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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] エピローグ ~うそっこおぜうさま~
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/02 23:11
 晴れ渡る空の下、屋台を経営している少女の朝はそんなに早くはなかったりする。
 彼女は元より夜行性で、本格的に行動するのは日が暮れてからである。そんな訳で、少女は昼過ぎに起き、そこから夜の屋台に
向けて仕込やら何やらの準備を行うのだが、今日はどうやらいつものようにという訳にはいかないらしい。
 その少女――ミスティアの登場を待っていたかのように、屋台の椅子に座りニコニコと嬉しそうな笑顔を零す少女がいたからだ。
 だらしない程に満面の笑みを零す少女――リグルに、ミスティアは大きくため息をつきながら、面倒そうに話しかける。

「で…何で貴女が開店前の屋台に堂々と座ってくれちゃってるのよ、リグル」
「いや、だって一秒一刻でも早くミスティアに話したかったんだもの!」
「話したかったって、何を?」
「勿論、私の語る武勇伝を聞いたチルノやルーミアの反応だよ!
幻想郷最強クラスの妖怪、風見幽香を相手に私が千切っては投げ千切っては投げ…」
「はぁ…貴女が一体いつあんな化け物を千切ったり投げたりしたっていうのよ。誇張どころかただの法螺話じゃない」
「いいの!とにかく大事なところは、私が風見幽香を倒したメンバーの一員だったってところなんだから!
ふふふ、これでまた幻想郷における虫の地位向上が確約されてしまったわ!ミスティア、サイン貰うなら今のうちだよ?」
「サインはいいから、暇なら仕込みを手伝いなさいよ。大体、風見幽香を倒したのは――」

 そこまで言葉を紡ぎ、ミスティアは友人のことを思い出す。
 そして想像の中で必死に土下座をし続ける友人に吹き出してしまう。そうだ、あの娘は『自分が風見幽香を倒した』なんて決して認めないだろう。
 だから、リグルの話すように、『みんなの勝利』ってことの方が良いのかもしれないわね。そんな風に思いながら、ミスティアは屋台の準備を進めていく。

「ねーねー、ミスティアは自慢しないの?みんなに格好良いって言われるよ?」
「いいのよ、私は。良い女は人に自慢なんかしないものなの。それに…」
「それに?」
「レミリアの為にみんなと一緒に戦えたこと、それだけで私には十分自慢になってるわ」
「ああ、何その一人だけ綺麗にまとめようとして!」
「だって私は別に自分の強さとかどーでもいいしー。あ、それとあの戦いのおかげで常連さんが沢山増えて嬉しいわね!
いやあ、やっぱり持つべきものは友というか、人脈というか。さあ、今夜も人が沢山来るだろうから、じゃんじゃん準備しないとねー!」
「あーん、これじゃ何だか私が馬鹿みたいじゃない!くぅ…こうなったら屋台に『風見幽香を倒した人々が集まる伝説の店』って落書きして…」
「やってみなさいよ?そのかわり、今日の店のメニューに昆虫の踊り食いが追加されることを覚悟しなさいね」
「酷っ!虫差別反対ー!」
「…あ、そういえばレミリアといえば、この前レミリアの友達が来てさ…」

 ぎゃあぎゃあと言いあいながら、少女達の騒がしくも穏やかな日常は続いていく。
 風見幽香がレミリアに敗れてから二週間――それだけの優しい時間が幻想郷を流れていた。


















「風見幽香は敗北し、幻想郷の平穏は戻り、以前と変わらぬ日常へ――めでたしめでたし、ね」

 お茶を飲みながら、他人事のように言う紫に、藍は他人を射殺せそうな程に強烈な視線を思いっきりぶつける。
 だが、そんな視線に動じるような人物ではないことは百も承知。その光景に、萃香も幽々子も笑うだけ。
 やがて心折れた藍は、大きく肩で息を吐いて、恨みを綴るように言葉を並べていく。

「その日常の為に、今私がどれだけ駆け回っているかご存知ですか。
幻想郷と外界とのつながりを強制的に切断したことへの各所への説明、謝罪。幻想郷の賢者達への事情説明、事後報告。
ところどころに解れを生じさせた結界の修復、その全てを私が睡眠も取らずに奔走しているんですけれど」
「それは仕方ないわ。だって今は貴女が新しい『八雲の管理者』なのだもの。頑張ってね、藍。八雲の名に恥じぬ働き、期待しているわ」
「頑張ってね、ではありません。私が言いたいのは、少しくらい助力して下さっても良いのではないかと言いたいのです」
「だって私、力の大部分を失っちゃったから、戦闘ならともかく結界関係に関しては唯の足手まといでしょう?
ましてや立場を失った私が、挨拶回りに言ったところで意味も無し。私の出来ることは、後継者の活躍を優しく見守ることくらいだもの」
「…お願いですから一刻一秒でも早く力を取り戻してください。本当に一人では限界なんです、無理です、本気で過労死します」
「そうねえ…それでは、私が直々に橙を指導してあげようかしら。あの娘も八雲を冠するに値するレベルまでは育ててあげないといけないしね」
「…つまり、ご自分で働くつもりは更々ないと」
「働くわよ、力を完全に取り戻したら働くから」
「それは何時になるんですか。明日ですか一週間後ですか一ヶ月後ですか一年後とか言ったら本気でぶち殺します」
「ちょ、ちょっと藍、目が怖い、怖いから」

 詰め寄る藍に、紫は落ち着くように言い聞かせながら後ずさる。
 そんな二人を見ながら、萃香は酒を喉に通して楽しげに言葉を弾ませる。

「ま、遅かれ早かれ紫からアンタに代替わりしないといけなかったんだ。
紫のサボり癖はともかく、良い機会じゃないか。藍なら紫以上に立派な管理者になれるさ」
「そうそう、紫は仕事を本当に気が乗らないとしないからね」
「…いや、他の人ならともかく、萃香と幽々子に言われるのは心外だわ」
「とにかく今は紫を休ませてあげなよ。何だかんだ言って、今回の件で誰より働いたのは紫なんだからさ」
「分かっています…紫様、一刻も早く養生して力を取り戻して下さい」
「大丈夫よ、そんなに長い時間はかからないから。レミリアのおかげで、私の命もこうして在る訳だしね」

 死の可能性を大きく孕んでいた紫にそう言われてしまっては、藍に反論など出来る筈もない。
 渋々という感じで、藍は紫に文句を言うのを止める。
 穏やかな静寂、それを壊すように口を開いたのは萃香。酒を傾けながら、言葉を紡ぐ。

「しかし、風見幽香か…本当にとんでもない奴だったね。世の中にはまだあれだけの化け物が存在したのかい。
今回は奴が『別のもの』に固執してくれたおかげで何とか出来たが、もし最初から幻想郷の破壊が目的だったらヤバかったんじゃないか?」
「そうね、間違いなく危険だったわね。風見幽香が私達を試すような真似をせず、最初から異界の力の全てを持って
私達を蹂躙していたなら、勝利は間違いなく風見幽香のモノだった筈よ。けれど、風見幽香はその選択を選ばなかった。その理由は…貴女と同じでしょ?」
「そうだね…風見幽香は私と同じ、レミリアに自分の追い求めるモノを見ていた。その結果が今の敗北さ。
この世界を壊すだけでは得られない何かを追いかけ続けていたんだろう。その答えを風見幽香が得たのかどうかは分からないけど…ね」
「答えは得たと私は思うわよ?だからこそ、最後の最後で風見幽香はレミリアに力を貸し、異界の力を放棄した…違って?」
「幽々子の言う通りね。恐らく風見幽香は自分なりの答えを得たのでしょう…故に、風見幽香が幻想郷を脅かすことは二度とないでしょうね」
「楽観するね、紫」
「楽観するわ、だって風見幽香が何かしようとしたら、涙目で止めてくれる英雄がこの世界には居るんですもの」
「にゃはは、違いない」

