酷っ!?出涸らしのお茶すら私には出してくれないって何の虐めだよ!?嘘嘘、冗談!冗談だってば!」

 …どうやら私への意味不明な怒りは魔理沙の方へと向いてくれたみたい。流石魔理沙、霊夢に怒られてもなんともないわ。
 昼下がりの紅魔館、IN私の部屋。久しぶりに遊びに来てくれた霊夢と魔理沙に、私は紅茶とお手製のクッキーでお出迎え。
 いや、もう本当に久しぶりに遊びに来てくれた大切な友達だものね!やっぱり嬉しいじゃない?もう自分が紅魔館の主である立場とか
そんなもん紅魔館の湖に投げ捨てて全身全霊でご奉仕よ。それに咲夜も館の仕事で少し手が離せないみたいだったしね。
 それでまあ、私の筋肉痛お見舞い以来のご対面となる二人と雑談に興じてたんだけど、なんか話せば話すほど霊夢が不機嫌になっていったのよね。
 特にフランの話を続けてると…いや、本当に何が何だか分からない。折角の機会だからと、フランの可愛さを余すところなく伝えたつもり
だったんだけど。まあ、不機嫌さは魔理沙の方に移ったみたいだから、こっちとしては助かったんだけど。相変わらず霊夢は怒ったら怖いし。
び、ビビってないわよ!?霊夢ちゃんのことなんか全然ビビってないんだからね!?好きだから好きなのに分かんない測定不能なキモチなのよ!
 安堵する私に、魔理沙は笑みを零しながらクッキーを摘まんで更に言葉を投げかけてくる。

「しかしまあ、レミリアの話からフランドールが随分と面白いことになってるのはよく分かったよ」
「そうなのよ!あのフランが!少し前まで『お姉様お願いだから死んで?』とか平然と言ってたフランが完全にデレ期到来なのよ!?
いや、そういうツンケンしたフランが演技だったっていうのは分かってるんだけど、それでも数百年の間冷たくされてた私には
頭で理解する以上の衝撃なの!分かる!?貴女達にこの喜びが上手く伝えられているかしら!?もうね、私の妹がこんなに可愛いわけがない!
寝ても覚めてもフランのことばかり!ねえ、どうしよう!?フランの可愛さは最早犯罪級なのよ!?」
「落ち着けレミリア、レズでシスコンでロリコンって何の三重苦だよ」
「私はノーマルよっ!素敵な男の人との結婚願望ばりばりの夢見る乙女よっ!
…いや、そもそもフランってロリコンの範疇に入るのかしら。フランって実年齢私と少ししか変わらないし…」
「実年齢じゃなくて見た目が問題なんじゃないか?いわゆる一つの合法ロリ」
「…アンタ達、いい加減そのアホみたいな会話止めない?とりあえずレミリア、アンタの身体は何も問題ないのね?」
「私?あ、うん、身体の方はもう全然」

 私の返答に、霊夢は『ならいいのよ』と小さく息をつく。えっと、どういう意味?なんで私の身体?
 首を傾げる私に、魔理沙は楽しそうに笑ってその理由を教えてくれた。

「霊夢の奴、レミリアの身体のことずっと心配してたんだよ。永琳が大丈夫だって言ってるのに、こいつだけはずっとお前の…」
「魔理沙?」
「…いや、このクッキー本当に美味いなマジで、うん」

 何かを言おうとした魔理沙に、霊夢は本日特大級の殺気を放って魔理沙の言葉を抑制する。
 …いや、分かったけどね。流石に私でも、魔理沙の伝えようとしたことは伝わったけどね。本当、霊夢って人は…
 私は胸の中がぐっと熱くなるのを感じ、その気持ちを表す為に、席を霊夢の隣に移動し、身体を霊夢へと持たれかける。

「ちょ、いきなり何よレミリア」
「なーんでもない!えへへ、霊夢、大好き!」
「何なのよ、全くもう…別に良いけど」

 邪険に追い払ったりしない霊夢を確認し、私は調子に乗りに乗って霊夢に甘えることにする。
 いやいやいや、本当に昔はこんな風に霊夢と仲良くなれるとは思えなかったなあ。霊夢と仲良くなろう計画を実行中のときは
五月病迎えた社会人みたいに博麗神社に行くのが苦痛で苦痛で仕方なかったのに…霊夢、貴女は私の永遠の親友だからもう離れない!
 私が霊夢にべったりしてると、魔理沙がニヤニヤしながら私達の方を見つめてた。でも、そんな魔理沙に霊夢が再び睨みつけて牽制。
 …なんか霊夢、睨みつけるスキルが上がってる気がする。レベル51で習得したのかしら。伝説の炎鳥から習ったのかしら。
 そんなことを考えながら、霊夢に甘えていると、ふと霊夢が私に視線を向けて訊ねかけてくる。

「館のこととかで外に出られないって言っていたけれど、それはもう一段落ついたの?」
「うん、もう大丈夫。フランも永琳から直々にOKサイン出てるし、みんなも怪我は全部完治してるし館は綺麗になったし。
だからもう、以前の通り博麗神社に遊びに行けるわよ。と言う訳で霊夢、貴女の家に遊びに行っても良い?」
「別に構わないけど、遊ぶより先に別件でレミリアに用があるのよね。今日はその用でここに来た訳だし」
「別の用?」

 首を傾げる私に、霊夢は『まあ、そっちの用件を伝えなきゃいけないのをアンタの顔みたら忘れかけちゃったけど』と言いながら、
話を続ける。それは霊夢から私への…いいえ、紅魔館の主、レミリア・スカーレットへのお誘いの言葉だった。

























 紅魔館の主、レミリア・スカーレットへのお誘いの言葉だった…って、気付くのが遅過ぎるのよ馬鹿馬鹿馬鹿!私のあんぽんたん!

 腰を下ろして、この場…博麗神社の少し広めの部屋を一望し、そのあまりに場違いな空気に私は心の中で大きく溜息をつく。
 ああ、浮いてる。私絶対浮いてる。この場に集った面々に私が紛れ込んでる自体がおかし過ぎる。いや、私も一応紅魔館の
トップだから全然おかしくない筈なんだけど、それでも違和感が拭えない。こんなことなら、私の代わりにフランに来て貰うんだった…

 先日、霊夢と『博麗神社に集合』『おk』って会話をして、ノリノリで遊びに来たら神社の奥の部屋まで連れていかれて。
 そして、一緒に来た咲夜達は部屋の外で待つように霊夢から言われて、私一人で部屋に入ったら幻想郷最強の面々が部屋にINしてた。
 具体的に言うと、白玉楼トップの幽々子、人里の守護者の慧音、永遠亭の姫である輝夜、そして八雲の新たな管理者である藍。この人達は
何かの組織…というかグループと言うか、とにかくそういうののリーダーとして私同様に呼ばれたみたい。言わば代表者組ね。
 みんなも多分、他の人と一緒に来たんだろうけれど、外で待つように言われてるのか傍に誰もつけていない。うん、ここに来るまでに妖夢とか
鈴仙とかに会ったから、多分そういうことなんでしょうね。いや、確かに全員はこの部屋には入りきらないとは思うけれど。
 そして、私達のような代表組とは別にこの部屋に存在している人物が四人。それは紫に幽香に萃香にアリス。
 このアリス以外の三人は…今は何かの代表とかそういう上に立つ立場じゃないけれど、一人の力で世界を変えられる言わば破格の妖怪ね。
 何をするかは分からないけれど、みんなのトップの集会にこの三人は欠かせないでしょうね。むしろ萃香が私の代わりに紅魔館代表で出てくれないかな。
 残る一人のアリスは…こればっかりはよく分かんない。別に何かのトップと言う訳でもないし、アリス一人が紫とか幽香とか萃香とかのような
存在自体バグキャラ化してるとは思わないし…なんだろう、アリスは私とは別の意味で浮いてる気がする。いや、アリスも凄く強いんだけど。

 …結局、現状をまとめると。
 私が霊夢の家に遊びに行ったら、幻想郷の最強大集合。私一人場違い空気。何この集まり。以上。
 幽々子に慧音に輝夜に藍に紫に幽香に萃香にアリスに…見なさい、私がゴミの様よ。遊びの場とか宴会とかだと、そういうの全く気にならないんだけど
こういう正式(?)な場になると、自分の明らかな浮きっぷりが…あ、輝夜がこっそり手を振ってくれた。流石は輝夜、こんな緊張の場でも
遊び心を失わないとは。よし、これは私も手を振って返答するべきね。私は小さく手を上げて、輝夜の方に手を…振ろうとしたら、部屋に最後の一人である霊夢イン。

「待たせたわね…って、何、レミリアその手は。何か質問?」
「…これが離間の計か。月の姫もよくやる」
「は?」

 思いっきり『何言ってんだコイツ』的視線を向けてくる霊夢に、私はすごすごと手を戻す。
 くっ、謀ったな輝夜!あああ!やっぱり輝夜笑ってる!メッチャ笑ってる!盗んだバイクでイセリナが走ってくるじゃない畜生!
 アホな失態をしてる私を余所に、部屋に入ってきた霊夢は室内に置かれた台の上に一枚の紙を置く。んー、ここからじゃちょっと何が書いてるか
分かんないわね。そして、その横に置かれるは一本のナイフと少し大きめの箱。…えっと、今から何をするつもりなのかサッパリ予想も出来ないんだけど。
 あの箱なんだろ…ナイフが横にあるんだから、食べ物でも入ってるのかしら。まさかこの場は霊夢の料理お披露目会?くっ!なんてこと!
それを先に知っていたなら私も最近練習して増やした料理の新レパートリーのお披露目を!とか、そんな訳ないか。
 霊夢が箱の蓋を開けると、そこには、真っ赤に染められた布が。血…じゃないわよね。多分、あれは染色液を浸してるだけで…朱肉代わりかな?
 そんなことを考えていると、用意が出来たのか、霊夢は私達の方へと向き直り口を開く。

「準備も出来たし、面子も揃ったから説明を始めるわよ。と言っても、説明なんて先日会った時にそれぞれ話した通りよ。
その話を受けて、この場にみんな揃ってくれてるってことは、私の提案に同意したとみなして良いのかしらね」

 霊夢の言葉に、その場の誰もが反論を口にしない。…え?先日話した通りって何?もしかしてみんな、事前に説明受けてるの?私は
博麗神社に来いとしか聞いてない気がするんだけど…き、聞いてないわよね?私の記憶違いとかじゃ全然ないわよね?
 …訊いてもいいのよね?分からなかったら人に訊く、それを全うしてもいいのよね?そうよ、私は以前までの私とは違うのよ。
 以前のように最強を装わなくていいから、知らなくても分からなくても全然恥ずかしくないの。どうせ質問したところで『レミリアだからなあ』で
済む筈よ。よし、勇気を出して質問しよう。私は胸を張って霊夢に対して再び手を上げる。