 快闊と笑う萃香に同調して、その場の誰もが笑みを零す。
 そんな中、そういえばと、幽々子はふと浮かんだ疑問を二人に尋ねかける。

「そういえば、レミリアは風見幽香との戦闘中に強大な妖気を放出してたわよね?
結局、全てがブラフだったのだけれど…よくもまあ、あんな土壇場で風見幽香を騙し切れたわね」
「フフッ、それが面白いところなのよ、幽々子。レミリアは風見幽香をトラップにひっかける為に、かなり用意周到な準備を重ねていたわ。
レミリアは記憶を取り戻し、自身の力の使い方を完全に思い出した。しかし、己から湧きあがる力の大部分はフランドールへと流れており、
当然のことながら風見幽香を倒せるよな力は残っていない。そこであの娘は記憶を取り戻してから『三度』だけ力を使用したの」
「三度?」
「ええ…一度は記憶を取り戻してからすぐに。妖力を始動させ、あの娘は『今の自分がどれだけの力を行使できるのか』を試していた。
そして自分が幽香を打倒する為の力を持たないと知るや否や、すぐに己の力を風見幽香の隙を生みだす為だけに利用することを決めたわ。
風見幽香がレミリアのことを過大評価していることをレミリアは知っていた。だからこそ、自分を強大に見せることで風見幽香の注意を一身に引きつけた。
二度目の解放は、幽香の前に現れたとき。自身の力を最大限に薄く引き延ばして風船のように膨らませ、強大な力を演出した。その姿に風見幽香は勘違いを強めてしまった。
最後は説明せずとも分かるでしょう?妹に託された神槍にどうようのハッタリの力を付加することにより、『この一手こそ奥の手』であると誤認させた。
フフッ…あの娘は『出来ることをやっただけ』と言うけれど、これは常人には決して出来ぬ判断と行動よ。実に見事な手際だったわ」
「成程…でも、レミリアの魔力を巨大に見せる力、それをどうして幽香は見抜けなかったのかしら。魔力を薄く引き延ばしただけなら、中身が
何も詰まっていないことに気づけたのではないかしら?」
「何を言っているんだい、西行寺の。中身なら沢山詰まってるじゃないか」

 幽々子の疑問に、萃香は笑って言葉を紡ぐ。
 萃香の言葉、その言葉には何処までも力が込められていた。当然だ、何故ならレミリアの生みだしたあの力を最初に味わったのは
風見幽香などではない。レミリアは記憶が戻る以前にも、同じ方法で運命を打倒してみせたのだ。伊吹鬼という最強の鬼を相手に、その力で。

「レミリアの力を風見幽香がどうして見抜けなかったのか、それは実に簡単だ。
レミリアの力の中身は決して空っぽなんかじゃない。レミリアの力には沢山の勇気と想いが詰まっていたのさ。
誰かを救いたいという願い、その為に自らを奮い立たせることの出来る強き心。それは何者にも決して負けない最強の力だ。
私達妖怪は肉体的なダメージよりも心の強さに左右される。そういう意味では、レミリアは最強なのさ――あの娘は小さな力に大きな勇気を乗せていたんだからね」
「そういうこと。綺麗事を言うつもりはないけれど、時に想いはどんな強大な力をも乗り越えて奇跡を生む。それが幻想――それが私達の世界だもの」
「ふふっ、分かりましたわ。本当、レミリアは私達に幾度もの奇跡を見せてくれる。本当に楽しみよ、あの娘がこれからどんな道を歩んでいくのか」
「レミリアの未来…ね。私も実に楽しみよ。レミリアに施した細工、まだ本人には話していないけれど、そのことに気付いたとき、一体どんな反応を示すのか」
「んん?紫、アンタレミリアに何かやったのかい?」
「やったと言うより、これまでの頑張りに対するちょっとしたご褒美かしら?」

 楽しそうにクスクスと笑う紫に、萃香は勿体ぶるなと紫をせっつく。
 そして、紫はゆっくりと説明を始めていく。

「レミリアが過去に行った禁術、それは本来ならばレミリアの命の全てをフランドールに引き渡すことにより成功に至る魔術よ。
でも、その禁術は中途半端に成功してしまった。つまり、レミリアは命が助かる程度に妖力をフランドールに引き渡したということ。
それはあくまで一過性の魔術の筈、それなのにどうしてレミリアは未だに力を持たないのかしら?妖力なんて、時間と共に必ず回復する筈なのに」
「そう言われてみれば…確かにその通りね。すなわち、レミリアの身体には…」
「そう。レミリアの身体は依然としてフランドールと回路がつながったままだったのよ。
いつまでも妖気をフランドールに流入させていたから、レミリアは妖気を生み出せない。だからレミリアの体内には必要最小限の力しか存在しなかった。
その存在に治癒の最中に気づいてね…だから、私の力でその境界を断ち切ったのよ」
「おおおお!!つ、つまり紫、それはもしかしなくても!!」
「――ええ、レミリアの力は時間が経てば取り戻すことが出来るでしょうね。恐らくは数十年か、それくらいの時間を待てば以前の通りよ」
「――っ、紫!私は長年アンタと付き合ってきたが、今ほどアンタに感謝したことはないよ!
そうか!レミリアが力を取り戻すのかい!もう少し待てば今度は全力のレミリアと戦えるのかい!!」
「あらら…紫、それは萃香には教えない方が良かったのではないの?多分、レミリア、泣いて逃げ出すわよ?」
「ふふっ、遅かれ早かれ知る情報よ。そのうちレミリアも教えずとも知るでしょうしね。
フランドールにもうレミリアの妖力は必要ない。ただ、逆にあの娘はそれこそ一世界分の力を体内に貯め込んでしまったけれど」
「本当、興味が尽きない姉妹ね。楽しみね…紅の二翼が幻想郷の夜空を翔る時、一体どのような物語を生みだしてくれるのか」

 小躍りする萃香をよそに、二人はレミリア達の話題で盛り上がる。
 そんな中、ひとしきり喜び終えた萃香が、紫達に言葉を紡ぐ。

「ああ、そうだ、レミリアと言えば頼まれごとがあったんだったっけ」

 そして、ふと何かを思い出したように、萃香がごそごそと懐から一枚の手紙を取り出す。
 それは一体何かと尋ねかける面々に、萃香は楽しそうに告げた。

「――約束だったろ?レミリアと、私達との大事な約束事。全てが無事終わったら…ってね」
















 一面の花が咲き誇る太陽の畑。その場所に彼女、風見幽香は佇んでいた。

 レミリア達との激戦を終えて、幽香はこの場所でただ毎日を過ごしていた。
 何をするでもない、何をしている訳でもない。時間を費やすことだけが目的であるかのように、幽香はこの地に留まり続けている。
 だが、幽香は今の結果に満足していた。レミリアには勝てなかった、けれど、レミリアは自分の代わりに運命を打ち破ってくれた。
 それは少女が語ったなんともお粗末な論理。だけど、そんな前向き過ぎる考えを幽香は苦笑しつつも受け入れた。
 悪くない。自分の力では叶わなかったけれど、あの少女が全ての無念を晴らしてくれたのならば、悪くはないと。
 故に、幽香が二度と幻想郷に牙を突き立てることはない。彼女にはもうその理由がないから。
 何かを憎むことも、何かに捕らわれることもない。今の幽香は何処までも自由で、何処までも空白だった。
 
 そんな幽香のもとに、一人の少女が突然訪れる。黒き翼をはためかせ、幽香の前で呆れるような視線を向けて舞い降りる。
 その少女――射命丸文は、大袈裟に肩を竦めながら幽香に言葉を紡ぐ。

「やっと見つけたと思ったら、こんな人気のない場所にいたのね。本当、人に面倒かけて何処までも迷惑な女ね」
「別に探してくれと望んだ訳でもないのに、随分な言われようね。殺されたいのかしら、射命丸文」
「止めておきなさい。今の毒気抜かれた貴女じゃ、私は殺せっこないでしょ」
「…それで、何の用?心配せずとも、私はもう何もしないわよ。無論、レミリアにも手出しは…」

 幽香の言葉はそこで遮られることになる。
 文が空気を裂くように投げた何かを手で受け止めた為だ。投げつけられたモノが何かを確認すると、そこにあったのは手紙。
 真っ白な手紙に、子供っぽい字で『風見幽香様へ』と書かれた宛名。そして、封を止めるために貼られた蝙蝠印のシールのようなもの。
 怪訝そうに手紙を見つめる幽香に、文は気乗りしないとばかりに口を開く。

「招待状よ。レミリアから、貴女への」
「招待状…?」
「そう、パーティーの招待状。もうすぐレミリアの身体が完治して、フランドールも医者からOKサインが出そうだからね。
約束していたのよ。全てが終わったら、みんな無事に戻ってこれたら、盛大なお祝いをしようって。だから、その招待状」
「…貴女達、頭が狂ってるの?そのパーティーに私を呼んでどうするのよ。全ての元凶である私を」
「知らないわよ。文句ならレミリアに言って頂戴。ま、レミリアの気持ちもわからないでもないんだけどさ…」

 文の話を聞き、幽香は呆れを通り越して最早何の言葉も出てこない。
 他の誰でもなく幽香はレミリアやフランドールの命を奪おうとしたのだ。それなのにパーティーにお呼ばれとは一体どんな笑い話だ。
 話にならないとばかりに、幽香は受け取った招待状を破り捨てようと、その紙に手をかけたが――