「何よ、レミリア。今度こそ質問?」
「ええ!霊夢に訊きたいことがあるの」
「何?」
「今から何するか私全然知らないんだけど!説明プリーズ!」
「はあ?説明ならしたでしょ?昨日アンタの部屋で、しかも私のすぐ真横で」

 霊夢、私に説明してたみたい。いかん、全く記憶にない…いつの話をしてるのよ霊夢は。
 すぐ真横ってことは、私が霊夢の隣の席に移動して凭れ掛った後で…あ、そうだ。私、あの後、霊夢の傍があまりに気持ち良かったもので
うとうとしちゃってたんだっけ…何とか魔理沙に起こして貰ったんだけど、もしかしてその時に…い、いかーん!!これ私のミスじゃない!
 いかん、これはいかんですよ…このミスは霊夢に怒られるミスですよ…冷や汗を流しながら、ひきつった笑みを浮かべるしか出来ない私に
じと目の霊夢。ううう…そろそろ覚悟を決める時ですかな、私!ビーム・ラムを使うのね!?いつ霊夢に怒鳴られても良いように目を閉じて
ぷるぷる震える私。そんな私に、霊夢は大きく溜息をついて…怒鳴らずに説明をしてくれた。

「良いわ、もう一度確認の意味も込めてこの場で説明することにするわ。
印を貰った後で『前と話が違う』なんて言われるのも嫌だし」
「ふふっ、優しいのね、霊夢は」
「はっ倒すわよ、紫。あとレミリア、私は別にアンタを怒ったりしないから怖がるの止めなさい。
例え実力がヘッポコでも、アンタは紅魔館の主。紅魔館の代表としてこの場にいるんだから、もっとシャンとしなさいよ」
「う、うん…ありがとう、霊夢」

 霊夢の指摘に従い、背筋を伸ばす私。うん、確かに霊夢の言うとおりね。私が幾らヘッポコでも、この場でびくびくしてると
紅魔館全ての人に申し訳ないわ。流石霊夢、貴女はいつだって私に大切なことを教えてくれる。あと最近凄く優しいし。
 そして、霊夢が私達を集めた理由を改めて(私は全く聞いた記憶が無いけれど)説明してくれる。
 霊夢が私達のようなグループのトップ、あるいは一人で最強と謳われる実力者を博麗神社に集めたのは、
この場に集まった連中に対して、一つの約束事を順守して貰う為、契約書に捺印が欲しいというもの。
 その約束事というのは『スペルカードルール』の厳守。私はスペルカードルールを詳しく知らないので、簡単にしか言えないんだけど、
このルールは確か霊夢が考え、幻想郷中に広められた決闘ルールだった筈。導入理由はえっと、妖怪同士とか化物同士の戦闘は
下手をすると幻想郷の崩壊を招く恐れがあるので、それに代わる代替案をってことで考えられたものだった気がする。
 でも、このルールはまだ出来て日も浅く、完全な浸透までには至ってないのよね。以前から幻想郷に棲んでいた妖怪とかは大分このルールが
適用してくれてるけど、幻想郷に来たばかりの連中とか他者に姿を見せない妖怪とか興味のない妖怪とかはガン無視してるって
以前霊夢がぼやいていた気がする。うん、確かそんな感じの奴よね。魔弾一つだせない私には何の関係もなかったルールだけど。

 で、霊夢がそのルールをこの場の面々に守って貰いたい理由は、少し前に引き起こされた幽香異変にあるらしい。
 何でも、あの異変は本当に本当に本当に幻想郷が崩壊するかどうかの一歩手前の状態までいってたみたいで、文字通り紫が
命を賭けて何とかなった状態だということ。つまり、幽香一人であの惨状だったのだから、この場の面々がスペルカードルールを守らなければ
幻想郷の命が幾つあっても足りない…それくらいヤバいことらしいの。まあ、確かに萃香とか本気出して右手で結界殴れば、その幻想郷をぶっ壊す出来そうだし。
 そこで、二度とあんな惨状を繰り返さない為にも、ここにいる連中及びその部下にはスペルカードルールを守って欲しい。それが霊夢の提案だった。
 全てを聞き終えた時、私の感想は『霊夢も博麗の巫女の仕事頑張ってるんだなあ』だった。いや、だって霊夢なら『私は守って貰っても
守って貰わなくても構わないわよ?ただし、守らなかった奴は全員私がぶっとばす』くらいの気持ちかなって思ったし。
 まあ、霊夢の考えは分かったわ。それに賛成するか反対するかだけど、別に私に反対する理由なんてないし。
 戦う力も無ければ、スペルカードルールにも参加出来ない私は、宇宙船幻想郷号の一員として賛成するだけだもの。紅魔館の他の人の意見とか
本当は聞きたいんだけど…まあ、フランも咲夜も今更この面々と殺し合いなんてする訳ないし。大丈夫でしょ。

 そんなことを考えてると、説明を続けていた霊夢が突如とんでもない行動に出てくれた。
 台に置かれたナイフを手に取り、突如そのナイフを親指の腹に奔らせ…痛い痛い痛い痛い痛い!!見てるだけで痛い!!何してんの霊夢!?
 血!血が出てるから!親指から血が!!と、とにかく治療しないと!!私がハンカチを慌てて霊夢に差し出そうとしたら、霊夢は血が出た
親指を迷わず用意していた紙面へと押しつけて。そして平然とした様子で私達に言葉を告げる。

「この決めごとに同意してくれる人はこんな風に捺印をよこしなさい。ん、ありがとレミリア」
「え、あ、うん…」

 私からハンカチを受け取った霊夢は何事も無かったように話を進める。いやいやいやいやいやいやいや、待てと、待ちなさいと。
 つまり何か、スペルカードルール順守の契約書にサインが必要で、それが血判で…ひいい!!無理無理無理無理!!そんなの絶対無理!!
 自分の指にナイフ押しあてるとか考えるだけで死ねるわよ!?そりゃ料理の時とかに包丁で怪我したことはあるけど、これは自発的な
自傷行為じゃない!!それを幻想郷一チキンでへたれな私にやれと!?絶対NO!!ナイフを手に持つのだって嫌よ私は!!
 冷や汗全力全開、胸の鼓動は最高潮を迎えてる私だけど、ふとナイフの横に置かれてた箱…どでかい朱肉の存在に気づく。そ、そうよ!わざわざ
ナイフなんて使わなくても、霊夢は朱肉を用意してくれてるじゃない!どうして自傷行為なんてしなくちゃいけないのよ!こんな便利アイテムが用意されてるのに!
 ふぅ、霊夢ったら脅かしちゃって。ナイフと朱肉なら、みんな普通に朱肉を使うに決まってるじゃないの。まあアレよね、霊夢は
提案者っていうことで、こういうデモンストレーションが必要みたいな。霊夢、貴女はよく頑張ったわ、感動した、格好良かったわ。
 後は私達に任せなさい。誰一人足並み乱すことなく、朱肉捺印を書面に押してあげるから。まずは景気良く私から…そんな風に
捺印二番手を取ろうとしたら、私の前に別の人が。新しい八雲の管理人、八雲藍。

「無論、私は幻想郷の管理人の一人として賛同する。ここに八雲の血を持って賛成を示す」

 そう言って、藍もまた霊夢同様ナイフを親指に奔らせて血判。…あれ、何でナイフ使ってるの?朱肉は?
 判を押して、藍は当たり前のように自分の席へと戻っていく。おおい!何で朱肉使わないのよ!?どうして態々痛い想いなんてするのよ!?
 藍に続いて今度は慧音が立ち上がり、書面の前へ。け、慧音は大丈夫よね!?人里の常識人代表だもんね!やっぱり血を流すのは健康面から
考えて良くないと思うの!人の血がついたナイフを自分の傷口にってのは如何なものかとレミリアはレミリアは考えてみる!

「スペルカードルールは言わば弱者を守る為のルールでもある。
その決まりに私が賛同しない訳が無いな。人里を代表して、改めてここに賛同させて貰うよ」

 …あ、そうなんですか。ナイフ、使っちゃうんですか。慧音、貴女は信じてたのに…貴女まで朱肉ちゃんの存在を無視するのね。
 いやいやいやいやいや、待ってよ。ちょっと待ちなさいよ本気で。これ、無茶苦茶朱肉使い難い空気じゃない。もしこれでみんな
ナイフを使ってみなさいよ?その場で私だけ朱肉を使う?絶対ありえない。元来日本人気質の私には到底無理よ、欧州生まれだけど。
 と、とにかく一人でも朱肉を使ってくれれば…次は輝夜か。輝夜なら、輝夜なら私の気持ちを分かってくれる!私は必死に輝夜にアイコンタクトを
試みると、輝夜は『全て分かってるから』というようにウインクを返してくれた。か、輝夜!流石月のお姫様は格が違った。輝夜なら私の想いを…

「霊夢、少し血を流すわよ。貴女達程度の傷じゃ、私は瞬きする間に回復してしまうから」
「良いけど床は汚さないでよね。掃除するの面倒だし」
「分かってるって」

 そう言って、輝夜は右手に不思議な力を集中させて、思いっきり左手の親指を切りつけた。あ、水芸。じゃない!血が!血がメッチャ出てるやん!!
 もうね、深く切りつけたとかレベルじゃない。あれ抉ってる!親指絶対抉り取ってる!おえっぷ、無理…私は堪らず視線を輝夜から逸らして
気を失いそうになる自分を律し続ける。そして、ようやく心が落ち着いたときには輝夜の血判は終わってた。か、輝夜のあほーー!!全然私の気持ち伝わってないじゃない!
 ちょ、何よその『私はレミリアの期待に応えました』的な笑顔は!くうう!輝夜自身が超絶美少女だけに様になってて何も言えない!
 拙い、この流れは非常に拙い、拙過ぎるわよ。次は…あ、アリスなら!!アリスならきっと何とかしてくれる!流石都会派の魔法使いは格が違ったってところを
私に見せつけてくれる筈!やっぱり都会派ともなると何事も合理的に話を進めてくれる筈よ。具体的に言うと、ナイフなんて使わない。
 アリスは書面の前にたった後、一度霊夢の方に視線を向けて訊ねかける。

「そういえば訊き忘れていたのだけれど、この集まりに私を呼んだのは霊夢なの?」
「違うわよ。呼んだのは紫の奴ね。私は別に必要ないでしょって言ったんだけど、どうしても紫がアンタを呼ぶようにって」
「そういうこと。別に私は魔界代表を気取るつもりは微塵もないんだけど…まあ、いいでしょう」

 …あれかしら。最近の幻想郷の女の子には自傷癖みたいなのが流行ってるのかしら。アリス、どうして貴女までナイフを…朱肉ちゃん…
 拙い。情況的には六回終了5-0で相手チーム自慢の中継ぎ陣が出てきたくらい拙いわ。残るメンバーは幽々子、幽香、萃香、紫…今までの
面子以上に朱肉使うイメージが湧かないんだけど…特に萃香とか幽香とか。いやいやいや、私は信じる!一人で良い!一人で良いのよ!だからお願い、誰か朱肉を…
 私が心の中で必死に祈り続ける中、次に立ち上がったのは幽々子。幽々子!貴女は幽霊でしょう!?亡霊でしょう!?ゴーストにいあいぎりは
効かないことくらい、私はお見通しなんだから!だって妖夢が言ってたもん!幽霊は妖夢の刀で成仏が幽霊十匹分で何とかかんとかって(聞いてねえ)