「え?破るの?破るってことは不参加なの?ぷぷっ、逃げるんだ。貴女散々偉そうなことを言っておいて、レミリアから逃げるんだ?」
「…なんですって?」
「だって、レミリアから招待を受けておきながら辞退するっていうことは、つまりレミリアに会いたくないんでしょ?逃げるんでしょ?
うわ、格好悪…ださ、死んだほうがいいわよそれ。最強の妖怪ーとか誇り高き妖怪ーとか言っておいて、力を持たない小娘一人から逃げるんだ?
それはそれで面白いわね。リニューアルした文々。新聞の最初の記事は『チキン妖怪風見幽香!レミリアに怯えて逃げ惑う日々!』なんて良いかもしれないわね~」

 破り去ることが出来なかった。何故なら目の前で天狗の少女がこれでもかと幽香を煽り立ててくるのだ。
 トントンと幽香の周囲を回りながら、まるで『どんな気持ち?今どんな気持ち?』とでも問うようなウザさで幽香を馬鹿にしてくるのだ。
 やがて幽香は、手紙を破り捨てるのを諦め、息をついて招待状を懐へとしまう。それを確認して、文は笑みをこぼして幽香に声をかける。

「最初からそうしておけばいいのよ、ばーか。最も、記者の誇りとしてそんな三文記事なんて書くつもりは毛頭ないけど」
「…パーティーには有難く参加させて貰うと伝えておきなさい。当日には最高の鴉料理をふるまってあげるとも、ね」
「おお、怖い怖い。まあ、参加してくれるなら何よりよ。
…レミリア、貴女に会いたがっているからね。もう一度幽香に会って、ちゃんとお礼を言うんだって。本当、こんな奴に礼なんて必要ないのに」

 文の毒舌を気にすることなく受け流し、幽香はレミリアの招待の意図を探…ろうとして止めた。
 どうせあの頭からっぽの小娘は何も考えていないに違いない。天狗の言うように、本当にただ純粋に自分に礼を言う為だけに招待したのだろう。
 そんな結論を導き、幽香は呆れてため息をつくしか出来なかった。そして、話題を変えるように、幽香は文に尋ねかける。

「それで、貴女はいつからレミリア専属の郵便配達員になったのかしら?妖怪の山に戻らなくて良いの?」
「あやや…まあ、お察しの通りよ。貴女を倒す為に、レミリアの力に…妖怪の山以外の妖怪に手を貸しちゃったからね。
当然、妖怪の山には私の事がばれて追放決定。そんな訳で今の私は妖怪の山ではなく、紅魔館に住んでる紅魔館天狗って訳」
「後先のことを考えずに行動するからそうなるのよ。天狗のくせに保身に走らないからよ、間抜け」
「うっさいわね…いいのよ、私は私の信じる道を行っただけ。そこに後悔も何もないわ。
ま、幸いレミリアの傍は毎日が楽しくて居心地が良いからね。しばらくはこのままでも構わないと考えているわ。新聞を書くにも困らないしね」
「一度飼われてしまえば、動物は二度と野生に戻れないわ。せいぜい気をつけることね」
「うぐ…そうなったら、そうなったでレミリアに一生養って貰うし」
「呆れた覚悟ね、この寄生虫天狗」
「吠えてなさい、この宿なし妖怪」

 恐ろしい程に酷い言葉で詰りあうものの、二人の心に互いに対する憎悪など存在しない。
 文の幽香に対する怒りも、幽香がレミリアへの敗北を認めたことで大分解消されている。ただ、根っこの部分でどうしても
そりが合わないのか、顔を突き合わせれば現在のように泥沼の口論が始まってしまうのだが。
 やがて一通り罵倒してすっきりしたのか、文は身体を大空に翻し、最後に幽香に釘を刺しておく。

「それじゃ私は帰るけど…当日逃げるなよ?」
「誰が。下らぬ心配をする暇があるのなら、雪だるま式に増え続けるレミリアへの借りを返す算段でも立て始めたら?この居候」
「あが…す、少なくとも萃香様よりは働いてるわ!く…風見幽香、やっぱり貴女は私の天敵よ!」

 捨て台詞を残し、文は勝負は預けたとばかりに空へと消えていった。
 そんな文に幽香は仕方ないとばかりに息をつきながら、幽香は自分を巻き込むこのおかしな世界に笑みを零す。
 あれほどまでに憎んでいた世界。あれほどまでに消し去りたかった運命。けれど、今はそんな世界が運ぶ風が何故か心地よく感じる。
 一人の少女が運命を壊してくれた。一人の少女が奇跡を起こしてくれた。その結果生まれたこの未来を、幽香は嫌いではなかった。
 悪くない。それは風見幽香がようやく取り戻すことが出来た、運命から解放された日々。
 感謝しようとは思わない。けれど、結果は認めよう。自分を解放してくれたのは、他の誰でもなくレミリアなのだと。その事実だけを受け止めよう。
 そして胸を張って報告しよう。今は亡き大切な部下達に、情けない主の結末を語ろう。他力本願ではあったけれど――それでも願いは果たしたのだと。
 穏やかに微笑みながら、幽香はそっと言葉を紡ぐ。それはこの場に現れた人々に語りかけた言葉。

「鴉の次は死神と閻魔とは実に縁起の悪い。私を死に誘いにでも来たのかしら?」
「いんにゃ、四季様の得意科目はどちらかというとお説教…きゃん!」

 幽香の前に現れた人物達…四季映姫と小野塚小町に、幽香は少しも驚く様子もない。
 むしろ驚いたのは無駄口を叩こうとした刹那にお叱りを受けている小町の方かもしれない。
 そんな小町をおいて、映姫はこほんと小さく咳払いをした後に口を開く。

「風見幽香、今日は貴女に報告があって足を運びました」
「報告?ククッ、私の罪を裁きに来たの間違いではなくて?」
「貴女の罪を裁くのは、貴女が死んで後でのこと。それに罪を自覚しているのなら、償う道は今からでも遅くない」
「お説教をしに来たのなら帰りなさい。今の私は気分が良くてね、害するつもりなら容赦しないわよ」
「…先ほども言った通り、貴女に会いに来た理由は報告をする為です。
貴女が異界からこの世界に導いた異界の魂達、その全ての処遇が決まりました。
異界の魂ではありますが、魂に罪など在る筈もない。全てこちらで引き受け、他の魂達と同様に裁判にかけることにしました。
転生をするか成仏をするか、はたまた冥界にて待機となるかはまだ未定ですが…ね」
「…そう」
「これで貴女の世界の魂達は安息の時を迎えるでしょう。
貴女は罪科に囚われている妖怪ですが…今回の行動は善行に値する。貴女は幾万もの魂達を救ったのです」
「…私は自分が望むままに行動しただけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。そこに他人が価値をつけるなんて舐めた真似は許さない」

 つんけんと言い放つ幽香だが、彼女は自身の目的の一つが叶えられたことに安堵していた。
 この幻想郷に魂達を散布し導いたこと、その一番の理由はコレだった。迷える魂達、行き場を失った幽香の世界の住人達が、
今一度生を為すこと。この世界でもう一度やり直すこと。それが幽香の運命と対峙する以外の、もう一つの譲れぬ願いだった。
 誰かを救いたい訳ではない。ただ、許せなかった。自分同様、下らぬ運命如きに命運を左右された者達を放置することが。
 それはまるで運命の強大さを象徴するようで、己の無力さを突き付けられているようで。故に幽香は救うと決めた。この魂達に安らぎを。
 そんな幽香の心を知ってか、映姫はふっと笑みを零し、小町に口を開く。

「…帰りますよ、小町。私達の仕事は山ほど詰まっている、ましてや休みを取る為には仕事のペースを倍に引き上げなければいけません」
「うええ?レミリアのパーティーなら、仕事場に何も言わずに休んで参加しちゃえばいいじゃないですかって、あたたたたた!!!」
「小町、貴女が今異変で為したことは上司として咎めます。ですが、一人の貴女の友人としては心から貴女を誇りに思っています。
そんな私の心を踏みにじるような発言は控えなさい。今は只管仕事に励むこと、それが貴女に出来る役割よ」
「わかっ、分かりましたってば!頑張ります、誠心誠意仕事に励ませて頂きますってば!」

 耳を引っ張られながら、小町は必死に弁を並べ立てて何とか映姫に解放してもらう。
 何とか解放してもらった小町は、大袈裟に耳を撫でながら、先に歩いていく映姫の後ろをついていく。
 しかし、数歩歩いたところで足を止め、小町は後ろを振り返らぬまま、幽香に対して言葉を紡ぐ。

「良かったじゃないか、妖怪。確かにアンタの望む、阿修羅の生も充足の死も得られなかったのかもしれない。
けれど、こうしてアンタの望みは叶えられた。これは十分すぎるほどに喜んでいいことじゃないのかい?」
「死神如きが分かった風な口をきく。私の望みの一体何をお前が知っていると言うの」
「さて、ね。私は死に関係した仕事をしているから、ただ感じたままに口にするだけさ。
――風見幽香、アンタ、実は心の奥底で自分の敗北を望んでいたんだろ?誰かに打倒されることを、誰かに救われることを望んでいた。
アンタがその気になれば、この幻想郷でアンタに勝てる相手はいなかった筈なのに…頭の良いアンタが、お粗末な失態で敗北を喫した理由はそれしか考えられないがねえ」