「冥界管理人として、白玉楼の主として賛同いたしますわ。元より他者にこの力を振るうつもりもなし」
「うーん、幽々子の力は本当に反則だものねえ。そうは思わない、藍?」
「紫様、貴女がそれを仰いますか…」

 私の祈りは微塵も幽々子に届かず、早々にナイフ活用中。何でナイフ使うの…というか何で幽々子切れるのよ…タイプはゴーストじゃなかったの…
 でも、普通に考えたら当たり前のことで。幽々子は飲み食いもするし、日常生活で私達が幽々子に触れるし、切れない訳がないのよね…
 というかね、これだけみんなナイフ使ってると、用意された朱肉は一体何なのよって思うじゃない!誰でもいいから活用してよ!そうしないと
私一人朱肉なんて格好悪過ぎじゃない!いや、格好悪いだけならいくらでもするんだけど、みんな使ってないのに私だけなんて絶対無理!でも
ナイフで自分から進んで怪我するなんてもっとイヤ!血なんて出たら泣きたいくらい痛いじゃない!私は人の血を見るのが駄目なのよ!(※吸血鬼です)
 もういい、誰でもいいから…誰でもいいから朱肉を…次の人は幽香か。もういい、幽香!そのナイフをへし折ってしまいなさい!
いつもみたいに上から目線で『永遠の安心感を与えてやろう!』とか言うといいわ!お願いしますお願いしますお願いしますお願いします。

「…博麗霊夢、私は他者に縛られるのが嫌いだわ。他者の敷いたルールの上だけの自由なんて論外よ」
「知ってるわよ。けど、今のアンタはそこを折り曲げて譲歩する用意がある。だからこの場に来てるんでしょう?」
「分かってるじゃない。私は『ある条件』さえ付けてもらえるなら、このふざけたルールに同意してあげても構わないわ」
「いいわ、言ってみなさい。正直、今日の集まりの一番の目的は風見幽香を抑える為にあるんだもの。
アンタがそれで納得してくれるなら、少しぐらい融通効かせるつもりよ」
「フフッ、良い心がけね。私が望む条件は、ある人物相手のときには、そのスペルカードルールを適用しないこと。
来るべき日、来るべき時が訪れたときに、私がたった一人の相手とスペルカードルール抜きで全力で戦うことを認めること。それだけよ」
「はあ?アンタ、まだ誰かと殺し合いがしたい訳?大体、アンタの眼鏡に叶うような奴なんて…ッ、そういうこと」
「殺すつもりはないし、今日明日に行うつもりもないわ。ただ、風見幽香が負けっぱなしという訳にもいかないでしょう?
世界にも、運命にも打ち勝つ存在…それが成長した時、どのようになるのか。そこの伊吹鬼ではないけれど、確かに興味があるわ。
もし、アレが成長した時、私の胸を震えさせるような妖怪になったときは…」
「へえ、中々分かってきたじゃないか、風見幽香」
「…結局貴女と同じ答えに辿り着いたというのが癪だけれど」
「そう言うなよ。あれだけの在り方を見せてくれる相手に期待するなというのが酷ってもんさね」

 …あれ、幽香にナイフへし折ってくれるの願ってたら、何か捺印するところに幽香だけじゃなくて萃香までいる。
 しかも、霊夢を含めた三人の視線がちらちらとこちらに向けられてる気がするし。も、もしかしてばれた!?『こいつ絶対
ナイフにびびってるよ』ってみんなで話してるの!?き、気付いてくれたなら、ナイフをしまってくれても良いんだからね!
 やがて三人の視線は私から離れ、幽香が颯爽と捺印を済ませてしまう。無論ナイフでね!分かってたわよ畜生!幽香が朱肉使うイメージなんて
微塵もなかったもん!幽香が『ナイフで痛いの嫌だから朱肉で』なんて言ったら、幽香の前でスキキライ花占いやってやるわ!
 幽香が終わって、次はその場に既に経ってる萃香なんだけど、萃香がナイフを使わないとか…ないよねえ。

「博麗霊夢、私の条件も風見幽香と同じで頼むよ。まあ、私は以前から公言してるから知ってるとは思うけどさ」
「はあ…本当に強くなってからにしてくれるのね?間違っても今のアイツを襲ったりしてくれないでよ?そんなことをしたら、私がアンタを潰すわよ」
「分かってるって。まあ、千年単位の未来の話さ、安心しなよ。それに私も生き死にの殺し合いまでやるつもりはないし。
さて、それじゃ誓いの証だが…悪いけど私はナイフは使わないよ」
「マジでっ!?」
「ん?どうかしたのかい、レミリア」
「な、何でもない何でもない!」

 す、す、す、す、萃香キターーーーーーーー!!!え、嘘、本当に萃香ナイフ使わないの!?
 あの自分が傷つくのなんて微塵も躊躇わない萃香がまさかの救世主だったなんて!神が、神がここにいた!
 他の誰でもない萃香がナイフを使わずに朱肉を使うんだもの!これで私は誰に何も言われることなく、安心して朱肉が使えるわ!
 萃香、貴女は何処まで私にとって頼れるナイスガールなの。本当に萃香が男だったら結婚しても良い。個人的女の子じゃなかったら土下座して
交際申し込むランキング霊夢と並んで同率トップよ。萃香ー!私よー!結婚してくれー!
 そんな風に心の中で狂喜乱舞してると、萃香はおもむろに親指を口元に持って行って、思いっきり指の腹を噛んだ。え、何してるの、この娘。

「私の身体はそんなか細いナイフじゃ傷一つ付きやしないからね。私の血が見たいなら、髭切の一つでも用意して貰わないと」
「頑丈過ぎる身体っていうのも考えものね。それじゃここに捺印貰えるかしら」
「了解っと…これでいいかい?」

 そう言って、萃香は口元から手を離して、書面に捺印をする。
 ああ、そういうこと、萃香、自分の親指を噛み切って血を出したのね。…もっと痛いわ!!!
 大体、私の歯じゃ指どころか牛筋すら噛み切ることすら難しいというのに。ああ、そういえば吸血鬼の誇りと謳われる自慢の牙も
以前霊夢に『お前のは牙じゃねえ』って言われたっけ…確かに私の犬歯は人間のちびっこのそれと変わらないけどね…泣きたくなってきた。
 いや、もう現実逃避してる場合じゃない。萃香がナイフ以上に恐ろしい手を使って捺印を行った以上、私にはもう紫しか残されていない訳で。
 私は全ての想いを込めて紫の方をじっと見つめると、紫と視線が合う。おおお!紫、私よ!お願いだからナイフは使わないで!作戦名は『いのちをだいじに』よ!
貴女なら、紅霧異変から沢山の誤解を生みつつも最後には友として歩むことが出来た貴女なら私の想いを汲みとってくれる筈!いや、そんな
世界最高峰美人スマイルなんて要らないから!貴女はただナイフを使わない道を選んでくれればいいのよ!一番良い朱肉を頼む!
 必死に私が紫に最後の念を向けていると、霊夢がそんな私に向かって言葉を紡ぐ。紫じゃなくて何故か私に。

「何してるのよ、レミリア。早く来なさいよ、アンタが最後よ」
「うぇ!?なんで私!?ゆ、紫は!?まだ紫が押してないじゃない!」
「紫は見届け人よ。八雲の管理者の立場は藍が引き継いでいるって藍も言ったじゃない。藍が同意した時点で紫も同意なのよ。
まあ、私からすれば面倒事を全部藍に押し付けて自分は早々に楽隠居を決め込んだだけのようにも見えるけどね」
「それは心外ですわ。大きな災厄も終焉を迎え、幻想郷には変化の時代が訪れていると感じた為よ。
これからの幻想郷を創るのは私達ではなく、新たな力と想いを抱く次なる世界の申し子達。なればこそ、私も喜んでこの身を引こうと言うもの」
「また適当なことを…まあ、いいけどね。藍の優秀さは幻想郷で二番目に知ってるつもりだし」
「あら、それでは藍の優秀さを一番知る者は誰かしら?」
「抜かしなさい、ペテン妖怪。それよりレミリア、そういう訳だからさっさとこっちに来なさい」

 いや、どういう訳よ畜生。結局分かったのは紫が『八雲は永遠に不滅です』宣言で引退して最後の希望が失われたことくらいじゃない。
 霊夢に言われるままに、私はすんごーーーーーーく重い足を引きずって書面のところまで歩いていく。ううう、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。痛いのなんて嫌だ。
 いざ書面の前に立つと、紙の上に並ぶはみんなの捺印。真ん中が空白で、その中心から円を書くようにみんな印を押してある。名前は…あ、既に書いてあるのね。
 つまり、これは最後に私が己が血液を持って捺印をすることで、画竜点睛を埋めると。…もういいやん、こんなん押さんでもウチ弾幕使えへんやんか…
 いつまでもダラダラしてると、霊夢からお叱りが飛ぶので、私は意を決して台に置かれているナイフを握る。怖っ!刃物怖っ!いかんいかん、あぶないあぶない…これを
あれですか、私の親指にあてて奔らせろと。うん、それ無理。そんな怖くて痛いことビビりでヘタレの私が出来るかあああ!!!
 や、やばい、本気でやりたくない。そんな痛い思いも怖い思いも絶対したくない。もう恐怖と圧迫感で手が震えてる。ナイフ持ってる手が本気で震えてるから。
 早く指を切らなくちゃという焦燥感と痛いのは絶対嫌だという恐怖感が私の心をどうしようもなく追いたてていく。うううううう…ほ、本当に無理。
何か視界が滲んできた…無様な醜態晒してるでしょ?紅魔館の主なんだぜ、これ…も、もう駄目。本当に本当に本当に本当に本当にここまで頑張ってくれた
みんなには申し訳ないんだけど、私にはやっぱり無理。半ベソモード入ってるし、これ以上この時間が続くとマジ泣きするから。絶対マジ泣きタイム入るから。

 限界を悟り、私は霊夢に涙目の視線を送る。もういい、霊夢に怒られてもいいから正直にナイフ怖いって言おう。私が土下座覚悟で霊夢に視線を向けると、
霊夢超絶不機嫌顔。ひぃぃ!!やっぱり怒ってる!!これはあれよね、『お前早く切れよ。ナ・イ・フ!ナ・イ・フ!』って視線よね…終わった。
 そして、怒りが限界に達したのか、霊夢は私からナイフを取り上げて軽い拳骨一発。ごめんなさい!ヘタレ吸血鬼で本当にごめんなさい!親に怒られる
子供のようにしゅんとする私に、霊夢がどんな毒を吐いてくるか怯えていると、そんな訳は全然無かった訳で。