 小町の問いに、幽香は言葉を返せない。その反応で十分だとばかりに、小町は再び足を進めてゆき、背後の幽香にひらひらと手を振って別れを告げた。
 二人が去って、太陽の畑に咲き誇る花々を見つめながら、幽香は己の心を振り返る。
 その気になれば、確かに勝てていた。レミリアがあの場面に訪れた時点で、己の全ての力を解放すればよかった。
 けれど、幽香はそれが出来なかった。運命に勝ちたいという条件も、あの時点でレミリアに対峙している点で満たしていた筈なのに。
 それなのに、幽香は時間を引き延ばした。最後の最後まで、幻想郷の住民達を試すように、戦い続け、その隙を突かれて敗北した。
 大妖怪の自惚れと言われてしまえばそれまでの話だが、幽香は幾度と天秤を一気に振り切るチャンスがあったのだ。けれど、その方法を
選ばなかった。レミリアの家族も、幽香はレミリアが現れるまで殺せなかった。結局これが何を意味するのか――その答えを導こうとしたときだ。

「――ちょっと貴女!一体誰に断ってこの場所に居座ってるのよ!ここは私のお気に入りの場所なのよ!?」

 風に流されるように耳に届いた言葉。それはどこか懐かしい響きが込められた声。
 閉じていた瞳を開き、幽香はそっと声の方向へ視線を向ける。そこには一人の小さな少女が腕を組んで立っていた。
 その少女に、幽香は一瞬驚きを示すが、やがて全てを理解したのか、くすりと微笑んで言葉を紡ぐ。

「あら?ここは誰かの土地という訳でもないでしょう?
それに私もこの場所を気に入っているの。そんな風に誰かに咎められる謂れなんてないわね」
「む…この場所を気に入るなんて、なかなか良いセンスをしてるわね。見る目あるじゃない。
だ・け・ど!ここは誰が何と言おうと私の場所なんだから、つべこべ言わずに出て行きなさい!」
「嫌だと言ったら?」

 首を小さく振って、幽香は過去を振り返るのを止める。もしもの未来、自分の心、そんなものは最早考えても何の意味も為さないから。
 運命の鎖から解放され、幽香は未来に生きることを選択した。愛した人々の分も、この世界で背負って生きることを決めた。
 今の彼女は真っ白なキャンパスだ。過去に積み重ねた力も技術も、今は未来という絵を描く為の道具に過ぎない。
 己に課せられた役割を終え、彼女に残されるはもう一人の自分の心残り。
 ――風見幽香は最強の妖怪。風見幽香は誰よりも誇り高き妖怪。
 そうだ。自分にはまだ目指すべき未来が在る。残された為すべきことがある。
 風見幽香は最強でなければならない。風見幽香は誰よりも誇り高く生きなければならない。優雅に、他者を圧倒する生き方を。
 自分の為すべきは風見幽香の生き様を他の者達に教えること。他の者達の心に刻みつけること。
 そして誇るのだ。今は亡き部下達に、今は亡きもう一人の私に、風見幽香は貴女達が誇るに値する妖怪であったと。

 だから、まず始めに目の前の少女に一から教えてあげないといけない。
 もう一度再会した私。もう一度高みを目指そうとする私。今度は自身に絶望しないように、今度は自身の未来を信じ続けられるように。
 そう、それはどこまでも強く。自分よりも、自分に打ち勝った吸血鬼の少女よりも、何処までも遠くに羽ばたけるように。
 幽香の言葉に、目の前の少女――緑髪で、強い意志を瞳に灯した妖怪の女の子は、力強く幽香に向けて宣誓した。


「どうしてもここに居たいのなら、仕方ないから私の部下にしてあげるわ!この私、最強の花妖怪――風見幽香のね!」


 二人の風見幽香が描き始める物語――それは何処までも真っ白なキャンパスが広がっていて。
 さあ、これから一体どのような未来を描いていこう。地に風に、幻想郷には予想もつかない希望の光が満ち溢れている。



















 早朝の永遠亭。その日は誰も彼もが忙しく、どたばたとあちらこちらに駆け巡る。
 その理由は、勿論お姫様に有り。本日開催される紅魔館でのパーティー、それは本当に久方ぶりのお祭り騒ぎ。
 だからこそ、面白きを大事にする姫様がとんでも発言をしてくれたのだ。曰く、折角のパーティーなのだからばっちり正装で決めないと、と。
 そういう訳で、今朝は誰も彼もが綺麗な衣装に大変身。輝夜は勿論のこと、永琳も鈴仙もてゐも例外なく和服美人に決まっている。
 ただ、そこに永遠亭までみんなを迎えにきた妹紅と慧音も巻き添えをくらって状況が更に面白おかしくなってしまう。
 特に妹紅が和服を着て、輝夜のテンションは最高潮だ。彼女を指さしてお腹を抱えて大笑いする始末である。

「あはははは!!何で似合ってるの!?なんで妹紅なのにそんなにも私の服が似合ってるの!?あはははははっ!!」
「笑うな!!一応これでも豪族の娘だったのよ、和服が似合って当たり前でしょ!?」
「やばい、妹紅がこんなに綺麗になるなんて、本当に最高よ!ちょっと妹紅、貴女私を笑い殺す気でしょう!?」
「だ、だから私は今更こんなの着たくなかったのよ!!もういい、脱ぐ!今すぐ脱ぐ!こんなの着るくらいなら裸で参加した方がマシよ!」
「まあまあ、落ち着け妹紅。輝夜は言い方こそアレだが、お前のことを褒めてくれてるんだから」
「何処が!?あれはただ私のことを良い笑い物にしてるだけじゃない!?」
「あー、もうおかし過ぎ!妹紅のあまりの綺麗さに涙が止まらないわよ!妹紅、これからはずっとその格好でいてよ!」
「~~!!泣かす!もう絶対泣かす!!マジ泣かす!!むしろ七回くらい泣かす!!」

 ぎゃあぎゃあと掴み合いを始めそうな程の大騒動に広がりつつある輝夜と妹紅のじゃれあいに、慧音も永琳も呆れるように息をつくだけ。
 一方てゐは心から満足そうに彼女達の騒乱を笑って観察している。面白きこそ彼女の正義なのだ。
 もう二人を止めることを諦めたのか、慧音は着なれぬ華やかな単衣を整えながら、永琳に言葉を紡ぐ。

「全く…今日は折角の目出度い日だというのに、この二人は少しも変わらないんだな」
「それも日常を取り戻した証拠と言われれば喜ぶべきなのかもしれないわね。
最も、輝夜は最初からこの未来を少しも疑っていなかったみたいだけれど」
「そうだな…情けない話だが、私は少し不安だった。それほどまでに風見幽香は恐ろしく強大な相手だった」
「そうね…けれど、終わってみれば幻想郷の平和は御覧の通り。レミリアには本当に感謝しているわ。
あの娘が頑張ったおかげで、私達の望む平穏がここに続いている」
「そんなセリフをレミリアに言うと、あの娘は絶対に嫌がると思うが。
これだけの奇跡を起こしておきながら、きっと申し訳なさそうにあの娘は自分の力じゃないと言うんだろうな」
「でしょうね。けれど、それもレミリアがみんなに好かれる魅力の一つでしょう?
私としては、もう少し自分に自信を持っても良いと思うけれど…まあ、そこは言わずにおきましょうか。
今はこの穏やかな日々が続くことを喜びましょう」
「…だな。私達は誰一人欠けずこの世界に存在している。それだけで十分過ぎる結果だ」

 今回の異変を振り返り、慧音と永琳は互いに笑顔を浮かべて微笑みあう。
 そして、慧音はふと永遠亭の主要人物が一人この場に欠けていることに気づき、永琳に尋ねかける。

「そういえば、鈴仙はどうしたんだ?あの娘もこの後、紅魔館に向かうんだろう?」
「フフッ、あの娘なら攫われちゃったわ」
「攫われた?誰に?」
「あの娘の新しい絆――この幻想郷で出来た、新しいお友達に」
「ああ、成程…連中なら、気が合うに違いない。それにしても嬉しそうだな、永琳」
「ええ、嬉しいわ。あの娘が私達以外の者と交わろうと一歩を踏み出している…それは本当に大きな一歩だから」
「連中は容赦が無いから、随分と厳しく鍛えられそうだな」
「それくらいでないと困るわ。鈴仙もいずれは私達を自分からリードしてくれるくらいに成長してもらわないとね」
「おーおー、お師匠様も随分と鈴仙ちゃんを買ってくれてるねえ」
「強くなって貰いたいのよ。鈴仙にも、咲夜にも…ね」