「何無理してナイフなんか使おうとしてんのよ馬鹿。アンタはこっちの朱肉を使うの」
「え…い、いいの?でも、みんなナイフ使ってるのに、私だけ…」
「他の連中はいいのよ。でもアンタは駄目」
「な、なんで?」
「そんなの…っ、理由なんかどうでもいいからさっさと朱肉使ってサインしなさい!この馬鹿レミリア!」
「わ、分かった!分かりました!」

 霊夢に急かされ、私は慌てて朱肉の蓋を開ける。
 …でも、本当に助かった。馬鹿馬鹿言われたけど、霊夢のおかげでナイフを使わずにこの場を済ませることが出来た。
 どうしよう、この胸に湧き上がる霊夢への感謝の気持ちをどう表現すればいいの。霊夢、貴女が神か。貴女はいつだって私の英雄なのね。
 …うん、決めた。今日は霊夢を紅魔館にお誘いしよう。そして感謝の気持ちを沢山沢山カタチにして精一杯返していこう。
 霊夢にお泊りして貰って、私が最近少しずつ増やしてる料理のレパートリーを堪能してもらって、私の作ったお菓子と共に紅茶を堪能して貰って、それでそれで…
 そんなイメージを膨らませながら、私は大きな朱肉に手を近づける。本当に大きい朱肉ね、私の掌が余裕で収まるじゃない。そうして私は今日集まったメンバー最後の捺印を済ませ…

























 ~side 妖夢~



「暇だなあ…早く霊夢達終わらないかな」
「魔理沙、さっきからそればっかりだね。そんなに時間は掛からないって霊夢も言ってたじゃない」

 今日何度目か分からない魔理沙の呟きに私は苦笑しながら言葉を返す。
 幽々子様やレミリアさん達が霊夢に連れられて三十分が過ぎる程度だろうか。話し合いが終わるまで、
私達は博麗神社の客間で各々の時間を過ごしていた。その中で私はというと、いつものように魔理沙や咲夜、鈴仙と一緒にお話ししたり。
 そんな中での先ほどの魔理沙の発言だったんだけど、私以外の二人は魔理沙の言葉に無反応。それが気に食わなかったのか、魔理沙は
咲夜と鈴仙の二人に言葉を紡ぐ。

「なー、妖夢以外の二人もそう思うだろ?早くみんなで何処かに遊びに行きたいと思うよな?」
「思うよなって、私は姫様の付き添いで来てるんだからそういう訳にはいかないわよ」
「右に同じね。私も母様と一緒に来てるのだから」
「ええー…というか、レミリアも輝夜も誘えば『おk、把握』とか言って一緒に遊びに行くタイプじゃんか。
だから今のうちに何処に遊びに行くか決めておこうじゃないか。私的には、紅魔館の湖の主釣りリベンジが…」
「あれはもういいよ…」

 魔理沙の提案を、私は即座に拒否する。
 というか、何よりもレミリアさんが拒絶すると思う。あの日以来、もう二度と魚釣りなんかしないって言ってたし。
 何処に遊びに行くか思案してる魔理沙を余所に、ふと鈴仙がぽつりと言葉を紡いだ。

「それにしても…こうして何処かに遊びに行くなんて話をする未来、風見幽香と戦ってるときは微塵も想像出来なかったわ」
「そうなのか?そりゃ勿体ないな。私はあの時は終わった後の宴会のことで頭が一杯だったが」
「どうすればそんなにポジティブになれるのよ…貴女本当に人間?」
「失礼だな。私は勝利を微塵も疑ってなかっただけさ。
絶対に勝つと決まっているんだから、考えるのは楽しい未来のことだけでいいだろ?違うか?」
「…本当、貴女らしいわ魔理沙。でも、貴女のそういう考えは最近嫌いではないと思ってる」
「おお?咲夜に褒められた気がするんだが、こりゃ珍しいな。
下手をすれば明日は豪雪かもしれん。妖夢、頼むから幻想郷から春を奪ってくれるなよ?」
「奪わないよっ!でも、私も魔理沙のそういう考え、好きだよ。そういうところだけは素直に尊敬してるから」
「けちけちせずに私の全てをリスペクトしてくれてもいいんだぜ?」

 笑って話す魔理沙だけど、彼女のこういう気質に私や咲夜は何度も救われてる。
 レミリアさんの決して折れない心、魔理沙の未来を疑わない在り方。それらはきっと、私達のような存在がどうしようもなく欲するものだから。
 …まあ、普段の魔理沙は本当にあれだから、全てを尊敬することは出来ないんだけど。私と同意見なのか、咲夜も聞かなかったふりをしてるし。
 そんな私達に、鈴仙は不思議そうな視線を送りながらも、再び話を続ける。

「とりあえず貴女のようにお気楽極楽思考が出来なかった私は、今ある平穏を幸せに感じているわよ」
「そりゃ鍛え方が足りないな、見当鈴仙。もしくはかなみ・優曇華院・イナバ。
私達の新メンバーとして、もっと人生を楽観して図太く生きようじゃないか」
「誰よそれ…まあ、貴女達と一緒に居るのは嫌いじゃないからね。これからも色々と学ばせて貰うわよ」
「うむうむ、日々学んで精進するといいさ」
「…いや、何で魔理沙はそんなに上から目線なのか私には全然分かんないんだけれど…」
「気にしたら負けよ、妖夢。魔理沙はいつもこんな感じでしょ」