 そう言って優しく微笑む永琳に、てゐは『この親馬鹿』というような笑みを浮かべて笑うだけ。
 やがて、時間が近づいたのか、輝夜と妹紅は口論を止めて、一時休戦とばかりに互いに言葉を紡ぐ。

「妹紅を弄るのも飽きてきたし…そろそろ向かいましょうか。私達の王子様主催パーティーに」
「王子様って…どちらかというと、レミリアはお姫様役じゃないの?」
「あら、妹紅ったら本当に馬鹿ね。レミリアは誰よりも王子様よ、あんな素敵な英雄は他にいないわ。
それに、私というお姫様が存在するのに、お姫様は二人も要らないわ」
「えーえー、そうですね。アンタは何処までも世界で一番お姫様よ。
それじゃ、向かうとしましょうか。どんな顔してパーティーを開催するのか、あのお嬢様に期待して」
「賭けてみる?レミリアが一体どんな顔でパーティーを開くかを」
「馬鹿、どうせ答えは一緒でしょ。そんなの賭けにもならないわよ」

 輝夜と妹紅は互いに顔を見合わせ、少女を想像して互いに微笑みあう。
 レミリアがどんな顔をして自分達を迎えるのか、そんなものは予想するだけ無駄だろう。
 ――どんな困難をも乗り越えた私達の英雄は、いつだって誰より幸せに満ちた笑顔で私達を迎えてくれる筈だから。























 招待された人々は集い、盛大なお祭り騒ぎはここに始まりの合図を告げる。


 レミリアの挨拶を皮切りに、用意された飲み物、食べ物が次から次へと消費されて飲めや歌えやの大騒ぎ。
 会場に用意された手料理はレミリアや咲夜が作ったものから、各自が持ち寄ったものまで多種多様に揃えられ、
お酒に至ってはこの場の誰もが自分のとっておきのお酒を持ち寄る程の大きな宴。もしかしたら、この場に集まる人々が過去に一度も
経験したこと無いくらい、それほどまでに大きな宴かもしれない。
 その宴の会場の中で、アルコールを一気に煽る少女と、延々と説教を受け続ける少女がいた。博麗霊夢と十六夜咲夜である。

「だからね!事情は耳が痛くなるほどに聞いたけれど、私達に音沙汰無しってところがムカつくのよ!聞いてるのアンタ!?」
「聞いてるわよ、しっかり一言一句聞き逃さずこうして説教を受け入れているじゃない。今の私の何処に貴女から更なる叱りを受ける要素があるのかしら」
「そのムカつく態度が気に食わないっつってんのよ!レミリアは他の連中も言いたいことあるだろうから、解放してあげたけど
アンタはそう簡単に逃げられるとは思わないことね。そもそも、レミリアの記憶が失われたなら失われたで…」

 ガミガミと一方的に咲夜に叱りつける霊夢と、それを甘んじて受け入れる咲夜。
 そんな二人を見て、傍にいた妖夢は苦笑を浮かべながらも小声でアリスに尋ねかける。

「えっと…これ、止めなくていいの?」
「いいのよ、二人とも素直になれない照れ隠しなだけだから。
霊夢も咲夜も、こうして久しぶりに真正面から話が出来るのが嬉しいのよ。何だかんだいって、互いに認め合ってるものね」
「う~ん…互いに認め合ってるのは分かるけど、段々言葉がヒートアップしてきてるような…」
「だから私に黙ってたのが許せないっつってんでしょうがクソメイド!!」
「だからそのことは何度も謝罪しているでしょう?いい加減同じ説教をくどくどとしつこいのよ、単細胞巫女」

 熱を帯びてくる二人のディスカッションに、妖夢は『これも日常…なのかなあ』と首を傾げつつもとりあえず納得する。
 そして、手に持つお酒を少しずつ喉に通しながら、妖夢はしみじみと過去を振り返りながら口を開く。

「でも…本当に良かった。みんながこうしてまた集まれて、一緒にお祭り騒ぎが出来て…本当に、良かった」
「あら、この未来を実現したのはみんなの力、そして妖夢、貴女の力のおかげでもあるのよ?それを他人事のように言うのは…」
「うん、霊夢にまた怒られちゃうね。今回は私もちゃんと胸を張ってるよ。
私はちゃんとみんなの力になることが出来た…レミリアさんの未来を築く一振りの刀となることが出来た。その結果は、本当に誇らしいから」
「それが分かっているなら良いわ。この未来はみんなの力で築き上げた未来…幽香が取り戻そうとした私達の夢見た日常」
「アリス?」
「…なんでもないわ。それよりも妖夢、お酒が減ってるじゃない。注いであげるから」
「ありがとう、アリス。それじゃお言葉に甘えて…」

 妖夢が差し出した酒枡に、アリスはテーブルの上に置かれていたお酒を溢れぬように注いでいく。
 そして、並々と注がれたお酒を、妖夢が口まで運ぼうとしたその時だ。気を完全に緩めていた妖夢の背中に誰から抱きつき、驚く妖夢から
お酒をさっと受け取り、遠慮なく自分の口元に運んで流しこんでゆく。
 あー!という妖夢の声と、アリスの呆れるように冷たい視線。そんな二者の反応を気にすることなく、お酒泥棒の犯人――霧雨魔理沙は
注がれていたお酒を全て一気に飲み干した後で、二人に輝く笑顔で言葉を紡ぐ。

「いいお酒だ!うん、今日も元気だお酒が美味い!いやあ、妖夢、ご馳走様」
「魔理沙~…お酒が飲みたいなら、その辺に沢山あるでしょ?どうして私のお酒を飲むかなあ…」
「妖夢は実に馬鹿だな。人から注いで貰ったお酒を飲むのが美味しいんじゃないか!自分で注いだ酒なんかとは比べ物にならないんだぜ?」
「もう…言ってくれたら、お酒くらい私が幾らでも注ぐから…って、にゃー!?な、何で人の耳たぶ噛んでるの!?」
「いや、妖夢があまりに健気なことを言うもので虐めたくなった。ワザとやった、反省はしていない」
「あ、アリス助けてええ!魔理沙が、魔理沙が変だよ!」
「元からでしょ。それに妖夢、酔っ払いの相手をまともにしようとする貴女も悪いわ。こんなの適当にあしらっておけばいいの」
「酷っ!まあ、妖夢を弄り過ぎて嫌われるのも嫌だし、この辺にしておくか」

 妖夢から離れ、魔理沙は悪かった悪かったと軽く謝りながら、自分が飲んでしまった分のお酒を妖夢の酒枡に注ぎなおす。
 こういうアフターケアをきっちりする辺りが、魔理沙が破天荒ながら他人に嫌われない所以なのだろう。そんな憎めない魔理沙に、
妖夢は仕方ないとばかりに肩を落としながらも、魔理沙からしっかりとお酒を受け取る。
 突然割り込むように登場した魔理沙に、アリスは呆れるような視線を維持したまま少女に尋ねかける。

「それで、いきなり消えたと思ったら、今度は何処に行っていたの?」
「いや、本当はレミリアの奴でも引っ張ってこようかと思ってたんだが、さっきは霊夢に捕まってて、今は幽香の奴に捕まっててな。
それで代わりと言っちゃなんだが、ここで私達『魔理沙さんと愉快な仲間達』チームに新たなニューフェイスが誕生するのを発表しようかと」
「え、あれ、私達何時の間にそんなチームに参加してたの?」
「おいおい、自覚無しとは困るぜ副団長。リーダーは私、弄られ役兼副団長は妖夢って決めてたじゃないか」
「何で私が副団長!?いや、むしろ何で副団長がおまけになってるの!?そもそも弄られ役なんて役職与えられてたの!?」
「打てば響く妖夢さんは放置するとして、それでは新メンバーの紹介だ。こいつが私達の期待の新星、鈴仙・エヴァンジェリン・イナバだ!」
「鈴仙・優曇華院・イナバよ!というか何で私がここに連れてこられているのよ…朝から魔理沙に拉致されて宴会の準備を手伝わされたと思ったら…」

 魔理沙の紹介と同時に、和服姿の鈴仙が渋々という形で姿を現す。
 そんな鈴仙の姿に、瞬時に同族の匂いを嗅ぎ取ったのか、アリスと妖夢は優しい瞳を向けて鈴仙の肩をそっと叩く。
 何の行動かさっぱり分からない鈴仙は、うろたえながら二人に口を開く。

「え、ちょ、何この手は…というか、何よその生温かい憐れむような眼差しは…」
「新入団おめでとう。貴女もこの先散々苦労しそうね…胃薬は必要かしら?」
「な、何よ胃薬って!?いや、薬なら師匠で十分に間に合って…」
「大丈夫、最初は大変だけどすぐに慣れるから!最終的には『あ、私はこのポジションなんだ』って受け入れることが大事だから!」
「何その訳の分からない励ましは!?止めて!お願いだからその苛立たしい視線は止めて!」

 新たなる弄られポジション、しかも苦労人属性というアリスと妖夢の属性のどちらにも対応出来そうなゴールデンルーキーの未来に
二人は必死に慰めの言葉をかける。他の誰でもない魔理沙に目を付けられたのだ、この少女が逃れられる術はもう無いだろう。
 そんな気持ち悪い慰めを必死にかわしながら、鈴仙はふと霊夢と口論する咲夜の姿を見つける。そして、互いに何の遠慮もなく
言葉をぶつけあう姿に、霊夢がかつて咲夜の語っていた友人だとあたりを付けた。鈴仙の何気ない行動、それがいけなかった。
 喧嘩する二人に、鈴仙はとんでもない爆弾を放り込んでしまったのだから。

「ねえ、咲夜。もしかしてこの博麗の巫女が、貴女の言ってたお友達?」
「へ?」
「え…」

 鈴仙の言葉に、咲夜の時間が凍りつく。それは咲夜の永遠に隠しておきたい秘匿中の秘匿。
 だが、そんなことは鈴仙には何の関係も知る由もなく。当然のように鈴仙は続きの言葉を続けて紡いでいく。

「ほら、貴女が物凄く落ち込んで凹んでいたときに私と会話したでしょ?その時に言っていたじゃない。
私が貴女の大切な友達に似てるって。ええと、確か『厳しくて不躾で乱暴な言葉の中に、何より大切な言葉を捻じ込んでくる私のふざけたお友達』だっけ?」
「あ…あ…あ…」
「?どうしたのよ、咲夜。この人なんでしょ?貴女の…うーん、親友?は」

 予想すらしていなかった鈴仙の暴露のオンパレードに、咲夜は顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉するしか出来ない。
 そして、それを黙って聞いていた霊夢もまた顔を真っ赤に染め、何とか捻り出すように言葉を発する。それは少女の最大限の照れ隠し。

「アンタ、そんなこと他人に言ってたの…おえ、キモ」

 霊夢の言葉、それが恐ろしい戦場の幕開けだった。
 沈黙を保ち続けていた咲夜だが、大きく息を吸い直し、冷静さを取り戻して霊夢に言葉を返す。

「何を言っているの?私がそんな台詞を言う訳ないでしょう?」
「は?何言ってるのよ、現にそこの鈴仙って奴が…」
「言ってないわよ?言ってないわよね、鈴仙?」
「え、いや、言って…ない!全然言ってないわね、うん!」

 勇気を持っていた筈だった。レミリアに負けない勇気を鈴仙は手にした筈だった。
 だが、そんな鈴仙ですら目の前の咲夜の凍りつくような笑顔には勝てず。即座に白旗を上げて文字通り脱兎の勢いで意見を曲げる。
 何だかんだ言って、鈴仙も我が身が大切である。こんなとばっちりで痛い目にあうのは死んでもごめんなのだ。
 鈴仙の意見を味方につけ、咲夜は勝ち誇ったように微笑みながら、霊夢にズカズカと容赦のない言葉を並べる。

「鈴仙が言ってないとなると、貴女の勘違いということになるわね、霊夢?
何、もしかして貴女は私にそんな風に想われたかったの?残念だけど、私は貴女のことを諦めと頭の悪い巫女くらいにしか思ってなくてよ?」
「はあ?はああ?はあああああ?誰が、誰を想ってるって?馬鹿じゃない?マザコンが度を通り越して頭に蛆湧いてるんじゃない?
私だってアンタのことなんか乳離れ出来ない冷血メイドくらいにしか思ってないわよ。自惚れんじゃないわよ、ばーか」
「え、あ、な、何でこの二人いきなり喧嘩腰になってるのよ?ちょ、ちょっと誰か、この二人を止めなさいよ!?」

 一触即発の状態へとシフトしてしまった霊夢と咲夜、そしてそんな二人を初めて見る為か、どうしていいのか分からない鈴仙。
 だが、他の者達は我関せずとばかりに宴を楽しんでいる。最早あの妖夢ですら、二人の喧嘩の仲裁は完全に諦めている。
 そんな状態だから、完全に熱を帯びた霊夢と咲夜の二人に目をつけられるのは当然鈴仙な訳で。

「あったまきた!!いいわよ、久しぶりにやってやろうじゃない!!外に出なさい!ぎったんぎたんに叩きのめしてやるわ、このマザコンメイド!」
「ふん、貴女如きが私に届くとでも?久方ぶりに現実というものを教えてあげないといけないみたいね、この外道巫女」
「え、いや、あの、何で私まで外に連れて行かれてるのよ!?私関係ないでしょ!?この喧嘩に私何も関係ないでしょ!?」
「何言ってんのよ!このクソメイドをぼっこぼこにしたっていう証人が必要でしょ!アンタは審判よ!」
「そういうこと――ま、せいぜい誰より近くで情けなく咽び泣く巫女の姿を眺めているといいわ」
「いや、誰より近くって、それ絶対私巻き込まれ…だ、誰か助けてっ!魔理沙!アリス!妖夢!だ、誰かあああああ!!」

 ずるずると折角の綺麗な和服ごと引きずられていく鈴仙に、その場の誰もが手を合わせて合掌する。
 いいのかなあ、と被害を逃れて心配する余裕のある妖夢だが、魔理沙の『あれは私達の仲間になる為の通過儀式だ』などという
適当な嘘に乗せられて、仕方ないかと納得する。何より、テンションが上がっている二人の間には流石の妖夢も入りたくはないのだ。
 館の外へと出て行った三人を眺めながら、魔理沙はしみじみと他人事のように言葉を呟く。

「いやあ、ライバルって良い響きだな。ああやって互いに切磋琢磨しあい伸びていくんだよな。
久々に感動した。こうやって互いを認め合っていくのが昔の幻想郷なんだよな。今の新参は昔の幻想郷を知らないから困る」
「あくまで良い話に持っていこうとする貴女の精神構造には感心するばかりよ。ったく…鈴仙には後で謝らないとね」
「ま、これで鈴仙もあの二人の関係には割って入れないことが分かっただろうさ。ラブラブだもんな、あの二人」
「…あんな血みどろな愛情関係は私なら死んでも御免ね」
「あはは…右に同じ」
「ま、あいつ等もあいつ等なりにこのお祭りを楽しんでるってことさ。私達も負けじと楽しませて貰おうじゃないか。
何せ今日は私達の新たなスタートの日でもあるんだからな!」
「へえ、それは初耳ね。私達は一体何に向けてスタートを切るのかしら」
「そんなの決まってるだろ。私達がスタートを切るのは――」

 お酒を飲みながら、魔理沙は満面の笑みでアリスに力強く答える。
 私達がスタートを切るのは――私達が力を合わせて手にした、以前よりもずっと楽しく面白おかしき新たな未来へ、と。


















「これでよし…と。大丈夫よ、フランドール。おかしなところは何処もないわ」

 対面する少女の衣服を整え終え、パチュリーは満足そうに笑みを零す。
 そんなパチュリーの言葉がなかなか信じられないのか、フランドールは不安そうな瞳を美鈴の方へと向ける。
 だが、そんな少女の不安を一蹴するように、美鈴もまた笑顔でフランドールに言葉を紡ぐ。

「ええ、綺麗ですよ、フランお嬢様。緋色のドレスが良く似合っています」
「そうかな…お姉様、私の格好に笑ったりしないかな」
「しないわよ。むしろ貴女がお洒落してるという点で喜び過ぎて変になるかもしれないわね。最近のレミィのシスコン振りは目に余るから」
「そうですねえ。私達としましては、レミリアお嬢様の反応よりもフランお嬢様がレミリアお嬢様に引いてしまわないかが心配かも」
「引かないよ…でも、うん、ありがとう、二人とも。ちょっとだけ、自信が持てたよ」
「全く…レミィもそうだけど、貴女達は自分の容姿にもう少し自信を持ちなさいよ。
貴女達姉妹は何処に出しても恥ずかしくない美少女なんだから。ほら、勇気を出してレミィのところに行く。
あんまりのんびりしてると、また八雲の妖怪達にレミィを奪われちゃうわよ?」
「そ、それは駄目!うん、それじゃ行ってくる!ありがとう、パチュリー、美鈴!」