 咲夜の冷静な突っ込みを否定できない自分。
 でも、鈴仙が私達の中に自分から入ろうとしてくれているのは嬉しく思う。魔理沙に強制的に参加させられた
被害者なのかと最初は思ったけれど、話してみてそうじゃないって分かったしね。鈴仙と友達になれたことは本当に嬉しいと思ってる。
 鈴仙も私や咲夜と同じく、主を持つ立場だし、色々相談に乗ったり乗って貰ったり出来ると思うから。
 再び何気ない話題で雑談に興じていると、相も変わらず魔理沙が唐突に突飛な提案をする。

「なあ、ちょっとだけ話し合いを覗きにいかないか?何か終わる気配無いし」
「えええ…駄目だよ、魔理沙。あれはとても大切な話し合いの場なんだから、邪魔しちゃ駄目だって」
「大切って、別に弾幕勝負ルールをお願いしてるだけじゃないか。霊夢の場合、お願いなんて可愛らしい表現は似合わないけどさ。
大丈夫、大丈夫。ちょこっとだけ覗くだけで、絶対に邪魔したりしないからさ。それに私だって幻想郷に生きる一人の人間なんだぜ?
幻想郷に生きて、弾幕勝負を行っている以上、あの場に参加する資格はあると思う」
「う、う~ん…そう強く言われると、なんだかそんな気がしてきた…で、でもでも」
「固いなあ、妖夢は。本当にチラッと覗くだけだって。それに妖夢も興味があるだろ?
あれだけの連中が集まって真剣な場なんて、もう二度とないかもしれないぜ?連中の『本気』って奴を見てみたいと思わないか?」

 魔理沙の誘いに私は強く反対を通せない。だ、だって気になるのは確かだし…この会議に集まった人は誰も彼もが天蓋の存在で。
 それがどれだけ荘厳で神聖な張りつめた世界が展開されているのか、気にならないと言ったら嘘だ。魔理沙の言う通り、覗きたい気持ちは確かにある。
 でも、それを覗きなんて行為で汚してしまうと考えると…うんうん悩んでる私に、予想外の人物から後押しの言葉をかけられた。

「いいんじゃないかしら。邪魔する訳でも無し、覗くだけでしょう?」
「おお、まさか咲夜からアシストが来るとは。さっきといい、どうしたんだ?
真面目一徹レミリア絶対至上主義のお前がそんな発言をするなんて」
「その訳の分からない絶対至上主義はともかく…貴女達とこれだけ一緒に居れば、考え方だって変わるわよ。
オンとオフの切り替え方も勉強だってパチュリー様やフラン様、美鈴にも散々言われてるしね」
「おお、咲夜が今まで以上に瀟洒だ…何という洗練された発言、これでまた咲夜と妖夢に大きな差が」
「な、何で私と咲夜に差が出てるの!?私何時の間に咲夜に置いて行かれたの!?」
「そういう訳で咲夜の許可も出たし遠慮なく行くとするか。咲夜と鈴仙はどうする?妖夢は強制な」
「私は遠慮しておくわ。戻ってきた母様から紅魔館のみんなと一緒に話を聞くことにしているから」
「私もパス。もしそんなことして見つかったら、後で姫様になんて茶化されるか分かったものじゃないし」
「私は…って、何で私だけ強制なの!?私にも二人のように訊いてよ!?」
「大きな音は立てるなよ!さあ、ミッションスタートだ!」

 魔理沙に引きずられるように、結局私は押し切られて覗きに参加することに。
 うう、本当に良いのかなあ…でも、興味があるのも確かだけど。確かなんだけど…うううう…本当に少しだけ覗いて戻ろう。
 話し合いが行われている部屋に近づくにつれ、私の心臓の音は少しずつ速度を上げていく。どきどきしてきたな…あれだけの
人達が集まる場だもの、どれだけ厳かな中で行われているんだろう。集団を纏める者やオンリーワンで世界を変えられる者…そんな方が
一同に集い真剣に話し合う場だもの、いつもの宴会とは絶対に空気が違うんだろうな。
 やがて、話し合いが行われている部屋の前に辿り着き、魔理沙はアイコンタクトで扉を開く旨を私に伝えてくる。私は息を飲み込み、
魔理沙に対してこくりと頷く。そして、そっと開かれる扉の向こうに私達は視線を向ける。この扉の向こうには、一体どれだけの緊迫した空間が――





「何やってんのよアホレミリアーーー!!!!!!何でみんなの車連判のど真ん中に手形なんか付けてるのよ!?」
「わ、ワザとじゃない!ワザとじゃないのよ!!だってみんなが綺麗に捺印を円環状に押してて、私の捺印するスペースが真ん中にしかなかったんだもん!」
「私が言ってるのは何で拇印じゃなくて手形を付けたのかって訊いてんのよ!!アンタこの契約書を関取のサイン手形にでもするつもり!?」
「間違っただけだってばああああ!!!あーん、本当にワザとじゃないのにいいいい!!!!」





 ――微塵も広がっていなかった。部屋の向こうに広がっていた光景は、怒り狂う霊夢としゃがみ込んで許しを乞うレミリアさん。
 そして、それを見て楽しげに笑う方々、呆れる方々。最早、この場にお酒があったら宴会場と言われても違和感のない『いつもの』空気。
 私と魔理沙は一度視線を見合わせ、何も言わずにそっと頷き合い、互いに次に取るべき行動へと移った。
 魔理沙は霊夢を宥めに、そして私は咲夜達の元へ向かい、たった一言を皆に告げるのだ。『宴会、もう始めるみたいです』と。






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