 頭を下げて姉の元へと駆けていった少女の後ろ姿を見つめながら、
パチュリーと美鈴は互いに顔を合わせて笑みを零す。それは何処までも穏やかで、優しい笑顔だった。

「本当、最近のあの娘はどんどん変わっていくわね…笑ったり不安がったり、まるで子供みたい」
「変わっていってるのではなく、取り戻しているんでしょうね。昔の頃の…冷酷を着飾る必要のなかった昔の姿を。
私達としては喜ばしい変化ですよ。あんなに幸せそうなフランお嬢様は今まで見たことありませんから」
「そうね…本当、私達は感謝しないといけないわね。この幸せを導いてくれた…」
「神にでも感謝しますか?」
「…止めておきましょう。この奇跡は神がもたらしたモノではなく、この場の全ての人達の力によるモノだもの。
感謝するなら、みんなに…そして、多くの人の力を一つにまとめあげた私達の敬愛するご主人様に…ね」
「そうですね…本当、誇りに思います。私はお嬢様に…レミリアお嬢様に出会えて、本当に良かった」
「私もよ。あの娘達に出会えた奇跡…それは誰にも譲れない私の何よりの宝物。こんな未来を歩くことが出来る私は誰よりも果報者だわ」

 感謝の言葉を紡ぎ合う二人だが、彼女達は決して忘れてはならない。この奇跡は彼女達の頑張りも大きく力になっているということに。
 最後の最後までパチュリーも美鈴も諦めなかった。パチュリーはフランドールを救う為に、叡智を結集して一つの術式を完成させた。
 美鈴はレミリアの帰還を信じ、レミリアと咲夜を守り続けた。その結果が、今日という奇跡につながっているのだ。
 だからこそ、彼女達は胸を張っていいだろう。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの親友と守護者…彼女達はどこまでも主の望みを叶えたのだから。

「んー!それじゃ私も飲むとしますか!パチュリー様もどうですか?」
「私もすぐに向かうわ。私に構わず先に飲んでいて頂戴」
「了解しましたっと。よーし、今日は沢山飲むわよー!まずは魔法使いちゃん辺りに絡んでみようかしらね!」

 喜びを前面に押し出し、会場に向かっていく美鈴を見送り、パチュリーは視線を窓の外へと向ける。
 そこには雲一つない青空が何処までも広がっていて。何も遮るモノのない今ならば、少女の声は空に届くかもしれない。
 そう考え、パチュリーはそっと言葉を紡ぐ。それは彼女の敬愛した人々に送る最後の言葉。

「これでようやく紅魔館は全ての呪縛から解放される…私達の幸せを遮るものは何もないわ。
お父様、お母様、私達の今を見守って下さっているかしら。私達はもう大丈夫…私達の未来はきっと、幸せに満ち溢れているだろうから」

 そう言葉を結び、パチュリーは穏やかな笑顔を残して宴の中へと溶け込んでいった。
 彼女の父が、母が夢見た紅魔館の姿は今ここに。誰もが誇れる紅魔館――それは何処までも優しく、何処までも希望に満ちていて。



















「レミリアおねえさまっ!」

 ようやく会場で見つけた目的の人物に、フランドールは恥ずかしさを押し殺して名前を呼ぶ。
 そんなフランドールの呼びかけに、会場中をあっちにフラフラこっちにフラフラしていたお間抜けなお姫様は少女の方に身体を向ける。
 …ただ、真っ赤になった右頬と後頭部を必死に抑えながらという情けない姿だったけれど。

「お、お姉様…どうしたの、その頬っぺた。だ、大丈夫…?」
「全然大丈夫じゃない、大問題よ。
お酒が入ってる霊夢にこれまでのこと謝ってたら、反省が足りないって思いっきり抓られて…ううう、乙女の柔肌になんてことするのよ…
ばかばかばか、霊夢のばか…これでお嫁に行けなくなったらどう責任とってくれるのよ、うぐぐ…」
「お、お姉様…頬っぺただけじゃなくて、その、心なしか後頭部が膨れてるような…だ、大丈夫…?」
「全然大丈夫じゃない、大問題よ。
幽香が幽香そっくりの女の子を連れてきてたから『幽香って子持ちだったの!?』って言ったら思い切り拳骨くらって…
ううううう…頭が割れるように痛いいいいい…何よ何よ何よ、みんなして私が一体何をしたって言うのよ…あ、涙が…」

 涙を必死に目に溜めて己のへっぽこぶりを余すことなく露呈するレミリア。
 その余りの哀れさにフランドールは大きくため息をつく。色々と言いたかったこと、お話ししたかったことがあったのに、
目の前のお姉様はその真面目な空気を全て台無しにしてくれる。とりあえず応急処置的に治癒の力を姉に向けて使用していると、
レミリアは目をぱちぱちとさせてフランドールの方を見つめる。そんな姉の視線に驚き、フランドールは少しばかりびくりとしたものの、
すぐに紡がれたレミリアの言葉に、少女は言葉を失ってしまう。

「ドレス、凄く似合ってるわ。うん、とても可愛くて綺麗――流石は私の妹ね」
「あ…」

 優しく微笑み、フランドールの髪を撫でてくれる姉に、少女は何も言葉を紡げなくなる。
 言いたいことは沢山あったのに、伝えたい言葉は沢山あるのに、いつもいつもお姉様はこうだ。
 私がほしい言葉を、私が喜ぶ言葉を届けてくれる。その度に私の心は喜びに満ち溢れ、真っ白になってしまう。
 卑怯だ。お姉様は本当に卑怯だ。そんな想いからか、フランドールは顔を真っ赤にしたまま、ぎゅっと姉の手のひらを握り締める。
 それでフランドールの想いは伝わったのか、レミリアはそれ以上はいじめたりしない。ただ微笑んで、妹の存在を確かめるだけ。
 守りたいと思った少女。失いたくないと願った少女。その妹が、今も自分の傍でこうして存在してくれている。それだけで
レミリアは十分過ぎる程に幸せだから。言葉なんて要らない。ただ、フランドールが傍にいればいい。それだけでレミリアは幸せだったから。

 そして、互いに言葉を発することなく、騒がしき会場を手をつないで歩いていく。
 時に魔理沙に冷やかされ、時に輝夜に笑われて。沢山の人々に温かな騒乱と歓声を送られて、少女達は互いに微笑みあう。
 それは少女達の新たな門出。運命が許さなかった、二人の少女が素顔のままに生きること。それが今、誰にも咎められることなく許されている。
 少女達は打ち勝ったのだ。彼女達を縛る運命に、宿命に。幾度の壁を乗り越え、幾度の奇跡を育んで、多くの人々の手を取って、少女達はここまで歩いてきた。
 互いに笑いあう少女達、その表情に一点の曇りなど何処にあろう。全ての偽りの仮面を捨て、互いに互いを想い合う優しい日々が始まって。

「ねえ、フラン――貴女は今、幸せかしら?」
「お姉様ったら、本当に意地悪…こんなにも楽しくて、こんなにも嬉しくて、幸せじゃないなんて言う筈がないじゃない。
ありがとう、お姉様…私、本当に幸せだよ。私、これから先もお姉様と一緒にいられるんだよね…みんなと生きて良いんだよね…」
「お馬鹿ね、フランは。そんなの当たり前でしょう。たとえ嫌だと言っても、私は貴女の手を引いて貴女を未来へ連れていくわよ。
たとえ貴女がどんなに暗い地の底にいたとしても、私は絶対に貴女を連れ出してみせるわ。…勿論、みんなの力を借りてだけどね!」
「もう…お姉様、最後の一言は余計だよ。でも、ありがとう…私、信じてるから。お姉様がどんなときでも助けてくれること、信じてるから」
「ええ、信じなさいな。いい、フラン?貴女のお姉様はね…この幻想郷で最弱だけど、貴女の為ならどんな最強にだって負けないんだからね!」
「…ねえ、お姉様。私、お姉様にずっとずっと伝えたかったことがあるの」
「伝えたいこと?」
「うん…お姉様が記憶を失ってから、ずっと胸にしまっておいた言葉…あのね、お姉様、私ね、お姉様のことが…」
「はいはーい!!みなさんちゅーもーく!!この幻想郷兼紅魔館伝統のブンヤこと射命丸文にご注目をお願いしまーす!!」

 言葉を伝えようとしたフランドールだが、それは三度妨害されることになる。
 会場の中央で射命丸文が大声をあげて皆の注目を集めた為だ。文の声が会場に響き渡った訳だから、当然レミリアの意識はそっちに向けれられて。
 そのことに少しばかり不満を持つものの、フランドールもまた文の声に耳を傾ける。

「えー!こうして先の異変の関係者が無事全員参加して頂けたことに、まずは感謝いたします!ありがとーございましたー!
それでですねー!この皆様のお集まり頂いたことを記念いたしまして、ここいらで全員で記念撮影をしたいと思いますー!
ちなみにこの写真はなんと、『新・文々。新聞』の最初の記事に使われる予定でーす!ちなみに撮影拒否は認められませんー!報道の自由ですー!」

 文の恐ろしい程に自分勝手な説明に、その場の誰もが笑いながら野次を飛ばす。
 だが、どうやら記念撮影をすることだけはまとまったらしい。紅魔館の二階へ続く大階段の前で撮影することになり、みなに集まるように
文が指示を出す。そして、次第に階段付近に会場の全ての人間が集まっていく。人も妖怪も霊も月人も、種族などお構いなしにみんなが笑顔で集まって。

「お、押さないでよー!!ちょっと貴女達、どうせなら私をもっと中央に…」
「私達は小さいから前に決まってるでしょ!ほら、さっさと並ぶ!」
「後で天狗さんに写真貰って悪戯に使おうかな。うぷぷ、鈴仙なんか思いっきり引っかかってくれそうだし」

 リグルが、ミスティアが、てゐが騒がしくも並んでいく。
 彼女達は力こそ強大ではないけれど、奇跡を紡ぐ為に決して欠かすことの出来なかった大切な力だった。

「写真って中央に移ると早死にするっていうわよね。という訳で妹紅、GO!」
「GO!じゃないわよ!!大体私がそんなことで死ねるか!!そんなに言うならアンタが中央で映りなさいよ!」
「お前達は最後まで喧嘩しないと気が済まないのか…最後くらいは笑顔で映らないか」
「言うだけ無駄でしょう。さ、二人は放置してさっさと並びましょうか」

 輝夜が、妹紅が、慧音が、永琳が場所をとっていく。
 永夜に出会った彼女達は、この運命を覆す為の決して消えぬ炎となった。不死鳥となりて、レミリアを支え続けた。

「大丈夫かしら?私が映ると文字通り心霊写真になってしまうけれど」
「いや、幽々子様がおっしゃると洒落になりませんから…って紫様!人の尻尾で遊ばないで下さい!」
「まあまあ、いいじゃないの。私から貴女へ代替わりしましたというアピールを込めて、よ」
「にゃはは、良いねえ、実に良い!この騒がしくも希望に満ち溢れたお祭り騒ぎ、これこそ私が待ち望んでいた未来さね!」

 幽々子が、藍が、紫が、萃香が悠然とカメラの前に佇んでいく。
 大妖怪と謳われる彼女達が手を貸したこと、それはレミリアの何より大きな原動力となっていた。奇跡へ続く道の、大きな武器となって。

「小町、その…私はこの位置で写真にちゃんと収まるでしょうか」
「ああ、大丈夫でしょ。何なら私が肩車してあげましょうか…って、きゃん!!なんでさ!?」
「な、何よこの狭苦しさ!ちょっとゆーか!私を抱えてくれないと、私絶対映れないじゃない!」
「別に映れずとも問題無いでしょう?…冗談よ、鬱陶しいから泣くの止めなさい。ほら、抱き抱えてあげるから」

 映姫が、小町が、そして幽香と新たに出会えたもう一人の彼女が順に入っていく。
 彼女達は見定める者、そして運命に挑んだ者と異なる立場にありながら、それでも最後は奇跡を成し遂げる一役を担ってみせた。

「ちょ、押すなってば!痛い痛い痛い痛い…痛いっつってんでしょーが!!どこのどいつよ私を押してるのはー!!」
「それも私だ。…って、ジョーク!!私じゃないってマジでマジで!犯人は妖夢だ!謎は全て解けた!」
「えええええ!?いやいやいやいやいやいや!!私何もしてないから!
って、あああ!?お願いだから霊夢、私の半霊を締め上げるのは止めてー!」
「…貴女、よくこんな濃い連中を今までまとめてたわね。本当、同情するわ…」
「止めて!お願いだから同情の言葉をかけるのは止めて!もう胃薬を一気飲みする生活は嫌なのよ…というか文!貴女は入らないの!?」
「あやや、ご心配なくー!自動シャッターモードがありますので、私もちゃんと入りますよー!」

 霊夢が、魔理沙が、妖夢が、鈴仙が、アリスが、そして文が騒動を起こしながら我先にと押し合っていく。
 彼女達はレミリアにとって掛け替えのない友であり絆であった。彼女達がいたから、レミリアは未来を切り開くことが出来たのだ。

「そうだ!折角だからこの写真を拡大して紅魔館に末永く飾りましょうよパチュリー様!これは凄く良い記念になりますし!」
「そうね、それも悪くないかもね。ほら咲夜、何を遠慮しているのよ。貴女は二人の傍に近寄りなさい」
「は、はい!それでは失礼します…」

 美鈴が、パチュリーが、咲夜が幸せに包まれながら主の横に並んでいく。
 彼女達は誰よりも姉妹を支え続けた。どんなときでも二人の為に走り続けてくれた少女達は、これから続いていく未来でも必ず姉妹の力となり続けるだろう。

 多くの人々の集まるその中央、当然そこが姉妹の位置だった。
 沢山の人に囲まれ、少女達は笑顔を絶やさない。それは心からの幸せを祝う為。それは心からみんなに感謝を告げる為。
 彼女達の導いた奇跡は多くの人々に支えられていた。この場の誰一人として欠けることを許されなかった、そんなか細い可能性を追った上の奇跡だった。
 もしかしたら、こんな幸せな未来は一歩間違えば紡げなかったかもしれない。
 もしかしたら、このような温かな日常は二度と過ごせなかったのかもしれない。
 けれど、少女達は決して未来を諦めなかった。少女達は幸福な結末だけを信じて足掻き続けた。
 その結果が皆の笑顔。その結果が今の幸福。誰もが笑い幸せの中で迎えられた世界。

 感謝を。全ての人に、全ての奇跡に。
 心の中で何度もそうフランドールは祈りを込めて、文の用意したカメラに視線を送る。

「それじゃータイマー押しますよー!ボタンを押して三秒後に撮影ですからねー!よーい、どんっ!」

 カメラのタイマーをセットし、文は慌てて皆の集団の中に飛び込んでいく。
 カメラのシャッターが切られるまで残り三秒。その中でフランドールは最後の最後に悪戯を思いつく。
 今の今まで多くのことに妨害され続けたのだ。このチャンスを利用しても、決して罰はあたらないだろうと笑みを浮かべて。

 それは、少女がずっとずっと愛する姉に伝えたかった言葉。
 それは、少女が何時か伝えようと夢見続けていた奇跡。

 シャッターが切られるまで、残り一秒。
 これまで押し殺してきた感情を解き放つように、フランドールはレミリアに抱きついて想いを告げた。
 その笑顔は何処までも幸福に満ちていて――それは世界の誰よりも綺麗な笑顔で。
















「――お姉様、大好きっ!!」














 それは世界で一番シンプルな言葉。

 誰かを好きだという想い――それはどんな奇跡をも導く為の、この世界の誰にでも出来る魔法の呪文。

 フランドールの特別な魔法に、レミリアもまた微笑んで返すのだ。世界に温かな奇跡を生む為の、そんな素敵な魔法の呪文を。



























 紅魔館は悪魔の棲む館。この館の住人はみんな嘘をついていました。


 妖怪も魔女も人間も吸血鬼も。この館の住人は誰もが平然と嘘をついていました。


 だけどこの館に嘘をつく人はもう誰一人として存在しません。誰もが嘘を必要とせず、楽しく笑って過ごしています。


 みんなは嘘をつきません。それはきっと、彼女達にはもう『うそっこ』なんて必要ないと知ったからでしょう。













 互いが互いを想いあう『大好き』という気持ちを知ったから。


 嘘なんかなくても、彼女達は想いの導く奇跡によって幸せになれるから。


 だから彼女達は『うそっこ』を捨てて、みんなで手をつないで未来へ歩き始めたのです。














 これから先、うそっこをやめたおじょうさまは沢山の出来事に巻き込まれることでしょう。


 天人さんに振り回されたり、神様達に変に気に入られたり、望まずして月に向かわされたり、気づけば地底に放り込まれたり。


 きっときっとおじょうさまを取り巻く日常は静けさなんて訪れないことでしょう。


 でも、きっと大丈夫。おじょうさまは決して負けたりなんかしません。


 どんな出来ごとにも、少女は涙目ながら必死に乗り越えることでしょう。


 だって、おじょうさまは無敵だから。とても臆病で泣き虫で怖がりだけど、おじょうさまは誰かの為に頑張れる人だから。


 だから私達は安心しておじょうさまの物語を閉じるとしましょう。


 小さな小さなお姫様の英雄譚。その物語はここで終わるけれど、おじょうさまの未来は何処までも続いていきます。
















 大好きな人の為に。何処までも優しい未来の為に。







 今日も明日も明後日も。







 みんなの手をつないで、おじょうさまは日々を過ごしていくのです。







 それがおじょうさまの――小さな小さなお姫様が心から望んだ、誰にも譲れない大切な日々なのですから。



































    うそっこおぜうさま   

             【おしまい】








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